第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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ワームホール・ネクサス/時空の結合より2年11カ月

 新五丈の王、竜我雷の断により、ついに〈ABSOLUTE〉と、バラヤー・智・メガロード01同盟に直通の道ができた。

 バラヤーの幹部、また智の紅玉(正宗)、コーデリア・ヴォルコシガン、一条未沙が苦慮していたこと……ワームホール・ネクサスからもダイアスパーの銀河からも、〈ABSOLUTE〉直通のクロノゲートがない。

 交易によって力をつけたい。そのためには、多数の並行時空につながる〈ABSOLUTE〉はもっとも重要な場なのだ。

*「=」は同一時空の中の移動、「~」は時空間ゲート*

 エスコバール~ヤマト地球=ガルマン・ガミラス帝国~ローエングラム朝のウルヴァシー=エックハルト~〈ABSOLUTE〉というルートは、いくら何でも遠すぎる。

〈ワームホール・ネクサス〉の地球から、デビルーク帝国を横断し、さらに〈星京(ほしのみやこ)〉=〈星涯(ほしのはて)〉経由で〔UPW〕に至る道も遠い。その上に、特に〈星涯〉はごうつくばりで腐敗しており、通りにくい。

(最善なのは、五丈を通してもらうことなのだが……)

 そうグレゴール帝やコーデリアは思っていた。が、智には五丈を警戒する声が大きく、十分な優位を得るまでは秘密を保っておきたいという飛竜らの意見が通り、ゲートを閉ざしていた。

 主にヤマト地球からローエングラム帝国を経る遠い道を通じて、わずかな情報をやり取りするだけだった。

 

 グレゴールやアラール・コーデリア夫婦らは、マイルズ・ヴォルコシガンとエリ・クインからの連絡をやきもきしながら待っていた。

 そしてついに、エレーナ・ボサリ・ジェセック一家の無事も含めて知らせがあり、夷から金州海クロノゲートへの直通路が開通された。

 

 ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝の英断で、千隻を越えるバーゲンホルム搭載の3キロメートル級輸送艦を〔UPW〕は手に入れていた。

 さらにその道を整備する仕事は、パウル・フォン・オーベルシュタインが出向した。

 事務の達人のひとりである彼は、多くの人を使い航路情報を収集し、航路を整備する大仕事をあっという間にやってのけた。

 バーゲンホルム船なら、金州海クロノゲートから夷まで、七時間で通行できる。

 

 しかも竜我雷は、関税を取らぬと決めた。

「ほかにも道があるんだろ?だったら関税を取ったりしたら、別の道から行かれちまう。途中に宿や店、修理設備などを置いて、そこでふんだくればいい」

 と、天才軍師の大覚屋師真が言った。豪商出身である彼は、

(自由貿易こそ最大の儲け……)

 ということを、知り尽くしている。

 ただし、海賊予防のための治安維持として、最先端技術の入った艦を〔UPW〕、智・バラヤー・メガロード連合……ダイアスパーの双方から乗員ごと借りている。

 

 

〔UPW〕にとどまっていたマイルズ・ヴォルコシガン一家は、久々に里帰りをして大いに驚いた。

 技術水準の大幅な向上で、どこの星国も変化しているのだ。

 コマール、首都ヴォルバーラ・サルターナ、ハサダー……どこも、まったく別の都市になっていた。

 衛星軌道、地下、海上などの超巨大船が、そのまま都市となっているのだ。

 見慣れた首都のすぐそばに、そこらの山より大きな船が着水し、それがそのまま巨大都市なのだ。

 迎えた方も、ロイエンタールからの分遣艦隊に守られた彼に大いに驚き、またぞろ私兵禁止法騒ぎが起きそうにもなった。

 

 並行時空へのゲートが発見された瞬間から、各国の経済や政治には揺れが始まっていた。そしてバラヤーと智が同盟を結んだニュースが入り、あちこちの星に実際に超光速船が訪れて「電話」でバラヤー帝国グレゴール皇帝と智の紅玉の声を流したときから、それは激動に変わった。

 まず極端な株価・土地価格などの乱高下。

 ジャンプ船企業の株価は暴落し、惑星開発機材の企業、そして新しく出現した企業の株が暴騰する。

 ジャンプ船も、ワームホールがつながっている航路に限り智の超光速船より速いというニュースで少しは値が戻り、それがまた制御不能の連鎖反応を起こす。

 惑星開発機材・超光速船の生産を見越して工業地帯の土地価格は爆発的に上がるが、宅地やリゾートの価格は下がってしまう。

 資源価格は誰にも読めなかった。資源小惑星へのアクセスが容易になり、暴落する資源もある。逆に惑星開発機材の生産量が爆発的に増えて暴騰する資源もある。

 何千という智の軍艦が荷室を拡張し、あちこちの星を艦隊で訪れた。そして、距離は近いがワームホールのない星への航路を切り開き、開拓民を送り資源を積んで戻った。

 完全に新種の、未知の木材や獣の角の類……桁外れの価値を持つ、さまざまな物品が売り買いされる。

 さらに、メガロード01やダイアスパー。そしてダイアスパーのある銀河の、巨大船のサルベージ。

 バラヤーのグレゴール帝が、すべての技術を売ると決めたことで、各国に小型核融合炉や超光速船の工場ができる。そしてその代価……国家予算の何倍もの、もはや貨幣の価値が疑われるほど経済が混乱しているので、利権のたぐいをバラヤーに渡す。

 経済に、核爆発が起きた。グレゴール皇帝にできたのは、無条件の最低生活保障だけだった。

 それをするかしないかで、国が安定するかくずれるかが分かれた。

 また、セタガンダ帝国も経済の安定に協力した。遺伝子技術と引き換えに、バラヤーやエスコバール、地球に莫大な信用を供与し、様々な新技術を用いる事業を支援した。

 

 

 まず、即時通信の普及。それまでは、事故の多いワームホール船が最速の情報伝達だった。それが、帯域幅こそ狭いが即時音声通信の「電話」が可能になった。

 電話があればファクシミリはできるものだし、ナローバンドならデジタル通信もできる。

 そして数年後〔UPW〕との交流が始まって、アンシブルというブロードバンド即時通信技術が急速に普及した。

 

 さらに智の超光速船やその複製が、〈ワームホール・ネクサス〉銀河の、多くの星間国家の領星を次々と増やしている。

 それまではワームホールがない星系は、大都市惑星から5光年離れているだけでも、何の価値もなかった。それが、超光速船を使えば容易に往復できる。

 バラヤー・コマール・セルギアール三星の周辺、とりあえず40ほどの、ワームホールがない星系がバラヤー帝国に編入された。

 人類以前からの生態系がある星も二つしかないが、新しい技術水準なら不毛の小惑星や巨大ガス惑星も開発できる。

 ほかの星国も周辺の、ワームホールのない星や生命のない惑星を支配下に置き、開拓を始めている。

 

 プロトカルチャー~ゼントラーディ~メガロードと受け継がれた、無人で大量の軍需生産をする自動工場の技術は、それまで居住可能ではなかった多くの惑星や小惑星を人の住める世界・無尽蔵の工場に変えた。

 ベータやダイアスパーの技術が加われば、その全自動工場そのものをリバースエンジニアリングし、多数作ることすら可能だった。

 

 また智の作物・家畜、そして雑草や害虫と、ベータやエスコバールの遺伝子技術が「つがった」結果、次々と膨大な収量の作物が産み出された。

 ホテイアオイのように海に浮かび、大気中の窒素を固定する植物すらできた……それは人体が必要とする栄養を完全に含むバター虫のえさとなる。価値のない海洋惑星が、一転して大穀倉となったのだ。

 ほかにも、これは南蛮原産だが、宇宙空間で生息する巨大生物もいくつかあり、それも巨大な利用価値があった。南蛮は主に兵器や、生きた船として用いていたが、平和目的に使っても強力だ。

 ホットネプチューンの深みで暮らし、成熟すれば恒星と惑星を結ぶ蒸気の橋に移動して産卵、多数の卵を入れる鞘として800メートルもの殻を残す生物もある。その殻は円錐形で、貝殻が炭酸カルシウムとタンパク質の積層であるようにグラフェンと高強度高分子繊維の積層。重さあたりの強度は鋼鉄の数十倍ある。

 超光速機関と生命維持装置を後付けすれば、楽に宇宙船を量産できる。船~客船~集合住宅と思考を飛躍させれば、何万人も住める。簡単に、やや質は劣るが数で押せる軍船にできるのも自明だ。

 硫黄とメタンの小惑星で繁殖する、巨大なイカもいる。濃硫酸を吐く害獣だが、それこそ化学工業の基盤となる。またその寄生虫は高濃度のフッ素と臭素を含み、これまた重要な資源となる。

 金星のような灼熱の二酸化炭素大気で繁殖する、真社会性で糸を吐きキロメートル大の翼構造を作って浮遊する巨大クモも、軌道エレベーターや船殻に使える強度のカーボンチューブ繊維を無尽蔵に作りだす。

 

 メガロード01がもたらした、安価で小さい核融合炉も革命をもたらした。

 まず、ベータやコマールのような、人間がそのまま住むには厳しい星々が穴だらけになった。イワン・ヴォルパトリルの結婚に関係してバラヤーが手に入れたトンネル掘り細菌を、ダイアスパーの〈中央コンピュータ〉とリスの遺伝子学者がいじくりまわしたことで、簡単に好きなトンネルが掘れるようになってしまった。

 キロメートル近い深さ、直径20メートルほど、何百キロメートルにわたって網の目のように。

 冥王星のような氷の準惑星も、こちらは核融合の熱で穴を開け、水とメタンを材料にした強靭な素材で壁をつくり、ついでに人工重力をかけることで同様に住めるようになっている。

 トンネルは核融合のエネルギーで照明され、床の下が農地となって汚水を食料に変えると同時に二酸化炭素を酸素に戻す。

 もはや、コマールのミラー衛星が事故で壊れ、その補修の予算を出すかどうかでバラヤー国主評議会が大紛糾したことなど、馬のミッドナイト卿事件以上の笑い話となった。十年も経っていないのに。

 それどころか。

 ダイアスパーとの交流が始まってから一月もしないうちのことだった。

 突然、千キロメートル級の球形船がコマールの母星近くに出現した。

 それは数日で、中の膨大な資材……極薄の鏡を投げた。エンジンのついた鏡は正確に恒星を囲む軌道を取り、常に反射光をコマールにそそぎ、地球と同じほど明るく温めた。

 コマールの人々は、ただ圧倒されるだけだった。

 数日後から、温度の上昇で大嵐が起きたが、その対策も考えてあった。

 いくつものドーム一つ一つに、三千メートルの巨大船が降下し、全員……十分な荷物、ペットや植物も許容された……を軽く乗せて巨大球形船に移した。

 内部には集合住宅が、何百億人分も。一人当たりの床面積も従来のドームよりずっと広いし、交通機関も完備している。

 さらに、地下にも巨大な都市を掘り始める……その仕事がコマールの住民をより豊かにする。

 

 小惑星も次々と工場となり、その従業員は巨大な客船のような設備を作って生活している。360メートルの巨大豪華客船は、六千人の船客と二千人の船員が生活できる。それを大きくして何十隻もつなげれば、何十万人の大都市になる。

 もちろん掘った分は無尽蔵の鉱物・金属資源となり、既存の大都市の物価も大きく引き下げた。

 プロトカルチャー由来の全自動工場の技術も、あちらこちらの資源衛星から多数の船や衣類、携帯用コンピュータを作り出す。さらにそれはダイアスパーの技術で改良され、ゼントラーディが用いていたものより数段上の性能になっている。

 

 

 特筆すべきなのが、〈ワームホール・ネクサス〉全域、むろん智やメガロードの人々にも一気に普及したベストセラー商品だ。

 パワードスーツ、可変機、改良されたフライヤー。

 ダイアスパー技術が……今使いこなせている限り……得意なのは、従来製品を、外見と操作性はあまり変わらないが中身は別物にして、ものすごい数量を瞬時に生産することだ。

 

 パワードスーツは〈マッスルスーツ〉と呼ばれることが多い。外見は厚い上下防寒服にしか見えない。ディスプレイ・ヘッドホン・マイクが内蔵されたフルフェイスヘルメット、ブーツ、手袋、厚手のブリーフが標準でついている。

 パワーは生身スポーツマンの70倍程度だ。だが何の学習もなく生身と同じ感覚で使える。支えるべきところは勝手に硬くなるから、重いものを持っても骨や関節に負担はない。

 温度調整もあり、暑くなることもない。

 舗装道路で専用の頑丈な自転車に乗り、普通の倍以上あるリヤカーを牽引すれば、軽自動車とあまり変わらない。

 不整地でも橇を使って荷物をかなり運べる。

 ヘルメットをかぶればコンピュータと音声で会話し、画像や映像を受け取ることができる。視覚などを増強でき、検査などでも重宝する。

 ヘルメット・ブーツ・手袋・ブリーフをつければ、自動的に隙間をふさぎ宇宙でも行動できる。

 ブリーフはナノマシンの塊で、肛門・尿道に苦痛を感じないほど細い管を入れて大小便を吸い出し、水蒸気と空気にまで処理する。同時に特殊な薬物を皮膚から浸透させ、便意すら感じないようにさせる。

 それさえあれば、小惑星の鉱山でも働ける。惑星上の鉱山で毒ガス・爆発・落盤を食らってもなんともなく、ちょっとした散歩程度の労力で何十人前もの重労働ができる。

 智の将兵は、その表面に装甲材をつけて甲冑にしたのを配られた。

 

 可変機も人気は爆発した。

 軍で制式に使われている、ファイター形態はA-4スカイホークに似てさらに小型、腕や腿が細いガウォークのみの汎用機が民生用にも売り出され、ベストセラーとなった。高出力の作業機として、開拓や建設、艦船メンテナンスでも人気がある。

 メガロード01が持ってきたVF-4ライトニング3を、ダイアスパー技術で少し強化して量産した機体も、高速飛行を楽しむ富裕層に売れている。

 また、デザインが美しいVF-1バルキリーを縮小した機体も出た。ファイター形態で見れば、コクピットが機体に比べ大きくなっている。

 金持ちが操縦を楽しむライトニング3以外は、コクピット内部が大きく異なる。計器もレバーもない、棺桶に横たわるように入るだけ。それで、機体を肉体と変わらず使える。首の後ろから極細の針が何千本も、痛点をよけて脊髄に達し脳と情報を出し入れする。機体から降りるときには抜ける。出入りのどちらでも無痛無害だ。大小用もパワードスーツと同様に処理する。

 速度がフライヤーの何倍にもなったが、交通事故は、人口密集地では外からの制御に従うようにして解決された。

 

 それまで〈ワームホール・ネクサス〉で普及していたフライヤーも、エンジンの交換と腕の追加で大幅に性能が高まった。

 個人が楽しむ用途では、大気圏中ではマッハ5を超え新技術で宇宙にも行ける可変機の方が売れるが、トラック的な用途では単純な箱の方がいい。

 その空飛ぶ箱に、可変機の技術を用いて棒のように細い腕を何本かつけた代物がベストセラーになった。クレーンや、先端のアタッチメントを交換すればショベルカー代わりにすらなるパワーはある。

 

 奇妙なハイブリッド機……可変機と呼んだら可変機に失礼な代物も人気を呼んだ。

 大型トレーラーサイズで、大気圏離脱ができるようにエンジンを強化し、宇宙の環境に耐えられるようにしたものだ。オプションで汎用の細い腕もつくのが普通だ。

 箱をキャンピングカーのように生活可能にして、一家で小惑星などを開拓する……中に暮らしながら、腕の先端を交換してさまざまな作業もできる。

 汎用の大規模工作機として荒っぽく使われるようにもなった。宇宙船機能もあるので、巨大宇宙船の船外作業、小惑星などでの建築でも使われる。

 大エネルギーを出す移動電源として、また高度なセンサーとコンピュータとしても重宝された。

 

 どれも設計思想は徹底的に単純でタフで修理しやすく安価に量産できる……フォルクスワーゲン・ビートル、ホンダ・カブ、そしてAK-47の思想であり、だからこそ世界を変えた。

 庶民が簡単に手に入る価格にまで下がったのだ。

 

 200メートルや3000メートルの大型艦の非武装版も、多数作られ産業用に売れている。

 大型艦は、内部に五十階ぐらいの高層マンションをぎゅう詰めにし、地下部分に鉄道と下水・空気処理システムを設け、そのまま大都市になる。衛星軌道でも、恒星に近い惑星軌道でも、採掘しやすい冥王星型惑星の地表でも、有人惑星の海や砂漠でもどこにでも置ける。

 恒星のすぐそばに太陽電池の翼を広げてエネルギーを得、小惑星で資源を採掘し、静止軌道で余剰人口を吸収するなど、至るところで宇宙への人口移動が起きている。

 

 

 

 ダイアスパーのある銀河……多数の星が破壊されて、老いているとはいえ、それでも星は多い。

 次々と入植者は資源の塊に取りつき、建設を続けていた。

 別銀河に向けて旅立った、先住民たちが残した遺跡のサルベージも行われていた。惑星サイズから四百メートルほどの船を数十万隻手に入れており、ダイアスパーの協力で操作可能になった。造船工場ができるまでのタイムラグはそれで補われる。

 メガロード01も大地に降りた。五千人ほどをダイアスパーのある地球に、またリスク分散のためにある程度の人数をエスコバールに送って開拓を手伝わせる。

 そして最大多数はダイアスパーのある銀河の、条件は悪いが資源の多い星系を選んだ。そこにはジャングル化した惑星が二つと、やや小さい氷惑星が多数。あとは旅立った文明が残していた、月サイズの巨大基地がいくつも恒星のすぐそばを回っていた。

 ジャングルを、サンプルを取って改良版のバター虫で開拓した。

 巨大基地の一つを多数の人の住居にして、汎用機のパワーを建築に使った。

 恒星のすぐそばに、次々と水を満たした、何十キロメートルもあるガラス管を浮かべ、藻類を育ててはバター虫のエサにする。

 あちこちで莫大なバター虫農場ができたことは、旧来の農業も活性化させた。味のない虫バターを美味しく食べるための調味料、スパイスやハーブ、つけあわせの野菜や肉の需要が爆発的に拡大したのだ。

 そして資源豊富な100キロメートル程度の小惑星を、プロトカルチャーの自動工場を用いて船・食料・衣類・医薬品・加工機械など様々なものを作る工場にした。

 

 

 それを使う人が問題だ。

 それを見越して正宗がやったことは、あちこちで悪魔と言われた。セタガンダでも、ジャクソン統一星でもそんなことはしない、と。

 彼女は、バラヤーのウェッデル博士……実はジャクソン統一星からマイルズに助け出された、タウラ軍曹の生みの親であるカナーバ博士……や、ローワン・デュローナたちを通じてウィルス剤を作った。

 デュローナ・グループはマークに恩を受けていたし、ローワンはダイアスパーに留学して非クローンの不老長寿技術を完成させ、大儲けしていた……そのマークは正宗が普通の口調で頼むと、まるで上官に命令されたように従ったものだ……

 そして、あちこち……エスコバールの辺境、バラヤーから十光年ほど離れたワームホールのない恒星の小惑星に作られたコロニー、ダイアスパーの銀河のゲートに近いもとジャングル惑星……に住む、千三百万人を超える臣民が子を産むとき、高い医療技術とロボットを用いて支援した。

 子を産むのは母子ともに危険だったのが、信じられない率で安産……喜び正宗に感謝し、さらに与えられた広い土地と平和に大喜びする両親は、すぐに次の子を作った。

 出産を支援したロボット医者は、そのとき両親に検査と偽ってウィルス剤を注入していた。次以降生まれる子が天才となり、双子の率が高いように、また遺伝病もないようにと。

 何も知らない民たちは、次々と双子を産みながら広い土地を、通信機……高性能コンピュータのついた可変機で耕した。

 もちろんそれは便利だ、天気情報も得られるし、情報を交換して高く売れる作物を選べ、肥料を通販でき、遠くに住む家族とも話せる。

 二番目以降の子供たちは、夜にトラクターの画面をいじり、あっという間に双子で互いに教え合って、学び始めた……

 もう十年もたてば、ベータ植民惑星やエスコバールの大学院卒級の天才科学者が百万人、正宗のもとに集まり、ダイアスパーで教育の仕上げを受けることになる。

 人間の、まして同意を得ない遺伝子改造など、まともな医療倫理・人権は絶対に許すことではない。だが、ジャクソン統一星出身のウェッデルやローワン・ファミリー、マーク・ヴォルコシガン……つい昨日まで戦国の世で戦ってきた正宗にとって、倫理も人権も知ったことではなかった。

 ついでに、多産多死が豊かになって死亡率が下がるとき、常に人口のひずみが起きる。

 まずしばらくは惰性で多産を続け多産少死となり、子供、次いで労働力人口が急増する。それは高度成長すら生み出すし、タイミング悪く産業が人手を必要としていなければ社会不安にもなる。さらに人口爆発で莫大な資源消費ももたらす。

 それから少産少死で、人口爆発が止まり高齢化の苦しみを経て、安定する。

 正宗はそれを見越して、社会不安の種を取り除いたのだ。二番目以降の数百万人を事実上道具とすることで。

 

 バラヤーやメガロードの人たちは、ひたすら教育水準を高める努力をした。

 山奥では普通教育すら実現していなかったバラヤーだが、膨大な収益の多くを注いで幼児からの教育水準を高めようと努力を始めた。

 ほかの星々も、わかっている者はわかっている……技術を使いこなせる、高い教育水準の子供たちこそが、力になるのだと。

 優秀な者や金持ちの子弟はダイアスパーに行き、そちらで脳に直接情報を流すような教育を受ける。その効果は普通の教育とはとんでもない差がある。

 そのことは、社会階層を大きく変えない結果にもなり、社会を安定させている。同時に初等教育、優秀な子の選抜に力を入れている国は高度な人材を多く得ている。

 

 

 侵略傾向の強いセタガンダ帝国だが、侵略的なのはゲム貴族であり、その上にいるホートたちの目的は自分の遺伝子改良を一層推し進めること。

 だから、ダイアスパーや〈緑の月〉の技術のためなら、膨大なカネをバラヤーに払った。最大星間帝国の、ありったけの信用と物資を出してくれた。第一次タネローン防衛戦にも援軍・援助を申し出てくれた。多くの人を使い、新しい惑星を切り開く大事業ができたのはそのおかげもある。

 リス出身の読心能力者と正宗やコーデリアが、セタガンダの反逆者が遺伝子資源を盗もうとした事件を解決したことも、セタガンダ帝国の協力姿勢を強めた。ちなみにその事件では一つ間違えればバラヤーが罪をかぶせられるところであり、バラヤーにとっても大きい貢献となった。

(手に入れた技術で牙をむいたら……)

 と心配する者も多いが、どうにもならないので考えないことにしている。

 一番必要な時に、必要以上の金をくれたのだ。

 もう一つ、バラヤーどころか〔UPW〕にとってさえ頭が痛いことがある。美にもこだわるセタガンダ人はラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝やセフィ・ミカエラ・デビルーク王妃の遺伝子を狙っているといううわさがある。どちらも一つ間違えれば時空間大戦が勃発してしまう。

 というわけで、ラインハルトの治療中、その遺伝子サンプルの管理は厳重を極め、余計な費用もかかっていた。

 それだけではない。ワームホール・ネクサスの地球にゲートがつながった、デビルーク帝国にも高度な遺伝子技術があると聞き、ホートの美貌とゲムの知恵を結集していろいろと動いている。

 地球に滞在している、ティアーユ・ルナティークと御門涼子にゲム工作員が接触しようとして撃退された……と、フレデリカ・グリーンヒル・ヤンからマイルズに話が伝わった。

 

 竜我雷の戦いにも援軍は出、ついに智の紅玉……正宗と、人質兼相棒のコーデリア・ヴォルコシガンが腰を上げた。

 それにセタガンダの物資輸送船も加えた艦隊が、ゲートを通って五丈領土、さらに奇妙な時空のゆがみを通じて、別時空のテレザート星該当領域に向かう。

 まともに戦えるようになる、その瞬間を信じて。




ヴォルコシガン・サガ
銀河戦国群雄伝ライ
超時空要塞マクロス
都市と星


*ついでに「外交特例」「大尉の盟約」を、マイルズ抜きに解決しています。時系列はいんだよ細けぇ事はよ……

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