第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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*正方形という設定があるようですが無視*
*「ロードス島戦記」本編終了後、「新」終了以前ですが、明白に時期は決めません。諸国会議の順番も考えません*


フォーセリア/時空の結合より3年

 王宮のすぐそばにある丘の地下に、草と岩に隠された部屋がある。そこで何人かの男女が会話をしていた。

 先ほど、どこからともなく入った男が、とてつもないことを告げた。

「本当なのかウッド、魔神復活の前兆だなんて」

 壮年の騎士が初老の男を問いつめた。

「監視の瞳、だったかな、宝石が鳴ったんだよ」

 その言葉に、長髪の美女が瘦身の夫と目を見かわす。

「あなたがいくつかの宝を隠していたことは、知っています。『最も深き迷宮』にも置きました……いえ、置いたのは昔の……置いてあるのは確かです」

 皆が彼女と初老の男を、痛ましげに見つめる。

 美女の額には、人面の目の部分を思わせる額冠(サークレット)が鈍い美しさを放っている。それ以外の飾りはない、華美を嫌う地母神(マーファ)の司祭である。

「俺だって、時たま少しだけ自由になれる時もあった。その時にな」

「それぐらいはするよな、ウッド」

 騎士の言葉に、初老の男は複雑な笑みを浮かべた。

「それがあるから、まだお前の役に立てるんだろうが」

「そのおかげで、奇襲は免れたわけですねえ。それに、緒国王会議で集まっている時に知らされてよかったです。各国の王に知らせるとなれば何十日もかかりますから」

 細く年齢より老いた印象の、女司祭の夫がため息をつきつき言う。

「すまない。ドワーフたちから、魔神の噂を聞いていた……言えなかった」

 金髪の若い男が、誠実な声で謝罪した。

「冗談ではない、魔神戦争の再来だと?どの国もそんな負担に耐えられるものか!」

 見事な口ひげをたくわえた、壮年と初老の境を前にした男が声は抑えて、しかし激しく。

「わが国も同じです。神聖騎士団の壊滅から、まだ……」

 神官らしい男の、柔和な微笑が深い悲しみと痛みの色になる。

「そのことだけど」

 騎士のかたわらにいた、細く背もやや低い、人間離れした美しさの女が口を出した。

「精霊たちのささやきの中で、奇妙な声があったの。要するに、彼方から勇者たちが来る、彼らに協力すれば、戦いを避けられるかもしれない……」

「ええ、至高神(ファリス)からの声も同じことを告げています。加えて……六英雄の再来を、と」

 神官の言葉。そこに集う皆の目が、戦いを決意した色となっていく。

「こうして、ロベス抜きで集まったのは疑われようが、正しかったな」

「スパークもよ」

 細い美女の言葉に、ターバンの男は軽く苦笑した。

「マーモはフレイムの飛び地だぞ、ディード」

 とがめる騎士に、静かに微笑み寄り添う。

「わかっていて言ったんでしょ?」

 金髪の男の妻とわかる赤毛の女性がからかった。

「まあ、スパークはそれどころではないからな。不幸王を名乗るほど」

 ターバンの男が笑った。

「信頼に感謝する」

 隅で立っていた無口な男が言って、壁の石をいじり始めた。

「あなたは『ロードスの騎士』と共に何年も戦った人ですから、レオナー陛下」

 金髪の若者は少しうらやましそうだ。

「わたしたちは、剣では少し劣るわ。できることをする」

 赤毛の妻の言葉に騎士がうなずく。

「秘蔵の酒か?」

 初老の男がうれしそうに言う。男は石を外し、ビンを取り出し、黙って埃を払った。

「これは嬉しいはなむけだな」

 金髪の男がいい、神官が静かに手を広げた。

「ロードスの平和を守り」

「こうして、一人も欠けずまた美酒を干せることを願って。我らはみな、死んではならぬ身だ」

 口ひげの男に、皆がうなずく。

 身分の差も感じさせず、めいめいの器に注いだ酒を、戦士たちは静かに干した。

 

 

 

 

 ロードスという名の島がある。アレクラスト大陸の南に浮かぶ辺境の島だ。大陸の住人たちは、かつて呪われた島と呼んでいた。激しい戦が打ち続き、怪物どもが跳梁する魔境が各地に存在したゆえ。

 呪われた島の名にたがわず、四十余年前には古代王国の遺跡から魔神が解放された。六英雄と謳われる偉大な勇者たちが勝利していなければ、ロードス島のみならずアレクラスト大陸すらも滅び、人界ではなく魔神界となっていたであろうとも言われる。

 だが、魔神戦争、英雄戦争、邪神戦争を経て、ロードスにはついに平和が訪れた。

 ロードス各地に存在した魔境は消滅に向かい、唯一残された呪いの地マーモは炎の部族の後継者スパークにゆだねられた。王たちは戦ではなく、年に一度場所をもちまわって王が集まり話すことで紛争を解決すると決めた。

 マーモ公国は闇の残党に苦しめられ、本島の国々も疲弊のきわみにある。それでも人々は力強く、前を向いて歩きだそうとしている。

 灰色の魔女の呪縛から解放され、足枷の傷跡も癒えぬ裸足で標なき道を……

 

 

「あれがアレクラスト大陸、その南にある島が目的地、ロードス島です」

 人の目を超えたはるか上空に、二隻の船が並んでいた。

 翼を意匠化した紋章が描かれた双胴の紋章機と、一回り大きく47メートルになったミレニアム・ファルコン。どちらも30メートル近いコンテナを吊っている。

 生活設備も増設されたファルコンで、十数人の男女が過ごしている。狭いが、男女は別の部屋に入ることもできる。

 ルーク・スカイウォーカー。ハン・ソロ。チューバッカ。

 ワルター・フォン・シェーンコップ。ユリアン・ミンツ。ルイ・マシュンゴ。オリビエ・ポプラン。カーテローゼ・フォン・クロイツェル。

 リューネ・ゾルダーク。クスハ・ミズハ。ブルックリン・ラックフィールド、通称ブリット。

 クレータ・ビスキュイ、ミモレット・ポートラン。

 そしてコルム・ジャエレン・イルゼイ。

 

 ルークは肉体的には絶頂を迎え、ジェダイ・アカデミーで後進を教える経験も積んだ。教えることで自らも学んだ。それでもなお、師ヨーダに危惧された冒険好きの血は消えてはいない。

 ハン・ソロとチューバッカは、改造された愛機を整備している。ヤマト、クリス・ロングナイフのワスプ号とならび、あらゆる時空の超技術が集められたリスク上等のテストベッド。新たにシャルバート、イスカンダルの技術、さらにベンジャミン・シスコを通じ〈スター・トレック〉の技術が加わった。今も、ヒリュウ改がもたらしたEOTをつけくわえている。

 クレータも熱心に整備を手伝っている。

 シェーンコップは一行の事実上の指揮官として、弟子たちを見守っている。彼もジェダイの師免を得ている。

 ユリアンの体躯はシェーンコップにも劣らぬたくましさとなり、それは美貌をより高めている。ここでは多人数の家事をほぼ一手に引き受けており、特に料理は絶賛されている。カリンは怒っているが。

 ルイ・マシュンゴはトランスバール皇国産の変身器具を確かめている。スパイロボットがタクトのふりをするのに用いられた光学迷彩。黒人を受け入れぬ場では、他者をごまかす。

 ポプランとカリンは、最新の強化宇宙服で愛機を整備している。最新技術をぶちこんだ35メートルの個人戦闘艇と、突進とステルスに優れた紋章機だ。最新の宇宙服も着心地がよく、トイレの必要もなく、力は何十倍にもなる。

 リューネ、クスハ、ブリットは半ば神秘的な人型機を整備している。魔法使いたちやジェダイたちの力も借りている。

 ミモレットはコルムに、熱心に異界の魔法を学んでいる。

 またコルムは、ユリアンやクスハと共に、その力に干渉しつつ瞑想することも多かった。

 

 多数の、小鳥に偽装した無人機が地上を飛び回り、服装・人種・言語などの情報を集める。

 早くも文字体系をコンピュータが分析し、相手に渡すための書類が印刷されつつある。

 C-3POは持ってこれないので、翻訳機に言葉を分析させる。だが、しばらくはユリアンのレンズが頼りだ。

 当地に合う服を用意し、食料を用意する。

 使われている硬貨が反射する光を分光して純度を推定、それに合わせた合金を作る。

 甲冑剣斧を作る……表面だけは黒焼き防錆した炭素鋼、中は炭化窒素結晶繊維とチタン合金を絡ませた、鋼鉄の何千倍も強い代物だ。

 予備装備として、マッスルスーツと通称されるパワードスーツに装甲板を張りつけ、大ぶりの全身鎧に偽装したものも用意しておく。

 それらを作りだすのに、レプリケーターの助けが大きい。シスコが持ってきたものだ。エンダーやバグダッシュが連邦をパルパティーン帝国から守った報酬に、と。

 みな焦りを抑えている。時空を隔てた彼方では戦友たちが、心を読む敵を相手の絶望的な防衛戦を戦っているのだ。

 

 以前『虚憶』で似た状況を経験したクスハ・ミズハは、

(エメラルダスさんの技術水準は、本当にすごかったんだ……)

 思い出さずにはいられない。

〔UPW〕の技術水準もとてつもないが、彼女の機械ウマはさらに上を行く。

 同様のものは、

「作れなくはないわよ」

 と、ノアはいったものだ。

「でもね。馬の形のドロイド。生きた馬と変わらず制御するプログラムとコンピュータ。

 さらに馬の胴体の大きさで無制限のエネルギー。

 馬の毛並み・質感・体温を完全に再現するナノマシン集合体……

 食べて飲んで出すのも、きっちり模倣した。そのうえ、現地の木造船を動かす機関に変形した、と。

 一つ一つ、できそうな技術はあることはあるわ。でも、全部信頼できるように組み合わせるなんて、あと三年と、運用試験に五年はちょうだい!

 今無理にでっちあげて、故障したらどんな大爆発になるか!」

 そう絶叫したものだ。

 信頼できる技術でなければ、これほど危険な旅には、

(そぐわぬ……)

 そう、シェーンコップは断じた。

 第一、コルムとリューネ以外、乗馬に慣れている人間がいないのだ。

 ノアはほかにもすべき仕事が多い。ダイアスパー技術、ヒリュウ改やシスコがもたらした技術を解析し、また一隻でも多くの艦船を近代化改修する。

 とても、機械馬をつくるほどのゆとりはなかった。

「仕方ないわね。当地で買いましょう」

 と、クスハは荷物に金塊をいくつかつけくわえ、甲冑を地味で動きやすい、現地の徒歩傭兵のものにした。

 金銀や宝石は、宇宙空間ではいくらでも手に入る。

 鉄核だけが残った小惑星からも得られる。メタンやアンモニアの海も、地球の海と似たような鉱床を作る。

 また、分子破壊砲で小惑星の分子結合を破壊して即座に太い牽引ビームをで引っ張り、分断された原子が密度順に分かれるのを回収することもできる。その場合宝石は手に入らないが。

 宝石、特にダイヤモンドは、巨大ガス惑星や炭素惑星が超新星爆発などで砕かれた際に散らばった、山脈サイズのものがあちこちで手に入る。

 だが、徒歩で運ぶとなるととにかく重い。

「持てるだけ持つ。それ以上必要になれば、ステルス紋章機と連絡して手に入れるしかないな」

「一人か二人がこのマッスルスーツを着込んで、服の上に大量の金をつけてさらに上着でごまかす、か。太って見えるがね」

 そう、判断された。

 

 準備を終えた一行は、コルムの導きで海峡に降下した。

 そこでレプリケーターが細胞さえ再現した木製の小船に乗り換え、漕ぎ出した。

「こっちだ」

 ユリアンがレンズの声を聴き、崖に囲まれた小さく美しい湾に向かう。

 岬に小さな砦があり、灯台でもあるようだった。

「でも、かなり壊れているわね」

「最近いくさでもあったのかな」

 そう言いながら、浜に近づく。

「おそらく、貴族が楽しむためだな」

 シェーンコップが吐き捨てた。

「おーい!」

 数人の男女が手を振る。その一人の身振りと共に、波が静かになる。

「う、うそ」

 魔法使いであるミモレットが驚く。自分が学んだものとは違う、すさまじい魔法だ。

 一行は最後のひとこぎ、石造りの桟橋に船をつけた。

 海での船の扱いに慣れぬ皆をよそに、コルムが素早くもやいを手に降り、船を固定する。

 一人ずつ降り、重い荷物を運びあげて岸に向かう。

 岸では、数人の男女が天幕を広げ、待っていた。

 鋼とは違う質感の鎧を着た男。胸の紋章は、上空からモニターで見たロードス島を意匠化したものと見える。

 コルムと同じく、人間離れした繊細さと長い耳を持ち、皮鎧をつけた細身の女性。

 長く奇妙な装飾がある、ねじくれた硬木の杖を持った男。

 一瞬、目が四つあるように見える……額に目を思わせる装飾品をつけた長髪の美女。

 やや崩れた態度で流木に座っている痩せた老人。

 コルムを先頭に砂浜を踏んだ一行が並び、ユリアンが一歩進み出る。

 鎧の男が声をかけた。

「ロードスの騎士、パーンだ。ロードス島にようこそ、ここはカノン王室の……この人たちだよな?」

 と仲間たちを振り返る。

『歓迎に感謝します。こちらの言葉はまだ学んでいないので、これで許してください。ユリアン・ミンツと申します』

 心の声と名を告げる声。岸側の人々は一瞬惑うが、素早く立ち直って手首のレンズを輝かせたユリアンを見、うなずいた。

『こちらから紹介します。コルム・ジャエレン・イルゼイ公子』

 銀の鎧をまとい、長い弓と槍を背にした、耳の長い美しい男がそっと進み出る。自らの名を美しい声にのぼせ、優雅に礼をした。

『ワルター・フォン・シェーンコップ』

 かぶとを脱ぎ戦斧を地に置いた、全身鎧の美丈夫の礼も見惚れるほどだった。誰もが同じように、自らの名だけを口に出す。

『ルイ・マシュンゴ』

 かなり太って見える巨漢が礼をする。その顔は偽装されていたし、体もマッスルスーツで怪力をさらに底上げし、400キロに及ぶ黄金を上着に隠した着ぶくれだ。

『ハン・ソロ』

 厚手の革鎧を着て、多めの荷物を負い太い棒を持った彼が、慣れていないのがわかる礼をした。だが眼光の鋭さはわかる。

『ルーク・スカイウォーカー』

 軽めの鎖帷子の上に長衣をまとい、失われた騎士団の礼をとる。ヨーダに学んでいたが、半分忘れていた。

 ライトセイバーは隠され、腰には柄が長めの長剣(バスタードソード)が提げられている。

『ミモレット・ポートラン』

 長いローブに身を包んだ女が、しとやかに礼をする。

『リューネ・ゾルダーク』

 しなやかな肢体を部分的に板金のある鎖帷子で覆い、長く反りの小さい両手持ちの曲刀(シャムシール)を背負った美少女が、意外にも美しい礼をする。彼女も、放任されてはいたが世界征服を目指した軍事指導者の娘なのだ。

『クスハ・ミズハ』

 彼女の敬礼は軍隊のそれである。

『ブルックリン・ラックフィールド』

 短く髪を刈りこみ、全身鎧をつけ片手半剣(バスタードソード)を腰にした若者が、武人らしくはつらつとした礼をする。

 紋章をつけている者もいる。

 貴族の血を引くシェーンコップやユリアンは家族の紋章と薔薇の騎士連隊の合成紋章。……旧帝国法・同盟軍法ともに違反しているが、どちらももう過去のことだ。

 ルイ・マシュンゴは薔薇の騎士連隊の紋章。

 ルークは反乱同盟軍ローグ中隊のエンブレムをつけている。

 鎧の騎士が一揖した。

 そして仲間を紹介する。

「フレイム王国宮廷魔術師のスレイン・スターシーカーと申します。こちらは妻のレイリア」痩せた魔法使いと、長髪で目のような額冠をつけた四十前後だが素晴らしい美女。

「ディードリットよ」コルムのように長い耳を持つ、少女のような美女。

「ウッド・チャック……そう呼んでくれ」老いて、ややくたびれたようだが隙のない男。

 言葉はまずユリアンが通訳し、そして耳奥の超小型コンピュータ……イヤ・バグがフォローする。

「さて……」

『われわれは、ここで何かと戦うべき使命を与えられています。なんとなく行くべき方向はわかるのですが』

 ユリアンの言葉に、レイリアがうなずいた。

「目的地は、モスの『最も深き迷宮』。そこでまず、ウォート師に会わねばなりますまい」

「今、ちょうど緒国王会議が開催されています。そこで王たちに会えば話が早い」

「ちょうど国王会議では、同時に馬上槍試合や剣術試合が行われています。その飛び入りということにすれば、諸王が厚遇する理由ともなるでしょう」

「ああ。この人たちの多くは、十分優勝できる強さだ」

 パーンが微笑む。

「貴官も相当なものですな」

 シェーンコップが笑いかけ、ユリアンは通訳しなかったが必要はなかった。

「われわれは馬を必要としています。黄金はありますので、購入できる場はありませんか?」

 ユリアンが言いながら、懐から金貨の入った袋を取り出す。

「お……任せな」

 ウッド・チャックが袋を受け取り、素早くパーンに何か言いながら立ち去る。

 スレインが何か口にのぼせ、コルムがかすかに反応し、ミモレットが驚く。

『幻術を暴く、とても高度な魔法です』

 ユリアンのレンズに心の声が伝わる。

「ではさっそく、出会いを祝して食事にいたしましょう」

 スレインの声に、皆が喜んで天幕の下に行く。

 パン・チーズ・ハム・ワインというごく飾り気のない食事だが、

「どれも素晴らしい品だな。彼らにはかなり高いうしろだてがある」

 とコルムが告げるほどのものであった。

「先に謝っておくことがあります」

 ユリアンが素早く決断し、ルイ・マシュンゴに目を向けた。

 偽装が解除され、黒い肌があらわになる。

「彼の外見をごまかしていました」

 スレインやディードリットは驚きもしていない。

「わかりました。偽装を続けた方がいいと思います」

「ある程度以上の魔法使いと、多数の人間がいる場にはむしろ近づかない方が賢明ですね」

 一瞬驚いたパーンも素直に受け容れ、スレインがフォローする。

「ありがとうございます。ではごちそうにあずかりましょう」

 偽装を解除しての食事は、ことのほかうまいものだった。

 

 

 諸国王会議は、今年はカノンで行われている。

 くだらない紛争、マーモで起きる事件、各国の疲弊……去年とあまり変わらない。

 だが、そんなことを知らない人たちも、この会議と関わっていた。

 財政が厳しいので略式に、ということにはなっていても、行く国も受け入れ国もメンツというものがある。

 要するに、多くの供が贅沢道中をし、贅沢にもてなされる。

 すると、金が落ちる。

 金が落ちるところには、人が集まる。

 腕と夢だけがある若者にとっては、

(いずれかの王に見いだされ、出世するチャンス……)

 ともなる。

 特に平和になった今、地方の小戦争で稼ぐ生き方がしにくくなり、大陸に渡る者もいるほどだ。そしてこのようなチャンスを、強く求める者がいる。

 邪神戦争で膨大な精鋭を失った各国も、本当に強い者ならば召し抱える。平和と言ってもまだわずかな年月、兜の緒をゆるめるほどではない。

 馬上槍試合や剣術試合、旗が立ち並び、露店が並び、商人も近隣の人もどっと集まって祭りにもなる。

 不毛な会議の合間に、王や重臣が試合を見に来ることもある。

 着飾った貴族の登場そのものが、レヴューとよく似た素晴らしいショーでもある。楽団もつく。

 しかも今ここにいる王の多くは、個人として伝説的な武勲の持ち主でもあるのだ。

 大陸から流れた一介の傭兵が砂漠の民をまとめ大国の王となった……暗黒皇帝ベルド、そして魔竜シューティングスターを倒し、邪神戦争に勝利した、ロードス最強の剣士とも言われる、フレイムのカシュー・アルナーグ一世。

 フィアンナ王女を救い、結婚して即位した後に領土を奪回し、邪神戦争では暗黒神の力にも耐えた、ヴァリスの神官王エト。

 幼いころより異常な剣才をうたわれ、第三王子なのに名が上がりすぎ後継者争いを恐れて王国を出奔、それが災い転じて母国の滅亡にまきこまれず、のちに地下活動で民をまとめ見事マーモの支配を覆し国を奪還した、カノンの帰還王レオナー。

 敵国が使役した巨人を討ち果たした、竜騎士でもあるモス公王レドリック。その妻シーリスもカノンの貴族令嬢で、優れた女剣士にして竜騎士でもある。

 彼らの功の多くに共通するのが、『ロードスの騎士』パーンの存在であり、彼も会議には招かれている。

 アラニアのロベス王のみ、一人の戦士としての活躍はない。だが邪神戦争では戦いに参加し、

(少なくとも、歩哨には立った……)

 と、カシューたちが認めている。

 

 まだ、巨大な魔法で召喚された隕石の打撃の修理も終わらぬ城の前では、カノンの豊かさを示すようにさまざまな食物が売られ、食われている。

 そしていくつかの囲いでは、あるところには華やかな馬上槍試合が行われて勝者が貴婦人の祝福を求め、あるところでは試合用の刃引き剣をふるう腕自慢が技を競い合う。

 その喧噪に、星からの旅人も加わっていた。

 馬も何頭か用意され、変装したウッド・チャックの指導で、

「大陸より来た謎の騎士」

 としてふるまっている。

 人が入れる大きさの鎧箱を運ぶ役畜も、何頭も連れている。

 たくさんの人が、頑丈な鎧をつけた美しい騎士たちに群がり、何かを売ろうとしたりする。

 そして腕自慢たちは、席を奪い合うライバルの登場に警戒した。

 その警戒通りに、広げた天幕から何人かの騎士や戦士が徒歩の部に参戦してきた。

 ユリアン、シェーンコップ、コルム、ルーク、ブリット、リューネ。

 戦斧で。槍と長弓で。長剣で。両手持ちの曲刀で。

 ただ彼らが歩くだけでも、美しさと優雅な動きは際立っていた。

 

 板金で要所を補強した鎖帷子に身を包んだユリアンが、腰に長めの短剣を差し斧を構える姿は、実に見事だった。

 貴賓席から見守る『ロードスの騎士』パーンは、今は亡き友を思い出していた。

 ギムとマーシュ……ドワーフの細工師と、豪放な巨漢の姿を。

「戦場で恐ろしいのは斧だ。剣の試合がどれほどうまくても、実戦では鎧がある。鎧ごと断ち切り、かぶとの上から殴り倒し、馬の足すら断つ斧にやられた剣士がどれほど多いことか」

 彼の言葉を、周囲の騎士見習いたちは夢中で聞いている。

 

 相手は剣と盾、むしろ不利……

 誰もがそう見ていたが、勝負はあっけなかった。

 剣をフェイントに、盾で殴ろうとしたその盾を、ユリアンは斧の反対側のツルハシでひっかけ、わずかに引いた。

 立て直そうとするバランスの崩れ、そこに正確な一撃。

 圧倒的なまでの差だった。

 

 シェーンコップも強さは言わずもがな、誰も相手にならない。

 ルークも、ゼッフル粒子対策としてジェダイ学校でも使われつつある実体武器も使いこなしている。

 ジェダイの歴史上、ライトセイバー以前にはフォースを伝える金属でできた実体剣を使っていたこともあった。その時代に戻ったともいえる。学校で使われているのは、ライトセイバーとかわらぬ柄と細身で軽い刃の両手剣。宇宙斧や槍も訓練される。

 コルムの技がまたすさまじかった。槍を投げれば120メートル離れた腕輪を抜き、突けば馬に乗った騎士を、傷一つつけずに馬から降ろす。弓もまた、明らかに手加減して最初に中心を射抜き、次からは隣の競技者と正確に同じところを貫く。優美な細剣(レイピア)でも武骨な大剣でも、力も技もこの世のものとは思えなかった。

 若く美しい女剣士、リューネはとかく力が人間離れしていた。大男用の試合用両手剣を選び、同じ女騎士など力で相手にしない。欲望をむきだしに挑む男の下種を、完全に力でねじふせる。

 ブリットも、乗っている特機の性質から剣術を修行している。やや異質な技だが実戦的で、その実力は見る者にはわかる。

 彼らはマッスルスーツは身に着けていない。それでも問題なく勝ち上がれるだけの実力があるのだ。

 

 そうして上がってきた彼ら。むろん群衆は熱狂している。

 その熱狂は、王たちが声をかけたことで爆発した……それは出来レースだと、わかっている者はわかっていた。

「見事であるな、大陸からの旅人よ」

 カシューの声が響く。

「ぜひ腕を見せてもらおう」

 レオナーが、いつになくうれしげに分厚い外套を脱ぎ、鍛えられた肢体を動きやすい服に包んで降りてくる。

「なら、オレも」

「自由騎士パーンまで!」

 パーンまでが、試合場に出てきた。

 群衆の熱狂はさらに激しくなる。

「わたしも、ちょっとばかり産後の運動をさせてもらうわ」

 モスのシーリスも赤毛をなびかせ、降りてくる。

「私たちはとてもかないそうにないので、妻を代理に行かせて見守っていますよ」

 と、レドリックが言って、ロベスの隣に移った。

 これによって、

(ロベスまで出るしかなくなり、恥をかかせてしまう……)

 ことを、防いだのだ。

 実際にはレドリックも、そこらの騎士では相手にならない強さであることは皆知っている。カシューとレオナーが別格すぎるだけだ。

 

 まずは、シェーンコップとカシュー、ルークとレオナー、ユリアンとパーン、そしてリューネとシーリス。

 

 

 シェーンコップの試合用戦斧と、カシュー王の刃引きの長剣が静かに触れ合わされる。

 剣匠(ソードマスター)とも呼ばれるカシューは、一瞬で相手のすさまじい技量と実戦経験を読んだ。逆に自らも読まれたことがわかる。

 将棋盤をはさんで座った、桁外れの名人同士のように、両方が何十何百という棋譜を詰みまで検討し、捨てる。とても短い時間で。

 全身のわずかな動きが牽制となる。相手の動きを観た両方の体が瞬時に一つの棋譜を詰みまで悟り、負けるほうがたとえば体重を左足に少し移し、そこから次の棋譜を探る。その繰り返し。言葉思考ではなく、体に染みついた戦技がそれだけの読みあいをこなす。

(どちらも実戦経験は豊富。力は負けるな。だが、オレは剣闘士の経験があるが、このシェーンコップという男にはない……俺は長剣、奴は斧。こちらのほうが手数は多い、奴は腰で来る……次は……ここか)

 四手先。

 カシューが斧の一撃をわずかにかわして手首を狙う。

 シェーンコップは右手を刃近くに握り替えてよけ、斧刃近くの重心を中心に軽い柄を目に走らせる。

 カシューは額で受け、剣を引きながらスネを踏み蹴る。

 シェーンコップは踏みこんでよけ、斧刃を右拳の延長にして体ごと殴る……カシューは脇に畳んだ腕で、短く打ちこむ。

 両方が攻防一体。斧刃と剣先が噛み合い、弾かれた方が死ぬ。とてつもない精度と速さの勝負だ。どちらにも勝つチャンスがある、それで合意。

(奴は重装甲の、仲間もいる戦場しか知らない。今は、この服で、この試合場という場にいるんだ)

 シェーンコップは静かに構えていた。彼はかけっこではリンツに、腕相撲ではオフレッサーに負ける。だが総合的なうまさと正確さでは、誰にも負けない。

 観客全員が、息をのんだ。

 いや、たとえこれがあの巨大闘技場でも、満員の客が満足し、どちらが勝っても投げられた宝石や金貨がうずたかく積もるだろう。

 ひと呼吸。汗が砂に落ちる。

(……いや、こいつは強敵との一騎打ちも体験している!戦場で)

 そうなると、カシューはかすかな焦りも出る。

 彼が、前ヴァリス王で六英雄の一人でもあるファーンの後に、同じく元六英雄でファーンを倒した暗黒皇帝ベルドと戦った時。負けるかもしれない激戦の中、一本の流れ矢にベルドが崩れ、その隙に彼は勝利した。

 その卑怯を、アシュラムという黒騎士はずっと恨んでいた……

(だが、オレは負けはしない。いや、生き延びてみせる!)

 目の前の敵にも、同じほどに激しい、戦い生きる執念をはっきりと感じる。

 心と体、剣と斧が、敵と自分が溶けあうのを感じる。

 突然、拳銃で発砲するかのような一撃。分厚い鎧を着ていても致命傷であろう威力、速く最短距離で、振りかぶりを含め予備動作は皆無。

 髪の毛一筋で流し攻防一体の動きで手首を狙う、目に飛んできた柄を額に……

 カシューは読みと違い、試合用に露出した服をつかもうと左手を伸ばす。

 シェーンコップはかまわず踏み込みを加速させ、正面衝突コースを刃が走る。

 双方の腕と、生にしがみつく執念。そして、刃引きの斧と剣。

 それが恐ろしいことを生み出した……剣の先端が、斧刃のクッションを切り割って、互いに動かなくなってしまったのだ。

 ほんの一瞬、両方がすさまじい力で押し合う。

 試合用の剣も斧も、めしりと音を立てた。

(折れた)

 武器を放して跳び離れ、腰に手をやり短剣を探った両者は、静かに微笑しうなずき合った。

 

 

 一国の王、という相手に直面したルークは、すっかり面食らっていた。

 一国の……というか一星の王女は妹と判明した。同じ人間だとわかっている。

 金属の剣にも、不安はない。特にアイラ・カラメル師にみっちり基本から教わった……練操剣さえも。リリィやシェーンコップともしょっちゅう激しい試合をして、腕は磨き上げている。

 だがそれでも、目の前の相手には寸分の隙も無い。

 フォースで崩すゆとりもない……フォースは、自分を強化するのに使うのが精いっぱいだ。

(フォームを切り替えるか、いやいつも通りに)

 左手の指を二本伸ばし、右手の剣を引く。

 そこに、すさまじい鋭さの突きが飛んでくる。

 フォースで予知していたそれをかわし、返す、それがさらに柳に風と受け流し返される。

 自分より桁外れに強い相手との試合は、慣れている。

 レオナーは、最小限の動きでルークの急所に刃を伸ばしてきた。

 受け流しから攻撃が完全に一体、一片の無駄もない訓練されぬいた動きだ。

(フォースを信じる)

 そう、自らに言い聞かせたルークは、自分の体を完全にフォースに乗せた。

 ふっと力を抜いて体重を落とし、それが胴体の小さい動きになって刃を滑らせる。真剣であったとしても怪我は負うが、致命傷は免れる。

 次の鋭い突きには、水がはねかかるように自然な返しが放たれた。レオナーはそれを紙一重でかわす。

 ルークの動きは、奇妙なほどゆっくりになる。緩急のついた剣が、正確にレオナーの急所に漂う。

 だが、隙と見えても隙はない、すべてが払われ返される。

 まるで、高さどころか左右の幅すらわからない、とてつもない巨木のような安定感。さらに、こちらの虚を正確に狙う突きの速さ。型が見事に自らの体を活かしきっていて無駄な力がなく、しかも虚に放たれるからだ。

(フォースの導きで動いているのでなければ、何度やられただろう……)

 そう思いながら、緩やかな舞のような剣が加速していく。

 対応の限界には、ならない。すべて受け返し、崩される。

(こちらは隙を作らず、相手に隙を作る……)

 そのことに徹した、古く洗練された剣術。

 ルークの動きはますます激しく、重くなる。

 これは、何度もあることだった。特にアイラ師との試合で。

 ひたすら、

(ダークサイドに流されない……)

 ことに力を注がねばならない。

 そう、ルークの剣筋は、放っておくと急速に父ダース・ベイダーの剣筋に近づき、フォースもダークサイドに近づいていくのだ。両足で強く大地を踏みしめ、鉄棒で岩を砕くような激しい打撃を連続させるフォーム。

(勝ちたい)

(敵が憎い)

 という激情が激しくなる。それを抑えるのが、目の当たりにしたもの……ダース・ベイダーの無残な姿。

(ああなりたくない)

 と、呼吸を通じてフォースを制御し、静かな心の支配を取り戻す。

 フォースに深く深く身を委ねながら、ダークサイドに走らない。

 何度も何度も繰り返した難業に、ルークは挑んだ。

 試合相手であるレオナーも、そのフォースの流れの一つでしかなかった。

 観客たちは、茫然としていた。ルークが信じられない高さに跳びあがり、よけられ勢い余って打った岩が割れる。速さと鋭さが、人間の限界をはるかに超えていくのだ。

 それで負けぬレオナー王もものすごい。

 突然レオナーの剣から、文字で手紙を書かれたような感じをルークは受けた。

(譲って引いてくれ)

 考える暇はなかった。ルークの心身は限界が近づいていた。

(フォースの導き……ダークサイドではなく、いや、ダークサイドを受け入れ、落ちてまた戻った……フォースのバランス……)

 何かが見えようとした瞬間、強いフォースがルークを導いた。

 ふわり、と対戦相手を無視して別の方向に跳び、剣を地面に突き立てた。

 試合用の刃引きの長剣が、布をかぶって土手に隠れていた男を貫いている。

 すぐさまレオナーは静かに剣を突きつけ、ルークは疲れ切ってくずおれた。

「ありがとう。王である私は負けるわけにはいかない……ただの剣士ではいられない。また暗殺者の件も感謝する。公表はできない、諸国王会議を中止させては平和が失われよう。こいつは、おそらく私が少し前にやった人身売買禁止令に反対して雇われた盗賊ギルドの者だろう」

 そう、レオナーはきわめて小さい声でささやいた。

 

 

 ユリアンは、愛用のものとは違うが重みがあまり変わらない試合用の斧を両手に握り、両手を近づけて右肩によせ、斧頭を天に向けた。

 示現流と同じ、ヘルメットがあるから正面打ちができない状態での、最速最強の一撃。

 軍を志し、薔薇の騎士の稽古に参加させてもらって、血を吐くほど叩きこまれた。

 それから実戦を経験し、ゼントラーディ大戦を生き延びてヤンが去り……レンズマンの通信課程。

 毎日、体力を絞り尽くされた。格闘訓練も多かった……共通する宇宙斧のみならず、フルーレからコーヒーカップまでありとあらゆるものを武器とする。

 洗練された武術とはまったく違う。戦場で、また場末の酒場で生き延びるための技だ。

 ワイルド・ビル・ウィリアムズのように変装して潜入していて、酒場のケンカでツルの構えから華麗な飛び蹴りなどやらかしたら、即座にばれて殺される。そういう場では相手の髪をつかみ机の角に相手の口から鼻をぶつけるような戦いが求められるのだ。

 それを、徹底的にやってきた。

(戦場でちんたらお見合いしてる暇なんてないぞ!)

 訓練では別人のように、鬼・悪魔と化し範を見せる薔薇の騎士連隊の先輩たち。

(レンズマンは、生きている限りあきらめない!)

 五日間、合計わずか二時間の休み……マイナス95度の極寒惑星、地球の2.4倍の重力で腰まであるアンモニアと氷の底なし沼をラッセルし続け、朦朧として薄氷の島に上がった、そこに三人の敵が襲撃してくる。手にあるのは、拾った氷柱だけ。

 どうやってその訓練を抜けたのか、覚えていない。その後の三日間をどう切り抜けたのかも。

 布をかぶせられ、どうにもならなくなったところに腹や膝を蹴られ、地に着いた指を何度も踏みつぶされ、ねじ切られ、ちぎられる巨痛も思い出す。

(二度と油断しない)

 そう、骨身に染みて思い知った日のことを。

 スパルタニアンの初出撃も思い出せば、怖いものなどない。

 何よりも、最速の一撃を叩きこむ。

 相手の装甲を抜き、崩す。

 よけられることは考えない……あとは訓練に任せる。

 訓練通りに、人間離れした速さで影が閃光と化した。それは大山猫(リュンクス)のような俊敏、突風のようなすさまじさでもあった。

 パーンは迷わなかった。

 超高速一撃必殺に対することは、十年以上とことん練習してきた。

(アシュラムに匹敵する速さと正確さ……氷ではなく、風。いいやつで英雄だ)

 そう思うゆとりすらあった。

 最初の一撃を、一抱えもある綿のように柔らかく受け流す。全身の力をわずかな円の動きに集約して。

 とてつもない重さ。じん、と腕がしびれわずかに体が崩れる。それは反撃を不可能にしてもいた。

(これなら鎧を着た相手も、竜でも殺せる)

 勢い余って抜けた、さらにすさまじい速さで次の一撃が襲ってくる。

(二撃目はない)

 後先のない、体ごとぶつかっていく突きで、応戦する。

 ユリアンの名馬のように鍛えられた長身がびゅごうと風を巻き駆け過ぎる。パーンの体は突き終えた状態で固定されていた。

 どちらが勝ったのかは、審判役の騎士も観客もわかってはいなかった。

 数人だけが、その動きを見ることができていた。コルムの『目』がとらえた映像でも、ものすごくゆっくりにしなければ見えなかった。

 だが、敗者はよく知っていた。

(完敗か)

 ユリアンは静かに目を閉じ、噛みしめた。

(それがどうした!生きてるじゃないか)

 アッテンボローの、

(宇宙最強のセリフ……)

 を借りて、顔だけでも微笑んだ。

 心が落ち着けば、剣を通じて深く知り合った相手に、深い敬意が湧いてくる。

 

 

 シーリスにとって、目の前のリューネは、非常に嫌な思い出をフラッシュバックさせるものだった。

 男の騎士が使う長い直剣を、二刀流で使う大女。技も何もない蛮族の女戦士でアシュラムの部下。

 カノン王国剣術師範、ウェイマー・ラカーサ伯爵の娘で、男に生まれていればと惜しまれつつ厳しい指導に耐え、父の自慢となった……剣術には自信があった彼女が、反則だと叫びたくなるやり方で負けた。

 それで捕虜になり、今は亡き仲間に痛いことを言われた。戦場で勝つのは力なのだと……

 男の、それもよほどの力自慢の騎士が使うような厚く幅が広い稽古用両手剣を選んだ金髪少女は、あの蛮族女とはまったく違う。

 何より、どこの貴族でも争って求婚するであろう美少女なのだ。

(どこかの宮廷のはねっかえり娘ね)

 と思わせる、隠せぬ優雅さと奔放さがあった。

 その点も自分に似ている。

 それが、片手で巨剣をぶん、ぶんと振り回し砂煙を立てている。

(絶対に負けない!父上の、マーシュの仇)

 なぜか見当違いの復讐意識まで持って、心の中で絶叫した。

 剣を構え、礼をする。

 相手もしっかり礼をしてくる。

(あの女とは違う!目の前の敵を見ろ)

 王妃暮らしでなまっていたが、長年の女傭兵生活のカンを深呼吸で引き戻す。

 晴眼に構えた相手がじり、と動くのを見てすっ、と剣を突き出す。亡父の愛弟子でもあったレオナー帰還王が得意とするのと同じ、虚をつくことで速度を何倍にも錯覚させる牽制突きだ。

 相手は肩をかすめさせながら、こちらの剣と腕を道としてすさまじい一撃を叩きこんできた。

(やっぱり!思ったより二つ速い)

 かわし、互いに構える。と、相手の下段に構えた剣がふわりと円を描く。

(ふざけないで!)

 打ちこんだ剣は、簡単に弾かれる。

 次々と、重く鋭い一撃が打ちこまれてくる。

(アシュラム卿もこうだったわね)

 アシュラムとカシューの一騎打ちを見てしまった彼女は、苦笑すらする。

 それを見ていたからこそ、耐えられた。よけきれた……相手の剣の重さ、連撃の速さは、反撃を封じてもいたが。

 底なしの体力。正確な急所狙い。

(この女も、見た目より実戦経験あるみたいね。でも実戦経験なら……っ!)

 そのとき、シーリスの目には、敵の剣にわずかな緩みが感じられた。

 考える暇はなかった。

 体に叩きこまれたカウンターの一つを準備する。足をわずかに使って、ほんの少し体の軸をずらす。

 強烈な一撃を、受け止めるのではなく受け流す。

(小川の水が流れるように!)

 体重を落とし、脇の下に刃を滑らせる。筋肉も板金鎧もありえず大血管が走る、絶対の急所。

 その刃が、万力に挟まれたように動かなくなった。

「つかまえたよ」

 脇に、がっちりと刃がはさまれている。

 驚愕を抑えこみ、即座に剣を放し半歩引いて相手の一撃をよけ腰の短剣を投げる……動きだけをしたが、それは腰になかった。

 それができたのも、昔のふざけた経験があったからだ。

「あーあ、あたしの負けね」

 知らぬ紋章をつけたリューネと名乗る女の、口とは少し違うところから声がした。もう、服の下に隠せる携帯コンピュータはここの言語を覚えている。

 そして彼女は、人を食ったような見事な礼でひざまずいた。

(試合のルールじゃ負けでしょ?)

 そう、いたずらっぽい目が伝えてくる。

 どちらが勝ちとも言えない、公的には自分の勝ちでも……

 シーリスは、思わず笑い出した。彼女もともに笑い始め、いつしか大笑いが広がっていた。

 

 

 ユリアンを中心とした一行は、そのまま王たちの謁見を許された。

「そなたたち、見事であった!」

 美しい服に着かえた彼らに、王たちは大げさなまでのほめ言葉をかける。

 長い儀礼を、退屈に耐えてこなし……

 王たちの、私的な朝食に招かれたのは翌日の事だった。

 

「パーンやスレインから聞いた。『最も深い洞窟』、ウォート師に会う、と」

 カシューが顔をしかめる。六英雄の一人である大賢者ウォート、彼の王侯貴族など何するものぞな態度と、大規模自然災害級の魔力は邪神戦争で痛感している。

 もう、カシューたちはユリアンたちを、旧友のように扱っている。

「まず、海路でロイドにいらしてください。そこからモスへ」

 と、エトが申し出た。

「われらの剣が必要な時は」

 レオナーの言葉にレドリックが、

「われら夫婦が、竜で連絡します」

 と請け合った。

「後方支援は前線で戦うのと同じく価値がある、と師父が言っていました。それを怠ったから、私の祖国は致命的な大敗をしたのだ、と」

 ユリアンの言葉に、王たちも深くうなずく。

「兵站と情報。確かにこの二つは、前線の剣と同じく大切だ」

 とカシューがレドリックの肩を叩く。

「また、活動の費用として黄金も持ちこんでいます。お納めください」

 と、ユリアンが300キログラムに及ぶ金塊を献上する。部屋の床が抜けそうな重さ、大きさだけでもちょっとした家具ぐらいある。

「おお……」

「これは、ロベスも含め各国で公平に分けよう。どう言い訳するかが難しいが」

「そうですね、彼らに場所を教えられた遺跡から、とでも」

 スレインが宮廷魔術師らしく知恵を出す。

「そうだな。パーンにも金を?」

 カシューの言葉に、パーンはうなずく。

 特にカシューは、魔竜シューティングスターを倒した時に、莫大な財宝も得ている。また大陸との交易もしている。それに比べれば、大したものではないともいえる。

 だが大戦で財政が悪化している各国にとっては、まさに干天の慈雨であった。

 

 クスハ・ミズハは、少し残念でもあった。

 以前の旅からもわかっているし、ここでも見た……故郷でも激しい戦災で見ることがある。飢えた人々。

 今や、飢えを知らない〔UPW〕の、品種改良や遺伝子改良で高められた作物の種を与えれば、

(今だけでなくずっと、豊かに食べられるのに……)

 このことである。

 海水で育つ稲。深い根を砂漠の地下水に届かせ、必須アミノ酸がそろう灌木豆。一人一回分の糞尿を受け止めるほど袋が大きく、すぐに全栄養を強靭な繊維に変えるウツボカズラ。人間に必要な栄養がすべてそろうバターを分泌するバター虫。

 むろん、ワクチンや清潔などの知恵も、それ以上の人を救うだろう。煙を燃やしきるロケットストーブ、馬具、空中窒素固定緑肥の活用、汚物の肥料化なども。

 だが、それはシスコが艦隊の掟を訴え、禁じた。

 艦隊の掟は、くだらない掟ではない。

 うかつな作物や知識を与えることは、両方に巨大な危険がある。最悪の場合、とんでもない人数を殺してしまうことにもなるのだ。

 同様の知恵から、以前自分たちが剣と魔法世界を旅した時も、エメラルダスは人々や王たちに技術を与えようとはしなかったのだ。

 

「君たちが、信頼できる勇者であることはよくわかった」

「魔神戦争の再来を防ぐため、あらゆる便宜を図ろう」

 王たちの誓約、計画がまとまる。星からの一行はパーンに同行し、諸国王会議も来年に向け、あらためて盟を誓って解散される。

 アラニアのロベス王は、仲間外れと秘密に怒る気持ちと、労せず手に入れた大金に複雑な表情だった。伝統あるアラニア王国では王と言えど、多くの組織の調整者でしかない面もある……個人の力がわずかでも強まれば、それはありがたいのだ。

 パーンたちと星からの一行は船に乗り、海路でヴァリス王国の首都ロイドに急ぐ。風の呪文や、目に見えない船の牽引ビームが少しだけ船の速度を増していた。

 さらに竜騎士であるレドリック夫妻が空路で、ウッド・チャックとコルムも乗せてロイドに先行、エトの手紙も加えて便宜を図らせる。

 スレインも瞬間移動の呪文でフレイムに戻り、さまざまな工作を始めた。

 最悪、魔神戦争の再来も覚悟しなければならないのだから……。

 

 

 ロイドの港からモスへ陸路。ロイドで再合流したウッド・チャックは、一人の老いた剣士を連れていた。

 気品のある雰囲気で、魔法の剣を帯びている。剣に優れていることもわかる。

「テシウス、と呼んでやれ。素性は聞くな。魔神に詳しいし、薬草にも詳しいそうだ」

 テシウスというのは自由騎士パーンの、亡き父親の名。異様な偽名だ。

 ユリアンのレンズは、奇妙な違和感を感じた。普通の人間と、魂のあり方が少し異なるのだ。

 また、アファッドというフレイムの元騎士も、何人かの一族と多数の丈夫な役畜を連れて合流した。荷物が多い一行にとってはとてもありがたい。

 

 ヴァリスからモスへの、険しい山が多い陸路を行く。かなり人数も、家畜も多い。

 日中は何十頭もの役畜を追って、かなりの急ぎ足で進む。

 星からの一行の多くは、馬に乗れないのがハンデになる。

 水と休憩に気をつけ、保存のきく固焼きパン・干し肉・ドライフルーツなどの簡素な食事。

 食事を終えればコルムとパーン、そして『テシウス』が、一行の中の若手戦士に稽古をつけ始めた。

 偽名の老人のすさまじい腕は、誰にとっても驚くべきものだった。

 またミモレットはスレインやコルムから魔法を習う。故郷の魔法を少しでも高めるために。

 激しい稽古に疲れた身を横たえ、火に温め布で巻いた石を抱えて、それぞれの冒険談を語り合う。

 コルムの悲惨な過去やすさまじい冒険。

 星の海を旅する超技術の軍船、それでも人の心は変わらず戦いは続く。

 幾万の艦隊を率いる黒き不敗の魔術師、美しき黄金色の髪をなびかせる常勝の天才。

 鋼鉄の巨人たちが光と鉛の矢を撃ち合い、舞い戦う激戦。

 そしてパーンの、無謀な冒険から始まった旅。カーラの記憶を持つウッド・チャックやレイリアは、古代王国の滅亡も語ってくれた。

(超技術に頼り、傲慢に陥り人を人と思わなくなった文明は、わずかな事故であっけなく滅びる……)

 それは、星の旅人にとっても他人事ではなかった。

 テシウスと名乗る老人だけは、昔話はしなかった。奇妙なほど詳しく、魔神についての話をしてくれた。

 アファッドは歴戦の武辺話以上に、酒や干し肉を味わい、家畜の美しさ、山並みや空の美しさを楽しむことを教えてくれた。

 使命にはやる旅人たちにとって、それはとてもありがたい言葉だった。特にシェーンコップのように年齢を重ねた者にとっては。

 

 そんな、日が暮れようとする頃。山道で役畜たちが騒ぎだした。

「何か来るな」

 もう、戦士たちは武器を取り、役畜たちを守っている。

 緩やかな斜面。道は固い土で、ところどころ白い石が露出している。

 いくつかの高木と、多数生えた腰ほどの高さのねじれた木。

 遠くでは、野獣がものすごい速さで逃げている。

 木の中から、それが出現した

「な、なに」

 百戦錬磨のパーンたちが驚く。見たこともないような怪物なのだ。

 二十体ほど。カンガルーのようだが毛皮でも鱗でもなく粘液に覆われた下半身、巨人の胴体と四本の腕、アースドラゴンの頭。全高は人間の二倍ほどだ。

 その腕には石を握っている。

「ばかな」

「パーン、ものすごく精霊力が乱れた存在よ。精霊力が分化する前の力」

 ディードリットが呪文を唱えながら告げた。

「混沌ですね」

 スレインが長い講義を始めようとするのを、パーンが止めた。

「不自然な者よ、去りなさい」

 レイリアが呪文の詠唱を始める。

 最初に、背後から役畜に襲いかかる一体……

 それに、曲芸のように馬を操ったアファッドが槍を叩きこんだ。

「速いが戦えるぞ!」

 アファッドは今は騎士をやめ帰農……帰牧しているが、最近までカシューの下ですさまじい武功を立てた歴戦の勇士だ。

 それに励まされた戦士たちは、役畜を守って陣を張る。

 

 パーンの、魔法の鎧と盾が攻撃を防ぎ、全身での速すぎる突きが精密に心臓をえぐる。

 ユリアンの戦斧が、必然的にできる隙に襲う腕を二本まとめて断ち落とす。

 彼らが持つ斧の全長は短めの剣、または定寸日本刀程度だ。炭素クリスタルの、同盟軍制式と同じ長さ、重さ、重量バランス。

 見た目は黒鋼と木だが、切れ味と頑丈さははるかに優れる。

 剣と違い、重さが先端に集中するため素早い切り返しはできない。だが威力は一撃必殺。剣をへし折り、装甲も断ち切り、切れなくても打撃が浸透する。

「助けられたな」

 パーンの声にユリアンは微笑し、次の敵に襲いかかった。

 コルムは、アファッドにも劣らず馬を巧みに御しつつロイドで特注した強弓を引き、味方を援護する。

 必要なタイミングで敵の目や口を矢がえぐるのだから、これほど楽なことはない。

 ルイ・マシュンゴが、四つの腕の桁外れの力を盾で受け止め、驚いたことに押し返した。

 シェーンコップはあちら、こちらと動き回りつつ、まるでカミソリで大血管だけを切り裂くように急所だけを斬って回る。

 リューネが前衛で斬りこみ、クスハとブリットがかばい合いリシュウ譲りの剣術で敵を切り伏せている。

 レイリアも、俊敏な動きで小剣を操り、小さい傷を負った味方を癒し、さらに強大な古代語魔法で敵をなぎ倒している。

 スレインは妻をいたわりながら、強大な魔法で味方に不可視の鎧や盾を与え、敵に魔法の綱をかけて動きを封じた。

 魔法ではミモレットやディードリットも貢献する。

 ウッド・チャックは巨大な魔力を封じた道具を使い、ディードリットと組んで援護に回っていた。テシウスは彼らを守り、すさまじい剣技で敵を切り捨てる。

「カーラが知っている魔神とも違う、混沌に近い存在……」

 首をひねり、脅威におののきつつ、一行はかつてスカードと呼ばれた地域に近づく。

 そこでは、テシウスという偽名の老人が道案内をする。まるで故郷のように、細かな水源も崖崩れの危険も、すべて知っていた。

 パーンも来たことがある。

 スカードの近くに、『最も深き迷宮』……滅んだドワーフの地下王国がある。

 アファッドたちは報酬を受け取り、役畜たちを追ってロイドに引き返した。

 

 星々からの一行は、荷物の正体……装甲化したマッスルスーツをつけ、最新最強の携行重火器を担いで魔の洞窟に歩み入る。

 ドワーフが滅び、魔神が滅ぼされてから、その洞窟を守るために多くの魔物が放たれている。守らせているのは、魔神の根源を守る六英雄の一人、大賢者ウォート。

(たとえ国王の使いと言えど、迷宮を越える力もない者と話す気はない……)

 若き日のパーン、ディードリット、スレイン、ウッド・チャック、エト……そしてもう一人は、カーラの正体について聞くためにこの洞窟に挑み、思い出したくもないほど経験を積んだものだ。

「というわけで、初めて彼に会うには……その洞窟を越えなきゃいけない、ということになっているんだ」

 経験者のパーンは近道を知っている。だが、星からの一行にはちゃんと挑戦してもらわなければならない……

 ユリアンたちも苦笑し、焦りながらもそれを受け入れた。

 なぜか、テシウスは当然のように近道に向かう。

 シェーンコップは、

「そうそう、本気で行きますからな。地震でお宅が崩れるかもしれないので、どうぞご注意くださるよう、ウォート師にお伝えください」

 と、毒舌を垂れた。

 パーンたちを見送りながら荷物から取り出したのは、惑星連邦制式フェーザー・タイプ3。個人携行では最大サイズ。山脈の形を変えられる威力はある。

「オールウェポンズフリー。落盤は特殊装甲服とジーニアスメタルで耐える。装甲服着用、宇宙服機能を確認せよ。ローゼンリッター、出撃する!」

 かなり怒っているシェーンコップの号令と共に、平野を行くように火竜が進む。

『最も深き迷宮』が、繰り返し爆圧で揺らぐ。

 罠も魔物もない。紙でできた壁を蹴り破って直線に進むようなものだ。

 ガスや毒熱湯の噴出も、絶対零度近いメタンの星から灼熱の砂漠星、猛毒の鉱山惑星まで、あらゆる敵対環境で戦い抜いた薔薇の騎士連隊にとっては恐ろしくもなんともない。

 特にたちの悪い罠……扉を無理に破ったら鉄砲水、というパターンも先にわかる。

 コルムの義手義眼、ユリアンの義指を構成する……何人かの鎧にもなっているジーニアスメタルがあるからだ。

 ジーニアスメタルは、クリス・ロングナイフがもたらしたスマートメタルを、六つの月がいじりまわし、さらにダイアスパー技術も加えた最新技術だ。

 金属に見えるが無数のナノマシンの集合体で、プログラムした形に変形するスマートメタル。それを装甲材に使い、攻撃されたところを自己修復していた。また机や椅子となり、戦うときには装甲は厚く部屋は狭く、平時には装甲は薄く部屋を広くすることもできた。盾や傘として用いることもされた。

 それに、多くの技術が加えられた。

 セントラル・グロウブの床材の破片に巨大発電所以上のエネルギーを秘めるウィルの超ロストテクノロジー。

 人間を擬態し、人を癒し、機械を修理し、人の心も持つナノナノ・プディングらのナノマシン技術。

 解析しようとしてネリーも崩壊しそうになる三種族の技術。

 一つの可動部もなく巨大都市を支えるダイアスパー技術。

 それらが統合されているのだ。拳程度の金属塊が、ゴールデンバウム銀河帝国すべての発電所とコンピュータを何桁も上回る。そして、命令に応じて形を変える。

 そのジーニアスメタルの試作品の多くが身につけられ、素肌に隠したネリー最新型と統合されている。

 細い針金となり、どんな隙間もすり抜けて行く手を探り、すべての情報をつかんでいるのだ。

 鍵を開けるのも簡単だし、力でドアごと引っぺがすことも造作もない。

 そして時々出てきた、魔物たちとは異質な怪物……魔神と魔物が混沌の力で合成されたような怪物も、強大な火力に消滅し、ジーニアスメタルが針金となって巻きつき、岩ごと潰し刻んだ。

 先制で魔法を使われても、サイコドライバーであるクスハが気づくし、そうなればコルムとミモレットが簡単に解呪する。

 

 

 あっさりと迷宮を突破した一行を、ウォートは苦々しげに出迎えた。

 ユリアンは毒舌を吐こうとしたシェーンコップを抑え、レンズの力で応対した。

『我々がすべき戦いを、どうかお導きください。この、レンズの言葉では嘘はつけません』

「なんという魔力を使っているんじゃ。古代王国の魔力の塔以上ではないか!」

 ウォートはむしろ怒りすら見せている。

 彼にとっては、一行のマッスルスーツからハンドフェイザーからナイフから、すべてとんでもない魔法の塊なのだ。

 ましてユリアンのレンズは、神々をさらに通り越した存在である。それをつけているユリアン自身が人間とは言えないものになっている。

「確かに魔神、それも混沌に汚染された代物が出てきつつある。それで……」

 ウォートの問いに、ユリアンはレンズを、クスハに見せた。

 複雑な光をのぞきこむ彼女は、短時間で深い瞑想状態に至る。

 そして輝くレンズの光に、レイリアが反応して姿勢を整え、神の言葉を聞く準備に入った。

「もう、もうすぐ……そう、魔竜巨神……世界の……狂える複合精霊……混沌……幾多の世界……タネローン……竜と世界樹の歌……」

 レイリアの口から出る言葉が、いつしか歌のような、意味不明の言葉の羅列になっていく。

 それを聞いていたウッド・チャックとウォートが、思い切り不快そうな表情をした。

 突然、レイリアもクスハも倒れこんだ。ユリアンも膝が砕けそうになり、気力で耐える。

「とんでもないことになったな」

「ウォート師、一体……古代語とも少し違うようですが」

「古代王国の魔法使いが、神々を従わせようとしたときの、ものすごく特殊な古代語じゃよ」

 ウォートががまんならん、と身体で言いながら。

「カーラでさえ、ちょっとしか知らない言葉だ。まあ、むちゃくちゃだぞ。

 あの魔神王が出てきたところに、とんでもなく強いメンバーで行く。

 そこが、要するに魔神の世界とこの世界がぐちゃぐちゃになりつつあるから、そこで魔神王を殴り倒して、魔神界とさらに別の世界への門を開かせる。

 そこには巨人と魔神と竜が混じったような化け物たちがいるから、その親玉を殺る。

 だとよ」

 ウッド・チャックの通訳に、パーンたちは呆れるを通り越していた。

「とにかく、魔神王を倒すどころか従える……六英雄以上の戦士が何人も必要じゃろうな」

 ウォートが苦々しげに言う。

「カシュー王・レオナー王も参加されるそうで、もうすぐ竜でこちらにやって来ると思います」

 パーンの言葉にも、ウォートはまだ納得していない。

「フレーベと、」

 何か言おうとしながら、テシウスを見つめる。テシウスはうなずくだけだった。

「あんたもいるのだからな、六英雄の」

 レイリアの、額のほうの目がうなずいたように見えた。

「ジェイ・ランカード」

 ウォートの言葉に、ウッド・チャックが眉をひそめた。

 老人は老人からいろいろなものを受け取り、苦々しげに吐き捨てた。

「そりゃ、しくじったら世界ぐるみ終わるからな。でもこんな老人に、そんなことまでさせるのかよ。名声もなしに」

 ぶつぶつと文句を言う彼を、パーンがなぐさめる。

「フレーベももうすぐ来るじゃろう。だがそれでも、無理難題じゃよ」

 ウォートの怒りは、絶望に近い見通しだと歴戦の勇者たちにはわかった。

「なら、それまでうまいものを飲み食いしよう」

 無茶な戦いに慣れ切ったシェーンコップの言葉に、

(ギムがいたら言うようなことを)

 とは、ウッド・チャックもパーンも口に出さなかった。

 

 数日後、レドリック・シーリス夫妻が駆る竜に乗った……というより縛りつけられたカシュー王とレオナー王が飛んできた。

 そして六英雄の一人、ドワーフの失われた王国で唯一生き残った王であるフレーベも合流し、一行は『最も深い迷宮』のさらに最深部に赴いた。

 

 

 

 この星に着いてから、すでに百日近い。こちらでの時間経過は、あちらとは関係ないとも言われる。だが、戦友たちを思う勇者たちは激しく焦り、戦いの決意を強めている。

 

 空から見守る後方支援の空軍も、辛さはたとえようもなかった。

 レプリケーターでさまざまな物資を作り、夜中にステルスで地上に降りて、牽引ビームを微妙に操って小さな箱を降ろし、回収させる。

 地上のメンバーから電子化された記録を受け取り、整理する。

 自らの機体を少ない人数で整備する。

 運動し、勉強して心身のコンディションを保つ。

 時にはこの有人惑星から遠く離れ、小惑星に降りて資源を採掘し、加工する。

 それだけでも相当に大変なことだった。

 

 行く手に待ち受ける敵がどれほど強くとも……

 かりそめの戦友に稽古をつけてもらいつつ、勇者たちは戦いの予感に身を震わせていた。




ロードス島戦記

銀河英雄伝説
スターウォーズ
スーパーロボット大戦OG
ギャラクシーエンジェル2
永遠の戦士コルム

剣の達人で、老人で、魔神に詳しく、ウォートやフレーベとも知り合いらしくて、魂のあり方がちょっと違う偽名テシウスとは何者なんだー(棒)

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