第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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混乱時空/時空の結合より3年1カ月

〈混沌〉との戦いは続き、そして局面が変わろうとしていた。

 

 戦いを支える、最高の将や王たちへを、人間大のすさまじい化け物が襲う……その戦いは

(人の世のものとは、思われぬ……)

 ほどのものとなる。

 

 援軍として、総司令官エンダー・ウィッギンやその家族、そしてエレーナ・ボサリ・ジェセック一家を守るギド・ルシオン・デビルーク王は、護衛対象を守る余裕を失っていた。

 敵……人に似た姿をした、空間の昏いゆらぎ、たゆたい。それはどんなすさまじい力も、時を止めてかわし空間の刃で斬りつけてくる。

 惑星すら破壊するほどの強烈な稲妻も、時空の断面に吸われてしまう。

 力に頼らない、戦乱の銀河を統一するほど実戦経験も豊富だからこそ戦えている。

 

 その間に司令官たちを襲ったのは、カマキリのような怪物だった。両鎌の間にすさまじいアーク放電が走っている……近づいただけでも黒焦げになるだろう。細身の体で、足は太く短いがすさまじく速い。

 実戦経験豊富な傭兵艦長でもあったエレーナが強力な射撃を叩きつけるが、稲妻の壁が立ち上がると何事もなかったように前進し続ける。

 あざけるようにゆっくりと。

 それではじめてわかる。身長3メートルを超える巨人でもあると……

 その後ろにも、二十体以上。

(せめてこの子に、見せてはいけない)

 だいぶ成長してきたコーデリア・ジェセックの目を、父が覆う。

 そのとき、エンダーの手にあるレンズがひらめいた。

 

 ユリアン・ミンツのレンズからは、時空の壁も超えて即時に情報が届く。彼が見た魔法はすべてレンズマンに共有されている。理解できているのは第二段階以上だけだが、その研究に専任すると決めた第一段階も多数いる。

 ウォートや二人のカーラ、スレイン、バグナードの呪文……そして魔神たちやコルムが使った魔法。

 ユリアンは、レオナーが放浪時代から愛用していた魔剣を借りた。第二段階の解析能力でその付与魔法を解析し、剣と体の一体化を通じて一つとなった。魔剣、見て習ったナシェルの神剣、さらにレンズをきっかけとした人間の極北を統合することで、どれほど高い段階に至れるかの体験も共有された。

 さらに、視覚を超えた第二段階の知覚力で、コルムがジーニアスメタル……(ターミネーター2のT-1000の超上位互換)巨大発電所のエネルギーと超コンピュータの能力があり、流動して形を自在に変える超金属……の義手義眼をほどいて行った、超微細な流動立体魔法陣による超々高度魔法も見た。

 

 レンズマンたちは以前から、〔UPW〕の古参であるマジークから魔法を学んでいた。レンズはきわめて強力な魔法具でもあり、第一段階レンズマンでも半分以上が中級以上の魔法使いになるのに半年かからなかった。

 

 エンダー・ウィッギンの体は、もはや生身の人のそれではない。

 超光速航行の試験として世界の外に出たとき、その記憶から若いヴァルとピーター……姉と兄を生み出した時、魂、アイウアが分割され摩滅していた。その摩滅は、ジェインが窩巣女王やペケニーノ、〔UPW〕のロストテクノロジーコンピュータを駆け巡ることでさらに加速していた。それによってピーターは魂が安定したが。

 時空の結合によってアリシアに導かれたエンダーとヴァルは魂を再生され、肉体も滅びかけていたエンダーは新しい肉体を作られた。

 レンズ。ジーニアスメタルの微小コンピュータとエネルギー。エンダーのDNAから再生した細胞。ナノナノ・プディングと共通のナノマシン。

 その統合体である今の彼は、自らの体を立体流動魔法陣と化し、時間によって変化する微小文字の集合で、一年かかる詠唱を0.1秒に圧縮するのは容易だった。

 分解消去。古代語魔法の最高峰。分子破壊砲と同様の効果を持ち、しかも惑星地上で使っても暴走連鎖反応を起こさない。

 それが一体を、瞬時に消滅させ光に返す。

 高速の動きに切り替えた岩のカマキリを、長大な刃に変じたジーニアスメタルが内部から切り刻む。エンダーの足の接地面から地面の中を通り、敵の足の接地面から内部に侵入したのだ。ごくわずか、絹糸のように極細の刃であっても切れ味は確かだ。

 直後、レンズが増幅されてきらめく。

 まだ動いている怪物が、精神をレンズで、肉体を針金で支配され、そのままデビルーク王が戦う影に襲いかかる。

 その刹那、別の影がエンダーを襲った。完全に普通の人間と変わらない姿、手にしているのはただのナイフ……だが、電撃を使う岩カマキリより強いのは明白だった。

 ジーニアスメタルを変形させる暇もない。正確で鋭い突きを、エンダーは手首で受け流した。すぐさま小手返し、固めながら投げ倒して関節をへし折る。

 エンダーはバトル・スクールで、常に襲撃される立場だった。誰よりも幼く小さく、しかも誰よりも賢かった……のちにビーンが加わるまでは。いじめは人間の本能であり、それに権力抗争が加われば殺すか殺されるかですらあると、三歳の時から知っていた。……兄ピーターの巧妙な虐待によって、そして大人たちが、バガーを倒す司令官を得るため、

(何があろうと、警察も教師も彼を助けることはない……)

 という方針を取っていたために。

 それでエンダーは、護身格闘技のコースも取り……それでバトル・スクールの生徒の一人を、一対一全裸の決闘で殺している。さらにその技術は伝説の英雄であるメイザー・ラッカラムによって磨き上げられ、その後も鍛錬をつづけた。

 エンダーに人間型を差し向けたのが間違いというべきだ。

 痛みも感じない怪人は、静かに立ち上がろうとする……その膝の裏を、正確に踏み折りながら額に手を当て、ゆっくりと首をそらしていく。振り回した腕が岩を砕くほどの力がある怪人が、なすすべもなく首をそらされていく。そのまま首がありえない方向に折れ、それでも抵抗しようと離れたところに、魔法で氷の塊となり、ついでまとめて分解消去された。

 

 エンダーに乗っ取られた岩カマキリが放つすさまじい電撃。光が影の主を暴くように一瞬姿を暴かれた、昏い影……それを、電撃を感じもせずにデビルーク王の貫き手がぶち抜く。そして内部の何かをつかみ、引きずり出す。

 砂漠にたたきつけたそれが、一瞬で人の姿に変る。

 それが神の領域にあることは、特にレンズを持つエンダーには即座にわかり、魔法やレンズをフルに使って生存者を全力で守る。

 ギド・ルシオン・デビルーク王はまったくかまわず、拳の一撃。

 単なるボクシング、いや技巧のない殴り合い。だが一発一発が惑星破壊級の威力なのだ。余波だけで、底が見えない穴がえぐれ、岩石が津波のように吹き上がる。

 そのエネルギーが熱に変り、周辺が蒸発した岩石ガスにくもり、さらに離れたところでは岩が溶けていく。宇宙から見ればすさまじい閃光がひらめき、きのこ雲が繰り返し吹き上がる。

 どれほど殴り合いは続いたのか……

 エンダーが連絡し、迎えに降りた連絡艇に、突然黒い服を着たいたずらっぽい雰囲気の少年が乗ってきる。

「またガキの姿に戻っちまったな……強かったぜ」

 デビルーク王家は力を使いすぎると子供に戻る。銀河を統一するときにも、その姿になっていてつい最近戻ったばかりだ。第一王女も、最近子供の姿になっている。

「ま、これぐらいなら一月ぐらいで戻るさ。てめーもやるじゃねえか」

 そう、エンダーに笑いかけて拳を合わせた。

(神々……)

 と言うべき圧倒的な存在に、エレーナ夫婦は、またエンダーの幕僚となったミロたちも、言葉もなかった。

「これで寝てるのか……大物になるぜ」

 そう、ギドはバズの腕の中の幼いコーデリアに、優しく触れる。三人の娘を持つ父親の、優しい目だった。

 

 

 ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝は、ジェダイでもレンズマンでもない。

 だが、ジェダイの技を学んだ親衛隊との稽古で、フォースの扱いは身につけている。

 その彼が、覚悟していたものを見た。

 亡きジークフリード・キルヒアイスと、姉アンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃の、おぞましい模造顔をはりつけた醜い醜い怪物……

 一瞬以下、すさまじく短い時間だった。

 警報に旗艦を助けようとした近衛艦隊が、近づけなかった。宇宙気流かと思うほどの、すさまじい暗黒の大嵐。決死の覚悟でも近づくことはできない。

 それはすぐに、透明な何かになった。

 善とも悪とも、〈混沌〉とも〈法〉とも違う何か。異質すぎる何か。

 

 ラインハルトは、美しすぎる顔の表情一つ変えず、生来の踊るように優雅な歩みで敵に寄った。愛する者の無残な戯画を張り付けた、悪意の塊に。

 ふりおろされる巨大な腕は、外れたように見えた。それほど自然なかわしかたで、次の瞬間自分から転ぶように、怪物は転倒して……模造の顔を、柱の角でつぶした。

 閃光が何発も閃き、古い硝煙が漂う。

 転んだ敵の背後にいた、おぞましい模造の顔をつけた怪物の、その顔だけが正確に粉砕されている。

 皇帝はもう、飾り気のない大型デラメーターと、デビルーク・アースから輸入した火薬式リボルバーをホルスターに収めていた。

 そしてその背後を狙う強大な腕……キスリング親衛隊長のライトセイバーが切り落とす。

 そのライトセイバーも強化されている。バッテリーも人工のクリスタルも。隔壁を包丁で大根を切るように斬れる。むしろ、肝心のラインハルトを焼かないことこそ肝要だが、皇帝は敵を盾にして輻射熱から逃れている。

 ジェダイである親衛隊員たちは、奇妙なことを感じている。操られている、なのに自分の判断と意思を最高に研ぎ澄ました動きに等しい。

 直後、ラインハルトが巨大な敵に、まるで飼われた象に触る幼子のように近付いて、関節に優雅な指先を振れる。

 それ以上のことはせず、接近しすぎているがゆえに攻撃できない敵は、移動しつつ巨大な腕を振り回し……わずかに動きがぶれた。ランニングの最中に小石を踏み、膝に激痛が走ったように。

 そのわずかな隙を、ライトセイバーが正確に突く。

 

「なんですかあれは」

 霊体のオビ・ワンが、同じく霊体のヨーダに聞いた。

「文献でも見たことがない」

 長い寿命、あらゆるジェダイ歴史に精通したグランド・マスターが、苦々しげに言う。

「ダークサイドの、極限を超えた。そして、惑星の中心まで掘って、さらに反対側まで掘ったように地上に出てきた。あれはもうフォースでもない、何とも言いようがない」

「どうなるんですか?」

「わしが知るか!」

 そう、ヨーダは叫んでいる。

「やったことは少しわかります。フォースを、ものすごく細い針のようにして、関節にさしこんで時限爆弾のように……生前にやれと言われても無理ですが」

「わしも、十年かかるわい」

 霊体二人が、常識を突き抜けすぎたラインハルトの天才に頭を抱えていた。

 

 すさまじい強さを誇る皇帝と親衛隊たち。だが敵は圧倒的な数で圧殺しようとする。

 その反対側を、すさまじい破壊が襲った。

「おまえたち」

 キスリングが警戒する。毎日のように、ラインハルトとともに戦っている手ごわい仮想敵(アグレッサー)。

 老い、手足を失って隠遁した薔薇の騎士(ローゼンリッター)。ヤマト地球が手に入れた暗黒星団帝国の技術で、手足と最盛期以上の体力を取り戻し、ラインハルトの鍛錬相手となった。

 帝国に対してこの上ない憎悪を持ち、誰よりもすさまじい実戦経験を重ね、人を超えた力を持つ男たち。皇帝を殴っていい、そのために応召したはずだった。

 それがどこかから本物の重火器を調達し、圧倒的な力で怪物たちと戦っている。

「なぜ」

 キスリングの問いに、

「男だからだ!」

 そう叫び答えた。それ以上の言葉は必要なかった。

 

 その圧倒的な援護を受けたラインハルトは、むしろ柔らかな動きで歩いた。

 親衛隊に紛れ込んでいた、普通の人間に。

「きさま、電子情報を偽って」

 と、フォースを用いて敵であることに気づいたキスリングが斬りかかるが、すさまじい蹴りが巨体を吹き飛ばす。

 そのままラインハルトに襲いかかる……どんな巨大な怪物より、普通の人間にしか見えないそれの方が恐ろしいのが、戦い慣れた戦士たちにはわかった。

 ラインハルトは悠然と歩く。人間の姿の怪物は、かき消えるように加速しておそいかかる。人間に当たれば確実に、首から上が霧と化す一撃。

 だが、ラインハルトの豪奢な金髪がひるがえると、気がついたら白い掌が怪物の腹に触れていた。そして一撃……動いたようにも見えない。それで、人の姿をした怪物はあっさりとくずおれた。

 

 

 バラヤー本星のグレゴール帝夫妻と、いくつもの要人の子の人工子宮を守っている、練の羅候と邑峻の夫婦。

 奇妙な老婆が率いる骸骨剣士の、最後の一体を切り倒そうとした羅候が、一瞬足を引いた。

 おびえたのではない。信じられないものを見ているように止まる。その口が、笑みにゆがんだ。

「こいつが本体か」

 と、左手の剣をふるう。老婆が一瞬で灰となり崩れた。骸骨剣士が操る糸を、第二ダイアスパーで習った練操剣が断ち切ったのだ。

「見せろよ、本性!」

 右剣の唐竹割り、断ち割られたはずの骸骨剣士の姿がゆらぐ。周辺の瓦礫や死体が集まっていく。

 身長5メートルはある骸骨。左手で、片手で刃が身長より大きい三日月斧(バルディッシュ)。右手にはまがまがしい、無数のドクロで作られた杖。杖のドクロの一つ一つが、「コマールの恨み」「ヴォルコシガンの血を」「忘れるな」などと叫び続けている。

 そのプレッシャーだけで、衛兵たちは目・耳・鼻から血を流し倒れていく。邑峻がグレゴール夫妻と我が子をかばい、巨大な壁が巨大動力で押してくるのを押し返すように抵抗している。

「うるせえ!負けた奴の悪霊なんてこわかねえ」

 覇王の叫び、同時にドクロの杖が一瞬で複雑な魔法陣を描き、同時に十人でも抱えきれぬ石柱を豆腐のように切断しながら三日月斧が迫る。

 一瞬、横で交差した双剣が受け止め、そのまま吹っ飛ばされる勢いで切断され空中にある柱を蹴る。

 すさまじい暗黒の稲妻が人工子宮室を襲おうとする、それを剣の十字架が断ち切り、霧散させた。

 それから、恐ろしい切り合いになる。

 何トンもある瓦礫を、軽く蹴り飛ばしてくるのを受け止め、蹴り落とす。守り抜く、背後の妻子を、バラヤー皇帝夫妻を、人工子宮の中のバラヤー皇太子を、五丈の王女を。

 桁外れの体力。

 精緻な舞踏にも似た練操剣を使い続ける……踊りはきわめて過酷な運動だ。圧倒的な力の三日月斧を、力で受け続け、押し返している。

 一騎当千……人間の姿では考えられぬほどの力。

 突然、戦いながら巨大骸骨の、杖が地面にえがいた暗黒と混沌の魔法陣……それが、無数の手を伸ばして羅候をつかまえる。

 圧倒的な力にひしがれ、肋骨を一本ずつ砕かれ、脚や脇腹の肉をひきちぎられる……激烈な苦痛を歯を食いしばってこらえる羅候の頭に、巨大な三日月斧が振り下ろされようとした。

 羅候の口が、わずかに動く。言葉が発される。

「力抜山【ケイ】氣蓋世」力は山を抜き、気は世をおおう。

 ケイ、と挟まれた呼吸に、力をこめる。

 砕かれた体を、気力だけで動かす。

「力は山を抜き、ケイ」

 血を吐きながら立ち上がる。

「気は……」

 気迫が、もりあがる。

「あああああああああああああああああっ!」

 絶叫とともに、剣が十字の閃光を描く。

 強大な魔力を力で押し返し、気迫で圧倒し、剣技で断ち切った。

 そのまま羅候はゆっくりと、全身にまとわりつく腕に引っ張られながら、容赦なく歩み続けた。

 声のない叫びとともにふりおろされる三日月斧を、左手の剣が受け止める。

 ダイアスパー製の剣は、決して折れることはない……だが、岩をも断つ一撃。普通の人間の手であれば、骨が砕け地面まで断ち割られているだろう。

 圧倒的な気迫が、体を強化している。それができる種族であり、実戦経験であり、特に目覚めてからのすさまじい鍛錬もある。

 気迫。万軍を従わせ狂わせ、星の運行さえ変えんとする気迫。

 竜我雷も、智の正宗も、五丈先代の比紀弾正も持っていた。気迫だけで、すべてを越える。

「ガキども、見ておけ……これが……」

 叫びとともに、巨大な三日月斧を押し飛ばして飛びこみ、水平に右手の剣を薙ぐと左で唐竹。

 十字架の光が、すべての魔力を押し返し、焼き尽くしていく。

「これが、男ってやつだ……少しは、少しは……あいつらに、近づけたかな……」

 そうつぶやいた猫人の手から双剣がこぼれ、正真正銘すべての力を使いきって倒れる。

「医者を!早く、エスコバール、いやダイアスパーに……」

 遠くからやっと来たシモン・イリヤンの叫び。

「確かに見ました、大きい男をめざす男……」

 静かにグレゴール帝は、血まみれの手を取った。

 

 

 ロイエンタールがライトセイバーをふるって戦う相手……その、極端な薬を使ったような、人間の限界の四倍はある筋肉は飾りではなかった。

 技を超えた力。拳の衝撃波だけで、ライトセイバーがあっても部屋のどこにいても死にかねない。

 夜に暴れる猫のように、一瞬で天井まで飛び上がって頑丈な装甲材をクレーターにし、反動で音速を越えた速度で襲う。

 フォースを自らに使って、無理な姿勢からよけるが、まだ空中にあるうちに片手で跳ね返ってくる。猫というより、巨大なスーパーボールと戦っているようだ。

 だが、ロイエンタールの金銀妖瞳は、冷静そのものだ。

 敵が誘導されたのは、角。そして破壊されたベッドサイドデスクのキャスターを踏み、超音速だからこそすさまじい勢いで転倒する。

 その一瞬態勢を整えようとしたロイエンタール……その左手の、ライトセイバーを含む手首から先が消滅した。

 ベッドに転がる、女の首が口を開いている。その口から、見えぬほどの速さで黒い闇が放たれたのだ。

「もう、抵抗のすべもないわね」

 優しげな声が、生首からする。そして巨大な、真っ赤な筋肉の塊が起き上がる。

「茶番(バーレスク)は終わりだ」

 そうつぶやいたロイエンタールの右手が見当違いなほうを向き、指先からすさまじい稲妻がほとばしった。雷光は机の裏から目だけをのぞかせていた……両掌を合わせたより大きなクモを消し飛ばした。

 ふ、と操り糸を切られたように、筋肉の塊が崩れ灰になっていく。女の生首も。

 ドアが開き、ベルゲングリューンが飛びこんでくる。真っ青になって。

 片腕を失った主君に驚き、かろうじて心を正す。

「閣下」

「軍は」

「は、急襲を受け、内部に怪物が出現しておりますが、レンズマンの方々の活躍で制圧しつつあります。ただ……」

「ただ?」

 冷徹な、最高の指揮官の目に剛毅な男が圧倒され、歯を食いしばり、呼吸を整える。

「ご子息と、奥方さまが襲われました。奥方さまは重体、ご子息は……行方不明」

 一呼吸の沈黙。

「万死」

「艦隊を立て直せ。死ぬならば過労で死ね」

「は」

 厳しすぎる言葉に、ベルゲングリューンは深くうなだれて仕事に戻る。

「感知したことがある。そろそろ反撃できそうだ……戦うぞ」

 わが子の事さえ眼中にないがごとき、生まれながらの戦士。だが、それだけではないことは、特にフォースを感知できる者ははっきりわかっていた。ありえないほどの怒りと、ありえないほどの意志力……

 

 

 シヴァ女皇らに迫る、すさまじい勢いの三本のライトセイバー……それは、ふりおろされる前にふわりと崩れた。

 ルークを偽装していた機械と鱗肌のなにかの全身に、ふっと光の線が不規則に走る。

 そのままばらばらになり……だが、メガネ三つ編みの女性は、まったく油断していない。メガネの奥の、普段はおどおどわたわたした目は赤く輝いている。

 その破片の中から飛び出した、おぞましい印象の黒い蛇を金属剣が両断し、消滅させる。いかなる魔法も断つ練操剣……アイラ・カラメルはその最高峰にある。

 昔、強大すぎる力で暴れてつぶされ、迫害された一族の末裔……セルダールのソルダム王の大赦を受け、シヴァ女皇を守っている。

 能のようにすーっ、と別のところに歩き、虚空に金属剣と強化ライトセイバーを二刀に振る。強大というより、鋭利きわまりないフォースが、魔力の源に刺さる。極細のガラスの破片が刺さるように、抵抗もなく。

 ふ、と出現する何か……影が人型をなしていく。薄いドレスをまとった爆乳に細すぎる腰の美女、だが頭部は巨大なねじれ角をもつのっぺらぼう。手には、その身長の二倍にもなる長槍が握られている。

 ふ、とゆるやかに構えたアイラから、桁外れの剣気とフォースがほとばしり……そのすべてがその、細くやわらかな体におさまる。

 周囲に力を漏らさない。ただの女にしか見えない。

 一転して、静。

 どちらも動かない。ライトセイバーも光を放っていない……必要な時にしか光刃を出さない改良版。

 脇から、抱えきれぬほど巨大な鉄骨を軽々と持ち上げ、槍のように突くマッスルスーツの衛兵。圧倒的な運動量、誰にも防げるものではない。……だが、槍の女は目も向けず右手で槍を構えたまま、左手で軽く押さえ、そのままぽん、と軽く押し飛ばす。何トンもある鉄骨ごと、トップスポーツマンの何十倍ものパワーがあるマッスルスーツの衛兵が吹っ飛び、隔壁はやすやすとぶち抜かれる。

 何事もなかったように、剣と槍が向き合っている。

 するり。

 アイラが、ゆっくりと……普通に主婦が鍋を抱えて歩むように、両手を捧げるように上げながら歩む。

 瞬時に、槍先が消える。何十もの突きのシャワー。

 かすかな光だけが、とんでもない数ひらめく。のちにカメラの映像を分析すると、何十度も先端で先端を止めていた……神業としか言いようがない。

 怪鳥のように女が加速し、とびあがる。アイラはふわりと、むしろゆっくりと動く。

 ふ、と柔らかく優雅に、最低限の剣光が走る。槍の女の、手首が断たれ、首が飛び、そして胴体をライトセイバーの一撃に唐竹割り。呼吸が精妙をきわめており、速さすら必要なかった。相手の方から剣に身をぶつけたようにすら見えた。

 そのまま影が薄くなるように、美女の体は消えていく。

 直後にアイラは深い呼吸と気合をこめ、後ろ、左、右と四方を斬り下げた。剣からほとばしる光の刃が、周辺にたちのぼる巨大な魔法を浄化し、無効化する。

 練操剣・ジェダイ双方で最強の剣士は剣を納めてシヴァ女皇の無事を確かめようとして、足をもつれさせ転んで鼻を押さえべそをかいた。

 剣士でないときはまったくの天然ドジなのだ。

 

 

 ジェダイの修行をし、マッスルスーツも使いこなしたエリ・クィンが、五歳児ぐらいの大きさの怪物とライトセイバー二刀で切り結んでいる。

 マッスルスーツを、ジェダイが使いこなす……それは難しいことで、

(ダークサイドに堕ちる危険も大きい……)

 と、霊体のヨーダにも警告されている。

 だが、使いこなした時の報酬は大きい。

 人間は、たとえば手足を動かすときは、比較的遅い神経を通じて筋肉に動けと信号を送る。

 フォースを使うことで、それを瞬時にできる。

 脳が神経に命じる命令を先に読み取り、筋肉の動きに合わせて人工筋肉を動かす……それがマッスルスーツ。

 フォースを活用すれば、マッスルスーツの人工筋肉それ自体に直接細かく命令できる。だが、それを使いこなすための脳の負担はすさまじい。未経験ジャンルの踊りを、一度見るだけで踊るようなものだ。

 それができたら、人間とは桁外れの速さで動くことも可能だ。だが、わずかでもタイミングがずれれば自分の筋肉や骨が切れる。

 その負担も大きいのに、敵がまた手ごわい。生前のヨーダに匹敵する、超高速で跳ね回る敵。

 豊富な実戦経験が敵の動きを読み、かろうじて攻撃を回避している。目の前の敵より上の剣士と修行した経験も助けになっている。

 エリが押され気味に拮抗しているなか、突然、護衛対象の一人だった智王(幼名虎丸)が妙な動きをした。

 戦いの流れを崩すような、変な方向に逃げようとしたのだ。

 得たりと、エリをフォースで吹っ飛ばして、壁と天井を蹴ってすさまじい速度で回転し襲う敵……ライトセイバーが、まだ幼さの残る細首を断ち切ろうとした、その時だった。

 床と天井にある多数の穴から、何百個もの弾が飛び出す。斬りはらおうとする瞬間、それはことごとくはじけて投網となった。

 網の繊維のいくつかにはジーニアスメタルが編みこんであり、自ら意志を持つように高速で動いて、すさまじい力で小人の手足を束縛する。

 投網の飽和攻撃。

 ジェダイの技を学んだエリが、ジェダイを仮想敵として考え、ジェダイにとって最もされたくないことを考えたのだ。ジェダイの技に溺れず、傭兵として生き残ることを考える……それが彼女の、戦士としての高さだ。

 エリは、心を読まれないことにむしろ専心して戦っていたのだ。

 実体弾の飽和攻撃もよいが、それでは護衛対象も危険だ。だから投網。

 拘束は一瞬、フォースを手足のように使って脱出しようとした……小人の頭と胸を、火薬式銃弾が吹き飛ばした。

 正宗、コーデリア・ヴォルコシガン、一条未沙の三人。三人とも、デビルーク・アースから輸入した火薬式ライフルを構えている。

「とどめは僕がさしたかったのに」

 投網に巻きこまれ、マーク・ピエール・ヴォルコシガンに救出された少年王が残念がるが、

「生きているから勝ちだ」

 と言われ、うなずいた。

 その姿に正宗は深く安堵し、考えていたことを決意に結晶させた。

 

 

 タクト・マイヤーズを守っているリリィとテキーラ。

 リリィはジェダイの修行もしており、母のアイラと同じく金属剣とライトセイバーの二刀だ。

 敵は魔法を使う、ドラム缶に入った怪物。次々と生み出される怪物と魔法が、二人も衛兵も寄せつけない。

 膠着しかけたとき、外からとてつもない力がかけられた。

(どこだ)

 という、強烈で邪悪な意思がドラム缶から沸き起こる。

 だが、その魔力は圧倒的な力でつぶされた。

 そこにテキーラの魔法が決まり、リリィがとどめをさす。

 トレゴンシーと、その腕の中の女の子……二人は別の用事があったらしく、すぐにタクトと軍議に入った。

「まだまだ未熟だな」

 と、リリィもテキーラも笑いあう。守るべき人が無事だったことにほっとしながら。

 そして、ミルフィーユのおいしいお菓子を女の子らしく楽しみにしている。

 

 

 デスラーを守る殺し屋クロの相手は、もはや神の域にある魔神王級の存在だった。

 すさまじい魔力と無限の再生能力、剣による攻撃を兼ね備える。その血液も猛毒であり、さらにすぐに魔神となってデスラーを襲う。

 クロの、オリハルコン製の拳銃は巨大な剣の一撃を傷もなく受け止め、無限の種類その場で合成される銃弾を次々と放って敵が呼び出した魔神を倒し、魔法を打ち消す。その力はギド・ルシオン・デビルークに匹敵する、惑星破壊級だ。

 圧倒的な力と力、業と技がぶつかり合う。

 それは見ているデスラーにとって、この上のない喜びとなっていた。

 だが、その時は終わる。

 とうてい見えぬ、圧倒的な速さの剣を紙一重でかわしたクロの、ただ一発……全精神力をこめた、すべてを貫く弾。

 それが魔神の額を貫き、内部から完全に霊的にも破壊しつくした。

 

 

 そのとき、将帥たちは気づいた。今、世界が変わったと。

 敵の読心能力は失われ、まともに艦隊戦で戦えるようになった……だがその数と戦力は、想像を圧倒的に超えるものだと。

 

 また、火薬以上の技術を拒むタネローンの砦を、異形の怪物から守り抜く竜我雷たちの戦いもたけなわであった。




エンダー四部作
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