第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

45 / 70
この《現実》と同じ、ただしこの「第三次スーパー宇宙戦艦大戦」に参戦している、〈スターウォーズ〉や〈宇宙戦艦ヤマト〉などのフィクションが存在していない……そんな世界の話です。
 実際にそれらがなければ、地球の文化や文明水準、歴史がどう違うかは考えないことにします。
 実際〈レンズマン〉は現代戦艦のCICという影響を与えているそうですし、「スターウォーズ計画」がまさに歴史に存在しますから、ゼロではないでしょう。
〈タイム・シップ〉が参戦する=〈タイム・マシン〉が存在しない人類の歴史なので、相当違う可能性が出てしまいます……が、気にしません。


《現実》マイナス{原作}/時空の結合より3年4カ月

 西暦2020年3月1日。

 地球人にとっては、東京オリンピック、年末にはアメリカ大統領選挙が予定されていた、平凡な年だった。

 平凡な一日に、突然世界各国の空軍機がスクランブル発進した。

 世界各国の多数のレーダーに、200m級の空飛ぶ船が探知されたのだ。

 

 二年前から、徴候はあった。

 後に訂正された超新星がいくつもある。

 偵察衛星が奇妙なデータを見ていた。

 金星に奇妙な発光が観測された。

 2018年頃、インターネット全体に、奇妙な何かがあった……すべてのデータがコピーされたのだが、なにが起きたか気づいたのは最有力インターネット企業の数人の技師だけで、その意見は無視された。人類には不可能だったからだ。

 

 船から地球に、さまざまな電波通信が放たれた。

 スクランブル機に、通信回線・平文で。

 各国政府の公用通信回線で。テレビやラジオの、主要チャンネルの一つが電波ジャックされて。

「地球人の皆様へ。私たちは地球外から来た〔UPW〕、指揮官は烏丸ちとせ少佐。友好的接触を求めます」

 もちろんトップニュースとなり、各国の首脳は半ばパニック状態になった。

 

 

 そのころ、地球人の社会は奇妙な状態にあった。強く硬直し、絶望と不安が広がり、いかなる出口もなかった。そして圧倒多数は、何も理解できなかった。

 

 アメリカおよびカナダで全自動自動車の発売開始。マクドナルドの完全無人店舗の実現、資材配送・補充すら無人。

 貧富の格差……それ以前の問題、先進国人の過半数・途上国人の大半はもう必要がないことがはっきりしていた。2005年には、数千人の天才と数十万人の秀才、数千万人の奴隷がいれば、百億人分の生産は余裕でできるようになっていた。

 それは、コンテナが発明された時点で事実上定まっていたことだ。インターネットとNC旋盤、ベルリンの壁の崩壊やトウ小平はダメ押しでしかない。

 だが各国政府はそのことに目を向けられず、誤った経済議論ばかりしていた。大きい政府と小さい政府。右と左。共和党と民主党。選挙では極右が勝ち、混乱を助長した。

 いくつかの政府は、恐ろしいことに気がつき始めていた。新しい時代で、自国民を教育して質の高い中産階級にしようとしても国は豊かにならず、財政が破綻する。強制収容所国家、または自国民を貴族を除いて皆殺しにするほうが、国益になる……と。

 無条件の最低限生活保障は、誰も言い出さなかった。新しい思想家が活躍できる場はなかった。没落した元中層である貧困層、排除された元若者が集まって政党を作ることは、なぜか絶対になかった。ソ連崩壊以来、弱者の味方をすることは思考すら禁じられたかのようだった。

 イスラム原理主義のテロも激しかった。

 

 さらに、オイルピークも明白だった。シェールガス革命も大きい変化はもたらさなかった。原子力も反対が多すぎ、新世代原発を試す心の余裕はなくなっていた。75億人の人口、豊かになっていく何十億もの人々の需要の前には、何をしても焼け石に水に思えた。

 

 何が根本的な問題なのか、気づいている人は少なかった。

 アメリカが月に飛行士を送って以来何十年も、宇宙に飛ぶ技術は、根本的には進歩しなかった。旅客機も船も鉄道も半世紀もの間、根本的に最高速度は増していない。超音速旅客機は廃された。従来の船より速い船も採算が取れず廃船となっていった。鉄道もリニアモーターがなかなか普及しない。

 何より、根本的に欠陥がある化学ロケット以上の技術がない。軌道エレベーターはなかなか可能にならない。レーザーなどでエネルギーを送る技術も、小型核融合炉や、うまくいけば化学ロケットよりはましになる超小型純粋水爆も実用化されない。

 コロンブス交換でヨーロッパがジャガイモやトウモロコシを手に入れたようなこともない。

 米軍はもう50年以上、M16とそのカービンを使っている。銃身に使える鋼鉄より強く安い素材も、真鍮薬莢を過去のものにする樹脂も、半世紀以上発明されていないのだ。

 コンピュータの指数関数を描く発達にごまかされていたが、新大陸に進出する・従来より圧倒的に安い新エネルギー・新素材……そちら系統の技術は、完全に停滞していた。

 しかもそのことに気づく人もいない。

(先進国の半分以上は、もう用なしだ……)

 という現実を直視する者もない。

 原発がどうのという議論があったが、それもばかばかしい。宇宙に進出できなければ銅や燐が尽きた時点で近代文明が終わりになり、地球に生きられる人類は多くて数億。それ以外には死んでもらうことになる。

 そのようなことを理解する者は少ない。だが、どうしようもない停滞と閉塞感が地球を覆っていた。対立と、インターネットが作るフィルターバブル……読みたいニュースだけが入り、同じ考え方の人間だけで集まり話せる場が強まり、誰もが現実の時代の変化を直視し考えることをしない風潮が広がっていた。

 未来に希望を持つ人は誰もいなかった。〔UPW〕の到来がなくても、できることはあったのに。

 

 

 異星人の到達は、その雰囲気を一変させた。

「われわれはあなたがたと、遺伝子的には同一です。そちらの言語も学びましたので、会話できます」

 科学者は懐疑主義からリーマン予想を聞いたが、

「それでしたら証明されています」

 と、本当に教科書を送ってきた。それの査読には、数学者が総がかりで何年もかかりそうな質と量である。準備のための数学も明らかに、地球人の水準を大幅に上回っており、物のわかる科学者は皆が信じることになった。

 イスラム原理主義は、「神はそんな存在を許さない」と宣戦布告したが、〔UPW〕は相手にすらしなかった。

 

 現実の、この地球人で力がある者は皆、契約・誓約に支配されている。

 大使や軍人は、Aをすれば十年後に地球が滅びるが国益になるならAを選ぶ、と誓約している。企業人は、株主の利益を最大にさせると契約している。

 どちらも神聖な契約であり、本人の意志や良心は、無視されなければならない。

 さらに宗教界は、神との契約というもっと重い契約がある。

〔UPW〕側は、人類がそういう存在だということは、調査していた。またそれまで、多くの銀河で没落した文明を引き上げる経験を積んでいた。

 

 もともと〔UPW〕の母体であるトランスバール皇国は、ヴァル・ファスクによる時空震で超光速航行を失い衰退した多数の時空の一つの、一つの惑星だった。長いこと、剣と馬の水準にまで衰退し、皇帝と貴族の社会を作っていた……バラヤーと同じように。

 それから〈白き月〉にロストテクノロジーを与えられて再び宇宙開拓をはじめ、いくつもの人類が生き残っている星に到達して、支配することで皇国を拡大してきた。

 紛争を利用した分断統治や、爵位を与えて統治するノウハウもしっかりとある。

 だが、シヴァ女皇の代に開明化が進んでおり、そのような支配のための支配はしない。短期間で多数の無人艦を作れる技術を得た以上、必要もない。

〈ABSOLUTE〉発見から複数の文明が残る時空を見つけてからも、当地を支配しようとはせず、技術を与え紛争を抑止しながら対等の立場であろうとしている。そのためのノウハウも手に入れつつある。

 五丈やデビルークなど、多くの王朝からもノウハウを得ることができた。

 優れた指導者たちの知見もある。ヤン・ウェンリーやエンダー・ウィッギンは豊富な歴史知識を活かして、人間の現実を受け入れつつ争いを止める方法を考えていた。パウル・フォン・オーベルシュタインやアレックス・キャゼルヌなどの能史は、やってみて、もし現実にうまくいかなければ別の方法を試す、という科学と共通する、組織を機能させるノウハウをしっかりと体系化した。

 

 ウィルやヴァル・ファスクのように圧倒的な力で押しつぶすか、またはすべての力ある勢力に利益を得させるか。

〔UPW〕は人道を守ると決めているので、後者しかない。

 

 まず〔UPW〕は現地貨幣で莫大な活動資金を得た。

 有効な毛生え薬・やせ薬・男女産み分け薬・がんの特効薬・エイズワクチンを作るのは簡単だったし、それぞれとてつもない金額になる。

 核融合炉の製法と製品をエネルギー系巨大企業に入札で売った。結果、石油や石炭の採掘、低水準の核分裂炉は一気に廃れ、ダムも取り壊されるようになる。巨大企業も引き続き利益を享受できるので、抵抗も小さい。

 妨害したら一般公開する、と脅しもした。

 宇宙旅行そのものも、地上の起業家や大企業と組んで大金を得られる事業にした。

 別時空のコンテンツも貴重な娯楽になる。特にデビルーク・アースなど、この地球と水準が近いところのコンテンツは、それだけ理解しやすく、技術的にも新しい機材を必要とせず、相互に価値があるのだ。

 

 全人類に告げられたこと……

「〔UPW〕の目的は、征服や搾取ではありません。あなたがた地球人が、この時空全体に広がり、技術水準を高め、繁栄することを望んでいます。それが〔UPW〕の利益にもなるのです。

 それぞれの宇宙が、独自の文明を復活させ……技術や知識を分かち合い、いずれの時空も突出しない、共和的な並行時空ネットワークが目的です。

 しかし、技術水準が低く、成員を生かすこともできないあなたがたには、技術を与える必要もあります。

〔UPW〕が、『われわれは善だ』と言っても、信頼はできないでしょう。行動から判断してください。

 まず、知識は誰にでもアクセスできるようにします。

 また、多くの人が生きられるように。

 まず淡水なら誰であれ注文したらいくらでも無料でお届けします。一度に最大で、あなた方の単位では2立方キロメートル、または半立方マイル。

 生物汚染がないよう、木星の水素と月の岩石に含まれる酸素で作った水です。地球の海岸線の上昇、海水の塩分濃度など害がないよう配慮します。配慮について知りたければ連絡ください。

 また、人が現住所からの移住をお望みなら、海でも宇宙でも対応します。すでに月の裏側に待機している設備もありますし、準備完了の連絡をいただければ公海に着水します。

 あとは核融合炉や今普及しているスマートフォンの改良機など、先進技術を公開し、インターネットから誰もが最高水準の教育を受けられるようにします。

 そして、宇宙に誰もが気軽に行き来できるよう、軌道エレベーター15本と静止軌道より2000キロメートルほど遠いリングをプレゼントいたします」

 無造作に言われた言葉に、人間は皆度肝を抜かれた。

 ある水不足に悩む農民が気まぐれで水を注文して、さらに度肝を抜かれることになる……数時間後にはUFOがジェット音もなくどこからともなく飛んできて、ちょうど必要な水を貯水池に満たしてくれた。支笏湖ほどもある貯水池を。

 水不足にあえぐインドやアメリカ西海岸都市、オーストラリアは飛びついた。

 さらにサウジアラビアや中国、サハラ砂漠……世界中の砂漠国は、自国が一瞬で大農業地帯になることを悟った。

 まずそれを利用できるのは、文明水準が高いトルコやイスラエルである。

 逆に、イスラエルが多量の水を注文して大農場を作り始めれば、イスラム教徒の反感になる……

 ただ、イスラエルやトルコはその水をあてにすることはしなかった。両国には、核融合炉の設計図を手に入れて、作って海水を淡水化する工業力もあったのだ。

 さらに中国共産党は、壮大すぎることを考えた……大盆地、元海であるタクラマカン砂漠を水で満たす。そして黄河を再び豊かな水が流れる川とし、重工業にも資す……

 

 さらに、とてつもない規模の物体が宇宙のどこかから地球に運ばれ、はめこまれた。

 形は、要するに舵輪の形。直径5万キロメートルのリングと、外にも中にも伸びる15本のリボンで構成されている。中央部は空白で、そこに地球がはまる。

 地表の赤道上の15箇所に、真北から巨大な端が降りてきた。

 すべてまったくの洋上、どの国からも離れた公海に15隻、直径5キロメートルほどの巨大船が着水し、海底まで深いアンカーをおろして固定された。

 直径5キロメートル……山手線内より少し小さい程度の広大な人工島。高さも300メートルの高層ビルに匹敵し、百階近い階層に区切られ、地球の高速鉄道をコピーした鉄道網もすでに作られている。その内部の照明・空調・海水淡水化をこなして、さらに日本の全電力をまかなって余りある核融合炉もついている。

 何千本も束ねられたリボンには、列車のような設備がつながっている。その列車には核融合炉が備わっており、最高時速400キロ……大気圏の影響を抜ければ3000キロで先端まで飛ばせる。

 静止軌道より少し離れたところにあるリボン状のリングも、そこに今ある静止軌道衛星の、何倍とか数字にするのがばかばかしい数量を置けるのは明白だった。

 さらにリボンの、静止軌道から大きく離れた部分に行って手を放すだけでも、太陽系内ならどこにでも飛べるほどの速度で飛びだせる。

 

 環境保護団体や、それまでの宇宙開発利権者、また宗教団体は激しく抗議した。

 だが、わかる人はわかっていた。それがどんなに大きなビジネスチャンスになるか……それだけでも貧困を古語辞典に入れるに十分すぎる、と。

 また、大国はその領有権を求めたが、公海に着水した時点でそれが不可能なことは明白だった。

 

 

 まず、水が充ちた。それを通じて、異星人の到来を現実として受け止める人が増えていった。

 抵抗するビジネスマンもいたが、それをチャンスと見て協力し技術を得ようとする者もいた。

 体制の抵抗でそんな人が軽犯罪で逮捕され、過剰な罰を受けることもある。あるいは単に闇に消されることもある。

 それでも、人の欲望は強かった。

 

 地球に今も残る紛争や圧政を早期に解決する……それは、〔UPW〕の母体となったトランスバール皇国軍にノウハウがあった。

 

 紛争をなくすための手は、単純だった。

「いまそこで、飢え争い拷問されるのが嫌なら、こっちにくれば安全で衣食住はある」

 それが〔UPW〕のやったことだ。

 故郷……飢え、腐敗した政府に拷問され、殺し合う生活を選ぶ人たちも多くいた。

 だが、特に子供を連れた女が多数逃げた。わが子が拷問虐殺されることを望む母などいない。そしてそこで、故郷の因習や憎悪と切り離された状態で、インターネットで受けられる数学と科学の教育を受けた。英語は必要ない、翻訳機がある。

 仕事も、単純な掃除など広大な施設にいくらでもあった。

 そこの人は小さいロボットに事実上マンツーマンで守られている。故郷から、

(家長や宗教指導者の命令に逆らうものは、殺さねばならぬ……)

 と襲ってくる刺客たちから、守ってもらえた。

 家の男の暴力……部族の誰かを傷つけ侮辱した者は部族ぐるみで報復する……がなくても、生きられる。そのことを初めて知った。景気のいいころのアメリカに移民したように。

 部族・家族絶対の思考……部族の者以外は人間ではなく騙しても奪っても殺してもいい、かわりに部族に忠誠を誓うべきで、女は家畜以下の財産でしかない、警察や政府軍は潜在的に敵で部族の自衛・部族内の法執行が当然である社会からでも、アメリカに移民し周囲に同じ故郷の人間が少ない境遇になれば、順応できる。短期間で部族の掟を忘れ、法治国家の一員になることもできる。マフィア構造を作らなければ。

 逃げ道があれば、貧しい土地にしがみついて争い続けるより逃げることを選ぶ者が増える。紛争の主体である家長・部族長・過激宗教指導者、その集合体としての軍閥の影響力が低下する。

 無論、一朝一夕でできることではない。だが、よく情報を集め、うまくいかないところでは別の方法をとればいい。

 またこの時空の地球人全体に、できるだけ経済成長をさせてやればいい。

 特にひどい紛争地帯は、水争いが多い。だから水を供給することで、多くの地域が紛争の理由を失う。

 豊富な水による豊作は、

(衣食足りて礼節を知る……)

 状態も作り出す。

 先進国人も、何百年の単位で見れば信じられないほど暴力性はなくなっている。前の世代では当たり前だったことが、絶対に許されない悪になってしまっている。法的には奴隷制・体罰は禁止された。動物を殺す娯楽もいくつもなくなっている。

 日本などは、百五十年ちょっと前までは無数の藩に分かれ、激しい内戦も戦った。

 今、山口県の人は福島県を皆殺しにしたがるだろうか。

(いのちがけで探れ、いかなる拷問にも屈するな。命あれば水道に毒を入れ、できるだけ多くの女子供を殺せ……)

 と、スパイを入れたりするだろうか。

 

 

 圧倒的な生産力を持つ〔UPW〕があるのに、どんな仕事があるのか……そう思っておびえた者も多かった。

 だが、仕事はむしろ増えた。

 自動車会社さえ、仕事は多くあった。〔UPW〕基準では旧式のハイブリッドカーも、ある種のクラシックカーとして多くの需要があるのだ。

 そして、文化需要が極度に大きく、人口も多いローエングラム帝国のゼントラーディがいる。音楽、小説、映画……どんなコンテンツも、貪欲の上にも貪欲に消費する。

 また絹・ラミーなどのハンドメイド高級品、カメオなどは多元宇宙のどこでも価値がある。五丈などはそのような自然素材手工業品で稼いでいる。

 日本では日本刀や書画骨董の価格が何倍にもなり、多くの若者が刀工や陶工、日本画などに移った。またその日本画などの技術を新しい絵に応用する者もいる……水墨画のような漫画、日本刀の製法で作ったナイフなど。

 長い不況、インターネット経済の宿命である勝者総取りで万に一人以外は稼ぎがほぼゼロになったため低下していた創造性も、ふたたび注目されていく。

 

 

 すでに、この地球の現地国家はそれほど重要ではない。だが、国家はそれを認めることができない。

 アメリカ、中国、ロシア、イギリス……どの国も、自国がすべてを得るため、敵国を倒すために、多元宇宙という新しい状況を利用しようと頭脳を集めている。

(〔UPW〕も、多数の時空もすべて支配せねばならぬ……)

 と、誇大妄想にもほどがあることを考えている愚か者も、大国の最上層に多くいる。

 彼ら、賢く地位のある、宇宙を知らず母国の政治しか知らない男たちは知らないのだ。多元宇宙にはいくつも、そういう時空がある……何十という星系に人類が広がってさえも、アメリカと中国、あるいはそれに少し連合の名前がついてはいるが、果てしなく争いを続けている。さらに〔UPW〕を、多元宇宙をどうにかしようと陰謀をめぐらしている。

 それがばかげていると思っている者も多い。

 特に、モーロックの巨大すぎるダイソン球殻、その内側で、地球表面の何倍か計算するのもばかばかしい面積がありながら宗教がらみで核戦争をしている、旧遺伝子の人類の愚劣を見た〔UPW〕幹部たちは、人間が争う愚かしさをよく知っている。

 そして150年の戦争で人口がほぼ十分の一になり、近くはほんの数年で、同じ人類の争いで数千万人の死者を出したローエングラム帝国の者も。

 見方はいろいろとある。

「闘争心が失われては、多くの脅威がある多元宇宙で文明は存続できない。地球の歴史でヨーロッパが最初に産業革命と新大陸発見に成功し地球の覇者となったのも、ヨーロッパが統一困難な地勢であり、中国のように皇帝の命令で技術を抑圧することができず、続く戦争が技術革新を要求し続けたからだ」

 という者もいる。

 だが、どう考えても千億の千億倍の星に植民でき、数十年の指数関数で巨大都市以上の規模の宇宙船を兆のいくつも上の数作り、恒星を絞ってダイソン球を作ることさえできる時代に、小国同士が野球場ほどもない島をめぐって争うなどばかげて見える。

 その愚かしさを理解する地球人も、それなりにいる。それでも国家という呪縛も、宗教もきわめて強いのだが。

 

〈共通歴史〉を持つ地球は、ここだけではない。ローエングラム帝国、ヤマト時空、ワームホール・ネクサス、〈百世界〉など多く見られる。

 一番近いのはデビルーク・アースであろう。

 ここの八十億近い人が、どんな道を選ぶのか……選択肢は増えた。技術の停滞も終わった。

 あとは、決意だけである。

 何を優先するか。

 何が欲しいか。

 何がもっとも価値があるのか。

 

 イデオロギー、自分が右か左か……原理主義宗教……人種……そんなものが大事なのか。また今加わっている群れで、人を支配し支配されることがそんなに楽しいのか。

 それとも、新しい技術を見て、沿岸の砂漠で海水で育つ稲を育て、殴られず支配されずに生きたいか。地球から出て、別の星を踏みたいか。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。