第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

46 / 70
ToLOVEる ダークネス/時空の結合より3年3カ月

 デビルーク第一王女の拉致……これは地球(デビルーク・アース)ではニュースにならなかったが、この銀河では重大事態にもほどがある。

 モモとナナの連絡がつき、結城家奥の別空間に皆が集まった。

 フレデリカは護衛に連絡し、ヤン・ウェンリーも連れてきた。

 モモが主導し、即座に親衛隊のザスティンに連絡……締め切りを放り出して駆けつけた彼は、さっそく周辺の護衛艦船に連絡を取る。

 また、彩南市のあちこちに仕掛けられた核爆弾を安全にする作業も、親衛隊や、別のところにいる予備軍総出でおこなった。

 

 

「ヤン・ウェンリー閣下、フレデリカ夫人、あなたがた別時空からの使者のことはお母様から聞いています。ご夫人を危険にさらしたこと、デビルーク王家の者としてお詫びします」

 モモの言葉にフレデリカは、

「故郷時空、そして多くの時空の存亡にかかわる戦いに、貴国王のギド・ルシオン・デビルーク陛下が多大な貢献をされたと連絡を受けております。ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝はじめ各方面より、大いなる感謝とあらゆる支援が約束されています。

 また、今回の敵は別時空の者、故郷の同胞の能力不足がかかわったと考えるべきです。

 それ以前に、もう同じ船に乗った者として、助け合いましょう」

 と、外交官ぶりを見せた。

「……はい。ザスティン、デビルーク王女としての命令です。デビルーク王国はこのお二人を全面的に信頼し、すべての情報を共有し、すべての会議の参加・発言権を与えます」

「は」

 精神的にボロボロのザスティンは平蜘蛛のようになった。

「ありがとう。まずは、現地の警察に事件を知らせるかどうかだね」

 ヤンが静かに言った。

 敵側には偽警官がいる。最悪を考えれば、この日本の警察全体が支配されているかもしれない。

「まず、敵がどこまで浸透しているかを調べることだ。そちらの……金色の闇、黒崎メア……二人は優秀な殺し屋だったんだね?」

 ヤンが聞いたのはモモとザスティン。

 ナナが、

「でも、でもメアはあたしの友だちだ」

 そういって彼女を抱きしめる。ヤンは静かにうなずいた。

「その面を否定するつもりはないよ。でも、もう一つの面についての、客観的な評価を聞きたいんだ」

「……この銀河でトップクラスです」

 モモの言葉に、ヤンはうなずいた。

「でも、また戦わせようなんて」

 ナナの言葉に、ヤンは静かに微笑んだ。闇とメアは覚悟を決めた表情をしている。

「いや、前線で戦わせるのは、戦力の活用としてもうまくない。優秀な殺し屋だということは、情報を得る能力も高くなければ……どれほどこの時空では個人の白兵戦能力が高くなるといっても、絶対に死んでいる。殺し屋の口を封じようとする雇い主の罠などがあるだろうから」

 ヤンは情報分析セクションにもいた。司令官としても、常に情報を重視した。バクダッシュも活用した。

 フレデリカも、そちら側を助け続けてきた。ヤンの厳しい要求に、日夜心身をすり減らしてきた。

「もっぱら情報収集をしてほしい。むしろそれ以外はしないでほしい」

 ヤンの言葉に、さっそく闇もメアも携帯端末を取り出した。

「話にあった、アゼンダとかいう殺し屋からももっと情報を取ってほしい。どこでどうやつらに接触したのか、何を感じたか、どちらがいくら出したか、なんでも」

「ザスティン、メアさんと彼女を接触させて!口封じ予防も、急いで!」

 ザスティンはモモの命令に敬礼し、メアを連れて飛び出していく。ナナも飛び出した。

「これが陽動だという可能性も考えるんだ。今この時空で重要な人は?」

「お母様……あ」

 モモはブルっと震え、あちこちに連絡を取り始めた。

「銀河警察、というのがあるんだっけ?それに、特殊部隊はないか?諜報機関もあるだろう?」

「あります。そちらにも」

「急いで」

 フレデリカの言葉に、モモは決意し独断で連絡を取った。のちの重罰も覚悟して。

 

 

 瀕死だったリトと凛、それに綾は、御門涼子とティアーユ・ルナティークの治療を受けた。

「あと二日もすれば健康体にはなれると思うわ。この地球の医療技術では、三人とも一生起きられなかったかも……無茶したわね」

「あ、あの、九条さんに攻撃した何かは、超能力とも普通の電撃とも違う、何か異様なものです」

 モモは三人の容態を確認し、双方の関係者に非常事態を告げるなど、とてもつらい仕事を多数こなしている。

 三姉妹の中では、表面的には彼女が一番大人びている。だからできることだが……

 結城兄妹の両親は平静に受け止めた。だがモモは、

(いっそ感情的に罵倒してくれたほうがまし……)

 だった。

 

 焦るを通り越しているリトと凛、綾。ヤンは、しっかり身体を治すように言った。

「怪我を押して無理をする兵は、いないほうがいい。何をするのも、完全に体を治してからだよ」

「セフィ・ミカエラ・デビルーク王妃より伝言を預かっています。

『もしもこの件で反省があり、娘を助けたいというのであれば、日本の全国模試で一位を取り、かつ長距離走でも一位を取りなさい』

 と」

 モモが言った。

「適切な命令だ。そうすれば、地球人の間で立場を得られる。

 僕の友人に、姉を救い出すために軍の幼年学校で主席を取った男がいた。その友人も上位だったという。

 まあ、合計三千万人以上を殺すのはまねしてほしくないけれど……

 長距離走というのも適切だね。陸戦で必要なのは持久力、重い荷物を背負って長く歩けることに尽きる」

 ヤンの言葉のスケールに、リトは圧倒された。

「できることがあるならするよ。

 でも、あんたも、闇たちも、辛い思いをして戦って……それで、みんなに辛い思いをさせて、オレだけのほほんと……」

「そう言ってくれる人のために戦うんなら、やりがいがありそうだよねえ。

 こっちの……本当に肝心な主権者である有権者は、徹底他人事だったなあ……二千万死んでも何とも思わないほど。まああっちの門閥貴族も似たようなもんだったか」

 余計なことを垂れるヤン。

「私たち、デビルーク帝国も完全ではありません。ですが、できるだけのことはします」

 モモが辛そうに言う。

「体を鍛えるなら、少し協力できるぞ?」

 言いながら、リトの身体からネメシスの上半身が伸びる。彼女も、力の使い過ぎで弱って眠っており、御門が多量のダークマターを与えて治療していた。

「少し助けることはできる。お前がもう駄目だとなってから、操って動かし続けてやる。ああ、関節とかが壊れないように補修しながら。そうすれば、後で少し痛いが、短期間で鍛えられるぞ」

「ダメよ!そんな無茶をしたら。痛いのは少しじゃないでしょ、そこらの拷問より」

 御門がいうが、

「無茶を、したいんだ……頼む……」

 リトの腹の奥から、すさまじい声が出た。

「嫌というほどわかる……自分で自分を切り刻めば強くなれるなら、そうする……」

 九条凛の唇から血がしたたる。

「天条院沙姫お嬢さんのことも忘れてはいけない。彼女の家もチームに入れよう」

 ヤンが言った。

 子供の小遣いで学校校舎を丸々立て直せるほどの超大富豪、情報力もあてにできる。

「大事な人を、もし助けられなかったら、オレは、オレは……」

 うめくリトと、激しい感情を抑制する凛や綾。だがふと、リトはヤンの目を見た。

 そしてなぜか、とてつもないものを感じてしまった。

(星を軽く破壊する力を持つギド王より恐ろしい……)

 なぜか、そう感じたのだ。

 フレデリカははっとした。彼女は知っている……ヤン・ウェンリーは、かけがえのない友人であるジャン・ロベール・ラップと、ジェシカ・エドワーズを失っている。

 自分が父の死を、わずかな時間で処理して仕事に戻ったように、一日サングラスをかけていたことを知っている。

 それを乗り越えて歩いたのだと。

(でも、そうならないにこしたことはない……いえ、絶対にそんな思いは、この子たちには……)

 フレデリカの決意も、ますます固くなった。

 

 

 ヤンたちがあきれたのは、リトの入院で見舞いに来た女子の数と質だ。

 まあ、ユリアンに言わせれば、

「提督もその気になればハーレムは作れますよ、どれだけのファンレターを処理してきたか……まあフレデリカさん一人で十分すぎますけど」

 だが。

 さらに口が悪い者たちに言わせれば、

「そういうユリアンだってその気になれば……」

 だし、それこそヤン艦隊の毒舌家たちは誰も、ハーレムの一つや二つは作れる地位と財産と美貌はある。

 

 見舞客には異星人の王女もいて、協力は惜しまないと言ってくれた。そのルン王女は地球のトップアイドルでもあり、アイドル仲間で親友の霧崎恭子ともども、多元宇宙各地のゼントラーディに絶大な人気を誇る。

 このデビルーク・アースからは遠く離れているが、多元宇宙ではゼントラーディの力は大きい。

 この多元宇宙にやってきているゼントラーディは、まずローエングラム帝国を襲った基幹艦隊と、メガロード01を護衛していたボドル基幹艦隊・ブリタイ分遣艦隊由来。

 前者の生存者はローエングラム帝国に帰服、またエル・ファシル自治政府に属した者もいる。かなりの数が〔UPW〕に、ロイエンタール・オーベルシュタインの指揮で移民し、アッテンボローの配下として重要な勢力をなしている。軍事と輸送両面で重要な存在となっている。

 ブリタイ由来のゼントラーディは数は少なかったが、圧倒的に技術水準が高いダイアスパーと接触したため、装備・財産とも桁外れに優れている。

 キョーコとルンの二人はその財力の相当部分を、間接的に動かせるのだ。その二人ともがリトにべた惚れで、何でもするというのだ……さらに、芸能界全体にも人脈がある。デビルーク王家と天条院家がバックにつく、無限の資金が入る。それを使えば、他の芸能人にも協力を求め、それでゼントラーディの遠いが巨大な力を買うことができる。

 ちなみに、重症のリトを見た時の恭子の反応で、隠していた彼女の気持ちがルンにばれた。

「ご、ごめん、ごめん、ルン……じ、じつは……」

「知ってたよ」

「え」

「知ってた。リトくんのことを話す、女の子たちとおんなじ表情をしてるんだもん。怒ってるなら、今まで言ってくれなかったこと!」

「ルン……」

「がんばろうね。リトくん、今は本当につらいから。何をしてでも支えたい」

「わた、私も……」

 

 ルンの王女としての身分も活用される。同時に、ルンの……もとは性転換能力のある二重人格、今は分離した男人格であるレンが、王族として使える資産(アセット)すべてで捜査に協力する。

 ふたりの故郷メモルゼ星は砂漠がちで貧乏国だが、ララの幼いころからの遊び相手にルンが選ばれるほど家格は高く、ギド・セフィ王夫婦の信頼も厚い。周辺との外交網や情報はかなりしっかりしており、ルンが言うよりも見えない力はあるのだ。

 

 リトたちを治している御門も、情報収集能力は高い。

 彼女は地球に身を隠す多くの異星人を治療している。犯罪者も多く、その分闇たちと同様、裏の情報網につながりがある。彼らが感謝を示せば、それは多くの情報が入るということだ。さらに、デビルーク王室の支援で必要なだけの地球・銀河両方の金も出てくる。

 

 

 女子たちの励ましもあり、リトは必死で運動と勉強に取り組んだ。

 頭を下げて陸上部に途中入部してレギュラー以上のメニューをこなし、それからさらにネメシスの協力で世界トップ選手以上のメニューをこなす。すさまじい苦痛に耐え抜きながら。

 さらに勉強もする。家事はモモが担当し、勉強は唯や春菜が協力した。

 凛もヤンとフレデリカの護衛からジェダイの訓練を受けはじめた。

 また、フレデリカやタウラも反省があり、ジェダイの訓練を始めた。士官学校次席のフレデリカは、運動・格闘・射撃の技能もきわめて優れている。

 そして運動能力がない綾も、情報収集や分析を必死で学びなおし、凛以上に、

(いのちがけ……)

 で励んでいる。

 

 

 応援はそれだけではない。「誘拐」の一言を聞きつけたクリス・ロングナイフが、モーロックとの交渉や故郷でやることになったイティーチとの外交を素早く片付けてすっ飛んでくるという。

 ジェダイ資格を取った者や、最新鋭の人型機に習熟した者、強力な海兵隊を引き連れて。

 彼女はロイエンタールの息子の誘拐事件でも飛び回っているが、それともこの事件は関係がある可能性が高い、とヤンから聞いている。

 

 

 ヤン・ウェンリーには、ほかの人には見えないことが見える。

 敵は何者なのか。ジェダイの技を使う……

 いち早く得た敵の画像。電子的なものは妨害でつぶされていたが、単純すぎるからこそ潰せなかったものもある……銀塩カメラで超絶な戦いを撮影していた者もおり、天条院家の傘下にある出版社から手に入れた。

 それをレンズマンの目を通じて〔UPW〕のジェダイ・アカデミーに送ると、とんでもない情報が入った。

 霊体になってジェダイたちを見守っているヨーダとオビ・ワンは、写真の犯人たちをよく知っていた。

「メイス・ウィンドゥとクワイ・ガン・ジン……の若いころにそっくりだ。だが、傷などが違う。クローンだな」

 と。

「ならば、間違っても戦ってはならない。ルークやロイエンタール、アイラでも危険な、ジェダイ史上屈指のフォースの持ち主だった。劣らぬクローンを作れるとしたら」

「どちらも、交渉人としてもすぐれていた」

 とも。

 それは、その背後にパルパティーン皇帝があるとしか、

(考えられぬ……)

 ではないか。

 ヤンはさらに別の可能性も考慮しているが。決して思考を止めず、それでいて戦場では的確に決断できるのが、ヤンの名将たるゆえんでもある。

 

 

 デビルーク帝国は、まだ多元宇宙の他国についてはそれほど情報を持っていない。まして天条院家であっても、地球人が持っている情報はわずかだ。

 今、ルーク・スカイウォーカーはユリアン・ミンツとともに、第一次タネローン攻防戦のために片道の遠征に旅立ち、行き先で勝利したが帰ってはきていない。情報はレンズマンであるユリアンを通じて入るが。

 ルークの故郷についても、レンズマン通信を通じていろいろなことを聞いてはいる。特にフレデリカには、多元宇宙全体の情報が入る。エル・ファシル自治政府からも、〔UPW〕の主力となったアッテンボローたちからも、友人となったバラヤーのアリス・ヴォルパトリルからも。

 タウラ軍曹も、〔UPW〕のエレーナ・ボサリ・ジェセックや、エリ・クィン率いるデンダリィ隊と濃密に連絡を取り合っている。

 その情報を総合しているヤンには、見えている。

 敵が明らかにダークサイドのフォースとライトセイバーを使っていること。

 では、パルパティーン皇帝は、これほど遠いところにどんな意図で石を置いたのか……

 多元宇宙という広すぎる碁盤。実際に攻防が行われている戦場からはるか離れたところに、関係ないと思える黒石がひとつ。

 それをじっと見つめながら小さな白石を手に取り考える。3次元チェスも、デビルーク・アースで覚え始めた囲碁や将棋もまるっきり下手なヤンだが、このゲームは得意だ……心から残念だが。

 そして、現役時代にはこのゲームを本当にやったことはなかった。文民統制を受ける軍人として、命令に従い戦術以上のことをしないように自らを律していた。戦略・政略もラインハルトと同等だったが、せいぜいビュコックに警告し、無駄だと知りつつ意見具申を書くぐらいしかしなかった。

 だが、

(引退した今は、もう遠慮しない……)

 開き直ってしまっている。

 このデビルーク・アースで数多く学んだ定石もブレンドし、多くの戦いの歴史を多元宇宙屈指の才が熟成させる。何百手も先まで見通そうと、相手の考えを読む。

 元ローゼンリッターやムーンエンジェル・ルーンエンジェル双方の潜入能力に優れた者も、盤面のとんでもないところに置いた。

 息子を探して長期休暇を取ったオスカー・フォン・ロイエンタールとも連絡を取った。

 そして自らは、

(人外魔境……)

 と恐れられる、〈星京(ほしのみやこ)〉を中心とする隣の時空に向かう算段をつけはじめた。

 

 銀河を将棋盤にたとえた、五丈の師真もレンズマンを通じて連絡を受けた。

「貴官と連絡するのは初めてかな、ヤン・ウェンリーといいます。

 細かな報告はのちほど妻から。こっちにも『将棋』がありましてね。故郷では話しか聞いてなかったけど。それに囲碁というのもあるんですが……ご存知のようですね。

 パルパティーン皇帝が、石を取り合ってるところからすごく離れたところにぽん、と石を置いた。それもかなり前に」

 それを聞いた師真は、腹の底から震えた。

 ヤンの名を聞かぬはずもない。そしてそのヤンが言った、とてつもないところに置かれた石。

(この俺をさしおいて、多元宇宙という巨大すぎる碁盤の、とんでもないところに石を置いた奴がいる……)

 悔しくて絶叫しそうな思いで、フレデリカが的確にまとめた報告を聞き、自分も調べ始める。美しい妻、そして神秘にも詳しい妻の師とも知恵を出し合いながら。

 

 タクト・マイヤーズも、シヴァ女皇も、ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝も、デスラー総統も、ギド・ルシオン・デビルークの功績は高く認めている。

 それだけにその戦友であり恩人である彼の娘や、その婚約者の家族の拉致に対する怒りは激しかった。

 そして、ヤンが指摘したこと……

(パルパティーン皇帝は、かなり前、多元宇宙がつながってすぐから、これほど広い範囲に石を置いた……)

 このことである。

 それはラインハルトやデスラーにとっては、戦いで敗北したように悔しいことであった。

 シヴァや銀河パトロール隊幹部にとっては、巨大すぎる脅威であった。

 

「だが、焦ってはならない。その反応も相手の掌の上かもしれない」

 師真はそこまで考え、相手の手を読み続ける。

 そしてなんとなくわかる。軍事だけではこの石は解けない、もっと別の目からも見なくてはならない……

 

 特に上位存在と直接話せる第二段階レンズマンたちも、この件を重視した。久々にヤンから連絡を受けた、はるか遠くにいるユリアンも、第二段階レンズマンとしてはまだまだ未熟ながら深い観想をして何かを見出そうとしている。

 ほかにも、神秘の世界に片足を突っこんでいる者は、人知を超えたパルパティーンの大戦略を少しでも読むべく観想を始めた。

 

 

 デビルーク・アースでの地道な捜査も続いている。日本警察は幸い、深くは汚染されていなかった。

 何人かがアゼンダの力で洗脳されたり、身元不詳の美女に誘惑され弱みを握られただけのようだ。

 この時空で活動する様々な犯罪組織の、頭をいきなり乗っ取られたらしい。

 さらわれた三人の姿は知れない。あまりにもこの銀河も広く、戦乱の影響で多くの闇が残る。

 その闇の落とし子である金色の闇とメアは情報を集め始めた。仕事を終えたクロも傷を癒し、桁外れの金を受け取って情報収集に参加する。

 もう一人の闇の落とし子、ヤン・ウェンリーも眠りから覚めた。いや、以前は封じていた別の面を出した。膨大な情報を集め、邪悪な叡智に深く深く迫り続ける。

 その姿は、副官として戦乱を共にしてきたフレデリカすら知らぬものだった。

 キャゼルヌにそれを少し相談した時、彼はしばし黙って、

「敵さんに黙祷するとしようか」

 とだけ言ったものだ。

 フレデリカは覚悟していた。ヤンの闇がどれほど深く、これからどれほどの罪を犯すとしても、自分自身が何をすることになろうとも、すべて受け止めついていくと。結婚の誓いのままに……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。