第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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忙しくなると書く気力がなぜか出ず…エタるつもりはないです。


銀河英雄伝説/時空の結合より3年4カ月

 ロイエンタールたちは、激しく戦っていた。

 

 マッスルスーツを着たレオポルド・シューマッハが神経破壊銃で正確に射撃し、手榴弾を投げる。レンズによる索敵は、遮蔽物に隠れていても敵を見出す。タイミングをプログラムされた手榴弾は空中で指向性の爆発を送り、隠れている敵を確実に斃す。

 顔も髪色も目の色も変えたオスカー・フォン・ロイエンタールが、高速で滑るように動き回っては無駄なく敵を黒い光刃のライトセイバーで斬っている。

 その隣では、どちらの手にも長い実体両刃剣を持つ男があたるをさいわい斬りまくっている。

 家庭用大型冷蔵庫ぐらいの四輪車つき荷物を引きずった、銅色の動く骸骨も骨格内に内蔵されたニードラーで応戦している。また、ロイエンタールには見えている……荷物のほうから出ている、太さ千分の一ミリもない金属の糸が地中を自在に動き、地下から敵に刺さって神経や関節を壊し、動きを鈍らせている。

 

 敵は人より少し大きな怪物がかなりの数。元は人だったのだろう、不気味にゆがんだ顔面がついている。

 あるものは肉塊と化した下半身、短い腕から指が異様に長く伸び、先端から奇妙な液を吹く。それは肉でも鉄でも異様に腐食し、多くの被害を出している。

 両足がコウモリのような翼となり、逆さに飛び回って巨大化した口で人の頭を食いちぎる怪物もいる。

 泥か何かが変形したと思われる、押し倒し包みこんで窒息させ、時には泥でできた鞭を高速で振り回す巨大ナメクジが多数。

 通り魔と思われていたのが、突然異形に変じる……先の戦い以来、各国を悩ませているテロだ。

 その背後にいるとされるアドリアン・ルビンスキーやド・ヴィリエ、そしてボスコーンを、いくつもの組織が追っている。ケスラー率いる憲兵。レンズマン。ユリアンが残し、シンクレア・セレブレッゼが管理しているメディア企業。

 同じようにルビンスキーを追っているロイエンタールたちは、帝国軍が来る前にテロを制圧した。そして帝国軍に捕捉される前に四人とも逃げ、ロイエンタールのフォースが感知した、一見無辜の被害者を数人捕捉した。

 

 

 ローエングラム銀河帝国の元帥であり、〔UPW〕に出張しては軍の拡大に大きく貢献し第一次タネローン攻防戦でも大功を挙げたロイエンタール。彼は戦いの中で幼い息子が拉致され、その救出のために無期限の休暇を所望した。

 ジェダイの技も師が恐れるほどに極めている。

 

 フェザーンの陰謀により、ランズベルク伯爵とともに幼帝エルウィン・ヨーゼフ一世の拉致にかかわり、潜伏していたところをレンズマンとなったユリアン・ミンツに発見されたシューマッハ。

 彼は能力主義者・人材収集家のラインハルトに認められ、エルウィン・ヨーゼフとランズベルク伯の助命とひきかえに、メルカッツを補佐し士官学校・軍学校・幼年学校にかかわった。

 高い能力を認められ、さらに仕事と同時に行ったレンズマンの通信教育でも高い成績を挙げた。ユリアンに次ぐ、第二期のレンズマンと認められた彼は、最初の仕事としてロイエンタールを助けるよう命じられた。

 

 シューマッハがレンズを受け取るため銀河パトロール隊の時空に赴いた際に、ヴァレリア星で武者修行をしていた練の羅候と知り合い、レンズマン上層部の命令もあり同行させている。羅候の妻子も実は、少し離れた巡洋艦で練・智・五丈・バラヤーの監視者たちとともに過ごしている。

 ヴァレリア星の大重力も平気で、超絶な力自慢たちと拳と酒で語り合う武者修行を楽しんでいた彼。ただし欲望の塊のような彼に、レンズマンになれる可能性は最初からなかった。それ以前に高等数学から言っても無理だったが。

 

 大荷物を引きずる銅骸骨……それ自体は制御されるアバターでしかない。本体は大荷物の中にある。脳をコンピュータに直結され、強力な生命維持装置で栄養・排泄・清潔を完全に解決したバガーと、別の生命維持装置で小さな、室温酸素大気では生きられぬ不気味な生物が入っている。

 ナドレックの子、第三段階レンズマンだ。残り三人は、その存在は知らない……バガーだけだと思っており、それでも頼りになる仲間と知っている。

 本来、アリシア人たちはキムボール・キニスンとクラリッサ・マクドゥガルそれぞれの家系を長い年月をかけて育て、かけあわせて第三段階レンズマンを作った。それ以上は必要ない予定だった。

 だが、多元宇宙のつながりはそれ以上のことを必要とした。トレゴンシー・ウォーゼル・ナドレックも同じように、長い年月をかけて作られた家系の裔であり、キニスン家同様に敵の妨害から守り隠しながら作り上げられた特別な遺伝子……その子供たちも、必要とされ次々と生まれている。

 その、大荷物を引きずる銅骸骨は、中身が普通の人間であることも多い。人間と同じ行動ができるが、人間が着ることのできるどんな宇宙服よりも厚い装甲で、強い放射線や超低温・超高温により耐える。何とか人間用の施設内でも行動できる。

 

 

 宇宙空間では、単なる真空より過酷な場もいくらでもある。

 絶対零度から数度しか違いのない液体空気の海。メタンやガソリン、硫黄化合物の湖。超高温の砂漠。

 真空である宇宙空間では、ぶつかる分子の数は少ない。冷却は、あらゆる温度の物体が出す放射、電磁波(光)だけとなる。そうなれば冷却は遅い。

 密度がより高いガス、さらに液体や固体は、触れる分子の数が圧倒的に多い。だからとても激しく熱を奪う。

 逆に熱くても同じだ。大気圏の熱圏や太陽のコロナは高速の粒子からなり温度が高いと測定されるが、そこにいてもそれほど加熱はされない。

 寒い中裸でいるのはある程度耐えられても、冷たい水に落ちればすぐ心臓が止まるように。高温のサウナではある程度過ごせても、それより低い温度の風呂には長時間耐えられないように。

 ドライアイスの大地や、窒素すら液体となる世界では、宇宙服では断熱が不可能。

 もちろん希薄な大気は強烈な外宇宙放射線も意味している。

 多くの素材は超低温でも物性が変わる。特にスズはスズペストと言われる崩壊現象を起こし、それが極地探検隊を全滅させたこともあるとされる。潤滑も困難となる。

 それも宇宙服より大きい機材を必要とさせる。

 

 そのような環境では、どうしても大型の重機が、圧倒的な重装甲と強力な温度維持システムが必要となる。

 

 

 

 新開拓星の町。それまで開拓を押しとどめていた、技術的なボトルネックが次々に崩れ、貧しい人たち……壊れるほど働いても餓死があたりまえだった農奴たち、身分の壁で苦しい生活が続く人々、閉塞した同盟の経済に苦しんだ人々、たくさんの人々が希望を求めた。

 人が生きる条件、空気・水・食料・トイレ・清潔・保温・放射線防護、それが以前よりはるかに簡単に、安価になった。

 数々の戦いで生じた、何百万隻というスクラップが拾われた。膨大な数のバーゲンホルムと宇宙線エネルギー受容器が、最小限の移動力とエネルギーをつくりだした。

 多数の時空ではぐくまれた遺伝子資源が、さらに〈緑の月〉やダイアスパー、セルギアールやベータ植民惑星の技術で遺伝子改良をされ、人間の生活環境を維持を助けた。

 

 なによりも、建材は安かった。

 地球がある太陽系を見てみよう。

 太陽に一番近い、大気のない小さい水星。分厚いケイ酸塩岩石と、その奥の膨大な金属核。重力が小さく、テラフォーミングも困難。

 次は濃いガスの大気で人を寄せつけぬ金星。テラフォーミングも不可能だ。

 そして森と酸素大気がある地球……従来の開拓方針では、そのような星が最優先で入植される。多くの森がある惑星には大人口が暮らし、鉱工業も、それ以上の産業も発達することが多い。オーディンしかり、ハイネセンしかり……

 薄い大気がある惑星、火星。ここより少し条件のいい惑星であれば、テラフォーミングで有人惑星になる。時間と費用がかかる。

 そして小惑星……それから先の、木星や土星は巨大ガス惑星で、もとより住めはしない。だがいくつもの、水星に匹敵する大きさの巨大衛星があり、そこは母惑星の重力が潮汐力となることもあって熱に恵まれ、大気や海があることも多い。より小さい衛星はさらに多数ある。衝突で金属核が露出していたり、ほぼ氷だけだったりする便利なものも多い。

 小惑星の大きいものや木星の巨大衛星のような星は、表面は分厚いH2O氷におおわれる。それはしばしば、複雑な歴史を持つ地球の海水よりもはるかに多くの水だ。メタンなどの炭化水素、窒素と水素でできたアンモニア、二酸化炭素の固体であるドライアイス、硫黄化合物などが、それこそ地球の海水よりたくさんあることも多い。

 その下には……あるいは水氷がなければ、ケイ酸塩鉱物の岩石。

 さらにその下にはニッケル鉄を主とする金属核。

 

 それらを最小限加工できれば、十分に頑丈で真空と放射線を遮蔽する構造物と、エネルギーはごく安価に、無尽蔵に作れる。

 H2O氷ですら、温度が充分に低ければコンクリートに匹敵するほど頑丈な建材なのだ。

 そして、ちょっとした発想の転換があった。ラインハルトが寝食を共にしている天才たちの一人の思いつき……

「超硬度鋼や、超々テクタイト、アルコン鋼でなくてもよい」

 このことである。

 昔の地球での、特殊鋼・セラミック・劣化ウラン複合装甲は確かに、厚さ・重さあたりの強度がとても高かった。

 だが、複合装甲の半分の強度しかないのなら、倍の厚さを用意すればいいのだ。エンジンと足回りの制限を考えなければ、普通の鋼でもいいのだ。悪路を高速で走ることを捨てれば。

 激しい機動性で戦う艦や人型機でないのならば。人が暮らす構造物、安くできるだけ早く作り、多数の人が暮らす船ならば。

 高価な素材は必要ない。ヤマトの装甲材の万分の一の強度しかない、H2O氷・未精製の隕鉄、ケイ酸塩岩石を溶かして固めたガラスを、万倍の厚さにすればいいのだ。

 

 エネルギーは恒星が常に熱い光として放射している。

 そしてH2O氷も、鉄も、ケイ酸塩ガラスも、光を反射したり屈折させたりする。

 レンズや鏡を作れるのだ。ついでに、鉄は真空中ではさびないので磨いてそのままで鏡面を維持できる。

 バーゲンホルムや波動エンジンの力を借り、氷や鉄や岩石を恒星の近くに運ぶ。

 まず扱える大きさを切り出す。岩石は、恒星の厚い表面をかすめさせて一度加熱し、冷やしてガラスにする。

 鏡やレンズ、フレネルレンズを手に入れれば、光を集めることができる。虫眼鏡のように超高温が得られる。

 それでまた、氷を切り出し、鉄を溶かし、岩石をガラスにする。

 より大きな鏡やレンズを作る。繰り返す。

 砂糖水で酵母が増えるように、汚物にハエが増えるように、あっというまに膨大な量の氷・ガラス・鉄の加工された素材を得ることができる。ついでにエネルギーも無尽蔵。

 それならば、それを組み合わせれば住む場所、農場や工場、学校を作るのがたやすいことは明らかであろう。

 優れた素材は、それで余裕ができたら無尽蔵のエネルギーでゆっくり得ればいいのだ。

 

 それこそ、ドライアイスの船・資源小惑星の地下工場が建国神話である自由惑星同盟の人々がなぜそれに気づかなかったものか……

 あまりにも、条件のいい星以外相手にしてはならない、損益分岐点を守れ、という経済的な常識が強すぎたのだろう。

 資源惑星の地下深く穴を掘り、水耕農場の乏しい作物で、水の一滴も制限された暮らしをして船を作る生活が続き、豊かな星系を求める思いが強すぎたこともあろう。

 レプリケーター、いやアンモニアと硫酸を呼吸する細菌を遠心分離し化学処理したエサを食べるよう遺伝子改良されたカイコすらなかった、技術的なボトルネックもあろう。

 

 小惑星から素材を取り出し生成する技術も、いろいろと進んでいる。

 分子破壊砲(リトル・ドクター)、連鎖的に分子結合を破壊する、艦隊も惑星も破壊する悪魔の兵器……それも、小惑星全体を原子に分解し、そこで遠心分離をかけてやれば原子ごとに取り出すことができる。

 また分子破壊砲は、別の切り口から改良された。異世界で優れた魔法を学んだ魔法使いからユリアンのレンズを通じて情報を得た魔法使いたちが、分子破壊砲の破壊フィールドを魔法で再現、かつ魔法や牽引ビームの応用で制御する方法を見出した……惑星を断ち切る巨大な剣にすることができるようになった。

 

 

 そして生活技術。

 新型のトイレ……大きな、十分に大小が入る袋を多数つけるウツボカズラの葉袋を便座に取りつける。出す。手にすぐ固まるスプレーをかけ、濡れた特殊な繊維でぬぐって、ゴミごと葉のふたを閉め、便座からずらして新しい葉袋をセットする。

 二日もあれば、拭いた特殊繊維も含め完全に消化吸収されている。その栄養で遺伝子操作ウツボカズラは新しい葉袋を多数つけ、また長いツルを伸ばす。

 ツルは強靭な繊維でできている。その繊維は安価な機械で作業用のロープや不織布に加工される……服装文化も、開拓中の辺境では変わりつつある。

 高度に縫製された、ズボンやスカート、ジャケットやシャツではなく、長い一枚の不織布を身体に巻いていくつかのピンで留める服装が許容されるようになった。いや、むしろフェザーンやオーディンでも流行さえしている。

 それは着て汚れれば製紙設備に廃棄すればいい。そのパルプは食器などにもなる。一日着て暮らすぐらいでは破れない。

 より高度な機械がある、大型艦やより大規模な植民星では、繊維からほぼ自動的に普通の服を作ってしまうこともできる。

 多く帝国に帰服したゼントラーディも、被服工廠の産物を着ていたのだ。その技術も公開され、あちこちで複製されている。

 また、より扱いやすくなった小さい自動織機やミシンで、自分たちで衣類を作る人も多くなった。多くのメディアで、あちこちの時空のファッションが入る。さらにあちこちの娯楽、アニメや時代劇映画などの人物が着ている衣類も、着てみたいという人はいる。

 貧苦ゆえに自ら糸を紡ぎ手織りし、ホームスパンの粗い服を縫うしかなかった帝国門閥貴族領の農奴が、門閥貴族であった領主の全盛期より稼いでしまうこともある。さらにその子が、紡ぎ織り縫う作業に機械を用いることを知れば……さらに別の事業化がそれを大量生産する……

 そのように、思いがけない生活技術が文化となり、膨大な需要になる。

 思いがけないところに、超辺境の小さな船の中で人が暮らせる技術の種がある。

 

 

 食料は、水素とアンモニアの化学合成菌を体内共生させる改良バター虫という強力な切り札技術が普及した。

 ほかにもエビ、ナマズ、ザリガニ、ナメクジ、タニシ、ハチ、ハニーアント、カイコ、テンジクネズミ、ウズラ、ハトなどさまざまな小動物が、狭い閉鎖空間で食料を得る手段として試行錯誤され、遺伝子操作され、普及していく。地球人が知らない作物や家畜も多数、並行時空で研究されラインナップに加わる。

 変温動物で、廃棄する骨や内臓が少ないか小魚のように丸揚げ可能で、繁殖と成長が速く、悪条件に耐えるものが選ばれ、進化していく。

 植物も、塩生植物や水草、浮草や巨大海藻、単細胞藻類などもあちこちで様々な試行錯誤がされる。

 活性汚泥をゴキブリに処理させ、卵を繁殖が早く廃棄率が低い小型家畜に食べさせる技術は、本来は智……剣と火薬銃で戦っていた時空で、餓死に瀕する包囲戦や飢餓の中で磨かれた技術だった。

 七割ほどは人工的で強化された豚の胃腸+膵臓+肝臓+腎臓+乳腺が人工的な心肺で維持され、強酸を混ぜられた汚物を直接培養胃に流しこまれ、消化吸収して乳をコンスタントに得る手段となるシステムもある。古代の地球には豚便所というものがあった、人糞を豚に食わせて処理する。糞は微生物の集まりで、分子だけ見ればステーキと変わらぬタンパク質と脂肪。脳のない豚の内臓だけならば生きた豚とは違い脳に、心に負荷をかけない。豚そのものを飼うより有利な面もある。豚を飼う方が有利な場もあるが。

 細胞を培養する、家畜を殺さず肉や乳を得るシステムも安価小型なものが普及する。

 

 牽引ビームを操れる者が、溶けた鉄を飴細工のように加工する。

 さらに高温の光の焦点が小惑星核を蒸発させ、密度ごとに分ける……金属を蒸留してより分ける。

 巨大なノズルで水を吹き出し、凍り固めさせる特大3Dプリンターが巨大な構造物を作る。氷の中に繊維を入れ表面をコーティングすれば真空に耐え頑丈にもなり、特殊繊維を入れて水を昇華させ、水を失うことで触れ合う繊維が化合するようにすればそれはそれで丈夫で複雑な構造物が安価にできる。

 ガラスでできた家具をとりつける。

 市場があり、そこではさまざまなものが売れている。戦いで沈んだ艦の、戦死者の遺物も多くある。ゼントラーディには遠くの本や漫画、音楽情報ファイルの入ったディスクなどがとても高く売れる。

 様々な酒や珍味が売られ、時にはそれに文句をつける者が暴力をふるおうとして、肩の翼がついた猫が放つスタナーに気絶する。デビルーク・アース産のレトルトカレーが、砲が壊れただけで使える貴族連合巡洋艦と同じ価格なのだから、暴れるのも無理はない。

 

 といっても当然のことだ。

 デビルーク・アースで現地商社・現地政府・フレデリカ・デビルーク王家が折衝し、輸出先をごまかした輸出手続きをする。

 デビルーク・アースで、海の上で普通の船から宇宙船に荷を積みかえて宇宙に持ち出し、〈ワームホール・ネクサス〉のゲートを通す。

〈ワームホール・ネクサス〉の地球で関税を取られ、それからエスコバールへ……といっても、爆発的な経済成長があり〈ABSOLUTE〉やダイアスパーへのゲートも抑えているバラヤー、ベータ植民惑星などでも需要はある。

 エスコバールからヤマト地球に行けば、そこでこそとてつもない需要がある。レトルトカレーやカップラーメンはガミラスの遊星爆弾が降る前の、懐かしいおふくろの味なのだ。ほとんどが買われる。

 ガルマン・ガミラス帝国やイスカンダルにも売れる。

 ほんのわずかがローエングラム帝国に入る。もちろんほとんどはフェザーンやオーディン、バーラトにおろされる。

 このような辺境に来るのは、何十万食に一つだ。

 それに対し、状態のいいスクラップ艦船は何百万あることか……

 

 

 

 開拓地では、人を隠す場も多い。

 穴に住む以上、さらに横穴を掘るのは容易だ。

 またかなり多くの人は、手足があり、中でトイレや風呂、台所がそろって出る必要がない小型船に住む。

 それが集まって連絡を取り合う方が、ひとつの風船である巨大船より安全で必要な空気も少なくて済むことも多くある。

 廊下と配管と電線、それがなくてよければどれほど設計が楽になり、資材と資金が節約できるか。戦闘機の重量のうち電線がどれだけを占めるか、それを半減できればどれほど性能が上がりコストが下がるか想像してみるといい。

 艦船の廊下も膨大な壁材床材照明を費やし清掃コストが際限なくかかる。球形艦が優れているのもそのことだ、最大距離が直径である球は廊下や電線が最小になる。

 それゆえに、一度はマイクローンサイズ用に改造されたゼントラーディ艦船が、巨人用に戻されることすらある。内部を真空にして、中で10メートルサイズの、内部に2LDKそろった手足のある宇宙船で動く方が安く上がることもある。

 いざという時の脱出装備としても、宇宙服や救命ボートよりはるかに生きられる期間も長く、動ける。

 だが、人ひとりが暮らせる小さい家である宇宙船……その中に人を引っ張りこんで小惑星の反対側に穴を掘れば、それこそわかりようがない。

 

 だからこそ多くの人が、肩や頭に翼のある猫をのせている。毛皮もあり、ニッケルめっきのやや鈍い表面の安物もある。

 非常に小さなドロイドであり、本来は食料も必要なく真空中でも動ける。

 人間の身体に駆けのぼり、頭から飛び立って薄皮の翼をハチドリのように高速で動かし無理に飛ぶ。目の間に隠された小口径スタナーや神経破壊銃を発射する。また背中から接眼レンズを出して、さまざまな映像を主に見せることもできる。見聞きし、においをかぎ、情報をドロイドの集合体に常に送信している。

 その監視と防衛によって、暴力により支配されたり、故郷の法に背く支配関係が持ち込まれ闇の力が増大したりすることを防ぐ。

 常に見て守る。暴力から守る。また主が暴力をふるおうとしたら止める。

 それ以前に、トイレの使い方も知らない農奴の子に機械の使い方を教える。それは人間の子供の姿をした、機械の肌のドロイドがやることもあるが、翼猫の接眼レンズをのぞいて映像を見ることでも覚えられる。

 だが、そがあっても人間の欲望は……ボスコーンの麻薬商人(ズウィルニク)の奸智はそれすらも越えようとする。

 機械の眼を信用しない人も多い。政府そのものを悪とすることも多い旧同盟人、暴虐のもとで世代を重ねた旧帝国人、ともに。

 ロイエンタールたち四人も、シューマッハが、この時空のレンズマンの報告を受けるアンネローゼに定時連絡をする以外は監視を断っている。

(憲兵隊も銀河パトロール隊さえも全面的には信用できぬ……)

 からだ。

 

 

 小惑星の深いクレーターの奥、住むため程度に修理され居住コンテナがとりつけられたワルキューレの残骸の中。板子一枚外は真空の宇宙。

 即効性ペンタで数人の女がとろけた表情をしている。一人は縛られている。アレルギーがあったからだ。

 ヴォルコシガンの故郷時空で普及している絶対自白薬、即効性ペンタは強力ではある。だからこそ対策がある。スパイなどの仕事をする者は、それを投与されたら即死するようアレルギーを仕込まれているのだ。

 マイルズ・ヴォルコシガンのように血筋だけでも価値がある者は別だが……暗殺者として育てられたクローンであるマーク・ピエール・ヴォルコシガンはアレルギー持ちだ。だから彼は自分の潔白を証明できなかったことがある。

 有効だった数人は、次々と情報を吐いていく。やせ薬、辛さを忘れさせる薬を渡してくれる恋人の話を。話の中のいい男の一人は、先ほど暴れて死んだ怪物の一体だ。

 そして黙っている女の心の奥底を、ナドレックの仔が精査している。

「とっとと拷問して吐かせりゃいいだろ」

 と羅候がいう。帝国生まれのロイエンタールやシューマッハも当然うなずきそうになる。

 即効性ペンタは本来、拷問を過去のものにし、それまで使われてきた自白剤と違い死の危険も少ない、福音というべきもののはずだ。だが、無知ゆえにどんな拷問より恐れられているのが実情だ。

 突然、バガーを装うナドレックの仔から指示が入る。

 四人は素早く、手足のある旧同盟の駆逐艦の後ろ半分からワルキューレの残骸に乗り移った。捕虜は置いたまま。その船の場所は別のレンズマンが憲兵隊と協力して回収するよう、シューマッハがレンズで連絡して。

「急げ!」

 上空から高ステルスの人型機が降りてきて、ワルキューレの残骸を抱え上げる。

 

 瞬時の強襲。バーゲンホルムの極超光速で、交易船からやや離れた場を襲った。

 シューマッハがいぶかる。ワルキューレの計器には何も表示されない……だが、なんとなくレンズを意識すると、そこにはある。ナドレックの仔から意識させない指導が入ったのだ。

 ハッチを開けて真空に身をさらした羅候が匂いを嗅ぎ、同じ方向を指し示し手首の通信具に言葉を入力した。

 ロイエンタールが立ち、手を突き出した。強大なフォースが荒れ狂い、ステルス微粒子の制御が狂う。

 中型巡洋艦、ロイエンタールは知っている……ボスコーン艦だ。

 その巨砲がロイエンタールたちを向いた瞬間、ふっと時空が切り裂かれ長い尾をなびかせた黄金の双剣が出現する。

 ゴールデンバウム朝の紋章機、ゴルトシュヴェールローゼ。

 その尾を握って出現した別の紋章機が、バランスの良い攻防でボスコーン艦と激しく打ち合う。

 その間にロイエンタールたちの艦は強行接舷、ロイエンタールの黒いライトセイバーが長い黒光刃を伸ばして双方の壁を切り開き、溶着する。

 ジェダイの概念を超えるほど強大なフォースに目覚めたラインハルト皇帝自らが組み下賜したライトセイバー。ウィル遺跡など貴重な資材もふんだんに使っているそれは、調整を間違えれば生身の人は死ぬほど、艦砲にも比すべき出力がある。

 直後乱射されるブラスターの嵐が、すべて持ち主のところに帰る。

 その足元を豹が駆ける……身を低くした羅候が超高速で襲い、剣も抜かず短剣を舞わす。狭い艦内では飛び道具どころか長剣すら不利だ。

 シューマッハが的確に叫ぶ、

「ゼッフル粒子!」

 ロイエンタールはライトセイバーを引っこめると両手を突き出し、握る。二人の敵が離れたところで喉を握りつぶされ倒れた。すぐに背からナイフを抜くと、別の通路に飛びこんだ……ナドレックの仔が扉を開いている。

「アドリアン・ルビンスキー」

 病室。ベッドに縛られた、頭の禿げた何もかもが大きい男。

 頭には何か妙な器具が取り付けられている。

 恐ろしいほどの美女が傍らにいて、奇妙な表情で襲ってきたがロイエンタールはためらわず喉を貫き、投げ倒す。喉を貫かれても動きが鈍らない……機械の身体か。

 女の関節に次々に矢が突き立つ。短い、常人にはとても引けない鋼弓を手にした羅候だ。

「撤収する!」

 ルビンスキーが縛りつけられたベッドを、銅色の骸骨が軽々と担ぐ。

 

 自艦に向かうロイエンタールの前に、一人の男が立った。

 若いころのアナキン・スカイウォーカーのクローン……

 空調がゼッフル粒子を追い出していく。計器が緑になると同時に、赤と黒のライトセイバーが噛み合う。

 銅色の骸骨は冷蔵庫大の本体の上にベッドをのせ、そのまま人間とは桁外れの力で戦う二人の横をすり抜けた。

「二分が過ぎたら、この艦ごと撃沈しろ」

 ロイエンタールの口からその言葉が出る。

 シューマッハは一瞬目を見張り、うなずく。直後横から襲うルーク・スカイウォーカーのクローンを双剣を抜いた羅候が食い止めた。彼も時間制限はもとより承知、放たれるフォース・ライトニングを魔を断つ剣が切り裂く。

 


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