第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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「真紅の戦場」について、前回の末尾で階級ミスがあったので訂正しています。
 また、未邦訳の続刊については無視するとしましたが、アマゾンであらすじをちょっと見た程度の情報はふまえることにします。……解説で続刊のタイトルが紹介されており、それだけ読んで勘違いしていたことがありました。


真紅の戦場/時空の結合より二月

 エリック・ケインという若き英雄は、人だと自分たちをだましていた奴隷に生まれ、ドブの底で最初の家族を失い、最初の死から海兵隊に拾われ戦い抜いた。彼の恋人、セーラも似たようなものだ。彼の、今の家族である海兵隊員も皆そうだ。

 セーラの妹は、別の道で這い上がった。上から両手の指で数えられるところまで。だがまだ這い上がるつもりでいる。

 何をしてでも。すべてを食い物にして。ケインたち同胞も、別の時空の、

(なに……)

 であろうと。

 

 コリン・マッキンタイアたちから見れば、

「人類存亡の戦いのときにバカか……」

 であり、一馬やエルたちから見れば、

「リソースの無駄遣い、好き好んで貧乏でいる……」

 でしかないのだが。

 

 エルたち〈シルバーン〉組は、その膨大なリソースのごく一部で時空間ゲートについて調査し、ステルス性の高い探査機を送り出した。目に見えにくいほど小さな虫型偵察機を散布し、あらゆる通信やコンピュータのデータを読み取った。

 ごく短時間で、今シルバーンが存在する時空とは違う側の、地球人社会を読み取った。

 ある国が極秘で調査発掘している、地球人以前の異星人が作った遺跡についても、その国の最高幹部以上に理解し、頭を抱えた。

 

 

「いい女がいるではないか、こちらの偉い人々が喜ぶだろう。来い」

 軍人らしく見えない、痩せた体のウォーレン大尉は笑みを浮かべ、いやらしい目でジルタニス皇后と、女性型アンドロイドで銀髪をしたセレスとブロンドのパメラ……ケインの側はアンドロイドとは聞かされていない……を見ている。

 いずれも人間としては最高水準を通り越した美女だ。

 

 ジルタニスは本来なら、援軍としておのが故郷である地球に急ぐ皇帝コリンのそばにいなければならないが、

(重要な外交仕事……)

 とて、残っている。

 重荷を全部頼むのは、さすがに罪悪感もあるのだ。

 目途がつけば〈シルバーン〉の艦で追いつけるからでもあるが。

 

「夫がいる、などくだらないことを言うな?もうここは『西側連合』領土だ。そこで変なことを言う者が、家族ごとどんな目にあうことになっているか、教えてやろう……」

 ウォーレン大尉が、小さい子供や老人に対するおぞましい拷問を丁寧に描写し始めた。

 応対している側には見えている。ヘルメットを脱ぎ分厚い装甲宇宙服に身を包んだケインの巨体と、美しすぎるアレックスの二人ともがすさまじく怒っている。

 アレックスは、常人に見える程度では美しい銅像のように無表情、普通は制御不能な瞳孔や不随意表情筋すらもコントロールしているが。

 むしろ、医療型であるパメラなどはそれに感心していた。

 

「もういいでしょう、交渉するつも(りなどないのはわかりました)」

 ジルタニスの目配せを受け、セレスが言おうとしたのを、ウォーレン大尉が怒鳴る。

「発言は許していない!お前たちは奴隷だといったろう!身の程をわきまえさせよ、准将」

 傲慢と題がついた絵画のようなゆがんだ表情。その瞬間、ジルタニス皇后の姿が消えた。超高速。

 アレックスの手に握られた隠し拳銃が、そらされ天井に発砲される。そうでなければウォーレン大尉が背後から射殺されていた。

「!」

 驚き、かつ激しい憎しみに頬をゆがめながら、ケインはジルタニスを制圧しようと動き出し、反応した。

 戦闘型アンドロイドのセレスが、むしろゆっくりとその手に掌を流そうとしている。

 瞬時にケインの装甲服から刃が飛び出る。

 刺突。

(素晴らしいですね。無駄のないフォーム。190センチの長身にうぬぼれず、この年齢と地位でありながら鍛錬を欠かしていません。実戦経験はどれほどでしょう……)

 戦闘型のセレスは静かに分析しつつ、むしろゆっくりした動きから、瞬時に最大速度にもっていく。

 高性能アンドロイドの、人間の何百倍もの力、常人なら加速度だけで死ぬ動き。

 ジルタニスも生まれは帝国人だが、最近〈ダハク〉が解放され、艦橋士官水準の改造を受けている。

 アンドロイドと艦橋士官の最大出力、どちらが上かは、まだ比べてはいない。

 その超速度でも、ケインはまだ反応している。一秒に満たない間に三度、あご先を飛ばされ脳を揺らされ命令と体を切り離されても、まだ抵抗している。

 伸ばしていた手が、ちょうど邪魔なところに置かれ、装甲服がロックされた。

 脳が回復するや、また超速度で動くセレスに腕を伸ばす。セレスも逆らわず、反応した。

 外から見れば手の甲と手の甲を触れ合わせた状態のまま、実際には激しい力と超絶な技の応酬が続いている。

(理想的な対応ですね。運動そのものでも天才です。勉強でも、指揮でも天才のようですが。また、無茶な薬物を使った狂信者の特殊部隊と激しい白兵戦を戦った経験もあると調査にありました)

「アレックスだけは、何としても守り撤退しろ!」

 超高速かつ超絶技巧の攻撃に、巨体と装甲服の質量、慣性を武器に戦い続けるケイン。

 彼の耳に、高指向性の声が入った。

「セーラ医療大佐は私たちの助力で救出しました。もう大丈夫です」

 素早く間合いに入ったパメラが、タブレットを見せる。

 ケインのひざから力が抜け、足が崩れる。

「セーラ……リンデン医長は、みんなの姉妹は無事だ」

 海兵隊全員への通信。

 戦おうとしていた十数人の超精鋭が、歓呼に叫びアレックスとウォーレンに襲いかかる。

「暴力をふるうな!こいつらと一緒になるな」

 ケインの言葉に、海兵隊は即座に従う。

(本当に、地獄についてきてくれた兄弟だ……)

 

 

「アレックス……クリスティン・コールの名前もありましたね、彼女はどのケースでも生き残るつもりでいました。

 こちらが、美女を要求したら最上位に捧げられるまで耐え、体内のカプセルに隠した、自分は免疫がある生物兵器を最上層にばらまく。

 交渉の具合によっては、誰かを誘惑して同じことをする。

 またこちらが挑発に負けてウォーレン大尉を害したら、彼女はあなたたちに守られ自分一人だけ逃げ帰る。こちらが挑発に耐えたら、自分がウォーレン大尉を殺してわたしたちが殺したことにして、あとは同じことです」

 そう言った万能型アンドロイドのメルティ……青い髪をショートボブにした、色気の強い女性……は、タブレットをケインに見せた。

 

 贅沢な会議室の映像。

 木の家具。核戦争に焼かれた地球では、恐ろしいを通り越したぜいたく品。

 何人もの男女が飲みながら話している。

 西側連合の、情報関係の理事と呼ばれる人たち。大統領など比較にならない権力者たちだ。

 

「時空間のゲート、か」

「ランダムに動き回る無人機がひとつ、ゲートの逆の側から帰還しました。撮影していた写真には、高度技術で作られたと思われる機械施設と、多くの恒星がありました」

「問題は、それが発見された星系はEE-4……エリダヌス座イプシロン第四惑星にも二回で行ける」

 老人が静かに言う。

「〈カーソンの世界〉、そこでこそ前の戦争は勝利したが……CAC(中央アジア共同体)はあれを狙っている。また、新しく発見された、異質なゲートがある星は戦時賠償として奪ったばかりで、しかも南米帝国に渡されるという密約があった星。欧州連邦と南米帝国が組んで奪いに来るのも必定だろう」

「もちろん、向こうに何があろうとすべてわれらの奴隷だ」

 No.5が笑う。何かを楽しみにして。

 No.1が少し困った表情をして肩をすくめた。

「ただし、今われわれは、忙しいのだ。戦争には勝ったが、だからこそギャレットもホルムも名声を高めた。海兵隊を動員解除し、植民地の勘違いを叩き潰そうとしているのに、下手をすればまた軍が必要になってしまうではないか」

「だからこそ、動くべきです。できるだけ早く」

 アレックスがとんでもなく蠱惑的に美貌をゆらめかせて言う。

「お任せください。エリック・ケイン准将を動かします……英雄を失った海兵隊を暴発させ、別の時空に流し込むか、殺し合わせるか」

 

 

 ケインは歯が砕けるほど噛み慣らし続けている。

 地獄の底のさらに地獄。

 戦争に勝ち、傍らに千人以上の亡霊……自分の指揮で死んだ部下・戦友……を増やして、愛するセーラと休暇に行こうという矢先だった。英雄の名声、准将への昇進は別にどうでもよかったが、まあそれもあった。

 だが、

(絶対に海兵隊から、兄弟から離れるべきではなかった……安全なのは、兄弟が多数いる海兵隊基地だけだ……)

 このことである。

 旅行に出発したばかりの宿で、突然セーラが姿を消した。

 今は調べがついている。セーラの生き別れの姉妹であるアレックスが、彼女を呼び出して拉致させたのだ。

〈カーソンの世界〉ことエリダヌス座イプシロン第四惑星で、地下の遺跡を調査していた女性。どこかで見たような気がしていたが。

 そして、おぞましい脅迫があった。

 彼女の命だけでも救いたければ……顔の判別がつくぎりぎりに、すさまじい拷問は始まっていた……この極秘任務を受けて別の時空に行き、理事会No.6である自分を守り抜け、と。

 海兵隊の精鋭も、〈カーソンの世界〉での死闘で医師であるセーラに、何千という人数が救われている。彼女のためなら何でもする。もちろんケインのためであっても。

 

 

「こちらの皆にも、あなたについて、あなたの世界について教えてください。

 私たちを信じることはできなくても、利用されてください」

 セレスの言葉、ジルタニスの侵しがたい気品あふれる微笑に、ケインは静かにうなずき、顔を覆って話し始めた。

 

 ケインは中流階級の生まれだった。だが、苦しい暮らしの中、妹の医療費のために父が汚職に手を染め、家族ごと下層に追放された。

 ごくわずかなのちに、妹も、両親も、ギャングにすさまじい残忍さで殺された。

 少年だった彼だけが生き、ギャングに加わった。

 ありとあらゆる犯罪を犯し、高い知能と体力で生きていた彼だが、すぐに報いは来た。逮捕、残忍な拘置、残忍で無造作で腐りきった裁判での死刑判決。といっても、死刑に値する罪を山ほど犯していたことも確かだ。そうしなければ生きられない世界だったが。

 処刑台直前で、ケインは海兵隊にスカウトされた。社会不適合者を、死刑執行の代わりに軍……それが、彼の故郷の徴兵だった。

 すさまじい訓練で、多くは死刑台に戻った。彼はやり抜いた。

 そしてすさまじい戦いを、ケインはすさまじい運と、けた外れの肉体と知能と精神力で生き抜いた。

 核攻撃で全身を焼かれ、失った手足を再生させる病院でセーラに出会った。

 海兵隊のエライアス・ホルム将軍に見いだされ、士官としての教育を受け、さらに十数年の間戦い続けた。記録的な昇進と、そのたびに増える戦死者たち。

 

 士官としての教育で、彼はプロパガンダではない歴史も学んだ。

〈共通歴史〉から核融合に成功し、同じ時空の別の星に飛べるゲートも発見された……

 だが地球では、大不況からテロ、権威主義……そして核戦争で人口の大半が死に、8か国の列強に世界は再編された。そのことごとくが、残忍を極める超寡占・超格差・超不自由・超軍国主義。飢えと戦争の中、民主主義や自由は簡単に投げ捨てられた。

『西側連合』の統治は、四つの階級による。

 超特権階級が贅沢を極める。

 中産階級は少し頭がいる仕事をしながら、上の気まぐれで下層に落とされる恐怖で服従している。

 下層は、時には超低賃金の悲惨な労働もあるが、主にギャングに拷問虐殺されるのが仕事である。

 そしてギャングたちは超特権階級の意を受け、下層を拷問虐殺して中間階級を脅す。時にはギャングの若手も粛清を兼ねて逮捕され処刑され、優れた者は軍務に回される。

 結果、超低賃金の過酷な労働は機械より安いほどになっている。

 

 同時に宇宙開発も積極的に行われた。

 地球はこれ以上の核戦争には耐えられない……地球とその周辺では戦争を避け、宇宙各地の植民惑星で戦争が続いている。

 そして、植民惑星では地球と違う、独立心が強い人々が育ち、膨大な資源で強い経済が生じている。さらに退役した兵の子孫が軍に志願することすら起き始めている。

 社会は変化し始めている。

 そして、ケインにはわかる。

「『西側連合』の政治家どもは、海兵隊を、ホルム将軍やギャレット提督を邪魔だと思っている。植民地の人たちを、地球のあの家畜たちと同じみじめな存在にするつもりだ。ホルム将軍が指摘していた、あの遺跡を警護していた、海兵隊とは別の軍……政治家が直属で暴力を持っているのだとしたら……

 われわれ、地球には嫌な思い出しかない、一度死んだ軍人たちにとっては、植民地の人たちこそが守るべき、そのために死んでもいい、そのために戦う国民だ。

 そう思えたからこそ、戦い抜けた。政治家どもなど殺してやりたいだけだ」

 

「……私たちは、あなたを利用したい。だからセーラ大佐を助けたのです」

 ぎりっ、とケインの歯が食いしばられる。

「そして、アレックス・リンデン……彼女についても少し。

 われわれもセーラ・リンデンの過去を調べています。彼女の家族も、ひどいことになっていた……」

 セーラはその美貌ゆえに、政治家の息子に目をつけられ、さらわれ残忍に犯された。その男を殺して逃げたセーラは、悲惨な放浪の末に海兵隊に入ることができ、高い知能と死ぬ気の努力で軍医として成功したのだ。

「両親は拷問され、下層に追われて間もなく死にました。アレックスも、言葉にならぬ苦労の末に這い上がったのです。パメラが指摘していました、セーラを恨むことで自分を保っていた、と。

 ですが、アレックスが望むようにセーラが従順だったら……すぐに同じく美しい姉妹も、で」

「家族全員なぶり殺し、だな。あいつらの特権意識は……」

 ケインは耐えられない言葉を、それ以上おぞましいことを言わせまいと、自分で言った。

「メルティは人の心を操ることを得意とします。そちらから責めていけますよ」

 

 

 コリン・マッキンタイアたち帝国……第四帝国が皇国になり、さらに滅んで、コリンが即位した……と〈シルバーン〉の主力は、全速で地球に向かっている。

 かなりの人材が、膨大な遺棄艦船を修理している。

 そんな中で、別の、とんでもなく残酷な国ばかりの、地球人の時空をどうするか。

「人材源にしよう、とにかく人が足りない……」

 と、いうことになった。

 

「みんな、できるよね?」

 一馬が言うのに、エルが微笑を返す。

「はい。強化を受けた司令が率いるが率いる、私たち有機アンドロイドなら。

『ギャラクシー・オブ・プラネット』の制限が撤廃され、全技術を自由に使うことができる今ならば。

 何百億という棄民を効率的な労働者として、不毛の小惑星を巨大な要塞に変え、そこで全員が人間らしい生活と忙しい仕事を持って生きることが」

 

 その調査から浮かんだ、エリック・ケイン准将を死なせ、それを通じて海兵隊を暴発させ、ケインを息子同然に思うホルム将軍も破滅させる……その陰謀を探知した〈シルバーン〉のアンドロイドたちは、高ステルス船で潜入し、ケインやセーラを慕う海兵隊員に接触して救出に協力させた。

 そのついでに、同じく地下拷問施設に収容されていた、CACのリャン・チャン将軍もさらっている。

 

 

〈シルバーン〉のアンドロイドたち数人は、高い権力を持つと分かっているアレックスの権力欲を刺激して取り込んだ。

 もとより、自分の欲望しかない彼女は、自分が生まれた時空の地球人、共に働いてきた権力者たちを売ることに何のためらいもなかった。

「不老不死。そして、望めば家族ごと、はるか遠くの星でバイオロイドたちにかしずかれ、十分贅沢な生活を永遠にできます。

 失敗すれば家族ごと拷問処刑の生活と、どちらがいいでしょう?

 私たちが欲しいのは、下層民たち。植民者の子孫。動員解除される軍人。いらない人間」

 アレックスにはわかった。それが何を意味しているか。

 ケインが学んでいた、『西側連合』の権力構造……下層がいるからこそ、軍事力もあり、恐怖で中産階級を従わせることもできていた。

 その下層を引き抜かれたら……

 

 

「腐りきってるねえ……」

 一馬がアンドロイドたちが調べた報告を、いやそうに見た。

「司令の故郷にだって似たような国はいくつもあっただろ?」

 ジュリアが鼻を鳴らす。

 エルが静かに笑い、続けた。

「弱点は、貴族同士の疑心暗鬼。貴族同士が足を引っ張り合い、暗殺や家族ごと拷問虐殺し合うことはあっても、超格差社会自体を変えることはない……そう漠然と信じているからこの社会は成立しています。

 欲望だけでも、その均衡は壊れます。超低賃金労働より安価な自動機械を、ライバルが買うのではないかという疑心暗鬼。

 何よりも、不老不死という最大の欲望。

 

 また、彼らのごく私的な会話を見ればわかりますが、特権階級は利害や自分の生命を超えた信仰や貴族道徳を持っていません。

 東欧・ロシアの農奴制は、貴族たちが自分だけ逃亡農奴をかくまうことはしない、という階級道徳によって支持されました。

 南北戦争では、南部の貴族は奴隷制を守るために十万人以上戦死しました。

 フランス革命で、代々の貴族はみなあまりにも堂々とギロチンに臨んだ、とあるように、階級意識が信仰と結びつき、自分の生命よりも上位にある道徳となる、そうなるほどの年月をこの世界の特権階級は過ごしていません。

 生き残り豊かな生活をしサディズムを満たす、それだけです。

 

 史料のアドルフ・ヒトラーやポル・ポトに比べ、西側連合やCACの権力者たちはうそを自覚し、自分の生存と権力を目的としている、理想を真に受けていない傾向が強いです。

 史料からの推定であるわたしたちの知識の限界は忘れないようにしなければなりません、ヒトラーらも権力だけを考える冷徹な計算者だった可能性があるにせよ。

 

 わたしたちの微小偵察機を読んで、欺瞞情報として日常会話をしているのなら……そこまで相手の能力が高い場合については、最低限の保険以上の備えは必要ないでしょう」

 

 取引は始まる。

 いくつもの列強から、膨大な民が引き抜かれ、かわりに長寿の薬と自動機械が特権階級に売られる。

 そして売られた人々はバイオロイドの指導の下、働けば報われ、理不尽な暴力がない暮らしが始まる。

 より高度な機械を用い、膨大な皇国の遺棄艦を修理する仕事。

 その情報は、故郷の下層民仲間にも伝えられる。

 希望を捨てきっていた下層民たちの間に、少しずつ、別の世界ではもっといい暮らしができる、ということが知られていく。

 それが、世界を崩壊させるのは想像以上に早い……

 

 

 そのころ、ジュリア率いる先遣艦隊は四国島以上、250キロメートルに及ぶ超巨大戦艦が十数隻、地球を襲うアチュルタニの先遣隊との死闘に臨んでいた。

「何よりも捕虜を得る。敵を知るんだ!」

 ジュリアの赤髪が振り乱される。

 あまり戦いに出ない一馬以上とは違い、多くのプレイヤーにバーサククイーンと恐れられた彼女の頬には、戦いの笑みが張り付いていた。


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