第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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ワームホール・ネクサス/時空の結合より2カ月

「シヴァ女皇?」

 皇帝直属聴聞卿、マイルズ・ヴォルコシガンは目を光らせた。

 聴聞卿とは、バラヤー帝国の皇帝の耳目となり、重大事件をしらべる役目である。これは制度の外にあり、皇帝自身と同じくすべての鍵を開けさせ、従わせる力を持つ。

 ゆえにその役割を受けるのは、皇帝の絶対の信認はもちろん、名誉にも富にも飽いた、実績のあるものでなければならない。

 だが、マイルズがそのようなものであるとは、とても見えない。

 若い。三十かそこらだ。退役大尉の徽章も、親の七光りとしか思われていない。何より、その肉体。ねじくれた小さい体に大きい頭。後進のバラヤーでは突然変異は忌まれ、厳しい禁止にもかかわらず地方では嬰児殺しも絶えない。

 そんな彼と、若きグレゴール帝は親しげに話している。

 いくつかのワームホールから、これまでとは知られていない銀河に直通する道ができた。それで新しい侵略者の予感にピリピリしながらの、私的に近い報告会が行われているのだ。

 その中で、ある使者がグレゴール帝に届けた手紙の話が出た。

「知っているのか?」

 脳内の記憶補助チップの破壊をきっかけに引退したが、まだまだバラヤー帝国の重鎮であるシモン・イリヤン元秘密保安庁長官がマイルズを見つめる。

 グレゴールのもの静かな目に、マイルズは肩をすくめて語り始めた。

「グレゴール、イリヤン。これは嘘になるんだろうか。

 ダグーラから地球への道筋で、報告していないことがあるんです。証拠が何もない、ただの夢だといわれればそれまでだから」

 シモン・イリヤンの目が見開かれる。

「そう、何の証拠もない。デンダリィ隊のみんな、断片的な記憶しかない。記録は全部改竄されている。

 ぼくの、この記憶と……記憶装置に入っている、何万という歌だけだ。それは地球に着いた時、軍資金のたしにはなった」

 マイルズが、ネイスミス提督の表情で苦笑する。

 ダグーラでセタガンダ帝国相手に大作戦を成功させたマイルズ……デンダリィ傭兵隊のネイスミス提督は刺客に追われ、予定外の地球まで逃げた。そこでバラヤー大使館と接触して軍資金を受け取るつもりだったが、大使館に潜入していたコマール人テロリストの妨害で金を受け取れず、散々苦労したのだ。

「ブラックホールに近づき、その勢いで追手を逃れた……そこまでは報告通り。ここからはぼくの記憶だけ……

 ブラックホールに近づきすぎて、別の時空に飛んでしまった。

 そこで、ほかのいくつもの時空から来た戦艦と出会い、共に戦った。いくつもの並行時空をめぐって。合計二年近く」

 グレゴールの表情は変わらないが、雰囲気の違いからとても興味を持っていることがわかる。

「その旅の中、敵に捕まって、数人の味方と脱走し、半年ぐらい未開の星で獣を狩って暮らしたり、何カ月も宇宙を走る汽車で旅をしたりした……共に過ごした一人が、トランスバール皇国のシヴァ皇女。

 家族を殺され、追われる少女だった。脆さはあったが、潔く高貴な魂の持ち主だった」

 軽く、マイルズはホロを見直して息をついた。

「戦いに勝利し、別れた時から彼女も、ぼくも何年も過ぎています。彼女がぼくを覚えていない可能性も高い」

 グレゴールのもの静かな表情に、マイルズはため息をついた。

「もちろん、会いたいです」

「奥方には秘密かな?」

 イリヤンの苦笑の目。マイルズは軽く笑い、同じく新婚ほやほやのグレゴールと目を見かわした。

「まだ子供でしたよ」

「妻の嫉妬はおかまいなしだぞ」

 グレゴールにからかわれ、マイルズは散々な目にあった。

「で、どうすればいいんだろうか」

 グレゴールが突然、遠くを見る目をした。イリヤンははっと真剣になる。

「何十もの宇宙、そのいくつかは何兆もの人口、何万もの戦艦を持つ。ワームホールなしの超光速飛行技術をもつ帝国もある。どうすればいいんだ?」

 二人とも沈黙した。つばをのむ音が響く。

「まず事実。バラヤーがどう軍事力を強めても、すべての並行時空を征服するのは絶対無理。誇大妄想はぼくだけで充分」

 いうマイルズは、自分が狂気すれすれと自覚している。

 近いグレゴールも、近い親戚であるマイルズと同じく、ユーリ狂帝の血は常に意識している。

 二人とも、狂気とごく近いところで踊りつづけているのだ。

「今までだって、いくつもの国が連合してバラヤーを潰すと決めたら対抗できる戦力はありませんでした。今回も同じように、巨大国同士の争いを利用してその間を泳ぐしかないでしょう」

「そうだな。……シヴァ女皇の苦慮もわかる。マイルズ、助けてやってくれ。その答えは、もしかしたらバラヤーを助けてくれるかもしれない」

「ぼくにそんな力があるとでも?」

「いないより、ましだろう?」

 三人が心安げに菓子を楽しむ。

「それより、セルギアールの近くから行ける、『智』とかいう国との外交交渉は?」

 グレゴール帝が次の書類を一読した。

「ヴォルコシガン総督ご夫妻が努力されていますが」

「もう一つの、コマール近くからの門はあの、不毛の銀河。ワームホールを使用しない超光速航行技術を手に入れるまでは、何にもならないね」

「智と交渉して、超光速技術を売ってもらうか、または智にそのワームホールを利用する便宜を図っておこぼれをもらうか」

「危険が大きすぎないか?」

「どうなるかはあっち次第だ」

「マイルズ卿を派遣しては?」

「それは最後の手段だね。むしろ今は、〔UPW〕に連絡する方が先決だ」

「かしこまりました、行ってきます」

「シヴァ女皇に、どうぞよろしく伝えてくれ」

 マイルズは〔UPW〕との連絡役を受け、〈ABSOLUTE〉に向かうことになった。

 とはいえ、それは簡単ではない。〔UPW〕の使者も辛苦をした。

 ワームホール・ネクサスも広く複雑であり、しかも多元宇宙のつながりそのものが、ワームホール・ネクサスに劣らずこんがらがっている。

〈ABSOLUTE〉から多くの時空への門はあるが、そのいくつかは侵略的な相手なので門はふさがれている。〈ABSOLUTE〉が有利なのは、開くことも閉じることも自在だということだ。

 ちなみに、バラヤーからは並行時空に行くゲートがない。だが、バラヤーが支配するコマールとセルギアールの近くにゲートができた。

 セルギアールからは智につながっている。コマールからは無人と思われる銀河がある。

 智から五丈に行き、そこから〈ABSOLUTE〉に行くか。だが智と五丈は戦争中であり、危険が大きいと判断される。

 これはワームホールなしの超光速航行ができればだが、無人と思われる銀河から、別の門を探すか。

 バラヤーの外を通るならば、エスコバール近くにできたゲートからガルマン・ガミラス帝国に行き、そこからローエングラム朝銀河帝国など、そこから行けるという銀河に向かい、〔UPW〕とつながるところを探すか。

 ほかにもゲートはあるかもしれないが、今は判明していない。ワームホールがなければ超光速航行ができないこの銀河は、まだそれほど広くは開拓されていないのだ。

 

 

 そんなとき、セルギアール総督であるアラール・ヴォルコシガン国主総督、コーデリア・ヴォルコシガン共同総督夫婦のもとに、急報が入った。

 ゲートを通じてつながった隣国である智の、大艦隊が押し寄せてきたのである。

 名将としても知られる夫婦は、即座に防衛艦隊を出動させた。

 

「なんて数だ」

 アラールが呆然とする。

 千隻近い巨大戦艦が、天を埋め尽くしている。

「要求は何だ!」

 通信に、鎧に身を固めた片目の女性の姿が浮かぶ。

「バラヤー帝国の即時無条件降伏を要求する。抵抗すれば皆殺し、降伏すれば公平な扱いと繁栄を約束しよう」

 幾多の戦場で鍛え上げられた、殺気に満ちた目。長く実戦を経験していないバラヤー帝国軍の将兵にはちびった者も多かった。

 だが、アラール・ヴォルコシガンは微動だにしない。

「三惑星を皆殺しに?できるか?できるというならまず、この艦を落としてみるがいい。こちらからは攻撃しない」

 と、大型戦艦一隻だけが、艦隊から堂々と加速する。

 アラールの部下たちは、敵のすさまじい数にぞっとしているが、智のテクノロジーの遅れを見て笑ってもいる。

「火薬式の大砲なんて、孤立時代みたいじゃないか」

「ああ、どれだけたくさんいたって」

 バラヤーは一時期、ワームホールが重力異常で失われて星間文明から切り離された。その間高度技術を失って中世の地球と同様の生活に陥っていた。再びワームホールが出現して星間文明とつながったとき、セタガンダ帝国に征服されたこともある。

 独立を勝ち取るには、アラールの父、ピョートル・ピエール・ヴォルコシガンのはたらきが大かった。

 それゆえにバラヤーは社会的には遅れはあるが、テクノロジーは星間文明水準に追いついている。

 

 堂々と進んでくる大型艦に、くろがねの巨艦は見事な包囲陣を敷く。

 智の戦艦の砲門は全門一点を狙える。揚弾機構に欠陥があるため連射は遅いが、出会い頭の斉射では最強である。

「ってーっ!」

 正宗の絶叫とともに、巨砲が次々と火を噴く。

 鉄と鉛の塊が、見事な狙いで全弾命中した。

 殺戮の喜びに沸く智の将兵。だが、正宗の隻眼がかっと見開かれた。

 無傷。

 ワームホール・ネクサスのテクノロジーは、超光速技術ではおくれをとっている。しかし、防御はきわめて強い。レーザーもミサイルも無効、艦を倒せるのは小型化できず射程の短い重力内破槍だけである。

「ま、正宗さま」

「さわぐな」

 正宗は平然と、迫ってくる巨艦を見つめる。と、ふっと背を振り向き、

「回頭、最大加速!」

 鋭く命じると、旗艦が鋭く方向を転換し、ぐっと加速する。

 大帝山の鋭利な衝角が、中型の高速艦をピタリと狙う。

「見事!」

「戦艦に集中している間に旗艦を狙う、か。そして……ほほう」

 正宗が微笑する。後方の、いくつもある輸送船隊の一つにも、ぴたりと数隻のバラヤー艦が狙いを定めていた。

「智王(虎丸)の場所も読んでいたか、さすがに。だが、こちらもその程度は想定している」

 高速艦は鋭く停止し、旗艦の艦橋を狙う。

 巨大な旗艦も止まり、鋭くにらみ合う。

「正宗さま。貴艦は核爆弾で狙われています。われわれは、あなた方の艦隊を壊滅させることはできます。しかしあなたがたには数がある、たとえば艦そのものを質量弾として、光速に近い速度で惑星にぶつけるなどされればたまったものではないです」

 高速艦から、女性の凛とした声が響く。

 コーデリア・ヴォルコシガン国守夫人も艦隊を率いたことのある、優れた提督でもある。

 これまでの外交交渉で、智とは何度も通信を交わしてもいる。

 だからこそ、自らの弱みをさらけ出しもした。

「ですが、このセルギアールを、高度な医療技術なしに占領しても、ここには厄介な風土病があるのですよ」

 コーデリアは声とともに、おぞましい患者の姿の映像を送信した。

「停戦しよう」

 正宗が静かに微笑する。

「ふ、あくまでこちらを叩くつもりなら、王だけは脱出させ、われらは大帝山で敵弾をひきつけ、飛竜艦隊をあの惑星の都市に叩きつけるつもりだったが……屈強の兵士でも、病にはおびえるものだ」

「飛竜です、すぐに参ります」

 通信が横から入り、別働隊の旗艦が大帝山に向かう。

「ありがとう。こちらから参ります。前から、直接お話ししたかったのです」

 コーデリアの艦が、身軽に大帝山に横付けする。

「いい機会です、切りこんで艦を奪取し、あの女を人質にして敵の武器を学べば」

「あれほどの将が、その程度のことを想定していないと思うか」

 正宗は言い捨てた。

 

 コーデリアは、大帝山に足を踏み入れ驚いた。内部は狭く、飾りも何もないのだ。

 バラヤーの常識では、戦艦は外交手段でもあり、晩餐会や国際会議も可能な、ホテル・オフィスの機能もある。

 だが、常識が通じない別の世界との接触は、それこそベータから後進的なバラヤーに嫁入った彼女にとっては慣れたものである。

「直接お目にかかるのは初めてですね、コーデリア・ネイスミス・ヴォルコシガンです」

「智の紅玉だ」

 コーデリアが無造作に差し出した手を、正宗は強く握った。

「希望」

 ただ一言、コーデリアの唇をついた。

 飛竜が刀に手をかけるのを正宗は止めた。

「死中に活。智の残った臣民ことごとく引き連れて来た。五丈、練に比べ智は弱体、じりじりと弱まっていくだけ。ならば別時空で新しい兵器、新しい兵を手に入れて、と」

 正宗は堂々という。どれほどの苦しみに耐えての言葉かは、握った手を通して伝わっている。

「そちらの時空、こちらからも調べさせてもらっています。その判断で間違っていないと思うわ。そして、もう二つ……ご病気と、後継者」

 率直な言葉に、正宗は一瞬凍りつき、ふっと表情を微笑にした。

 すさまじい戦陣の経験がある。偉大な相手との戦いも何度も経験している。

 肉体とこころは深くつながっている。絶望すれば、顔だけでも笑ってみればよいのだ。そうすれば、その笑うという動きは心に影響を与える。

 コーデリアも、相手がそれができるほどの力があると知って、むしろ嬉しく思った。

 もちろん背後の、智の将兵は衝撃に動揺している。

「映像記録は徹底的に分析しましたし、使者はにおいサンプルも取ってきています。指導者の健康は歴史を動かしますからね。……われわれは、確かに艦船だけで光速を超えることはできませんが、医療水準は高いです。どうか診察を受け、治療していただけませんか?」

 コーデリアの目と、正宗の隻眼が激しい火花を散らす。

 

 正宗は、絶望を通りこして死びとであった。

 文明が爛熟に至っていた智の家臣はいまや党と閥、この二字よりほかにない。飛竜も、正宗が死ねといえば問い返さず即座に死ぬであろうが、現実をありのままに受け止めるつよさはない。

 対して、竜我雷の強さはどうだ。その家臣団の闊達な団結はどうだ。

 王、幼名虎丸も幼いころはいいつけにそむいて戦艦に密航する勇敢な子だったが、この数年にすっかり身も心も弱っている。文弱な重臣・親族たちにすっかり牙を抜かれてしまったのだ。それもまた、練の謀臣姜子昌の深謀遠慮でもあったのだが。

 何よりも、もう数年もない、自らの死後に後を任せられる者がいない。それだけは、どうにもならないのだ。

 あとはただ、自らを信じてくれる武官のために戦い抜き、死ぬ……闘志だけに心を埋め尽くし、死を受け入れた。だが、そこに多元宇宙という機会が生じたのだ。

 乾坤一擲、臣民一人一人を説得し、ほぼ全員で故郷時空を脱出してセルギアールを襲った。よく死ぬことだけを願って。自らの死後を考えることも捨てて。

 だが、コーデリアはすべてを見抜き、希望を持つよう諭してくれた。

 正宗自身に強さがなければ、その言葉と誠意を真正面から受け止め、自らの心を変えることはできなかったろう。

 

「こちらがほしいのは、あなたがたの、ワームホールを使わない超光速エンジン。エンジンの技術そのものを得られないとしても、コマールから行ける不毛の時空を、そちらの超光速船を借りて探検し、その果実を分け合うことができれば申し分のない利益になるわ。

 それに、あなたたち智の存在は、練・五丈両国がこちらを侵略することを止めてもくれていた。その両国の追撃を考えれば、智とバラヤーは唇歯輔車よ」

 軍を掌握し、停戦を維持するのをアラールに任せたコーデリアが、ずばずばと交渉を続ける。正宗も楽しげに言葉をかわした。

「不毛の星を開拓できるだけの資材と人材はあるのか?」

「わたしたちはこのセルギアールを、四十年かそこらでここまで開拓したのよ」

「そんな、裏切られたら」

 これはコーデリアについてきたヴォルだ。

 コーデリアは目顔できびしく制し、正宗に鋭く語りかける。

「あなたは、わたしたちを裏切るほど愚かではないはず」自分も相手を裏切るほど愚かではない、という意も伝えている。「裏切るとしても、非戦闘員を含め数百万人のあなたたちが無人の時空を開拓して戦力をととのえるには、かなりの時間がかかるはずよ。わたしたちはその時間だけで十分。どこからであっても、新しい超光速技術を手に入れさえすれば」

「大したものだな。植民地総督の身でそこまでの決断ができるとは」

「グレゴール皇帝がここにいても、同様に考えることは間違いありません。そちらも、こちらのことはいろいろ調べているでしょう?女のあなたが、孤立時代のバラヤーのような世界で軍を率いているのも大したものよ」

 二人の女傑が微笑をかわす。

 コーデリア・アラール・そしてグレゴールの三人には、深い信頼関係がある。そのことは正宗も調べぬいていた。コーデリア自身がセルギアール発見、そしてバラヤーの内乱で男もおよばぬ活躍をみせたことも。

「ならば、さっそく診察してほしい。それから、無人の時空へ行く計画を」

「コマールに行くのに、ネクリン・ロッドを積みジャンプ・パイロットを養成するには時間がかかりすぎるわ。あなたの治療がここでできたらいいけれど、バラヤーや、エスコバールまで行くほうがいいかもしれない。どこに行くのであろうと、同行します」

 人質、ということだ。

「また、見たところあなたたちの艦船はメンテナンスが必要なようね。こちらの軌道基地をお使いください」

「何から何まで、痛み入る。練と五丈に対しては、まだ智が存在し、いつでも逆襲すると見せかける。もし追撃艦隊があるのなら、飛竜に迎撃させよう」

 戦いでは鬼にほかならぬ猛将。だからこそ、誠意には誠意を、と心を固めた。

 もののわからぬ者は、バラヤーを信じることに反対するだろう。智の名誉を思え、と。だが、命を捨ててかかれば、小さい名誉など大したことではないのだ。どちらを選ぶも同じく死を覚悟してなのだから。

 内の反対、そして新天地の開拓は、バラヤーを征服するより困難な道であろう。

 与えられるかもしれない生命をあらためて燃やし尽くす覚悟を固めたのだ。

 

 

 マイルズが、その知らせを受け取ったのは、バラヤーを離れたあとだった。切歯扼腕したが、自らの任務が優先であることはよくわかっていた。

 新婚夫婦は、半ば新婚旅行として、公務であることすらも秘密で出発した。平穏な旅になろうとは、彼自身思ってはいなかった……新妻は置いていこうとしたが、ヴォルコシガン家の危険を知り尽して結婚を承知したエカテリンには説得されるだけだった。

 残念だったのは、智との信頼関係が確立したため、五丈経由で〈ABSOLUTE〉に行くほうが早いかもしれない……が、今からセルギアールに向かうには費用も時間もかかりすぎる。

「ワームホール航法が、無意味になったら……」

 マイルズはそのことを考え、研究しながら船旅を続けていた。




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