第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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「きっといろいろなことが起こる。いまだ帝国の経験したことがないような」
「お言葉ですが、猊下。起こるのではなく、起こすのです」
「勇ましいわね、殿下」上皇は羨望を称号に響かせた。「そなたと話していると、自分が傍観者であることを実感する」
《星界の戦旗6 帝国の雷鳴》

星界はルビ(ふりがな)全略。
『銀河連合日本』は、無印と「The Next Era」の中間あたり。


星界の戦旗/時空の結合より9カ月

 反逆皇太女ラフィールの弟、ウェムダイス子爵ドゥヒールは、別の時空に遠征に出た。

 

 帝都陥落により帝国中央部から引き離された、副帝ドゥビュースが報告された奇妙な現象。

 それが、既知のそれとは大きく性質を異にした「門」であることをつかむのにも時間がかかった。

 

 帝都ラクファカール……〈竜の頸の付根〉〈混沌の都〉〈八門の都〉〈帝国の揺籃〉〈愛の都〉……〈故郷〉……〈陥ちざるもの〉という名は、十数年前の陥落で永遠に失われた。

 散った先帝ラマージュの誤算。四つの敵国の中で中立的であった〈ハニア連邦〉の降伏申し出を受け、それを前提に平面宇宙各地に大軍を送っていた……帝都ががら空きになった時に〈ハニア連邦〉が裏切り、敵の大軍が帝都を落とした。

〈八門の都〉というようにこの時空の超光速航行の要衝だった帝都を失って、各地の軍・帝国領各地は分断孤立させられた。

 帝国自体もそれまでの戦闘で大きな回廊を手に入れ、敵連合を分断しているのだが。

 孤立した帝国領は次々と落ちたが、ドゥヒールの父ドゥビュースはかなり有力な地と大きい軍を持っており、敵の猛攻をしのげた。

 何よりも、移動式の超光速航行機関製造工場を与えられた、それが決め手に他ならない。それがなくてじり貧になったところもある。

 帝国本体と切り離され、自分が最高位と確認したドゥビュースは副帝を名乗り、多くの領星を切り捨ててアーヴや設備を一つの星系に集め、守っていた。

〈ハニア連邦〉の国体が、同じ仕事を奪い合うためあくまでアーヴと戦いたがる軍・宇宙商人、文化さえ守れればよく人工知能に従う地上人、〈アーヴによる人類帝国〉への降伏を訴える人工知能、の三つの思惑で混乱していることもドゥビュースは利用し、生き延び続けていた。

 ただし副帝の消極姿勢は、軍を指揮するコトポニーには批判されているという噂がある。

 

 そんな中、ドゥビュースが支配する恒星からかなり離れたところに、奇妙な宇宙現象が発見された。

 アーヴたちが知る〈門〉とは根本的に異なる現象だった。

 戦争もあり、調査の優先順位は低かった。

 だが調査が進み、出入りの方法も判明し、向こう側には別の宇宙があることもわかった。

 さらにそこでも〈門〉となる特殊な粒子が発見された。以前はひたすらエネルギーを出し続ける謎の粒子で、それを用いてかつてのアーヴは推進剤の壁を破り、光速以下で都市船を駆っていた。その粒子が超光速航行につながることが判明し、アーヴは帝国を始めたのである。

 それでゲートの向こうでも〈門〉を造り、そちらの平面宇宙から別の、有人惑星を持つ星系への〈門〉が開かれた。

 有人惑星の発見、即征服……それは〈アーヴによる人類帝国〉の常である。ハイド伯爵ジントの故郷、マーティンのように。

 積極的な動きを好むコトポニーは、本来の時空での攻勢と同時に別時空の侵略と征服も強く主張した。

 ドゥビュースはそちらについては妥協し、そして帝国の慣例通り、後継者を指揮官とした。敵に対する礼儀でもある。アーヴは敵に礼儀を欠かさない、死者に対するのと同じく。

 また、もっともすぐれた将帥であるコトポニーは、今大軍・大国と対峙するのに必要なのは当然である。

 約十年、半ばお飾りで撤退戦ばかりだが、戦ってきた若いドゥヒールが、〈徊湖艦隊〉の司令長官として……戦力はささやかにもほどがあるが……出征することになった。

 

 出発前の、どうしても足りない準備期間。

 ドゥビュースは息子に、マーティンを征服した〈流砂作戦〉、ハイド伯爵領、そして現ハイド伯爵ジントと、ドゥヒールの姉ラフィールが爆散した艦〈ゴースロス〉から逃がされて地上世界を旅した報告書を、徹底的に熟読するよう命じた。

 帝国が別の人類世界を征服する。それは帝国が生じて以来の常であり、悪とよく承知していながら、

(人類全体のためにほかに選べる道はない……)

 とやり通してきたことだ。

 罪悪感などとは異質な心となっている。

 だが、それでも、アーヴにとっては恐怖でしかなく関心を持つこと自体が悪趣味とされる地上世界、その、

(人を知るように……)

 と。

 他のアーヴであれば感情的に拒絶しただろう。だが、強すぎる姉に頭を抑えられてきたし、かつて姉の行方不明と生還に多くの感情を動かされたドゥヒールは、素直に学んだ。

 

 

 敵が一切いない平面宇宙の旅は異質であった。そして恐怖でもあった……

(ここは別の時空……)

 なのだ。

 どんな怪物が平面宇宙に飛び出すかもわからない。あるところからは物理法則自体が変わって艦を破壊するかもしれない……それを見越した偵察艦は先行させているが。

 

〈門〉からの離脱……

 信じられない歓迎に、ドゥヒールは呆然とした。

 人型をした、キロメートル単位の艦。

 通信、言語はすぐに通じた。アーヴが祖とする日本人、その日本語が流れてきたのだ。

「この言語で通じますか?

こちら、ティエルクマスカ銀河連合、日本国、特危自衛隊、〈DDHS-002航宙重護衛艦・ふそう〉。艦長、藤堂定道。貴艦隊はティ連の領土を侵犯している、所属を明らかにせよ」

 ドゥヒールは唾をのみ、当時は皇太子だった現皇帝の通信の丸写しを、姉に劣らぬ美しい声で読み上げる。選択の余地はない……強い絶望を感じながら。

(陛下や姉上のように立派な大人だったら、こんなバカみたいには見えなかったろうに!)

 と心の中で叫びながら。

 交渉は拒む。

「遺憾ながら、交渉や友好はできません。わたしの使命は帝国の友好国をつくることではなく、皇帝陛下の領土にひとつの世界を、そしてこちらの時空にいくつもの星間国家があるのならばそのすべてを、わが〈アーヴによる人類帝国〉に併合することなのです。

 あなたがたの主権に関する交渉には応じられません。それはすでに帝国に帰属しているものと理解しています」

 ドゥヒールの美貌は衝撃的であった。〈ふそう〉の側にも衝撃が走った。

 その中で、何らかの話し合いがあり……画面が切り替わる。

 アーヴの間にも衝撃が走る。地上人の平凡な男性と、アーヴともあまりにも異なる、人間型の美女……鳥、を思わせる美しい羽を毛髪などのように帯びる、人類の、遺伝子改良で超美形ぞろいのアーヴの基準から見ても恐ろしいほどの美女。

「あー、あー、テステス。柏木真人っていいます。こちらは妻の、フェルフェリア・ヤーマ・カシワギ・ナァカァラ。肩書とかは同時に送ります、とりあえず権限はある人です」

 送られた文字列は信じられないものばかり。ティエルクマスカ連合防衛総省長官。日本の防衛大臣。ティ連側の、その場で軍を徴集し指揮する特別な資格すらある。フェルフェリアは……終身の連合議員であり、日本の閣僚でもあり、ティ連の重鎮イゼイラ共和国の皇族でもある。

 共和国になってはいるが、皇帝家を皆殺しにしたとかではなく、皇族に終身議員などかなり重要な役割を持たせ続けている、立憲君主制にも似るがそれ以上の国体なのだ。

 地球を含むティ連全部で全面戦争をすることも、降伏することも可能な存在である。後先でものすごい問題にはなるとしても。

「先にぶっちゃけますがね、今ちょっと見た限りでは、あんたたちは勝てない」

 柏木の言葉爆弾に、ドゥヒールは心の底まで絶対零度のハンマーで殴られたようになった。

「技術水準が違うんだ……技術水準が逆だったら、そりゃ抵抗して滅びるか、それともそちらの帝国に入るか、ってところだろうがね」

「デスデス」

 ホエホエした雰囲気のフェルから奇妙な言葉が漏れる。地球人とは根本的に違う、一度に複数の音声を発する。それも彼女が身に着けた携帯端末で自動翻訳されるが……

 ちなみに二人とも、生身でここにいるわけではない。ティ連の極めて高い技術で作られた複製人体に、柏木は別の銀河の執務室から、フェルは地球からとんでもなく速い超光速通信で遠隔操作している。

 それが可能な技術水準……それはアーヴから見ても雲の上である。

 さらに、もうアーヴの艦はスキャン済みで、

(せいぜいレーザー・電磁レールガン・反物質ミサイル程度……)

 であることはわかっている。

 一瞬口ごもったドゥヒールの表情を見た柏木は、即座に畳みかけた。

「どうです?そちらで一隻、できるだけ無人の艦を出してくれませんか?こっちも無人の艦を出して、殴り合えばいい。それで技術水準の差はわかる。

 そうすれば、ものがわかるなら戦う意味があるかわかるでしょ?

 そっちの方針、そんな悪いやつらじゃない……無駄に戦って死人出したくないんですわ。さすがに、死んだら大体は終わりですんで」

 

 ジントの故郷マーティンの、特にジントの亡父ロック・リン主席(当時)は、そうしてほしかっただろう。

 実際には江戸日本と湾岸戦争米軍程度は差があったのに、地上人の政治家たちは自分と相手の実力を理解できず抗戦を主張する者がいて、対立のための対立ともなり……主席一人に全権をゆだね……主席が故郷の自治と利益を守るために行った降伏で裏切りと憎まれ処刑に至り、まだ幼い子のジントすら石もて故郷を追われたのだ。

 だが、逆に見ればアーヴの態度にも問題はある。どれほど力の差があるかをわかりやすく見せつけなかった。相手の感情を考慮しなかった。

 人によっては、

(膨大な暴力で多数を殺し、文化財を破壊し、女を犯し、子供を拷問虐殺するのを見せつけるほうが、むしろ服従するものだ……大砲の砲口にインド人を縛って発砲し処刑した大英帝国こそ正しい。けた外れの残酷が正しい。言葉や優しさは人の心に実際には入らない、暴力だけが五感と脳のあいだの、物語・見たいものを見るという関門を通る。甘いことはそれ自体が罪だ)

 とでも言うだろう。

 結果、マーティン側はアーヴに対し激しい敵愾心を持ってしまったのだ。

 

(ああ、それで父上は……〈流砂作戦〉と、姉や、先代・当代両方のハイド伯爵の報告書を熟読させたのか)

 弱・者・で・あ・る・と・い・う・こ・と・が・ど・う・い・う・こ・と・か・知・れ・……と。

 帝国に征服された者。その子。敵が占領する地上世界を地上人であるジントの誠意や現地人の情けにすがって隠れた、陸に上がった河童というべきアーヴ。

 アーヴは傲慢にして無謀と言われる。だが、ドゥヒールはそれが比較的少ない。常に強すぎる姉がいて、

(脇腹が次の肘鉄に耐えられるか……)

 が関心の八割だった。

 最初の儀式で、

(立たずに座れるだけで動かず我慢する義務は同じ……)

 と悟り、皇位を望むこともなくなった。

 また、十年の間弱者として、

(領土を縮小しながら生き延びる……)

 戦いばかりやってきた。

 実力にそぐわない地位、それも劣等感を強めてきた。

 実際には、父副帝やコトポニー、部下たちの評価はかなり高いのだが、それを出さない人たちばかりだ。

 

 そして比較対象がなかったこともあり、柏木の態度が、どれだけこの時点の地球、またドゥヒールが本来知るはずである国々の外交官の態度とも違うか……地球の経験豊富な外交官たちが発狂しているか……意識する余裕はなかった。

 ドゥヒールの閣僚は、

(誇りを傷付けられ……)

(優雅でない……)

 と激高しているが、それも耳に入らない。

 優雅、というならフェルフェリアは十二分に優雅であることは見ればわかる。

 

 これもまた、『突撃バカ』『銀河級アサルトバカ』の異名を持つ、『ファーストコンタクター』柏木真人だからこそである。

 

 この数年前、201云年。〈共通歴史〉の、宇宙にもろくに出ない不況の地球、中国に圧迫され不満の受け皿がない日本。

 柏木は中年男性だった。ゲーム関係の交渉を仕事にする、正社員でもない、サバゲー好きで銃オタクで『突撃バカ』と言われる性格で、政府の上層や超金持ちなどに妙に友人が多い以外は平凡・独身・彼女なしの中年男性だった。

 そんなある日。突然地球に、とんでもなく巨大な小惑星が近づいてきた。さらにワープして地球のすぐそばに再出現し、国際宇宙ステーションを揺るがした。

 常識を消し飛ばす巨大さ。300キロメートルのような数字が出る。六角形。明らかに人工物。ギガヘキサと呼ばれるようになる。

 それが地球に、害ももたらさずに降りると、さらに無数の小さい子機をばらまきはじめた。

 地球からの通信にも応答しない。ただ地球のあちこちを飛び回る。

 某アジアの超大国は拿捕しようと自国の村ごと爆撃したりした。

 むこうから地球人を攻撃しようとはしない。謎の光は当てるが。

 その動きには変なことがあった……日本限定で、近くで火事や事故があると、その人を助けたり、燃えた家をとんでもない技術で瞬時に元に戻したりしてしまうのだ。修復された家にはわずかな人工性がある、時間操作ではない、

(原子レベルの3Dプリンティングの極端なもの……)

 と分析された。さらに事故に巻き込まれた身体が悪い人の、脊椎を治して一瞬で車椅子から歩ける健康体にもしてしまった。

 そのような恩恵は日本以外にはない……

 

 そんな騒ぎの中、柏木は仕事で大阪は千里の元万博モールにいた。そこで小さいUFOに襲われている、と見えた女性を助け、腹を立てた。

 彼は話したければピンポンしろ、俺のところに来いと叫び、名刺を小UFOの隙間に突っ込んだ。その小UFOは逃げ去り、柏木は警察に保護された……

 それでUFOの行動が変わって伊豆大島あたりの上空にとんでもなくでかいのが鎮座するようになった。

 そのことから柏木が、

(初めて異星人と意思疎通した……)

 と認められ、意思疎通のアイデアも出してそれが政府首脳に認められた。

(バリア張ってて電波が入らない、電波なんて発想もないんじゃあのひとたち……)

 で、アニメ関係の人脈もある柏木が主導で、

(建造終盤の空母モドキにでかいシーツをかけてアニメ上映会)

 といういかれた発想を出し、それが大当たりして超巨大UFOから人が出てきて、日本政府と交渉が始まった。

 その超々巨大UFO、ヤルバーンの異星人たちは、

(日本国以外相手にしない、日本国にはものすごく友好的に技術も何でもどんどん与える)

 という態度を取った。

 未開文明と接触するための、経験による方法とのことだが、地球の国際社会にとっては、

(とんでもない話……)

 だった。

 幸いアメリカは昔のUFO騒ぎのグレイが本当に昔のティ連メンバーだったりしたので理解を示したが、中国とはかなりの軋轢になった。柏木も拉致されかけるほど。

 

 そして、実はヤルバーンのスタッフも地球人とどうコンタクトしていいかわからなかった、それで焦ってバカなことをしようとしていたのを柏木に止めてもらえた、といこともあり柏木に一目惚れしたヤルバーンの調査局局長にして実は皇族・議員、フェルが激しいアタックで強引に結婚まで突っ走った。他にも何組も、地球人とティ連異星人のカップルができ、友好関係は進んでいる。

 ほかにも、柏木が使節として、千万光年単位離れた別銀河のイゼイラに向かった旅の途中、ティ連の敵に襲われてガンマニアの知識を武器に反撃し、それが実体弾の概念がなかったティ連を助けた……

「かぐや姫」が実は実話で、それがイゼイラの伝説的な皇帝やティ連を滅ぼそうとしていた病気と関係があった……

 その病気の治療法まで、柏木が思いついてティ連そのものを救った……

 ついでにその伝説的な、昔の日本に来たことがある皇帝の精神データが敵の技術を取り込んで復活した……

 などなどいろいろあって、日本とティ連の絆はとても深いし、柏木のティ連での地位も非常に高い。ついでに万年与党の議員ともなって、日本でも夫婦で閣僚をさせられている。

〈ふそう〉を始め、地球のアイデアとティ連の技術を統合した艦も作られ、事実上火星を日本領土として開発し始めているような状態でもある。

 人型艦が多く試作されているのは、地球の娯楽がティ連でも愛され、ティ連側にとんでもない技術と物質的な余裕があるからである。

 

 ティ連は、

(どこからか超技術を与えられただけで自力で頑張ってない……)

 という欠点はあり膨大な試行錯誤で進歩してきた地球を尊敬している面はあるが、

・まったくの虚空から実質無限の、金地金から2010年代のコンピュータ全部統合したのを電卓サイズにしたものまでなんでも出現させる

・けた外れのナノマシン医療

・数千万光年から短期間で往復可能な超光速航行技術

・大陸規模の建造物が多数

 というような、とんでもない文明規模であることをドゥヒールらはまだ知らない……

 さらに敵の技術を手に入れることにより、もっととんでもないこともできるようになりつつあるのだ。

 

 

 ドゥヒールは自ら、最小限の人数で巡察艦を駆った。

 今は部下である、昔の上官たちも何人か付き合ってくれている。

(決死……)

 に他ならないが、実は安全であることを彼らは知らない。

 人型の、大きさとしては1200メートル級であるこちらの巡察艦より小さい、300メートル級艦。だが非常識な形が強い威圧感になる。

 陽電子砲の発砲、だがそれは斥力砲にあっさりそらされ、巡察艦内のあらゆるものが異様な動きをし、異常な力を感じる。

(重力兵器……)

 ゆっくり、じっくりと破壊されていく艦。

 総員退艦、を叫ぶゆとりもない……

 近衛艦隊を率い散ったという祖母である先帝、帝都そのもの、中心の故郷都市船ごと散った曾祖母である上皇のことを思い、遺伝子操作で脳に仕込まれた宿命遺伝子が奏でる天上の音楽……同胞のための戦死をする際のすさまじい快感に酔うドゥヒールは、突然の感覚の変化に戸惑った。

「え」

 転送。

 ティ連艦は〈アーヴによる人類帝国〉には想像もできない技術で、こちらの乗員全員を救助したという。

 

 そして柏木やフェルと話したドゥヒールは、こちらの時空でも、様々な奇妙な敵との闘いがあることを聞かされる。

 フェルの両親が漂流していた星を襲っていた何か、また他にも……

 

(それどころではない)

 このことである。

 それこそ、ドゥヒールの故郷時空の戦争自体が愚かしい、それほどのことなのだ……

 

+++++

 

〈シルバーン〉の何人かのアンドロイドを連れて、その高ステルス巨大艦を借り、星海軍の常識よりはるかに早く現在の仮帝都に着いたラフィール。

 報告そのものはしっかり聞かれたはずだ。

 まぎれもなく、〈人民主権星系連合体〉の艦隊と〈ハニア連邦〉主力の連合艦隊を粉砕し〈連合体〉を征服した。

 勅命にあった、ドゥビュース率いる〈帝国の失われた半身〉との連絡こそかなわなかったが、それは戦いが進む中判明した敵の事情によるものであり、優先順位も勅命通りとして戦った。

 問題があるとすれば、

(行った先でとんでもないことが起きた……)

 それだけである。

 敵国の首都星系に、完全に未知の事象である別時空とのゲートが発見され、そこから襲ってきた敵艦隊を撃滅した。

 そしてそれを見ていたステルス艦の、さらに別の時空から来たアンドロイドと交渉した。

 それだけである。

 

 だが、仮帝宮ではそれを激しく責められた。

(アーヴらしくない……)

(〈アーヴによる人類帝国〉は、他者はただ征服するのみである……)

 技術格差についての弁明も聞かれなかった。

 かといって、

(どうすればよかったか……)

 をきちんと言うわけではない。

 ラフィールは心の底から失望し、軽蔑した。

 

 軟禁状態、皇位も軍歴も絶望としか思えぬラフィール。そこに、突然自分を厳しく責めていた皇帝が訪れた。明らかにとんでもないお忍び。

「何をしているのです?早く脱走し、反乱しなさい」

 意味が分からない、耳が拒絶する言葉を皇帝は口にした。

「これ以上わたしを失望させたもうな、アブリアルの中のアブリアルよ。

 現皇帝、政府は現実を見ず、別時空の友との協力を拒む。皇太子であるそなたがその自滅的な横暴に反旗を翻し、帝国にとって害となった愚帝を倒して即位する。

 生体機械であった黎明時代、平面航法を知らなかった大放浪時代と同じく過去となった時代に別れを告げ、自分たちより技術に優れるであろう別時空のさまざまな知性の間で死に物狂いで生き延びる。

 それだけのことでしょう?」

 まだ、ラフィールの頭は停止したままだった。

「帝国の未来を守るため、なすべきことをなすのがそなたの義務です」

 帝国の未来。

 その一言。

 その言葉を聞いたラフィールの脳裏に、皇帝用浴室に降る雪とともに、祖母の姿と声がまじまじと浮かんだ。

「守るのは帝国の未来だ」

 失われた帝都ラクファカールとともに散った、祖母にして先帝ラマージュに、別れる名残に言い聞かされた言葉。

 散りたかった自分を止めて、帝国の記念碑を輸送して仮帝都に逃れる仕事を命じた。自分には理解できなかった、帝都を守ること以上に大切なことがあるとは思っていなかった。もっと大切なものがあった、祖母も曾祖母もそのために死んだ……自分たち若きアーヴを、帝国の未来を生かす。

 

 帝国の未来。この言葉だけが、ラフィールの脳を再起動させた。

 

「た、たちの悪い諧謔は」

 皇帝の目は、ラフィールを止めた。

 その哀しみが。決意が。

 いつも、近い親戚としてつきあっていた時はたちの悪い諧謔に悩まされていた。そうであってほしかった。だが、違う。

 ラフィールはしばらく止まり、効果的な言葉を探した。

「陛下は、皇太子のみぎり、先帝陛下と議論されたとうかがっております。より遺伝子改良を進めようと進言され、却下された、と。ならば」

 皇帝自らが、帝国を改革すればいいではないか。

 皇帝は静かに首を振った。

「皇帝でさえなければ。そなたと立場が逆であれば……いや、わたしは……

 それに、皇帝自らそれをすることは、許されぬのだ。アーヴを本当に割ってしまう、滅ぼしてしまう。

 翼がもげても、足で這って卵を産むことはできる。だが、卵巣を失えば子孫はない……」

 皇帝はしばし沈黙し、過日の、すでに散った先帝との会話を振り返る。

「あのとき、先帝陛下にこう申し上げた。「人類の未来に思いを馳せます。どうするかではなく、どうなるかに」と。先帝陛下はこうおっしゃられた、「翡翠の玉座に坐ってのち、人類を混沌に突き落としたいなら、そうするがよい」と」

 ラフィールの身に衝撃が走る。

 悟らざるを得なかった。

 帝国の未来。変わらなければならない。

 それをなすのは、傍観者ではなく、行動者なのだ。

 アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィールのなすべきことなのだ。

 

 甘かった。幼子でしかなかった。

 勅命に従う、戦死する、その程度の覚悟しかなかった。

 帝国の、一つの種族の、この銀河の全人類の重み。

 今、生命もすべてを捨て、汚名を着ようとしている目の前の皇帝。

 決然と賭け、賭けに負ければ未来を守って散った先帝。

 即位の儀式を思い出す、上皇たちが、過去を、未来を、そして現在を負えるかと言い、目の前の皇帝は答えた……その重み。

 兆を数える生命、はるかな歴史、そして未来。

 その重みが、ラフィールの両肩と頭にどかりとのしかかる。

 

 反逆者の汚名。それは、自分の死よりは辛いが、部下の無駄な死よりはましだと思ったこともある。

 また、帝国の未来を失うよりも、ましなのだ。




本当は、失われた帝都にこだわるラフィールを、子供のおもちゃにしがみつくな、と諭したりしたかったんですが…
話の流れが思いつかないし、「蛇足をするな」という気がして。
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