コリン・マッキンタイアたちは、自国を「第五帝国」とすることに決めた。
ひたすら働いてきた。
アチュルタニの大艦隊との戦いではかろうじて勝利をつかみ、アチュルタニの正体……暴走したコンピュータに占領され、他の生命すべてを滅ぼそうとする、生物としてこの上なく悲惨な奴隷……も知った。別時空との交渉は主に〈シルバーン〉に任せ、そちらも進展している。
壊滅に瀕した地球環境、飢えに襲われ、以前からの物語に縛られて反抗する民。
全滅しないための戦い、だが地上の人々にはわからない。これまでの政府が突然破壊され、悪だったとされて、とんでもない技術での仕事を押し付けられる。
(故郷を捨てろシェルターに移れ……)
と言われる。
それが絶滅収容所でないことを、どうして信じられるだろう?昨日まで政府軍に虐殺拷問されてきた人々が?
実際に、コリンの時空の地球は長くアヌに支配され、多くの政府の支配者はその手下で極悪人ばかりだったのだが。
別時空との接触もある。別時空の、想像を絶する暗黒国家群から買われてきた人たちも労働力として働き、同時に多くの食べ物や水、居住スペースや空気浄化エネルギーを消費した。
それが多くの疑心暗鬼を生む。
国家戦争と少人数の邪悪支配を目的としてきた、ケインの時空の国々は、別時空に売る民、時空をまたぐ〈シルバーン〉に協力する軍人にも多数のスパイを混ぜた。
あわよくば、
(すべてを内からのっとる……)
ために。
第四帝国の嘘発見器を逃れた元アヌ派が、その邪悪の匂いを嗅ぎ合って集まることもあった。
定期的に、〈シルバーン〉や〈仙胡〉も協力して、別の技術からの精神捜査もしているが、それも限界はある。いくらなんでも何億人も短時間でできるものではないのだ。
とにかく、滅んだ第四皇国の多くの遺棄された艦、全滅した惑星の設備を復旧し、膨大な人を移す。
衣食と仕事を与え、治安を維持する。
特に故国が邪悪であった人たち、コリンの地球でも、ケインの故郷にも多数あった残酷な国々。国家は少数の特権階級の私物であり、時には無政府状態の部族抗争、時には宗教原理主義の残忍な女性嫌い、時にはサディズムに満ち強盗であることが給料である警察・軍の暴虐に支配されていた。
そんな人たちに、別の論理を教える。
アメリカの軍人だったケイン、前世は現代日本で生活していた一馬は、そちらを当たり前とし、なんとかそれを人々に与えようとした。
人の愚かしさをよく知るエルたちが、独善による過ちを繰り返さないように修正した。
短期的にはかなり残酷な統治で治安を回復したこともあった。中国のミニヤコンカで大規模な工事現場を破壊した、主要軍人も加わるテロを鎮圧した中国出身のツィエン元帥のように。
食わせる。住ませる。犯罪者をつかまえる。法を教える。機械の使い方を教える。人を改造する。
膨大な設備を修理し、工業生産力、人工的な食糧生産力を爆発させていく。
ひたすらそれが繰り返された。
〈シルバーン〉からは膨大な、疲れを知らない高度バイオロイドが供給された。多くの遺棄艦のコンピュータが再起動された。多くの人々が改造を受けた。
それでも足りなかった。常に足りなかった。常に人材に飢えていた。
戦死者も多かったのだ。壊れた者も。
多くの他者もある。
〈シルバーン〉は存在自体があまりに異常で、最大の問題は、
(どこを生存圏として与えるべきか……)
である。どう見ても対等以上で巨大な貢献をしてくれた存在であるのに、帝国の一部として併合することは、道義的にも、暴力の比においてもできない。
だが、この時空は帝国のものだ。法的にも。
とりあえずは、
(無人時空が見つかればそこを与える)
という約束はしている。
そして、多くの別時空との交流と交易という、それ自体が巨大な利益になることも〈シルバーン〉が独占している。コリンの帝国側にそのゆとりがなかっただけだが。
ジャン・ル・フランブールの故郷、特に〈ゾク〉と〈シルバーン〉の折衝も進みつつある。いくつかの、
(危険すぎる太陽系から離れたい……)
という集団をいくつか、〈シルバーン〉の超光速船でその時空内の別の星や、コリンの時空の空いている星に労働力や技術の提供と引き換えに移送したこともある。
この世界は極端にナノ・バイオ・コンピュータの技術が進んでいるが、超光速技術だけはないのだ。
何度か、マチェクなどが襲ってきたり、〈全方位背反者〉が陰謀じみた攻撃をしてきたこともあるがそれらは何とか撃退できた。
〈魂のエンジニア〉は別の時空の技術やプログラミングを学んでいる。特にコンピュータを高め放置した結果魂を得た〈ダハク〉や、ケインの時空の異星人遺跡〈ファースト・エンペラー〉に興味津々のようだ。
民を生かす、それと並行してやることもある。アチュルタニの残存艦隊との戦い、いくつかあった、原始的ではあっても生命がある星系を襲うアチュルタニ分遣艦隊の撃滅、そして、アチュルタニ本星、コンピュータ暴君本体への襲撃。
その遠征に〈ダハク改〉とコリンはどうしても必要だった。ダハクが人の意識と超水準のコンピュータで、悪に暴走したコンピュータを組み伏せる。そのダハクは艦長として、友として、また……どうしても懸念する人の心を治めるためにも、コリンが必要だった。
〈シルバーン〉からはジュリアを始め相当人数のアンドロイドが、複製され相当改造した〈シルバーン2〉を率いている。もちろん多数のきわめて強力な無人艦隊も。
ケインとギャレット提督も、観戦武官と客将の中間のように加わっている。また、〈アーヴ〉の、ラフィールが率いる反乱勢力からも観戦武官が送られているし、副帝領のドゥヒール、さらにティエルクマスカ連合からも相当な戦力にもなる艦が参加している。
〈ペルホネン〉のミエリとジャン、またジャンの分枝でボーグ・クイーン、幼いマチェクなどとも統合されているドン・ルイス・ペレンナも加わっている、むしろハッキングを主体とする最終戦では主力として期待されている。
第四帝国、そして皇国の常識も外れた、〈アーヴ〉の平面宇宙技術、ボーグのトランスワープ技術も活用した恐ろしい速度。それでも、相当な時間はかかる。
その遠征では同時にすることもある。ボーグが来たゲートを探すことだ。
センサーも強化したが限界はあり、本来の進軍速度よりかなり遅くなる。より短い超光速航行で通常時空に入り、より長く周辺を観測する。
地球の月サイズの超巨大戦艦が30隻以上。
さらに〈アーヴ〉も何キロメートルもの大型艦をよこしているし、ドン・ルイス・ペレンナもいくつかの時空の技術や設計を合わせて巨大艦を建造している。〈仙胡〉も巨大設備を、技術や生産協力の報酬として購入した帝国の遺棄艦に統合した艦を保有している。
ティ連、地球の艦船もかなり巨大だ。
だが、キロメートルサイズぐらいの艦船は、容易に〈シルバーン〉に収納できてしまう。
いくつもの星をめぐる。生物兵器が、〈マット・トランス・システム〉のせいで非常識な速さで感染し、全生物が根絶された第四皇国の星。そんな星には最低限のバイオロイドと、ごく少数の人を残して設備の再起動や修理を手配する。多くなり、破壊がひどければ本隊の人数不足を懸念し放置することも出てきた。
生物が残っていた星もあった。
アチュルタニ分遣艦隊に破壊されたばかりの星もあった。それは哀しみと憎しみを感じさせ、別時空の観戦武官たちには恐怖と脅威を刻み込んだ。
分遣艦隊と戦いになったこともあり、それは戦力で押しつぶした……それは何より、
(多くの時空の技術・戦力・人材をかけ合わせた……)
時の力のすさまじさを、全員に見せつけた。
交易。技術や知識の統合。それはすさまじい力になる。だからこそ人はそれを嫌い、抑圧しようとする。
史上何度も、多くの群れを寛容に……戦いでは残忍を極めても……統合し、技術を活用した帝国が栄えた。
そしてその帝国はいつしか、新しい知識、外の人、別の宗教を受け入れない、自らが受け継いだ遺産すら焼いてしまう抑圧と保守の帝国と化し、より強くなれぬまま、向上なきまま時を過ごして、強くなった別の群れに滅ぼされた。
古代ローマ帝国の寛容。容赦しないときもあったが、エトルリアの技術、ギリシャのアルファベットと神々、バビロニアの占星術、ペルシアの宮廷儀礼、それら多くをとりこんだ。柔軟に新兵器を作り、新技術で金銀を掘り、巨大な帝国を作った。だが、それもキリスト教に支配されたとき、多くの本を焼き、学問を禁じた。
イスラムの寛容。古代ローマの多くを受け継ぐ巨大な帝国を作り、そこでは他宗教も人頭税を払えば平和に過ごせた。……人頭税と公務員資格、公用語の圧力でゆっくりと古来の言語や宗教が死んでいった地域もある。だがペルシア語やトルコ語は生き延び、インドも多くの神々が残った。実際にはユダヤ人の相当部分もイスラム圏で幸せに暮らしていた。だが、特にモンゴル帝国の破壊を見て自信を失ったのか、神秘主義が強まり印刷を禁じる方針を取った。そして近代が進み、敗者となったイスラムは、昔の帝国の寛容が嘘のように不寛容とテロの代名詞に落ちてしまった。
モンゴル帝国。けた外れの支配範囲と残虐さ、だがあらゆる文明から貪欲にあらゆる技師、芸術家を厚遇し、その技術を組み合わせて巨大な城を破壊する攻城兵器を作り、多くの文化が混ざって栄え多くの宗教が議論し合う夢のような都を作り上げた。だが分裂崩壊した国々、特に中国は元を追い出した明が儒教を狂ったように押し付けて寛容を破壊しつくした。
そして、国土が統一しがたかったため、抑圧の意欲はあったがうまくいっていなかったヨーロッパが、イスラムの科学・インドの数学・中国の火薬などを受け入れ混ぜて、近代……科学・産業革命・国家というとてつもない力を手に入れ世界を征服したのだ。
そして〈アーヴによる人類帝国〉は、多くの星間国家を滅ぼし、あらゆる有人星を征服しながら、征服した星の政治や文化に干渉せず、アーヴの軍に志願するという形で人材を受け入れた。ただ、星間航行技術の独自開発を許さない、という抑圧はあるのだが……
多くの技術を混ぜる力のすさまじさ……そしてどうするか。寛容と進歩か、秩序と抑圧か。
その選択は、特にコリンにとって重いものだった。
〈アーヴによる人類帝国〉の動乱も大きいものだった。時空間ゲートが出現したのはちょうど、皇太女ラフィールの霹靂艦隊が〈人民主権星系連合体〉を破った直後であり、彼女は本国に腹心を使者として送っていた。彼女が熱望していた首都奪還作戦の請願を託して。使者の航法は、遅かった。
状況は変わっていた。別時空の速い航法で仮首都に復命したラフィールは理不尽に譴責された。そして遅れて着いた使者たち、〈シルバーン〉のアンドロイドたちの力もあり脱走し、帝国に反旗を翻した。
追撃艦隊、さらに同時に出現した〈人類統合体〉の艦隊の撃退に力があったのは、本国との補給線を保つ・途中にある落ちた首都の敵軍を封じるなど重大な役を与えられ、不満をばらまいていたスポール・アロン=セクパト・レトパーニュ大公爵・ペネージュ元帥・霹靂艦隊の第五艦隊司令長官である。
スポールの説得……それが失敗していれば即座に終わっていた反乱だったが、彼女は楽しんだだけだった。ドゥサーニュ皇帝の心を、
(理解してのこと……)
と、その悲しみを理解するにはスポールの態度はあまりにもふざけており、ラフィールの衝撃もあまりにも重かった。
スポール大公爵家からすれば、
(淑やかなスポールと無骨なアブリアルは昔から反りがあわない……)
であり、アブリアル=皇室からすれば、
(性格のいいアブリアルと陰険なスポールは昔から反りがあわない……)
のである。
反乱そのものは巨大な衝撃だったが、ラフィールは勝利したばかりの司令官だった。
そして新たな勝利もあった。撃破した〈南米連合〉の艦を改造し、あるいは機関だけを自艦隊の巨大艦に強引に載せて、従来と違う速度・近道で〈人民主権連合体〉のわずかな抵抗する領域を攻めた。むしろそちらの中心になっているのは、〈ハニア連邦〉の反アーヴである宇宙派といわれる派閥である。
艦隊は少数ではあったが、反乱に参加するための飴としてスポールに新兵器を預けて最前線に出し、完全な奇襲で膨大な火力を叩きつけた。
その勝利は十分な正統性となった。それは、ついに心配していた父と弟が守る失われた半身との連絡路も切り開き、〈ハニア連邦〉にも致命傷を与えることとなった。
だがそれは、一層の衝撃を意味していた。副帝を名乗っていたラフィールの父ドゥビュースが支配していた星にも、ゲートが出現したのだ。そしてその向こうにあったのは、〈アーヴによる人類帝国〉を人口でも技術水準でもけた外れに上回る、ティエルクマスカ連合の日本であった。
(技術水準を上回る別時空の文明を、これまでのように滅ぼそうとしてもこちらが滅びるだけ……)
(違う時代が来たのだ……)
それはわかってはいた。だが、アーヴはあまりにも長く帝国であり、ラフィールこそまさにアーヴの中のアーヴだった。
皇帝ドゥサーニュ自らが、自分自身を犠牲にして尻を叩かなければ……さらにラフィールの祖母、先帝ラマージュやその母、ほかドゥサーニュの父を含む膨大な犠牲がなければ、彼女はそれを受け入れることなどできなかっただろう。
ティ連とも軍事同盟ではない。だが、その存在と、わずかな交易だけでも膨大な富になる。
もともとアーヴは商人種族でもある。
超光速技術がない時代の、多世代移民船の生体部品から、推進剤の壁を破り亜光速で活動できるようになってから、ずっと商人として宇宙を駆け巡ったのだ。超光速技術を手に入れて帝国業を始めてからも、
(アーヴは商人である……)
という自覚は強く、たとえば皇帝は商業の長でもあった。
父であるドゥビュースとの折衝は大変だった。叛意があったのなら元から副帝など名乗らず皇帝を名乗っていただろう、〈アーヴによる人類帝国〉に対する忠誠は人一倍強かったのだ。
だが、別時空との接触ではアーヴ自身が大きく変わるべきであること、そのための、
(皇帝自らの犠牲……)
を理解できぬほど愚かではなかった。それも半ば諧謔にしてしまい、ラフィールを怒らせたが。
反乱、本国との戦い自体はまだ動かない。むしろ、アーヴそのものの敵との戦いが優先される。
そして〈シルバーン〉に帰還する使者たちに合わせて部下を観戦武官として派遣する、支配した領域を統治するなど、ラフィールのすべきことは多い。
ティ連にとっても、多元宇宙は衝撃的な事態だった。
悩まされていた病気は柏木のおかげで治療のめどがついたが、同時に奇妙な敵との戦いも激しくなっていく。
アチュルタニの本拠星に向かう、コリン率いる遠征艦隊の偵察隊が、ある時、艦を発見した。
600メートル級の、円盤状の本体から二本の棒状部品が出ている艦。
「こちらUSSエンタープライズE、ジャン・リュック・ピカード艦長」
はるかかなたの使者は、いくつもの時空をまとめる戦いの同盟、それをも多数結び合わせ、それが挑まれる巨大すぎる戦いの角笛となる……