第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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「三体シリーズ」の大きいネタバレがあります。

「三体X 観想之宙」は不採用。


目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい/時空の結合より10カ月

 複数の別時空で東奔西走しているヒロに、ギルドからと言いながら事実上はグラッカン帝国皇帝自らの命令が入った。

 ゲートを守り、複数の時空をかなりの程度治めているルシアーダ皇女も、権力嫌いのヒロに権力で命じる罪悪感と、何かとんでもない知らせを受けたものか、複雑な表情をしていた。

(帝国の存亡……)

 ミミそっくりだが強く違うロイヤルスマイルの影に、はっきり感じられる。

 

 ヒロと皇帝の関係は複雑だが良好。ヒロが大手柄を上げて実質貴族とされ、帝都に行った時皇帝に呼び出された。隠れ皇族と判明したミミの件もあったが、むしろそこでヒロがこの時空に出現した瞬間からネットで地球などの名を検索したときなど詳細な調査を告げられ、別世界からの転生者であることも含めて言わされた。さらに実力試しの大会をやられている。

 それが、ヒロの社会的地位・知名度を高めてミミを守れるだけの力を与え、さらに自由も与えている、大きい温情だと理屈ではわかっているが、ヒロとしては、

(ファッキンエンペラーめ、したり面に拳ぶちこんでやりたい、むかつく……)

 程度ではある。

 

 同時に、セレナ率いる対宙賊独立という名の何でも便利屋艦隊にも、

(そちら側に行くように……)

 という命令があり、それもヒロに伝えられた。

 

 グラッカン帝国のある星系にゲートができ、その向こうは破壊された恒星、そこからエネルギーが流れ込んできて混乱していた……グラッカン側の星系も、破壊されつつあった。

 奇妙な艦隊が侵入してきたのだ。ゲートの向こう、水素と放射能が荒れ狂う地獄から。あちらはグラッカン帝国の重シールド戦艦でも数秒も持ちこたえられはしない。だが敵の船は侵入している。

〈水滴〉としか言いようがない、美しい完全鏡面の曲面体が。

 

 セレナの艦隊が、現地から受け取ったデータを検討する……〈水滴〉にはグラッカン帝国艦隊の兵器がすべて通じない。スピードと機動性も異常だ、慣性の法則を完全に無視して急停止し、突然別方向に移動する。

 兵器は使わず、異常な頑丈さ、いかなる傷もつかない硬さでこちらの艦を突き破ったという。

 それを知ったヒロは、セレナ艦隊をとどめて〈クリシュナ〉だけ、光の翼を広げて即時移動した。

 

 対シールド兵器が充実しているヒロの〈クリシュナ〉が接近したとき、〈水滴〉は光速近くで近づく……本来避けられない、だがヒロは息を止めた。

 時空、運命を操る強大なサイオニック。それが〈水滴〉をそらした。

 そして、クギ/タマモがどこで何を知ったのか、ヒロに信じられない指示をした。クギにも強力な思念波感知能力があり、以前も別の異星人どころか生物的な体もない異星知性との和解にかかわったことがある。まして実質上位存在のタマモは……

「そなたが来る前の、故郷の歌を送信するのじゃ!」

 パニックになったヒロだが、半ば本能がそれが正しいと感じ、羞恥に耐えながら、知っている歌を歌い始めた。

 小学校の音楽の時間に習う歌。昔のヒット曲。本当は海外のヒット曲が日本の伝統曲になったようなもの。アニメソング。ドラマの主題歌。

〈水滴〉は止まり、そして……

「思念波が」

 クギ/タマモが軽く苦しみ、汗を流しながら何か頑張り……

「よし……つな……ぐぞ!」

 声とともに、美しい目がヒロに向く。

「あの船の中に、肉体がない、妙な形で作られた心の、写しがある。それがヒロ、そなたにとても近い、似た文字を用いて考えているのが伝わったのじゃ」

「通信……微弱、ノイズの……」

 ミミが汗を流しながら通信機を調整する。

「この文字は言語データベースにありません……」

 この時空の、コンピュータに触れる知識は全て持つメイドアンドロイドのメイが眼鏡の下の眉をひそめる。

「ヒロに」

 クギ/タマモの言葉、ヒロがミミのところに急ぎ、画面をのぞいた。画像ソフトが立ち上がると、ゆっくりと文字を描き、並べつづける。

「漢字?漢文、いや中国語か?簡体字だっけ?」

 そういいながら、読む。普通に大卒の人間が、わずかな漢文能力を応用して無理に、日本の新字体と違う漢字を追う。すぐに、ヒロのインプラントなしにあらゆる言語を読み話す能力が発動し、普通に読めるようになる。

「雲天明……」

 そして、前の世界、地球での自分の名を漢字で心に浮かべる。

 

 雲天明。三体。

 その話は数奇を通り越していた。

 

 その地球で……はるか昔、文化大革命で一人の科学者が惨殺された。科学を、物理学の普通の研究をしていた罪で。妻に告発されて。

 その娘、葉文潔は自分自身も迫害されて育ち、また些細な知の活動で密告されてひどいめにあいながら学問を続け……中華人民共和国の、極秘の科学計画に加わった。それはSETI、異星人との交信を目指すものだった。

 そこで異星人のメッセージを受け取った彼女だったが、ある時とんでもないメッセージが飛び込んできた。

 我々は邪悪な侵略者だ、返信するな、と。

 彼女は返信した。

 地球人に対する復讐。情報を隠すため、彼女は上官と夫も殺した。

 

 その後、地球では奇妙なコンピュータゲームが流行した。そのゲームの舞台は地球に最も近い三重星で、カオス、複雑な軌道を取り時々惑星は焼かれる厳しい星であることが伝わる。

 そしてある時、三体と言われるその星から侵略宣告がされ、ゲームをやっていた人たちを中心に三体人の側に着く地球人も多く出た。環境を愛する超金持ちなどが地球人に絶望し、助けを求めて。三体側の組織と、地球人の治安組織の暗闘は続いた。

 そんな中、突然地球での、粒子加速器……電磁気力で、電子ビームと同じように素粒子を光速ぎりぎりに加速し衝突させることによる、現在の物理学の最も先端の実験が、まったく意味が通る結果を出さなくなった。

 その絶望からか、物理学者である葉文潔の娘が自殺したこともあった。

 三体人には超光速航行技術がなかった。だが、その科学力を尽くして、電子一つの中に巨大な回路を封じ、ほぼ光速で地球に向けて打ち出したのだ。

 素粒子サイズのロボット、智子(ソフォン)はあらゆる情報を三体星の片割れに送り、また地球人の加速器実験、その他人工知能などの量子レベルの先端物理学を邪魔し始めた。

 三体人は進歩し続ける。地球人は進歩できない。三体艦隊が地球にたどり着く数百年後には、三体と地球の差は、戦国日本と第二次大戦米軍の差から、石器時代だったオーストラリア先住民と21世紀米軍より大きな差になっている。戦いにならないほどに差が開き、確実に侵略は成功する……

「おまえたちは虫けらだ」

 というメッセージが届くほど、絶対必勝の一手。

 

 その状態でも地球人は抵抗の努力をした。

 何人かは冷凍睡眠技術を用いて時を越えもした。

 情報を得るために、地球人を冷凍睡眠で送ることもした……階梯計画と呼ばれる。

 階梯、梯子というのは、程心という美女研究者のアイデアだ。地球人の弱いロケットではそれほど速く飛ばせない。核兵器で加速しても。

 だが、核兵器を先に並べて、タイミングをそろえて順番に爆発させ、その爆発力で押して加速すれば?高真空・無重力の宇宙では、速度は単純に足し算になる。相対論が影響するまでは。

 それでもなお、飛ばせたのはぎりぎりまで重量を絞ったペイロード……脳とわずかな作物の種子だけだった。

 

 飛ばされる人間は、末期癌(がん)でなければならなかった。

 志願した雲天明、彼は学生時代、激しく程心を恋していた。彼が学生時代に出したあるアイデアを別の友人が事業化して成功、それでもらった大金を、程心に匿名で空の星々の一つの所有権を送るのに使ったほどに。

 ぎりぎりでそれを知った程心は激しく後悔したが、彼はもう手術で脳だけとなり、ロケットに積まれていたのだ……

 

 その脳のコピーの一つが、爆発する三体星から来た艦のコンピュータに積まれていた。

 それが交渉先となり、話を始めた……だが、根本的な食い違いがあった。

 サイオニック能力も使って互いを理解していくにつれ、それがわかり……クギも、ヒロも震えあがった。

 

 ゲートの向こうの時空は、頑として超光速航行技術ができなかった。それ以外の技術はとてつもなく発達するのに。

 それは恐ろしい宇宙社会を引き起こしたのだ。

 

 地球人では遠くの、複数の国でも、何度も戦ったり交易したりしているうちに信頼関係ができる。

 だが、通信でも百年近く、船ではもっと、技術水準によっては何十万年でも早いほうであるのに、そんな信頼関係ができるだろうか?

 そして知的生命は、何であれ進化で生じる。進化……指数関数増殖する生物やその類似物の、大半が死ぬことで成立する。

 知的生命が指数関数増殖すれば、ごく短期間で宇宙の資源全ても使い切る。

 そして、どの知的生命文明も、生きたい。

 さらに、地球人を思うといい……文明から月着陸までの数千年、さらにガリレオ・ケプラー・ニュートンの太陽系力学やニューコメンの蒸気機関から、月着陸までのわずかなわずかな時間。

 どの星の知的生命体もそうだ。宇宙の何万年が一瞬の時間軸から見れば、昨日まで石を割っていた種族が、今日は惑星破壊砲を放ってきても驚くにはあたらない。

 

 どの知的生命文明も生きたい。宇宙の物資は有限だ。

 猜疑連鎖……相手の心の中はわからない、相手が友好的でも嘘かもしれない。

 技術爆発……今は弱い相手でも、明日は強いかもしれない。

 

 論理だけ。論理だけで、葉文潔は結論にたどり着いた。そして羅輯という弟子にだけ伝えた。

 暗黒の森。

 

 後に、羅輯が史強という友人に説明した。

 月のない夜、暗い森。煙草の火ひとつでも、遠くから見える。

 相手を信用できない、知らない、話せない……隠れ、先に撃つしかない。狩人、狙撃手のあり方。

 相手が何であっても。原始的でも。どんなに美しくても。赤ん坊でも。老人でも。美女でも。

 星系ごとの皆殺しあるのみ。

 宇宙征服など冗談ではない、上には上がいるにきまっている。

 

 それが、フェルミのパラドックス……異星人がいるならなぜ地球を訪れないのか、の答えでもある。

 

 そんな世界で、三体の艦隊は地球から飛ばされてきた雲天明の脳を受け入れてリバースエンジニアリングして肉体を与え、その情報を本星にも量子通信で送った。

 その後、三体艦隊と地球人は争い、その結果、三体星の情報は全宇宙に公開され……どこか全く別の異星人に、三体星は破壊された。地球も時間の問題だろう……

 

 

 地球の運命、三体人の運命、それ自体も衝撃だった。だが、ヒロたちにとっては冗談ではなかった。

 超光速がないとはいえ、そのような精神構造の何億という種族が銃を抱えて隠れている。

 他者を見れば皆殺しにすることしか考えていない連中が。

 資源に飢えて。超光速技術に飢えて。とんでもない技術を発達させて。

 そいつらが、爆発が収まったこのゲートを通ってグラッカン帝国に攻め入ってきたら……

 そいつらが、そちらの世界に生じた別のゲートを見つけたら……

 

 ヒロは、ひたすら絶叫した。

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