第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

8 / 70
旧・3と完結編の間。復活編や2199は完全無視です


宇宙戦艦ヤマト/時空の結合より3カ月半

 ガルマン・ガミラスがボラー連邦を撃破し、地球はそのガルマン・ガミラスと同盟を結び適度な距離を取って交易に力を入れていた、そのときに多元宇宙の扉が開いた。

 地球の近くには〈ワームホール・ネクサス〉のエスコバール、ガルマン・ガミラス本星の近くからはローエングラム銀河帝国につながるルートができた。さらにボラー連邦残存勢力と並行時空の艦隊が激しい戦闘を繰り広げているという。

 新たな動乱を前に、二組の招かれざる客が訪れた。

 

 

 ルークたちは一度同盟本部に戻り、クリス・ロングナイフらを首脳陣に紹介した。

 彼女の警告や、故郷についての情報は高く評価された。またスマートメタルや先進的なコンピューターとの交換で、ワスプ号にも最先端のエンジンが取りつけられ、単独で超光速航行ができるようになった。

 また太助も雷からの親書を渡した。

 そして再びタトゥーインに向かう。そこではやはり、ボラー連邦を攻めるために帝国艦隊が次々と集まり、出撃している。

 その中にミレニアム・ファルコンとワスプ号は、スマートメタルを用いて姿を変えてもぐりこみ、時空のゲートを抜けた。

 

 ゲートそのものは、こんな現象である。

 恒星の近く……大体は住める惑星のやや外側の公転軌道に、木星大の新しい惑星が出現し、公転しているように見える。だが、それは重力を発しない。

 厚みもない。薄い円盤が、常に恒星をむいているだけに見える。

 光も、日光よりずっと弱い、虹色の光が出るだけだ。その光はどう解析しても無秩序情報で、反対側を観測することはできない。

 その円に恒星側から侵入すると、別の時空のゲートの「裏」から、恒星から離れる方向に出る。

 逆に、恒星から遠い側から入ろうとすると、奇妙な反重力にはじかれてしまう。

 艦隊でもそのまま入り、何事もなく別時空に行くことができる。

 交通整理の必要さえない、しごく便利なものだ。

 現在知られている限り、いかなる兵器でもその門を破壊することはできない……

 

 

 

 一方、マイルズ・ヴォルコシガン皇帝直属聴聞卿と新婚の妻エカテリン、エカテリンの連れ子であるニッキの三人はエスコバールに着いた。

 思いがけない歓迎が待っていた。

 エスコバールの宇宙港で、とんでもなく異質な船を見て、マイルズは震えた。

 赤く塗られた、優美な曲面で構成された喫水線下。城のような巨大な砲塔と艦橋。正面を睥睨する波動砲。

「ヤマト……」

 マイルズは、以前の冒険をほぼ覚えている。

「古代!島!」

 港にすっとんだマイルズの絶叫に、振り返ったクルーたち。

 叫びとともに、マイルズは携帯装置から大音量で音楽を流し始める。

《サリアの娘》。

 滅びたレシクの笛の音。

 ノリコ・バッハのヒット曲。

 次元をかける竜と黒の剣が響かせる煉獄の歌。

 ヤマトの誰かが目を輝かせ、音楽を響かせる……ヴォルコシガン領の深山に伝わる民謡。バラヤー帝国国歌。

「ヤマトーっ!」

 小さい体の、両手を全力で振り回す絶叫を、全員が見た。

「だれか、ぼくを覚えていないか!」

「おぼえて、覚えていますとも!」

 雪が叫び、マイルズに激しく手を振りながら古代と島をゆさぶる。

 驚いたことに、その傍らではタウラ軍曹とローワン・デュローナが微笑んでいた。

 タウラ軍曹の、三メートル近い巨体と狼じみた顔は恐ろしく目立つ。それが大きく手を振れば、さらに目立つ。

 マイルズのボディーガード、親衛衛士のロイックがぱっと笑顔になる……彼は、マイルズの結婚式に訪れたタウラと恋仲になっていた。タウラとローワンは、マイルズの昔の恋人でもあったのだが。

 エカテリンの手を引き、全速力でヤマトのクルーに駆け寄ったマイルズは、爆発するような笑顔で古代の手を握る。

 そして小声で、

(今はヴォルコシガン卿だ、ネイスミスの名は出さないでくれ)

 とささやく。

(了解してる)

 古代も小声で返す。

 マイルズは追いついてきたエカテリンの腰を抱いた……肩を抱くような腕の角度で。

「紹介するよ。ぼくの、多元宇宙でもいちばん美しい妻、エカテリン」

「まあ、おめでとうございます!」

 雪が嬉しそうにエカテリンと握手する。

(この方も昔の恋人?)とマイルズに目で聞くエカテリンに、

(ちがう、って示さなきゃ)と焦ったマイルズは古代をつつき、

「古代、もう式は挙げたのか?それともまだ、みんなをやきもきさせてるのか?」

 と豪快に笑った。

「余計なお世話だ!」

 エカテリンはタウラを振り返り、

「タウラ軍曹、結婚式の際は命を助けてくださり、改めてありがとうございました」

「幸せそうで何よりね」

 と微笑み合う。

「おい、公務がまだあるだろ、古代艦長」

 島が『艦長』を強調した。

「ああ、そうだな……すまないが、雪」

「はい、ご案内しておきます」

「第三艦橋は勘弁してくれよ」

「いえいえ、ていと……閣下にふさわしいのは、第三艦橋ですよ」

 と、雪とマイルズ夫妻は笑いながらヤマト艦内に戻る。ニッキとロイックも、当然のように通された。

 並行時空への船のチケットを必死で求めている大金持ちや貴族たちは、あきれる思いで見送った。

「あの軍服、バラヤーの威光か?」

「いや、あの小さいのは見たことがある……デンダリィ自由傭兵隊の前隊長、ネイスミス提督じゃないか?」

「あのダグーラ第四の英雄?」

「あの人造スーパー兵士もデンダリィ隊の名物だし」

「いや、ネイスミス提督はセタガンダが作ったクローンで、最近戦死したというぞ」

「引退じゃなかったか?」

「なら、元親の……バラヤーの?」

「こちらではそう名乗っているらしいが」

「いや、ジャクソン統一星で、延命用クローンを多数盗んだという、ネイスミス提督のクローンじゃないか?」

「マーク大豪?デュローナ・コンツェルンのオーナーだろう」

「地球からのニュースを見たけど、もう一人クローンがいるらしいぞ」

 ざわざわ、と港は騒ぐ。そしてくろがねの巨艦を見上げながら商売と、脅威を計算していた。

 そんなおえらがたを尻目に、平常業務に励む人たちももちろんいる。

 

 艦内で、マイルズは周囲を見回した。

(ほとんど知っている顔がいないじゃないか。艦隊の再建でみんなが昇進した、のだったら古代と島が同じ艦にいるのはおかしい、二人とも提督になれる存在だ。

 新顔ばかりだ……多くの人が戦死していた、ということか……)

「ヴォルコシガン卿」

 タウラ軍曹が振り返る。その目は良く知っている、戦死者報告の目だ。

 マイルズはうなずき、雪に振り返る。

「森雪」

 提督の、大貴族の態度。雪はとっさに態度を改める。

「はい」

「ヤマトの、あれからの戦死者たちに敬意を表したい」

「はい」

 と、雪は第二艦橋にマイルズを連れて、戦死者を記録した名簿を出した。

 クルーが闖入者に驚くが、雪に制止された。

 マイルズは亡き戦友一人一人の名を声に出さず読み、必死で涙をこらえていた。

 最敬礼し、抑えきれぬ悲しみに腹を波打たせた。雪も敬礼を返し、涙を流している。

 タウラも、あらためて悲しみに打たれている。

「みな、立派に死んでいきました。地球を守って」

 雪が涙を流しながら、誇りに満ちて静かに言う。

「心から敬礼します」

 しばらくして気を落ち着けたマイルズが、士官たちが秘密で話せる部屋に移った。

「ヴォルコシガン卿」

 タウラが少し悲しげに言う。マイルズは悲しみをおぼえたが、それよりヤマトの戦死者の悲しみのほうが何倍も大きかった。

 彼女が、部下だった時の口調で報告を始める。

「デンダリィ隊がヤマトのクルーを見て、お互いに思い出しました」

「ぼくの船旅中、だな」

「デンダリィ隊の、他の……ネイスミス提督の正体を知らない者はクイン提督に率いられて、バラヤーに向かっています」

 身分を偽装し、デンダリィ隊を指揮していたマイルズとデンダリィ隊が接触するとややこしい問題になるからだ。

 そこに佐渡医師が出てきて、マイルズに笑いかけた。

「佐渡先生」

「実は、あと二カ月の命だったんですが、佐渡先生に伸ばしてもらったんだよ」

 タウラが平然と笑う。皆の表情がぱっと輝いた。

「元気なようじゃな」

「二回ほど死んだけどね」

 と、笑い合う。冗談でなく死んだことは、はっきり伝わる。手榴弾で胴体を失い低温治療で再生され、さらに軍を罷免されネイスミス提督の地位を失い……

「ようし、飲もう!」

 雪や佐渡は、どれほどのことだったか感情を察し、酒にしようと誘った。ヤマトの古参クルーはそれができるほどの百戦錬磨であったし、以前の戦で深い絆をマイルズたちとも結んでいた。

 

 並行時空へのチケットはそうして手に入ったが、ヤマトもマイルズも、エスコバールにも滞在しなければならない。用事は多いのだ。

〈ワームホール・ネクサス〉時空では、ワームホールがあるところでしか超光速航行はできない。まず来たのはヤマトであり、エスコバールと相互不可侵条約を結んだが、波動エンジン技術のリバースエンジニアリングは拒否した。

「利益のためじゃない。波動エンジンを悪用したら危険すぎるんだ」

 と、古代は叫んだものだ。

 ヤマトに帰って波動砲のことは漏らしていないぞ、と威張っていたが、

「ヤマトの姿を見れば巨大兵器があることは一目瞭然だろう」

 真田に指摘され、

「なら波動砲を搭載していない艦で未知の世界に行けというのか」

 と、わめいていた。

 それ以降は、巡洋艦程度の軽武装で輸送力を増強した波動エンジン艦で貿易を始めている。まだ試験的な段階だが、ワームホール・ネクサスの高い医療技術は地球で高く評価されている。特にエスコバールは、ジャクソン統一星からデュローナ・グループが亡命したことで、医療技術は大幅に底上げされている。

 地球には、うち続く戦乱で重い傷を負った英雄も多くおり、彼らが回復できる希望には高い需要がある。

 逆に地球からも、波動エンジンそのものは与えないにしても超時空通信など、いくつかの技術は売っている。ガミラス・白色彗星帝国・暗黒星団帝国から奪った技術は豊富だ。

 だが、まだまだ船便は少ない。

 

 マイルズはバラヤーの大貴族として、エスコバールのバラヤー大使館、そこの機密保安庁分室と緊密に連絡を取り合い、外交もする。

 また、まちまちの年齢の姉妹たち多数からなる遺伝子改良された天才一家、デュローナ・グループと会うのも、重要な仕事だった。彼女たちがジャクソン統一星から脱出したのにはマイルズの弟、マークの功績が大きい。

 彼女たちにとっては投資家でもあるマークから、関係する話も取り次いだ。ジャクソン統一星で作られ売られたマークは、特にクローン延命技術に対する恨みが激しい。金持ちがクローンを作り、成長を促進して健康な大人の体格まで、適度な運動をさせて育て……金持ちの脳をクローンに移植し、クローンの生来の脳は捨てて死なせるという、ジャクソン統一星ならではの悪魔じみた不老長寿技術だ。

 本当にその商売を潰すには、その技術を時代遅れにするしかない……デュローナ・グループはその意を受けて研究に取り組んでいる。成功すれば莫大な儲けになることも当然のことだ。

 そして、多元宇宙の結合に伴い、大きな進展もある……ヤマトがもたらした、暗黒星団帝国の技術は、外見は人間と変わらないサイボーグに脳を移植するものだ。それは大いに有望な延命技術である。

 ヤマトの地球ではまだそれを延命技術にするほどバイオ技術が進んでいないが、ワームホール・ネクサスの、デュローナ・グループの高いバイオ技術なら……

 あわただしい日程を駆け抜けたマイルズはヤマトに乗った。

 ヤマトの側も交易や外交日程をこなし終え、ゲートを抜けて故郷の地球に向かう。

 だが、そこで突然飛んできた奇妙な船にデスラーの危機を知らされ、ヤマトは地球に降りる暇もなく全速で連続ワープに入った……

 

 

 ボラー連邦とパルパティーン帝国の戦いに紛れて離脱したミレニアム・ファルコンとワスプ号は、ガルマン・ガミラス帝国の首都に向かった。

 絢爛豪華なドーム都市、強大な新興軍事帝国。

 その規模、空中を走るチューブ軌道車など、クリスやルークでさえも唖然とするほどの技術力があった。

 だが光あれば必ず闇はある。巨大な都市だからこそ、悪党もいる。

 デスラー総統は遠征中。クリスやソロは面会の予約を求めつつ、ピーターウォルドの覆面企業やソロがよく知る麻薬商人を何人も見出していた。

 悪党さがしは、ソロ・太助・アビーの三人が主に担当している。アビーと太助は大いに気が合っているようだ。

 

 ガルマン・ガミラスの高官に招かれ、故郷時空の話や商談をした帰り道。

 クリスの故郷にとって処女地であるここで、通貨も身分保障もなにも効果がない……それでどうやって、高官に招かれるような社交活動を始めたのか?

 彼女は、故郷では大富豪でもある。だが、並行時空では故郷の貨幣は無意味だ。貨幣は本質的に、政体の内部でしか通用しない。

 黄金やダイヤモンドさえも価値はない……宇宙進出ができる種族ならば、小惑星から黄金などいくらでもとれる。ダイヤモンドでできた惑星すら珍しいものではない。現にイスカンダルでも今のガルマン・ガミラスでも、ダイヤモンドは建材だ。

 それを理解しているクリスは、並行時空の探索に志願した時、莫大な信託財産の大半を技術に換えた。

 三種族……人類が宇宙に進出する前に繁栄し、理由不明で消えた文明の遺物を、かなりの数。クリス自身遺跡発見者としても有名だし、すぐれた学者や大企業のトップも家族にいる。金で買えない遺物も入手できる。

 彼女自身が持つネリー、超ハイエンドのコンピュータの一世代下を多数持ってきているし、それは部下全員に配られ戦力を底上げしてもいる。

 スマートメタルや、ソフトウェアも、どこでも膨大な金になる。また芸術やポルノのソフト、スパイスから伝染病まで多様な遺伝子も、並行時空のどこでも高い換金価値がある。

 書画骨董のたぐいは明白な希少価値があり、高く売れる。

 身分については、故郷時空の場所と連絡先を教え「嘘であれば照会すればわかります。ですから、嘘をつく動機がありません」とするしかない。

 ルークは本来のボディーガードであるジャックとともに、話の幅を広げるために同席していた。

 ガルマン・ガミラスの高官の多くも最前線で戦う武人であり、激しい戦いを経験した武人であるクリスやルークの話は喜び、多くの人に紹介もしてくれた。

 華やかな席だが、クリスのナノバグを用いた、水の羽衣のように変形し続ける服は、男性の目をひきつけ夫人たちの憧れとなった。

 無論それはとんでもない価格で売ることになる。どうせ分析されるのだからと先にメーカーに特許を売ってしまえば、二重に大もうけできる。

 晩餐の席には、高い名誉を持つ名物男もおり、軍談を楽しみもした。

 その帰り道には、海兵隊の一個分隊がついていて、奇妙な集団となっている。

 ある広場で、ルークは始めて見る設計思想の涙滴型の宇宙船を見かけ、激しい衝撃を受けた。見たこともない船、だがその中に……

「どうしたの?」

 クリスが様子を見とがめた。

「ここに、とんでもない力の持ち主がいる」

「敵か?」

「邪悪な感じはしないな」

 もしその中を見たらさぞ驚いたろう。

 その中に隠れていたのは、地球大気では生きられぬ、レンズを持つ生物だった。おぞましいとしか言いようのない外見の。

(ジェダイよ)

 心に響く声に、びくりと驚く。そして、中にいる者の正体も洞察した。

(ドメル広場に急げ)

(わかった)

 そう、心の声で返したルークは、相手の力に圧倒されていた。その命令に従うべきだと、はっきりわかっていた。

 走り出した。

 

 都のはずれにある、英雄の銅像に見下ろされる広場。たくさんの群衆がさんざめいている。

 その群衆を激しい怒号とともに、デスラー親衛隊の制服を着た一個小隊がかきわけ、一人の男を襲撃しようとした。特徴のあるひげの男に、容赦なく銃がつきつけられ……。

 ルークとクリスが、ひげの男を守って立ちはだかり、

「動くな!」

 と叫ぶ。

「む」

 先ほどの会食で座を共にした、ひげの男が驚いた表情で、ルークとクリスを見た。

「フラーケン大佐!」

 クリスが叫んで……彼を押し倒すように伏せさせる。

 立ちはだかったルークが、別方面からの狙撃をライトセイバーではじき返す。

「何をするか、デスラー総統のご命令で反逆者を抹殺しようと」

 親衛隊の声に、

「嘘だ!」

 ルークが叫び返す。

「正規の命令書はあるのですか?」

 クリスの言葉にかまわず襲おうとした数人の兵、

(非殺傷制圧)

 ネリーへの、声を使わない命令を受信し、素早く動いた海兵隊員が群衆の間から滑り出て、兵士を格闘で制圧していく。

 親衛隊の一人が、異常なほどの身体能力でフラーケンを襲い、ルークのライトセイバーに両断された。

「きさま、デスラー親衛隊になぁにしやがる」

 親衛隊の隊長が海兵隊員に膝を蹴られ腕を縛られ、親衛隊らしからぬ下品な口調で怒鳴った。

 フラーケンが、逮捕しようとした部隊の、一般兵の一人を鋭く指差す。

「貴様は知っているが、他のものは見たことがないぞ。親衛隊の態度ではない、ただのチンピラと……ルークが斬ったのは、身体改造を受けた暗殺者だな」

「こいつ以外の、親衛隊の制服は偽造であり、発信機能がある偽造困難な身分証は持っていないですよ」

 クリスはネリーの報告を、群衆に聞こえるように大声で言う。

「なんということだ」

「それだけじゃないぜ」

 群衆の中から、一人の美女の腕を両側からソロと太助がつかんで引っ張り出し、クリスとうなずき合う。

(ルーク、自殺予防)

 クリスの、口を動かさない言葉をコンピューター経由でルークは聞いた。

 女が目を見張り、口を動かそうとした瞬間、ルークの手が動く。

 毒を噛み破ろうとしたあごが凍りつく。

「すごくたちの悪い麻薬を売ってた女が、なんかすごい嫌なにおいの陰謀をやってるようだから追ってた」

 太助が笑う。

「ネリーから、こいつをつかまえろって指示があったんだよ」

「そう。この女が、超小型の通信機でこの親衛隊員に指示を出していた」

 クリスが厳しく、どこも動かせない女をにらみ、群衆を警戒する。

「そうそう、ここの地下街で、別の宇宙で発明されたっていういい薬を手に入れた……即効性ペンタ、というらしいな」

 そう言ったソロが、ハイポスプレーを女に当てる。そして女の表情がだらしなくゆがむと、尋問に応じて語り始める……

「誰の命令だ?どうやって親衛隊の兵士を動かした?」

「ピーターウォルドさまの命令で、その親衛隊の男に麻薬を売って、命じた。シオナイトに逆らえる人間なんていない」

「うまくいっていたら、どうなっていた?」

「フラーケンを、親衛隊の制服を着た人たちが抹殺する。

 それでガイデルが反乱しなくても、ガイデル反乱のうわさを流しつつ、あたしたちの戦闘部隊がガイデルの味方を名乗って暴れ、混乱に乗じてガルマン・ガミラス帝国をピーターウォルドさまのものに」

「あいつららしいやりかたね」

 クリスが唾を吐き捨てる。その自白は、しっかりネリーを通じて増幅し、群衆に聞かせている。

「さらに裏があるだろう。シオナイトという麻薬は、クリスが教えてくれた彼女の故郷にも、僕の故郷にもないぞ」

 ルークの言葉に、女は激しく口をゆがめる。

「デスラー艦を襲う、ボスコ」

 とっさに、ルークが女を突き飛ばした。女の頭が爆発する。

「感じられなかった、殺気も、どこにもない」

「ネリーも、電波信号を何も検出していないわ」

 ルークとクリスが目を見合わせる。

 そこに、本物のデスラー親衛隊の士官・憲兵隊士官などが、フラーケンの連絡を受けてあらわれた。

「何があったのだ、ヴィスト、フラーケン」

「まず、その群衆から話を聞いていただきたい」

 クリスの、士官としての権威ある声に、親衛隊士官もとっさにうなずいて情報収集を始める。

(親衛隊と前線士官の抗争があったら大変よ)

 と、政治的なことを考えてしまうのもクリスの、自分では好まない面だ。

「そしてこれには、すべての音声・映像記録がある。未編集だし、そこの監視カメラも同様の音声・映像を拾っているはずよ」

「わかった」

 親衛隊士官がうなずいた。

「いい?フラーケンは無実、巻き込まれただけ。そのことはこの広場の群衆、全員が証人よ。むしろわたしたちは、あなたの仲間の仇を取るため、にっくき麻薬売人と戦う。まずこいつらの戦闘部隊を奇襲しなければ」

「行こう、クリス」

「ああ、そうか。ヴィスの仇は、麻薬売人、ピーターウォルドなのだな」

 親衛隊士官が、呆然としてあちこちに連絡をする。

 憲兵隊が、海兵隊が潰した一人一人をあらためて拘束する。

「そうよ」

 クリスがとっさに恐れたのが、親衛隊が敵味方思考でフラーケンやクリスたちを敵とみなしてしまうこと……最悪、ガルマン・ガミラスを二分する内乱に巻きこまれることになる。

 実は、親衛隊士官の感情を、ルークがフォースでなだめ、怒りを抑えている。

 

 フラーケン、その上官ガイデルというガルマン・ガミラスの武人には、功があった。ヤマトを倒したという巨大すぎる功が。

 彼ら自身はヤマトの名もろくに知らず、デスラーの命令を無視してでも戦いぬいただけだ。

 だが、その結果……命令に背いたのだから譴責は当然と受け入れたが、巨大な名声に困惑した。

 旧ガミラスの者は誰も、ヤマトに完全勝利した、ということを、信じない。記録を確認したら、神様扱いする。

 ガイデルたちの軍事的な功績は、ヤマトの件を除いてもきわめて高いのだが、それとは桁外れの扱いを受けてしまう。

 それは、独裁国家では身の危険につながることを、ガイデルもフラーケンもよく理解していた。

「きみたちは、並行時空から来たという……先ほど、カールティリの夜会でお目にかかったな」

 フラーケンがクリスたちを、あらためて見た。

「はい」

「助かった、そんな手で来られたら、われわれはデスラー総統閣下に忠誠を誓っているというのに反逆者にされてしまう。デスラー総統が危ないというなら、こうしてはおれん、すぐに出撃しなければ」

「いえ、事情聴取は必要です、申し訳ありませんが」

 といいながら親衛隊士官は死んだ女の言葉を再生して聞き、ぞっとした表情で目を見開いている。

「は、はやく増援を出さなければ」

 フラーケンが拳を握り締めている。その間に、太助とソロが軽くクリスにウィンクをして、群衆の中に消えた。

 すぐに飛び立ったミレニアム・ファルコンは地球に急ぎ、ヤマトに助けを求めた。

 太助もソロも、ヤマトのことなどろくに知らない。だが、ルークはあの、謎の涙滴形船の中のレンズマンから、『地球のヤマトに知らせるように』と言われていたのだ。

 そのルークが持っている、ネリイより少し劣るだけのコンピュータから、ソロに連絡が行っていた。その指示通り、一連の騒ぎの映像を送信したら、ヤマトはすぐに動いた。

 

 

 デスラーは解放したガルマン人の多い星を訪問し、同時に周囲での戦線を監督し、将兵に顔を見せ鼓舞する……かなり外交的な遠征をこなしていた。

 また、ボラー連邦はパルパティーン帝国と争っており、次の敵としてその情報を集める目的もあった。

 その道中、半ば感傷で、かつてガトランティス帝国に身を寄せていたころに戦った戦場に花を手向けようと、少数の艦隊で複雑な宇宙気流の中を通っていた……その時に、奇妙な艦隊の強襲を受けた。

 敵の中心に、かなり巨大な艦がいる。

 奇妙なほど機動性が高く、多数の、巨大な虫のような兵器を出して襲ってくる。

「わたしに牙をむくとは。デスラー親衛艦隊の名にかけて、叩き潰してくれる」

 デスラーは冷静な怒りを込めて、激しく抵抗していた。

 だが、どう見ても絶体絶命……

 そこに突然、三隻の船がデスラーを援護して激しい砲撃を始めた。

 ヤマトと、ミレニアム・ファルコン。さらに、恐ろしく遠くから、とんでもない精度と威力の狙撃。

「古代」

「デスラー!無事だったか」

 デスラーのパネルに映った古代が笑顔を見せた。デスラーも嬉しそうに微笑み返す。

「そちらの船は?」

「われわれはミレニアム・ファルコン。並行時空のものだ。デスラー総統を助けに来た」

「ほう。われらも負けてはならんぞ」

 デスラーが親衛隊に命じ、精鋭艦隊も発奮して戦い始めた。

 ミレニアム・ファルコンがスピードで斬りこみ、虫型の小型機を撃墜していく。

 そして謎の、遠くからの狙撃が大型艦の推進部と兵器を破壊し、接近したヤマトの強力な主砲がとどめを刺した。

 

 またガルマン・ガミラス治安維持組織が慌てている間に、ルークの指示でクリスが率いている海兵隊が素早く動いた。

 工業地帯の近くの、最近シャルバート教団から分かれたという妙な寺院……そこが、一個大隊の兵士を吐き出したのだ。

 敵は全員服装は民間人だが、重武装している。

 海兵隊が、乗ってきた車をバリケードに必死で抵抗する。

 激しい銃火が飛び交い、手榴弾が炸裂する。

 海兵隊が優位に立つのは、全員が装備しているきわめて優秀なコンピュータ。全員死角なしに周囲の状況を見て分析し、一つの生き物のように動くことができる。

 だが敵は、強力なレーザー兵器と数の優位、そして麻薬中毒で苦痛なく襲ってくる。

 ひたすら海兵隊が稼いだ時間、そこにクリスとルーク、親衛隊と憲兵がやっとかけつけた。

 ルークが指示した標的の一つ、麻薬商人の拠点は、小さかったが抵抗が激しく、親衛隊からも犠牲者が出た。強力なロボット兵もおり、ルークがいなければ勝てなかったろう。

 そちらの拠点は不利と見るや大爆発し、すべての証拠は消し去られた。

 

 

 そしてガルマン・ガミラス本星に向かったデスラー親衛艦隊とヤマトは陰謀を聞いた。

 もちろんデスラーと、名士となっていたガイデルがクリスらに深く感謝したのは言うまでもない。

 それでピーターウォルド家の企業を叩き潰し、さまざまな外交関係を練る……そのつもりだったデスラーたちは、恐ろしい知らせを受けた。

 

 ガルマン・ガミラスの辺境にできたゲートの向こう、ローエングラム朝銀河帝国を、とてつもない数の艦隊が襲っているというのだ。

 地球人に似てはいるが、巨人の艦隊が、千万隻以上……




宇宙戦艦ヤマト
スターウォーズ
海軍士官クリス・ロングナイフ
銀河戦国群雄伝ライ
ヴォルコシガン・サガ
レンズマン
銀河英雄伝説
超時空要塞マクロス

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。