第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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ヤマトは全部旧です。リメイク全然反映してません。


銀河英雄伝説/時空の結合より4年1カ月

〔UPW〕がつなげる、さまざまな暦があるいくつもの世界。だが、〈コーデリア盟約〉でそれほど科学技術格差がないため、ほぼ同時にそれが起きた。

 某月某日……生産グラフの傾きが、45度になった。1になった。

 そのとき以前と以後では、まったく別の世界である。

 低品位の小惑星などを用いる、自己増殖巨大工場。その指数関数グラフ。

 2,4,8,16,32……2%の経済成長や人口増加、0.01%であろうと換算するだけで本質的には同じ……最初はゆるやかだが、突然爆発するグラフ。

 

 後には太陽を絞って原子番号を変える技術も控えている。地球の何倍もの鉄核を抱く巨大ガス惑星も利用できる。信じられないほど莫大だ、だがそれでも指数関数の前では塵芥でしかない。

 

 震え上がっている人がいる。

 ラインハルト・フォン・ローエングラムは、同盟の装甲車に生身で立ち向かった初陣より、友を失ったときより、ゼントラーディ艦隊に立ち向かうときより巨大な脅威を理解している。そして真正面から見据えている。責任から逃げない、それだけが彼を、

(門閥貴族どもとは違う……)

 支えているのだ。

(キルヒアイスに恥じぬために……)

 でもある。

 彼はふたつの紙束をいじっている。『死者の代弁者』と署名されている。開こうとして、手が震え、キルヒアイスの写真を見る、それを繰り返す。

 

 エル・ファシル自治領のアレックス・キャゼルヌは、グラフを見て静かにため息をついた。

 このエル・ファシル自治領も、自己増殖性工場を与えられている。ユリアンとキムボール・キニスンが、ラインハルトまで飛んできて守ったものだ。

 同じものを見ている、遠い〈獅子の翼(ルーベンフリューゲル)〉にいる妻子とアンシブルで話す。画面の妻も唇をかみしめ、その隣のアンネローゼが瞑目している。キャゼルヌの妻と娘、そしてビュコック夫人は、アンネローゼの慈悲とこの時空のレンズマンの管理、人工子宮をはじめとする様々な医療技術などの巨大セクションで重要な役割を果たしている。

(アンネローゼを自由にさせるために)

 その巨大な知と力と金を引き継ぐために。

 どれほど恐ろしいものに直面しているか分かっているキャゼルヌには、アンネローゼが平静な微笑の中、信じられないほどおびえているのは当然に思えた、理解していることを尊敬するだけだった。

 だが、画面には映っていないビュコック夫人は違うものを見た。もっと、すさまじい、とてつもない……

 突然アンネローゼはキャゼルヌにことわって文机に行き、手早く手紙をしたため、豊かな胸の谷間から小さな何かを出してその手紙に同封して送り出した。惑星連邦からの最新技術も用いる特別すぎる超速達、恒星系の間を飛ぶ移動宮殿から別時空へも、一時間足らずで着く。

 ビュコック夫人はキャゼルヌ夫人に声をかけ、チキンスープを作り始めた。

 

〈コーデリア盟約〉の諸国には、ある意味奇妙な国がいくつかある。

〔UPW〕本部である絶対領域。イスカンダル王国。いくつかの元無人時空。

 多元宇宙各地の難民・移民が集まった国々だ。

 絶対領域は本来実質無人の設備だった。そこを〔UPW〕が手に入れ、自由惑星同盟やゼントラーディなど多くの人々を受け入れて大軍をつくった。その家族も膨大な資源星を搬入して受け入れ、工場を作りコロニーを作った。

 イスカンダルは本来滅びに瀕していた。だが古代守がとどまりサーシャが生まれたこともあり、ガルマンガミラスとボラー連邦の戦争などで出た膨大な難民が押し寄せた。膨大な技術遺産を用いて人々を生活させ、技術水準の高い強国になりつつある。ディンギルの遺児もそこで学び、故国の技術資料の権利を財産に育っている。

 元無人時空にもさまざまな戦乱の難民が行き、開拓コロニーを作っている。

 忙しい王配の古代守が、アンシブルで遠くの地球を治めている沖田十三に連絡した。

「きましたね」

「きたな」

「マザー・シャルバートからも警告があります。その演説映像も送りました」

「ありがとう」

 沈黙が流れる。

「戦いましょう。あの時よりも…」

 古代守が目を見開く。

「ああ」

 歴戦の宇宙戦士たちに、それ以上の言葉は必要なかった。

 画面に飛び込んできたサーシャとの談笑になる。

 今、ローエングラム帝国を訪れているスターシヤは知っている。指数関数技術が世界をどう変えるかを。兄弟であるガミラスの先祖がそれをどう誤ったかを。かつてのイスカンダルがどのように自滅したのかを。

 技術を王家の谷に封じた、滅びた帝国もある。だが、それは開かなければならなかったのだ。

〈法〉と〈混沌〉の戦いに巻き込まれた以上は。〈天秤〉を守るため、人類を、愛する者を守るために。

 

 大覚屋師真の舌打ちを、雷は見とがめた。

 師真はひらひらと一枚の紙を舞わせた。林則嘉が真っ青になって倒れそうになっている。

「さんざん、警告されてきました……」

「何年も前に言われてただろ、来るべきものが来ただけだ。そうそう……あのがきんちょがねえ……妊娠と同じくな」

 師真の言葉に、雷の表情がぱっと明るくなる。林則嘉の妻、蘭々は優れた巫女でもあり、幼いころから紫紋を慕い従って雷と遊び、女好きの師真を叩いてきた友でもある。

 話はそちらに流れた。

 だが、雷も師真も、そのことはわきまえている。

 ゲートを隔てた隣、〔UPW〕の生産は、爆発し始めたのだ。自分たちはあえて技術爆発を押さえ、社会を保っている。だが、『道』を通じて、疫病と同じく、もっとたちが悪い影響は流れてくるのだ。

 

〔UPW〕では、姜子昌が〈神剣〉を学びつつ、同時に先端の学問も学んでいて、周囲の者の反応をいぶかしんだ。

 何があったというわけでもない。ただ、正宗やコーデリアが震え上がっている。

 共に稽古していた正宗に聞くと、

「来ることがわかっていた時が来ただけだ」

 と言った、だが彼女がどれほどおびえているかはわかる。どんなに勇敢な女かよく知っている彼女が。

「わからぬならば、これを計算してみろ。聞いたことがある話だ、ある人が将棋を発明して王に褒められ、褒美を与えると言われた。その賢者は答えた、将棋盤に米を、最初のマスに一粒、二つ目に二粒、四粒、八粒……と二倍、二倍で最後のマスまでください、と」

 姜子昌はざっと計算をはじめ、目を見開いた。もっとも頭が良い男の一人が。

「それをわからないのが、人というものらしい。……コーデリアが言っていた、本当にとてつもないことなのだと」

「81マス……紙が……足りん」

「一合は7500粒ほどだ」

 正宗が笑った。

「……練の、いや南天で一年に実るすべての米の、何倍、いや何桁……」

 タオルとスポーツドリンクを手にした飛竜は、愛する男のそばにいられる喜びをかみしめつつ、主君の苦悶を見つめ助けられないことに身を割かれる思いでいる。

 

 ガルマン・ガミラス帝国のデスラーは、報告を見て、席を立ち私室に入った。

 ヤマトの古代進からの短い手紙を見る。そして、円盤に二つの棒状円盤ナセルが伸びた艦……エンタープライズEの写真に目を向ける。

「もうすぐ貨幣は無意味になる」「惑星連邦はその後の社会だ」

 それから、白色彗星帝国に寄寓していたころの記録日誌を読み返し始める。ズォーダー大帝の御真影を開く。

『死者の代弁者』と書かれた紙束を手にする。ふたつ。ズォーダー大帝と、フラウスキー技術大佐……二階級特進。

 読み終わるころ、手紙が届いた。ローエングラム帝国の、結婚話が進んでいるアンネローゼ・フォン・グリューネワルトからの手紙が。封筒を開けると、ごく小さな空の瓶が転がり出た。

 

 トランスヴァール皇国のシヴァ女帝も、バラヤー帝国のグレゴール帝も、レンズマンの最上層も同じレポートを目にし、その意味を理解している。

 誰もが知っている。何十回も、ヤンに、エンダーに、ルダに、スターシヤに、窩巣(ハイブ)女王に警告されている。

 指数関数増大の恐ろしさを。

 希望は、惑星連邦というその後。だが惑星連邦も、多くの苦難に今も苦しんでいる。

 また、核戦争後の混乱の中ワープ実験を成功させ、バルカン星のファーストコンタクトを受けた地球とは、多くの条件が違う。

 

 

 ラインハルトの部屋に、アンネローゼが来た。違和感はない、だがとんでもない異常事態だ。

 すべての近衛、すべての護衛を無視して来たのだ。皇帝直属聴聞卿の身分証、すべての扉・金庫・コンピュータを開けるキーであるペンダントを使って。彼女は決してそれを使わなかったのに。家族だからこそアンネローゼは、わきまえてきた。皇帝直属聴聞卿の鎖の重さは、マイルズ・ヴォルコシガンと同じくわかっていた。

「姉上」

「勇気はありますか」

 アンネローゼの凄烈な覚悟が皇帝に伝わる。

「今、デスラー総統閣下に手紙を差し上げてきました。それには、空の小瓶がついております」

 しばし沈黙。

「そのお手元の紙を、読む勇気は」

 ラインハルトはじっとアンネローゼの目を見た。

『死者の代弁者』

 去ったエンダー・ウィッギンと、弟子入りしていたアンネローゼ、そしてヤン・ウェンリーの合作。

 アンネローゼと目を合わせ視線を追った、ラインハルトは、フリードリヒ四世の名がある表紙をめくった。生涯最大の勇気をもって。

 決して、ラインハルトもキルヒアイスも、アンネローゼにフリードリヒ四世との関係を聞いたことがなかった。アンネローゼも話したことがなかった。ラインハルトには、あの時姉に聞いた問いより、もっと考えることも恐ろしい問いがあった。

(あの男を、あなたを力づくで犯した老人を、あなたはどう思っているのか……)

 もう一つの問いがあることを考えてもいない。

 その、もう一つの問いを、アンネローゼが口にした。

「ヤン・ウェンリー元帥に、問われたことがあります。なぜフリードリヒ陛下に殉死しなかった、させられなかったのか、と。客観的に歴史を見れば、ゴールデンバウム帝国の道徳と法であれば、わたくしのような者は殉死するのが普通です。ですがわたくしは殉死していませんし、しろとも強いられていません。これまでの歴代皇帝のときも同様の者がいました。元帥は、それを問いかけて、途中で絶句されたのです」

 数十分後、別の外交日程が控えていることは知っている。イスカンダルのスターシヤ女王、ルダ・シャルバート、そしてギド・ルシオン・デビルーク王と、その娘の許婚者である結城リトを迎える。

 

『死者の代弁者』

 終わらせるもの、エンダー……アンドルー・ウィッギン自身が、バガーを滅ぼしたのちの筆名。

 人類史上最高の英雄である自分を、史上最悪の「異類皆殺し(ゼノサイド)のエンダー」にした本。

『窩巣(ハイブ)女王』『覇者(ヘゲモン)』そして何百年も後に『ヒューマンの一生』の三書が書かれた。

 本の影響は、はるか昔、英雄となったアンドルーが植民星を指導し、光速飛行を利用して時の彼方に去ったころ、教団の形を取った。神や霊をあがめず、ただ死者の、

(良きことも悪しきこともありのままに……)

 語る。エンダーはその優れた聖職者ともなった。

 そして、アンネローゼも〈死者の代弁者〉の資格をとり、ヤンはそのアシスタントもするようになった。

 

 二つの『死者の代弁者』の書。フリードリヒ四世、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム。

 アンネローゼが伝えられていたこと、ヤンの同盟の情報と帝国図書館、帝国の全権を用いた調査、そしてエンダーの洞察力。それは激戦の激務の中でも、十分な再構成を可能にした。

 普通とは逆に、死からさかのぼる。

 フリードリヒ四世は死の床で、アンネローゼに帝国の秘密を打ち明け、そして毒瓶を渡そうとして、止めて自分で飲んだ。

(ラインハルトを殺すための……)

 毒を。

 アンネローゼなら、帝国を手に入れたのちのラインハルトを、殺せる。毒を盛ることができる、他の手段でも。

 なんのため?

 ただひとつ。

 アンネローゼは語る。

「ヤン元帥は気づかれました。帝国に殉死制度がない、あるいは殉死すべき人が殉死していないことが多いこと。殉死する比率が少なすぎること。それが帝国の価値観とずれていること。

 帝国史の何人かの皇帝が、暴君でも名君でも不自然に崩御されてきたこと。

 アウグスト陛下のされたこと」

 流血帝アウグストと言われる、ゴールデンバウム朝の伝説の暴君。即位してすぐに父の後宮をすさまじい残忍さで皆殺しにした。その後も残虐の限りを尽くし、わずかに残った皇族の反乱に敗れて殺された。

「地球教だと今は誰もが思うでしょう。しかし、地球教も道具でしかなかったことが多いのです。

 基準が違ったのです」

 紙の上によみがえったルドルフは語る。ルドルフをよみがえらせたエンダーとアンネローゼは語る。

「なぜ、宇宙に出てすぐの地球人は、すぐ生産の指数関数増殖と、それを配ることで全員を豊かにする道を選ばなかったのでしょうか?事実上無限の太陽光と事実上無限の資源があれば容易だったのに?なぜシリウス戦役など、貧困と争いがあるままだったのでしょう?

 なぜ、宇宙に広がり植民星を増やしていた銀河連邦は、退廃し止まったのでしょうか?

 どちらも、指数関数の恐ろしさに気が付いた人たちが、ミーム……自己増殖する言葉の類を仕込んで、止めたのです。

 衰退の理由を理解されたルドルフ陛下は、それを利用して権力を握り、同時に指数関数を止めるという使命を受け入れて、徹底的に止めたのです」

 ゴールデンバウム帝国の政策。繁栄とは正反対の、科学抑圧、人力で、人種、文化、監視社会、虐殺……

 すべては、指数関数を止めるためだった。

「アウグスト陛下は知らされなかった、理解する能力がなかったのでしょう。多くの皇帝はそれを知らされ、死の床で殉死せず生かされる者をつくりました。

 次の皇帝が、指数関数に手を出したときにだけ、殺す」

 だからどんな暴君も暗殺されなかったことがある。

 名君でも暗殺されたことがある。

 モノサシは、名君暗君ではなく、指数関数だったのだ。

 モノサシを知らなかったアウグストは、殺し屋かもしれない者をすべて殺そうとしたのだ……名君よりも安全だったのに。

「フリードリヒ四世陛下には、同盟と和睦する機会が何度もありました。しかしそうしませんでした」

 同盟こそ、文明の自己増殖だから。

 アーレ・ハイネセンたちわずかな流刑囚が、ドライアイスの船で旅立ち、地下で超光速船を作って回廊を通って手つかずの星に達して、つくりあげた、文明。

 文明の自己増殖。

 文明が、芽胞を作る微生物や、木の種のようにごく小さくまとまって移動し、芽を吹き、親と変わらない巨大さになった。

 その過程が繰り返されないはずはない。

 それを止めるためにこそ、代々の皇帝は同盟を攻め続けた。同盟が、イゼルローン・フェザーン回廊とは逆の方角を探査し、別の回廊を発見して、また種を放って大木を増やすことをしないように。

 軍事以外のリソースがなくなるように。

 指数関数を封じるために。

 ついでに、同盟にも古い地球人を、銀河連邦を止めたミームは感染していた。だから指数関数で帝国を圧殺することができなかったのだ。

 同盟を征服する直前だった皇帝も、同盟と和睦しようとした皇帝もいる。どれもうまくいかなかった。地球教の陰謀だと思われていたが……

 

 すべては、指数関数を封じるため。人口も、生産も、知も。

 人類が地球上から辛うじて宇宙に出たころから。連邦が拡大し続けた時。ルドルフ。代々の皇帝、何人かを除いて。その皇帝から託され、次に引き継いだ人。そしてアンネローゼ。

 組織ではない。地球教のような宗教でもない。制度ではない。知恵と意思だけ、だから滅ぼされなかった。

 ここに、その最後の生き残りがいる。

「……姉上は」

 皇帝の問いに、アンネローゼは沈黙した。

 その役割を引き受けたのか。

 背負わなくていいと毒を自らあおった老皇帝、それでもむしろ重さを増した重荷を背負ったまま、生きたのだ。

 ラインハルトの最愛の姉は。

 ラインハルトは、いつでも殺される可能性がある存在だった。

 姉に殺されるならかまわない。以前から公言している、オーベルシュタインの諫言に応えて。

 皇帝直属聴聞卿……簒奪許可証。ほかにもヤン、ロイエンタール、オーベルシュタイン、ミッターマイヤーが、皇帝直属聴聞卿という職務ではないが、簒奪許可証を持っている。マイルズ・ヴォルコシガンと同じく。解釈によってはマイルズのほうが継承権が高い、その彼が、軍に命令できる皇帝直属聴聞卿の地位を与えられている。

 

 さらに、『死者の代弁者』は語る。

 ラインハルトがシャフトから聞いてやった、ガイエスブルク要塞にエンジンをつける作戦。あれはヤンにも、ラインハルトらしくないと酷評された。

 そのシャフトはどこからそのアイデアを思いついたのか……フリードリヒ四世。徹底的に痕跡を消して。

「ガイエスブルク要塞にも工場と農場があります。逃げて資源小惑星を食べて、自分の部品と人の食を作って、自分自身を人ごと複製できます。

 ゆっくりでも、あとは指数関数です。

 長い目で見れば同盟に負ける、と悟られたフリードリヒ陛下は、同盟と帝国と、『それ』が相打ちになってすべて滅びるように、と、自己増殖移動要塞という別の文明の種を放ったのです。

 そしてまたそれは、これに気づけるか、自己増殖移動要塞、指数関数の恐ろしさを理解できるか、というラインハルト、あなたへの手紙でもありました」

 ラインハルトが硬直する。

(余はこの呪いから逃れられない。野心と憎しみに満ちた若者よ、おまえは羽ばたけるか?飛べるか?)

 軽蔑してきた老帝からの手紙。

「また、ヤン・ウェンリー元帥はすべてを理解されて後、おっしゃられました。あの手紙は受け取っていただけたのか、と……

 加速させた氷の塊」

 ヤンの伝説の一つ。同盟のクーデターを鎮圧する時、自動戦闘衛星に守られた首都星を素早く攻略するため、ヤンは近くの氷惑星で氷を切り出し、それを宇宙に漂うわずかな水素を燃料とするラムジェットエンジンで光速近くに加速してぶつけたのだ。

 その兵器は、容易に、人類が住むすべての星を破壊できる……

(これはあなたへの手紙だったのですよ、ラインハルト陛下?)

 ヤンの声が響く。

 ラインハルトは震え上がった。その可能性はわかっていたつもりだった。

「姉上、わかっているつもりでした。でもはっきり言葉にできず、怯えておりました」

「だからケンプ提督に託されたのですね、自分でも、ロイエンタール元帥でもなく」

 ガイエスブルク要塞を。ケンプはそれを活かせず、多くの犠牲を出して散った。ヤンならば簡単だった。

「そうだった、そのことを今知った」

 ラインハルトは姉の目を見た。

(愛しているのですか?)

 愚問は口にしなかった。男女の愛、そのようなものではない。もっと、もっと……共に深淵をのぞいたのだ、亡国の老帝と、何も知らなかった下級騎士の美少女は。ほかの寵姫が脱落したのも、

(それを背負えぬから……)

 にすぎない。

 指数関数と言う深淵を。

 ヤンとエンダーは共にその底まで行き、戻ってきた。手紙を持って。

 ふたりの皇帝を理解し愛する、『死者の代弁者』として。

 傷に熱い鉄を当てて膿を流す、熱い鉄を素手で握って自分も傷つく癒しを生者に与えるために。

 

 

 デスラーは二冊の『死者の代弁者』とアンネローゼからの手紙を読み終わり、空の毒瓶を見つめた。

 

『死者の代弁者』の文を通じ、白色彗星帝国、その本当の姿も理解するようになった、自分の経験と戦い、そしてヤンやエンダーの指導もあって。

 あの帝国は、三次元を一次元にしたのだ。とどまらず、アレクサンダー大王のように征服し新築した都市の守備兵・守備将を失わず、広い三次元宇宙の多数の星を支配することをせず。移動し、襲い、征服し、奴隷化して絞りつくし、優れた者以外殺し、破壊し、次に行くことで。自己増殖もすることなく。これこそが肝心だ、自己増殖をすることなく。

 三次元の星々を支配する帝国にはこの問題がある……二乗と三乗。小さいうちは、内部の少ない星から、外の多数の星を征服できる。職が、略奪する品が多数ある。

 だが、大きくなってしまったら。巨大な多数の中身がある帝国の、ほんの薄皮が……同じ百光年でも、二万光年の球のわずか百光年の薄皮、二乗が増えるに過ぎない。大体積、三乗に比例する大人口が、職を、略奪を、殺戮を求める。足りなくなる。

 ほかにも、帝国の大きさ自体が、その中で距離の暴虐となる。帝国の端から端へ、首都から端へ移動すること自体の費用が増える。腰兵糧三日が無理になった時の社会の質的変化と同じことが起きる。辺境守備隊がそのまま反乱予備軍になる。対抗するための親衛隊が遊兵となりその負担が強まり、親衛隊に実戦による公平な報酬がないことが不安定につながる。

 一次元の帝国にはそれがない。

 また、恒星に頼らない白色彗星帝国は、恒星破壊兵器を恐れなくていい。シャルバート文明がハイドロコスモジェン砲を持っている……小型車サイズで暴走する恒星を鎮められる、目盛りを逆にひねれば超新星爆発させられる兵器。恒星の近くは危険でしかないのだ。

 遠く、ミュールが今は治めている滅んだ帝国で、少し前にファウンデーションを守った〈強い皇帝と強い将軍〉ジレンマからも自由だ。遠くに遠征し、勝利して征服し、広い領土を手に入れた将軍は、いつでも反乱できる実力を手にしてしまう。将軍自身の心は関係ない、〈暗黒の森〉と同じく猜疑連鎖があるのだから。そして距離があるのだから。

 ロイエンタールが〈虚憶〉で知っている、遠くにいる功臣を、その気がなくても反逆させる圧。本質的にはエリート過剰生産でもある、だからこそ抵抗し難い。

 それを、白色彗星帝国はなくしている。将軍は毎晩大帝とともに夕食を食べるのだから。

 そして、征服し続けている帝国は、常に調子が良く拡張している若い帝国と同じく、征服しては分配することを続けられる。それは高度成長と同じだ。実際の高度成長は指数関数増大であり、本気で何千年もやれば宇宙の原子の数よりビルが多くなる、だがそうならないまま、粛清と権力争いでエリート過剰生産を減らしながら、優れた者には略奪の果実をふんだんに分配できるのだ。

 さらに、騎馬民族がトイレ・下水の莫大なコストを必要としない……古代都市でも現代都市でもとんでもないコストがかかるトイレと下水、それは騎馬民族にはない。野に出して翌朝は出発するのだから。それと同じことができる、瓦礫と白骨……砕けた星屑しか残さず次に行くのだ。エントロピーの法則を理解していれば、それがいかに強いかわかる。

 強欲を主張していたが、本当は欲を捨てたもっとも賢明な帝国の、偉大なる皇帝。それがズォーダー大帝なのだ。

 だからこそデスラーは心から忠を持てた。

 

 そして、フラウスキー技術少佐(当時)の死。

 惑星破壊プロトンミサイルの流れ弾が太陽に当たり、それで太陽が暴走して地球が焼けかけていた。いろいろあってそれを知ったデスラーは地球を救おうと、フラウスキーを派遣して太陽を制御させようとした。だがそれは失敗し、フラウスキーは乗員を退艦させた工作船で太陽に飛び込み自害した。

 真田が、

(彼はなぜ失敗したのか、成功できたはずだった……)

 と、ヤンのインタビューに答えていた。

 フラウスキーは、それが恒星破壊兵器になることを知っていた。

 シャルバートの過去と同じ、滅んだ帝国になることを恐れた。

 そして、恒星を破壊するのは、とんでもなく多くの良質の資源を、最短時間で手に入れる方法でもある……

 指数関数に触れたのだ。深淵を見たのだ。

 だからわざと失敗し、その罪をつぐなうため、むしろ、

(止めることができない……)

 それから逃げるための自害だった。

 エンダーからの手紙には、オッペンハイマー、アインシュタイン、トルーマン大統領、エノラ・ゲイの搭乗員の伝記も付いていた。

 誰よりも重い罪を犯したエンダーだからこそ理解でき愛している彼らの。

 

 古代進からの手紙で、わかっている。シスコらの故郷、惑星連邦は、貨幣が必要がない豊かな世界。だが、どのようにそれに移行すればいいのか?

 それが困難すぎる道であることもわかっている。

 

 デスラーは、スターシヤの真実も理解していた。

 なぜ彼女は波動エンジンの設計図を地球に送ったのか、妹を犠牲にしてまで?

 指数関数。ガミラスは征服という指数関数に踏み込んでいた。地球を征服して文明を延命させ、大きく指数関数を動かそうとした。

 スターシヤはそれを止めたのだ。それを暴走させた時の破局を知るゆえに。

 地球人も波動エンジンを手に入れたら、同じように指数関数を暴走させてひどいことになる?

(大したことはできない。こんな愚かな種族、すぐに自滅するだろう。大きい被害にはならない)

 たとえるなら、凶暴なテロリストの若者が近所のもっと愚かな幼児を殴っている、だから幼児に拳銃を与えた。若者を射殺し、それから悪用するかもしれないが、せいぜい数人が死ぬぐらいで暴発で自分を撃って死ぬ、テロリストが爆弾で何百人も殺すより少ない……

 ひどすぎるトロッコ問題。

 

 アンネローゼの手紙には、指数関数を殺すためのゴールデンバウム帝国の秘密が詳細に書かれていた。自分の役割も。いいわけではなく客観的に。

 そして、空の小瓶。

(こんな女ですが、よいのですか?)

 毒の求婚。

 

 

 移動宮殿では、ラインハルトとアンネローゼ、スターシヤ、ルダ・シャルバート、ギド、リトがごく親しく会っていた。

 すべての護衛を遠く遠ざけて。

 ギドは苦笑した、指数関数の恐怖に怯える皇帝や女たちを見て。

 罪に震える女たちを見たスターシヤも真実を打ち明け、罪を分かち合おうとして、荷を増やした。

 打ちひしがれ、押しつぶされている権力者たち……女たち……

 そこにはすさまじい恐怖と、重荷と、罪悪感があった。どう見てもまともではなかった。リトには何もわからなかった。

 彼は、意識も何もなく、いつものことをした。

 

 アンネローゼ、スターシヤ、ルダの三人が、一瞬で全裸にされ、リトにあちこちを蹂躙される。

 呆然とする、あまりに長い時間がすぎた。

 

 ラインハルトは人とは思えぬ奇声を上げ、リトに殴りかかった。リトは逃げた……超人と化しているラインハルトから逃げられるはずはないと思えたが、彼も中にはネメシスがいる。その力を借り、紙一重で強大なフォースを帯びた手刀や蹴りをよけつつ、半泣きで謝りながら走った。

 ラインハルトは必死で追いつづけた。

 

 

 デスラーは空の小瓶をもてあそび、わずかに口づけて一言つぶやいた。

「あなたしかいない」

 と。

 デスラーが心を開いたのはスターシヤ、古代進、ズォーダー、ルダ、そしてエンダー、今アンネローゼ……そのような罪を負う者だけだ。

 

 

 三人の、全裸の美女は思いっきり泣いて笑った。長く、長く。

 服が何もない。そこには……ただ女があった。罪などどこにもなかった。

 そして、キャゼルヌ夫人とビュコック夫人が、毛布と熱いチキンスープを持ってきた。

 裸の女を毛布でくるみ、泣き笑うのをそっと抱きしめて涙をぬぐい、温かいスープを手にさせる。

 肩で息をつくラインハルトも、スープを受け取った。

「あたたかい、うまい……

 あなたたちより臆病だ、現実を見ない、無責任だ、とはいわせはしない……背負う。前に出続ける。あなたたちを越えてやる。

〈混沌〉との戦い、いつどんな別時空と接するかわからないこの多元宇宙では、前進し続けなければ滅びるのだ。

 やってみて、どうなるかはわからない。昔の賢者も全知ではない。滅んだ経験も参考でしかない、惑星連邦もデビルークもある。

 指数関数を進めてやる。闇の海に漕ぎ出してやる。愚かなプライドは脱ぎ、何も知らない獣のようになりふり構わず生きてやる。前へ。

 どうか見ていてくれ……キルヒアイスとともに」




書き出しができたら一気に考えが進み、あっちで考えていた「なぜ銀英伝の銀河連邦は衰退したのか」「なぜ生産力の指数関数増殖をやらなかったのか」「なぜルドルフが出たのか」、ついでにヤマトの、スターシャが「新たなる」でなぜあれほど救援を拒んだかとか、なぜアンネローゼが殉死しなかったのか、させられなかったのかまで…

妄想だと思います、妄想だと。でも完全に筋が通るんです。

ちなみに、この二次創作を無視して原作だけで考えると、もっとおぞましく往復書簡の直観の筋が通る説明が出ます。

指数関数…それがどれほど恐ろしいか。ただそれだけです。
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