『ネメシス/S.T.X』の少し後に世界線分岐。
アチュルタニの本拠に向かう第五帝国らの連合艦隊が接触した、ボーグの故郷時空から来た惑星連邦の〈エンタープライズE〉ジャン・リュック・ピカード艦長の態度に、奇妙な違和感があった。
ピカードは明らかにファーストコンタクトのベテラン。とてつもなく有能、歴戦。礼儀正しく、誠実で、融和的。
それらはわかる。だが、彼からは強い警戒・敵意・復讐心が感じられた。ドン・ルイス・ペレンナに。
やせたジャンとは対照的に、188センチの巨体で筋肉も脂肪も多く浅黒い、フランス系中年男性の姿をしているペレンナ。その体は〈シルバーン〉の有機アンドロイド技術、〈魂のエンジニア〉の〈偽神(アルコーン)〉〈狩人〉、〈ゾク〉の量子技術、また胸郭に第四皇国のフォースフィールドコンピュータなど超技術を大量に詰め込んだ超コンピュータ入りアンドロイドであり、艦隊レベルの質量のコンピュータが一体化した膨大な計算力の代表者でもある。アンドロイド、というのならジャンやミエリの時空に純粋な人間など少ないのだが。
その中には、ジャンの分枝を主として、マチェク・チェン、他いくつかの電脳人格、ボーグ・クイーン、さらにボーグにとらわれていた無数の種族の魂が、〈監獄〉を流用した計算界でとてつもない回数共同生活を繰り返し、融合とも共存とも言えない状態の別人格を作っている。
そのボーグの部分が、ピカードと普通の通信とは別に断片的・感情的な情報をやりとりした。ピカードはそれを追ってきたのだ。
ピカードはかつて、ボーグにとらわれ改造されてロキュータスの名で生まれ育った惑星連邦の艦隊を壊滅させ、仲間に救出された。それゆえか、ボーグとごく弱い交信を時々経験する。
そしてピカードが伴ってきた天文観測チーフは、ボーグのインプラントを顔に持つ地球人の女性だった。
セブン・オブ・ナイン。幼いころにボーグに家族とともに拉致され同化され、ボーグの一員として成長し働いていた。あるとき、とんでもない宙域に迷い込んだ〈ヴォイジャー〉艦長キャスリン・ジェインウェイと、ボーグ自体がある強敵と戦うために共闘することになり連絡員として派遣され、そのままボーグから切り離されて〈ヴォイジャー〉のクルーとなった。
警戒と敵意はあったが、接触そのものは皇帝コリン・マッキンタイアの態度もあり、融和的だった。
様々な時空との接触は惑星連邦にも起きており、連邦とパルパティーン帝国の戦いも続いているし、その向こうから〈影の月〉のステルスで侵入した〔UPW〕の使者とも接し、連邦からもベンジャミン・シスコをはじめ使者を送っている。ほかにも調査中のゲートは複数あり、大災害に見舞われたロミュランの主力がそちらに避難したという情報もある。
ピカードのエンタープライズ自体は、ピカードやセブン・オブ・ナインがボーグからの何かを感じたこともあって、〈ヴォイジャー〉が切り開いたボーグの本拠宙域に向かい、ゲートを発見して侵入していた。〈ヴォイジャー〉が銀河横断に70年以上の年月を覚悟したほどワープが遅い文明だったが、〔UPW〕からレプリケーターや転送の技術とひきかえに波動エンジンやバーゲンホルムなどより速い超光速技術を手に入れていたからこそだ。
連邦から入ったゲートの先は無人時空だったが、そこのかなり遠い別の銀河には文明と戦争の形跡があった。だが重要な任務としてボーグの航跡を追い、別のゲートを見つけて侵入していくつもの廃墟を調査し、第五皇国の艦隊と遭遇したのだ。
〈ダハク〉の大きい会議室にはピカード、セブン、〈ダハク〉そのものの声とカメラ、コリンとその幕僚、一馬、エル、ジュリア、〈アーヴによる人類帝国〉の反乱者であるラフィールが派遣した幕僚のソバーシュとなんとか合流できた弟のドゥヒール、また〈西側連合〉からエリック・ケインら、ジャンやミエリ、ペレンナが集まっている。
ちなみにラフィールが観戦武官を送ると決めた時には、最大の分艦隊司令であるスポールが行きたがって大変だった。彼女の面白そう、を押さえるのはいつも大変なのだ。
「そうでしたか、アチュルタニの艦隊の一部がボーグに支配された」
目を落とすピカードに、コリンが苦々しげに言う。
「いくら憎い敵であっても、あの運命は気の毒です……失礼」
コリンは、その言葉がピカードをとんでもなく傷つけてしまったことを察した。
「ありがとうございます、コリン陛下。わたしは、ボーグに同化され同胞を殺し、救助された経験を持つ身です。そしてこのセブン・オブ・ナインは、ボーグから切り離された者です」
率直な言葉は強い衝撃となった。
「まさに、敵であっても気の毒です。そのボーグ・クイーンが……」
と、ピカードはペレンナを見る。
「ムッシュ・ジャン・ル・フランブールの人格プログラムの分岐をボーグ・クイーンのところまで感染で送り、それからその艦隊自体をある種のコンピュータに変えて、何度も何度も共に生活させました。それで、なんとかこの世には自分以外にも同じように心と権利を持つ人がいる、ということを理解させ、まあどういうわけか、ドン・ルイス・ペレンナという別の人格が生じたようです」
エルが静かに言った。
「あなたがたは、そのような存在や、こちらの方のような……当たり前なのですね」
ピカードがコリンの側の、〈アーヴによる人類帝国〉から来た士官や〈シルバーン〉の有機アンドロイドを見る。
「惑星連邦では人間の遺伝子改良・人工知能は原則禁止です。絶対に許さない、というほどではありませんが。こちらのB-4も、またここにはいませんがある艦のホロ・ドクターも人権が認められつつあります」
と、同行させた、少し人間とは異質な外見の士官を紹介した。
B-4はほぼ戦死したデータの記憶を取り戻しているが、彼も、〈ヴォイジャー〉のドクターホロも、完全人権への戦いはまだ道半ばと言える。
「こちらの時空の〈人類統合体〉はいかなる人間の遺伝子改造も許しません」
とドゥヒール。
「だから、もし〈人類統合体〉が勝ってしまったら、この集まりの遺伝子改良貴族やアンドロイドの類は皆殺しにされるでしょう。だから、干渉せざるを得ないんです」
第五帝国も〈シルバーン〉も〈アーヴによる人類帝国〉も、惑星連邦のプライム・ディレクティブ(最優先指令・艦隊の誓い)は受け入れられない。
「ボーグに他者との共存を教えるとは、どれほど大変だったことでしょう。心から尊敬します」
多くのファーストコンタクトの経験があり、ボーグにとてつもないめにあわされたピカードにとっては心底大変さがわかる偉業だった。
ピカード自身、様々な経験がある。超越生命体であるQが何かの罰で人間にされてピカードのところに放り出されたことがある。その彼に人間のモラルを少しでも伝えるのにどんなに苦労したことか。
だからこそ、ジェインウェイがセブン・オブ・ナインを人間にするための、長年の苦労は想像できてしまう。ジャンたちがしたことの偉大さも。
そして、このようなことをやらかした人たちとの接触は、帰還し英雄となったジェインウェイとの面会という悪夢を思い出してしまう……まずそれを、プロパガンダとして公式に友好的にやるか、とてつもない機密の塊のぶつけ合いにするかの議論が先に悪夢だった……
話は進み、惑星連邦の貨幣がない経済が話題となった。
「こちらの時空にもフェレンギなど、貨幣経済が残る宙域はあります。
わたしをはじめ地球は、第三次世界大戦の核戦争で大きく人口を減らしたのちに、コクレインという偉大な科学者が〈フェニックス〉というワープ実験船を作りました。
それをバルカン星人などの船が発見しました。
バルカン星人など、連邦にも受け継がれていますが、発見した超光速船を開発した文明のみと接触するルールがあり、それに合格したと認められ接触・支援を受けました」
実はピカードらはボーグとの死闘で時間をさかのぼり、コクレインの事業をかなり助けているのだが、そんな話をしたら自分たちがどんなに危険な存在だか、
(喧伝しているようなもの……)
である。
ピカードはその戦いで死んだ……助けて、という懇願に射殺で応えた部下たちを思い出し、押し殺す。経験があるからこそ、自分がしてほしかったこと=射殺をした。他の道はなかった。
「核戦争後の混乱と絶望、危機意識。そこに異星人、宇宙という希望。それで歴史上かつてない団結が生じ、宇宙の膨大な資源を活用して、貨幣のない惑星連邦を作ることができたのです」
「……うちの時空では、核兵器を伴う対テロ戦争から統合戦争があり、大半が死んだ地球はいくつかの大国に分かれ、それぞれが宇宙進出もしつつ残忍な権威主義・超格差・軍国主義社会になった」
ケインの言葉に、ピカードは眉をひそめた。
言えないが、鏡像世界や、自分のクローンであるシンゾンのことも思い出す。ドミニオン戦争で保安措置が暴走したことも。
「そちらに転がるのは人間の常です」
「はい、われわれは人間を疑いつつ、信じなければなりません。その前に生き延びなければならない、だから戦わなければならない。……戦いが終わった後、できるのならば、貨幣のない社会というものを教えてください」
一馬が真剣に聞いた。
「喜んで。核戦争後どのような社会になるか、それを比較するのも興味深いです」
歴史好きのピカードがほほ笑む。
「歴史と比較するならば、黒死病後のヨーロッパで、西ヨーロッパが人権と民主主義と産業革命、東ヨーロッパが農奴制と穀物生産を強めたことに似ています。また、21世紀初頭の同じ島であるハイチとドミニカ、同じ半島の北朝鮮と韓国の違いを考えると、偶然による制度の変化が大きいと思われます」
エルの言葉にピカードと、兵として昇進した後士官養成校で歴史に興味を持ったケインが目を輝かせた。ケインの目が知と怒りに燃える。
「考えたことがなかった、なぜこんなことになったか」
ケインが机の上の拳を強く握る。ジュリアがその肩を叩き、
「その制度に殴られ、恨みがあるからねえ」
と笑いかけた。
「ああ……こちらはこういう」
と、情報で軽く自己紹介し、話を続ける。
「家畜のような愚かさ、腐敗しきった社会に服従するやつら、腐敗しきった上の連中、ひたすら憎み軽蔑してきた」
ケインの言葉に黒炎が宿る。
「悪を憎む、家族を殺した体制を憎む、それ自体は間違っていないと信じる」
コリンがまっすぐに言う。
「ありがとう。なぜ、を考えずに」
「正義感だけで体制をひっくり返したら、大抵は悲惨なことになります。独裁者を倒した革命家が同じような独裁者になり民の苦しみは変わらないことも常です」
エルの言葉に一馬が、
「何が大事かを見失わないこと、だね。ご飯が食べられる。拷問されないが安心して眠れる。祈る神や本で処刑されない。誰もが生きたい」
と続けた。
ピカードが深くうなずき、言う。
「まさにそれでしょう。われわれの地球は、核戦争後には確かに多くの賊が横行し、ひどいこともたくさんあった。多くの人が酒におぼれていた。それで、ひどい政府ができあがるより先に、ファーストコンタクトから宇宙人の援助がはじまり、レプリケーターをはじめとして豊かな物資が一人一人にいきわたった」
ケインの言葉にピカードは深くうなずき、コリンは尊敬の目を向けて、強烈な恐怖を目に浮かべて口走った。
「今、地球は荒れ果て膨大な難民がいる。ここでミスをしたら、第五帝国も何百年も、悲惨な残虐国家になってしまうのか!!」
ピカードは緊張感をもってうなずいた。
「レプリケーターの有無でしょうか?それだけではなく人々を貧困にさせ、厳しく支配しなければ世界が崩れる、という信念、ミームあるいはイデオロギーもあるでしょう」
エルの言葉にケインやコリンが目を見開く。
「アイルランド飢饉、懲罰的救貧制度とスピーナムランド」
ケインが歴史の授業を思い出す。
「生きるため、食べるために集まり、決まりを作り、戦うために並んだ。それが固定されたこともあったのでしょう」
エルの言葉、一馬がはっと目を見開き、見回して言葉にした。
「……協力。国民一人一人が、役割を与えられて役割を果たす。できれば、一人一人の自由や権利を両立させ食わせる」
全員が激しく注目し、うなずく。一馬こそが膨大な人を今食わせ、権利のある世界を作り続けている。
「ボーグそのもの、それは協力のもっともよい手段です」
セブンの言葉に、ピカードやコリンが絶句し、ため息をついた。
「まさに。だが死んだほうがましだと人間なら誰もが思う」
ピカードの声は、名状しがたいものがあった。
「いや!故郷のあの家畜どもは、わずかな食や安全や国家や敵のため、喜んで自由を捨てて家畜となった……人間はボーグになりたい」
ケインが叫び、唇を噛んで吐くのに、ピカードが怒鳴った。
「なら一度なってみるがいい!」
彼は恥じるように禿頭を一瞬おおい、平静を取り戻すように姿勢を正した。激しすぎる痛みが響き合う。
「見失うな、その一人一人が人間だ。赤ん坊が、小さいころから教えられ、色々な経験をして、制度を骨身に刻んで、それでそんな人になった。忘れんなよケイン、あんたの世界の権力者もそこの地球の家畜どもも、素晴らしい植民者も、あんたの兄弟・海兵隊の皆も、あんたが殺してきた敵の狂信者も、同じ人間だ。
自分が生まれ育った制度に逆らわず、隣に合わせてすべきことをしてるだけだ」
ジュリアがケインを肘でつつきながら。
「独裁、皇帝も協力のための手段でもある。軍隊、一人の命令に全員が服従しなければ負ける、滅びる。米軍の海兵隊は、[I(アイ)]という単語を禁じている……ボーグと何が違う?」
宇宙飛行士=軍人から皇帝となったコリンが鼻梁を揉みつつ出す言葉は重い。
「それでも、あまりひどい世界は、死んだほうがと言うか生きてけないよね……進歩、対応、進化がなくなって単純なロボットになる」
ジュリアが吐き捨てた。
「権力は協力を強めようとして暴走します。権力を押さえる何かがあるか、です。憲法や選挙、軍法や、時には理想や宗教も」
エルが加える。
「ボーグしかないのならば、手段の多様性がなくて強敵に敗北するでしょう。が、ボーグは次々と多様な文明を同化することによって自分を変化させ、より多様な敵と戦えます。ジェインウェイ艦長は柔軟にクルーや同盟者の話を聞き、思いがけない手段を採用しましたが、それと同じでは?」
セブンの、ボーグと人類を客観的に見る言葉。
「極限の協力は多様性を潰すのが人類の通例。それを、他者からの収奪で多様性を得る、と」
エルが興味深そうに言うのを、ピカードが歯を激しく食いしばる。
「協力……今できつつある、いくつもの時空の集まり。……遠くはティ連からアーヴの時空の一つ減ったけどいくつかの国、ケインの〈西側連合〉はじめいくつかの国からなる時空、それに第五帝国。それに惑星連邦もつなげることになるでしょうか、ピカード艦長」
コリン皇帝が真剣な目でピカードを見る。
「こちらにもゲートは、本艦が来た道だけではなくあります。恐ろしい帝国の攻撃に攻撃されており、その向こうにも多数の時空の集まりがあります」
「常に戦いはある、か……」
一馬が目を翳らせた。
「どうやって協力するか、です」
エルの言葉に、全員が考えてしまう。
「協力……理想や道徳、服従が、全員に過剰な道徳を求めることも危険です。そのはてはボーグ、いやもっと悪い魔女狩りになる」
ピカードが言った。かつての、敵国人を先祖に持つクルーを疑い証拠をねじ曲げた者を思い出す。
(彼女を止めていなかったら滑りやすい坂道……)
だ。更にその後ドミニオン戦争で、可変種、セクション31の恐怖がある。
「道徳なんて特権階級が家畜どもを支配するためだろう?」
ケインの言葉に、皆が苦笑した。
「おいおい、きみ自身や、その仲間の海兵隊たちこそ道徳だよ」
コリンに言われ、
「……海兵隊の兄弟。隣の戦友。必死で生き生きと生きる植民者たち。あんな家畜どもや、腐りきった奴らのためなんかじゃない」
ケインがいう道徳の理由に皆がうなずく。
「軍人は誰もがそうだ。高尚な道徳や国家の理想より、隣の戦友のために戦う」
コリンの言葉に、
「ですが隣を観察し、その心を想像し、真似る心理は、虐殺者もつくります」
エルの警告に皆がうなずく。
ジュリアがケインに身を乗り出し、いきなり言った。
「ケイン、現実を見な。あんたが自分の故郷時空を率い変える立場にならないとダメだ。それとも時空まるごと〈アーヴによる人類帝国〉に編入してもらうかい?どうやって協力させる?食わせる?守る?あの遺跡からバケモノがあふれ出てくるかもしれないんだぞ?」
ケインは打ちのめされ、うつむいた。
ピカードはその議論に、深い傷をえぐられた痛みを感じながらも目を輝かせている。
(あえて、多時空集団の体制問題を、他者の前で出す大胆さ……)
「いつでも引き受けます、征服自体は容易ですが……われわれアーヴは地上がどうなろうと関知しません」
とドゥヒール。
「目的、もある。うちの精神共同体(ソボールノスチ)たちは〔大いなる共同事業〕、フォードロフ主義、技術による全死者復活を目的として多くの人を電脳化しているな」
ジャンの言葉にピカードなどは衝撃を受けた。
「誰であれ、死者にまた会えるなら、重い誘惑になるな」
毎夜、無数の、自分と共に戦い戦死した、昇進後は自分の命令で戦死させた膨大な数の将兵の亡霊に苦しむケインがものすごい声で言った。
背負う亡霊の数は、ピカードやコリン、ソバーシュらもそれほど変わらない。
「さらに人工知能水準、また生産手段水準によって、人がいらなくなったり」
ピカードがおびえをもって言う。
「歴史の中では単純労働でよくなり、幼児を重労働させたこともありました」
エルが加えた。
「核戦争後、どうなるかを分けるなら……異星人のような外部、どの程度インフラや制度や技術が残っているか、など、とても多くの変数の偶然になる」
コリンが静かに言う。
「食わせることの大切さだね」
一馬が付け加えた。
「人間はすぐに忘れてしまいます」
とエル。
その後は実務的な話になった。〈エンタープライズE〉は艦隊に同行し、ある程度の補給も受け、かわりに様々な情報を提供することになる。
ボーグに対する情報はそれだけでも大きい価値はある。
旅は続き、アチュルタニ本星が見えた。
「ゲート!」
「アチュルタニ本星の、10光日ほど離れた伴星を周回する軌道に時空間ゲートがあります」
ドン・ルイス・ペレンナとセブン・オブ・ナインが、遠くのわずかな情報からすさまじい分析力を競い合う。〈シルバーン〉と〈エンタープライズE〉のセンサー能力も。
「艦隊戦が行われています」
アチュルタニの本国防衛艦隊が、近い星のゲートから出現した艦隊と激しく戦っているのが観測される。
「スキャン!」
「アチュルタニと戦っている艦隊は地球人、少なくとも区別がつかない存在です」
コリンに報告が入り、共用される。
「通信があります」
〈ダハク〉が告げた。
「……ベルファルド・コーポレーション、バグジー・スレイ帝国連合艦隊……〈蝦夷改〉座乗、ジャスティ・ウエキ・タイラー提督?」
通信を音声にしたジルタニスは、何かものすごい謎を見たような目をした。
「どうかしたのか?」
「老衰死していないのがおかしい、今生きているのが奇跡と言える老人です」
〈シルバーン〉のケティが告げ、ジルタニスがうなずく。通信してきた指揮官の、非常識な、めちゃくちゃな老いに衝撃を受けたのだ。
全身を点滴や検査器具につながれた、集中治療室状態の指揮艦橋。その横の副官も相当に老いている。
だが、ゲートから出た艦隊は三手に分かれ、美しくアチュルタニ艦隊を翻弄している。数は少ないが技術水準が高く、艦隊指揮そのものが信じがたいほど巧みだ。
その指揮官は老いている、それでも指揮は正確なのだ。二つの分艦隊の指揮官も恐ろしいほど有能であり、息が完全に合っている。
それがとてつもない数の差を無にしている。
前もそうだが、本国だけにアチュルタニ艦隊は千万の桁に及びそうな多数。だがそれでも、有能すぎるほど有能な指揮官たちに率いられた勇将精兵たちにとっては恐れるに足りない。
通信で老指揮官と老副官が状況をつかむや、老いた指揮官ほどではないが老いた副官……エドワード・タイラーがコリンたちに叫んだ。
「このアク=ウルタンとは違う別時空の、人類ですか!医療技術が高いのなら、提督を、助けてください!指揮をしている限り寿命が伸びるほど生来の指揮官、それでも……限界です、あと何日も持たない」
「転送技術はわかるでしょうか?」
ピカードの問いに、
「はい、どうか……」
「すぐ行く。転送してほしい。……生身でなくなってもいい?」
ケティと、ほか数人の医療型アンドロイドが立つ。
「はい、……おじい、彼は、必要です。いくつもの時空がつながった、新しい時代に」
エドが苦渋の表情をする。
「こちらは別に、アチュルタニのコンピュータに電子戦をしかける意図で来た。協力してほしい」
コリンが戸惑いをなんとか押さえて通信した。
ケティのナノマシン治療が始まる直前に、死の直前まで老いたタイラーが直接ケティに指示した戦法は、誰もが呆れかえるものだった。
コリンたちの艦隊と、タイラーの艦隊がアチュルタニ艦隊を尻目に戦うふりをする。……自然なことだ。
戦場を離し、漁夫の利を狙う膨大なアチュルタニ艦隊を引き延ばし、見えないところにいるタイラー側の少数艦隊のところに誘導。そこで二手に分かれている、タイラーの娘キサラの少数精鋭艦隊が巨大艦を光にしてしまう超兵器を放ち、ひるまず反撃しようとしたところをキサラの弟カツヤの艦隊が裏から襲いかかる。実はカツヤは犯罪組織を支配しており、表に出られる身ではないが艦隊指揮官としても優れていることは知られていた。
さらに敵艦隊の流れに、恐ろしいほど密集された艦隊がシールドを重ね合って鉄壁の防御を作り高密度の乱射で敵艦隊に大打撃を与え、集中させる。この戦法は内部にワープアウトされたり重力波兵器を使われたりすると弱いが、それを狙った超大型艦を引き出してキサラが狙撃し光に返す。
いくつかの要所に無人艦をワープアウトさせて自爆させ、その余波で敵艦隊を大きく削る。
それによって敵防衛艦隊と本星のメインコンピュータに、〈シルバーン〉と〈ダハク〉が突撃できる道を作り、小艦隊が的確に道を固める。
新しい艦隊を、即座に作戦に取り入れたのだ。
激しい戦いと電子戦のなか、そのアチュルタニ本星近くのゲートの向こう側の事情が判明した。
生じたゲートから、アチュルタニ本星の、大遠征隊を送り出した残りの艦隊が生命を根絶しようと襲いかかった。無人星系にできたゲートからあちこちを襲う艦隊にかなりの犠牲が出た。
その時空の人類は、長く惑星連合とラアルゴン帝国の二つに分かれた人類が戦い、統一されていたが、その百年ほど後に三分されて争っていた、だがその指導者たちの間には深い信頼関係があり、非常時には即座に協力できた。
そして侵入してきた艦隊を撃滅し、自分たちの時空は汎銀河共和国という三つめの勢力が守り、残り二つの勢力の艦隊に汎銀河共和国で老衰死直前だった、かつての統一を主導した英雄タイラーが艦隊全体を率いてゲートを越えて敵本拠を攻撃しに出てきたのだ。
タイラーも、また連合艦隊それぞれを率いるベルファルドとスレイもとてつもなく優れた指揮官。その協力を得たコリンたちは、艦隊と戦い続けながらドン・ルイス・ペレンナ、そして〈ダハク〉のプログラムをアチュルタニ本星を支配する狂ったコンピュータに感染させ、攻め落としていく。
だがこの戦いが終わっても、そのあとには膨大な後始末がある。
惑星連邦、そしてパルパティーン帝国の時空を越えればそこには〔UPW〕の多数の時空がある。ふたつの、巨大な時空連合の接続が何をもたらすか……もはや、昨日とは違う時代になってしまったのだ。