いくつにも分裂しつつアンシブルで常に同期している恵一の一体が、強行偵察艦隊の分遣艦隊を率い、粛清者が支配するアンドロメダ銀河の強行偵察に行った。
銀河文明評議会が、攻撃してくる粛清者を迎撃するだけの戦いから、こちらから攻める戦いに切り替えた。苦しい中援軍を割いてもらい、さらにかなりのダメージからの復興も助けてもらっている地球人は、唯一返せる貨幣である血を払っている。かつてのケイローンのように、傭兵として。
第一次の偵察作戦は、予想通り転移位置がばらけるなどトラブルはあったが、恵一の卓越した指揮で成功した。が、恵一は地球人はじめ途上種族を敵視する親衛義勇軍出身の上官に抗命罪で告発された。その思惑に怒ったデグル将軍が、
(それほどいうなら、チャンスをやるからやってみろ……)
と親衛義勇軍に大軍を任せ第二次偵察作戦を始めたが、移動要塞級の大火力と大艦隊に迎撃された。さらに超技術による退避に事故があった。
銀河間の超長距離ゆえに、アバターシステムがそのまま使えない。クローンに戦わせ、ある意味遠隔操作する技術だが、遠隔操作の距離が長すぎる。
並行時空の客がもたらしたアンシブルを使えばその距離は潰せるが、
(信用できるか……)
という感情論が強い。
並行時空からの客にも地球人が多いことは、恵一に嫉妬するロストゲイアーたちには腹立たしいのだ。
それで、この銀河間距離強行偵察は、かけがえのないオリジナルを戦場に投入しつつ、艦内で脱出ゲートに飛び込めば確実に前線ゲートを通って戻れるぐらい安全を確保している。それでも脱出のための転移に失敗し、何千人かがアンドロメダ銀河のあちこちにばらまかれたほどの大敗だった。
迎撃されての反撃でも、
(敵性文書……)
と恵一のレポートを無視するようなこともあり、効率的に戦えていたとは言えない。手足としては有能な将校が、指揮官としては無能で保身にすぎる、という問題も出た。
親衛義勇軍自体、どうしても手足として星系防衛戦に派遣される戦いで多くの実績を積んでおり、その経験が新しい戦場では足を引っ張るきらいもある。
無論、それに適応できるほど有能でなければ、
(使えぬ……)
にほかならないのだが。
その救援艦隊の司令長官に、軍法会議を短縮し無罪とされた恵一が任命された。戦闘艦も地上降下艇母艦も陸戦隊も混ぜた連合艦隊を率いることができるよう、上級少将への昇進も即時発効された。
粛清者領域での戦闘、星系防衛でのほぼ独立した局面をになっての戦闘など、彼の経験は巨大な軍でもかけがえがなかったのだ。
実は一度目には並行時空の高ステルス艦も、別にバーゲンホルムで先回りしていた。恵一が有能だったので出番こそなかったが。
二度目の恵一のアンドロメダ遠征にも、いる。
並行時空の客はほかにも、別の星で途上星系の人、特に被害を受けたモルダー星系人の救援と新しいライフスタイルの構築などで忙しく働いている。
レンズ通信で本国から、また001からも、工業力の指数関数増大・知能増強の恐ろしさも警告されながら、この非常時・戦時では、
(やらざるを得ない……)
と判断し進めている。
むしろ指数関数増大の、グラフの序盤の平坦さ・成長の鈍さがわずらわしいほどだ。
故郷の〔UPW〕諸国はすでに滅んだ多数の時空の遺跡でかなりの量を稼げた……
似たものはこちらにもある。
これまでの多数の戦いで、星系防衛戦に破れ、粛清者のブラックホール兵器に恒星を吸収されて冷え滅んでしまった多くの星系。
そこにも、凍り付いた多数の遺跡がある。中には西暦2000年の地球よりかなり上、中級種族に至っていた星系もかなりある。
その膨大な資材は救えなかった凍死体ともども放置されていた。
だが、それも量産されたブラックホール・エンジンさえあれば、内部を暖房してかなり使えるようになる。恒星光の恵みによる食料生産はできなくても、電気や水素や硫黄をエネルギーとして生きる細菌を増殖させ、その栄養分を食料にしたり、栄養素の分子を直接エネルギーで合成すればいい。
〔UPW〕の技術水準は、恒星を必要としない……自由浮遊惑星や、死んだ星系に、ズフィルード・クリスタルを中心とした種から短期間で、ブラックホール・エンジンをエネルギーとする数十万人が生活できる船を作り、それを自己増殖させて時間さえあれば何千億人でも生活できるようになる。遺跡の精錬された金属があれば初期時間を大きく減らせる。
途上種族、またわだかまりを捨てられたロストゲイアーの異端者たちには、それで多くの仕事ができた。
もう一つこの世界には、各種族の進歩を阻むことがある。
(すでにはるか上に進歩してしまった……)
種族を見上げる状態であることだ。
たとえば、リーマン予想に真剣に向き合う動機はない。上位種族がとっくに解いたうえで、
(まだ子供に教えても無駄だ……)
と、馬鹿にされていることがはっきりわかっている。
リーマン予想に挑戦できるほど賢い子は、軍に志願する。
さらにいえば、知識を無駄にする思念通信が常態化しているこの世界では、その賢さすら無意味になる……軍の独特の基準でなければ無意味なのだ。
挑戦する気が起きにくい、挑戦できずに腐ってしまう者が多すぎるのだ。まして地下シェルターにどんなチャンスがあるものか。
それを、並行時空技術での大規模開発は変えつつある。
同じ技術進歩・経済成長でも、貴族だけを豊かにする、天才だけを豊かにする、誰もが豊かになれる、はかなり違うのだ。
また並行時空の客たちは、ある程度はこちらの軍事力も割かせて、故郷に戻るためのゲート、あるいは何かを注ぐと別時空に行ける何かを探すこともしている。この銀河に他にもゲートがあるかもしれないのだ。
それも並行時空の客たちを忙しくさせているが、アンドロメダ侵攻作戦にもある程度人と艦を割くことができた。
それがとんでもない発見につながった。
ルーク・スカイウォーカーは、恵一が救出作戦に従事している恒星G833679からやや離れた星に何かを感知した。
バーゲンホルムで超加速した、高ステルス超高速のカーテローゼ・フォン・クロイツェルの紋章機で通過しながら観測したら、かなり大規模な粛清者の艦隊と、時空間ゲートが発見される。
「有坂恵一連合艦隊司令、こちらルーク・スカイウォーカー。今、そちらがいる星から114光年離れた恒星に、粛清者の大艦隊の移動と、我々が知る時空間ゲートを確認。多数の艦隊がゲートに侵入している模様。
これとは別に、その途中の星系に転移した救命艇を発見。できればこちらの存在を明かしたくないので、余裕があれば救助艦を」
恵一が完全に凍りつき、脳に促進剤を注入、思考加速を強めた。
まず、救助艦隊としての任務を優先する。知らされた要救助者の位置をコムロット少将に伝え、偵察を命令。
だが、このアンドロメダ銀河に別の時空間ゲートがある。
「ということは……粛清者は、地球人と共通する並行時空の人類もすべて滅ぼすと断固として決めたと伝えられた。
なら、当然そのゲートの向こうに人類があれば、攻撃するだろう。
またなんであれ、資源があるなら得るだろう。
もしこれからわれわれが粛清者を全滅させることができても、ゲートの向こうに生き残っているかもしれない。
もっと最悪なのは、知らないゲートがあるのに全滅させたと油断している状態、さらにそうではないかと疑心暗鬼で必要なリソースが無限になる状態。
そしてゲートの向こうは、粛清者よりはるかに強く、はるかに凶暴な存在かもしれない。その場合には人類は粛清者とも違う敵と戦うことになる。
いや、人類は誰もが知らない。銀河系とアンドロメダ銀河以外のこの宇宙がどうなっているか。
まして今は、どの銀河にゲートができているかわからない。銀河系にも……」
無限の穴が、前に開いたように思える。
幸い、救出作戦はかなり順調に進んだ。半ば狂った親衛義勇軍の指揮官が、救命艇内でも指揮権を剥奪されるほどひどい状態になり、ひたすら恵一を恨んで食器を研ぎすまして突きさしてきたという事件はあったが。
だが、恵一はすべきことがあった。
大艦隊が集結しているという、ゲートができた星の偵察。そしてできるならばそこの粛清者艦隊の殲滅と、そのゲートの向こうの偵察。
幸い、恵一は即座にデグル将軍に相談できた。アンシブルで何十人もの恵一のクローンが即時通信でつながっている、アバターシステムの上位システムがあるからだ。これはまだ普及させるのが危険ということで、アンシブル自体をごく一部に配布しているだけで、人格と統合させるには至っていない。
ケイローン上層部もアンドロメダ銀河のゲートの脅威を理解し、大規模な援軍を編成してそのまま銀河系側の恵一にゆだね、作戦を許可した。
001らは最上位種族とも直接話しており、その指示もある。
この作戦はする価値がある。
ゲートの向こうに〔UPW〕所属時空があればユリアンたちが帰還して情報を伝え、挟み撃ちにできる。
無人時空であれば、すでに向こうにいる粛清者を殲滅すれば、出入りが限られる強力な橋頭保ができる。
その情報は必須だ……
全力を出す価値はある。
(それほど重要な作戦を、恵一に任せるなど……)
という声を押さえるほうが大変だった。
重要な星系を防衛する戦いに倍する規模の艦隊がかき集められる。地球からも、地球復興と士官学校での教育に邁進しているバーツやリーが呼び出され、バーツは大艦隊の編成とそちらの恵一の補佐、リーは連合艦隊全体の機動戦闘艇戦隊の指揮を任される。
かつて地球を指導し、太陽系防衛でも活躍したアロイスも何人も加わっている。
そして〈クロガネ〉と、ブレクdが指揮する巡洋艦2隻、それとは別に艦隊を輸送するための、一万メートルに近い超巨大輸送艦。ユリアンがズフィルード・クリスタルの力を利用して造ったものだ。
援軍艦隊が向かっている間にも、そちらの恵一は救出と自分の治療を進めつつ、ゲートがある星系の偵察、粛清者艦隊の残党狩りなど忙しく戦い続けていた。
手が足りなくなった時にはルークのジェダイ専用特機とその補助無人駆逐艦、ミレニアム・ファルコン、カリンの紋章機も何度か戦線に出る。
そしてまずバーゲンホルムなど超速度がある〈クロガネ〉とブレクd艦が先行して到着、逐次投入の愚とならないように艦隊を整理し準備する。
その間にも粛清者の援軍を潰す戦い、救援任務や情報収集も続ける。
短期決戦。それも従来型アバターシステムが使えない銀河間戦闘……その主要メンバーは、並行時空からの小型アンシブルを用いる、銀河間アバターシステムでの参戦となる。
(決死隊よりはまし……)
だが、新技術に対する恐怖を思えば似たようなものだ。
遠いアンドロメダ銀河の、救出作戦で荒らされた星系。
その安全圏で巨大すぎる輸送艦に、アンドロメダで活動していた恵一が指揮する艦隊の、志願した一部が収納され、艦隊として整理される。
思念空間内で、思考加速を用いる短時間でシミュレーションを繰り返し、並行時空技術も用いる艦隊戦を訓練する。
バーゲンホルムの超速で、かなり巨大な輸送艦がオールト雲の警戒域を一気に超えて突入する。重力と関係する転移技術に、銀河系側も粛清者も頼っている……太陽の至近距離に出現することはない。だから警戒も転移適地に限定されている。
「陽動なし、最初から全力で殴る」
それが恵一の結論。
「相手の、完全な意識の外。相手から見ればあり得ない技術差。これを最初に活かすには、正攻法がいちばんだ。同時に補給を断つ」
ゲートのすぐそばにある、第二次偵察艦隊を壊滅させたのと同形の超巨大ムカデ型移動要塞。それを見た瞬間、恵一は事前に組まれたプログラムを始動させた。
そのプログラム、他の多数のプログラムは同時に銀河系の恵一にも流され、デグル将軍や001が検討している。
超巨大輸送艦がバーゲンホルムを解除すると同時に、その薄い、内部で艦船を軽く固定しているだけの外殻が爆発四散する。
その破片すべては一定の、それ自体が巡洋艦ぐらいはある大きさ。そのすべてが、コスモタイガーが使う艦載機エンジンで一気に光速ギリギリまで加速し、敵艦隊に正確に飛び突き刺さる。
巨大な爆発が連鎖する。
中には素早く中性子星程の密度がある散弾を光速に近い速度で放って迎撃した艦もあるが、その迎撃が引き起こす大爆発は周辺のセンサーも飽和させた。
その膨大な数の標的を短時間で狙わせる……それは、アンシブルで銀河系の、シュリシュクのありったけの計算力をほぼ直接利用できるからだった。それほどアンシブルは衝撃的な兵器になる。
同時。ブレクdが扱う巡洋艦二隻が、この星系の恒星からかなり離れた、物資流通用ゲートに襲いかかった。それが粛清者側の補給拠点となっている。
この時空では人類も粛清者も、超光速転移と、ゲートを構築してより速く大量の物資や艦隊を送り込む方法を使い分ける。この時空間ゲートがある星系では、時空間ゲートの近くの粛清者ゲートと、星系外縁から移動しつつ使われている粛清者ゲートから、時空間ゲートに多数の艦隊が流し込まれ続けているのだ。ちょうど蛇口からヤカンに水を注ぐように。
ゲート攻防が、ずっと人類の戦いだった。粛清者が転移しやすい重力のよどみを制し、妨害を排除しつつ多くの資材を転移させ、ゲートを構築して、そのゲートから恒星吸収兵器の部品を出して完成させる……それが敗北条件だった。
恵一の事実上最初の実戦であるモルダー星系防衛戦もその流れだった。……勝ったと思ったところで、単独で転移する恒星活性化巨大ミサイルという新兵器にひっくり返されたが。
その蛇口を攻める。
「今通過した敵が出した波長を読み取れ!同一波長で波動爆雷ミサイルを叩きこめ!同時に第四ゲートに波動砲発射!」
ゲートの向こう側も攻撃し、それからゲートを破壊する。
追加されている、外付け波動エンジンの波動砲が次々と別々の目標を狙撃する。
「加速し続けろ!ゲートは完全に破壊する必要はない、破損しているだけでもいい!短時間の使用不能でいい!」
ブレクdは通信に叫ぶが、実際には通信は必要ない。艦の乗員は全て彼女の属躰、しかもアンシブルで即時統合されている。艦内の光速タイムラグすらない。さらに銀河系にいるブレクcとも統合されているのだ。
破片が飛び散る、そのあとを追うように多数の艦船が飛び出す。
至近距離での観測情報をデグル将軍とその幕僚に直接伝え、その計算が終わるまでの数秒。
恵一のひとり、リー、オルガ、ライラ、ウィリアム、エミリーは、ユリアンが提供した〔UPW〕最新型と同様の、駆逐艦サイズの超大型個人戦闘艇で飛び出した。地球が誇る、銀河でも名が鳴り響く機動戦闘艇の達人ぞろい。それが、機動戦闘艇より巨大だがはるかに上の機動性、けた外れに上の火力を持って突進しているのだ。
009とポプランも同様。
すべてが最短距離。破片の飽和攻撃で対空砲とセンサーが飽和している巨大移動要塞に突進し、至近距離から波動砲を突き刺し、その穴に波動爆雷を放り込んで離脱、次の戦艦にブラックホール・キャノンをぶちこんで次。
〈クロガネ改〉は余計なことをせず、恵一が指示した一点に、不格好に外付けされたブラックホール砲を叩きこんだ。強烈な重力が次々と粛清者艦隊を吸引し破壊し続ける。
周辺が一掃されたゲートに、〈ミレニアム・ファルコン〉と、機動戦闘艇を操縦しているのとは別の恵一の総旗艦オーバー・ブレインが突入する。
さらに掃討戦は続く。ゲートとゲートを結ぶ濃密な輸送艦隊と、それを護衛する艦隊を次々と倒し、できればこの星系は恒久的に占拠したい。
星系縁辺部の粛清者ゲートはブレクdが破壊しているが、通常転移で次々と援軍を送り込んでくるだろう。
もっとも不利な戦いになる。
その不利な戦いは、否応なしに並行時空の客たちの技術に頼らざるを得ない。アンシブルと、バーゲンホルムによる超巨大輸送艦がなければとても戦えたものではないのだ。
ゲートを抜けたところでは、激しく戦い続けている艦隊の誰何を受けた。
粛清者は、ゲートを抜ける時点で倒され、そのまま艦隊を流し込み続けては潰され続けているだけだった……恵一たちにとってはかなりほっとする状況。
悪いニュースは、その先にいた人類は〔UPW〕を知らなかった。
デリアンという、すでに恒星が吸収されてしまった星系。そこはさらに別時空の、グラッカン帝国を主体とする艦隊に守られていた。
そこで恵一を迎えたのは、時空間ゲートから出た時空で生まれた、ヴァッタ航宙のステラというとんでもない美女と、グラッカン帝国の貴族たち。
それだけではなかった。闇に隠れた宙賊ガミス・トゥレック、そして他の時空の闇も、新しい客を闇から見ている。
(どのように騙せるか、どのように儲けられるか……)
だがそんな悪党たちも、このゲートの向こうがどれほどの地獄か知らないだろう。
そして恵一たちは、もっと広い範囲の恐ろしい戦いを、キャプテン・ヒロやグラッカン帝国皇帝に告げることになる……