「これは書かなくちゃ!」
と思い、しかし作品が多いので、短編として出させていただきました。
岩融とハム公(此処では奏と表記)の話、私の自己満足の為のものですが、満足していただけたら幸いです!
因みに、続きはないです
ある満月の夜のこと。
一つの本丸で、唯一の薙刀である岩融が日本酒を飲みながら静かに月を眺めていた。
そこに近づく影が一つ。
「…………」
「おや?岩融、こんな所で月見か?」
「……お?なんだ、三日月。お主こそこんな夜更けになんだ?自身を見に来たか?」
「はっはっは。確かに俺は月だが、しかし月は月でも俺は三日月だからな。満月ではないぞ」
そう笑いながら近寄る天下五剣が一振り、三日月宗近は、岩融の横に座ると、盃を手に同じ酒を飲みだした。
「準備の良さから見て、お主も月見をする気満々だった様子だな」
「まあ、仕方なかろう。爺は夜眠るのは早いが、今宵は満月。なかなか眠れなくなるのだ……そういうお主こそ、こんな時間にどうしたのだ?悩み事か?もしくは……過去を想っていたのか?」
その言葉に、岩融の手は止まり、悲しそうに月を見上げた。
「……彼奴は今も、彼処にいるのだろうか……」
「そうだろうな。あの愚者の娘は人の欲望から死を守るため、封印の要になったままだろう……人の中から、死を望む欲望が消えぬ限り、永久にな」
「……三日月よ。あの娘は強かったな……」
「そうだな。誰よりも強く、そして美しい魂の持ち主だった。故に、俺を振るった魔術師の男も、恋の女も、女帝も、皆んなあの娘が好きだったのだ。……各言う俺も、あの時にいた御手杵に蜻蛉切、数珠丸も、あの娘が死んだ時、悲しんだ。その中でもお主ともう一人の愚者の男が一番、悲しんでいたな、岩融よ」
「当たり前だ。男はあの娘の兄だ。家族が死に、悲しまぬ者などいわせぬ。俺はあの娘に振るわれていた。故に、俺の魂を預けたも同然……何より、俺もあの娘は好いていたのだ。俺を上手く振るってくれた、あの娘を……」
岩融はそう話すと、酒を煽り、もう一度見上げた。
「……そろそろ、時間も過ぎる。そうすれば、俺も、お主も、御手杵達も、安心して眠れる事だろう」
「そうだな……」
岩融と三日月は、その言葉を交わしたきり、会話をする事はなかった。
***
岩融が目を開けると、其処は見知らぬ場所だった。
晴れた青空、硬いコンクリートの地面と手すり、出入りが出来る扉、そして何より目立つのは、人が座れるであろう一脚のベンチ。
「……ここは、何処だ?」
岩融は周りを警戒しながら見ていると、ふと、手すりの方に人を見つけ、その姿に目を見開いた。
茶髪の髪を上に結び、黒一色で纏められた上着とスカート、現世でいう制服というものに身を包み、風に吹かれながらも外を見る優しげなその赤い瞳。そして何より、髪に付いてる特徴的なXXIIの形で止められた白いヘアピン。
それは間違いなく、あの一年間、誰にも知られない『時間』の中、己を振るい戦ってきた少女。
「……っ!奏!」
岩融はそれを理解すると、己が出せる機動の全力で少女ー有里 奏ーに近付く。
奏と呼ばれた少女はその声に振り向くと、笑顔を向けた。
「あ!岩融!久し振りだね!元気にしてた?」
「主よ……お主、どうして此処に。これは夢か?」
「うん、夢だよ、岩融。私がね、岩融と話してみたかったから、此処に連れてきちゃった」
奏は笑顔で伝えると、岩融の体に抱き付いた。
「いや〜、岩融が人型を取ると、こうなるんだね〜。私、吃驚しちゃった」
「俺はそれよりも、お主とまた会えた事の方に驚いたぞ。それで、主……此処は何処なのだ?」
岩融は周りを見ながら疑問を放つと、奏は少し眉を下げ、苦笑を漏らしながらも答える。
「……此処はね、私が通ってた学校の屋上……私達が、Deathと闘って平和になったら来て、平和になった世界を此処から見ようって約束した場所だよ」
「……」
岩融はその言葉に悲しそうに顔を顰めるが、奏はそれを気にせず、手をベンチの方へと引っ張り出した。
「さあさあ!岩融!時間は有限だよ!私に話したい事、ベンチに座ってから全部私にぶつけちゃって!私も岩融の話、聞いてみたい!」
奏の笑顔を見て、岩融も同じように笑顔を浮かべる。
「ガッハッハ!良かろう!俺もお主には話したい事、言っておきたい事があったからな!」
そうして二人はベンチに座り、たわいもない話に花を咲かせ始める。
弁慶の話、現代の話、時間逆行軍との戦いの話、その他諸々の話、その全てを、岩融は笑って聞かせた。
奏もまた、岩融の話を笑顔で、時折頷き、大袈裟な驚き方をしたり、とても楽しそうに聞いていた。
そんな二人の時間は、しかし無情にも過ぎて行く。
「……さてっと!」
突如、奏が勢い良くベンチから立ち上がり、伸びをし、岩融に笑顔で振り向く。
「そろそろ、お別れの時間だよ」
「……そうか……もう、時間か」
「うん。……楽しい時間はあっという間だね」
「そうだな……」
岩融もまた、体をベンチから立たせると、笑顔の奏の前まで歩き、立ち止まる。
奏はそれに笑顔を浮かべたまま、掌を見せた。
「岩融、これ、あげるね」
岩融の手に乗せられたものは、綺麗な孔雀の羽根だった。
「……これは、もしや」
「うん。私が最期に使ってた、孔雀御前の一部だよ」
岩融はそれを聞き、大事そうに胸の前まで羽根を持った手を持ってきた。
「……俺は、お前が守ったこの世界を、守り続ける。お主の前で、そう誓おう」
「うん、ありがとう、岩融。……後は、頼んだよ」
「ああ……お主の事、誰が忘れようと、誰も覚えてなかろうと、俺だけは必ず、覚えているぞ!」
岩融は太陽のような笑顔を奏に向けた。
奏はその言葉に目を見開き、次には涙を目に浮かべ、笑いながら答えた。
「……うん!岩融、私も、貴方を振るったあの時間を、今のこの時間を、絶対に忘れない!どれだけの時間、封印の要として過ごそうとね!」
「ガッハッハ!それは嬉しいな!主よ!」
岩融が笑いながら言うと、目の前が白くなり始めた。
そして、全てが白に包まれる前に見たのは、
「ーーーーーー」
***
岩融が目覚めると、そこはいつも通りの和室の部屋。
(……やはり、アレは俺の夢か。……俺は、あの娘にそれほど会いたかったのだろうな)
岩融はそう思いながら起き上がろうとすると、手から何かが落ちるような感触を感じた。
「?……これは……!」
岩融が拾ったのは、夢の中にも出てきた孔雀御前の一部だった。
「……主」
『またね、岩融』
岩融は最後に見た、笑顔で手を振りながら、そう伝えてきた娘を思い出すと、笑顔を浮かべた。
「……ああ、主よ。また会おうぞ!」
また会う事を、心に決めながら。