ストライクウィッチーズ対ミステリアン   作:サイレント・レイ

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第7話 追撃、台南空(中編)

――― ????? ―――

 

 

『全機に告ぐ、これより攻撃を許可する。

速やかに501を全員撃墜せよ。

繰り返す…』

 

「あのオッサン、本当にやりやがっタ!!」

 

「仕方ないよ。

それが軍人なんですから」

 

「だからと言って、少佐が撃ち落とされていい訳がありません!」

 

「でしたら、急ぐしかありません」

 

「そうダナ」

 

「坂本少佐、どうか御無事で!!!」

 

「……やれやれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 台湾 ―――

 

 

「少佐、アンタは紫電の慣らしをやってないんだから、お先にどうぞ!」

 

「心配無用だ!

今からそれをするんだから、お前が先に行け!

私は殿(シンガリ)で出る!」

 

 誰が一番機で出るのかと、シャーリーと美緒の間でこんなやり取りがあったが、1番機となったシャーリーがストライカーユニットを纏い、発進の為に二式大艇の上部に上がるのとほぼ同時に、攻撃の為に失速して一旦距離を取ったF8F群が一斉に銃撃しながら突撃してきた。

 当然、二式大艇は機銃座群が一斉に火を噴いて回避行動を取って一部をやり過ごした後、左翼根元を掴まって屈んだシャーリーも隙をみて発進した。

 シャーリーが発進した事で、F8F群がシャーリーか二式大艇のどちらを狙うかでの迷いで乱れが出たのを見逃さなかったシャーリーは、宙返りをしながら先頭集団に機関銃を撃ち込んで掻き乱したお陰で、此の間にルッキーニと芳佳が発進に成功した。

 だが半年近くも実戦から遠退いていた芳佳が、二式大艇が回避運動中であることもあって、発進が変にもたついていた為に最後の美緒が機体上部に上がった直後にF8Fの1機が機銃を撃ちながら突撃してきたが、F8Fの動きを読んで体を捻って避けた美緒はその隙に発進した。

 

「よし!

全員無事だな!?」

 

 美緒発進直後に加速しながら上昇しだしたニ式大艇を確認した美緒のインカムでの確認に芳佳達3人は一斉に「はい!!」と答えた。

 

「坂本さん、ニ式大艇が!!」

 

「大丈夫だ!

アレにはリベリオン製の過吸機(スーパーチャージャー)が試験装備されているから、高々度まで逃げ切れる!」

 

「それにF8Fは高性能だが艦上機だから、そんなに高くは昇れない!」

 

 数機のF8F群が未練がましくニ式大艇を追撃していたので芳佳が美緒に叫んだが、その美緒の言った事に加えてシャーリーの指摘通り、確かに急上昇をしているニ式大艇はF8Fを振り払っていた。

 だが此の事は、F8Fの全機が全力で美緒達ウィッチに襲い掛かってくる事へ強制的に選択させてしまった。

 

「来るぞ!!」

 

 美緒が叫んだ直後、ニ式大艇を諦めて美緒達への攻撃隊への合流を目指している者達のも含めて、四方八方から突撃を開始した。

 尤も、反撃していないが、シャーリーとルッキーニがF8F群と既に交戦していたので、本格的に始まったと言うべきかもしれない。

 

「宮藤、私達も行くぞ!」

 

「でも坂本さん、相手はネウロイじゃないんですよ!」

 

「…っ!」

 

 良く言えば“優しすぎる”、悪く言えば“甘すぎる”事からの芳佳の躊躇いだったが、流石に今回の相手は同じ人間であったので、美緒は無意識の内に歯軋りをした。

 

「うっひゃぁぁー!!!

速い速い!!!」

 

「……同じ人間同士だって、言うのに…」

 

 まぁ、楽しそうに飛び回っているルッキーニは兎も角として、シャーリーも同じ気持ちでF8Fの銃撃を横滑りで回避していた。

 

「翼だ!!

相手の翼を狙い撃つんだ!

可能であればエンジンを狙え!」

 

 明らかに動きの鈍い芳佳を援護しながら、突撃してきたF8Fの1機のエンジンを狙い撃った美緒だったが、実を言うと4人の中で1番“後ろ髪を引かれている”のは美緒、元台南空所属だった彼女にしてみたらF8F群に乗っている搭乗兵達は可愛い後輩達なのだったから。

 

「…そんな、飛び方じゃ、敵に撃ち落とされるぞ!!」

 

 現に、美緒が宙返りをしてから背負っていた刀を抜刀して右翼を切り落としたF8Fに乗っていた搭乗兵の幼さが残る顔を見た時、口調に反して彼女の顔に罪悪感が出ていた。

 

「ゴメン、少佐!!!

燃料タンクを撃ち抜いちゃった!」

 

「…っ!?」

 

 更に言うと、ルッキーニが間違って燃料タンクを撃ち抜いた所為に炎上しながら墜落しかけているF8Fにギョッとしながら見つけた美緒は、動こうとした芳佳の前にその機体に急いで駆け寄り……脱出しようとしている搭乗兵が動かないキャノピーを叩き続けている事から、キャノピーが引っ掛かっている事を察して、そのキャノピーを力任せに引き剥がして(お陰で彼女の右手が派手に出血していたが…)直ぐに驚いている搭乗兵を引き上げて脇へ投げ捨てた。

 暫くした後、その搭乗兵が落下傘を開いたのを確認した美緒は、更に他の撃墜機からも次々に落下傘で脱出している光景に安堵の溜め息を吐いていた。

 更に美緒は零戦だと間に合わなかった事を察して、重いが瞬発力のある紫電の性能に感服していた。

 

「やっぱり、弟子は師匠に似るもんだねぇ~」

 

「ああん!!」

 

 ニヤケながら茶化してきたシャーリーに怒りはした美緒だったが、否定はしなかった通り、内心は“全くその通り”と思っていた。

 

「……それにしても、動きが悪い…」

 

 おそらく個々の力が悪い事からF8F群が“妙に直線的に飛ぶ”“大回りで旋回する”等明らかに動きが悪かった。

 もしかしたらF8Fは思っていた以上に近い日に受領した為に慣熟度が出来上がっていないのかもしれないが、それを差し引いての酷さに、美緒は台南空の落ちぶれ度合いに嘆くべきなのか、自分達の台湾突破への光明が見えてきた事に喜ぶべきなのかと複雑な気持ちになっていた。

 だが、確かに素人達が大多数を占めてはいたが、玄人も僅かにいたらしく、現におぼつかない動きで回避運動をし続けていた芳佳の背後目掛けて、見事だが妙に動きの遅い右ロールで突進するF8Fがいて……“んっ”とした美緒は気付かなかったが、シャーリーは翼下に8個もぶら下がっている物にギョッとした。

 

「宮藤!!!」

 

「えっ、シャーリ……!!?」

 

 他のF8F群の機銃のかすり傷を気にせず、驚いた芳佳の背後に回ったシャーリーがシールドを展開した直後に先述のF8Fから翼下の物体群が一斉に発射され……8個全てが途中で蛇行し始めて3個が明後日の方角に飛んでいったが、取り合えずシャーリーのシールドに接触出来た3個は大爆発を起こし、更に外れて脇に逸れそうだった2個も弾頭の近接信管が作動して此れまた大爆発を起こした。

 

「シャーリー!!!」

 

 F8Fが仕止めきれなかったと判断してシャーリーと芳佳に突撃しようとしたが、ルッキーニの上方からの突撃に気付いて回避行動に移ったので、最悪の事態は避けられたが、F8Fの放った物に美緒がギョッとしていた。

 

「…畜生、海軍の奴等、とんでもないモンを渡してやがって」

 

「…ロケット弾(噴進弾)、リベリオンは空対空ロケット弾を実用化していたのか!?」

 

「ああ、あのMk.4 FFAR、対地にしか使えないと聞いていたんだがな」

 

 袖が破れて、負傷した両腕を芳佳の回復魔法を受けているシャーリーの美緒への返事の通り、確かにリベリオンのあらゆるロケット弾は、その弾速の遅さが原因で真っ直ぐ飛ばない事からの命中精度の無さから対地にしか使用出来なかった。

 別に此の問題はロケット弾の構造的問題であり、実際空対空ロケット弾を開発した扶桑やカールスラントも悩まされており、誘導装置搭載型(ミサイル)が登場するまでは“下手な鉄砲、数打ちゃ当たる”の要領で、兎にも角にも1度の投射量を増やすしかなかった。

 だが、厄介なのは此のMk.4 MMARには他のロケット弾に無い特長として、弾頭に近接信管(VT信管)が装備されていて、多少の命中精度が改善していた上に、元から1発分の破壊力も大型爆撃機や戦車を一撃で撃破出来るシロモノだったから厄介極まりなかった。

 幸いロケット弾を搭載しているF8Fは少数みたいだが、どうも美緒が動きを見た処、その搭載しているのは隊長等の玄人搭乗機の様だった。

 

「どうする?

このまま遊んでもいられないぞ」

 

 シャーリーの指摘通り、元から質は兎も角として、数は圧倒的に台南空側にあるだけでなく、何も手を打たずにもたもたしていたら次波がやってくる危険性があった。

 

『…と少佐、坂本少佐!

応答願います、坂本少佐!』

 

「…っ!? 土方か!?」

 

 F8F群の突撃を何度か避けながら、唇を噛んで対策を考えていた美緒に二式大艇からの通信が入った。

 

「何があったのか!?」

 

『いえ、我々はなんとか振り切れました』

 

「じゃあ、何で呼んだ!!」

 

『台湾の中部山間部に厚い雲が掛かっているのが確認出来たからです。

恐らく、雨が降っています』

 

 苛立っていた事から土方に思わず怒鳴ってしまった美緒だったが、盗聴を気にしていたのか妙に手短だったが、彼の報告から狙いを察した。

 

「芳佳、ルッキーニ、南進して山間部に逃げ込め!!」

 

「でも坂本さん…」

 

「私にいい考えがある!」

 

 シールドが使えない事に不安を感じていた芳佳を、作戦に不安があるんだと勘違いした美緒はニッと笑って先に行かした。

 尤も美緒の発言はメタ的には、不幸を招く某司令官(しかも美緒と立ち位置はほぼ同じ)のであった為に不吉さを感じるのであったが…

 

「シャーリー!!」

 

「ああ、分かってるさ!!

此処で決めなきゃ女が廃る!」

 

 芳佳の零戦やルッキーニのG.55では、速度でF8Fに劣る以上は逃げ切れない可能性が高いだけでなく、芳佳はブランクからの動きの鈍さでルッキーニは間違ってF8Fを撃墜する可能性大なので2人は先に行かせ、美緒はシャーリーと共に殿に着いて、南下しながらの追撃してくるF8F群の撹乱に入った。

 当然、素人が殆どの台南空は玄人の中でも超一流の美緒とシャーリーに良いようにいなされていたが、やはり九六陸攻のレーダー航空管制で突撃方向だけは2人の死角に入ろうとしている見事なモノだったので、美緒とシャーリーが冷や汗をかきながら歯軋りをしていた。

 

「坂本さん、山の前に誰か居ます!!!」

 

 まぁそれでもなんとか、山脈の所に辿り着こうとしていたが、その山脈の前方……土方の報告通りに発生していた雨雲の中の何かがいる事に芳佳が気付き、彼女の叫んでの通信で美緒が慌てて魔眼で確認した。

 

「…っ!? ウィッチが何人かいる!!!」

 

 美緒は読まれていた事を危惧していたが、そこに雨雲の中にいるのがウィッチ複数だと判明した事から、美緒、シャーリー、芳佳の3人は“508JFW”の単語が頭に浮かんだ。

 

「ねえねえ芳佳、こう言うのって扶桑の言葉で言うと………前門の、猫?」

 

「…違います」

 

「“前門の虎、後門の狼”だぁぁぁー!!!」

 

 現状を理解してるかが怪しいルッキーニが、芳佳に言いたかっただろう諺を間違えた為、芳佳が頭を押さえながら顔を伏せ、何故か美緒が正解を怒鳴って答えた。

 

「どうすんだよ、少佐!!?」

 

「…此処まで来たら、押し通るしかない!!」

 

「ですけど、坂本さん!!!」

 

 明らかにシャーリーが驚き戸惑い、美緒の命令に芳佳が嫌がっていたが、その美緒も戦いへの拒絶反応が見受けられた。

 だがそんな美緒達の危惧を他所に、雨雲の中の者達はロケット弾を多数放ち………芳佳達の頭上を越えて、美緒とシャーリーやF8F群の前方上空で一斉に炸裂した。

 すると少し間を置いた後に、F8F群が突然突撃を止めてしまった。

 

「アイツ等、どうしたんだ?」

 

「…コイツは、アルミ箔……っ!

ウィンドウ!!?」

 

 F8F群の動きもそうだったが、ウィンドウ……後世で言うチャフが散布された事に美緒とシャーリーが思わず目線を合わせていた。

 

「今、ウィンドウでレーダーが撹乱されています」

 

「早く、山の中に逃げてるンダ!!!」

 

 美緒達のインカムに懐かしい声が複数聞こえたと思ったら、雨雲から3人のウィッチが飛び出てきた。

 

「サーニャちゃん!! エイラさん!! ペリーヌさん!!」

 

 芳佳が思わず叫んだ通り、その3人は501JFW所属で欧州にいる筈のサーニャ、エイラ、ペリーヌだった。

 

「お前等、なんでこんな所にいるんだ!!?」

 

「説明は後です!

急いでください、少佐!!」

 

「ウィンドウは長く持たないゾ!!!」

 

 美緒の質問に答えずにせっつかせていたペリーヌとエイラの言う通り、ウィンドウ散布空域から抜けるだけでなく、ウィンドウその物も彼女達の下方に落ちていた。

 此の為、サーニャが新たにウィンドウ入りのロケット弾を多数放っていたが、今度のはF8F群はあまり反応していなかったので、素人が大多数と言えど台南空に同じ手は通じそうになかった。

 

「急ぐぞ!!!」

 

「おう!!!」

 

 既に芳佳とルッキーニはペリーヌ達3人の所に辿り着いていたが、美緒とシャーリーも追撃してくるF8F群をいなしながら急いで彼女達の所に向かった。




 感想・御意見、どちらでもお願いします。

芳佳
「…随分と久しぶりの投稿ですけど、此の作品を覚えている人はいるんですかね?」

……はう…

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