Fate/Dark order   作:ハナネット

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  ―最初に抱いたのは死なないことへの困惑、次に抱いたのは存在が否定される絶望―牢の中にいた俺を、彼女は優しく話しかけてくれた―彼女の首が棒に突き刺され掲げられている―やったのは彼女の同族の神々たち―俺の存在を認めるよう訴えた彼女のことを馬鹿な女と嘲笑っている神聖な者たち―牢にいた俺の足元に、断ち割られた彼女のペンダントが転がってきた―暗く深い牢屋でそのまま誰からも忘れられ放置された―憎い、自分のことはどうでもいい。もともと価値などなかった。俺だけを目の敵にすればよかったのに、彼女を殺した。穢れの不死を庇った馬鹿な女と罵り貶めた。憎い。彼女の死に何もできなかった自分が憎い。彼女を馬鹿にした神々が憎い。無力な自分が憎い。力が欲しい。奴らを殺してやる。力が欲しい殺してやる。力が欲しい殺してやる力がホシイコロシテヤルチカラガホシイコロシテヤルホシイコロスホシイコロスホシイコロスホシイコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!

           彼女に、会いたい

  それが、深淵の主マヌスのソウルから読み取れた記憶の断片だった。


渇望 ―魂―

サイド:熊沢多美香

 サーヴァントを2騎召喚し戦力を揃えた私たちは、まずは都市の中心部から周りへと巡る形で調査を進めていくよう所長より命令された。今私たちがいるのはここ冬木市を二分する未遠川を渡している冬木大橋の深山町側にある橋下の公園にいる。この街の地理は途中で廃墟の本屋さんで焼け残っていた観光ガイドを見つけてある程度目星はつけてあるので、この周辺をスタート地点にして調査が始まった。

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「フォーウ?」

(なんか・・・すごく気まずい空気になっちゃったなぁ)

 始まったのだが、私たちは今重苦しい雰囲気の中その足を進めているところだった。

 原因その1、夜見ちゃんが物凄い不機嫌ななオーラを出して周りを威圧している。さっきからその理由を問いただそうとしても、

「何でもない」

「僕はいつも通りだ」

「いい加減うっとおしいんだけど」

「だかっらっ!命っ令でっ答っえさっせようっとすっるな!!」

「お、落ち着いてください夜見さん!先輩も悪気があったわけではないと思います!少しはあるかもしれませんが」

と、最終手段のギアスまで使ったんだけど、本人は金縛りに掛かりながらも頑なに答えようとしなかった。夜見ちゃんに掛けられているギアスは命令した人間がその命令を取り消せば金縛りが解けるらしく、あまりのキレ具合にびっくりして取り消したら引っぱたかれそうになりマシュの羽交い絞めのお蔭で助かった。(そのあと所長に軽はずみにギアスを使うなと叱られた)そんなわけで、怒り心頭で聞く耳持たずな彼女のネガティブ重力場を止める手段はないのだ。

  原因その2、夜見ちゃんが精神的力場を生み出してるとしたら、こちらは物理的に視覚的作用で私たちに圧迫感を与えている。。

 その騎士は、人間と言うには大きすぎ、光の勇者様と見るには物凄くファンタジーに出てくる闇堕ちしたライバルキャラめいた威圧感に溢れていた。

  夜見ちゃんが召喚したサーヴァント、バーサーカー。召喚直後に暴走した彼を押さえつけるゴタゴタが落ち着いて、夜見ちゃんがステータスを読み取って見た限りでは真名は深淵の狩人・アルトリウスさんというらしい。だけど、所長がロマンにカルデアのデータベースを漁ってもらっても名前が同じ英霊はいるがこの英霊には各情報との一致がみられなかったことから、もしかしたらかなりマイナーな伝承に登場する英霊ではと予想されたけど、結局英霊の正体は分からなかったそうだ。

 それで件のバーサーカーことアルトリウスさんはというと、私たちの一団の後方、正確には夜見ちゃんの後ろをカルガモの親子みたいに付いて来ている。巨体と相まって夜見ちゃんの後方を追いかける姿はホラー映画の殺人鬼に襲われそうになっている少女の構図を思わせられてなんか怖い。

  ここで当然ながらサーヴァントを霊体化させればよいのではと思うんだけど、夜見ちゃん曰くなぜか彼に命令しても霊体化せず黙ったまま何もしない状態で突っ立っているだけなんだそうだ。もしかしたら霊体化できないのではないかとも話し合って考えたけど、ステータスにも記載はなく本人もクラススキルの影響で言葉を話せないのか何も喋らないのでどうにも出来ず、結局彼をそのまま実体化させて調査を開始したのでした。

  途中の骸骨の兵士の妨害も、小次郎さんの流麗な刀の一閃で四散、マシュの大盾クラッシュでバラバラ、バーサーカーの大剣兜割りで原型を留めていないなど相手がかわいそうになる有様となり調査に支障はない。夜見ちゃんは私や所長のガードを完全にこなしており、死角からの奇襲も持ち替えた棘付き鉄球がある鉄棒の一撃で迎撃していた。(骨が相手ならこちらの方が効率がいいそうだ。でも見た目と効果が痛そう)ちなみに、護身用にと私には短剣(初めて持ったけど私では両手で持ってないとすぐに手首を痛めそう)、所長には二つの頭がある鳥が描かれた木製の盾(所長も両手で支えるのがやっとの感じで私と一緒だった)が渡されている。あくまでもしもの場合に備えてだが、慣れない武器をすぐに扱える訳がないので一つの用途で使うことを意識してもらった方がまだましなのだそうだ。

 

"なかなかに心踊る死合いであったが、残念なことよ。かの騎士殿が十全な状態であれば、それこそ私の心魂さえ賭した秘剣を披露出来ていたであろうに"

  霊体化した小次郎さんが残念そうに愚痴った。自分の命さえ戦いが出来るなら差し出せるその心境は現代人の私には理解しづらいものだけど、それより彼が言った言葉が引っ掛かった。

「十全じゃなかったって、あの左手のこと?確かに片手がダメになってたら全力は出せないとは思うけど、それでもあのとき見たバーサーカーは物凄い勢いで飛んだり突っ込んできたりしていて右手のでっかい剣だけで十分強かったと思うけど」

"それがそもそも誤りだ。あの者は本来左利き(・・・・・・・・・)と見た。右腕の動き自体は慣れない手でほとんど膂力任せに剣を振るう技術が伴わない駄剣の様であったからな。それにバーサーカーは理性を犠牲にして力の底上げをするクラスゆえ持ち合わせた技術を生かせん。故に私は残念と評したのよ"

 私には瞬間移動したようにしか見えない動作の一瞬一瞬を、このお侍様は洩らさず見ていたようだ。しかも相手の癖も瞬時に把握する観察力もあるし、これで佐々木小次郎の偽物だなんて言われたら本物はどれだけすごい人なんだと思わざるを得ないよ。だとすると、あれ?あの左手が治って武器を持ち替えてたら小次郎さんでもさっき言った命かけなきゃいけないほどだったってこと?そんな相手に戦いたいって言ったの小次郎さん!

「どう考えても無理だよ。さっきは小次郎さんの言う不完全だったから立ち回れたけど、ステータス見比べてもタメを張ってるのは敏捷値と上回ってる幸運値くらいでその他の能力値では小次郎さんが負けちゃうよ」

”すていたすなど所詮は術師が自分たちに理解しやすい指標として示した表面的な事実に過ぎん。実際魔術師のサーヴァントは筋力が最低であっても余人の首を全力を出せばへし折る程度の力がある。劣っているものがあろうとやりようによっては状況を覆すこともあるのだ。あまり能力値が全てだと思い込むと足元を掬われるぞ、多美香殿”

「うっ・・・不勉強でした。すみません…」

  自分の理解の足りなさに申し訳なくなるけど、小次郎さんが言うにはあれだけの破壊をまき散らしたバーサーカーはあれでも完全な状態ではなかったそうだ。そんな相手の攻撃に怪我をしながらも耐え抜いた夜見ちゃんは、常人サイドの私から見て異常っぷりがすごいと思う。

  それにしても、夜見ちゃんが不機嫌になったのはバーサーカーを召喚した後のことだけど、もしかしてあのサーヴァントのことを何か知っていたのかな。なんだか、よくよく見ていると不機嫌というか、怯えているようにもみえる気がするし。さっき言った一言がそんなに気になったのかな?そんなことを思いながら、私たちの後ろにいるバーサーカーを見る。今は命令に従い行動しているけど、その仮面の奥にある瞳の先には、常に夜見ちゃんに向かっているような気がした。

 

サイド:焔間夜見

 僕は怖い。今後ろで着いてくる群青の騎士の存在に心底恐怖している。力が強いとか存在が圧倒的だとかいうのは今更のことだから驚くようなことではない。元より弱い身であったぼくにとって相手が圧倒的強者であったのは当たり前にであったし、そんなことで驚くような感覚はあの騎士に幾度となく殺されてきた経験でとっくの昔に麻痺している。僕が怖いのは、彼を見ていると沈み混んでいた澱がちょっとした衝撃で浮かび上がって来るようにある衝動がじわじわと感じてきていることだ。

 ソウルが欲しい。もっとソウルが欲しい。もっともっとソウルが欲しい。

 こちらの世界に生まれ直してから消えていた衝動は、カルデアスでの爆発で死んでから僅かながら浮かんでいたが、それでもここまでに欲求不満を覚えるようなものではなかった。しかし、彼を召喚してから、正確には彼が暴走した際に自分の持てる力でぶつかり合った後、衝動はより強く僕を蝕んでいるように感じる。彼の強大なソウルを奪えと僕の中にあるダークソウルが囁き掛けてくる。こんなことになったのもそもそもあの騎士がどういうわけか僕の召喚に応じ現れたせいだ。僕は彼が召喚された直後の騒動を思いだし、憂鬱な思いで足を進めていた。

 

〈回想:深淵の狩人 アルトリウス戦〉

  召喚直後、彼はおもむろに顔を上げると、なんともなしに周りを見回し始めた。見知らぬ場所に迷いでたような反応を見せるそのサーヴァントは、果たして何に反応したか僕の姿を、もっと言うなら僕の中の何かの気配に勘づいたのか、瞬時に全身から殺意をみなぎらせ、覇気を全身から拡散させた。僕を見た瞬間から戦闘態勢に入るその刹那、僕は幾度となく見てきた彼の戦闘機動が頭を過り(よぎ)限られた時間から精一杯の選択を辛うじて実行した。

 

「皆、離れて!!!!」

 

 僕の警告にアルトリウスの異様な姿に意表を突かれていた多美香を小次郎が現界し抱えて距離を取り、遅れて反応したマシュがフォウを抱えてそれに続く。

  

  だが、所長は反応できず僕の声にビクリと体を硬直させてしまった。まずい!所長がいるのは召喚陣の前に立っていた僕の左隣。

  彼の次に繰り出すのは僕の正面方向への神速の刺突。僕は強化されているからダメージはある程度抑えられるかもしれないが、無防備な所長は衝撃に耐えられずミンチにされる!

  

  アルトリウスが右腕を引き刺突の力を込める0.2秒。

  

  所長をここから巻き込まずに遠くへ飛ばす方法を反射的に選択する。

  

  限界まで筋繊維の弦が引き絞られる0.5秒。

  

  左手にあえて盾を取り出さず、術発動後の無防備な状態の防御の為に最大の防御性能を誇る鎧を全身に身に纏う。

 

  

  力が解放され大剣の矢が放たれる0.7秒。

  

  右手に粗い布でできたタリスマンを取りだし、発動する聖書の物語をイメージし自己暗示を完了させる。

  同時に空いていた左手で所長を加減して突き飛ばし、少しでも距離を稼がせる。

  大剣の先端が頭蓋を貫く寸前の0.8秒。

  

  奇跡「フォース」発動!!

  僕を中心に放たれた衝撃波が広がりオルガマリー所長をさらに遠くへと飛ばす。

  その波動はアルトリウスにも直撃するが、人外の強靭さを持つ体躯は小動(こゆるぎ)もせず僕に迫ってくる。だが、もとより動きを止められるとは思っていない。

  衝撃波は大剣の剣筋を振れさせ、僅かだが逸れるのを逃がさず僕は首を全力で右へと逸らせる。

  大剣が顔の真横を掠め、衝撃で兜の一部が散らばって左耳が千切れ飛び、続いて迫ってきた巨体がその勢いのまま殺人的重量の岩の鎧、ハベルの鎧を着こんだ僕を撥ね飛ばした。

  全身を襲う衝撃に耐え鎧ごと3メートル宙を飛んだ僕は地に足をついた後も慣性に逆らわず体を回転させ威力を殺しながらハベルの鎧を収納、使い込んだアストラの騎士の鎧を視界が隠れる兜を除き全身に着込む。余程の体力がなければあの岩の鎧で高速戦闘は出来ない。

  防御性能を確保しつつ強化された体の動きを阻害しない装備に変更した直後、7メートル先にある刺突の硬直が抜けたアルトリウスの体が消えた。

  !?、違う!

  一瞬で遥かな上方へと跳躍し体をくねらせて大剣を垂直に落とし襲いかかる。

  落下地点から相手の懐に入り込むようにローリングで飛び込み回避、僕の背後で騎士が落下と同時に地面を粉砕する。だが、攻撃はそれだけでは終わらない。

  深く突き刺さった大剣を騎士は力任せに引き斬るように僕がいる方角へと下から無理矢理弾き出し瓦礫の散弾を浴びせかける。

  散弾の雨を避けきれないと把握、黒鉄の大盾を出し正面に構えて受けきる。

  だが騎士は僕を滅殺せんと次の手を繰り出す。先ほどよりも低く跳躍し体を回転させ勢いを乗せた大剣の縦一閃が繰り出され、盾で受ける。

  腕全体が衝撃で痺れるが、攻撃は終わらないことを知っている僕は予め次に取り出す道具のイメージをストックし両手で支え足を構えて次の衝撃に備える。

  騎士の驚異的な運動性能は有り得ない挙動を可能にする。

  合間なく再びその場で跳躍、回転斬りが放たれそれを受けるが体力が限界ギリギリまで削られた。

  このままではまずい!盾を構えていた左腕は骨は辛うじて形を保っているが砕けており、皮膚が裂け血塗れとなっており、感覚はない。

  受け切れないと悟ると僕は三撃目から黒鉄の大盾を収納、右にローリングして回避、衝撃で体勢が崩れるが構わずストックしていた火薬壷を右手で騎士の頭に向かって投げつけた。

  怯ませられはしないものの、僅かでも視界は奪えた。

  その間に失われたスタミナを回復せんと僕は緑化の指輪を指に嵌め、騎士から距離を離し体勢を整える。

  頭と左腕を修復する時間はない。

  装備を整えた間に騎士の視界が回復、一歩でこちらとの距離を詰め大剣の振り下ろしが来る! 

  迎え撃たんと右手に混沌の炎の術式を刻んだ刀を構えた僕だが、

「下がって!夜見さん!」

  しかし僕と騎士の間に一瞬にしてマシュが滑り込み一撃を防ぎきった。サーヴァントとしての力を使用しているといっても異常な瞬間移動染みた動きだった。

「くっ!ううううぅ」

 盾で受け止められた後も騎士は力を緩めず盾ごと押し潰そうと力を込めて大剣を押し込んでくる。  

  人外の剛力にマシュが力負けし徐々に体が下がり膝を着く状態へて追い詰められる。

「小次郎さん、お願い!」

  僕たちから離れた後方から多美香の叫びが聞こえてくる。

  それに応え、長剣の侍が騎士の真横より一閃する。狙いは大剣を構える右手首。

  騎士は動物的直感かもしくは戦闘経験よるものか察知してその場から飛びのき回避。僕たちから距離を取る。その視線は相変わらず僕を捉えて離さない。

  だが、僕の相手はここまでだ。騎士の正面には泥塗れの騎士と対照的な涼やかな印象の剣士が長い刃渡りの刀を構えなく垂らし相対していた。

「そこまでとしておこうか。もう少しお主と夜見殿の死合いを見ていたかったのだが、私のマスターはどうにも心配性なものでな。彼女を斬りたくば、先ずは私と一戦願おう」

 僕を守る相手を敵と認識したのか、アルトリウスは相手を小次郎へと定め次の瞬間、両者はまともな人間では反応できない速さで刃鳴散らしだした。

「令呪を・・・使いなさい!」

  僕の背後より所長の震え声の叫びが聞こえた。振り返ると、足をプルプル震えながら頭を押さえた所長がこちらを涙目でこちらをみていた。様子を見る限り外傷はなさそうだが、フォースで吹き飛ばした際にどこかぶつけてしまったのかもしれない。

「あのままじゃアサシンが潰されるわよ!戦力補充のはずが戦力減退なんて馬鹿みたいなな展開認めないわよ」

  だからさっさとあの無作法騎士を何とかしろと、僕に対する苛立ち半分あの騎士に対する怒り半分の眼光で睨みつけてくる。所長の言う通り、いくら敏捷が互角であり、騎士の感覚が鈍くなって動作に隙があったとしても、あのスピードに大剣の威力は一撃が掠るだけでも致命傷になる。なにより耐久Aは伊達ではないらしく、先ほどから騎士の粗い動きの隙を突いて幾重もの小次郎の刀の剣閃が接触しているにも関わらず、騎士の体には薄い切り傷程度しかダメージを与えられていない。このまま抑え込めるとも思えない。なにより元は僕が呼び出したサーヴァントだ。自分が責任を取ってあいつを止めなければ。

  右腕前腕に刻まれた令呪に意識を集中する。今から、お前を僕の文字通り奴隷にしてやる。神族の戦士には屈辱の極みだろうが、今は緊急事態だ。こちら(この世界)のルールに、従ってもらう。

「カルデアがマスター、焔間夜見が命ずる。バーサーカー、僕と僕に敵対しない存在に対する攻撃を禁ずる!」

  令呪が赤い輝きを放ち一画が消失。同時に騎士も体が何かに拘束されたかのように動きが止まり、駆け出した勢いのままに小次郎の脇をもんどりをうって転がり倒れこむ。小次郎は戦闘が終わったことに残念そうにしながらその様子を見守った。

  だがまだ安心はできない。騎士は力に逆らいその身をを震わせこちらへと刃を向けようと動いている。続けて、二つ目の命令を下す。

「重ねて令呪をもって命ずる。今命じた命令に従え、バーサーカー!」

  二画目が輝き、さらに騎士の行動を縛る。なおも動き出そうとしていた騎士は、令呪二画分の力に屈したのか漸く動きを止め、まるで正気に戻ったかのように脱力しゆっくりと立ち上がった。そしてその顔を僕に向け品定めするかのように見た後、そのまま直立不動の状態となった。逆らう意思を無くしたと取ればいいのか判断に困るが、とりあえず事態は治まったようだ。小次郎は残念そうに嘆息すると、再び霊体化しその場から消えた。

  召喚後からの緊張が解け、体の鎧と刀を収納し僕は膝を下ろす。鎧がなくなって、隠された左腕を見ると、骨は骨折し中の骨が突き出ており、皮膚も筋肉も衝撃でズタズタになり真っ赤に染まっていた。いきなりの展開の連続で正直疲れた。

  深淵歩きアルトリウスだったサーヴァント。実際に相対して分かった。見た目はかつて戦った深淵に汚染された姿そのままであるが、スピードもパワーもあの頃よりも格段に跳ね上がっている。あのような超直感めいた回避動作も記憶にはない動きだった。幸いだったのは、動き自体は変化が見られなかったため、予測と対応が間に合ったことくらいか。しかしもし一人で相対していたら、遠からず殺されていただろう。そうならなかったのは・・・

「大丈夫!?み、耳が真っ赤でナニか垂れ下がってて・・・、左手、血が止まらないよう。マシュどうしよう!け、ケガした人の治療の仕方ってわかる!?」

「えっ!?えっと、まず布やガーゼで患部を保護して固定、上腕の心臓に近いところを強く圧迫して止血して、それから左手も折れてるかもしれません!添え木と固定する布を探してきます!じゃなくて!礼装の回復術式を試しましょう、先輩!」

  令呪を使用し、僕の眼前までマシュを移動させ防御に回してくれた彼女のおかげだろう。その結果、小次郎が代わりにアルトリウスと戦う状況へと切り換えさせ、九死に一生を得た。元は召喚した僕のヘマでこんなことになってしまい申し訳ない限りだが、今なら心から感謝したい気持ちだ。

そんな彼女は今僕の見た目スプラッタな惨状に涙目で慌てふためき、包帯にしようとしているのか自分のカルデア制服の袖を必死になって引きちぎろうとしているが、生憎生半可な力では防御性に優れた礼装は破けないので彼女の努力は徒労に終わっている。一方のマシュも自分の知識を必死にフル活用しようと混乱している。

「ちょっと待って。この程度ならすぐ治せるから大丈夫」

  僕はまず二人に問題ない旨を伝えると、小さな花瓶程度の大きさの明るく輝く瓶を取り出した。エスト瓶。いかなる人物、もしくは神の眷族が作り出したかは定かではないが、不死人にとって体の損傷を死からの復活を経ず()にその場で再生させることができ、普通の人間にとって不死人を厄介な存在足らしめる不死の秘宝である。

瓶の中に満たされた篝火の火を呷る(あお)。端から見たら火の着いた油を呷っているようにも見える為に慌てて多美香とマシュが驚き止めようとするが、逆再生するかのように左耳やグチャグチャになっていた左腕が回復するのを見ると動きを止めた。

「傷が治った?いえ、どちらかといえば時空間を捻じ曲げて完全な状態に巻き戻しているのかしら」

  今起きた現象を所長が興味深そうに分析している。しかしその様子は今にも噴出しそうな苛立ちを誤魔化しているようであったが、ロマニ先生の痛心の一言で一気に噴出した。

「いやあ、一時はどうなることかと思ったけど、無事治まって本当によかったよ」

「・・・これの、どこが、良かったのよ!召喚したサーヴァントがバーサーカーだったせいでいきなり私が襲われそうになったと思ったら隣の無愛想女に衝撃波で吹き飛ばされて瓦礫に頭をぶつけたわ!寸前で強化が成功していなかったら今頃死にかけてたわよ。さらに新人マスターは貴重な令呪を一画使って、もう一人もサーヴァントを抑えるために二画も使ってるのよ!大損よこの疫病神!」

  ・・・・・・重ね重ね申し訳ない。理由は全く分からないが、彼が呼び出されたのは自分が原因であるらしいのは確かなので、返す言葉もない。

「で、でもあんなに強いサーヴァントが来たのなら今後は格段に戦闘が楽になりますね!そうですよね、先輩!」

「う、うん!そうですよ所長!これなら今後もどんな相手が来てもさっきみたいに相手をグシャって叩きのめしてくれますよ。心強いよ、夜見ちゃん!」

  フォローはありがたいが、それでも失態分は帳消しには出来ない。なんとか今後挽回していこうと心に誓った。

 

  召喚の騒動が落ち着き、最初の調査ポイントである冬木大橋の周辺へと向かう。当然のことながら、自分が開示したバーサーカーの真名に一致する英霊ははっきりせず正体は不明のままだ。まさか別世界の神の一族の戦士だなんて誰も想像出来ないだろう。そんなわけで今は従順になったバーサーカーことアルトリウスを連れて僕たちは行軍を開始したのだが、出発する前に多美香に指摘された言葉が頭を過って僕は感情をかき乱されていた。

「ところで夜見ちゃん」

「何?さっきの怪我ならもう完治しているから問題ないから心配しなくていいけど」

「いや、ケガのことも気になってたけど痛くないのなら安心したよ。けどちょっと聞きたいことがあって・・・」

  

  そう言って、多美香は怪我のことよりもこちらの身を案じているかのようにこう言った。

「何で夜見ちゃん、アルトリウスさんと戦ってる最中嬉しそうに笑っていたのかなっと思って」




 アルトリウスゲットだぜ!!回でした。勢い任せで令呪使用展開にしてしまいましたが、別にいいよね、一日で回復するし。(劇中は一日の出来事前提なので回復は絶望的ですが)
 
 とりあえず書きたいシーンは書いたんでこの後は色々端折って大聖杯シーンに移ろうかと思います。早く冬木を脱出したいんで、気持ち的に。

 ちなみにアルトリウス戦はニコニコ動画に投稿されていたゲームスピード三倍のダークソウルに出てくる超速アルトリウスをイメージしていました。

 
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