器が、篝火の大剣から重い腰を上げた。向こうの門から何かが来たようだ。ようやくこの現状にも一つの区切りがつくようだ。
器、薪の王の化身が大剣を引き抜いた。正面には、ファーナムの鎧を身に纏った、灰の戦士が一人。
そんな中、場違いに思った。僕が欲しかったものはなんだったのだろうか?
サイド:熊沢多美香
「あ、ち、ちが、私、た、助けたかったのに、なんで・・・なんで!!」
「落ち着きなさい多美香!!あれは仕方なかった!あなたのせいじゃない!あなたのせいじゃないの!!だから落ち着きなさい!!」
所長が抱き締めて宥めようとしてくれてるけど、頭が掻き回されたようにグチャグチャでよくうまく考えられない。
”多美香ちゃんのバイタルが乱れている!ショックで過呼吸を起こしているんだ!”
頭がクラクラする。今見たものが現実だなんて信じたくない。それでも事実は変わらない。夜見ちゃんが死んだ。夜見ちゃんが死んだ。私が間に合わなかったせいで・・・殺された。
近くにいるバーサーカーが片膝をつき大剣を杖代わりに体を支えている。そこには本来あったあの威圧する存在感はなく、儚く今にも消えてしまいそうに見えた。
「マスターに恵まれなかったようだな、バーサーカー。戦い方の心得はあったようだが、増長していたか。アサシンへの警戒もなく殺されるとは、無様だな」
「我が宝具『
夜見ちゃんの力の無さを糾弾するセイバーとアサシン。マスターでありながら戦場に出た愚かさを嘲るように私には聞こえた。
「興醒めした、幕引きとしようか。アーチャー!」
セイバーの声に応えるように、アーチャーは斬り合っていた小次郎さんから距離を離すとその手の陰陽の双剣を投げつける。回転して飛来する双剣の軌道を見切り斬り払う小次郎さんだけど、次の瞬間アーチャーの手を離れ周囲に散らばっていた同じ剣が一斉に彼目がけて殺到する。すかさずマシュがその背を盾で防ぎ、キャスターさんが防御の魔術で遮るが、その間にアーチャーはセイバーの元に戻られてしまった。
「サーヴァントの一体でも仕留めておけるかと思っていたが、荷が勝ちすぎていたようだ。ご期待に応えられずすまないな、セイバー」
「どの口が言う。サーヴァント三体を相手取って私の参戦まで持ちこたえた。あなたは役割を十分に果たした。後は、私が全てを消し飛ばせば終わりだ」
そう言ってセイバーが黒い剣を下に振りかぶり構える。剣から黒い極光が噴き出し徐々に大きくなっていく。後ろではアーチャーが極光の射程範囲から逃がさないよう弓を構え牽制し、アサシンはこちらの末路を知ってか脱力し嘲るようにこちらの様子を伺っている。
マシュ達が戻ってきて黒い極光の光を防御しようと盾を構え宝具の展開の準備をするが、例え防ぎきっても圧倒的にこちらが不利だ。宝具を使えるようになって間もないマシュは使用後の硬直がどうしてもある。小次郎さんは白兵戦主体のスタイルの為接近しなければいけないが、アーチャーが戻った今そう易々とセイバーの懐に入らせないだろう。キャスターさんは論外で、最高の対魔力を持つセイバーに魔術の通りは悪く、切り札の宝具『
そんな話を、呆けている私の隣で所長とマシュが話していた。こちらの絶望的な状況に、なんとか策を考えようとしながらも足を震えさせている所長、不安や焦燥を滲ませながらそれでも諦めまいと盾を構えるマシュ。こちらが圧倒的に不利になったと知りながらも無言のまま私たちの前に立つ小次郎さんとキャスターさん。私は、うまく働かない頭で何とか出来ることを考えようとするけど、さっきの夜見ちゃんの姿が頭を過って体が固まったまま何も出来ないでいた。
みんな、このまま死んじゃうのかな?もっと早くアーチャーを倒せていたらこんなことにならなかったんじゃないのかな?私があの時令呪を使って夜見ちゃんを助けられていたらこんなことにはならなかったのかな?なんで、夜見ちゃんは犠牲の指輪をつけてなかったんだろう。
後悔や疑問ばかりが頭に浮かぶがどれも現状の解決に繋がるものと思えない。だから、つい泣き言が口からこぼれてしまった。
「私・・・何も出来ない・・・」
今や黒い極光はセイバーの身長を優に超えるほど伸びており魔力が今にも溢れ出さんばかりとなっていた。このままあの光に飲み込まれるんだとぼんやりと眺めていると、何故だか向こうにいるアーチャーの声がたまたま耳に入った。
「!?アサシン!バーサーカーのマスターの死体をどうした!?」
「なんだと?」
次の瞬間、アサシンの姿がアーチャーの隣から消えた。いや、違った。槍と見紛うほど長大な矢がアサシンの左肩に突き刺さり衝撃でその体を吹き飛ばし洞窟の壁へと張り付けていた。
「ギィッガアアアアアアアアア!? ふ、伏兵だと!?私に気づかれずどこに潜んでいたぁ!?」
思わず後ろを振り向いた。私たちの背後の向こう、一見何もない空間から滲み出てくるように背丈を超える大弓を構え残心に入った鎧の少女が現れる。先ほど首を絶ち切られた黒髪の少女が、無感動に炎を煌々と絶やさず燃やす剣が倒れた場所にいた。
サイド:焔間夜見
魔術「見えない体」が解除され、僕は竜狩りの大弓をしまった。計画通り、アサシンが完全にこちらが死んだと思い油断していたおかげで潰すことが出来た。アーチャーが予想外の粘りを見せなければ、作戦ではこの時点で二体のサーバントを始末することが出来たはずだったが、全てがうまくいくほど甘くはないだろう。アサシンはあれだけ深く竜狩りの矢が刺さっていれば行動不能とみていい。
それより問題は、セイバーとアーチャーがそれほど動じずに冷静なことだ。バーサーカーの宝具にアーチャーがどのような対応をしてくるか未知数だが、セイバーは今にも宝具を放たんとする様子は変わらず状況は一刻を争う。迷ってる暇はない。
「多美香、アーチャーを排除した後の作戦をこのまま実行する。令呪の準備を」
「よ、夜見ちゃん!?なんで、どうして・・・」
「いいから今は言う通りにして!あの光が来る!!」
「は、はい!分かった!」
僕の剣幕に驚いて固まっていたらしい体をびくりとさせマシュに盾を準備させる多美香。
「
セイバーが黒い極光に染まった剣を大きく振り絞る。
「マシュ、私達を守って!」
「了解しました!宝具、展開します!!」
多美香の令呪が発動。令呪によるブーストを受け魔力を瞬間的に高めたマシュが大盾を地に突き立て構えた瞬間、青の燐光を伴なって巨大な魔法陣が展開。僕たちを守る守護障壁、『
「
下段から振り上げられた剣から黒い極光が放たれ僕たち目がけ破壊と衝撃を伴ないながら迫り、守護障壁にぶつかる。障壁は極光を完全に防ぎ切っているが、このままでは終わらせない。
「マシュ、障壁を押してセイバーの正面まで進んで」
「む、無理です!今もあの黒い奔流を抑えるだけで精一杯なのに進むことなんてとても・・・」
「分かってる。だから、今から援軍を出す」
「!、確かバーサーカーの宝具は・・・」
魔力供給が戻り元の存在感を取り戻したバーサーカーに僕は言った。
「宝具を解放してくれ、バーサーカー!」
命令に従い、バーサーカーが右手の大剣を地面に突き立てた瞬間、剣を中心に大きく白い魔法陣が展開する。次に、魔法陣内より何十何百にもの頭を垂れた幽鬼のような人影が地面より現れだした。トンガリ帽子のような兜に顔を覆う仮面、年月を重ねたように汚れと解れの目立つ黒革のベストにチェインメイルと赤のマント、そしてアルトリウスが持つそれと酷似した大剣を右手に、左手に鉤爪のような形状をした相手の武器の刃を反らし払うことに特化した短剣。全員がそのような装いをした戦闘集団がその始まりたる英霊の呼び声に応え馳せ参じた。
これこそバーサーカーの宝具『
全員が出現しおおよそ五百体という深淵の監視者たちが一糸乱れぬ動きで右手の大剣を前に、その右腕と交差させるように逆手に持った短剣を構えた。
「「「・・・・・・・・・・・・」」
監視者達はアルトリウスからの命令を待ちわびる。召喚主たる騎士が指し示す、我らが敵はどこにいると血気盛んにその身の高ぶりを抑え込んでいる。
「マシュの盾を全員で押してセイバーまで近づかせろ!極光が消え次第、一斉にセイバーとアーチャーに襲い掛かれ!」
僕の指示を聞き、アルトリウスは頷くとただマシュやセイバーたちへと指を滑らす。
「「「・・・・・・・・・・・・!!!」」」
命令を受け声なき猛りをあげ狼達が動き出す。僕の命令が聞こえていなかった訳ではない。彼らが従うべき存在はあくまで召喚主であるアルトリウスただ一人。闇の気配を色濃く残す僕に従う道理はない。故に僕はアルトリウスを介すことでしか彼等に指示をすることは出来ない。そして、彼らを召喚している間、アルトリウスは動けず戦闘には参加できない。
盾を構えるマシュを後ろから支え押すもの、その両隣に盾を押すものが立ちそれら五列の後ろから何百人という数の監視者たちが踏ん張り闇の奔流に挑む前の三人を支え押し進めていく。地面を削りながら、障壁は加速し前へ前へと光を押しのけ進んでいく。
「ひゃ!?そ、その、そこを掴まれると恥ずかしいと言いますか!?」
「・・・・・・・・・・・・」
無言のまま監視者は手の位置をずらした。
「いいぜ!なんだか分からねえが、ここが勝負の大一番のようだなぁ!!」
「芸風ではないのだがな。私の筋力値では大した足しにはならんぞ」
キャスターと小次郎の二人も加勢し、何百人の力を受けた障壁は黒い極光を割りながら進んでいく。
宝具の使用で現在進行形で僕の魔力が急激に減り続けてる。カルデアからのバックアップがあっても予想だとあと30秒くらいで魔力を枯渇する。だから早く、早くと前へ。宝具が消えた瞬間がこちらの攻勢のチャンスだ。
セイバーも出力を上げてこれに対抗するも数の力によって支えられた障壁はジリジリと前へ進み続ける。
8メートル。
さすがのセイバーも限界が近いらしくその顔に苦悶の表情が現れだした。
7メートル。
剣から発せられる極光が勢いを失い出した。
5メートル。
極光が、消えた。
「行け!!」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・!!!」」」
同時にマシュの障壁が消え、枷から解き放たれた狼達が彼女の脇を抜け獲物目掛けて飛び出す。
「待たせたセイバー、後は私に任せろ!」
"So,as I pray,unlimited blade works!"
瞬間、世界が塗り替えられた。
かつてあの世界を眺めていた頃にいた場所のような、無数の剣が突き刺さった荒野が一瞬にして広がった。
「固有結界ですって!じゃあアイツは吸血鬼かそうでなかったら・・・」
"生前魔術師だった英霊。あの投影も魔術師としての技能か!"
知らない、奴がどんな能力を持っていようと今開放している切り札でセイバーを倒しきる。その方針に変わりはない!
アーチャーが楽団の指揮者のように上げた腕の動きに合わせ荒野の剣が浮かび上がりその剣先を監視者達へと向ける。
それに構わず狼達は怖れた様子もなく駆け、宝具解放後の硬直が抜けないセイバーと宙に浮かぶ剣群を待機させ待ち構えるアーチャーに迫る。
狼達に、無限の剣群が放たれた。
前方の一団に剣群が突き刺さり吹き飛ばされるも続く集団は気にも留めず倒れた仲間を踏み越えて駆け抜ける。剣群を抜けた一部の監視者がセイバーに大剣を振り下ろした。
されど、弱体となろうと剣の英霊は最優のサーヴァントであることに変わりはない。監視者の一撃を魔力放出によって底上げされた一閃で打ち払い、切り返しにその胴を二つに割った。続く剣群を免れた者達も個としての力の差から次々と討ち取られていく。
なんと脆い。このままならそうかからず全滅させられるだろう。あの二体はそう思ったはずだ。だが、監視者たちの恐ろしさはここからだ。
「何!?」
先に倒された監視者たちがすぐさま立ち上がり再び駆け出す。その体には確かに頭部や心臓などに剣が突き刺さり、されど彼らの示された標的に向ける疾走に遅れはない。アーチャーも矢継ぎ早に剣群を飛ばしているが、倒した敵が消えず進み続ける光景に焦燥を隠せない様子が見てとれた。セイバーも対応する相手の数が増え徐々に捌ききれなくなってきている。
ファランの不死隊、もしくは深淵の監視者たち。彼らはアルトリウスが深淵を討ち取ったおとぎ話があった時代からもさらに歳月を経た未来に結成された不死によって構成された戦闘集団だ。彼らが深淵を監視しその兆しを排除する組織を立ち上げそれを成すようになった経緯は、世界をぼんやりと眺め細かな流れを読み取ってこなかった僕には分からない。だがその不死を武器と変え戦いの手段に取り入れるようになったのは自身より強大な深淵の異形たちを相手取った彼らにとって、当然の流れだったのだろう。その不死を利用して死を伴なった戦闘訓練に取り入れていたくらい、彼らは死への忌避は欠片もなく、その全てを深淵の排除に向けていたといえる。彼らは、死を恐れない不死の狼達なのだ。呼び出された彼らはこの宝具が展開されている最中に限り、生前の完全な不死の状態を維持し指定された敵対対象を殲滅する。
ついに不死の濁流を堰き止めきれずセイバーを抜けアーチャーまで狼達が迫る。もはや剣の矢は意味を成さないと知り陰陽の双剣を生み出し相対するアーチャー。しかし多勢には逆らえず2、3人を切り捨てたところで続く二体に両手を抑え込まれ地面に叩きつけられると跳躍し大剣を振り下ろした3体目に胸部を貫かれる。
「がぁ!!」
そのまま餌に貪るハイエナが如く、次々と弓兵に監視者たちは群がりその姿が見えなくなる。
「アーチャー!!貴様達、どけぇ!」
三体同時の跳躍からの兜割りを魔力放出による衝撃波で吹き飛ばしアーチャーを助けようと駆けるセイバー。その間も狼たちは攻撃の手を緩めず地を這うような動きから鉤状の短剣地面に刺し軸とした高速の回転斬り、大剣を先頭に高速で駆ける無数の突き刺しが雪崩れ込むが、膨大な魔力に任せて進路上の群れを掻き分け吹き飛ばす。直感スキルも発動しているはずだが、四方八方からの攻撃全てを防ぎきれなかったようで、傷を負いながらもアーチャーに群がった集団を全員弾き出した。
アーチャーは、完全に戦闘不能だった。黒いボディアーマーは完璧に割れ砕け、腹部からは血液とともに内臓らしきものがこぼれだしている。両手両足も大剣に何度も刺し貫かれたのか辛うじて原型と分かる様だ。
「ゴフッ、す、まな、いな。私、はこ、ガフッ・・・こま、でだ・・・」
「・・・貴方は役割を果たした。ゆっくりと休むがいい」
弓兵の働きを労うセイバー。目の錯覚かもしれないが、今まで見た彼女にはなかった慈しみのような影が見えた気がした。アーチャーも最後の時間を惜しむかのようにその表情は安らかに見える。
「花の、魔、術師、も厄、介なも、のを送り、込、んでくれ・・・た・・・な・・・・・・・」
「ええ、万が一にでも会えるような機会があれば、貴方の代わりに一発食らわせましょう」
群がる狼たちを打ち払いながら、セイバーは穏やかにアーチャーの最後の言葉に応えた。
アーチャーの体が光の粒子となって消えていく。同時に、彼が展開していた固有結界も主が消えたことで掻き消え、周囲の光景が元の洞窟へと変わる。
しかし、監視者たちはまだ健在。セイバーはボロボロの体で迎え撃たんと剣を構える。
だが、ここで僕の限界が来た。宝具展開の為の魔力がついに枯渇する。途端、アルトリウスのを中心に広がっていた白の魔法陣が消える。そして、現界を支えていた楔を失った監視者たちが一人、また一人と次々に消えていく。
僕は、最後のカードを切った。
「多美香、今だ」
「き、斬って!小次郎さん!!」
ふり絞るような多美香の声に、セイバーがようやく背後に迫る脅威に気づいた。
「秘剣・・・」
監視者の最後の一人が消えた瞬間、その背後に紛れていた小次郎が、敵に背を向けた独特の構えから僕たちの最後の一手たる必殺の魔剣を放った。
「燕返し!!」
同時に繰り出される刀の三閃、燕を逃さぬ檻として完成されたそれは寸分違わず監視者達に削られ弱ったセイバーの体を切り裂いた。
「・・・我ながら、高揚していたようですね。彼と背中を預けて戦えたことに、気が緩んでしまいました。二人なら運命を覆せると思いましたが、そうもいかなかったようですね」
切り裂かれた傷もそのままに、セイバーは独白のように、知らないものには分からない何かを語り出した。
「・・・アーチャーもそうだがセイバー、お前たちは何を知ってるんだ?何から・・・聖杯を守っていやがった?」
「気づいているか、アイルランドの光の御子よ?私たちは常に見られ続けていた。そして知るがいい。聖杯を巡る戦い、グランドオーダーはまだ始まったばかりだということを・・・」
そう言って、倒れこむセイバーは、しかし地面に着く前にその体をアーチャー同様光の粒子に還った。
僕たちの聖杯に至る為の最大の障害は、始まりの強大さが嘘のように儚く消え去った。
「よ、夜見ちゃん・・・これって一体・・・どういうことなの?」
多美香は連続して起こった状況の連続に付いていけず混乱している。まあ、先ほど首と胴を切り離されて死体を曝していた僕が五体満足で立ちセイバーたちに襲い掛かったのだ。普通の人間なら現実を受け入れられず最もらしい解釈で納得させるところだが、この場にいるのは非常識の代表格たる英霊と神秘の探究者たる魔術師だ。僕が自身の鎧を収納し、一息ついていると、キャスターは今の僕の状態に合点がいったのか苦々しくこちらを見据えた。
「お前、初めっから自分が殺されることを前提に作戦を組んでやがったな。そんで、今見てる通りピンピンしてるってことは、お前も死を奪われた口か?」
僕は最初にこの作戦を提案した時点で、自分の死を演出してアサシンを討ち、セイバーの宝具を凌いだ後バーサーカーの宝具で殲滅する流れを想定していた。
アサシンが僕を高確率で狙うと思ったのは、奴が去り際にこちらを見つめる目の中に自身の思い描いていた完璧な策を覆された時には見せる、怒りや屈辱といった感情の影が見えたからだ。暗殺者のサーヴァントというには感情が色濃く出過ぎているのは何故なのか。あの黒い泥のせいなのかは判然としないが、僕はあの目を知っている。何よりも経験し予想外の手段によって命を奪われた時、僕自身が味わってきた感情だ。そうした輩は必ず自身の屈辱を晴らす為に、今度こそ殺しきると
僕はそれを利用してセイバー達に僕の不在を死によって偽装するために、事前に静かに眠る竜印の指環で自身の物音を消し死亡後の復活時に魔術「見えない体」で存在を消す準備を整え相対した。篝火の大剣には不死の遺骨を使用せずとも死んだ不死人の霧散した魂を引き寄せる性質がある。その性質を利用して肉体が再構成される場所を意図的に操作した。バーサーカーによって大剣が吹き飛ばされ復活の瞬間を見られずに済んだのは嬉しい誤算だ。万が一アサシンが僕を襲わなくとも、適当なところで無謀なマスターを演じてセイバーに斬り殺される予定もあった。
もう、ダークソウルは目覚めてしまった。普通の人間でなくなってしまった以上、今さら死を厭うことに意味はない・・・。
そして、セイバーの宝具。キャスターから聞かされた彼女の剣の力は、光の斬撃で敵を薙ぎ払う対城宝具だった。対軍宝具のアビスウォッチャーズにとってこの宝具は天敵と言ってもいい。その宝具が連続で使用出来る可能性を考えると、エクスカリバーをマシュの宝具で防いだ後に確実に二度目を撃たせず倒す方法が必要だった。
そのためにセイバーとの戦闘の際に、闇術よってセイバーの体力を削るのに注力した。可能な限りセイバーを弱体化させ、どこまでか分からないエクスカリバーの継続時間を減らす小細工をした。その上で僕の死による多美香たちの劣勢を演出し、エクスカリバーの使用を誘発、マシュのロード・カルデアスを盾にセイバーとの距離を埋めるなどアビスウォッチャーズが最大の効果を発揮する状況を整えた。もしもの場合に備え最初の作戦の時点で多美香にアビスウォッチャーズの中に小次郎を紛れ込ませ、隙を突いてセイバーを必殺させる保険も加えておいた。
この結果は、そうした小細工の積み重ねで成し得たものであり、誰にも伝えず、誰も知らなかった僕の不死を最大限に利用したペテンだった。
「あなたのいう不死がどういうものかは分からないけど、僕が殺されても復活できるのは事実だよ。僕の魂の性質みたいなもので、死が引き金となって体を完全な状態に再生させられる」
「・・・なるほどね、ソウルの業とは言ったものね。あなたそのものが肉体の形を構成した魂だから、魂に変換した物体を収納する、魂を強化する、果ては完全に生命活動を停止した状態からの完全復活まで出来たと。第三魔法の使い手なんかじゃなく、魔法の体現者に近しい存在だったというわけね」
一連の会話から、所長は僕の力の在り方についてある程度推測を立てたようだ。
「それで、その力を黙っていたのはなぜ?それから、不死であることを利用しての奇襲を私たちに伝えなかったのはどういう意図からなのかしら?」
「・・・不死であることを隠していたのは個人的な感情によるものです。誰だって隣にいるのが死なないバケモノだなんて知ったら嫌なものでしょう?」
「そんな・・・私たちはそんなこと・・・」
「それと・・・あの作戦で僕が奇襲のことを黙っていた理由は、アサシンの戦闘離脱とセイバーの宝具発動の誘導を確実なものにしたかったから」
「で、でも!それなら事前に私たちに言っていれば協力くらい出来たはずじゃあ・・・」
「一般人の多美香が他のメンバーならいざ知らずアサシン相手にポーカーフェイスでやり過ごせたとは思えない。それから、この奇襲は相手に僕の存在が完全に意識されていないことが重要だった。だから誰か一人でもボロを出すかもしれない可能性を考えれば、そんなリスクの高い無駄はしたくなかった」
「!そんな言い方ってないじゃない!初めから言ってくれればあの時・・・」
「僕が首を斬られた時にどうにか出来たって言いたいの?」
そう言った僕の言葉に、続けて喋ろうとしていた多美香の口が止まった。
「首だけだったけど、そっちの様子は見てたよ。僕の死んだ姿を見た後、取り乱して指示も何も出来ずにいたあなたの姿を・・・。もしあの時僕の復活なんかなかったら、あなたはどうするつもりだったの?あのままだったら、マシュも所長も他のサーヴァントもセイバーの宝具に巻き込まれていたよ。もちろんサーヴァント達で何らかの対応は出来ただろうけど、そこであなたは何をしていた? そんなあなたに僕がどんな期待をすればいい?」
言葉を区切り、多美香の様子を見た。彼女は僕が話し始めるにつれて最初の怒りの剣幕が薄れ、次第に僕から目線を反らし頭を垂れていた。
「だって・・・あんな光景見たんじゃあ・・・誰だって・・・」
「はっきり言って、あなたは戦うことに向いてない。この特異点から戻ったら、早々に家族の元に戻った方がいいよ」
「夜見さん、言い過ぎです!今回の作戦は明らかに夜見さんの独断専攻が過ぎました。何も知らされていなかった先輩がああなってしまうのは当然じゃないですか!」
僕の言い様に辛抱出来なくなったのかマシュが反論した。
「その嘘偽りのない反応があったおかげでセイバー達は僕が死んだのだと信じ込んでくれた。そこは感謝している」
「・・・夜見さんは、私たちを信頼して作戦を提案してくれたんじゃあなかったんですか?」
マシュの目に落胆の影が見えた。その姿に後悔の念が湧き上がってくるが、表情に出さず抑え込んだ。
「やってくれると信用はしていた。信頼は出来なかった。会って一日も経っていない相手にそこまで任せられるわけがないでしょう?」
そう多美香達を突き放すように言い放ち、僕は今も洞窟の壁で身動きが取れないシャドウアサシンの元へと向かう。
「キャスター、後はあのアサシンを倒せばこの特異点の聖杯戦争は終結すると考えていい?」
「ああ、聖杯戦争ではサーヴァント一柱が残った時点で儀式は終わるとされるが、何をする気だ?」
アサシンの前に立った。
「き、貴様!?一体どうやって私を目を欺いた!?」
「これから消えるお前に何を言っても無駄でしょう?」
もう我慢が効きそうにない。ソウルを奪えと内なる僕のソウルが煩いくらい喚いている。さっきのセイバーやアーチャー程ではないが、サーヴァントの一人であるこいつでも十分だ。こいつの魂を、頂く。
「グッ!?ガァア!!」
赤黒く染まった僕の右腕が、アサシンの胸を貫いた。「ダークハンド」。ダークレイス達が好んで使用する相手のソウルや人間性を抜き取る闇の御手。胸から抜き取った手には血は一滴も濡らしておらず、白く燃える火のような形の物体、「呪腕のハサンのソウル」が握られていた。残されたアサシンの体は、主である魂を無くし光の粒子へと崩壊していった。ソウルを割り、糧へとして吸収する。先ほどまで強く僕を蝕んでいた魂の飢えの衝動が治まった。やはりかつての世界と違い、相手からソウルを吸収するには自分の手で相手の魂を抜き取りソウルへと変換する必要があるようだ。それが確認できたのは大きい。
聖杯戦争が終結となったと何かが判断したのか、後ろにいたキャスターに、光の粒子が漏れだした。
「そんな、キャスターさん!」
「まあ、サーヴァントとして呼ばれた英霊の末路なんてこんなものだ。あんま重く考えんなよ、マシュの嬢ちゃん」
「キャスターさん・・・ごめんなさい・・・私、結局何にも出来ず頼りっぱなしだった・・・」
「・・・その通りだな。戦場で呆けるなんざ殺してくれと言ってるもんだ。だが多美香の嬢ちゃん、お前はそのまま下を向いて誰かがうまくやってるのを黙ってみてて満足か?もしそうならマシュの嬢ちゃんも可哀想だな。こんなへたれたマスターを助けるために命を張って守ってきたっていうのによ」
「キャスターさん!?そんな言い方・・・」
「そんなわけない!!悔しいよ!何にも出来ないのが、マシュ達や夜見ちゃんが目の前で戦ってるのにただ見てるのが悔しいに決まってるよ!!だけど・・・私、弱くて、何の力もなくて、どうすればいいの!?」
「だったら!まずは頭を上げて前だけ見てな。ねだってばかりじゃあ何も得られねえ。欲しい力があるなら学んで身に付けろ。そうすりゃ見えなかったものも見えんだろ。あともし助けが必要だったら、次召喚する時はランサーで呼んでくれ。キャスターは俺には性に合わねえ」
そう言って多美香を叱咤激励したキャスターは僕を睨み付ける。高潔な英霊の彼には、仲間を欺き敵を貶める僕のやり方が気に入らなかったようだ。
「最後に不死の嬢ちゃん。人を馬鹿にすんのも大概にしろ。お前が守ろうとしているものをお前自身が汚してるのに気付いてねえのか? 不死って奴はどいつもこいつも諦め癖のあるヤツばかりで気に入らねえ。てめえは未練たらたらな甘っちょろさが抜けないようだがな。ひよっ子だが、きっとこの嬢ちゃんは言い意味でお前の予想を越えるぜ。そんときは、馬鹿にしてた自分を後悔しな」
吐き出すべきものを全て出し切ったのか、最後に彼はいつもの笑いを浮かべた。
「オレから言いたいことはこのくらいか。じゃあな、未来の星見の末裔たち。次会う時は、ちったあマシな面になってこいよ」
最後の瞬間まで、魔術師の英霊はさっぱりとした気性を変えることなく次の日にはまた会えるような気楽さを残して、光の粒子となった。。
「行くわよ。この先にこの世界がこんなふうに狂った原因の大聖杯がある。別れを嘆くのは後にしなさい。それと夜見、セイバーの倒せたことは認めるけど、今後勝手な行動は慎みなさい。今回は貴方に助けられたけど、このようなことは二度としないで。あと、その不死の体や力の所在についてもカルデアに戻ったら
所長が先を進むのに合わせて僕たちも歩き出した。多美香は今も意気消沈し下を向き、マシュがそんな彼女手を握り先を進む。僕もその後を追おうとしたところで、冷たい殺気と共に後ろから首に皮一枚の僅差で長刀が突き付けられた。
「私も人斬りだ。善悪でことを運ぶほど良識ある人生ではなかったが、犠牲によって自身の利を得ようなどと思う外道になったつもりはない。作戦は上手くいったようだが、今後も多美香殿を無用な危険に巻き込むことがあれば、素っ首幾度生え替わろうと斬る。肝に命じておくがいい」
刀が離れ、後ろの気配が前方へと進むのを感じた。
覚悟はしていたはずだ。こちらの戦力で倒し切れるか未知数で、他の仲間もどの程度信頼出来るか分からなかった。だから僕は僕の負けるわけにはいかないという個人のエゴを押し付けこの結果を選択したはずだろう?僕自身のことは十全に分かっても他人に任せるのが不安だったからこの作戦を推し進めたんだろう? 多美香やマシュはいい子たちだった。けど、僕に必要なのは元の日常だけでいい。余分なものが増えていけばそれだけ僕自身が辛くなるだけなんだから、これで正しいはずなんだ。
だけど、こんなにも胸は苦しくて仕方ないのはどうすれば治まるんだろうか。
自業自得の馬鹿な女の惨めな背中を、狼の騎士はただ見つめていた。
===========================================
●宝具:
対軍宝具 ランクA+ レンジ:1~99
アルトリウスの大剣を地面に突き刺し白い魔法陣を展開することで、彼の意思を受け継いだ百人単位の不死人の戦士、「深淵の監視者たち」を召喚する対軍宝具。彼ら一人一人がいかなる攻撃を受けようと止まらず、いかなる死を与えられようと立ち上がり戦いを続ける不死の軍団であり、宝具展開中に限り現界、その物量と一糸乱れぬ連携で対象を追い詰め殲滅する。召喚人数が宝具発動時に込められた魔力量によって増減し、通常の召喚で500人、令呪使用による展開で1000人の監視者を召喚可能。全員が一律ランクC相当のステータスを与えられたサーヴァントとして現界するが、単独行動スキルを持たないため宝具の展開が解除された時点で現界出来なくなり送還されてしまう。射程範囲内の対象の指定がない場合、スキル「深淵の魔物」をもつ人間を優先的に襲う。また、宝具展開中、バーサーカーは身動きが出来ず、戦闘には参加できない。宝具展開中の魔力の消費は、カルデアのバックアップがあったとして夜見に可能な通常展開時間は1分(1ターン)、最大展開時間は肉体の損傷を考慮しなければ5分(5ターン)が限界である。
エクスカリバー×アンリミテッドブレイドワークスVSロードカルデアス×アビスウォッチャーズでした。戦闘長すぎだ、簡単に負けすぎだとか意見があるかとは思いますが、切りどころが見つからずこの勢いで出しました。今回は相性と発動タイミングと夜見の陰湿な作戦の関係上勝利出来ただけで、真っ向勝負ではアルトリウスが負けます。宝具発動中に聖剣ブッパされたらアルトリウスは動けないので監視者たちごと蒸発は免れません。なので、如何に監視者たちを無傷でセイバーに近づけさせられるかが問題でしたのでこういった展開となりました。
見ての通り夜見は肉体と経験的には相応に戦えますがメンタル面が根暗で貧弱。多美香は戦闘面では弱いですが精神的には強靭なイメージで書いているため、今後多美香は強く成長し、夜見にはマイナス修正が入る仕様になっています。一度お互いに殴り合わないと治らないくらい関係は悪い方向にいく感じですね。
次回、やっとカルデア帰還します。これでやっと夜見は家に帰れますね。