やんでれ×ユウナっ!   作:れろれーろ

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第十五話

 

 

 

 

 

 

「なんて綺麗なんだ…ユウナ様…」

 

 

 

立ち上がった私の目の前にティーダ君の顔が近づいてくる。気づいた時には、日に焼けたティーダ君の顔、青い宝石の様な瞳が私をまっすぐに見つめていた。か、顔から火が出そうだ。

 

今までこんな至近距離で誰かの顔を見た事も見られた事もない。彼の吐息の熱さまで感じられる距離。突然の緊急事態だ。恥ずかしすぎて顔を背けたいのに、私の身体はびくとも動かない。

 

「召喚士なんて勿体ないですよ『ショジョ』じゃないとなれない役職なんだろうしさぁ」

 

私の首元に彼の顔が回り込む。ど、どんな所を見られているんだろう。確認したいけど、やっぱり私の身体は固まったままな訳で。そんな困った事になっている訳で。もうどうしようもないみたいだ。

 

「リュック。可愛いよリュック。あけすけな耳年増ショジョびっちめ。わからせてやりたいですねぇ」

 

彼は私の背中に張り付いたリュックを見てそんな言葉を言った。言葉の意味の大半が理解できない。

 

耳年増という言葉だけは拾えて、私は頭の中の辞書を索引した。多分、大人だけが知っている言葉を子供が知っている事だ。もしかしたら、ショジョとかびっち、っていうエスニックな響きの言葉は大人だけが知っている言葉なのだろうか。私の年齢でもまだ知らない言葉なのかな。

 

熱暴走しそうな頭も、ティーダ君が再び地面に腰をおろす様な形で私の視界から完全に消える事で、少しだけ冷静さを取り戻した。

 

リュックは可愛いと言われた。私の事は、き、綺麗と言ってくれた。なんて私は現金な奴だろう。こんなにも、舞い上がりそうな気持ちになる。嬉しくて恥ずかしいのに嬉しくて恥ずかしい…や、やっぱり恥ずかしいよ!なんで!なんで!そんな言葉さらっと言えちゃうのかなぁ!キミは!

 

 

 

「なんて綺麗なんだ…ユウナ様は…」

 

 

 

時間が巻き戻る。再び彼の顔は私を見つめている。彼の汗の匂いが頭の中に入って来る。もう少しで唇がくっつきそうだ。私が、も、もし、ここで身体が少しでも動いたら唇がぶつかってしまう。

 

私の事を、綺麗、って言ってくれた。

社交辞令なんかじゃないタイミングだったと思う。まっすぐ見つめて私を褒めてくれた…!

 

出会ってから今までずっと、何回も助けてくれた。迷惑に思われてないか心配だった。本当は鈍臭い私の事が大嫌いで、早く離れたいって思われてるんじゃないか、って気にしている。

 

キーリカ島に行く船の途中、意識が途切れる前、海に溺れた私の腕を掴む必死な表情を、私は覚えている。

 

イフリート様のいる寺院最奥の召喚士の試練の間。「汝、何故願う」と彫られたガラス板の前でうじうじと悩んでいた私の背中を押してくれた。私の大事な人を、皆を守りたい。その為にシンを倒したい。召喚士になる事を志した頃の強い気持ちを、彼が呼び起こしてくれた。

 

ワッカさんのブリッツボールの引退試合を滅茶苦茶にしてしまって、泣くばっかりの私の目の前で…クリスタル色の奇跡を起こしてくれた。

 

 

他にも…いっぱい。

いっぱいの何かを、彼からもらった。

それなのに私は彼に何も返せていない。

普通はさ、嫌だよね。私みたいな恩知らず。

面倒だよね。煩わしいよね、ごめんね、ティーダ君。もう少しだけ、待っててよ。ルカの時みたいに、いなくならないでよ。

 

もうちょっとで…多分、閃きそうなんだ。

私があげられそうなもの。そんな予感がするの。

 

 

今日さ。シンのコケラの顔に乗って剣を振るっていたティーダ君の横顔、夢うつつだったけど、見ちゃったんだ。

 

キミは多分…泣いていたよね?

 

なんでだろう。

怖かったのかな。

辛かったのかな。

キミのあんな顔、初めて見たよ。

 

なんか迷子の子供みたいな表情で。

抱きしめてあげたくなる。

慰めてあげたくなる。そんな顔。

 

キミも私と同じ人間なんだって。

弱い所だってあるんだって何故かそう思って、それなら!私なんかでもキミにしてあげる事、本当はあるのかもしれないって私_____

 

 

「なんて綺麗なんだ…ユウナは…」

 

 

考えがまとまりだした時に、再び時間が巻き戻って、思考が吹き飛んだ。

 

 

ティーダ君が目の前にいる。

こ、今度は『ユウナ』って呼び捨てにしてくれている。

 

今まで何回かだけ、私の事をそう呼んでくれた。気づいたら、いつもの様付けに戻ってて、距離を感じて。リュックと気安い掛け合いするキミを見るとちょっと胸が痛くて、それがもどかしくて、どうしようもなく本当は嫌で、それでそれで。

 

 

「綺麗だよ、ユウナ」

 

 

顔が着火した。胸は爆発して吸い込んだ息が全部消えた。そう!これ!これがいい!私これがいい!感情が濁流になって、私の身体は何故か動いて、彼の唇に私の唇を重なっていた。石みたいな感触であれ?ってなってそれで場面がビサイド島の森になって、私の身体は今日の半裸の彼の下に組み敷かれていて。泣きそうな位恥ずかしいのに私は全然嫌じゃなくて彼の顔がすごく近くて何故か分からないけど突然下半身が猛烈に熱くて、でも知識が足りないせいでなにが起きるのかその先わからなくてもどかしくてそれでそれでそれでね彼が私の事が実は好…

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、わっ!わぁぁっ!」ガバッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やんでれ×ユウナっ!(第二ステージ)

 

その15

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウナとリュックの様子が…すっっっごく変なんだけど…あんた何か知らない?」

 

 

ルー姉さんの掠れ声の質問を、俺は聞こえないフリを継続していた。鼓膜が破れてるから仕方ないよね?時々ちょっと体調が悪いです。今話しかけても生返事しか返せませんよ?っていう仕草も折り混ぜつつ、俺たちは再びジョゼ街道を歩いていた。

 

「シーモア老師と話した後もちょっと変だったけど…なんかその時とも様子が違うのよね…」

 

ルー姉さんのブツブツとした独り言とも俺に話しかけているとも取れないうわ言を躱しながら道中を歩く。

 

ワッカは昨日よりも体調が悪そうだ。アドレナリンが切れて痛みに意識が割かれてしまうのだろう。俺は無言でワッカの体を支え続ける敬虔なスポーツマンの顔をしながら、パインという名前の女剣士の尻を見つめながら歩いた。

 

民間人のオオアカ屋のオッサンを加え、徐々に明るさを取り戻す一団の空気。昨日がミヘン•セッションの悲壮感を背負った鈍重な行進だったのに比べると幾らかは足が軽い。

 

意外にもシェリンダさんがムードメーカーの役目を務めていて、無口なパインとも積極的に絡んでいる。

 

なんでもパインは昨日の夕飯前のタイミングで、こっそりとユウナ様の石像に俺と同じ様にエボン流の礼拝をしていたらしいのだ。その姿をシェリンダさんが目撃した訳で、エボンの教えの素晴らしさを共有する仲間と見定めるメイチェンの爺さんとの2人がかりのウンチク波状攻撃を仕掛けていた。

 

 

一夜明けたオオアカ屋のオッサンはユウナ様に石化から助けた恩でも売り込みに行くのかと思っていたが…むしろ俺に興味津々だった。

 

朝の明るい光で見た俺の顔が、今スピラで一番話題の男、ティーダ君だと気づいたらしく「少年、何か困ってる事はねぇか?!」と言った調子で、目にも止まらぬ揉み手の姿勢で俺に媚を売ってくる。俺を絡めた金の匂いを嗅ぎつけたのだろうし、腰を落ち着けたらゆっくり話を聞いてやろう。

 

 

そんな事を考えていた時、俺の髪が逆立った。静電気だ。空気が、帯電している事に気付いた。

 

 

そうか。ついに辿り着いたのか。

雷の舞い散る、不思議な寺院。

 

 

 

ジョゼ寺院だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

 

 

寺院に流れ込んだ俺たちが腰を落ち着けられるタイミングは無かった。

 

ワッカは寺院に入り込んだ途端、意識を失ったのだ。昨夜の段階で患部にバイ菌が入ったのだろうか。重症のくせに、皆を心配させないようにヤセ我慢をしていたらしいのだ。

 

ケアルラを使える神官と医者を寺院から呼び出して、すぐに医務室で治療が施される。

 

「ワッカ!しっかりしなさい!私達はガードでしょ!使命は終わってないのよ!」

 

とあえて厳しくハッパをかけるルー姉さん。

 

「ワッカさん…あれだけ無理はしないでって言ったのに…!」

 

と、涙を浮かべてケアルを掛け続けるユウナ様。2人の背中を旅団一同で見つめながら、俺はブリッツボールをワッカの手に擦り続けていた。

 

ただの思いつきだ。

俺なら…このボールの感触を頼りに意識を戻せるかもしれない。それはワッカも同じだろう。「戻ってこいワッカ!」そんな事を考えたんだ。

 

 

名前を呼び続ける事一時間。

ワッカはまぶたを微かに動かした。

 

ユウナ様は魔力切れで虫の息で、ルー姉さんはスフィア盤を手に持って白魔法を自分が覚えられないかと必死に瞑想していた時だった。

 

 

俺の掴んでいたブリッツボールを握り返す力を微かに感じて、俺はワッカと目が合った。アイ•コンタクト。ワッカは声も出さずに、何をバカな事してんだよお前、もう大丈夫だよ、って俺に笑った。

 

 

________________

 

 

そっから先はあまり俺も覚えていない。

同じく無理をしたルー姉さんもそのまま医務室に。ユウナ様も肩の治療を受けながら、疲れで眠ってしまったので、キマリとリュックが部屋に運んでいった。

 

俺も寺院の人間に言われるがままに、飯を食い、耳の治療を受けて、また飯を食い、一眠りして今起きた所だった。

 

窓の外はもうすっかり夏の夜だった。

 

「変な時間に目が覚めちまったな」

 

喉の乾きを覚えて歩いた寺院の中は、ミヘン•セッションの爪痕をまざまざと感じる光景だった。どうやら俺達は優遇されていたらしい。大部屋は怪我人で埋まっていて、ロビーにまで人が溢れていた。

 

パタパタとお湯の入ったタライやらタオルを持って走り回るシェリンダさんも見かけ、優しく微笑みながら虚な目をした子供の相手をしているメイチェン。シンとの戦いは舞台裏でも続いていたのだ。

 

 

「起きたか」

 

 

水の入ったコップを片手にぼけっと突っ立っていた俺にアーロンが声を掛けてくる。

 

「アーロン。みんなは?」

 

「大概は眠っている。全治一週間という所だな。暫くは俺達はここに滞在する事になるぞ」

 

「そっか。ずっと休み無しで忙しかったからな。それがいいよ」

 

俺は少し安心した。やっと一息つけるのかと素直に思える程度には俺も疲れていたらしい。

 

「今日は休め。明日から稽古をつけてやる」

 

「あぁ。頼むわ」

 

「…反抗しないのか」

 

「え?」

 

俺も疑問に思った。なんで今素直に受け入れたんだ俺?

 

「あー、うん。とりあえず明日またどうするか決めようぜ。リュックの意見も聞きたいし」

 

「あの娘も疲れが出ているみたいだぞ。先程部屋の前を通ったが、夢見が悪いのか、うなされていた様だ」

 

「ふーん、悪い夢でも見てんのかな…って、それならドア叩いて起こしてやれよ」

 

「む…それも…そうか」

 

アーロンはそう言って、顎をしゃくった。

寝てる子どもを起こすというのが、オッサンの頭には選択肢として浮かばなかったらしい。ったく、このオッサン。こーゆー所あるんだよな、昔っから。

 

「いいよいいよ、俺が行くわ。リュックとちょっと話したい気分だし」

 

俺はそう言うと頭を切り替えて、足早にリュックの部屋に足を進めた。あんまり話してるとオッサンに説教されかねん。

 

 

「…ふっ。さて、どうなるか…」

 

 

走り去る俺の背中からアーロンのそんな呟きが聞こえた。

 

 

 

______

 

 

今から女の部屋に行く。

そう思ったら頭が冴えてきた。

寺院の奥にある個室が並ぶ花の調度品を置いた、ひっそりとした暗い廊下を歩く。

 

キマリが謎にガード本能全開で廊下で寝ずの番とかして、仁王立ちで立ってたらどう突破しよう。何処にでもありそうなダンボール箱に入って、徐々に移動すれば行けるかもとか考えたけど、どうやら居ないらしい。

 

俺は一つの部屋に狙いを定め、ドアに耳をつける。リュックの部屋がよく考えたらどの部屋か分からん。オッサンの言葉が正しければ寝言が聞こえるかもしれん。

 

『…謎に包まれたティーダ選手の高速のプレイング。その秘密を解き明かす為、私達はスタジオの専門家の意見を…』

 

TVの音だ。ハズレか。

 

次の隣の部屋からは、寝息が聞こえる。多分…これはキマリだな。次だ。

 

「き、綺麗…綺麗だよ…」

 

これは女の声。ユウナ様か。寝言なのか起きてるか分からんけど、寝てるならなんかお花畑の夢でも見てるんだろうか。ワッカの治療で活躍したんだ、そっと寝させてあげよう。次だ。

 

 

 

「…くっ…うっ…」

 

 

こ   れ    だ    な

 

 

 

うーん。うなされ方が思ったよりエッチ。

才能あるよリュック。

俺はさっさと部屋のドアをノックして部屋に入れてもらおうと考えたけど、うなされ方が面白くて急に寝起きドッキリしかけたくなってきた。ヘアピンを取り出して、口に出せないあの形に曲げおって鍵穴に差し込んだ。くそ、意外にむずい。手間取るとアーロンのオッサンに逮捕される。急がねば…

 

 

「…分からせたいってなんだよぉ…」

 

 

んん?なんだ、寝言にしてははっきりしてるな。

 

 

 

 

 

 

 

「私になにを分からせるつもりなんだよぉ…なんで処女ってバレてるんだよぉ…くそぉ…ビッチじゃないもん……ぐすっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺も部屋に戻って、寝よう。

 

 

なにも聞かなかった。そうだろ?

俺は音速でヘアピンを元の形に戻して、暗殺者の足取りで自分の部屋に逃げ帰って布団を被った。

 

 

みんな、おやすみ!良い夢見ようぜ!

 

 

 

 

俺の意識は驚く程はやく闇に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉ…ティーダの…バカ…」

 

 

 

 

 

「んっ…ぐすっ…バカ…私を…オカズにした…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だって……んっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だ…って…カズに…あんっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

クチュ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オカズに…し返してやる……あっ…うんっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様感想ありがとうございます。
エタッてしまった作者を、こんなに暖かく迎えてもらえるとは…。
感想返しも落ち着いたらしていくつもりです。
これからもよろしくお願いします…!
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