やんでれ×ユウナっ!   作:れろれーろ

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第十六話

 

 

___やぁみんな!今日もハッピーかい?

俺はハッピーさ!なんて言ったってね、今朝すごい素敵なアイテムをゲットしたからね!

 

__まぁ!凄いアイテムですって!ザナルカンド時代では女の子とのデートの待ち合わせは、ヨトバシカメラ前かラブホテル前の2択しかない程の家電マニアだった貴方が喜ぶアイテムって何かしら!

 

____気になるだろう?この科学技術の発展していないファッキンな世界では手に入れるルートが限られてて時間がかかったけど、遂に手に入れたぞぅ!これだぁ!

 

_____キャア!眩しい!科学の光が眩しくてよく見えないわ!懐かしいプッシュボタン式で画面も小さくてロクにゲームも入れれなさそうだけど神々しい画面の光で目が潰れそうよ!お願い、眩しくて前の見えない私にこの謎の光る物体を教えてぇぇ!

 

___フフフ。もう欲しがりさんだな、スージーは。そう!こいつの名前は!携帯電…

 

 

 

「くそぅ!」

 

 

怒声と共に____ダンッ!と机に叩きつけられるビールジョッキ。そこから飛び散った飛沫が食堂の机を汚し、脳内のスージーと会話していた俺の頬も水びたしにした。

 

辺りは急にシン…と静まり返り、ワチャワチャしながら昼飯を食べていたガキ共も目を見開き、奥のテーブルに座って食パンをシチューに着けてせっせと口に運んでいたルー姉さんも何事⁉︎とオッパイを揺らしていた。

 

 

「なんで!?なんでこの僕が交感も契約も出来ないんだ!ここの召喚獣は絶対間違ってるよぉー!」

 

 

酒に溺れて絶叫をあげるこの男の名はイサール。おかしいな。今朝までは「フフ、今日こそ寺院のパズルを解き明かせそうだよ。ユウナ君、お先に失礼するよ」ってニコニコ優男のイケてる召喚士様ムーブをしていたはずなのに…。猫かぶっていやがったなコイツ…。

 

朝にリュックから貰った携帯の設定をいじりながら、召喚士の旅の苦労話を聞いてあげていたのだが、話が今日のジョゼ寺院に移った瞬間、唐突に爆発してしまった。

 

仕方あるまい。召喚士も色々大変な事が分かったし、フォローを入れてやる事にする。

 

 

「まーまー!一体くらい振られても召喚獣も星の数ほどいるさ!クヨクヨするなよ!」

 

「そ、そうだぜ兄貴!ティーダ君の言う通りだ!星の数程はいないけどな」

 

「そうだそうだー」

 

「イサールはヴァルファーレ姉貴もイフリート先輩も呼び出せるんだ!話聞いてたら召喚士でも意外と少ないらしいじゃんか、二体も召喚獣と契約できるなんて!ユウナ様より早く他の寺院回ってシンを倒したら一気にヒーローよ!石像立っちゃうぜ!」

 

「そうだぜ兄貴!兄貴は優秀なんだ!絶対にシンを倒せるぞ!あ、ティーダ君。ちなみに体じゃなくて柱な、召喚獣の数え方は。恐れ多いぞ」

 

「恐れ多いぞー」

 

「本当にそう思うかい…?交感に失敗した僕なんかを」

 

 

イサールの瞳に光が灯りだす。

あと一押しだ!うぉおお!頑張れ俺ぇ!

 

 

「はいっ!みんな一緒にぃ!イッ•サール!ゆ•う•しゅう!」

 

「イッ•サール!ゆ•う•しゅう!」

 

「イッ•サール!ゆ•う•しゅう!」

 

 

俺達は食堂で負け試合を初めて経験したらしいイサールをリズムに乗せて慰め続けた。

 

 

 

__________

 

 

 

「ありがとうね。お陰で元気が出たよ、ティーダ君。交感こそ出来なかったけど、召喚獣に心の力を分けてもらえたし、僕達はこのまま次の寺院に向けて出発するよ。君の言う通り、いつまでも止まっていられないよね!」

 

「あぁ頑張れよ!俺がブリッツ界に舞い戻ったら、イサールの事応援してるってヒーローインタビューで言ってやるから、TV見忘れるなっすよ!」

 

「ふふっ。楽しみにしておくよ」

 

 

ガシっと力強く握手を交わして俺はイサール召喚士一行を送り出した。俺の携帯にはオサールという名前が追加され、アーロンとリュック以外にもメールが出来る相手が増えた。1ヶ月もすれば自然と女の名前でメモリが一杯になってしまうかもしれないから、男の知り合いもこれはこれで大事だ。

 

「しかし、ここの寺院は難関なのか。イクシオン…だっけ?契約するのはユウナ様でも手こずるかもな」

 

イサールは召喚士の家系としてユウナ様と、どっこいレベルで優秀らしく、気難しいジョゼ寺院の召喚獣との契約も出来ると有望視されていたらしい。

 

詳しくは聞けなかったが、ヴァルファーレ姉貴は召喚士としての才能に伸び代があり、弱き人々を助ける優しさを持っている人間と契約が成功しやすいのが通説らしく、召喚士の登竜門とされている。

 

イフリート先輩は意思の疎通が難しく、戦闘以外のタイミングでは召喚出来ないという縛りこそあるが、タフだし速いしとにかく強い。契約に関してはシンを倒すという一念が燃えている事が大事で、弱気が入っていると契約が出来ないとイサールは語っていた。

 

ヴァルファーレを使えれば一人前。イフリートも使えればシンを倒す有望な召喚士として箔が着くレベルらしいのだ。

 

 

「ユウナ様、やっぱり凄かったんだな」

 

 

俺の脳裏にユウナ様(石像)が自然と描かれ、尊敬の念が高まってくる。

この思いを伝えたいが、今朝からユウナ様は目が合うと何故かピューっとルー姉さんの所に逃げられている気がする。何かした心当たりはないから、気のせいかもしれない。

 

ちなみにリュックに至っては目も合わせてくれない。切れたトイレットペーパーの補充を外から渡すみたいなノリで、部屋の扉ごしから携帯を渡してきた。

 

「お、お願いだから3日間くらいは、私への会話はこれでして...お願いだから...」

 

と来たもんだ。

何かした心当たりが無いから、気のせいかもしれない。

 

寺院に戻る足を進めつつ、そんな事を考えていた時だった。突然_____

 

 

「はぁっ!」

 

ビュッ!

 

 

という風切り音が、俺の頭上から迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________っ。

 

 

 

 

一瞬意識を失っていて、そして目覚めた時の感覚だった。

 

 

 

頭がズキズキと痛い。え、なんだこれ。マジで痛い。

 

開いた目に刺さる太陽が眩しく、俺は地面に仰向けで寝転んでいるのが理解できた。

 

 

 

「…起き…た?」

 

 

 

焦点が定まってくると見えてくるのはマブイ女の像。

黒一色ゴシックパンクな服。エキセントリックでキメキメな銀髪逆立ちヘアースタイル。

厳ついカーブを描いた剣を携えた神尻スタイルの女剣士___

 

 

「あんたは…」

 

 

俺と目が合うと、さーっと血の気を無くす目の前の女剣士。

それで状況は分かる。こいつ____俺に闇討ちを仕掛けやがった。

 

 

「パイン…だっけ?」

 

 

俺は頭を抑えながら上体を起こした。

フラッシュダウンだ。瞬間的に意識が飛んだだけで、そこまでダメージは無い。

パインは尻を地面に着けないタイプの体操座りの姿勢で、俺の方をチラチラと見てくる。

 

 

「ごめん…」

 

 

涙目で謝ってきたが許さない。

こいつは絶対キャバクラに沈めてオッサン相手に酌をした金を巻き上げつつ、月金シフトのカキタレにする、と俺は瞬間的に炎の様に熱い決意を固めた。

 

考えろ、この状況を最大限に利用する方法を____!

 

 

 

 

「俺は…誰だ?」

 

「えっ……はぁっ!?」

 

 

 

 

効いてる___!畳みかけろ___!

 

 

 

 

 

「___うっ!頭が…!」

 

「だ、大丈夫か!?本当にゴメン!医者まですぐ連れていく!背負うよ!」

 

そう慌てて言ったパインは意外にも力持ちで、俺をよろめきながらもオンブをするのに成功すると、寺院への帰り道へとゆっく

りと歩き出した。ヤダ…イケメン。

 

 

 

「一体…何が…」

 

 

「わ、私が悪いんだ!くっ。昨晩、ティーダ。あんたとアーロンさんの会話を私は聞いたっ。「稽古をつけてやる」とっ…」

 

 

「稽古…?」

 

 

たしかに記憶の奥底でそんな会話をしていた気がするが、今の今まで忘れていた。

それすらも覚えていないという設定にしよう。

 

 

「昔っ!あ、アーロンさんに憧れて私は剣士を志したっ!だからっ。嫉妬したんだ!アーロンさんの弟子のっ、あんたにっ!」

 

 

パインは歩いた。声も途切れ途切れに俺を寺院に運ぼうと必死に歩く。

パインは珠の様な汗を流す。せっかくなので俺は首筋の匂いを嗅いだ。思っていた以上に若いスメルだ。

若さ故に、俺をアーロンの弟子とかいうウホウホ関係だと妄想を爆発させて、その嫉妬で凶行を起こしたらしい。

なんて無謀な暴走なんだ。これはしっかりと指導してやらなければならない。

 

 

 

「アーロンって…誰だい…?」

 

 

「あんた…あ、アーロンさんの事まで…!」

 

 

 

 

俺のアカデミー主演男優賞確定の演技から繰り出す一言に、遂にパインの目元から涙がこぼれる。

 

 

パインの名前が目覚めてすぐ出てきて、なぜかアーロンの名前が出てこないという無理めの設定を、演技力一本で押し通す自分の才能に勃起が止まらない。良心の痛みをスパイスに感じながら、俺はパインのうなじに顔を埋めた。

 

 

「うっ!ゴメン!私っ!本当にトンでもない事を…!

昨夜アーロンさんに私を弟子にしてくださいって、必死に頼んだんだ。

 

でも!

 

『…俺には他に見るべき奴がいてな。そいつで手一杯なんだ。他を当たれ』

 

って、無碍なく断られて!私があんたをシメる…た、倒せる力量を見せれば弟子にしてもらえるかもって、先走って…!」

 

 

 

 

あ  の  オ   ッ  サ  ン   の  せ  い  か  い !!

 

 

 

「ごほっ!ごほっ!」

 

あぶねぇ。危うくツッコミそうになった。あのオッサンが厄介事に絡んでくると理性が飛んじまうよ、まったく。

 

 

「討伐隊も!アカギ隊も滅茶苦茶になって!あいつらの行方も分からないし、キノック様の僧兵からも追っ手がかかってて、私、ちょっと頭がどうかしてたんだ…説得力は無いかもだけど、私もいつもこんなのじゃなくて…って何を言っているんだ私は…わるい!忘れてくれ…」

 

パインはなにかよく分からない自分の設定を話しているが、ちょっと処理できない。厄ネタっぽいから体調悪い感じでスルーしよう。

 

 

 

 

「すまない!私を前に通してくれ!急患なんだ!」

 

 

 

 

ボロが出る前に寺院にたどり着いて良かった。

ルー姉さんがあんぐり口を開いてこっちを見ているが、スマイルを送って今は無視しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

「タンコブできてるね。うん、頭痛いよね?湿布いる?」

 

「先生、下半身のここも痛いっす」

 

「湿布出しとくねー」

 

 

 

_______

 

 

 

 

 

 

 

 

すぐに治療は終わった。

 

 

診察室の外で祈りのポーズで待っていたパインと目が合う。「結果は?」と必死な表情を浮かべる。髪を下ろしているのが気になるが、まず俺は答えた。

 

__症状は何とも言えない。慎重で気長な対応が必要で、この病室でやれる事は残念ながら無い。

 

自室でとにかく安静にして眠る様に医師から言い使った___と伝えた。嘘は言っていない。多分。

 

 

パインは「そうか…」と、思いつめた顔で肩を貸してきて、男前な自然な流れで俺を自分の部屋までエスコートしてくれた。

 

 

 

扉を開け、俺をベッドに寝かせ

 

 

 

「…ティーダ。困った事があったら、これを鳴らしてくれ。何でも私に言ってくれ。

 

 私は___今からあんたの剣だ」

 

 

 

と吹っ切れた顔で颯爽と一言言って、銀色のベルを枕元に置くと、俺を安心させるように笑顔を一つ浮かべて、部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

___眠って起きたら、記憶が戻った…って事にしてあげよう…なんか…なんかさ…罪悪感で押し潰されそうだよぉ…。

 

 

ってか、これもあれも、全部アーロンのせいだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やんでれ×ユウナっ!

 

そのじゅうろく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠気も無く暇に耐えかねた俺は、パインが俺の部屋の前で立って黙想しているのを確認し、ばれない様に窓の外から部屋を抜け出すと、寺院の中を探検していた。

 

ジョゼ寺院は建物と洞窟が合体した様な不思議な造りで、広い広場だったり行商人が泊まる施設やチョコボ小屋などもあった。近くに街が無いので需要に合わせて自然と拡張された感じなのだろう。

 

行商人に声をかけ商品を見せてもらったり、TVで俺のこと見た事ある!と騒ぐガキの相手をしたりしながら歩いていたら、召喚士の間に続く扉が目に入る。

 

 

「入っちゃダメだよ」

 

 

チラリと振り向くと紫フードのガキんちょがいた。

あれ。たしかジョゼ海岸でもいたなこいつ。

 

「み、見てただけなんだからねっ。な、謎解きなんて全然興味なんかないんだからっ」

 

おどけながら身体ごと振り返った時にはもういなかった。素早い奴だな。

 

でもなぁ。「入るな」って言われちゃ仕方ないよな。

 

 

____

 

 

 

「おっしゃビンゴ!この謎の玉を嵌めてっと…」

 

という事で来てみました謎解き。

だって駄目って言われたたら入るしかないじゃん。俺の中の竜平タルパがそういう時は入れって言うから仕方ないじゃん。

 

それに俺も寺院の謎解きスタンプラリー3回目のベテランだ。多分寺院にくるのも最後だろうし、出禁覚悟で思い出作りしよう。

 

しかしイサールもなかなかやる。今までの寺院より格段に謎を解くのがむずい。俺はあっちこっちに玉を持って走り回った。

 

 

そして無事パズルを解き、召喚士の間の前までやってきた。この奥はガードすら入れない召喚士の間だ。荘厳な掘り込みをされた石の扉は固く閉ざされ、不埒者の侵入を拒んでいる様に思えた。

 

流石にここは開かないんじゃね?

そう思いながら俺は扉にかける。すると扉の輪郭が鈍く発光した。

 

 

ゴゴゴゴゴ…ガタンッ

 

 

…開くのかよ…ガバガバのセキュリティだな。灯りもなく真っ暗な空洞の様な部屋が見えるのだが、流石にこの先に進むのはマジでまずいか…どうする?

 

 

ゴゴゴゴゴ…ガタンッ

 

 

迷ったらやる、ってのが信条だからもう身体は召喚士の間に入っていた。俺の心の竜平が行けよ!って言ってくるからさぁ…。てか、扉が閉まったは良いけど、今度は出れない。自動ドアじゃなかったのか、ヤバイ。ボス部屋と同じシステムかこれ?

 

そんな感じで焦っていたら、さっきまで暗闇だった部屋が、いつの間にか足元に走る青いラインが光り、明るくなってきていることに気が付いた。

 

ビリッ…ビリッビリッ…

 

空気中に、電気の帯が走る。

パチパチと音を出し髪が逆立ち、肌が泡立った。足元の青いライン上の光は巨大なネットワークを思わせる挙動で部屋中を走り回っていて、そのスピードはドンドン上がっていく。

 

コォオオオ!という風が狭い所を通り抜ける際の鈍い音が辺りに響く。すると、部屋の奥が黒いワームホールの様なものが生まれ、空気中の電気の帯が中心に吸い込まれていく様から俺は目が離せなかった_____なにか、来る。

 

 

カコッ…カコッ…カコッ…

 

 

穴の奥から響いてくるのは足音。

ヒールの様に硬いけど、それより重い何かが石の地面を叩く音。そいつはゆっくりとこっちに近づいてきて…俺の前に姿を現した。

 

白い毛並みの美しい馬。頭から生えた黄金のツノ。神話の絵本でしか見た事が無い、一角獣。

 

 

召喚獣イクシオンだ。

 

 

 

「えーと…」

 

奇跡のコラボレーションが誕生してしまった。片や召喚士でもなんでもない異邦の侵入者の男。片や処女しか乗せないとかいう悪名高い逸話を持ち、その逞しい角で悪人共を串刺しにする姿も容易に想像できる獣。

 

メンヘラ気質の高そうなビジュアルから感じられるプレッシャーは、俺はここからの選択肢をミスったら死ぬかもしれないという事を暗示していた。

 

ブルルッ…ブルッ…

 

目の前の召喚獣イクシオンは、ユラユラと揺れて鼻を鳴らしながら、俺と見つめ合う。どうしよう。ナイスなアイデアが何も出てこない。相手が獣では俺の初対面コミュニケーション四十八手の一つも使えない。くそっ使いこなせば出会って4秒で合体すら出来るのに!

 

 

イクシオン様は黙って俺を見ているのも飽きたのか、荒っぽく俺に鼻先を突きつける。そして…

 

スピスピッスピスパスパスピスピ…!

 

と久しぶりに旅行から帰ってきた親父の匂いを嗅ぐ飼い犬並の高速の鼻くんかを俺に仕掛けてきた。感情は匂いにでる、と聞いた事がある。俺の全てを匂いで理解して、このまま帰してくれないだろうか…。

 

スピッ…ブルルッ…カコッ…カコッ…

 

鼻くんかの時間は続いていた。俺の周りをゆっくりとノシノシと周り出すイクシオン様。

 

「あのですね、私、その…間違えてここ入ってしまった一般人でして…」

 

どうすればいい____ユウナ様なら召喚獣の間でいつもどうしているんだろう。

 

「お休みの所起こしてしまって本当に申し訳ありません…恐縮なのですが、後ろのドアのロックを解除していただけますでしょうか…」

 

たしか、お祈りをしていると言っていた。マジで?この状況で?こんな悪い人達で行われるタイプの新人アイドルの水着審査並のお触りタッチプレイの中、何時間もお祈りしてるの?

 

ユウナ様の凄さを改めて感じて、猛烈に苦労を共有したいが、生きて帰れる保証がない。もう伝わってるか分からないが言葉によるコミュニケーションを試みるしかない。

 

「わざとじゃないんです。竜平が入れって言うから…僕いじめられてて。ふざけてここに閉じ込められちゃったんです…。竜平がカチョウ倶楽部ってお笑いトリオでTVで売れてから、僕みたいな新人芸人いびりしてくる様に…」

 

ガンッ!「痛いっ!」

 

蹴られた!この馬蹴ってきたよ!言葉分かるのか!?嘘の匂いがしてますか!?

 

ブルルッ!

 

コンコンッ…

 

「え?なになに…?」

 

馬は俺を蹴り倒して、地面に這わせると、金色のツノで地面の一点を指し示した。円状のガラス板の上に何か…言葉が彫られている。

 

「『我、悪を憎む者。汝、真実を追うか』って書いてありますね…」

 

言葉の意味は理解できる。これを読んで欲しかったんだろうか。俺はイクシオンに目を向ける。ブルルッ。と感情の読めない目を返された。

 

「真実…って…シンの話っすか?」

 

直感で答える。召喚獣がどうやって生まれるのかあるいは作られて運用されているのかは知らないけど、大義名分としてはエボン寺院の管理するシンとの決戦兵器な訳で、こういう場所で聞くのはシンの話だろう、と当たりをつけた。

 

ブルルッ…

 

イクシオンは俺と目を合わせると、正解とも不正解とも言わず…

 

 

カコッ…カコッ…カコッ…

 

 

と、ワームホールの中へと戻っていった。

え?なにこれ、置いていくの俺?

 

 

______________

 

 

 

 

カコッ…カコッ…カコッ…

 

イクシオンが戻ってきた。30分位放置プレイされて、俺は剣の柄で壁に穴を掘り脱獄は出来ないかと試みている最中だった。

 

ブルルッ!

 

「はい!はい!すぐ行きます!何が御入用でしょうか?外行ってニンジンでも買ってきましょうか!?ヒトッパシリ…痛いっ!」

 

また蹴られた。本気じゃ無いんだろうけど、さっきから調子乗りだしたらボコってくる気がするなぁ。

 

イクシオンは俺に再び鼻先を突きつけてきて、鼻を鳴らす。口に何か咥えている…何かが書かれた紙とペン____あまりにこの場で似つかわしくないものだった。…てか、やっぱりこいつ言葉が分かるな?

 

紙とペンを受け取り、地面に置いて内容を読み解く。なんかの秘密保持の誓約書とかかな…なになに何が書いてあるんだ…

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

問13 配点5

 

崖から落ちそうな妊婦と第一階級の神官。どちらを助ける?理由も含めて答えよ。

 

答え

妊婦。神官は偉いから年寄り。どうせ未来は無い。

 

 

 

問14 配点15

 

シンは堕落した人間への罰であり、エボンの教えを守ればシンはいつか消えるという教えに対して一言。(自由回答)

 

答え

めっちゃ嘘っぽい。

 

 

問15 配点10

 

アルベド族は迫害すべき?

 

答え

迫害、ダメ、絶対。

 

 

 

 

 

サラサラと舞い落ちる砂時計の音と、俺のペンを走らせる音だけが、召喚士の間に響く。

 

ドラゴン大桜を読んだ俺に死角は無い。初めに全ての問題に目を通し配点の高い問題と難易度の低い問題点をチェック。三角をもらえる可能性を考慮して分からなくても全ての問題に何かしらリアクションを返す。

 

しかし見直しの時間をとるのは…無理か…くそっ俺は…絶対に東大に受かるんだ…こんな所で終わってたまるか…東大に入って学生証をアクセサリー代わりにして合コンに出席して無双しまくり勝ちまくり…ドコッ!!「痛いっ!」

 

 

集中が乱れたのを確実に察して蹴りをくれてくるイクシオン先生の指導の元、俺は最後の問いを書き上げ、提出した。

 

 

__________

 

 

 

 

カツカツカツ…

 

イクシオン先生は蹄を一定のリズムで貧乏ゆすりしつつ、俺の答案の目を通している。もう絶対に人間が中に入っているなと確信しているが、強すぎて斬りかかる勇気は無い。大人しく採点風景を見つめていたら、イクシオンは急に立ち上がり、角で俺の手をチクッと刺した。

 

________血が少し出て、傷口から電気の糸が引いた。

 

 

 

パチパチッ!パチパチッ!

 

地面が、揺れていた。

 

 

部屋の中の青い光は眩しいほどき走り回り、空気中に紫電が乱舞しだす。

電気の糸は徐々に大きく太くなり、俺の身体を包み込んでいく。

 

感じるのはひたすらに強大な力。

 

肌の表面が沸騰し、身体中を燃やすように電流が舞う。

このまま蒸発して消えてしまいそうだ。

 

 

まとわりついた紫電は遂に俺の眼球に入り込み、白く、白く、風景を染め上げていった______。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、読んでいただき、ありがとうございます。
感想返しもまだ全部は完了しておりませんが、4年前の感想に対してもボトルメッセージの様に今更返信をしております。応援の一つ一つ本当に励みになります。待っていたよ、とのお優しい言葉が染みます。
これからも何卒宜しくお願い致します。

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