やんでれ×ユウナっ!   作:れろれーろ

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第十七話

 

 

 

そこは真っ白な空間だった。

床も空もない場所に少年が1人座っている。

 

 

「やぁ。ジェクトの息子。こっちに来て座りなよ」

 

軽く手を上げる、気安い挨拶。

敵意の無さを感じとり、腰を下ろした。

 

「誰っすか」

 

「イクシオンの祈り子だよ。生前の名前はライトニング」

 

「祈り子…?」

 

「祈り子は召喚士に自分の夢の設計図を与える存在。召喚士は幻光虫を集め、設計図を具現化する術を持った者だ。僕はイクシオンという召喚獣の夢の開発者であり、また本人と考えていい」

 

「ふーん…えっ。じゃあさっきの馬があんたっすか?」

 

なんとも驚きの事実だ。このガキがさっきまでボコってきたり、謎のテストをやらせたりしてきた訳か…。

 

「…初めは召喚士でもないのに、バハムートの臭いをプンプンさせてる奴がいるってのが気になって招き入れただけなんだけどね。よく君の顔を見たらジェクトの息子じゃないかと気が付いた_____

 

____違うと思うけど一応確認だ。

君。バハムートの差し金でここに来たりしてないよね。大抵は、黒人の子供の姿をとっている筈さ、心当たりは?」

 

ギロッと強い視線で睨まれる。

子供の出せる眼力じゃなくて素直に怖い。

 

「だ、誰かに言われて来た訳じゃないっす!」

 

「じゃあ、なんで?」

 

「いえ…あの…寺院の謎解きが…したくて…」

 

「…ふざけた奴だな君は」

 

イクシオンは、ため息を一つして後ろに振り返り、何か作業を始めた。空気が霞んでいて、手元は見えない。白いもやの中、何かの配線作業の様にも部屋の片付けをしている様にも見える動きだった。「やっぱりだ」少年は何かを掴んでそう言った。

 

「君は、バハムートに管を付けられている。少なくとも5年前…いや、それ以上だな。ジェクトが祈り子になってから、すぐか」

 

ん?ジェクトが祈り子?なんの話だ?

 

「ずっと監視されていたって事さ。警戒した方がいい。最近の彼は、夢のザナルカンドにも顔を出さない。君を使って何かをしようとしているんだ」

 

「え…はい?親父が祈り子…夢のザナルカンド…?」

 

脳の処理が追いつかない。さっきから頭がふわふわする。この子供は一体何を言っているのだろう。

 

「む…ブラスカがジェクトを祈り子として究極召喚をしたという事は知っているかい?バハムートやアーロンはどこまで話しているんだ。アーロンは何らかの方法で夢のザナルカンドに渡り、君に接触を取った。そして共にスピラに戻って来た筈だ。だから君は今此処にいる。では、ベベルとの戦争に負けそうになったザナルカンドを守る為に、大召喚士エボン=ジュが対ベベル決戦兵器としてシンを…」

 

まくしたてる様に言葉を紡ぐ少年。

少年は俺の表情を見て察した。

 

「なにも…聞かされていないのか…」

 

そう、申し訳無さそうな顔を浮かべた。

なんか俺の知識と学歴が不足しているせいで、少年を悲しませてしまったらしい。

 

アーロンとかジェクトとか知っている名前が出ているのにも関わらず、俺には何の話をしているのかさっぱり分からなかった。

俺は、まだ何も知らない。

親父がシンになった理由も。俺がスピラにタイムスリップしてしまったのもきっと、ただの摩訶不思議な事故じゃない。

 

 

少年は作業に戻っていた。

何かの配線を繋いでいる様な背中が動いている。

 

「まぁ…いいさ。今、契約作業も完了した。もう行っていいよ。どうやら、まだ猶予はあるみたいだ」

 

「あ、帰っていいっすか」

 

なんだか頭が痛い。帰ってシャワーを浴びて布団に入ろう。だが…その前にこれだけは聞いておかねばなるまい。

 

「先生…あのテスト…何点だったんすか?」

 

「85点。君はバカだけどフェアで、倫理観の基準にスポーツマンシップがある。予想通り、心の居心地は悪くないよ。…女性関係の考えを除けばだけどね」

 

先生はそう言って俺に静かに微笑んだ。

どうやら、褒めてくれているらしい。

 

「召喚士はいつもあんな思いしてるんすね…」

 

「他の召喚士には無いよそんなもの。君に交感の技があれば、あんな茶番は必要無かったんだ…ってあれ?君。なんでヴァルファーレと微妙に管が繋がってるのさ…命令権までついてるし…」

 

「え…?ルカのブリッツの試合の時に、そう言えば俺の言う事聞いてくれた様な…」

 

「エコ贔屓かよ…あのおばさん…」

 

そんな会話をしているうちに白いモヤが濃くなってきた。少年の姿が白く、遠く、見えなくなっていく。「ティーダ」と名前を呼ばれた。

 

 

「ザナルカンドは現在二つある。遺跡のザナルカンドと夢のザナルカンド。このスピラの何処かに召喚されている筈なんだ。旅の間、それを探して欲しい」

 

 

「分かった!連絡方法は!」

 

 

「何を言ってるんだ君は。僕はこれから、ずっと側にいるよ______」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やんでれ×ユウナっ!

 

その17

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤ…ガヤガヤ…。

 

 

 

食堂に響く人々の喧騒をBGMに私はユウナと食事を取っていた。思えば、2人きりでこうしてゆっくりと食事をするのも随分と久しぶりだ。

 

好物のホワイトシチューにパンをつけて口に運ぶ。口の中でホロホロと広がる甘味。机に置かれた花瓶の花言葉について話すユウナの自然な笑顔を見て、私も笑みが溢れる。

 

ワッカの容態も峠を越えて、心配は要らなくなったし、ユウナと私の怪我も回復は良好。旅の再開まで少し時間が生まれた事で、心に張り詰めていた糸が緩まっていくのを感じる。

 

ビサイド島で暮らしていた時の、穏やかな気持ちが戻り、自然と会話は弾んでいた。そんな時だった。

 

「あっ。ねぇルールー。『私をオカズにした』ってどういう意味か分かる?」

 

バフッ!

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

「大丈夫!ルールー」

 

平穏は突如破壊された。

ユウナの口から投擲された炸裂弾が私の呼吸器系を乱れ打ちにしていた____い、いい、いきなり何言いだすのこの子はっ! 

 

「ゆ、ユウナ!どこでそんな言葉を拾って来たの?」

 

「リュックがそう言うのを聞いて…」

 

「とんでもない子ね、あの子…」

 

リュックが電話で女友達と話している会話を聞いたとかそんなのかしら…最近の子は進んでいるわね。とにかく召喚士に要らない知識で、ユウナを汚す訳にはいかない。

 

 

「ユウナはそんな言葉覚えなくて____」

 

 

_____その先の言葉が喉まで出かけて、止まった。

 

本当にいいのかしら、それで。という疑問が突如生まれた。

 

ユウナは18歳だ。今は心を鍛える旅の途中で、最近のユウナは変化もめざましい。原因は…ティーダだろう。バカでスケベだけど、妙に大人で変に人を惹きつける才能があって…優しい。そんなあいつの影響を受けている。

 

あいつを見ていると、ユウナをいつまでも子供扱いしていい訳じゃない気がする。同世代のリュックもユウナの友達になってくれたのに、2人と話が合わないのも可哀想だ。少しは世俗にまみれた知識も知った方が人間関係も円滑にいくかもしれない。

 

「ルールー。どうしたの?」

 

「…コホン。ゆ、ユウナ。ちょっと隣に来て」

 

私は覚悟を決めて、ユウナを向かいの席から隣の席に誘導する。ユウナは無垢な表情で私の隣に座り直した。

 

「そ、それはね。男に人によく見られる生理現象でね。溜まった欲求不満を1人で解消する行為のお供にする事で…」

 

「ん…んんー?」

 

 ユウナの首を傾げる表情を見て思った。これはダメだ。こんな遠回しな言い方では何も伝わっていない。

 

「じ、自慰…の事よ。マスターベーションとも言うわ。せ、性交をしたい相手を想像して一人で…その…自分の性器を弄る発散行為よ」

 

こ、これなら流石に伝わるでしょう。私はそう思っていた。心臓の動悸は強く不定期になり、呼吸が乱れる。

 

熱くなった頭が弾き出した淫猥な言葉を、可能な限り変換をあまりかけないまま紡ぎ出した____だと言うのに。

 

 

「え、うーん?ジイ…マスター…?ルールー。何を言っているの。分かんないよ…」

 

 

それなのに____駄目っ…!

ユウナは私を無垢な好奇心の瞳で自覚なく責め続ける。嘘でしょう。これでも許してくれないの。それなら、これならどう⁉︎

 

「おっ、オナニーよ!オナニーはセックスしたくて堪らない不満を解消をする際に自分で自分の股間を弄って快感を得る行為!オナニーの興奮を高める為には、セックスをしたい相手を想像する事が多くて、その想像のセックスの相手役をオカズと言うの。興奮を高めるスパイスという意味合いをご飯のお供と掛けた…俗語よっ!」

 

____文句なしの寿命を一年は減らすであろう限界を超えた豪速球を私は投げた。キャッチャーであるユウナの顔が羞恥のあまり顔面が熱暴走してしまっても知った事か、と思える程の会心の一投。

 

「え…あっ…想像の、…ックス…」

 

ユウナの顔がみるみる紅潮して、顔を俯かせる。

届いた…届いたのね…。

身を斬る様な思いをした価値はあった。ユウナのこういう方面に対する知識の無さを侮っていたわ…。疲れた…。

 

「わ、分かってくれた様ね…そういう事だから。ユウナが知らないのも無理はないわ…」

 

「そう…だよね…」

 

ユウナの照れ具合を見て私も冷静さを幾分か取り戻してきた。私は…やりきったのだ。自分を自分で褒めてあげたい。

 

「その…子供を作るの…想像するなんて、できないよ。神聖な儀式だもん…」

 

ユウナはそんな事を呟いて、ますます困った顔になる。

 

「うん…そうね神聖な儀式…快感だけを得て本丸の目的を果たさない昨今の風潮は…」

 

ん?なにか……神聖…?

 

「ゆ、ユウナ。一応聞くけど神聖…って事でも無いのよ。むしろ、その最近はもっとカジュアルというか…ね?」

 

「えっ…でもでも。すごい不思議な現象だよね?そ、それで子供が出来ちゃうんだから…」

 

…何かおかしい。さっきまで熱かった身体から冷や汗とも脂汗とも言えない液体が溢れ出てくる。何かを私は見落としている。

 

「一応ね。一応…聞かせてくれないかしら。子供ってユウナ…どうやって出来るか、私に話してくれる?」

 

ボンっとユウナの顔が再び赤面し、「ルールー、い、いじめだよそれはぁ」と恨みがめしい目を向けてくるが、私ももうここまで来たら引けないのだ。

 

「だ、大事な事なの。私も恥ずかしいのを我慢したのだから、ユウナもよ」

 

私が引き下がる気は無いとユウナが悟ると、蚊の鳴くような声をだした。

 

 

「結婚した2人が、は、裸になって、ベッドに入るの…」

 

 

「そ、そう、そうね」

 

 

よ、良かった。分かっている。

 

考えてみると当たり前よね。ユウナは18歳だもの。当たり前の知識よ。やぁね、私ったら、変な心配して。

 

 

「ふ、2人は重なる様に抱き合うの。そしたら…」

 

 

これ以上は可哀想だから、やめときましょう。召喚士の口に下品な言葉は似合わないわ。

 

 

 

 

「そしたら、光が生まれて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光が大きくなってお腹に入ってくるの…それが…赤ちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドコ…ドンドコ…

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドコ…ドンドコ…ドンドコ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドコ!カッ!ドンドコ!カッ!ドンドコ!ドンドコ!カッカッカッ!せいやっ!ドンドコカッ!せいやぁ!ドンドコカッ!せいやっ!せいせいせいやぁっ!

 

♪あぁー!ピサイドは!いつも•いつでも•いいところっ!魚はいっつも•美味しいし!海が綺麗でっ•泳がにゃソン•ソン!人はみーんなっ•優しくてっ!寺院だって•あるんだよ!

あぁー!ビサイド島はいいところっ!ビサイド島はすみやすいっ!みんなおいでよビサイドにぃ!♪

 

せいやっ!せいやっ!せいやっ!せいやっ!

ドンドコ!カッ!ドンドコ!カッ!ドンドコ!ドンドコ!カッカッカッ!せいやっ!ドンドコカッ!せいやぁ!ドンドコカッ!せいやっ!せいせいせいやぁっ!

 

ビサイド島のみんながそこにいた。

島の宣伝ソングが鳴り響き、炎が焚かれ、雨は吹き荒れ、洪水が起き、暴風が吹く中、神輿は担がれていた。

 

せいやっ!せいやっ!せいやっ!

 

掛け声と共に豪華絢爛な煌びやかなゲートから入場してくるティーダの顔を先端につけたご立派な男神様が入場してくる。褌に腰を包んだ汗だくのワッカが和太鼓を叩き鳴らし、「もっと声をあげろ!」とアーロンさんが檄を飛ばす。

 

神輿の上にいるユウナは異界送りの舞を踊り、ジジババ達はそれを崇め、拝み狂っていた。女達はユウナに見惚れる男達の間に入り情熱的なフラメンコを踊る中、私は魔女を探す。この中にユダがいる。ユウナに偽りの赤ちゃん物語を吹き込んだ魔女がいるので火刑に合わせなければならない。

 

 

せいやっ!せいやっ!せいやっ!せいやっ!

ドンドコ!カッ!ドンドコ!カッ!ドンドコ!ドンドコ!カッカッカッ!せいやっ!ドンドコカッ!せいやぁ!ドンドコカッ!せいやっ!せいせいせいやぁっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「る、ルールー!どうしたの!?白目向いてるよ!起きて!起きてってばぁ!」ユサユサ

 

 

「っ!…ごめんねユウナ。私は…私は、ユウナに清廉に育って欲しいと大切にしていたつもりだけど、それが真実を覆い隠す目隠しにもなっていたのね…。ふふ…そうよね…あの呑気な島の住人にまともな教育を期待していたのが間違いだったのね…」

 

 

「ルールー…本当に今日はどうしたの…?」

 

 

「いいのよユウナ。ユウナは何も悪くない。さっ、私の部屋に行きましょう。お菓子があるの。最近作ったティーダの人形とワッカの人形もあるのよ。それを使ってユウナの知らなかった全てを、図解と実践を教えてあげる。大丈夫、大丈夫だから______」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいたか。稽古を始めるぞ。食い終わったら外に来い」

 

妙にざわついている食堂で飯を食っていると、遂にアーロンに見つかった。

 

「ちぇっ。三時間だけっすよ。こっちの夜のテレビ番組も見てみたいんだよ」

 

「ふっ。お前が課題をこなせたらな」

 

いつものすかした笑いを残して食堂を出て行くアーロンの背中を目で追う。

 

アーロンは、なんで俺を鍛えようとしているんだ。

 

別に俺じゃなくてもいいだろう。

 

なんで俺を育ててくれて。なんでザナルカンドから俺を連れてきて。なんでユウナのガードをしているんだ。

 

あのオッサンは過去、ユウナの父さんのブラスカと親父の三人のパーティで旅をしてシンを倒したって話は知っている。

 

伝説のガードって言われてて、パインみたいな女の子の憧れになる立ち位置らしい。オッサンが剣術道場でも開けば、ガード志望の門下生で溢れて、左団扇で生きていけるだろう。

 

 

それなのに、俺の親になった。

まずい飯を炊いて、乾き切らない洗濯作業をして、俺のブリッツの練習に付き合った。

 

 

____どうして。

 

 

召喚士の間で変な夢を見たせいだ。

聞きたい事はたくさんあるのに、何故かそれを一番初めに知りたくなって、俺は剣を持って、食堂を出た。

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

 

 

「遅いっ!手だけで振ろうとするな!」

 

 

オッサンの怒号が耳に痛い。

もう鼓膜直してもらったっていうのに、馬鹿でかい声出しやがって!

 

「おらぁ!」ブンッ!

 

______キイン!

 

 

オッサンとの鍔迫り合いの形になる。

俺だって力が無い方じゃない。押し切ればそれでいい。それなのに

 

「はっ!」

 

オッサンの気合いの掛け声と共に発せられた謎の圧に押し負けて、弾き飛ばされるどころか地面に這いつくばらされる。

 

どういう理屈かは頭では理解できない。頭じゃ無理だから身体の学習機能も稼働させた。

オッサンの呼吸のリズムのパターンを感じとり、足取りを見る。

 

「む…」

 

立って剣を振る。今度はオッサンの真似をして両手で振った。

そしたら威力だけは出たようでオッサンの剣と接触しても、足がふらつかない。だから次の行動に移れる。

 

「やっ!」

 

肩を狙った横薙ぎの一閃は、オッサンの手甲に弾かれる。そう来るのは予想していない。

虚をつかれた浮遊感が到来する。剣の反動が身体を伝わり足を浮足立たせる。

 

一時的に機能を止める身体。それでも自分の身体の結果を受け入れる。足は動かないから、上体を反対に曲げてバク転して距離を取り、ようやく回復の追いついた足を構え直す。

 

「ほう…」

 

オッサンは嬉しそうな顔をして、顎をしゃくった。くそっ!雑魚いびりして楽しみやがって!

 

「さぁ。来い」

 

剣は手足の延長。自分の手足に振り回されるのは未熟の証拠。

 

「はあっ!」

 

足りないものは、何で埋めれば良い。

経験を検索してヒットするのはブリッツの理論ばかりだ。共通点を探すしか無い。結局それしか俺には出来ない。

 

ブリッツにも接触はある。

俺はタックルをされても、力を逃してプレーを継続できていた。相手の力のベクトルを水と身体で変換できた。

同じ事をオッサンもやっている筈だ。

 

ここは地面で水じゃない。反動を逃す時に掴んでいた水は空気に変わった。ならばオッサンはどこに俺とぶつかった力を逃がしている。バランスを取っている。考える。分からないならアーロンを感じとるしかない。ぶつかっていくしかない__。

 

 

 

「うおぉ___!」

 

 

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう心境の変化だ」

 

 

オッサンは地面に倒れ伏した俺に声をかける。会話を求められているが、今はやめてほしい。脳みそに酸素が足りない。

 

 

「べっつに!」

 

「ふっ。強情だな」

 

 

しつこいな、このオッサンも。

別になんだっていいだろう。俺があんたを知りたがってる理由なんか。

 

「はっ。あんた、なんで。はあっ。ザナルカンドに来たんだよ。家、こっちだろ」

 

「ジェクトとの約束だ」

 

「ユウナのガードになったのは!」

 

「ブラスカとの約束だ」

 

「全部約束かよ!」

 

アーロンの事を知るつもりが、俺は今更、親父の事を知った。

あいつ、俺の事をオッサンに任せたのか。

俺を覚えていたのか。

呑気にこっちで過ごしていた訳じゃ…ないのか。

 

 

「はぁっ。約束一つで人の親になるとかっ。はあっ。あんた頭いかれてんじゃねぇか」

 

 

「なかなか面白かったぞ」

 

 

だからさ!!このオッサンはぁ!!!そう言う事いきなり言うなよ!

 

 

「そんな顔をするな」

 

 

どんな顔だよ。くそっ。ムカつくぜ。

 

 

「ガキ1人別にほっときゃいいじゃねぇか。あんたはこの世界のレジェンドだ。たくさんの子供に剣術教えて、ガードをたくさん生み出せばいい」

 

「俺は口下手だ。無理だろう」

 

「それはそうだけどさぁ!」

 

そう言う事じゃねぇんだ!そういう事じゃ!

 

「だからお前しかいない」

 

は?なにこのオッサン。告白ですか?恥ずかしいんですけど。

 

 

「俺は口で伝えられる技を持っていない。剣術は剣術でも魔物を斬る術に特化している」

 

「それが、なんだよ」

 

「自分では言いたくないが、才能がいる。魔物は決まった形をしていない。呼吸を読む応用力は資質に備わる」

 

「無茶苦茶言ってんな…」

 

オッサンは真顔で自分の才能をひけらかした。その年で出来る事じゃねえぞ。

 

「俺も歳を取る。年々衰える身体を技で補う術を得てきた。それも言葉にはしにくい技だ」

 

オッサンは剣を取る。休憩は終わりだ、と言わんばかりに。

 

「剣を教えるのは、誰との約束でもない。俺のエゴだ」

 

ギラギラとしたオッサンのオーラを感じる。

立てよオラ、という圧を感じるが、マジで面倒くさい。三時間はとうに過ぎた。

 

 

「この歳になると出てくるものだな。鍛えた技を後に遺したいという…欲だ」

 

 

「くっそやろう…人を簡単に伝承者扱いするんじゃねぇよ…」

 

 

ムカつく。ムカつくから立ち上がる。

このオッサンを今日で一回は地面に膝をつけさせるという決意を持って、顔を上げた。

 

遠くの木陰にパインが見える。

あいつはアーロンの弟子になりたがっていた。

アーロンに憧れて剣士になったって言っていた。

俺よりも気持ちは強いだろう。

無下なく弟子入りは断られたと言うので、こういう光景は本当は、見たくない筈だろう。

 

だから_____ごめんな。

 

 

 

 

「あの娘が気になるか」

 

「気にしてられっか!」

 

「それで良い。_____来い。」

 

 

 

 

 

 

 


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