やんでれ×ユウナっ!   作:れろれーろ

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第八話

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、やーっと戻って来やがったか!ほらっ、宿屋に移動しようぜ」

 

夜。小さな明かりを灯した船と三日月だけをプカリと浮かせただけの静かな夜の海の下。

 

俺が戻ってきた時にはとっくにもう皆の移動の準備が終わっていて、手持ちぶさたな退屈そうな顔したメンバーが港に集まっていた。

 

「待たせてわるいっす!」

 

俺は小走りのままワッカの側に行って拳同士でハイタッチした後に肩を組み合った。

 

「今日はありがとうな、ティーダ。お前がいなけりゃユウナを守りきれなかった」

 

「気にすんなって!それよりワッカ!今日は一緒に飲もうぜ!」

 

「おっ。なんだい、いいねえ!実はさっき船の奴から買った酒があるんだよ。ここの温泉にでもつかりながらガッツリ楽しもうぜ!」

 

「がってん承知!」

 

 

「なによ。妙に嬉しそうじゃない」

 

 

ルー姉さんはどこか呆れた調子の声色の中に、意外な優しさを響きに含ませた。あれは子供を見る目だな。

 

いかん。いかん。テンション上がりすぎだ。何か勘ぐられる前に誤魔化しておこう。

 

「ルー姉さんの言葉が、胸に染みたんだよ」

 

「な、なによ・・・急に。あんたがそういう優しげな顔すると気持ち悪いわよ」

 

「俺らは確かにルカで別れる関係だけどさ、そんな事考えて付き合ってたら何も始まらない。そうだろ?ルー姉さん」

 

「・・・・・なんだ。私はてっきり私の言葉なんて聞き流してたかと思ってたじゃない。人をヤキモキさせる前に次からは自分で気づきなさいよね」

 

ルー姉さんはしばらく探るように俺の顔を見つめた後、ふぅとため息を一つ、微笑みを浮かべながら腕を組み直した。ルー姉さんには短く簡潔な言葉を、これだけ言えば十分だ。物分かりが良すぎる、悲しい大人だが情が深い。俺はこういうずばっとした会話が好みだった。

 

「怪我、大丈夫なの?」

 

「もち、っすよ。そんなヤワな体じゃないもんでね」

 

「まったく。あんたが言うと説得力あるわね」

 

ルー姉さんにしては上機嫌気味に「さあ、行くわよ。皆」と珍しくリーダーシップを取り、歩き出す。俺達もその後にぞろぞろと続く。宿屋は運良く形を保っていて「こんな日だからこそ」と言わんばかりに営業中の看板を表に出していた。まさに根性だ。嫌いじゃない。

 

「本当に怪我は・・・・もう大丈夫なのかな?」

 

ユウナ様は穴だらけの橋に転ばないように気をつけながら、旅の荷物を引きずっていた。相変わらず少し鈍くさい動きに見かねた空手の俺は、ユウナ様の荷物を奪い取りながら答えた。

 

「この俺っすよ?ユウナ様こそ、転んで頭とか打たないようにしてくださいよ」

 

俺は見せつけるように肩を怪我をした方の手で荷物を引き上げて「お疲れみたいだし」歩いた。

 

「あっ、いいよ。自分で持てるから」

 

「平気。平気。すぐそこじゃん」

 

「強引なんっスね。もう」

 

「・・・・・・それ。俺の真似?」

 

「真似っス」

 

笑顔を浮かべるユウナ様。鼻筋の通った端正な顔立ちに子供っぽい表情が浮かんだ。顔射したい位かわいいじゃないか。

 

まったく、召喚士様ってのは訳が分からんね。まあ予想より余裕のある感じみたいだから、これは良い兆候なんだろう。そんな事を考えながら俺達は宿屋へと入っていく。

 

 

「何名様ですか?・・・・・あっ召喚士様一行ですね。どうぞ、お疲れでしょう。二階の一番左端以外のお好きな部屋をお選びください。」

 

「部屋の数は?」

 

「申し訳ありませんが三つとなっておりまして、どなたか相部屋になってもらう形になります。こんな小さな村ですから・・・」

 

「それでいいわ。じゃあユウナと私は右端。あとはあんた達が好きに使ってちょうだい」

 

「はい!俺一人希望!」

 

「あ、ずっこい!」

 

「決まりね。宿代はキマリに持たせてあるから私達は先に上がるわ。今から自由だから明日ロビーで落ち合いましょう」

 

 

『うーっす』

 

 

俺とワッカの声がはもる。さ、キマリ。料金先払いみたいだから、ちゃっちゃと払っちゃって。

 

「あれ?お客様?先ほどお連れの方と・・・・「さあワッカ!部屋行って風呂行こうぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

かぽーん・・・・

 

 

 

 

 

「いやー、良い湯だなオイ!」

 

「これぞ労働後の醍醐味っすね」

 

「なんだ、お前もさすがに今日は疲れたのか?」

 

「いやー、そんなつもりは無かったんだけど、風呂入ったら緊張の糸が切れちゃって」

 

俺はとろんとした目つきでワッカの方を向いた。そしたらガチムチの男の腰がそこにあって機嫌を損ねた。風呂の中で何故立つ。あ、パンダナ外し忘れたのね。

 

「そうか。いや、そうだよなぁ」

 

「どうしたん?」

 

「いや、な。お前も俺と同じ人間なんだなー、ってしみじみ」

 

「訳分かんね」

 

「お前が最初に島に来た日の夜、ユウナを祝う祭りがあっただろう」

 

「ああ、アレね」

 

「あの祭りはな、俺達にとって特別な物だったんだ。大召喚士ブラスカ様の娘、ユウナはあの席で初めて酒を飲んだ」

 

「それがどうしたのよ。大した事じゃない」

 

「大した事なのさ。小さな時からユウナといた俺達はユウナに酒を飲ませた事もなければ、あの男の三人組にも極力関わらせなかった。そのせいで事件は起きたんだ。もしかしたら責任は俺達にあるんじゃないか、って思う訳よ」

 

 

チャプ・・・

 

 

俺は、何かを混ぜているらしい白の湯を手で一度すくって落とす。

 

 

ワッカもルー姉さんも考えすぎだ、とは思わなかった。責任が親にあるケースってのは、大きくなった時でも十分存在する。「人に迷惑をかけるな」とか「お前にはできないよ」とか言われ続けて育った奴は基本的に根暗で行動力がなくなる。

 

親が子供の子供自身の「成功するイメージ」や「自分が一番前に出るイメージ」を思い描く事を阻害したのだ。

 

例えば体操でバク転ができる奴は、体を動かすイメージだけが頭の中を占めているに対して、できない奴は失敗して骨を折った時の痛みを想像している。そして、その思考は邪魔なのだ。

 

かなりざっくり言うとそういう事だ。親って言うのは決して子供を束縛したり、変に大人ぶった態度を取らすような事を示唆してははいけない。喜ぶべきポイント、そして何より「怒るべき瞬間」は親から学ぶ。怒りは情熱に変わる。

 

正しいポイントならば、親は子供の前で笑って、泣いて、怒って、ガキみたいに自分が楽しむ為に人に迷惑をかけてみる。やりすぎはアホに育てるが、そういう感情的で人間的な奴は意外と世渡りが上手いもんだ。

 

 

_____子供は親の真似をする生き物だから。

 

 

だから俺は、それについてはルー姉さんとワッカも悪いと思った。でもユウナもあの年ならそろそろその辺りの自分に気づき、もっと努力するようにしたら良いと思う。

 

 

「俺もガキだが、お前はユウナより大人でそして強い事は分かる。この二日でもう何回お前に助けられてるやら。だからつい比べちまって、そう思うんだよ」

 

「お前ユウナと同い年くらいなんだろ。幾つだ?」

 

「16」

 

「ユウナより二つも下じゃねえか・・・・。尚更凹むぜ。」

 

ワッカはそう言って顔を洗うように手を顔にやった。俺も記憶が正しければもうすぐ17になるはずだが、ユウナ様は18か。意外なようで案外納得できる年だ。おっぱい的に考えて。

 

「キーリカ島の被害を見て、それにワッカも煽られてるだけだよ。大丈夫だって・・・・って、あぁ。そういう事か。ルー姉さんも似たような事言ってのは」

 

「ルーも?」

 

____それ以上に、ユウナの事を妹みたいに思ってる。だから・・・・

 

 

結局・・・・その先の言葉をいつも濁らせてきたんだろうな。ワッカもルー姉さんも。

 

 

「やめ。この話止め。気にしすぎるとよくないよ」

 

 

「そういう訳にもいかねえだろ。ユウナはこれから召喚士としての旅をしなきゃならないんだ。なぁ、頼むよ。ユウナを信じてない訳じゃないんだが、このままじゃユウナは祈り子様の力を心に宿す事ができないかもしれないんだ」

 

ワッカはザブリとお湯の中を移動してきて、こっちに近寄ってきた、暑苦しい。

 

「頼むとか言われてもなぁ。俺にどうしろって言うんだ?」

 

「お前もユウナのガードになってくれ」

 

「はあ?」

 

ワッカは突然何を言い出すんだろう。今までの話題と全く関係なさそうな提案を持ちかけてきた。

 

「お前と出会って、ユウナは確実にお前の影響を受けている。お前が今日、医務室に行った時のユウナの表情を見て思ったんだ。俺達じゃ、こんな顔をユウナにさせる事はできないって。同世代のお前と自分を比べてユウナは成長しようとしているんだよ」

 

「まっっったく!訳が分かんないね!!なんで俺?こっちの世界に来てからの俺はブリッツのスターでも無いんだよ。価値がない」

 

「『こっちの世界?』」

 

「あ、いや、こっちの話。とにかく、ワッカの話は要領を得ないよ。俺が旅に着いていった所でユウナに悪影響を与えるだけだ。第一もっと強い敵とのバトルに生き残れる自信がない」

 

「お前にはバトルの才能がある!俺が保証がする!」

 

「そんな無茶苦茶な」

 

バトルの方はぶっちゃけ自信が着いてきた所だけど、俺はこれに手を染める気はなかった。

 

「悪影響なんて言葉、向こう見ずなお前らしくない。一体お前のどこに悪い所があるんだ?」

 

「はあああああ?????」

 

俺は俺の人生に稀に無い程のすっとんきょうな声を上げてしまった。どこが?どう考えても悪い所しかないでしょ俺は!ワッカは人を見る才能がなさ過ぎる。俺の事をどこかの聖人君子だとでも考えているようなら、サブイボが立ちまくりだ。

 

「もし、ルカに行ってお前の事を知っている奴がいなかったら、俺らと一緒に旅をしてさ。ついでにお前の故郷を探そうぜ。な?良い考えだろ?」

 

「ぜんっぜん」

 

「どうしてもか!?」

 

「どうしても!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「一体何なんだよ・・・もう。ワッカもルー姉さんも。俺はブリッツボールの選手でしかないじゃん。何を期待してるんだか・・・・」

 

「ユウナを・・・・守ってやってほしい」

 

「だからバトルは・・・」

 

「心だ。ユウナの重荷を少しでも・・・・。俺じゃ、駄目なんだ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

ワッカの表情は、暗く、真剣なものだった。

 

「なんだよ。召喚士の旅ってのはそんなにしんどい物なの?」

 

「俺らと、召喚士のユウナじゃ待っている未来が違う。俺らの比じゃないんだ」

 

「・・・・・・・」

 

あー、これは何か隠してる顔だ。ポーカーの時もそうだけどハッタリのできない奴だな。ワッカは。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

召喚士の旅。それが俺がどういうものかは知らない。だけど、ワッカの言う通り、ユウナは純粋すぎる。

 

大召喚士の娘に生まれ、人里離れた小さな村で綺麗な物しか見てこなかった農薬無しの純粋培養箱入り育ち娘。きっとそんな重荷も「私が背負わなきゃ、皆が悲しい思いをする」ってな感じで頑張って持とうとするんだろうな。

 

「・・・・・・ルー姉さんは何て言ってるの」

 

「まだ聞いてない」

 

「先にそっちでしょ・・・」

 

「悪い。明後日にはもうルカで、試合が始まると思うと今日しか・・・・」

 

「バカだな、ワッカは。俺は記憶が無いんだから、試合終わった後とか別にすぐにしないといけない事なんて無いのにさ」

 

「ああ、大馬鹿野郎さ・・・・」

 

ワッカは湯気でしなびた赤のトサカを更にしおらせて、真摯に頭を下げ続けた。

 

等価交換の成り立たないお涙頂戴の強引な取引。特にメリットもないそんな物に俺は情に流されて判断を間違う馬鹿じゃあない。だけど一応考えるだけは・・・考えとかないと。だから、俺は_____

 

「・・・・・・」

 

 

 

_________

 

 

 

「いくらで?」

 

「え?」

 

 

 

「無条件でOKとなると、とてもワッカの払いきれる金額じゃなくなるから、最安プラン。俺に有利な条件ドミノ倒しの取引と行こうか」

 

ワッカがぱぁっと顔を輝かせた。そういう顔もできるんじゃん。

 

「10万!!」

 

「まず条件を聞いてから!てか安すぎ!」

 

「まず、俺はガードにはならない。旅に着いていくだけ。確かベベル、だっけ?一番大きな都市。そこを目安に同行する。と言っても俺が途中で心変わりしたらいつでも抜けても良い。バトルもあまり手を出さない。俺に何させたいのか分からないけど、ユウナにあれこれしてくれ、って言うのも聞かないよ」

 

「ちょっ!シビアすぎ!」

 

「あーもう言い方変える。今までの関係とほとんど同じ!俺だって別にゴリゴリの契約の関係!みたいな絶対後々ぎくしゃくする関係になるつもりはないよ」

 

「なんだよ。それを早く言えよ」

 

ワッカは急に安心した表情を浮かべる。条件はまったく変わってないんだけどな・・・・言い方次第とはまさにこの事だ。

 

「最後に、ワッカのものは俺の物。俺の物は俺の物。そう叫んでくれたら、良いよ・・・」

 

「くっこの野郎!」

 

「さあ!」

 

「俺の物はお前のもの!お前の物はお前の物だ!」

 

「という事はルー姉さんは誰のもの!?はい!」

 

「お前のものです!!」

 

「よーし!よく言った!やればできるじゃん!ワッカ!!」

 

わっはっはっははは!もうどうにでもなれって言うんだ!そんなお気楽な声が夜空に響いた。

 

 

______

 

 

 

 

以上妄想だ。勘違いするなよ。

 

 

 

 

 

うん。男の友情が楽しめそうだ。だけど結局俺にメリットが無い。普通にベベルまで船一本で行けばいい。しかも俺がブリッツ選手になるまでのブランクが長くなる。その上ワッカなら「シンのコケラだ!ティーダ!行くぞ!」とか普通に言いそうだ。

 

あんな化け物の大物が次に出たら、戦う気は一切ない。今日だって水中でヒーヒー言いながら戦ったんだ。皆ぼろぼろだった場合、俺だけ戦わないで見てるだけとか、契約通りにはなんだかんだでできないだろう。

 

よって・・・・おことわりです!損得感情でしか動けない豚野郎でごめんね!!許せワッカ!

 

「ワッカ・・・・」

 

「ティーダ!分かってくれたか!?」

 

「やばい・・・・」

 

「は?」

 

 

「今、記憶を少し取り戻した」

 

 

「なに!?マジか!?」

 

「ああ、病気の母さんとそれを支える父さんの姿・・・・俺は帰らないといけないみたいだ」

 

俺の両親は既に昇天済みだ。ちなみにこんな綺麗な思い出は一切無い。

 

「親父と母親・・・・」

 

ワッカはショックを受けている!よし!もう一押し!

 

「妹もいた。金髪で目の綺麗な奴だ。年も近くてそれで、それで、俺は誕生日プレゼントを買いに街まで・・・・・・うっ頭が!!」

 

「大丈夫か!?無理に思い出さなくていい!ゆっくりでいいんだ」

 

「・・・・ああ、ワッカ。そうだな。ありがとう」

 

「ああ、俺もこんな話を振っちまって悪かった。旅には命がかかってるんだもんな・・・お前一人の体じゃないのに」

 

「いや、いいんだ。嬉しかったよ、誘ってくれて・・・」

 

「ああ。お前には助けられっぱなしなんだ。俺達で今度はお前もお前の家族もシンから守ってみせる」

 

「・・・・・・サンキュ」

 

にやり。パーフェクトだ。

 

ノリで妹も出してみた時の俺はアカデミーものだったぜ・・・。俺に妹がいたらそりゃあ可愛いに違いないが、俺はあんな良い兄貴ではないだろう。多分雑誌のエロいページとか朗読させてると思う。

 

まさに自分のマーベラスな演技力がモノを言ったぜ。才能に溢れすぎた自分は神が二物を与えた存在なんだと思ってチ●ンコが勃った。

 

「いいって。とにかく今は風呂を楽しもうぜ。ほれ。ふぃー」

 

「ふぅー・・・・・」

 

ちゃぷり、とモクモクと湯気を立たせる白湯に肩までたっぷりと漬からせて息を吐いた。雲一つない空にぽっかりと浮かんだ三日月が俺を優しく見守ってるな、と今日は思った。

 

 

シュっ・・・。

 

 

ん?何か頭にかすった?まあそんな事もある。

 

 

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「なあ、ワッカ。そろそろ酒、飲もうぜ」

 

「おお!そうだった!お前良いタイミングで気がつくなぁ!」

 

「ふふん。まあね」

 

しゅぽん!「よし来た」

 

「いただき!」

 

「あ、普通俺先だろ!」

 

やはりワッカとはこういう関係の方が心地良い。「あはは、上手い酒は争奪戦と昔から決まってんっすよ」暗い話題とか重い話題は苦手だし、キャラじゃない。俺はこうやってアホみたいに笑ってられればそれでいい。それでいいんだ。

 

シュッ。

 

・・・また頭に何かが・・・。まあいいや。

 

「なあ、なあ」

 

「うん?なに?」

 

「お前さ、ぶっちゃけた話ユウナの事どう思ってるのよ?」

 

「どうって?」

 

「可愛いだろ」

 

俺はワッカと一緒に少し下品な笑顔を浮かべた。いいね。こういう風呂の場では腹を割り合うのも作法の一つだ。こういう話ならある程度正直に話してもいいだろう。楽しいし。

 

「ぶっちゃけ、めっちゃ可愛い。あの顔にあのスタイルだろ?歯磨きしてる姿とか見ててクラクラする時があるよ」

 

主に横乳が素晴らしい。あの衣装は分かってる奴が作ったと俺は見ていた。

 

「そうだろ。そうだろ・・・・って、なんかリアルな所見てるな」

 

「純粋だし、気弱さの中に芯がある。物腰は上品だ。言葉使いとかも女らしい」

 

「あの喋り方の娘が俺のベッドの中にいたらと思うと、楽しみで仕方ないね」

 

「ほーう。割と突っ込んだ話をするな」

 

「こういう時は雄になった方が楽しいんだぜ。ワッカはどうなのさ。ほらルー姉さんの事、悪く思ってないんじゃない?」

 

「あいつは・・・・そんなんじゃない。俺にとってはアイツはそういう対象に見れないな。兄弟みたいなもんだ」

 

「そんな事言っちゃってー。あのおっぱいをコウ!そしてこう!できたら、せいやっ!ってな事も・・・」

 

「なに!そんな技が!!いや、俺はあの・・・ほら。宿の受付のあの子みたいな・・・」

 

「ほうほう!なるほど。ワッカさんはああいうのが好みと仰るのですか。なかなかマニアックな」

 

「やーめーれー」

 

「いやいや、ああいう子はああいう子なりの楽しみ方がありましてね・・・」

 

「ど、どんなだ・・・?」

 

 

シュッ。かすっ・・・

 

 

・・・・・ええ加減にさらせや!誰か近くで石で遊んでるだろ!?

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

ぽーん。ぽーん。

 

 

夜空に浮かぶ月の下、俺達の宿泊する宿の屋根の上、

 

ぶん。ぶん。

 

こっちに手を振ってる金髪の女がいる。それだけじゃない!

 

「(ルールー・・・)」

 

「(ユウナ。こういうのはね、知らんぷりしとけばバレないものなのよ)」

 

そんなような会話をしてると思われる二人が、部屋のベランダでお喋りしていた。

 

 

 

「・・・・・・」

 

「どうした?ティーダ」

 

「いや、何でも。」

 

だ、大丈夫。どちらもさっきまでの会話が届くような距離じゃないはずだ。

 

仮にユウナ様達が上を見てリュックを見つけたところで現段階で俺と関連づける事はできない。

 

なんとかなる。なんとかなるはずだ・・・・。

 

「おい、どうした?」

 

「いや、何でも。で、話の続きだけど・・・」

 

今はひたすら気づかないフリして、切り抜けよう・・・頑張れ俺!____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おそーい!一体何やってたのさー!まったく!」

 

「・・・・・・・・」

 

「よーやく会えたってのに私のこと宿に放り込んでは放置してくれちゃってさ!いい加減にしてよ、私メチャメチャお腹減ってるのに!」

 

「・・・・・・・」

 

「誰だか知らないおじさんと、自分だけは悠々とお風呂なんか入ったりして。すっごく腹が立ったんだから!」

 

「なんか言うこと無いの!?」

 

「ごめんな」

 

「今更謝ったってゆーるーさーなーいー!」

 

「ほんとうにごめん。悪かったよ。」

 

「だーめっ!」

 

「こっちにも事情があったんだって」

 

「私には関係なーい」

 

「いや、本当に」

 

「ぶー、ぶー!」

 

・・・・・うざっ☆やってられっか!

 

「黙れ小娘!」がしっ

 

「(むー!むー!)」

 

ベッドに座ってポンポコと跳ねるリュックの口元を抑えにかかる。

 

「もうこの件については話は終わりだ。もっと建設的な話をしようぜ。これからのお互いの行動予定とかな」

 

「(むー!)」

 

「騒ぐなって頼むから。ばれたらどう責任取ってくれるつもりだ。言い訳考えてねえんだぞ」

 

「(むー・・・)」

 

「よし」ぱっ「ぷは」

 

リュックが大きく口を開いて空気を肺に取り込んでいる。チクショウ手が痛い。こいつ調子に乗って最後に噛みつきやがった。

 

「もう!相変わらず乱暴なんだから!可愛いレディーに対してそれはないよ!」

 

「はいはいかわいいねー。あ、歯形ついちまってる・・・・」

 

「むぅ・・・・・なんだよその適当な感じ・・・」

 

リュックはシュンとなったような調子を見せると、再びベッドに腰を下ろした。ちょっと強引すぎた気もするが結果オーライだ。

 

「ふぅ。じゃあ話を始めるか。リュックはこれからどうするつもりだ」

 

「・・・・私はルカに行くつもり。この辺にアルベド族の仲間はいないから、連絡の取りようがないよ」

 

「ルカに行けば連絡が取れるのか?」

 

「大きな街だからね。通信機を持った仲間をきっと見つかるよ」

 

「なるほどな。便利なもんだ」

 

「ティ・・・・・ティーダはどうすんのさ?陸に上がったは良いけど・・・その、記憶戻ってないんでしょ?」

 

リュックは妙に焦ったような面持ちでチラチラと俺の顔を見上げる。本人は気づいてないかもしれないが、不安そうで、ほっとけない顔をしていた。

 

さすがにいつまでも一人じゃ心細いんだろうな。そう思って俺は、俺に似合わないだろう微笑みを浮かべて答えた。

 

「俺?俺の行き先もルカ。・・・・・またしばらく一緒だなリュック。よろしく」

 

リュックの顔に満足そうな安心したような表情がパアァと広がっていく。

 

「そうなの!?・・・あ、いや、そうなんだー。へー。ふーん。まぁご飯奢ってくれたら、リュックちゃんも別に、私を放置した件はチャラにして、これからもよろしくしてあげない事ないよ?」

 

「このタイミングで普通強請るかなー、お前さんは」

 

「だってお金無いんだよー!」

 

「考え無しで海に飛び込んだりするからだよバーカ。天罰だ、天罰」

 

「ムキー!」

 

「自業自得。結局俺が助ける羽目になっちまったんだから、これからは人の心配より自分の心配してろよ」

 

本当に、マジで。めちゃくちゃ憂鬱になったんだからな。そんな事言うような顔をして、俺はリュックに入念に脅しを少しかけて・・・・・すぐに気を取り直してやる事にしてやった。

 

「つー事で、行くか」

 

「へ?どこに?」

 

「飯屋。どっか一つ位空いてるだろ」

 

また泣きそうな顔されたら、たまったもんじゃないからな。

 

「う。うん!」

 

「言っとくけど貸しだからな」

 

「あー、あー、聞こえない」

 

「てめっ。体で払わせるぞ」

 

「うわわっ。変態。や、やっぱりそういう目で私の事見てたんだ!」

 

「もう、お前に対するイケメンサービス期間は終了してるんだよ。これから俺に優しくされると思うなよ。ほら、行くぞ」

 

「そっちこそ!船降りたんだからもう私も優しくしないよーだ!」

 

 

 

 

ガチャリ。キィィィ・・・・・

 

 

 

 

____ん?なんかドアが・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

沈黙が、三人。

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・えーと、誰、なのかな?」

 

 

口火を切ったのはユウナ様。それに対して俺は____

 

「ゆ、ユウナ様。こちらは、い、妹のリュックでござい「えっ!ユウナ!?」

 

「え?え?」

 

「あ、いやっ、もうユウナ・・・様なんだよね」

 

「・・・・・・・えっと」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

俺の言葉を火を噴く勢いで遮ったリュックはそう言うと、場違いにも何か考え込むように黙り込んでしまった。もしかして二人は知り合いか?いや、違うだろ。ユウナ様はリュックの事知らないっぽいし。でもリュックの様子は・・・。

 

 

一体何がどうなってる?俺の混乱が輪をかけて広がっていこうとした瞬間。

 

 

 

 

「リューック!!gyrんすfgsあg!!」

 

 

 

 

そんな、更に頭の痛くなりそうな、これまただでさえややこしい状況を更に面倒そうなモノに変えてくれそうなな声が近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。とにかく色んなモノを鮮やかにスルーしつつ翌日に話は移る。・・・・移るんだよ!

 

今は火がごうごうと燃えてるらしい寺院の、「外」だ。俺はガードじゃないから、お留守番ってな訳だ。

 

だから現在のメンバーはリュック、アニキ。俺。というアルベド同盟トリオだ。

 

とにかく今を作り出す昨日、今日から作られる俺達の未来についての話をしよう。いい加減俺も状況を整理しとかないと今後の身の振り方に迷いがでる。

 

 

昨日、俺がリュックと部屋を出た所で遭遇したユウナ様とルー姉さんは俺に説明を要求する視線を送ってきた。しかし、俺も言い訳は考えていない。リュック達アルベド族に助けられた話はせずに、俺は旅の一行にはビサイドに来る前の記憶が無いという設定で話を進めていたのだ。要は嘘がバレざるを得ない状況、いわゆるピンチだった。

 

そんな崖っぷちの状況に乱入してきたのはリュックの兄貴であるアニキだ。謎の言葉を発しながら突進をかましてくるモヒカンに周囲は騒然。しばし収集がつかなかった。これを機に一端戦線を離脱しようと考えたがルー姉さんがそれを許さない。

 

俺はこの場を収集せざるをえなかった。とりあえず俺はリュックとユウナの関係について言及する事から話を始める事で、ルー姉さんの意識の矛先を変える事に成功する。

 

なんとユウナとリュックは従兄弟同士だ、と言うのだ。衝撃の事実が明かされ、しばし話はプライベートなモノへと移行するためにユウナ、リュック、ルー姉さんの三人は少し俺から離れた場所で相談を始める。

 

俺はこの時の会話を察することはできなかった。それが俺の混乱に拍車をかける事になったのだが、とにかく状況は好転したらしい。リュックもアニキもユウナ様とルー姉さんに存在を認められ、ルカまでの同行を許される事になったようなのだ。

 

なんだ、アルベド族というのはそこまで言うほど嫌われていないんじゃないか、と思ったが、この話はワッカにはしない方がいいとのお達しが来た。

 

どうやら一筋縄にはいかないらしい。しかし、アニキはアルベド語しか喋れないはずだ。そんな無茶は「オレ・・・スコシナラジャベレル・・」・・・・それなら俺が船にいる時から最初からそう言えや!!てなもんだ。

 

まあとにかくルカまでの一時同行メンバーという事でワッカは意外にも気前よく新規参入を認めてくれたらしく、今日の朝は割かし順調だった。アニキも基本的に喋らない事が功を制したようだ。

 

しかし、俺はこれからの旅路に一抹の不安を抱え始めていた。何故かとははっきり言い難い。まだ確信に至ってる訳じゃないのだが・・・・

 

 

「ユウナ・・・・アァユウナ・・・心配ダナ・・・大丈夫カナ・・・」

 

 

このモヒカンの挙動がなにやらおかしいのである。この異変が何か災いを呼び寄せなければいいんだが。あ、ちなみにリュックは案外いつも通りだ。問題なし。

 

と、まぁ今俺が分かってるのはこんな所だ。考えてみたが、まぁ俺のやる事に変わりはないみたいで結局なんて事なかったのが現状だ。ルカに行って試合に出る。ついでにその試合を後でスフィアで見ておけば契約するチームも決まる事だろう。

 

まぁ、せっかくだから選手として登録する前に、スピラで一番大きな街に腰をおろしてもいい。俺は都会ッ子だから街は活気のある方が落ち着くのだ。

 

まあ、とにかく何とかなりそうだ。どうせ明日にはルカに付く。・・・バイバイは、もうそろそろだ。

 

「と、そう思うんだが・・・・・」

 

俺は昨日あまり眠れなかったのか、隣で寝息を立てているリュックの奥。寺院の入り口に視線を向けた。

 

 

「いくら何でも・・・・遅すぎねぇ?」

 

 

空はもう____暗くなりだしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やんでれ×ユウナッ!

 

 

そのはち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウナが召喚士の間に入ってからもう何時間たったんだろうか?

 

俺はパンダナの下にじっとりと書いた汗をぬぐって、意識を持ち直した。

 

熱い。至る所に炎の焚かれたこの寺院は、ただその場に留まっているだけで体力を奪っていく。さすがのキマリも階段に腰を下ろし、若干荒い呼吸を吐いている位だ。ルーに至っては精神力だけで持たせているようなものだ。

 

俺達は召喚士だけが入れる祈り子様の間の中がどうなっているのか知らない。もしかしたらここより熱いのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 

俺達はユウナに声をかけるべきか、そうしないべきか迷っていた。もし中でユウナが熱中症にでもなっていたら?どうしてもそんな事を考えてしまう。

 

しかし、ガードが祈り子様の間に入った召喚士に声を掛ける事は禁止されている上に、ユウナの集中を邪魔してしまうかもしれない。そう考えると、俺もルーも手の施しようがなかった。

 

一体、外はどうなってるんだろうな?今はもう夜なのか?それとも普通に昼を過ぎた位なんだろうか?もう時間の感覚は狂っていた。

 

「頼むぜ・・・ユウナ」

 

だから、ただそう祈るばかりだ。そう思ってた時、奴の声が聞こえた。

 

 

「・・・・・・ワッカ。まだユウナ様は祈ってるのか?」

 

 

「バッカヤロウ。お前は立ち入り禁止だと言ったじゃねえか・・・・」

 

「バレないように忍び込んだから大丈夫だって。それよりワッカ、水」

 

ポイッ

 

「そぉい!!」ズシャァ!

 

「な、ナイスキャッチ・・・さすがに目の色変わったね」

 

「んっ・・・・んっ・・・んっ・・・」

 

「聞いちゃいないか。ほら、ルー姉さんも」

 

「アレ?なんであんたがここに・・・・ダメよ」

 

水をとにかく飲み干した俺は、ティーダがもう暑さで一言も喋らなくなっていたルーの目の前で手を振っていた。

 

「・・本格的にやばそうだな・・・・・」

 

ティーダはそう呟いて、ルーにゆっくり水を飲ませる。ルーはもうなされるがままになっていた。

 

俺はブリッツの練習で慣れていたが、やはりルーには相当厳しかったみたいだ。表情だけはいつもと同じだから俺も気づかなかった。本当は俺がちゃんと皆の状況を見るべきだったのに。

 

「キマリは・・・・わるい。もう無いんだ。辛かったら戻ってもいいけど、そんな事言っちゃう玉じゃなさそうだよなぁ」

 

「グルルル・・・・」

 

「うわっ。さっすがー」

 

キマリとティーダの間でコミュニケーションが成立していた。滅多に喋らないキマリだが、喋る必要のある人間だったら喋る。ティーダは認められたのだろう。

 

「問題は・・・・・ユウナか」

 

ティーダは祈り子様の間をじっと見つめてから、ルーを一度見て、そして俺を見た。

 

「どうするの?もう夜だけど」

 

判断は、俺に任されたみたいだった。今のルーに思考をしろというのは確かに無茶な話だ。ここは俺が考えるしかない。だけど

 

「お前はどう思うんだ?」

 

「さぁ。俺は召喚士の平均お祈り時間のアベレージスコアとか知らないんだし。さじ加減が分からないよ」

 

そんな人任せな言葉を吐いてしまっていた。俺にはどうするもこうするも待つしかない、と考えていたのだ。が、ティーダはもう外は夜だと言う。という事はここに入ってからもう十時間近くになるんだろう。さすがにこれは駄目かもしれない。それは、分かっている。なんだけど、

 

「・・・・・・・」

 

俺には、最後の一言が出てこない。ここでの召喚獣をユウナに諦めろ、そんな風に言わなきゃならないのか?この俺が?まさか、ありえない。ユウナは大召喚士ブラスカ様の娘で、召喚士としての最高の血を引いているんだ。失敗なんてありえない。もう少し待てばきっと出てくるはずだ。

 

そんな思いを振り切れなくて、俺は言葉が出なかった。

 

「いいの?ユウナ、中でどうなってるか、分かんないんだよ?」

 

「大丈夫だ、ユウナなら、きっと・・・」

 

「そういう時間をもうとっくに超してると思うんだけど、その辺どうなの?中は冷房でも効いてる訳でもないんでしょ。今は召喚うんぬんの話じゃなくてもっとシビアでリアルな話。命の話を俺はしているの。その上で、それでもいいのかって聞いてるんだけど、聞こえなかった?」

 

「・・・・・・・」

 

「はぁ?何その面。別に俺はいいよ。それがガードとしての判断なら構わないよ。俺はあんた達の旅のおまけだし。俺がここで行動する権利は無い。それでもさ、今助けないとヤバイんじゃね?とか思ってて尚このまま、意見言うなり、質問するなり、口も動かさないでいられる程倫理観に欠如していてはいないんだけど」

 

「・・・・・・うるせぇな」

 

分かってる。俺も分かってるんだ。だけど、今までのユウナの努力や覚悟を見てきた俺にはその一言が出てこないんだよ!

 

「あっそう。そうですか。ここで人に八つ当たりするのかよ。今の状況を収集できるのは自分だけだって分かっていながら、そういう態度しか取れないのかよ!そうかい!どうせ俺は召喚士の役目がどうだとか全然分からないよ!くそっ!」

 

ティーダは、アイツの口から本当に出ているのかと不安になるほど荒い口調で俺を罵倒すると、祈り子様の間に向かう階段にゆっくりと昇りだした。

 

「ぐるるるる・・・・・」

 

キマリはティーダを威嚇しながら槍を扉の前に掲げた。しかしキマリはそれだけしか行わなかった。斬りかかる様な加配は無く、今も腰を下ろしたままだった。自分の毛皮で暑さで参ってるのかもしれないが、キマリももしかしたら迷っているのかもしれない。そう感じた。

 

「どいつもこいつも・・・・。キマリ。いいよ、別にここを開けてどうこうしようなんて考えてないから」

 

キマリはティーダの言葉を聞き、しばらくあいつの顔を見つめると、ゆっくり槍をおろした。

 

 

「ユウナ様。聞こえるか?」

 

そしてあいつは話をし始めた。

 

「聞こえたら杖で二回地面に叩いてくれ」

 

しばらくの間があった後、コンコン、と小さかったが確かに地面がなる。その音を聞いてほっとしている俺達がいた。

 

「いけそうか?」

 

こんこん。

 

「違うよ。「まだ体は持ちそうななのか?」っていう意味じゃない。言い方を変えるよ。契約はできそうなの?」

 

・・・・・・・・。

 

「自信がない?」

 

・・・・・こんこん。

 

「じゃあ、止める気はない?今日じゃなくたって明日だっていいじゃん」

 

・・・・・・・・。

 

「・・・・・今日じゃなきゃいけないのか。召喚士ってのはいつも一発勝負なんだな」

 

・・・・・・・・こんこん。

 

「辛い?」

 

・・・・・・・・・・・。

 

「はっ。強情だな。俺から見てもうデッドラインすれすれの限界っぽいんだけど、まだ続けるんだな?」

 

こんこん。

 

「もっと強く。今自分にできる一番強い力で地面を叩いてみて」

 

・・・こんっ!こんっ!どさっ・・・・

 

「ティーダ!!」

 

今何かが倒れ込むような音が!!

 

「黙ってろって。あんたは待つって言ったんだろ」

 

ティーダは冷ややかな、それでいて燃えるような怒りの炎を瞳にのせて俺を睨んだ。

 

「・・・・・・いけるな?」

 

こんこん。

 

「なら、時々俺の声に耳を傾けていてくれ。まぁ俺は今から特に意味も無い話や質問をするつもりだけど。」

 

こんこん。

 

「もう、返事をしなくてもいいよ」

 

・・・・・・・。

 

「俺もさ、こういう皆の期待、プレッシャーがばりばりに掛かる時ってのは職業柄よくあるんだよ。絶対シュート決めろっていう目という目が背中に張り付いてるっていうかさ」

 

・・・・・・・・

 

「ゴール間際でボール持った時の仲間って、超おっかねぇの。気合い通りこして殺気っていう感じ」

 

・・・・・・。

 

「良いパスが通った時、ドリブルでDFを抜いた時、フリーキックの時。ありとあらゆる時に観衆の注目も含めたゲームの全ての流れが、俺のシュートを打つ瞬間に凝縮されて、弾ける。それは、自分で言うのもなんだけど、普通の思考じゃ重すぎてやってられない訳よ」

 

・・・・・・。

 

「だからさ、そういう時の俺って大抵すっげーアホな事考えてやりすごすんだよ。今の俺輝いてるー、とか、ボールをクソ親父の顔に見立ててみるとか」

 

・・・・・・・(ふふっ)

 

「皆は知らないだろうなー。俺がシュート打つ瞬間一体どんな事考えているか、なんて。だって、新聞に載ってる俺ってそんな事何も考えてないような真顔なんだぜ?笑えるっつーか、なんつーか」

 

・・・・・・・

 

「とにかくさ。要するにはリラックスする事なんだよ。恐怖感ってのは筋肉を固めてさ、ずばっとしたシュートを打てなくしようとするんだよ。不思議だよな。いつもならできる事なのに。人の視線って人間を殺せるんじゃないか、ってたまに本当に思うよ」

 

・・・・・・・・。

 

「俺がその場で何を考えていようがシュートさえ入れば構わない。ピッチってのはそういう意味でも自由なんだ。他人の期待とかそういうのを感じてるより、今夜の献立とか考えてた方が入っちゃう。嘘だ!なんて思うかもしれないけど、きっと、もう、体が覚えちゃってるんだよ。思考なんて必要ない位に」

 

・・・・・・・。

 

「俺がボールを蹴り続けた時間。それだけは俺を裏切らない。だから信じるんだ。「たとえ俺が何考えてようが、俺の体はボールを目の前にしたら言うこと聞かない」ってさ」

 

・・・・・・・・。

 

「ユウナも同じ・・・・なのかもしれないよ?」

 

・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・じゃあ、頑張って。ルー姉さんやワッカの事は任せておいて。俺がまた水持ってくるよ」

 

 

・・・・・・・・・。

 

 

「ファイト。「ユウナ」」

 

 

 

 

ティーダはそう言って、出て行った。水を。取りに行ってくれたのだろう。

 

 

「かなわねぇな・・・・アイツには」

 

 

そう天を仰いでだいたい十分くらい。

 

 

 

ゴゴゴゴオオオォォォ・・・・・・

 

 

そんな音とともに、祈り子様の扉が_____開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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