奇・・ドラゴンクエスト1の続き   作:ケット

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ロト一族の学校生活

 アロンドが竜王を倒し、アレフガルドを覆った結界が解けて行き来できるようになった。

 そして、瓜生の参加があって、〈ロトの子孫〉と〈ロトの民〉が混ざって教育されるようになった。元々どちらも教育水準は高かったが、それが近代学校に近い形にされていったのだ。

 その、ある一日を、比較的平凡な〈ロトの子孫〉の女子ケエラと、〈ロトの民〉の男子ダンカの目から描いてみよう。どちらも11歳だ。ケエラはジパングの血が濃く肌が白い、黒髪をポニーテールにしている。ダンカは浅黒い東南アジア風で、背が低いが筋肉質だ。

 

 ケエラが目覚めたのは、サラカエルとムツキ夫婦が担当している開拓村、いくつかある天幕内のハンモックだった。

 起きてすぐ、まずミカンを搾るのが彼女の役目。

〈ロトの子孫〉は、さまざまなことを覚えるため、子を両親とは別の場に一年ぐらい預けることが多い。ケエラと、サラカエルとムツキとの系図は遠い。また下のハンモックで寝ている、姉とされるラファエラも同じ境遇で、ケエラの姉妹ではない。

 夫婦の本当の子である、幼いオサフネが泣きだすが、ラファエラはまだ寝ている。母代わりのムツキは最近、しばしばアロンドつきの仕事で……村人には行商と言っている……出かける。困って、ラファエラの胸をはだけて吸わせようとしたとき、父代わりのサラカエルがオサフネを抱きあげた。

「まだ出ない。それに、泣いているのはおしめだよ。ラファエラ、それはお前の仕事だろう」とサラカエルがザメハを唱え、ラファエラを起こした。

「ケエラ」

「おはようございます」とケエラが、ジパング系の子孫らしく礼をして、台所に向かった。

 隣村にできた登り窯で焼かれた陶器のカップにジュースを絞る。皮も無駄にはしない、ミカンの皮は干すといい薬だし、生で搾って得られる精油は万能清掃剤だ。

 朝はまず、かんきつ類のジュースと小さなレバーソーセージで、必要なビタミンとミネラルを摂っておく。

 皆それを食べる。レバー嫌いのラファエラは噛まずに飲んだ。

 それから、主に雑用と薪取りをやっている家の、乳がたくさん出る奥さんが打ってくれた、おろしジャガイモとソバの麺をゆでて、キーモアがらで出汁をとった醤油仕立ての汁に入れる。

 モヤシと、子供たちが摘んだ二種類の野草と柿の若葉をさっとゆで、アブラマツの実も入れて白和えにする。それにキーモアの拳大の卵を二つ炒って家族全員で分け、納豆とたくあん漬けを食べて朝食を済ませる。

 ロト一族はすべて、朝食は家族の団らんとする。

 そして作業着に着替えて家事。まだ家は一つできかけがあるだけで、村みんな天幕暮らしなので、家事のかなりの部分は村全体の共同作業のようでもある。また、天幕を移せば掃除は不要だったりする。

 洗濯は普通なら大変な仕事だが、水車につながった樽に、ボサダという灌木の実をつぶして湯と入れて回せば泡が出て汚れが落ちる。最近は油や石鹸の交易も復活してきているが、石鹸は風呂用だ。

 その間にソロバンを取り出して計算し、紙に別紙の字を書き写して宿題もやっておく。時々樽の回転方向を切り替える。

 ジジに特別な教育を受けているラファエラは、必死でダンスの練習をしていた。ケエラはそれがうらやましくてならず、いつも真似をしている。

 それから少し、村の子達とも協力して草の葉や土を集め、使わなかった樹皮や蔓も使って、使い捨てトイレにする籠をざっと編んで土を塗り、ずらして重ね乾燥させておく。

 失敗して叱られるのが辛いが、彼女はどうも手が不器用だ。

 それをからかって、無理に抱きつこうとする、二つほど上で図体だけ大きい鍛冶屋の息子に、指関節をとり顔を鋭く払って出足を刈り潰し肩関節をきめる。母代わりのムツキ、〈ロトの子孫〉屈指の武闘家がいるときは、彼女から学んでいる。

「いいかげんこりなよ」

 ラファエラの咎める目に、わかってるよ、と目を返す。〈ロトの子孫〉の正体を知られてはならない。

 そしてトイレを済ませて手をそのために移植した薬草でぬぐう。

 家事が一段落すると濡れた布で軽く体をぬぐい、ソバ入り餅に味噌を塗って焼いたのと、アブラマツの実、干柿、竹筒に入れた湯冷ましを持たされ、森に出かける……この兄弟姉妹が、毎日のように森に出かけるのは、もう誰も疑問に思わない。

 服装は、樹皮から取れる繊維を用いた動きやすく丈夫な、裾がゆったりしたひざ下までのズボンに、柔道着のような袖の長い服。

 帯は二重で、腹巻のように覆う幅広い帯はほどくと広い布になり、雨をしのいだりくるまって寝たりできる。その上に体重も支えられるロープをかなりの長さ巻いている。皮と厚布でできた丈夫な編み上げブーツが膝までしっかり足を固定し、頭には厚革の帽子。長い手ぬぐいも必ず持つ。常在戦場、いつそのまま旅立てと言われても応じられる服装だ。

 下着は常に洗いたてで清潔だ。

 ふっと森の、茂みに隠れたら、もう全速。道なき道、木の枝から枝、岩の隙間をサルのように、人間離れした速度で走り、隠された広場に走り出るとラファエラの手を握り、皆でルーラを唱える。

 

 ダンカが目覚めたのは、ペルポイ半島の先にある、かつては鬼ヶ島と言われた隔離・流刑の島だ。

 枕にしていた、ペットのスライムベスを軽く叩いて起こす。〈ロトの民〉は病人だった頃から、人を襲わない魔物と共存している。

 そして家族と血のように紅く酸っぱい、ビタミンC含有量も高い潅木の実と、つる性ヤシの甘い樹液を混ぜたジュースを飲み、レバーソーセージを食べる。それで朝の栄養を摂るのはロト一族共通。

 魚醤をつけて焼いた山芋のような芋と野菜をかじり、瓜生由来のキャッサバ発酵ペーストに焼いた小魚をくるんで食べ、馬乳酒を飲み、最後に熱い茶を飲む。

 体が不自由な兄のマロルに、すりつぶした芋とジュースを注意して飲ませてやり、下の世話をするのもダンカの役割だ。

 それから家族で家事をすませ、残飯やゴミを分けて堆肥に混ぜたりスライムのえさにしたりして、昼食となる干し芋と塩魚に革で覆ったガラス瓶に入ったアブラヤシの油・湯冷ましを受け取り、家庭菜園と竜馬の手入れをした。

 馬の世話は大変な仕事だ。特に、体が小さいダンカにとって、巨大すぎる竜馬は。だが、やればやるほど応えてくれるので、彼はその仕事が大好きだ。

 広い果樹の下を馬で駆け、それぞれの木で害虫を食べている人を襲わない魔物とコミュニケーションをとる。

 それから、子供たちが馬に乗ったまま集まり、朝の訓練を始める。

 素手の技の基礎だけ、しっかりと練習する。その動きは剣技にも共通する。

 そして全力で馬を走らせ、全員が一糸乱れぬ集団となる。リーダーの号令、馬上から投槍棒で槍を、集団で的に飛ばす。馬の上から、柄の長い剣に全体重を乗せて的となる吊るした粘土塊を断ち切る。

 巨大な盾を両手で持つ二人と、長い槍を持つ二人の四人が先頭で突進し、矢の雨を突破しファランクスの長槍を払いのけ、後続が一気に押し破る訓練。

 人馬一体、馬群一体。それでしばらく駆け回り、戦っていれば汗だくになり、全身がフラフラになるほど疲れる。

 その汗で垢を落とし、水に飛び込んで全身を洗い、清潔な下着と服に着替える。その時が朝、いちばん心地いい。〈ロトの民〉はクズに似たつる植物の繊維、大灯台の島で見つけた竹綿という木綿のような繊維、家畜の毛糸や皮革を使い分け、乗馬向きの革ズボンとブーツを愛用する。上は毛糸のシャツだ。

 それから宿題などを確認し、子供たちが集まった、そこが学校になる。

 ダンカは兄のマロルも、近所の子と二人で担架に乗せて連れてくる。

 いくつかの特殊な木や石で飾った地面に、ルーラの光が集まり、よそから来る少年少女も出現する。次々と。

 

 竜王が暴れる以前は、〈ロトの子孫〉と〈ロトの民〉は、互いのところを訪れて学校としていた。竜王が暴れていた頃は連絡不能だったが、最近やっと今までどおりに戻った。常に近すぎず遠すぎず、丁寧に関係を調整していた。

〈ロトの子孫〉と〈ロトの民〉の合同授業だと、どうしても魔法使い率が高く怪力の持ち主の多い〈ロトの子孫〉が優越感を持ってしまう。まあ、〈ロトの民〉もカンダタの娘であるシシュンが子を産んでから、かなり魔法使いは増えている。

 そして〈ロトの民〉自体も、特殊な血筋があったのか、アレフガルドの一般人に比べても魔法剣との相性がよく、魔力を使える鍛冶も多い。

 

 病人が由来の〈ロトの民〉は何よりも差別を嫌う。だから学校が求める激しい運動ができない、心身に障害がある子も、学校の中にある程度混ぜつつ、その子にできることを覚えさせて包摂する。

 マロルは生来足が動かず、手もごく弱いし口もうまくきけないが、魔力がきわめて強くわずかに動く手だけで、皮革や鋼材に魔力をかけることができる。計算もできる。

 だから彼も、ちゃんと学校に参加し皆に世話されている。他にもさまざまな障害児が共に学んでいる。

 

 ひときわ美しい、勇者ロトことミカエラとよく似たラファエラがルーラで出現し、光の粒を振り払う。思わず皆がほうっとして、女の子につねられる男の子もいる。ラファエラはすぐ、一人でルーラを唱え大灯台の島に行く。

 学校が始まる、今日教えてくれる大人が集まる。およそ朝十時ごろから、午後三時ごろまでは合同で教育。

 そして、まず全員で礼をして歌を斉唱し、一通り素手武術と剣を流す。四十八式太極拳と太極剣をやるようなものだ。

 その一つ、『大球を抱え隣に手渡す』形をしたとき、ダンカの手が突然光った。

「そ、それ」ケエラが叫び、ダンカが驚いたのを、鋭い叱声に二人びくっと飛び上がる。

「やめ!全員自然体に立て、目を閉じ深呼吸!最初から、集中!」と大人たちの厳しい声に、生徒全員動揺しつつ背筋を正し、再び最初から恐ろしく体力を使う動作を繰り返す。

 憎悪と言っていい目でケエラはダンカをにらんでいた。それに困っているダンカの手からは、先ほどの動きでは光は出なかったが、別の『大股に跳び、馬に乗るように着地して大槍を突く』動きで拳から光が迸った。

 ケエラは今度は叫ばなかったが、その目にはもはや殺意が宿っていた。

 それから連絡事項をいくつか確認し、「宿題は?」と確認する。瓜生の故郷とは違い、校長先生の話とかはそれほどない。ジパングで偽ヒミコに家族を生贄にされたり、サマンオサで偽王の暴虐に苦しんだりした人々の子孫である〈ロトの子孫〉は生贄や圧制を嫌うので、権威主義や無駄な儀式は嫌われる。

 やった子は提出して集まり、答えあわせをしてから、一時間遊んでいい。やっていない子は、その場で宿題をやらされる。

 学校の授業は、読み書きソロバン、魔法、武術、医学、歌舞音曲、農、土木、航海など多様だ。魔法の素質がない子は余計に数学や医学を学ぶ。卒業までに、あらゆる仕事を少しずつ経験させ、戦力としても一人前にする。

 ダンカは昨日、分数の割り算と月齢計算、日本語の漢字が半分しかできておらず、遊ぶクラスメートをちらちら見ながら宿題に取り組んでいた。

 つい、目がダンスを真似ているケエラに行ってしまうのを抑えて、別の〈ロトの民〉の女の子を見ようとする。

 子供たちは長縄跳びをしたり、最近はサッカーも好まれる。テパの南にゴム園があるので、球技もできる。

 高い、模擬マストによじのぼって遊ぶ子もいる。落ちたら魔法使いである教師がトベルーラで助け、厳しく言う。

 囲碁や将棋も流行っている。

 その、朝の一時間が終わったら、全員で四十分ほど全力で走るか泳ぐ。最後の十分はマヌーサの変形で、猛獣から逃げるレベルの必死に、心を操られてだ。怪力の素質がある者は重い鎧というおまけもつく。

 

 肉体的に疲れきった状態で、授業が始まる。

 ソロバンは全員で大量の計算をする。意味のない計算練習はしない、三角関数表と対数表、円周率や自然対数の底などを、全員で進めているのだ。一桁ずつ、繰り返し検算しながら。数表は膨大な人数が少しずつ計算し、少しずつ進めていく、社会の大切な共有財産でもあった……瓜生の故郷では、コンピューターが発達するまでは。

 また、測量や土木、天文観測で実際に出る問題を持ってきて、全員で解くこともある。それも膨大な計算量になるので、結果的に計算練習になる。

 読み書き、日本語と、この〈下の世界〉で使われる共通語を両方、主に文献を書き写すことで学ぶ。

 また、下書きされた石版の字を彫り削って、印刷の仕事を助けることでも言葉は学ばされる。

 自分達で詩を作り、歌うことも多い。

 全般的に、実践を重視する。現実に大人がやっている仕事を見させ、手伝わせる。たとえば鉱山では石を砕いたり、土木工事で穴を掘り土を運んだり、農では水路を掘ったり、船ではボートを漕がせたり、木を運んだり植えたりと、実際に体を使わせることで体育も兼ねるようにしているし、実際に体力を提供する労働力としても役に立っている。

 ただし理論的なこと、計算も、それこそ子供たち自身に小さい田畑を作らせたり、測量し計算し、計画してできるように教えていく。

 ロト一族が何より重視するのは、子の教育だ。そのため、何より子の、学ぶことのモチベーションを高くする。魔法も、すべてよい世界のための手段だ。

 

 今日のケエラとダンカたちはみんなでの体育が終わってから、ソロバン・歌舞の後、水田を耕す実習をした。ちょうど二期作の代掻きで人手が必要だった。

 つい、ダンカたち男子は泥をケエラにぶつけて、ものすごく嫌われて自己嫌悪し、大人に「まだ体力が余ってるんだな」と怒られ大量の泥を上の棚田に運び上げる、とんでもなく体力を絞りつくす仕事をさせられた。

 子の悪戯は体力が余っているから、なら体力が尽きるまで体を動かせ、がロト一族の基本教育方針である。

 終わるとき、先生は皆に「さて、泥を運び上げるのは大変だ。どうすれば楽になるかみんな考えてみろ。ウリエルの世界は、工夫の積み重ねであれほどすごい医学や技術ができたんだぞ」と、みんな耳にたこができることを言った。

 だが、ダンカたち、泥を運んだ者は真剣に考え始めた。実感を持って大変だった。

 

 昼食は授業の合間に、それぞれ持っている食べ物を思い思いに食べる。分け合う者も多い。ケエラが持ってきている弁当はあまりおいしくないので、彼女はガライの町から来ている親友にたかっている。

〈ロトの子孫〉〈ロトの民〉で固まるな、混じれ、と言われているが、それはなかなか難しい。

 ただし、正午の茶は全員で姿勢を正して飲み、配られる軽食を食べる。

 

 授業が終わってから、ダンカは教師たちに呼び出された。

「もういちど、徒手武術を一通りやってみなさい。深呼吸してから、何も考えずに」

 疲れきっていたダンカは、光らせようとか考える余裕もなく、倒れそうになりながらやる。

 そのいくつもの動きに、光がかすかな螺旋の軌跡を描くのを、教師達は見ていた。

 そして動きが終わると、突然拍手が響き、きえさりそうの効果が解けて一人の、優雅な黒髪の女性の姿が出現する。

〈ロトの子孫〉屈指の武闘家であるムツキだ。

「え」

 ダンカは衝撃に口もきけなかった。

「生粋の〈ロトの民〉には少ないはずなのにね」と、ムツキが笑いかける。

「ええ、間違いなく烈光拳。動きも、ごらんになりましたね」と、教師がムツキと話す。

「明日から、少し特別な授業に出てもらうわね」ムツキの声に、ダンカは現実感を失った。

「ですが〈ロトの民〉は集団騎馬戦、一人で極端に強くても、不幸になるだけかもしれません」

「明日からこの棒をつけていなさい。今後、素手でのケンカは絶対に禁じます。あなたの手足は、凶器です。挑まれたら逃げなさい、逃げられなければむしろ棒を使いなさい……そのほうがまだましです」と、ムツキが30cmほどの硬木の棒についた細紐の輪を、ダンカの首にかけてくれた。引けば結び目が抜けるように結ばれている。

 呆然とした状態で部屋を出たダンカの前に、ケエラがいた。

「ば」震えながら顔を上げない彼女に、ダンカはどぎまぎして、疲れて、

(今日、泥ぶつけたのまだ怒ってるのか)と、謝ろうとも思ったが「ば?」としか声は出なかった。

「ばかあっ!」激しい叫びとともに平手打ち、そしてケエラは泣きながら駆け出した。

 ダンカは、ひたすら呆然とするほかなかった。

「ごめんなさい」と、ムツキの声がした。「あの子、今娘代わりなの。あの子こそ、この技を使えるようになりたかったのね」

 そういわれたとき、大人たちの話を思い出した。

「あげられるならあげるよ」

「いい子ね」ムツキは優しく苦笑し、ダンカの頭を軽くなでて去った。彼女も忙しい身だ。

 彼女自身が有数の戦力としてアロンドに必要とされることも多いし、ゴッサ率いる精鋭の一人でもある。 

 さらに夫のサラカエルは難民を率い開墾する仕事と、医師として瓜生の技術を学び、さらに生徒に教える仕事を掛け持ちしていて多忙を極め、それだけに開墾指導や子供たちの世話でムツキの負担も大きい。

 まして、預り子の一人ラファエラはジジに見出された特待生。そのケアも恐ろしく大変だ。

 

 呆然とすることはあり、また宿題にうめきながら、みな学校から家にルーラで帰る。日が少し傾きかける頃。

 それから、それぞれの地域の仕事をすることになっている。部活動という贅沢は残念ながらない。起きる時間は家事・宿題、授業、遊び、地域の仕事の四つに分けられている。

 ケエラは泣くのを必死でこらえていた。迎えたムツキは何も言わず、麻薬成分のない大麻から繊維を取る、冷たくて体力を絞る細かい作業をケエラとともに続け、それから三つ目のかまどを作る作業を、村人を指導してやって、さらにジャガイモを掘りカボチャの世話をした。

 それから、何も言わずに森の奥に行き、何も言わず容赦なく徒手武術の稽古をし、最後に手本を見せてから帰った。ケエラは、疲労と空腹で今にも倒れそうになりながら、遅くまで練習を続けていた。

 明日、宿題ができずに朝の遊び時間は宿題をやるハメになるのは、百も承知だ。練習しながら、いつの間にか泣きじゃくっていた。

 いつの間にか、隣でラファエラがともに練習をしてくれている。ケエラは何もいえなくて、半ば泣きながら練習していた。

 そして、しばらく前のことを思い出した。特別コースのラファエラが、全身に重い傷を負って帰ってきて、何日も深い心の傷に夜泣きじゃくり、おねしょさえ繰り返していたことを。

 それを思い出すと、余計涙が止まらない。そしてまた、動きをくり返す。「光れ、光れ」と叫びながら……無論、そうやって動きに力が入り固くなれば、余計動きは崩れるに決まっている。

 泣きじゃくりながら、ラファエラが差し出してくれた焼き餅を一口だけかじり、冷めた実のない味噌汁を飲んで、それからまた激しく練習を続ける。

 ムツキはきえさりそうを噛み噛み隠れて見ながら、手では開拓の報告書を書きつつ幼子をあやしていた。

 疲れを通り越し、ムツキにおぶわれて帰ったケエラは、(ダンカが好き)と、心のどこかに浮かんで混乱したまま泣き寝入りした。

 

 ダンカは、〈ロトの民〉の村に戻り、家畜を追い果樹の虫を取る仕事を皆で繰り返し、竜馬を追って代掻きを一気に進めた。

 世界樹の島で得られるグアノを木の根元に埋めたり、堆肥をあぜに入れて豆を植えたり。

 そうしながらも、彼はケエラの怒りと絶望が、とても気になっていた。ムツキの言葉が。

 そして、首に下げた短い棒が、とても邪魔だった。なにも考えず、群れて走る家畜の一人だったような今朝とは、もう違うのだろうか、とばかり思っていた。

 明日からどうなるのか、〈ロトの民〉ではいられなくなるのか、心配でならなかった。

 だが激しい仕事を皆でやっているうちに、そんなことを考えるのはばかばかしくなってきた。

 仕事が終わってから、日が沈む頃までは皆で思い切り遊ぶ。みんな馬に乗るのは当然で、魚の群れのように一体化して魔法の鬼火を追い回す。〈ロトの民〉は個人が突出しないよう、ポロはあまりやらない。戦いを遊戯化するのも嫌われるため、馬上試合の類もやらない。集団で一つになり、走り回っているだけで楽しい。

 それから、家族近所で歌いながら、ラツカという毛が長い家畜を一頭殺す。痛みを感じさせないようラリホーをかけたまま、心臓の血管を体内で引きちぎり、一滴の血も無駄にしないよう腹腔内に血をため、腸詰めにしたり鍋にいれたりする。

 レバーは小さいソーセージにして保存、脂肪も分けて塩漬けにし、肉も多くは薄く切って燻製にする。皮革や骨も貴重だ。

 可愛がり育てた家畜を歌いながら殺し、肉にして食べる。その血肉を自分の血肉にする。その偉大な営みをともにする喜びと哀しみに、疲れと混乱が少し軽くなるのを感じつつ、今夜食べる肉を切り分ける。

 大きな土鍋を、陶器でできた二次燃焼のあるストーブにかけて塩と血と骨付き肉、分厚く味のいい木の葉、香り草、芋をたっぷり入れて、みんなで食べる。肉を骨から噛みちぎりうまい汁を飲む幸せに、疲労やケエラの泣き顔は吹っ飛んだ。

 気分よくアロンドの活躍の歌を家族と歌い、マロルの体を洗ってともに温泉の湯にゆっくりつかり、宿題を今夜は全部やって、いつもより少し早く寝た。




「平凡な」子供たちの日常を書きたい。

…平凡ってなんでしたっけ?(ミカエラ直系の最優等生とめったにいない武闘家素質)
…前に試練にあわせたエリートたちが全然動かないのに、この二人+二名ときたら動きまくるというか「あたしたちを主人公にしなさい!」と叫んでくるような感じで…
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