奇・・ドラゴンクエスト1の続き   作:ケット

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ルビス神殿、最後の試練

 サデルが目覚めたのは、大灯台の島に座礁している客船。

 無事に生まれた男児、サムサエルを抱いて、アロンドは大喜びをしていた。

 ついにそろった五つの紋章をたずさえ、ローレルを連れて飛行艇で長距離を飛ぶ。三日もせずに絶海の孤島、そそり立つ岩にしか思えぬ神殿に着いた。

 もうだいぶ大きくなったローレルは、空を飛ぶ旅に大喜びし、父親に甘えていた。

 岩の頂点で祈ると、そこは階段だった。底なしに深く。どこまでも。

 アロンドとローレル、二人だけでひたすら下りる。

 いつしか、十字を基調とした神聖な場に立っていた。

 アロンドは静かに、五つの紋章を掲げると、それはふっと消えうせた。同時に暖かな光が、音楽となって心を満たす。

「あ、あ……」ローレルがあわせて歌いだした。それがいつしか、咆哮のような、泣き声のような激しい音となる。幼児が出すとは思えない音量の。

「メタトロン、アロンド。そしてローレル、真実の名はサンダルフォン」と、暖かく限りなく美しい声が響き、美しい女神の姿が目の前に出現した。

 精霊ルビス。この〈下の世界〉の創世神。

「あなたが竜王を倒したおかげでアレフガルドは救われました。そして、五つの紋章をあなたが集めたことで」もちろん、ムーンブルクで渡された偽物も、歴史的にも魔術的にも本物と認定されている。「あの大陸が開かれる準備が整いました。

 少し物語をさせてもらいましょう。

 この〈下の世界〉を創造し、心正しき人々を移住させた折に、こことも〈上の世界〉とも違う別の世界との境界に、力の押し合いが起きてあのロンダルキアや、そしてあの進入禁止大陸と呼ばれる大陸が生じました。

 あなたの大陸は、人が立ち入ることを禁じられています。漂流者は、眠らずに脱出すれば生き延びられますが、その大地で眠ると必ず死にます。

 本当は、わたしがこの世界を創造したとき、協力してくれた報酬として竜の女王が受けとるはずでした。しかし、ゾーマが魔王の爪痕から出現し、シドーがロンダルキアに山を盛り上げるなどがあったため、神々の争いとなりました。そのため竜の女王は下の世界を無視し、ギアガの大穴を、〈上の世界〉を守ることに専念しました。

 その後、あなたの先祖である勇者ロト、アリアハンのミカエラがゾーマに囚われていたわたしを助け、ゾーマを倒しました。

 竜の女王の子である竜王は、本来その大陸を受けとり竜の楽園とすることになっていました。しかし、さまざまな行き違いがあって魔の島に降り、悪に染まりました。

 あの大陸は、今は主となる神々のない、ウリエルの故郷の全体から集めてばらまいた植物の楽園です。そしてあの大陸の地下は、別の世界です」

 その意味をアロンドが悟るまで、ルビスはじっと待った。

「その、別の世界もあの大陸を門に、この〈下の世界〉を襲っています。それはわたしが封じていましたが、それが限界に来たため、その魔王を倒し通路を封印していただきたいのです。その報酬として、大陸をあなたの子孫たちに。ただし、竜王の子孫であり、あなたの息子でもあるヤエミタトロンの血筋が、神々の次元では治めることになるでしょう。

 どうか、あの大陸を無事に治めてください。地下から通じる別世界の魔王も封じ、また邪神教団の陰謀にも負けないで。あなたに仕えているハーゴンは、邪神教団の大神官です」

 アロンドの表情が硬く凍りつく。

「わたしにロンダルキアで仕えてくれたミカエルが、あなたに最後の試練を用意しました。一月の後、この地図に書かれた浜近い海に船を係留し、甲板にこの紋を魔砂で描きなさい」

 と、精確な禁断大陸の地図と、裏には複雑な紋様が描かれた紙がアロンドの手に渡される。地図の沿岸、ザハン隣の旅の扉から、少し北東に行った半島に囲まれた湾に、指定された印が輝いている。

「そこに、別の世界からもたくさんのお客が来ます。この〈下の世界〉の貴族たちも呼んで、あなたが呪いを解いたことを証明しなさい。その人たちを十分に楽しませれば、お客たちは帰ります。ウリエルが心配するでしょうから言っておきますが、彼と同じく言葉や伝染病の心配はありませんよ。

 あとは、あの大陸の地上は、あなたと、その子孫たちのものです……勇者アロンド。わたしの愛するひとの子孫たちに、これからも永遠の祝福を」

 そういうと、ルビスは静かに祈る姿となり、ゆっくりと光に満ちて、消えていった。

 

 アロンドとローレルが出てきて、それからあわただしい日々が始まる。

 アロンドは、ザハンに赴いてルビスの言葉を報告し、それは高僧たちが受けた神託に一字一句一致した。認められ、語り伝える口承に加えられ、祝福された。

 まず指定された海上の一点に、瓜生が最大級の超巨大豪華客船を出して係留させる。

 さらに、岬で隔てられた場所に、電源・倉庫・従業員宿所として、大型原子力空母を出して海底ケーブルで客船とつなぐ。

 離宮の難題で、豪華客船で何万もの人をもてなしはしたが、今回は次元が違う。千人以上を、一ヶ月近い長期間もてなし続けるのだ。

〈ロトの子孫〉〈ロトの民〉そしてガライ一族、総出で客船の設備の使い方を学び、劇場での出し物の練習をし、映画上映のための機材の使い方を学び、膨大な洗濯と調理をこなせるよう訓練が続く。

 キャスレアはラダトーム宮廷をずっと切り盛りしていたようなものだが、これは規模が何倍も多い。ラダトームの客など、通常は百人もいない……民宿と大型ホテルの差だ。

 まさに、豪華客船をラスベガスの大型ホテルとする。ラスベガスのホテルは宿泊だけでなくカジノ・劇場・レストラン・ジム・ショッピングモール・病院・会議所・イベント会場など、長期滞在も含めた総合システムとして機能しなければならない。

 ディズニーランドに関するありったけの資料。

 膨大なミュージカルのDVD、楽譜と台本。衣装。

 さまざまな機材の使い方を学び、組織を作り、練習を重ねる。

 莫大な量の衣類や洗剤、食料や商品を空母の、本来なら戦闘機が何十機も整備される空の倉庫に並べる。

 緊急時の避難誘導の訓練も重要だし、原子力空母の原子炉や客船の巨大ディーゼルエンジン、変電器のような高度な機械の、特に故障を直す訓練も必要だ。

 ジニがまず小型の近代汽船を、多人数の近代技術を教わりつつある人も使い徹底的に分解して再組み立てし、いくつかの部品を本来AK-74用の工場を使って作ってみたりして、技術を頭だけでなく手でも理解しようとした。多くの人が、何度も失敗し体を傷つけながら学んでいった。

 

 それから、ザハンの隣の島から、旅の扉で禁断大陸に向かった。

 そこでは数百人の人びとが、木を切り耕していた。その地で眠ると死ぬため、せいぜい半径三十キロ程度だけ。ゆえに人口も限定される。

 アロンドは昼過ぎを待ち、そこの人たちに声をかけて、全員を集めた。そして問答無用でラリホー。

 二時間ほどのあいだに、演壇と演出用のスピーカーなどを用意し、夕焼けを背に全員起こした。

 この大陸で眠ることは死を意味する。そのことを誰よりも知っている人びとは、目覚めて恐慌を起こした。

 そこに、アロンドの凄まじい声が響いた。神々をも揺るがす勇者の咆哮。ガライの墓の幻夢で知り尽くす、アドルフ・ヒトラーの絶叫。

 恐慌、だからこそその声は直接感情の一番奥、恐慌でむきだしになった爬虫類脳をぶっ叩き、従わせた。

「聞け!私は勇者ロトの子孫、〈竜王殺し〉アロンド。禁断大陸の解放者だ!

 ザハンより通い、この大陸を耕し木を伐り、漁をしてきた人びとよ。君たちにとても悪い知らせと、よい知らせがある」

 間と、身ぶり。演説の天才、ヒトラーの技術そのままで。

「この大陸の封印は解かれた。もう安心して眠ることができる」

 群衆の叫びが上がる。アロンドの名、ロトの名を。

「だが、悪い知らせでもある。今後、君たちは今まで通りの暮らしをすることはできない。この広い大陸に、われらロト一族も入植する。侵略をする気はないが、技術水準が違いすぎる。君たちはよほど賢明でない限り居留地で蒸留酒に溺れ、餌を与えられる家畜も同然となるだろう」

 瓜生に、アメリカ先住民の悲劇を散々聞いている。それをやってはならない、と決めていた。

 アロンドは演壇の前、聴衆がいるのと同じ地面に高く盛りあがる塊から、覆い布を取り去る。

 また、叫びが上がる。黄金と絹布の山。

「これで、君たちが耕してきた土地を買い取ってもいい」

 買ってくれ、大金持ちだ、喜んで売るぞ、という叫び。

「だが、それはビーズ玉でマンハッタン島を買い取るのと同じだ!侵略にすぎない。君たちに選択の余地はない。私たちと共に学び、働き、この素晴らしい大地からこんな金銀などビーズ玉に思える富を、産み出すんだ!」

 アロンドが激しく絶叫した。

「ともに戦ってくれ!君たち優れた人びとの力が必要なんだ」

 情熱をこめた言葉に、全員が耳を傾ける。耳を傾けさせることには、アロンドは二重に天才だ。生来強力なカリスマであり、ヒトラーの経験をわが物としている。

 ヒトラーとは違い、苦い事実を伝えるつもりでいる……だが、それを巧妙に、甘い言葉に混ぜている。糖衣錠の薬のように。

「最悪の選択を今から言っておく。今の君たちの技術水準で、私たちに武力で立ち向かうことだ。迷信で勝てると信じ私たちを軽蔑し、復讐の連鎖に縛られて」そういうと、二百メートルほど離れた大きな岩に手を向ける。その手に炎が上がると、まばゆい光を放つ純白の巨大な鳥が出現し、飛び立つ……魔力を瞬間爆発的に増幅して放つメラゾーマ、カイザーフェニックス。

 それは激しい熱気とともに岩に舞い降り、目がくらむ光が晴れると、岩は半分が蒸発し残りは溶けて輝き流れる。超高熱に岩石蒸気が小さなキノコ雲となって上昇し、人が嗅いだことのない匂いにむせる。

 離れていても体が焦げそうな熱気、恐怖を超えた衝撃に人びとが息を呑む。

 もう一発、今度はギガデイン……晴天が輝くと、何百本もの雷が一点に集約され、光と轟音、オゾン臭に包まれる。

 平然と拳を振り上げ、アロンドは語り続けた。

「このあたりの、土地の権利は耕してきた君たちのものだ。だが、この旅の扉の周辺は、宮城となるだろう。そしてわれらロト一族は土地を全部耕すことを許さない、土地を金で奪って木を植える。先にこの金と絹で、その権利は買い取ろう。

 土地の権利を賢明に使ってくれ。土地の権利にあぐらをかき、私たちから富を搾り取って怠け暮らそうとするな。その道の先は蒸留酒の底なし沼だ。道路や鉄道の用地買収には、値をつり上げるのは誤りで、自分から事業に参加するのがより儲かる道だ。自分で土地を活用し、富を自ら産み出すほうが、ずっと多くの富を得られるんだ。

 この土地の、草の一本一本、土の一粒一粒を知り尽くしている君たちこそ、だれよりもこの貴重な土地を使うことができる。無駄な抵抗をするな。ビーズ玉で土地を売るな。知識を拒んで酒に溺れるな。私たちが強いから正しいと盲信するな。学んでくれ。技術を、魔法を、知識を。試行錯誤を。私たちロト一族の力は、試行錯誤と誰でも学べる知識にこそあるんだ。

 私たちロト一族の、女が子を産んで死ぬのは三千に一人。赤子は戦死を除けば百に一人しか死なない。そのほぼ全員読み書きができる。森と水があれば十フェアヤの土地から、毎年二百三十セルブの米と、百十セルブの麦と六十セルブの豆を収穫し、三十セルブの魚を得、百四十羽のキーモアと八頭のセロと十五頭の馬を養える。五人で、馬を使って耕してだ。何十年でも続けて。アレフガルドの標準は三十人以上がその十分の一の収穫で食うや食わず、さらに三十年で土地がやせる……追いつくのは簡単ではない、君たちの孫の代がやっと追いつけるかだ。

 これはわがままなんだ、侵略をしたくない、だから私たちと同じように学んでくれ、という。

 君たちの今の暮らしにも、多くの知恵があるだろう。それを生かして、私たちと同じように強く豊かになって欲しいんだ!」

 深い誠意をこめた声が、一つ一つ伝わっていく。圧倒され、熱狂した心にしみこむように。

「なんであれ、従います。われらザハンの民は、もとより邪神の奴隷だったのを、勇者ロトさまに救われた民……ましてここで無事に眠れるというのなら、従わぬわけなどありましょうか」

「もっと広い土地を耕したいんだ!」

「ずっとここで眠りたかった!」

「オヤジはここで眠って死んだんだ!」

「もっと上流まで木を伐りに行きたい!」

「勇者アロンドに従うぞ!」

「勇者ロトに従うぞ!」

 激しい絶叫、それはアロンドがガライの墓で体験した、ナチスドイツの熱狂そのままであった。

 それに彼は内心恐れつつ、綿密に計算された身ぶりと言葉で、その熱狂を吸収し煽り高めていった。

「私たちの富と力を、まず知ってくれ。ここを耕す人びと全員、三日後から二十日のあいだ、王侯貴族すら夢にも思わないような暮らしを体験させてやる!それは人の知恵と工夫の積み重ねだけでできるんだ、たくさん考えて、工夫して豊かになろう!」

 そう叫ぶと同時に、演壇の裏からいくつも酒樽が転がされ出てくる。そして布覆いを取り去られた挽肉の山に蒸留酒が流され火が放たれ、炎と煙と共に肉が焼ける香りが広がる。

 熱狂はそのまま狂奔に変わり、アロンドはそれを自在に操っていた。

 そして、ザハンから旅の扉を通って禁断大陸を耕している人びと、全員が巨大豪華客船に招かれ、瓜生の故郷の贅沢を体験し……同時に、清潔な生活の訓練を徹底的に受けた。

 清潔な体。悪臭のしない洗いたての服。寄生虫に食われない寝具。一度それを体験してしまえば、それは強い誘惑になる。

 一人一人に、ロト一族が付き添ってまず体を洗ってやり、それから自分で洗えるように教えていった。服を洗濯するように、歯を磨くようにと。

 十歳以下の子は学校に通わせ、日本語とザハンで用いられる言葉の読み書きを学ばせる。

 勇者ロトに従う、という言葉の意味は、彼らはわかっていなかったのだ。それどころかロト一族すら、自分たちがこれからどうなっていくのか、必ずしも理解しているとはいえない。

 

 アロンドやローラには、他にもすべきことは多かった。

 山彦の笛を、ルプガナのケエミイハ家に返し、また有力者を招く。〈下の世界〉でも最大級の造船所があり、ムーンブルクから外界への出口となるこの街は各地とのつながりも深く、ここから情報が伝わっていく。

 瓜生の不妊治療で得、その栄養管理で健康に育っているその子と、ローレルたちアロンドの子も仲良く遊んでいる。

 ローラの特に忙しい仕事は、膨大な手紙を本国の貴族や、各国の有力者に出すことだ。

 竜王にさらわれたときにはまだ子供だった彼女の、実際の人脈を管理していたキャスレアも大忙しで、あちこちに飛びまわっては旧交を温め、そして手紙を強引に押しつける。

 キャスレアの強硬な主張で、アロンドのみならずリレムやレグラントも、できるだけ同席させられる。彼女たちも非常に忙しいのに、キャスレアは世界中の有力者に顔を覚えさせ続けた。

 その返礼として有力者の子弟を誘い、レグラントの料理とリレムが演出する舞台でもてなすことも、何度かくり返された。

 また、人間関係をつなぐのに必要な多額の賄賂も、瓜生から潤沢に提供され続ける。

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