次の霧が出る前に。
主力戦車の装甲でも、多数の、非常に小さく強力な怪物を防ぎきれないことははっきりした。
行動しながら使えるトヘロスの上位呪文が研究されている。
サデルとラファエラ、数人の長老格の上位魔法使い、こちらはパートタイムだがジニが中心となり、集団で魔法を使う研究が始まった。
それは自然に、魔法を教える上級学校となる。方針として、「絶対ガロア様を落とさない学校」と、普段冷静な彼女だがガロアの話にだけは熱くなる。
瓜生のアドバイスも受け、技師、集団魔法の研究、そして天才のための数学中心の早期教育と、三つの学校を総合させる形を目指している。
「上級学校は一つに固定するな、弊害が大きい。いくつも最高の学校があり、それぞれ得意分野があって、実際に何ができるかで評価されるのが一番いい」と瓜生とアロンドが声をそろえた。
瓜生とベルケエラも、独自に医学・農学・獣医学・生物学・鉱物学など総合した高等学校と、公文式を中心にした学童保育校を作り始めている。
測量機関も生徒全員に給料を出し、仕事を割り当てつつ教育する、フランスのグランゼコールに似た技術学校となりつつある。
ガライ一族も音楽・踊り・演劇・美術などの総合学校として機能している。
軍のための士官学校も、法律家の塾もできつつある。
料理の学校もあるし、鍛冶の学校もある。
ジニがサデル・ラファエラなど魔法使いを集めて取り組んでいるのは、集団で空気が液化するほどの超低温を実現し、純酸素を得ることだ。
純酸素が手に入れば、製鉄が一気に進歩する。反射炉・パドル法とベッセマー転炉の段階を蛙飛びできる。
ジニの桁外れの頭脳でしかできない精密な魔力の編み目。そして、ローレルの人間とは次元の違う魔力。それを合わせれば、実際に空気を液化することは可能だった。
だが、それはどちらかがいなければできない。誰にでもできるものでなければ、技術ではない。
「でも、ウリエル先生の世界はもっと細かな、超LSIを作ることができています。縮小印刷で」
それでわかれよ、という目。
「分担して、一人一人は普通に編む程度なのを、たくさんつなげて、細かい編み目と同じににするのか」
アロンドの言葉にジニがうなずく。
「それなら、普通の魔法使いだけでも、大気を液化できるかもしれない」とラファエラ。
「大気を液化できれば、純酸素が得られるんです」ジニが熱く言い、マヒャドを極度に増幅した、恐ろしく細かな呪文の編み目を広げてやる。
皆が一瞬、恐怖に怯えた。だが、ほっと息をつく。ジニは呪文を編むことはできるが、発動できない。
「それができれば、薪炭も節約できますよ」とヘエル。
真夏にお祭りをするのは、〈ロトの子孫〉に多いジパング系の伝統だ。
藁などで何か巨大なものを作り、思いきり飲み騒ぐ。
馬で遠くまで走り回ることもある。
そんなとき、下手なバイオリン一挺だけでもあるのはとても嬉しいものだ。
ドラゴンもやってきて酒を飲むが、ケエラはそれが余計に気に入らない。それでディウバラにやつあたりし、ダンカがそれを叱ってはケンカになる。
王宮の建築は、今は基礎だけをやっている。ザハンの隣島に向かう旅の扉を取りこむ形だ。
開墾で特に厄介な、大きい石が出たら王宮に連絡すると、怪力の持ち主が何十人か来て、そして大型ヘリが来て運んでいく。
海に近ければ切り出し、石は海に沈めた状態で船で運ぶ。そうすると浮力で重さが半減し、運びやすくなる。
そのような人たちを開拓民がもてなすが、そのときにはちゃんと十分な保存食と現金で支払ってくれる。
測量する人が立ち寄るときも、同様だ。
ロト一族は技術水準は高いが、それほど建築には関心がない。
アレフガルド内で隠れ住む〈ロトの子孫〉は、山間地の隠れ里では防御されつつすぐ撤収でき、外からは建物ではなくただの岩のように偽装する半地下砦を好んで作っていた。廃坑に住むことも多い。
また、町では人々にまぎれるため、周囲と同じ家に住んでいた。独自の建築様式など発達させるわけにはいかなかった。
〈ロトの民〉は、もっとも定住性の高い水田稲作を主にしており、ジパングから聞いた茅葺平屋を真似る者もいる。長期保存には高床倉庫も建てる。
だが、遊牧民の誇りを忘れず気軽に移動できるゲルも理想とされ、気まぐれに野宿する。
南方に住む〈ロトの民〉は、テパと同様に絞め殺しの木を使う木家を育てることもある。完成まで三十年はかかるが、いちどできれば数百年メンテナンス不要で、同時に食料も得られる。ただし、それは熱帯でしか育たない。
全員が数学を学んでいる。そのため開拓地でよく建てられるのが、幾何学的にもっとも合理的なドーム状の家である。ゲルにも似ているので、親しみやすくもある。
屋根はいくつかの窓を除きつる植物が覆うに任せれば、夏涼しく冬暖かい。雨水も無駄にせず、樋を地面近くに螺旋を描き一周させ、水がめで回収する。
家畜を入れる建物も、固定式は好まない。遊牧民は元々、寒くなれば暖かい地域まで移動するので家畜を屋根の下に入れるなど考えない。
大型の二重テントに入れ、テント自体を移動すれば掃除の手間はかからない。固定式の畜舎は糞尿の清掃が大仕事だ。さらに近代工場畜産となると、膝まである糞尿の池で牛豚を暮らさせたり、鶏の場合金網の上で生涯を過ごさせたりという残酷な代物になる。
移動したら耕しておけば、家畜の糞尿がたっぷりの肥料となる。それこそ、瓜生が出す最新改良種、本来は大量の化学肥料を投入してやっとまともに育つ代物にすら十分以上だ。
春ならばしばらく休ませてトウモロコシ。
夏なら分解が早いので耕してすぐ雑草を茂らせて牧草とし、伸びたら刈り取ってサイレージ、刈り株をラツカが食い尽くしてブホが根を掘り耕し、そのまま冬小麦を蒔くのに間に合う。
冬作に間に合わない秋や冬なら、春まで寝かせて最上の野菜畑としたり、トウモロコシ・木綿など肥料要求が激しい作物を植える。
みんなが一人用のテント・毛布・ハンモック・蚊帳は所有していて、家畜を追っていて日が暮れたらそれで寝るし、いい加減な建物で寒くなれば建物内でもテントを張って寝る。
ドームを建てるには、木で足場を築き、成型した石をセメントで積んだり、木を三角の組み合わせで組み、藁を混ぜた土を塗り、上に漆喰を塗るなど、さまざまな方法が使われる。そこで手に入る資源を、環境負荷が小さいよう、組み合わせる。
アレフガルドの再開墾で、多数の〈ロトの子孫〉がいろいろな建築を試し、多くの失敗データを手に入れている。
そして、ローレシア王宮も、高い壁に囲まれ多くの人が密集した都市にはしなかった。
元々都市は、集まって外敵から身を守るためだ。城塞都市メルキドのように。
だが、〈ロトの子孫〉は隠れ逃げる暮らしだったし、銃器があるので高密度に集まる意味はあまりない。
また、銃砲や高度な魔法が発達すれば、城壁などお笑い種になることもよくわかっている。数十年後には廃れるもののために、膨大な費用と人材を費やすなら治水に使うほうがいい、とアロンドが決断した。
何より、アロンドがガライの墓で体験したヒトラーの記憶が、マジノ線が役立たずだったことを痛感している。
元々大灯台の島など〈ロトの民〉の領土でも、大きな城はなく住居は分散されている。
移動距離を短くして集団で仕事ができるようにするのも都市の長所だが、全員が馬を持ち、多くはルーラも使えるロト一族なら移動距離が長くても問題ない。自動車前提のロサンゼルスも参考にした。
一つの家あたりの面積を広く取って家と家の間を開け、各戸が悪臭を処理できるストーブがついた堆肥場と廃水処理畑を構え、馬を飼って野菜の多くを自給しながら、乗馬で遠距離を高速通勤する。
果樹も植えて堆肥をやる。レモンやオレンジなどかんきつ類やベリー類はビタミンC補給のため必ず植える。気候によってナツメヤシ、マンゴー・バナナ、ブドウ・イチジク・オリーブ、リンゴ・柿・梨など果樹を育て、できるだけドライフルーツや酒にする。
家の間の、水の便がいいところは深いあぜを掘り、高い部分では木綿、低いところには水を溜めて稲を、大量の堆肥で育てる。
上水道がやりにくいが、各戸上総掘りの技術で井戸を掘っている。
通勤先の工場や学校、病院などにはそれぞれちゃんと馬小屋があり、馬に水と餌を与え、運動がてら動力も出させている。
ローレシア王宮の近くも、いくつかの緑に覆われたドームばかり。煙突からは浄化された色のない煙だけ、大きなテントから竜馬が出てきては草を食んでいるだけ、都市とはとても思えない眺めだ。
だが、訓練ではっきりしている……あちこちのドームに据えられた迫撃砲と重機関銃の網、いつでも掘れる塹壕と鉄条網は、城塞都市よりはるかに敵を寄せつけない。
そんな、一見森と野原のような都だが、いくつかの大型ドームは常設の市場となっている。
また、河岸の漁師町から、河口をぬけてしばらく行くと、巨大な空母と超豪華客船が係留されている。
秋が近づき、トンボが舞いはじめると、緊張感が強まっていく。
霧が近い。といっても、べつに霧は秋に出るとは決まってないから、いつでも油断するなとは言われている。
ロト一族は、みなが戦いたがっている。だが、戦車があってさえも常人は数分もたなかった。
ラファエラたちも頑張っているが、今年はどうやら時間切れのようだ。
今年は、アロンドとアダンのコンビに加えて、ジジ・ジニ・ローレルの三人が加わった。
瓜生はひたすら、遠距離から無人機で、また多数仕掛けた赤外線カメラやマイクなどで観測に徹する。
同時に、開拓民たちは収穫できる作物を次々に収穫し、大量の野菜を塩漬けにし、穀物を干している。運べるものは大灯台の島や元鬼ヶ島に運んでおく。
また、家畜が短時間で隠れられるように地下倉もあちこちに掘って、魔法をかけておく。
そんな中、ケエラはいろいろ悩んでいた。
前にムツキの元で姉妹のように過ごしたラファエラと、ジニがやっている魔法研究に、自分もジジの特訓を受けた縁もあり参加している。
そして、ムツキに武術の特訓を受けているダンカを、ルーラを使える彼女が迎えて帰る。
そのとき、ダンカがジニやラファエラに会ってしまう。そのとき、どうも嫉妬してしまうのだ。
毎日のように、「何話してたの」「なに約束したのよ」などと問い詰めては、嫌われたかと自己嫌悪に陥る。
そして、そのことでラファエラに笑われたり、またラファエラがダンカをからかったりするので、余計面倒なことになる。
ちなみにジニは無関心そのものだが、彼女がダンカを信頼していることはよくわかってきて、それが余計許せない。
またディウバラに意地悪をするのもやめられない。彼がバイオリンに夢中なのが、なぜだか許せない。
自分の、竜の種を受けた馬がなかなか大きくならないのも、何か悪いことをしたのかと思ってしまう。
そして何より、霧に対して無力であることが辛い。
霧が出ぬまま稲刈りを迎え、不安の中収穫を祝っている。
家畜に引かせる稲刈り機が普及しつつあるので、仕事は大幅に楽になっている。
「もう、霧なんて出ないんじゃないか」と言うものもいるが、そんな人ほど怯えている。
収穫は莫大だ。貯蔵庫を作るのが追いつかないほど。
もう、二十人と多数の竜馬、セロで、必要な食料の五倍は軽く収穫され、当座必要な分以外は売られている。
家畜が急に増えているので、需要はある。
その収穫で、いろいろな買い物をすることもある。
大ヒット商品になったのが、かまどに埋め込む形の鋳鋼製圧力鍋である。
蓋は木製でねじになっている。重りで圧力を調整し、バネで圧力を測る非常弁と低融点金属で二重に安全を確保した大型のもの。別の鉄蓋を使うと、厚い鉄はダッチオーブンのようにパンを焼くことも揚げ物をすることもできる。
かなり大型で、内部に薄い鉄でできた鍋を二段か三段入れて、飯と煮物を同時調理するのが普通だ。
それを実現したのは、ネジ切りを実現した旋盤技術。ジニはまだまだ全然精度が足りないといきまいているが。
それと、ミシンの前段階と言うべき縫い物を補助する器具も売れている。
収穫が一段落して、久々に学校に行けることになったある日を、少し描いてみよう。
ダンカの一家を含む〈ロトの民〉は皆で、設備の整ったゲルで暮らしている。いくつもの家族が混成なのでややこしい。
その近くに、竹を編んで土を塗ったドームの、その上にテントをかけた家がいくつか並び、その一つでケエラたちは暮らしている。
朝は相変わらず、夜明けより早いほどだ。
上総掘りの深い井戸から水を汲み、水がめに入れる。また大型ストーブのボイラーから、残った湯を抜いて、新しく水を入れる。
残った湯は朝の支度に使う。大きなヤカンで運び、ぬるま湯にする。
瓜生の故郷や豪華客船の、蛇口をひねれば湯が出る水準から言えば不便だが、ザハンやアレフガルドの庶民から見れば王侯貴族だ。
まだまだ、大方のことは皆で協力してやる。
全員でハンモックから降り、それぞれの仕事に走る。
ダンカはもう、たくさんの家畜たちの世話を始めていた。昨日、セロの一匹の腹が異常発酵で膨れ上がり、ろくに寝ていない。ホースを呑ませてガスを抜く、という荒療治でなんとか助かったが、睡眠不足は皆も同じだ。
「今霧が出たら」それに、怯えている。対処できないことはわかっている。
でも今は、と気持ちを切り替えて、増え続ける家畜を見ていく。家畜の仔が次々に増えて、にぎやかな作業でもある。
昨日死にかけたセロは、なんとか生きているし、ダンカの手に反応する。
セロ、竜馬、ベルベ、バロ……乳を出す家畜だけでも何十頭にもなる。その乳を搾り、運ぶだけでもとんでもない労力だ。
大量の、種類ごとに混ぜた乳、それに卵が運ばれ、冷やされる。
乳の家族消費分は飲める者は飲むし、合わない者はヨーグルトにしてしまう。
卵を運ぶとき、「一つのバスケットにすべての卵を入れるな」は子供全員、身をもって経験している。貴重な現金収入源、朝のごちそうを全員分失った時の皆の非難は、一度やったら骨身に染みる。けれどもどの子も、笑い責める側にこのあいだいたばかりでも、やらかしてしまう。
ちなみにそのバスケットも、葛や柳、竹から彼ら自身が編んだものだ。アレフガルドの再開墾で、使い捨てトイレとして毎日素早く草を編んできた経験はちゃんと活きている。
「朝よ!」という女の声が母屋から響くまで、骨の折れる作業は続く。
ケエラは、朝はむしろ力仕事を担当する。無器用なので料理はとてもできない。ただし、ヒャドで冷蔵庫を冷やすのは誇れる仕事だ。
共通の地下貯蔵庫から、アレフガルドから買い入れたリンゴ、オレンジ、元鬼ヶ島産の赤い果物を桶に入れて台所に運び、それから炊事用の水を汲んでくる。
たっぷりのミックスジュース、絞りかすは家畜のところに持っていく。竜馬やブホにはごちそうだ。
トイレも順次済ませる。竹筒を使うこともあるし、最近はローレシアで、乾性油で防水した竹紙の袋も安く売られ始めている。
大と小は別にし、大は家の近くにある堆肥場に、小はその近くに密封状態のまま積んでおく。あとで、石組みの半密閉された、中に石灰や草木灰が積んである地下室に流し入れる。尿素がアンモニアに分解され、さらに細菌の作用でカルシウムやカリウムと反応して硝酸塩、硝石になる。
硝石は火薬の原料であり、ハム作りにも欠かせない。
朝、ジュースを飲み小さなレバーソーセージを食べ、本格的に朝食。
今だけしか味わえない、つみたてをゆでた甘く瑞々しいトウモロコシ。
キーモアのスクランブルエッグ。ラツカの肉が親指程度。糠魚と炊いた大根と大豆。
ゆでたサヤインゲン・カボチャ・レンズマメ・ビーツ・大根葉と、生のアルファルファスプラウト、クレソン、タンポポにマヨネーズをかけて。
糠漬けにしてから間もないキュウリ、ザワークラウト……塩漬けで乳酸発酵したキャベツ。
ヨーグルトがたっぷり。
山積みになるトウモロコシの皮と芯は、家畜のごちそうになる。
箱膳を使って、最後に食器に湯を注ぎ漬物でぬぐって飲み干し、蒸留酒を含ませた布でひとぬぐいするので、洗い物はないに等しい。
大人は弁当を作るため、また料理に戻る。新米を硬めに炊いて握り、味噌をたっぷりつけ、大型鋳鉄ストーブのオーブン機能で焼く。ピーナッツとヒマワリの種を炒る。アカアリの幼虫の佃煮を包む。
子供たちは馬で池まで走り、体を洗う。今まで男女は意識していなかったケエラだが、数日前から恥ずかしくなって、男女別で洗うように言い始めた。
ケエラのものとされる、竜の種を受けた馬は、そうでない竜馬がぐんぐん大きくなるのにまだ小さい。
ほかの開拓地でも、竜の種を受けた馬は小さい、という噂も聞く。
身支度を整え、運んでいく生乳・卵・野菜などを四人一組で担ぎ、次々とルーラを唱える。
ローレシア王都の、半ば葛に覆われた半径8m程度のドーム。それが仮の王宮だ。
そこでは、目覚めたローレルが早くも走りたがっている。
だいぶ大きくなった次男のサムサエルを、ローラとキャスレアが世話を始めた。
アロンドは、さっそくグレープフルーツジュースを一杯だけ飲み、軽く歯を磨いてすぐ謁見に向かう。
朝から、謁見を求める人たちは数多くいる。
ローレルが、駿馬に乗った若者を追って、しかも腰にはタイヤを引きずりながら外を走り始める。それでも、簡単に馬に追いついてしまう。
世話役を買って出る若者たちも、次々とギブアップしてしまう。
怪力をアリアハン王家から受け継ぐロト一族だが、ローレルのパワーはまだ子供、見た目は普通の可愛い盛りなのに大人の誰よりも、桁外れなのだ。ベンチプレスで、瓜生の故郷の世界記録の三倍は四歳のとき軽く持ち上げている。
本格的に謁見が始まる。
「なぜ、これほど広い土地を王家の土地として?」地図に、王宮を囲むように太く描かれた円帯と、港の近くの広い岩山が示される。
「正当な代価を払い購入していることは、検証できる。そうだな」と、傍らのハーゴンに目をやり、その頷きを確かめる。
「この土地は将来、都を囲む環状線となる。鉄道としても道路としても、何十年か後には必ず必要になる。ここの広い土地は、空港の予定地だ。ウリエルの故郷では、空港が政治の問題となり、激しい争いが長く続いたそうだ」
「ですが、これほどよい土地を、それまで耕作を禁じるとは、もったいないのではないですか」言い募る老人。
「この大陸には、よい土地はたくさんある。また、収容地は将来の枕木のためのクリやオークを植え、その実でブホを育てる計画もある。そなたの欲のためであれば、よりよい土地を与えよう。公のためであれば、将来紛争なしに鉄道や空港を整備できることが、大きな公益になることは誓う。また、思い出の残る巨木など、失えぬものがあるのなら考えよう。公の力で人を踏み潰すための国とはしない」
アロンドは暖かく語りかけ、はっきりした威を示した。
老人は思わずひざまずく。
次にはザハンの神官がやってくる。
「おうかがいしたい、あなたの王国では邪神教団の存在を許しておられるのか」と、憎悪に満ちた目でハーゴンをにらむ。
ハーゴンの目は、信じられないほど暗く深い虚無だ。何の感情もその顔には出ていない。
「宗教は禁じない、だが人間の生贄は絶対に禁じる。それだけだ」アロンドはきっぱりという。
「それが、できるとお思いですか。魚に空気を呼吸せよというに等しいのですぞ」
「〈ロトの子孫〉の祖には、家族を偽ヒミコに生贄とされたジパング民が多くいます。彼らは決して、生贄を許しません。彼らの目を逃れることなどできません。そして私自身も、妹と母親を生贄にされた男の子孫でもあるのです。ラメエル」
アロンドの言葉に、何人も〈ロトの子孫〉の官僚がうなずき、厳しくハーゴンをにらむ。
目配せを受けた老人が系図を取り出し、ジパングの女からアロンドにいたる系図を説明した。
やっと朝の謁見を終え、ローラとサムサエルを交え大急ぎで朝食をすませて、また少し仕事をしてから、アロンドも運動する。どんなに忙しくても睡眠・栄養・清潔・運動は欠かすな、とロト一族共通で言い聞かされている。
ローラ王妃さえも、注意深く運動をしているのだ。
おかげで体型と美貌が保てる、と彼女自身は喜んでいるが、キャスレアはアレフガルドの貴族女は子を産めば太るほうが美しいものを、と嘆いていた。
今の、集中せずに戦闘力1300以上のアロンドと、体力だけで200ぐらいはあるローレル親子が運動するのは並大抵ではない。基本の徒手と剣も、通常の重力……地球の95%程度……ではほとんど負荷にならない。
ルーラで土木工事など必要な場所に赴き、何千トンもの重さを引きずることで、かろうじて軽い運動になることもある。ただし、どれほど力があっても地盤が軟弱なら足が地面を削って空回りするだけ、彼らが運動できることはめったにない。
魔法で空気抵抗を何万倍にもして走ったり踊ったりすることで、かろうじて運動している。その呪文も、サデルやジニを中心とした魔法エリートが作った代物だ。
学校となっている空母につき、まずバイヤーたちに農牧産物を見せる。幾人かの買い手が品質を見比べ、最も高い値をつけた者が買う。
代金はちゃんと金融を通じ、開拓村に行っている。ソロバンを打って、粘土を塗った板に押しつけ、それに売るダンカと買い手両方の指紋を押せば、認証は確実だ。
時々、バイヤーたちも開拓村に行き、清潔に扱われているかどうかは審査する。きえさりそうを使っていることもあるので、油断はできない。
それから、子供たちはいつもどおりの授業。
徒手と剣の練習、一時間近く荒れる外洋をボートでこぎ、競争する。
宿題をやってない子はやり、やってきた子は提出して遊ぶ。
そしてそれぞれの授業に移る。
今日は授業に、ローレルとアロンドが来た。時々学校に顔を出すことがある。
そのこともあり、今日の授業は前半と後半に分けることになった。前半は十人に一頭ずつラツカの解剖、後半は人間の死体解剖。
まず、すでにザラキで死に血抜きが済んでいるラツカを、十人の班が机に置く。
匂いが強烈だ。
血と体液が、あちこちの穴からもれる。
「後で食べられるように、ちゃんと処理しろよ」
「徹底的に、肘までちゃんと手は洗ったな」
「髪の毛は出してないな」
「マスクに漏れはないな」
など、先生が一人一人徹底的に調べる。全員、白衣にゴム長靴に着替えている。
とはいえ、特に開拓組は、自分たちで家畜を解体するのは慣れている。〈ロトの民〉も、家畜解体は儀式ともども、生活の一部だ。
儀式や歌で感情を制御し、悲しみより喜びと、生命との一体感を歌いながら、慣れている者が鋭利な短刀で素早く腹の皮を切り裂き、肛門を縛り、匂いのある腺を外す。
「一つ一つ、スケッチして触ってみるんだ。ちゃんと名前を、共通語と日本語で書き取れ」
血に濡れた手で、先生が示す大きな絵図を見ながら、石板に字を書いていく。
絵が得意な子は丁寧に、細かく書く。
まだ日本語を覚えていないザハン出身の子は、ひらがなで共通語の発音を書き、また絵を描いている。
「ルーペも使ってみろ」
レンズの加工も発達している。それでより細かく見て、細かな血管や組織も理解する。
手早く皮をはぐ。柴犬程度の大きさだが、皮だけでも結構な重さだ。
内臓を一つ一つ、別々の器に入れていく。
腸の中身は別に堆肥に入れるが、凄まじい匂いにみんな辟易した。それを丁寧に洗えば、ガット……羊腸線、テニスラケットに昔使われていた強靭な繊維にもなるし、ソーセージの皮にもなる。
一つ一つ、名前を確かめながら内臓を切り離し、スケッチする。
神経・血管・リンパそれぞれの、全身を覆う網を手と目で確かめる。
筋肉を一本一本確認し、骨から外す。最後に完全骨格を作り、それから骨を割って中身をのぞく。
頭蓋骨を分解し、柔らかい脳を丁寧に調べる。
子供たちは皆、夢中を通り越している。この授業では私語もないし、気が散る子もいない。
「刃物を使うんだからな、気をつけろ!怪我をしても慌てるなよ」
「人に刃先が向かないように、いつ滑っても、自分も他人も怪我しないように」
と、先生が叫ぶまでもない。
まあ、無器用なケエラが怪我をしそうになってダンカが後ろから抱くように押さえ、皆にからかわれることはある。毎日のようにしていることだから、なぜからかわれるかダンカにはわからない。
むっと、血と内臓の独特のにおいが満ちている。防水の床が、大量の体液で濡れている。後で洗い流すほかない。
意外なほど、色鮮やかな眺めだ。白と赤だけでなく、黒や青、黄色や緑すらあちこちで見られる。
アロンドはひたすらローレルを押さえて、丁寧に手元の本と見比べながら、興味深く見、子に見せている。
版ごとに大人が監視し、合格とされた家畜は市場で肉や皮として売られる。
失敗したのもいくつかあり、それは教師のごちそうとなる。だから、子供たちはわざと失敗しようとは考えず、真剣にやっていた。
最後はちゃんと儀式と歌で、気持ちを切り替える。
昼は皆が持ってきた弁当だが、茶だけでなく粥と馬乳酒も食べ放題になった。
昼食の後、病死した老人の死体を解剖する。
ロト一族は、原則として死者は全員献体され、解剖実習に使われた後に、埋めて寿命が長く大木になる木を植える。
そしてその木に名や業績を刻めば、きわめて長時間生き続ける。果樹は禁じられ、伐採もされない。
まず葬儀の延長で、故人の事を聞き、体を捧げてくれる死者に感謝を述べた。
それから、こちらは医者たちの執刀で、人体が一つ一つ解体される。
性器も生々しく丸見え。ついさきほど、自分たちで家畜を解体した子供たちだが、こちらはまたショックが違う。
〈ロトの子孫〉には、戦場で見た死体を思い出してPTSD状態に陥る子もいる。
ケエラも激しく震え、涙も出ず激しい呼吸で過呼吸に陥り、ダンカが必死で支えていた。
「過呼吸だな。口を布で覆うか、紙袋などで呼吸を制限しろ」と、大人が言うのに何とか従う。
医者たちは冷静に解剖を進める。
ザハンから耕していた人々のショックは大きい。教育・医学のために死者を解剖するなど、想像すらできないことだからだ。
病んだ臓器の衝撃も大きく、嘔吐する子もいる。
それでも、解剖は淡々と進む。冷静な子や上級生はいろいろ書いている。
消毒薬の匂いが、むっとただよっている。医師の言葉だけが、静まり返った教室に響いている。
死んで解剖される人もいれば生まれる人もおり、ケエラの村では〈ロトの民〉の新婚夫婦に、近く子が生まれる。
結婚で出て行く予定の者もいるし、新しく加わる者もいる。
実習が終わり、遺体は再び丁寧に縫い直される。そして儀式が行われ、解散となる。
一休みしたら、今日最後の授業は銃の練習だ。
走り、伏せ、掘り、撃ち、また腕立て伏せのように身を起こして走り、伏せて銃を構えながらほふく前進し、また撃って、障害物を越えて走る。
鉄条網をくぐり、銃声とともに非致死性弾が飛び交う中をほふく前進し、塹壕を掘る。
また、騎馬で走りながらの射撃もやる。
今は瓜生がいるので、全員が無制限の弾薬で、AK-74とサイガ12ショットガンを練習している。
ショックからやっと立ち直ったケエラが、得意のAK-74による正確な伏せ撃ちで次々と的を撃ちぬく。
だが、騎乗して駆け回りつつ、距離を正確に測っての遠距離射撃では〈ロトの民〉が優れている。
ザハンから来た子も、やっと叱られずに銃を扱えるようになってきた。
アロンドも練習に参加し、手本を見せる。幼いローレルさえ、銃の安全な扱い方は教えられている。
子供たちにも刃物や銃を握らせ、魔法や武術を教えるロト一族にとって、暴力の管理は実に頭が痛い。
逆に圧倒的な暴力ゆえ、いじめは起きにくい。狙撃は誰にも防げないのだ。
それでも、子どもは残酷だ。男の子も女の子も、形は違うが残酷だ。
前から、ケエラはディウバラのバイオリンに触りたかった。理由は自分でもわからない。
そして、女子の集団で下級生の教室に、通りかかった。
ディウバラが、何か用があったのか、肌身離さないバイオリンを置いて出かけていた。
「あんたのとこのザハンからの子でしょ」
「特別にウリエルさまに、すごい楽器もらったんだって?」
「ずるいよね」
そんな、女の子どうしのちょっとした会話。寝不足。
理由などない。なんとなく下級生の教室に入り、好奇心からバイオリンのケースを空け、木の芸術を眺め、手に取る。
「どうしたっけ」
「確か、客船で見た映画では」と、弾くフリをしてみる。だが、見ているだけではわからないことがある……バイオリンは、手で持つのではなくあごと肩ではさんで支える、ということなど。
誤った持ち方の弓が弦に触れ、音に慌てて取り落とす。
パニック状態になる女の子たち、だがそこに、小さな影が入ってきた。
「大丈夫ですよ。わたしに任せてください」
「ハーゴンさま」
「大丈夫大丈夫。みなさまは〈ロトの子孫〉の、それも勇者ロト直系のエリートですよ。悪いようにはいたしません」
「そうよ、そうよね。エリートだもん。ミカエラ女王直系だもん」
「お、お願い」
「どうやるの?」
「それは、女の子達は知らないほうがいい方法ですよ」ハーゴンがニヤニヤ笑う。
「えー、教えて教えて!」もう、罪悪感などどこかに行ったように、女の子たちが興味津々に聞く。
「ゴキブリ、という言葉になりますが、それでもわたくしめに石を投げないでしょうか?」
キャーッ、と押さえた悲鳴が上がる。だが、それは歓声も混じっている。
嫌悪と興味は紙一重だ。特に、被害者が自分以外なら。いじめられっ子を苦しめるためなら、喜んでクモを素手で集めてくる。
「ケエラさま、ジジさまの教室でラファエラさまやジニさまと学ばれた、エリート中のエリートであるあなたならおわかりでしょう。
魔法で姿を変え、敵将の側近と入れ替わって、敵の従卒を操って敵将を刺させて、あなたはこう叫ぶ……『いくら、前の戦で女を奪われたからって』そうすれば、あなたは安全です。
操られ主君を刺した従卒自身が、『操られた』という情けない事実よりも、『恨みからだ』という言い訳のほうが正しいと、そちらにすがってしまいます。そうなればどんな拷問もうそ発見魔法も、『恨みからだ』という答えしか引き出せません」
「そう、そうね」ケエラの表情が笑顔に戻る。
もちろん、ハーゴンは自白しているようなものだ……自分が操った、と。だが、パニック状態の彼女たちはそれを絶対に直視しないことも、わかっている。
「もちろん、誰にもないしょにしますよ」
ハーゴンの不気味な笑顔。
ケエラはほっとしたようにバイオリンをハーゴンに押しつけ、いそいそと教室から逃げた。
学校の視察を終えたアロンドたちは、ルーラであちこちの開拓地や鉱山を回り、視察とその場での謁見をする。
彼は自分の目で、どんなふうになっているか確かめたがる。謁見を待って会いたがる人に会うより、自分から現場で働いている人に話しかける。そんなところは、ヒトラーのうまくいっていたころを真似ている。
放課後、ディウバラは何も知らずに、ガライ一族の音楽学校に向かう。
ケエラはラファエラたちの魔法教室に。
ダンカは本当なら徒手武術の特別講座だが、今日は寝不足なので休む、黙って教室に行ったら追い返せ、と実家から連絡されていた。
馬で帰ったら深夜にはなるしキメラの翼は高いので、ケエラを待つことにした。ダンカは烈光拳が使えるが、僧侶系の素質しかない。
魔法教室と言っても、ローレシア北方にできつつある、製鉄所の近くにあるドームだ。
滝のような急流のほとりで、上流から引かれた別の流れが水車を回している。かなり大きく、上から水を注ぐ効率の高いタイプだ。
急流自体にも、多くの水車がある。桟橋もあり、上流や下流から鉄鉱石・石炭・粘土・石灰石などが運ばれる。
騒音と、奇妙なにおいと熱気が常にある。
そんな中、ジニが何度か、非常に細かい魔法の編み方をやってみせる。彼女は発動はできないので、サデルが発動するための魔力を注ぐが、それが一回で魔力切れになるほど大量の魔力を消費する。
鉛板の箱の中に、何かとんでもないことが起きていることがわかる。あっという間に箱が溶け、凄まじい高熱を感じる。
「極小のブラックホールが蒸発した。鉛はガンマ線を浴び放射能を帯びているので注意して、あとでウリエル先生に消去してもらうように」
「さ、みんなで同じ呪文をやってみましょう」
サデルに促され、皆で魔法を編む。一人一人の分担分も、かなり細かい。維持し、発動準備をするのにかなり呼吸が乱れている。
サデルが監督して、一人一人の編み目をつなげ、全員で大きな編み目にする。
ミナデインや二人で放つメドローアのように、大きい編み目が広がる。それはジニの、細かな編み目と相似だった。
ラファエラが注いだ魔力に、同じ大きさの鉛箱が激しく揺れ、爆発する。魔法使いの一人が防御呪文でかろうじて全員を守った。
ケエラが、糸がぷつっと切れるように意識を失い、倒れる。ラファエラも激しく息をつき、へたりこんだ。
「できなくはない、わかってるけど、やっぱりきついわね」歯を食いしばりながら、サデルが二人を助け起こす。
「極大呪文を連発するほうが、ずっと楽です」ラファエラが深呼吸する。
ジニは、もう工場に向かっている。耐熱煉瓦の比較試験の結果が出る。そちら側の、技師たちの間でも彼女は中心人物だ。
自信に満ちた、学校での彼女とは別人のような美貌。控え室で居眠りしていたダンカがその気配に目覚め、驚いた。
意識を取り戻したケエラが見たのは、ジニを見送るダンカの後ろ髪だった。
日は暮れかかっているが、ケエラは何も言わずダンカと、用があるジニも連れて、ディウバラを迎えに客船にルーラ。
ジニもケエラも疲れていて、ダンカに半ば支えられながら。
ディウバラは、何か非常に辛いのをこらえている表情だった。
「どうかしたのか」ダンカの言葉に、
「なんでもない」と、ディウバラは首を振った。
「その表情は、大丈夫じゃない」ジニが言い、かといって何もせず、「送ってくれてありがとう。わたしは0805室に向かう」
と、無表情のまま廊下の分かれ道から歩き出した。ただ、いつもの会釈と声に、わずかな感情をケエラは感じた。
「ダンカ!寄っていこうぜ!」〈ロトの民〉がカジノから呼ぶ。
「あ、今日は疲れて」ダンカが言いかけたのを、
「やろうよ!」ケエラが叫んで引っ張りこむ。「ディウバラも、いやなことがあったならぱーっとやろう!」
瓜生はその光景を見るたびに、違和感に叫びそうになる。子供たちが、パチンコ・カードテーブル・ルーレットを囲んでいるのだ。
入り口で大人が、共通貨幣のトークンとは別のメダルを渡す。ケエラは早速パチンコをはじめる。
ディウバラがどこにも行こうとせず、一人で泣きたがっているようなのを見たダンカは、麻雀のテーブルに誘った。
三十分遊んで、ディウバラが倍満を出したのを潮時にダンカが容赦なくケエラを引っ張り、出口でメダルを換金しようとした。
そこで、当然のように大人は三人を別室に連れて行く。
怯える三人だが、そこは何十人もが座る教室だった。
プリントを配られる。それには、「統計・確率」と書かれていた。
「遊んだら、ちゃんと授業を受けていきなさい。いい、ロト一族はカジノを運営する側であって、金を捨てる側じゃないんだ」
皆が帰ったときはもう日も沈んでいたが、子供たちの力もあわせて四日ぶりに家畜用ゲルを移動する。
上のカバーを外し、重りをのけ、竹でできた骨を外してたたみ、十メートルほど蓄力を借りて移す。
移す予定地も軽く足で測量し、水たまりになりそうな窪みからは竜馬三頭の力で溝を掘る。周囲にも、雨が流れこまないようすばやく溝を掘る。
残暑はまだ残るが、かなり夜は寒いので、ゲルはしっかりしなければ特に幼い仔が死にかねない。
雨がちなので、糞尿の溜まった土は耕さず放置する、と大人が決めた。かなり気温は下がってきてるが、うまくすれば冬までに一度、今育っている雑草を収穫できるかもしれない。それから耕してライ麦などをまけばいい。
そして夕の乳絞りを終え、水と飼料をたっぷりやって、やっと夕食。今日は昨日の疲れが残っているので、開拓村全員で食べることになった。
夕食は新米のご飯一杯ずつ、サツマイモ・カボチャ・大豆・ヒヨコ豆の煮物、ゆでたトウモロコシ、ヨーグルトがいっぱい、サツマイモの茎と納豆の味噌汁など。
みんな、ものも言わずがつがつと、信じられない量を腹に詰めていく。
子供たちが学校に行っている間、大人たちも仕事をこなしている。
セロや馬の力を使ってだが、収穫したり冬用の貯蔵庫を掘ったり、池や溝を掘ったり。
木を切り、炭を焼き、切った分の苗を植えたり。
全員分の洗濯も大変だ。家畜の力も借りるにしても。
測量や気候観測などの仕事も、毎日こつこつとやっている。
疲れきり、今夜は音楽もない中、宿題に手をつける余裕もなくハンモックに這いこみ、熟睡した。
ケエラだけは罪悪感で、よく眠れなかったようだが、それも圧倒的な疲労に勝てなかった。
ディウバラはバイオリンから虫が這い出したとき、バイオリンを落とさず抱き締めた。
だがその力が強すぎたのか、明らかに音が狂った。
「ぼく、うまれ、つき、しんし、ないぼく、バイオリン、いけないの」と嗚咽をこらえる彼に、瓜生は故郷で売られている、バイオリンを作るための道具と材料のキットを与えた。
それから、彼はバイオリンをひとりで作り始めた。誰も信用せず、森の奥にテントを作り、頻繁に移動しながら。
一頭の竜が、その音に惹かれたように出てきた。
そして、音の狂ったバイオリンの音を聞き、バイオリンを作る作業を見守っていた。
「ききたいの?音楽」少年の言葉に、竜は答えない。だが、小さな竜も加わっている。
「ウリエル先生、言っ、た。『バイオリンより素晴らしい、この世界ならではの楽器を作って欲しい。この世界の曲を作って欲しい。俺の故郷を追いかけるのはやめて欲しい』。でも、バイオリン、すごい、音楽、音楽、音楽」
そう、もつれる舌でつぶやきながら泣いて、涙を押さえて壊れたバイオリンを弾き始める。
魚焼きグリルつきガスレンジと炊飯器、それは唯一絶対の正解ではないと思っています。
というか、子供十人が当たり前の時代に、昔の市販炊飯器は小さすぎだったでしょう。
大型のビルトイン圧力鍋に、複数の鍋を入れてご飯とおかずを同時調理なら、エネルギー効率は最高でした。
欧米のレシピをそのままやるなら、むしろオーブンこそが必要でした。