奇・・ドラゴンクエスト1の続き   作:ケット

26 / 54
二度目の霧

 霧が出た。今回はもう経験済みで、避難訓練も欠かしていなかったので家畜も混乱なく避難させ、全員が大陸から避難している。

 馬のように変身したアダンの背に乗ったアロンド。アダンの髪の数本が長い蛇となり、襲撃する無数の、虫サイズから象サイズの魔物を瞬時に毒牙にかける。

 

 ジニとローレル王子は、ローレシアに近い工場群周辺を守っていた。

 ローラ王妃は心配していたが、ローレルが駄々をこねて押し切った。

 ジニが常人の頭脳では不可能な情報量で、とてつもなく細かく魔力を編み、それにローレルがサデルでも一度でカラッポになるような魔力を一気につぎこむ。

 トヘロスの上位呪文が発動される。地下も含め二人の全身を入れる正二十面体の内部には、何者も侵入できない。

 魔法使いたちのマホカトールが工場群全体を守っている。一つ一つは小さいが、高炉、熱風炉、反射炉、コークス乾留炉、圧延工場など複合製鉄所が隣接して、水力を利用して集まっている。明治維新には近い水準だ。

 去年は、巨大すぎる怪物の踏みつけで、魔法で守られた建物も破壊された例があった。そのため、本当は図書室で勉強していたいジニだが、ローレルを伴い戦場に出てきた。

 といっても、広い机を用意して、そこにたっぷりと食物や飲み物を並べ、左手でローレルの手を握って、右手ではワイルズによるフェルマーの最終定理の証明を《下の世界》の共通語に手書きで書き写していた。瓜生がゾーマに教わった同値な別解とも比較し、注釈を書き加えながら。

 机の紙もぼやけ、湿るほど濃い霧。

 その脇に、軍用のタブレットやレーダーの表示板がいくつも押しやられている。二人の後ろには剣が何十本も積んである。

 ローレルは、恐ろしく分厚い鋼の鎧を着ている。子供サイズでオーダーメイド、だが合計重量は彼の体重より重い、100kgは軽くある。まともな子なら立っていることも無理だ。

 鎧の上のベルトに、何十本もスパイダルコナイフがずらりと、クリップで留められている。

 むずがるローレルが、突然敵意をむき出しにする。

 ジニはうるさそうに手を止め、軍用のタブレットを取り出し、机に並んでいるレーダー計器を見る。

「製鉄所には、誰だろうと指一本触れさせない」

 霧に何も見えないが、レーダーははっきりと怪物の姿を映し出している。瓜生が出した、大量の遠隔操作砲塔やレーダーもジニは掌握している。

 高速で襲いかかってきた、地上を走る戦艦ともいうべき金属の巨体。地震とも思える振動だけが伝わってくる。

 その巨大さは、レーダーだけが知っている。叩き込んだファランクス20mm機関砲・メララ76mm艦載砲も、レーダーを埋め尽くす影の動きを変えていない。

 美しい顔を眉一つ動かさず、ジニが軽く呪文を唱える。突然超巨体が宙に浮かび、巨大な足があがくのがレーダーにも映る。

 重力を反転し、倍加した。浮き上がり、突進の勢いのまま上に加速していく。そして……百キロ以上離れた、周囲に一人も人がいない岩山に、高度二万メートルから落とした。

 その間にも、正二十面体を無数の怪物が叩く、ジニはうるさげに別の呪文を唱える。

 ローレルの掲げた手から、焔の鳥が姿を現す。

 大魔王や神々の水準で放つメラゾーマの真の姿、カイザーフェニックス。それも一度に四羽。

 さらにその、アロンドが放つのとは違いハヤブサ程度の小型の焔鳥は、いつまでも消えることなく高速で霧の中に飛びこみ、そのまま飛び続ける。

 それでも、霧を通して激しい熱気は伝わってくる。

 持続時間と速度だけを高め、ローレルの魔力が敵と判断した相手だけを自動的に攻撃するよう命じた。

 数メートルの、それぞれが高速で岩のように頑丈な怪物が蒸発し、熱気に霧が揺らぐ。無数の怪物がつながった、ネックレスのような何かがまとめて炎に変わる。

 霧を、強烈な20mmガトリング砲と76mm砲の砲口炎が揺るがし、レーダーの奥で次々と怪物が破壊され、直後に周囲の霧ごと凍結している。

「サンプルも必要だ、とウリエル先生が言ってた」ジニは静かに一つ一つレーダーを眺めている。

「ジニ、ジニ!退屈、退屈、戦いたいよお」とむずがり、泣きながら手に力を入れるのを、必死でローレルは抑えている。

 ジニは軽く困惑しながらローレルを見た。

 この子が本気でつないだ手を握ったら、彼女の手は一瞬で消える。彼女は機械を学ぶために何度も手を潰してはベホマで回復しているので、その痛みには慣れているが。

 彼女の手は、美少女のそれとは思えないほど油で真っ黒に汚れ、古木のように節くれだち、傷だらけだ。数学や魔法だけでなく、機械やガラス加工にも高い才能を持つ彼女だが、それは常に手を痛めつけることにもなる。

「我慢できないの」ジニが冷たく言い、静かにレーダーを見回すと、厚く幅広の長柄剣をローレルに示した。

 普通の鋼。10kgはあり、大人、それも怪力専用と言っていい。だが、ローレル王子は藁のように、小山から二本二刀で抜き出した。

 ローレルの怪力は桁が違い、怪力を誇る〈ロトの子孫〉すら対抗できない。

 とんでもなく分厚い板金鎧のまま走り出し、2秒で時速100kmを超える。霧を見通せる者なら悲鳴を上げるだろう、何本もの足を持つ20mはある塊が待ち受けている。

 容赦なく、霧の中から太い金属棒が高速で突き出されてくる。

 見た目小学校低学年の少年が、戦車装甲もぶち抜くようなそれを、自分の体より大きい剣を片手で振るい受け止める。金属棒に着地、走り渡って本体と思しきところに巨剣を叩きこんだ。

 その瞬間、凄まじい魔力が剣を通じて炸裂し、巨大な怪物と剣が一瞬で光に融ける。

 魔法剣。それもめちゃくちゃな威力だ。

 着地した小さい鉄塊に、霧の中から巨大な角が突き出される。だが分厚い鎧はその先端を受け止め、よろめきはしたが立て直した。手が角をつかむや、サイぐらいある巨体を軽く投げ上げた。

 落ちてくるのを残った剣で切りつけると、怪物と剣がまた光に消え、湧き上がる気流が霧を乱す。

 ローレルが使える剣が存在しないのが、アロンドたちの悩みだった。魔力を帯びる、市販の最高級品である炎の剣・光の剣・隼の剣でも、小さい少年の手に握られ、山にでも叩きつけられれば一撃で消滅する……山もクレーターとなる。

 雷神剣や、老いたロトの剣でも壊れるだろう、と上位魔法使いたちは見ている。

 竜神の魔息、メドローアの魔力に耐えられる剣など、人智の限り存在し得ない。

 アダンが破壊の剣の姿を取ったこともあるが、小さい子に握られた瞬間慌てて人間の姿に戻り、「無理だ!死ぬって、消えるって」とわめいていたものだ。

 鎧の小児を霧の中から次々とタコのような触腕が襲う。一つ、スパイダルコをベルトから抜いて親指一本で刃を開き突き刺し、消滅させる。

 だがその間に、さらに三本が周囲から絡みつき、手足に巻きつき持ち上げる。

 一瞬で、1cm近い鋼の板金鎧がひしゃげるほどの力がかかるが、ローレルの肉体はそれにも耐えた。

 いくつもの吸盤にある、鋭い牙も板金鎧が防いだ。

 引っ張るだけで引きちぎれる、だが触腕は何十本も次々に襲う。

 プレスのような力に軽く対抗している、それでも持ち上げられ、まるで濃い海水に浮かんでいるように、身動きが取れなくなる。

 呼吸もふさがれ、じたばたする……それをどの計器でつかんだのか、霧の向こうで何も見えないジニが、通信機の一つのボタンを押した。

 直後、バギクロスと長い剣が、次々と触腕を切り刻んだ。

 竜女と瓜生が、ひしゃげた鎧に包まれたローレルを抱え上げる。

「よく助けを呼んでくれたな」瓜生が霧の向こうのジニに、ヘルメットのヘッドセットから通信で呼びかける。そして魔法のかかったブルパップ散弾銃から放たれた短距離メドローアが、怪物に大きな虚無の穴を開ける。

 その瓜生を襲う別の、クラゲのような怪物の触手を巨大なダースドラゴンの牙が食いちぎり、直後凄まじい炎が吐かれる。

「こちらも竜王の御子。殺させはしない」

 巨大なアゴが横から襲う。ダースドラゴンの30m以上、太さも10mはある巨体を、猫がサンマに食いつくように襲う、牙の長い深海魚のようなアゴ。

 それに瓜生の散弾銃が向けられると、凄まじい衝撃波が霧を揺るがす。魔法で加速されたスラッグ弾が、砲弾並みの運動エネルギーで連射され、アゴを爆砕した。

 巨竜に守られた瓜生の手から両手剣が消え、ペティナイフが出現すると、それがまた切れぬもののない切れ味で鎧を大根のように切り裂き、幼い王子の姿を出す。

 瓜生が竜女に一言いい、ローレルを抱いて消える。

 ジニはやってきた竜女の手を握り、結界呪文を強化すると多数の火器を遠隔操作し続けた。

「普通なら人は、人を頼ることをためらうものだが」と、竜女。膨大な魔力を引き出され、ジニの精緻な編み目に驚いている。

「わたしは単独では魔法を使えません。銃器だけでは、あの状態から王子を助けるのは不可能でした」

 竜女が、呆れたような共感したような表情をする。二人共、常人とはかなり違う合理主義者だ。

 

 

 アダンが変形した、馬のようなものにまたがったアロンドは、怪物を撃退しつつ西へ西へと駆けていた。

 霧の源、異世界への門を見出すために。

「こちらからは攻撃しない、話をしよう!もうやめてくれ!」と、アロンドは叫び続けながら戦っている。

 だが、怪物たちは霧の中、すべての動く物を攻撃してやまない。あるところより西にいくと、怪物の質が大きく変わる。

 海に暮らす生物のような怪物が多かったのが、半透明なクラゲに似た怪物と、岩のような材質のザリガニに似た怪物が大半になる。

 どちらも小さくて20m、大きければ300mはあり、恐ろしく頑丈だ。

 クラゲの無数の触手は、人間の腕ぐらいの太さでも主力戦車の主砲をひんまげる。

 50m級の、ザリガニもどきがジニたちを襲ったときには、ファランクス……バルカン砲の20mmタングステン徹甲弾でも阻止できなかった。音速に近い速度で動き、凄まじい威力でハサミを叩きつけてくる。

 だが、アロンドとアダンにとっては敵ではない。破壊の剣が流し込んだ魔毒に、100m級のクラゲが制御を失い霧に溶けうせる。雷神剣の一撃がザリガニもどきに風穴を開け、その穴を騎馬が走り抜ける。

 霧がより濃くなり、邪悪な気配が強まるほうに向けて駆けている。

 前回はそうして追っていると突然霧が晴れたが、今回は霧はより濃くなり、霧に重みすら感じるほどだ。

 白い闇。

 徐々に心が蝕まれそうになる、むしろ敵の攻撃が救いともなる。

「むしろ、とんでもねー強いのにでも出てきて欲しいもんだ」アダンがぼやくのに、

「まったくだ」とアロンドも答える。

 霧がより濃くなるところへ、まるで犬が嗅覚を頼りに獲物を追うように急ぐ。コンスタントに時速200km以上、疲れも知らずに。

 たどりついたのは、巨大な大陸の西端近く、湖のほとりだった。

「ここか」

 そこの怪物の密度は異常だった。

 それに対し、アロンドは地に下りるとアダンを剣の姿に変え、魔力を増幅・集中して一閃する。

 絶大な魔力に増幅された破壊の力が、周辺地域を侵していく。

 ゆっくりと、蛇に噛まれた傷口から毒が広がっていくように。そして、奥の何かの心臓を冷やし止めるように。

 その直後、後方から襲おうとした怪物が動きを止め、見当違いの場所を破壊した。

「油断してんじゃないわよ」と、ジジの声。

「そうだな」とアロンドが言うと、アストロンを唱えて多数の怪物を鉄にする。

「固定してくれ」という言葉に、ジジが呪文を唱え、すぐに消えた。

 彼女はほとんど姿も見せず、アロンドをサポートしているようだ。

「む」アロンドが、強烈な恐怖と脅威を感じ、破壊の剣すら手放して力を集中させていく。

 霧を通して、凄まじい稲妻が溢れるようにアロンドの、拳を掲げた肉体を包む。

「お、おい」アダンが怯え、離れた。

 と、みるみるうちに霧が薄れ、晴れていく。

 蠢く怪物たちの気配が、みるみるうちに減っていく。

 アロンドが力を抜き、普段どおりに戻って見回してみると、久々の青空が広がっている。湖面だけが濃い霧に覆われていた。

「なにするつもりだっんだよ、どれだけぶっ壊すつもりで」とアダンがかみつく。

「かなり強い相手がいた気配がしたんでね」と、いつもどおりのアロンド。

「ま、まあ確かに嫌な奴がいたよ。でも」あんたにくらべたら、とアダンは言おうとして口をつぐんだ。

 

 

 霧が晴れて後、宮廷では何人かが、多くの資料を見ながら会議を続けていた。

 長かった霧の事後処理も大変だったが、それも後回しにして、霧とその怪物たちについて。

 昨年は対応しただけだが、今回はジニが何体もサンプルを得た。

 昨年、倒した怪物の死体は霧が晴れれば消えた。今回はジニが凍らせたり、アロンドが長期間持つようアストロンをかけたりしたサンプルが多数あった。

「まず、あれは何なのか、だ」と、アロンド。

「竜王の創る怪物、この世界に普段からいる魔物、また竜族たちとは違う」と竜女。

「機械、にも思える怪物が結構いたな」と瓜生。

「あの怪物たちは、何を目的にしているんでしょう」サデルが首をひねる。

「いくつか仮説を」と、ジニ。「動物を食料として狙っているだけ、というのが一つですが、効率が悪すぎます。また、あれほど異質な生物が、普通の動物を食料とできるでしょうか。

 また、単に熱源を攻撃している、とも見えます。熱源を狙っているかどうか、天然の温泉や火山で検証できます。

 魔力の源を攻撃しているかもしれません。それも検証可能です」

 竜女がうなずく。

「生前の、竜王の戦略目標をうかがっていいでしょうか?」とアロンド。

「竜王陛下はそれほど理性的ではなかった。光の玉を奪った人間に対する憎しみが強かったし、それにローラとの子が強い王になりすべてを征服できる、という予言に憑かれておった」竜女が軽く肩をすくめる。

 竜王との戦いで家族を、仲間たちを失った〈ロトの子孫〉たちが怒りを押さえ顔を伏せる。

 竜女の、復讐心のなさも人間にとっては異質だ。

「サンプルの分析は?」と、アロンドがレポートをめくる。

「今も続けていますが、難しいですね。アストロンがかかっていても、霧から出たらすぐ消滅します。人工的な霧では維持させられません」

 瓜生とジニが肩をすくめる。

「その、消失するということ自体が面白い」

「元素は、大半が生物と同じ、水素・酸素・炭素・窒素です。霧から出ると、そのつながりがなくなり、水・窒素・二酸化炭素にまで瞬時に分解されるようですね」とジニ。

「霧にも、我々の魔力とは違う、なにかの力がこもっています」とサデル。

「目的は何か、忘れるなよ。最終的には、交渉か打倒か。そのために相手を知ることだ」アロンドが軽く脱線を止める。

「このまま、霧の時だけ逃げてれば?」とジジ。

「やめたほうがよい。今回、アレフガルドやムーンペタの一部にも霧が来ようとした」と竜女。

「ありがとう、止めてくれたんだな」アロンドが一礼する。

「魔の島は今上、そなたらがヤエミタトロンと呼ぶ竜の領土じゃ」

「霧の中心は、あの霧が絶えない湖のようですね。上空からのレーダー探査で、どうやら洞窟があるようにも見えます」瓜生がデータのプリントアウトを広げる。

 

 

 霧はともかく、開拓や研究は進んでいる。今回の秋は、測量データがかなり整ってきたので港湾整備もはじめた。

 原則として、干潟は開発しない。やや沖合いに、今は瓜生の能力を用いて大型船を固定し、そこまで陸から吊り橋をつなげることにした。

「将来、鉄道がこちらに広がりますからね」アロンドが地図を見ながら機嫌よく笑っている。

「鉄道やるなら絶対狭軌はやめろ。最初にケチるとあとで絶対直せないぞ」と瓜生。

 開拓民も、収穫後も忙しい。

 水田の刈り入れがすめば豆や麦、ゲンゲなどをまきつける。畑にはライ麦など。

 冬に備える。根菜を収穫し、葉を漬物にしたり家畜のごちそうにする。

 ジャガイモを積み上げ、藁で空気が通るようにして土で埋める。

 ついでに、少し離れたところにも上総掘りで井戸を掘り始めた。

 枯れかけた葛を刈っていると、突然大きな蛇が巣を作っていてビックリしたこともあった。

 春生まれた家畜たちも大きくなっている。ラツカやミラジ、ブホなど成長が早い肉用家畜はもう出荷されている。

 ケエラなどは泣いていたが、誰よりも家畜を大切にしているダンカは逆にさばさばしたものだ。ディウバラは言葉や表情ではなく、音楽で表現しようとしている。

 竜馬やベルベも十分大きくなっている。

 だが、ケエラが与えられている、ドラゴンを父親に持つ馬は、大きくなってもポニーサイズだ。だが力は巨大な竜馬に劣らない。それに粗食に耐え、凄まじいほどにスタミナがある。

 巨大な馬を見慣れているとなんだか情けないが、乗るのは楽だ。最初バカにしていた子もいたが、竜の血が濃いからだと知れば掌を返した。

 さらに、竜と馬の雑種に魔法使いが乗っていれば、魔法使いが使える魔力が圧倒的に増す。

 瓜生たちが綿密に測定すると、食べた飼料の、普通の食物のカロリーと筋肉だけではその力は説明できない。ある種のバイキルトを使って肉体を強化しているようだし、エネルギーも別のやり方で取り入れているようだ。

 魔物も食物のカロリーだけでは説明できない体力があるし、肉体も普通の動物よりずっと強靭だ。

 

 出自の違う人々が集まって働く暮らしにも慣れてきた。子供が次々と生まれて、いつも少しずつバランスは変動する。

 子の世話も分担しているが、教育が最優先される。

 ケエラとダンカの村では新婚夫婦が、いい見本となった。

 妊娠期間中のややこしい健診、出産が空母の病院で行われたこと、そして退院後も健診などが繰り返されること。何より、二人続けて生まれた赤子が二人共死なずに育っていることに、ザハンから来ていた人たちは驚嘆している。

 出産で歯が抜けたりしなかったことも。

 ロト一族の乳幼児・妊産婦死亡率は、他の常識からみれば異常に低いのだ。

 人口はこの二年でもはっきりと増えつつある。〈ロトの子孫〉は竜王との戦いで若者が多く死んでいるが、当時子供だった者が成長しているので、もう三年もしたらたくさん子供が生まれると計算されている。

 その時に備えて、産婦人科医の育成にも、瓜生やベルケエラが熱心に取り組んでいる。同時に、獣医の需要も多く、ダンカはそちらに誘われている。

 ただし、ザハンの人たちが戸惑うこと、それは〈ロトの子孫〉や〈ロトの民〉が、普段の生活にも幼児の子育てにも常に干渉することだ。

 このことは、以前からはっきりしている。家族でも女子供を殴ることを許さないロト一族に、外から人を入れるときには、ある程度のプライバシーの侵害はやむをえない。

 小さい子だけでも、ある程度まともに育てなければならない……オーストラリア先住民の、子を親から引き離して白人の手で育てた悲劇と紙一重なのだが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。