ローレシアの都に初雪が降った頃、ザハン出身の人々が、子供たちも含めて客船に集められた。
何事かと思った彼らに、アロンドが話しかける。
「新しくロト一族に加わった諸君に、ともに学んで欲しいことがある。このほど、ムーンブルクの貴族の次男、セラデミがこのローレシアを侵略する計画を立てた、と知らせが入った」
軽く間をおく。
「数百から、最大でも二千程度の食い詰め者を率いてくるらしい。ムーンブルクの宮廷神聖医師の過激派、ジャテエカも加わっている、そちらが主導だとムーンブルク貴族のレアヤから。こちらの防衛を、手伝いつつ見ていて欲しい」
言葉に、ザハンの人々は顔を見合わせている。
特に、ムーンブルク宮廷神聖医師団の名前にどよめきが上がった。
「ザハンのルビス大神殿と、ムーンブルクの神殿は歴史的に軋轢があるようだな。特に神聖医師団はザハンからの独立に積極的で、またロトの医術を強く憎んでいる」
「勇者ロトに従うぞ!」
「共に戦うぞ!」
「アロンド王に従うぞ!」
と、かつてと同じ絶叫が、特に若く貧しかった人々から上がる。
だが、老人やかつての神官貴族層は不満げな表情もしている。ロト一族に加わってからの、生活の激変は凄まじい……虐待されるわけではないが、かつてのように多数の奴隷を使うような暮らしはできない。
それでも、ムーンブルクに対する反発はあるので、複雑ながら感情を表に出さずにいる。
「こちらで、それに関する報告を見てください。全員、です。文字が読めない人は隣の読める人から聞いてください。
ガライ一族の歌い手からの報告書。ムーンブルク宮廷に通っている医者が聞いた話の報告。
どちらも本来は日本語ですが、共通語訳もついていますのでお読みください」
「ムーンペタは、一応ムーンブルクに服属しているけれど積極的には加わらない、と知らせてくれました」
「水の補給はするけれど、上陸は認めないと」
ムーンペタそのものには寄らず、アレフガルドに挟まれた内海の沿岸沿いにやってきた船が、旅の扉がある場所近くの岸辺に錨を下ろした。
長い航海と激しい嵐に帆は吹き散らされ、船は汚れている。
誰もが、壊血病で口から血を流し、ふらつき死にかけている。
大型のボートが下ろされ、岸にこぎ寄せられる。それもかろうじて。
一人の、贅沢だが汚れた服を着た男がよろめき降りると、地面に倒れた。
「おお、神さま、この大地を与えてくれてありがとうございます!この大地は全てこの俺、セラデミのものだ!」
叫びを聞きながら、ぼろ服を着た男たちがよろめき降りてくる。
「さあ、行こう。ローレシア王城を攻め落とせ、アロンドとかいう偽勇者を生きながら手足の指を一本一本焼き、潰し、腕や足を引きちぎり、焼き殺すのだ!」贅沢な服を着た男が叫ぶ。「われらにはムーンブルクの神官、ジャテエカどのもついている!」
「ロトの医術という邪法を用いる邪教の者たちを皆殺しにしろ!」と、後からよろめき立ち上がった長身の男が叫ぶ。
「女はよりどりみどり、宝石と黄金の山があるぞ!」
セラデミの声に、力尽きかけていた男たちが絶叫し、走り出そうとする。
そこに声。
「上陸を歓迎いたします、ただし検疫と、当局への報告をお願いいたします」ムツキの穏やかな声。
十七人の男女と、さらに百人以上の男女が次々と馬に乗り、あるいはルーラで出現していた。
それだけではない。船も、複雑な三角帆を持つ七隻の船に囲まれている。
「ぬ、ぬうさっそくあらわれたか。よし、では来い。女と黄金をよこせ!」
ぬめり、と邪悪な笑みが男たちの頬をゆがめる。
「お断りします。平和な交易のためにいらしたのなら話しましょう」
平然とムツキが言う。
「なにを……」いきりたつ、贅沢な服のセラデミに、長身のジャエテカが話しかける。
「よし、長を呼ぶがいい、長を!」
そう叫んで、何枚かの布や宝石、剣などを並べ始める。
ゴッサが、のそりと低く筋肉太りした体を運ぶ。服装は簡素。ゆっくりと、重々しい歩きだ。
静かに男を見上げる。
「お前がここらの長か?」
ゴッサは頷くのも面倒、という表情だ。
贅沢な服の男が、左右に軽くあごをしゃくる。
その瞬間、槍を突きつけようとした従兵二人。ゴッサは一瞬で槍のけら首を二本とも切り落とし、長柄剣を柄頭いっぱいに長く突き出して、セラデミの鼻の穴に剣先を入れていた。
剣先の平部が鼻の穴を引き上げているまま、すっと体を寄せて剣を短く握りなおす。
「ロト一族は昔から、ウリエルさまの本を通じてスペイン人やイギリス人たちのやり口はよく聞いてるわ」と、ムツキが無表情につぶやく。
「大灯台の島の〈ロトの民〉も、何度もあんたたちみたいなのを撃退している」と、〈ロトの民〉。
「お、女」
「美しいぞ」
「黒髪」
「おんなああああああああああ!」
ボロボロの男たちが、激しい獣欲をむきだしにして襲いかかる。
ムツキのポニーテールが軽く揺れる。最初の男の手を手の甲で触れたかと思うと軽く引き崩し、顔面をはたくと同時に股間に蹴り、即座に投げ倒す。
男の歯がほとんどない口からあふれる血、どす黒くただれた皮膚を見て、「ひどいビタミンC欠乏症ね」とつぶやく。
次の瞬間、鋭い体落としにまた一人宙を舞い、ほぼ同時に襲う男が斧刃脚にスネを蹴り折られ泣き叫びながら突っ伏す。
比較的元気な男が剣を抜きゴッサを襲う、ゴッサは基本に忠実な一突きで心臓を貫いた。
そして腰の手旗を抜き、数度振るう。
遠くの峰から閃光、それから……ほんの一秒後、男たちが乗ってきたボートから激しい炎が上がる。
バレットM107の、徹甲焼夷弾。着弾から三秒ほど経って、やっと銃声がかすかに響き、煙が上がっている。
直後、激しい音と共に森影から多数の騎馬が駆けてくる。
「降伏しろ。戦うなら来い」と、ゴッサたちは空馬に飛び乗り、駆け去った。
「く、くそおおおおお!怪物どもめ、悪魔どもめ、皆殺しにしてやれ!」
叫ぶ長身のジャエテカ。セラデミは贅沢なズボンに大小のしみを作っているが、それも今更というほど服は汚れている。
船から、何度もボートが来ている。
もちろんその船を囲んでいる軽快な帆船には火器も積まれている。
M2重機関銃と25mmブッシュマスター機関砲、81mm迫撃砲。一隻でナポレオン時代の戦列艦隊をアウトレンジで圧倒できる火力だ。
だが、その帆船は手旗信号を見て何の干渉もせず、包囲しつつ鮮やかな技量で細かな上手回しを繰り返し、位置を保っている。
何度も、大型のボートが波に揺られながら往復している。何人かが力尽き、激しく殴られてこぎ続けている。
よろめく、ムーンブルクの侵略者たちは数頭の馬を引き、よろよろと甲冑を身につけて、よたよたと広い野に向かう。
四百人ほど。船に詰められるだけの人数だ。ここまでの船旅で百人以上は死んでいる。
すでに、数十騎の騎馬隊、それも一人につき馬三頭ずつが並んで待っていた。
百頭を超える竜馬の迫力は凄まじい。
対して、ムーンブルクはわずかな板金鎧の騎士。ほかは槍を持った、ボロ服が多い。数人は鎖帷子を着ている。
魔法使いも二人いる。
かろうじてまとまろうとする、そこに凄まじい速度で騎馬が押し寄せる。
「迎え撃て!」という叫び、呪文を唱えようとする魔法使い、だが呪文は完成せず、魔法使いも僧侶も口を押さえる。
「ま、マホトーンだと」
焦っているあいだに、もう騎馬は二百メートルに迫り、そして鮮やかに左右に分かれる。
その、分かれた股から、すっと天に線が伸びる。
よく見れば、小さくしか見えない影が何かを投げている。
数秒後。天から、鋼の細槍が降り注いだ。
騎士も鎧や馬ごと貫かれる。
「あれ、歩けない……あ、あれ」一人が見ると、足が地面に縫われている。
やっと気がつき、阿鼻叫喚の絶叫が起きる。
同時に凄まじい閃光。三騎ずつが隊列から離れて敵に接近し、左右各イオナズン二発とギガデイン一発ずつ。
大爆発と稲妻の嵐が何十人も打ち倒す。
左右に分かれた騎馬隊は包囲するように統制を保ちつつ、鋼の槍と攻撃呪文を放ち続ける。
次々に貫かれ、海に向かって逃げ出す者もいるし、泣き叫びひれ伏す者もいるし、わけもわからず武器を振り回し泣き叫びながら騎馬隊に向かおうとする者もいる。
戦意がある者は、瞬時にメラゾーマに焼かれる。
戦力が失われた瞬間、ぴたりと投槍はやんだ。
それから数人が駆け寄ると、駆け回る男たちをうつ伏せに伏せさせる。
それから血の海を作っている死傷者のところに向かい、槍を抜き、懐のビンから酒を注ぎながら呪文を次々に唱えた。
死体が、一つずつ蘇る。爆発や稲妻の嵐に、バラバラになっている悲惨な死体すら蘇るものがある。
世界樹の酒を使った、瓜生に習ったザオリク。確実に蘇生するのは正統な王に祝福された勇者たちだけだが、世界樹の酒を用いれば八割は蘇生する。
そして世界樹の利権も、ロト一族が独占している。
重傷者はベホマラーで一気に全快し、何が起きたのかと呆然としていた。
「まだやるか」ゴッサの重い一言。
男たちは恐怖に震え、ひざまずいていた。
「こ、降伏する」
「助けてくれえええええええ」
「もう、もういやだ」
「お、おろかもの、なにをいうか、このような悪魔たちには神罰が下ろうぞ」長身のジャエテカがバギを唱え始めるが、それも即座にマホトーンで黙らされる。
「う、うぎえあ、こ、こんがげがはありえぬ。あれえあぬ、かみがゆぐううすすはあああずー」
もう、ゴッサたちは相手にしていない。一人一人を見回し、戦意がないことを確認する。
「なら、送り返してやろう」
「全員ビタミンC欠乏症、死ぬわよ」とムツキが言う。
「ライムジュースを与えましょう」
「いや、だめでしょう。ムーンブルクの宮廷神聖医師、ジャエテカがいます」
「なら仕方ないでしょう」
と、数人の士官が話し合い、ゴッサのうなずきを受けて、素早くかつ容赦なく、敵軍全員に注射を始めた。瓜生の指導のもと、工夫で作り上げられた滅菌注射器と薬。実は圧力鍋を作ったのも、医療器具の滅菌のためだった。
もちろん全員、槍で刺されるように怯え震え上がっている。
「これでしばらく持つだろう」
もちろん、ジャエテカは泣き叫び、口から泡を吹いている。
「さ、さっさと帰れ」
と、次々と捕虜を三人ずつに分け、一人のロト一族がつかまえたままルーラを唱え、消えていく。
しばらくしてまたルーラで戻り、同じことを繰り返す。
母船もとっくに制圧し、帆を交換し水を補充してやって、回航が始まっている。
一部始終を見ていた、ザハンから耕していた人々は呆然としていた。
「じゅ、銃も使ってない」
銃の訓練を受けている子供たちが、自分の銃を抱きしめた。
「こ、これがロト一族」
「ぼくたちも、その一員なの」
「信じられない」
大人は恐怖と畏怖に、子供は畏怖に誇りが混じる。
「なぜ、皆殺しにするとか奴隷にするとかしないんだ」
ややいい服を着た大人の言葉に、子供が
「ロトの掟!決して虐殺、拷問、強姦はしない、人を奴隷にしない!」と叫んだ。
「生意気を言うな、そんな……非常識な」と殴ろうとしたが、見えない手がその拳をつかむ。
「子を殴るな、誰かが常に見ている」と、声だけがささやき、そしてまた気配が消える。
いい服を着た大人は、恐怖にへたりこんだ。
「さて、戦後処理だ。そのほうが重要だぞ」と、いつの間にか出現していたアロンド。
「みんな一人一人、考えてくれ。もしも君が王なら、まずどうする?」アロンドの問いに、ザハンの人々が驚く。
「そんなこと、考えていいはずがあるわけないじゃない」
「考えること自体が反逆だ」
「農奴の子が考えていいはずなんてない」
「われはアロンドに従うと決めました、お試しくださいますな、反逆を考えることなどいたしません」
しばらく好きなだけ言わせておいたアロンドが、軽く手を叩き態度を変える。
ゴッサやムツキたちが下馬し敬礼するのに、ついザハンの人々も真似てしまう。
子供たちは学校でしばしばやるように、きちんと整列する。
近代国家は、国民の集まりだ。その国民を形成……型にあわせて射出成型・大量生産するのは、義務教育と徴兵制度だ。
工場・病院・刑務所も同様に近代的規律を核心に持つ。
学校で何より重要なのは、時間を告げるベルに合わせて、多人数全員が一人を注目し、姿勢を維持すること。
教室で先生の話を聞くのも、全校集会で校長先生の話を聞くのもそれだ。
体育祭などのために行われる、集団行進の訓練も重要だ。鼓笛隊も重要な要素だ。
その集団行進は公立中学の卒業式で完成し、徴兵制度で磨きをかけられる。全員が制服を着て、ばかばかしいほど細かい校則を守るのも、軍隊に適応するための準備と言っていい。
銃器が普及し始めた、フランス革命からナポレオンの時代の軍隊は、規律こそが戦力だった。
全員が一糸乱れず、太鼓とラッパに合わせて行進する。戦場でも訓練どおりに。
たとえ大砲が目の前で自分に向いて火を吐き隣が肉塊となっても、退きも走りもせず横一列行進で歩き続けて敵に接近し、命令されたときだけ一気に斬りこむ。……第一次世界大戦で、鉄条網と機関銃で何千万もの将兵が犬死にするまでそれは変えることはできなかった。火縄銃程度の銃しかないナポレオン戦争では有効だったから。
それこそが無敵の近代軍にほかならない。
軍隊だけでなく、工場でもその訓練を受けている工員とそうでない者では、生産性は桁外れに違う。
学校が時間割で動くのも、軍隊と工場に適した人間を作るためだ。
単純に学習効率だけなら、授業前後に十五分ずつ自習時間を設けて予習復習させ、昼に三十分昼寝をしたほうが格段にいいが、その延長では蒸気機関で動く織機のボビンを昼夜二交替で点検し続け、フォード以来の自動車工場のラインでネジを回し続けることはできない。
50分授業10分休憩は、工場でもそのまま通用する。軍隊も、音楽とベルやブザー、ホイッスルで人は動く。
国家にとっては、どちらかと言えば読み書きソロバンより、起立・前へならえ(整列)・気をつけ・休め・行進ができればそれでいいのだ。
当然のように整列する子供たちを、ザハンの老人たちは怯えるように見た。
大神殿との関わりが多いザハンゆえに、宗教儀式における規律も多くは経験している。
近代の学校の構造、時間割、細かな規律などは教会・修道院の影響もある。全員が並んで座り、一段高い段から説教する神父や牧師と、学校での授業・朝礼や全校集会を比較すれば明らかだ。
それを言葉として理解することはない。ただ、自分より上の人間がやるのをまね、従うだけだ。だが、人間の心と体はそれを理解している。それで、言葉にできない凄みをロト一族から感じているのだ。
子供たちが、怪物になろうとしている、と感じている。
〈ロトの子孫〉の祖の中心にいたのは、瓜生が〈上の世界〉ネクロゴンドに創立した産婦人科医学校の出身者。病院と学校の両面で、徹底した清潔と科学的思考、人権思想に並んで、近代的規律も一年弱で叩きこまれた人たちだった。
ジパングやサマンオサ出身者の権威主義や無駄な儀式を嫌う面で修正されながら、最低限必要な規律は教育制度に入れ、伝えてきている。
実戦と、建築や農業のための規律を。徒歩でも騎馬でも集団で一糸乱れず歩き駆け、行進し伏せて銃を構えて発砲し、全員で拳と剣を繰り返し、歌や踊りを練習し、農業や土木などの実習をすることで。
血縁と暴力ではなく、言葉で解決する経験を繰り返すことで。
規律のある集団の戦闘力、生産力の凄まじさを常に体験させることで、心から納得させている。だからこそ、誰もが真剣に取り組む。
それと根本的に相反する、自分の頭で考える訓練もしているのがちょっと分裂している。他にも、近代規律集団の最悪の面は取り除いておくため、ガブリエラと瓜生が考え抜いて基礎を築いた。
その規律で並ぶ、ゴッサたちとザハンの子供たち。
「さて、みんな考えて、今度の宿題に出すように。共通語も読み書きができなければ口で言ってもいいよ。
私は、ちょっと勝手にやらせてもらう。いいね、自分の頭で考える。同時に、実戦では命令に従って行動する。命令でも、ロトの掟は破らない。その区別をちゃんとつけ、どちらも大事にするんだ」アロンドが子供たちに声をかけ、命令する。
「戦勝を祝う宴の準備。同時に、各国に知らせを」
命令を聞いたムツキが復唱敬礼し、ルーラで消える。
ザハンの人々が大量に担いでいた酒や食料、天幕は、そのためだったかと納得する。
さらに、ルーラでかなりの数の〈ロトの子孫〉〈ロトの民〉が出現し、彼らがザハンの人を指導して動き出す。
素早く穴を掘ってテントを張りトイレの準備をする。
穴を掘って枯れ木をくべ、近くの水場からくんだ水を沸かし始める。
何度も繰り返された、集団での行動。トイレ、火を焚く穴、湯冷まし、食料、寝床。それは近代的な軍隊が常に行わねばならないことでもある。
ムーンブルクから来た侵略者は、不潔な生活とビタミンを知らないこと、食糧不足による体力低下で伝染病が蔓延し、戦う前から半分壊滅していた。
だが、こうしてきちんとトイレを作り、湯冷ましを飲み、栄養を取っていればずっと長い間、戦闘力を維持できる。
そして次々に炉が掘られ、火が燃えて肉が焼け、ごちそうがふるまわれる。
勝利したゴッサたちはもちろん称賛を浴びる。アロンドも称賛を惜しまない。
「危険ですよ」とハーゴンがささやくが、それも無視してゴッサに、なみなみと蒸留酒を注ぐ。
「さあ、みんなよく考えてくれ。まずすることは何かな?こんな、宴会じゃないだろう?」
「ええと、ごほうびを今回戦ったゴッサたちに」と一人の子が言い、親が止めようとするのをアロンドが鋭い視線で止めた。
「そうだったな。よく言ってくれた、勇気あるぞ。反対する人は?」アロンドの言葉。
「だって、あんなの弱かったじゃない」
「何をあげればいいかな」
「畑!」
「いや、貴族にしようよ」
子供たちがわいわい言うのを、大人は慌てて止めようとしていた。
「それもゆっくり考えようか。みんな一人一人。さてそれから、別にやることは何かないかな?」
そう、アロンドが子供たちに、次々と問いかける。
「追いかけて、ムーンブルクを滅ぼそう!そうすれば、二度とやってこないよ」
「侵略しちゃダメだろ!」
「でも、侵略してくるのを止めるのは、自分を守るってことだろ」
「それに、宝物だってあるかもよ」
「宝物なら、こっちにもたっぷりあるじゃない。食べきれない以上に取っても、もったいないだけだし、無理やり食べさせられて苦しいだけよ」
子供たちが話すのを、アロンドは微笑を浮かべて眺めていた。大人たちは、それを怯える目で見ていた。
考えてはならない、従え……絶対の常識を根底から破る、それが自分たちが仕えると誓った王なのだ。
大人は、どうしようもない。少なくとも全員に、新しい常識に順応するのは無理だ。ほんの少数、順応する者はいるにしても。
だが、子供は別だ。その子供たちも小さい頃の栄養不足で弱さがあるが、そのさらに子供たち。
追いつくのは孫の代だ、といったのは、嘘ではない。もっとも楽観してもそれだけの時間はかかる。
「そうそう、あの連中は、確かに弱かった。でも、ウリエルの故郷の歴史では、あれくらいの人数でも、何千万人もの帝国を倒してみんなを奴隷にし、黄金を奪った事だってあるそうだ。油断してはダメだよ」とアロンドが付け加える。
「うそだあ」
「どうやって?」
「それはね……」と、何人かの大人を集め、そのまま瓜生の故郷の歴史の授業が始まってしまう。
もちろん、ローレシアに残る幹部たちは素早く、外交面でさまざまな活動をしていた。
そのデータも、後にアロンドが子供たちを集めて教育する資料にするつもりだ。その時にはロト一族の子供たちも加える。
こんなやつらが大帝国を滅ぼし、膨大な文化財を灰と金塊に変え、人を欺いて拷問虐殺し、何百万も殺し、奴隷として死なせ、改宗を強制した…すべてを呪いたくなります。