奇・・ドラゴンクエスト1の続き   作:ケット

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幼き勇者小隊

 ケエラが消えて残されたダンカが目にしたのは、ケエラの兄イスサだった。

 彼は用事を強引に作って、ジニの尻を追いかけて工場に来て、見てしまった。ジニがケエラに姿を変え、ダンカにキスしたのを。

「てめえ」と、混乱してダンカの胸ぐらをつかむイスサ。だがダンカの指がひじのあたりに触れると、むしろゆっくりと肘・肩ときめられ、苦痛に表情をゆがめる。

「ケエラとジニが危ない。聞いてましたか、武装して人を連れてきて、と」

 激しくダンカが訴える。

「それどこ」

「おれはどうなってもいい!」ダンカが叫んだ。「間違っていたらどんな罰でも受ける、二人を助けるんだ」

 と、魔力のこもった砂を、イスサに突きつける。

「そうよ」と、どこからかラファエラ、ヘエル、トシシュの三人が出現し、即座にルーラを唱える。

 学校に戻ると、そこでは午後も訓練しようと、数十人が完全武装・騎乗でイスサを待っていた。

「行こう」イスサはそれを見て、瞬時に決意する。

 今は、闘志しかない。

「先に行っているわ」と、ラファエラがダンカの手を取り、リリルーラを唱えた。

「大人を説得する。先に行け」と、トシシュが武器庫の前の教師に何か言い、扉を開けさせる。

「小隊長はおれが、イスサ、おまえは通信を」と、ヘエルがイスサに命じ、馬に飛び乗る。

「イスサ、命令を。全員馬に乗せられるだけの実弾弾倉」ヘエルの声に、イスサは反応した。命令するための声。

「よし、行くぞ!」

 命令に、朝訓練したばかりの小隊全員が応えて叫ぶ。

「実戦だあっ!」

「戦いだ!」

「うおおおおおおおおおおっ!」

 みんな大喜びである。子供だ。

 

 四十五人、出自も年齢もバラバラ。全員が馬に乗り、AK-74と、ほかにもいくつかの火器を手にしている。

 乗り手のいない馬もいる。ケエラの愛馬も。

 分隊ごとに、縦に並んだ騎行隊形から、花弁が開くように広がる。

「息を大きく吸え」ヘエルの命令に、ケエラたちも含めて大きく息を吸い始める。

「第二分隊、銃を構えろ。安全装置解除。第一分隊、必要なら撃ちながら、突撃!」共通語での叫びと手ぶりに、全員が絶叫し、戦いが始まる。

 十人の騎馬分隊が走り出し、射撃を始める。

(こわい)

(訓練通り)

「馬に任せろ、訓練通りだ!」と絶叫する中央の小隊本部に、スカルナイトと、空を飛んでガーゴイルが襲いかかる。

 それに、質の違う重い銃声が次々にほとばしる!

 数人が馬から降り、伏せて機関銃を二脚で支え、連射している。

「遠距離戦はない、重火器分隊は全員FN-MAGだ」とヘエルがほくそえみ、上から襲ってくるガーゴイルの剣を盾で受け止め、剣を突き上げる。

 ひらり、とガーゴイルは飛んで、翼をたたみ落下力を用いて今度はイスサに切りつけてくる。

「速い」

「深呼吸だ」

 その、鋼と鋼が激しく打ち合う音に、皆が訓練を思い出す。

「走れ!」

 第一分隊がケエラたちの側に向けて走りつつ、一人が人面樹にRPG-7を発射する。激しい爆炎が上がる。

「走り続けろ……停止!構え、撃て!」

 十歳の子さえ、馬にしがみついては馬上から射撃している。AKは操作が簡単で、訓練すれば確実に覚える……少年兵の悲劇を生むほど。まして小口径の74は反動が小さい。

 馬も銃声と発射ガスには慣れているが、魔物の気配に激しくいななき、激しく走っている。

「かかったな、襲え!」と妖術師が叫び、草の中に伏せていたバブーンが走る分隊を襲う、それが別の方向から撃たれ、倒れ転がった。

「よし、ちゃんとカバーができているな。第一分隊停止、第二分隊前進せよ」

 イスサが大声で叫ぶ。

 止まっていたもう一つの分隊が、前進している分隊の後ろからよく見ている。第三の分隊は穴を掘りながら、全体を広く見渡す。

 二人がお互いに。分隊は五人と五人に分かれて。二つの分隊が。相互に援護して動くことばかり訓練している。目が届いていない部分があれば容赦なく、きえさりそうも含めて隠れていた大人に非致死性弾でなぎ倒される。

 小さな丘を越えて前進する第二分隊に、グレムリンが呪文を唱え始める。それがイスサのマホトーンで呪文が封じられ、その間に全員が銃弾を注ぐ。15m程度の至近距離だ。

「みんな、ひとつの標的ばかり狙わないで!左右を見まわして!」

 ラファエラが戦いながら叫ぶ。遠くから見ていれば、視野狭窄はよくわかる。

「それどころじゃないでしょ」と、ケエラがスカルナイトの剣技に、必死で切り返す。その影から飛び込もうとするダンカ。

 が、鋭く振り向いたスカルナイトに肩を切られ、その隙を狙うケエラも激しい一撃を受け止めるのが精いっぱい。敵は瓜生の故郷で、フェンシングでオリンピックに出られそうな腕なのだ。陸上でも世界記録は軽く、重量挙げなら世界記録の三倍は軽い。

 ケエラはなんとか剣を繰り出している。

〈ロトの子孫〉〈ロトの民〉とも平和な百年の間、常在戦場の声のもと実戦で通用する武術を追及してきた。学校で毎朝、48式太極拳に似た套路はやっている。だが長老たちは型稽古も、防具試合も実戦とは違うことを理解しており、馬上槍試合やリング試合のようなスポーツ化は厳しく戒めている。単純な技の反復練習、多対一の奇襲、実戦的な集団戦の訓練で、とっさに技が出るようにはしている。そのおかげで、竜王戦役で〈ロトの子孫〉は戦えた。

 ラファエラやケエラが回復呪文を唱えようとするが、猛攻に暇がない。

「ダンカを助けろ!」ヘエルの命令に、四人の〈ロトの子孫〉が馬を激しくあおる。

「戦い続けろ、血に酔い狂って自滅するがいい!そして人間は、命令する頭さえ押さえれば烏合の衆よ!」妖術師が怒鳴り、次々にガーゴイルをヘエルやイスサに向かわせる。銃撃のダメージもかまわず落下速度で切りつけては急上昇し、強大な力と剣技で襲うガーゴイルに、人数が減った司令部は混乱している。

 特に馬を切りつけられると、集団でうまく動けなくなる。小隊司令部に直属するFN-MAG六挺は強大だが、重く上に向けたりするのは大変だ。

 重火器班の二人が伏せたまま連射している。ディウバラもしっかりと銃を構え直し、立ち上がっては重い機関銃を持って走り、また伏せて木を利用して銃口を上に向け、連射している。

 グールの腐った体が、7.62mmNATO弾の連射に崩れ落ちる。

 あちこちで、手榴弾の爆音がとどろく。騎馬分隊にとって、手榴弾も主力武器。特に動きが鈍いグールには有効だ。

 弾幕と爆音をくぐり抜けて、草むらから襲うサーベルウルフが巨馬と共に倒れ、血しぶきと共に乱戦となる分隊もある。

 長柄広刃の剣鉈が抜かれ、応戦するが、圧倒的な力を持つ魔物の前に子供の力ではまったくかなわない。

 が、そこを別の騎馬分隊が駆け抜けながら、馬上から槍で魔物を貫く。

 恐怖と痛みに絶叫する子供たちもいる。凍りついたように動けなくなる大人もいる。傷を負っても構わず激しく戦う女の子もいる。

「訓練通り、三時の人面樹を囲め!構え、撃て!」

「ミナヅキ、手榴弾!」

 実戦経験がある大人が分隊長をし、必死で子供たちに単純な命令をする。訓練通りに動けるように。

 むしろ、馬が訓練通りに動いてくれている。

 ジニとケエラを襲う巨大で足も速いオーク、その豚面と膝をジニが編んだ呪文が爆発させ、巨体が崩れ落ちる。だが、次々と敵は襲う。ラファエラの呪文も敵の魔法使いに封じられ、スカルナイトの死体から奪った剣で戦っている。

「もうそろそろだ、もうガキどもは理性を失い血に酔って、統制を失う!」妖術師がおめく。

 ヘエルとイスサは、激しく馬を走らせながら血まみれで剣をふるっている。剣の腕がすさまじい上にルカナンも使うスカルナイトに、大人も苦戦している。

 だが、三つの騎馬分隊は平然と動いている。交互に前進と援護を繰り返し、適度に後退しては第三の分隊が掘っている穴に隠れて深呼吸しつつ戦線を見まわし、必要とされるところにセミオートで正確な射撃を、十人まとめて送っている。RPG-7は巨大で動きの鈍い魔物や、固まった群れを一発で撃破する。

 穴には、火力分隊のうち馬が無事だった四人も退避し、すばやく機関銃陣を作って激しい連射を続けている。強大なバブーンが穴に突進し、崩れ落ちた。

「な、なぜだ、どうして統制を失わぬ。血に酔わぬ」

 妖術師が見まわすと、戦場の一角で、小さな小さな少年が大音量のホイッスルでリズムを刻み、手旗を振っていた。

 別のリズムになるたびに、激しく突進していた騎馬分隊が強引に馬首を返し、足を止めて次の分隊に交代して土壁の向こうに退避し、深呼吸し、水を飲む。

 ピーーピッ、ピピッ、ピーピーピッピー。『第二分隊、後退し深呼吸し水を飲め』。

 手旗には分隊それぞれの色と、丸・三角・十字など単純な図があり、銃声で耳が聞こえなくても瞬時にわかる。

「な…まさか」妖術師が気づく。「おまえが本当の指揮官かあっ!」

 ディウバラも射撃を続けているが、方向は隣の火力分隊長が決めている、機械的に撃っているだけだ。意識は、全体を見て指示することに向いている。

(タヘエ、リズムがみんなと合ってない。ハーモニーが崩れる)

 ここに向かう道で、ヘエルとイスサが全員に言い聞かせていた。

「司令部がやられたら、ディウバラが音楽だけで指揮を取る。いいか、リズムが崩れている人がいる隊を呼び戻すだけでいい。全員服従しろ」

「おまえの、あの指揮はめちゃくちゃだったが、みんな気持ちよく呼吸を合わせられた」

「竜王戦役の時から、司令部をやられるのは想定内だ」

 と。

「やれ、本当の指揮官をもみつぶせえっ!」

 絶叫とともに、次々に出現するグール。FN-MAGの弾幕も構わずディウバラを襲う。

「やらせるか!」

 駆け寄るダンカ、だが彼も傷が重い。それゆえに力が抜け、拳の光は鋭く輝くが、命なきグールに烈光拳は通用しない!

 皆が声のない絶叫になろうとした、その時。

 恐ろしい速度で森から駆け寄った塊が、グールを踏みつぶし、強烈な炎を放って焼き払い、強靭な尾で弾き飛ばす。

「ドラゴン」人々が恐怖と驚きに、呆然とする。

「あらって、くれた、おと、きかせて、くれた」

 ダンカとディウバラが顔を見合わせ、笑顔になる。

「のれ」

 その一言に、二人が巨大な竜馬よりさらに大きい体に、這い上がる。

「ジニを助ける」

 ダンカの一言に、ドラゴンは巨大な体を素早くひるがえした。

「させるか、戻れ!襲え!」叫んで岩陰から飛び出す妖術師に、大量の銃弾とRPG-7が襲う。

 元から射程が長いAK-74、多少戦域が広くても、姿さえ出ていれば大量に撃てば当たる。

 ガーゴイルが背を向け、統制が乱れ……一気に乱戦になる。

 竜の背にしがみついたままダンカがFN-MAGを支え、ディウバラがバブーンの腹を数発ぶち抜く。それに別の分隊が、至近距離から全員で射撃し倒す。

 穴の中から、馬から降りて冷静に狙う十人が、ガーゴイルを一体ずつ撃ち落とす。

 襲うサーベルウルフとオーク、だが騎馬も槍もドラゴンの鱗を貫通できず、ドラゴンのあぎとがオークの腹に食らいつき、激しく振り回す。乗っている二人は必死でしがみついている。

 食いちぎられて二つになったオークが転がる。ダンカが転げ降り、ドラゴンの脇腹に食いつこうとしているサーベルウルフに拳をぶちこむ。閃光とともに体が溶け、それでもふるう爪から、駆け寄ったケエラがかばった。

 疲れれば疲れるほど、ダンカの拳は冴えを増す。ロト一族が伝える烈光拳を初心者に教えるには、とことん疲れて力を抜いて、それから目に焼き付けた見本通りの動きを一つ、数回でいいからやる。もちろん、全員が学校でやる基本そのものだ。

 それから千回などとんでもない数一つの動きだけやるのと、徹底的に疲れてからできる限りやるのを交互にやる。

「元気な状態で二百回やっても、間違った形しか見につかないわ。力を抜けと頭で体に命じても、実際にはがちがちに力が入っているものよ。完全に疲れた状態で一回でもやりなさい。百の技を身につけるより、一つの技を一年かけて完全に体に叩きこむの」

 そう、厳しく常に言われていた。ムツキが霧に飲まれたと知らされてからも、自分たちで練習を重ねているし、時には長老格の武闘家やアロンド王さえも見本を見せてくれる。

 烈光拳、増幅された過剰治癒呪文に崩れながら暴れるサーベルウルフの頭部に、至近距離からディウバラがFN-MAGを注ぎ、ついに巨体が動きを止める。

「勝ったと思うなよ」倒れた妖術師の、呪いの声。「シドーよ、わが命を生贄にささぐ……より強大な魔を!」

 そう言ってこと切れた、その体が不気味な、恐ろしい悪臭の風と煙となる。

 煙が風に吹き去ったとき、そこには三体の、十メートルはある青い一つ目巨人と、五メートルはある四足の機械が何機も。キラータイガーの群れ。

「サイクロプス」「メタルハンター」大人がうめく。どちらも小銃弾はまったく通用しない。

「RPG-7!」

 分隊長の命令に、四人が筒を担ぎ上げ、周囲は退避して、装填し発射する……訓練の成果か全部発射は成功したが、サイクロプスは横っ飛びにかわしたり掌で払いのけたり、メタルハンターは一機直撃で破壊できたが、まだ何機もいる。

 はっきりとわかる、勝てない、と。

(塹壕を作るべきだった、対戦車地雷を持ってくるべきだった)ヘエルが後悔にとらわれる。

 傷つき、疲れた小隊。

「まだ……最後まで、戦い抜く」ケエラが、おめいて起き上がる。

 竜が激しく、戦いの咆哮を上げた。

 RPG-7射手が、次の弾をねじ合わせ、筒に突っ込む。訓練通り、機械的に。

「指揮官に」ダンカに助けられ、竜に乗せられたジニが、弱りながら精一杯の声で言う。

「わかった、おねがい」と竜に言い、竜の巨体が素早くヘエルのところに向かった。

「地図を」

 ジニは、ヘエルが持つ地図を見て、コンパスを調べ、西南西の方角を指さした。

「あっちに2.6km。そこに岩がある、そこまで逃げれば勝てる」

「そこに切り札がある!」と、ジニの記憶を持っているケエラが叫ぶ。

「……わかった」と、ヘエルがホイッスルを強く鳴らした。

「こちらに向けて走れ!突破しろ!」

「第二分隊と重火器分隊、そこの岩陰から弾幕を張れ!」

「手榴弾で血路を開け!絶対に止まるな」

 

 騎馬隊とドラゴンが、道なき原野を駆ける。背後からは容赦のない、巨大な魔物の足音。

 ひたすら戦い続けるのとは、違う。むしろこちらのほうが怖い。

(実戦)

(怖かった)

(追いつかれる)

 みんな怖い。

 それ以上に、実戦を見たことはあっても、実戦そのもの、まして指揮官として戦った経験などないイスサはもっと怖い。

(逃げて、もし崩れたら)

(みんなが崩れたら、それは軍隊じゃない、無力な獲物だって)

「間隔を保て!移動しているんだ、逃げているんじゃないぞ!」

 ヘエルの叫びも、ろくに耳に入らない。

 ディウバラがリズムを刻むホイッスルも、背後の恐ろしい声と、自分と馬の激しい息にかき消される。

 傷つき、疲れたケエラとラファエラは馬に乗っているのも精一杯だ。

 馬の速さで、しかし長い時間がたったように思える騎行。

 ついに大きい岩にたどり着いた時には、疲れを知らない機械に追いつかれる直前。

(どうするんだ、ジニ)イスサはそう叫びたいのを抑えた。

「心配しないで、ここなら」と、ケエラがほくそえみ、岩影に隠れる。

 サイクロプスが岩を転がす、岩は軽々と吹っ飛び、軽さに戸惑ったように動きを止める。

 瞬間ケエラが、半ば竜である小馬の魔力を借りて、すでに呪文を編んでいたジニに力を貸す。

「お姉ちゃんも協力して。ドラゴラム……竜機融合」

 岩はコンクリートで作ったハリボテ。その下には、メルカバMk-4戦車!

 ケエラが竜に変身し、機械に融合する。瓜生が得意とする呪文だ。

「みんな距離を取って」

 ジニの言葉、ヘエルが慌てて手を振り、皆が馬腹を蹴って馬がダッシュする。

 襲いかかるメタルハンターに、ゼロ距離から120mm砲が咆哮、爆砕!

 何人かが、砲口炎に馬ごとなぎ倒される。全員耳が聞こえなくなり、尾毛が燃え出す馬もいる。

 訓練された馬も、さすがに狂奔する。

「馬を眠らせろ」と、ヘエルが決断し、ラリホーを唱える。

 そんな中、竜と融合した戦車は恐ろしい速度で離れ、主砲がサイクロプスの上体をあとかたもなく消し飛ばす。キャタピラに踏みにじられた泥や灌木が飛び散る。

 次々とメタルハンターを破壊する戦車。乱戦の中、歩兵のRPG-7も巨大な敵をとらえる。

 別のサイクロプスを、ドラゴンが噛みつき爪で引き裂き、激しい格闘になる。

「戦車から距離を取れ!円陣を組み伏せ撃て」

 キラータイガーの群れに、戦車からも重機関銃が連射される。

 火力分隊を中心に、訓練通り走って伏せて、撃つ。

 一匹、ジニを狙ってきたキラータイガー。

 イスサが両手で突いた長剣が首に刺さる。……吹き飛ばされたが。

 ダンカが踏みこんで放った拳の閃光が、肩から胸を溶かす。……そのまま勢いで引きずり倒される。

 そしてラファエラのメラゾーマ。ジニを目前に、魔獣は力尽きた。

 メタルハンターを戦車砲が撃滅してから呪文が解け、ケエラがメルカバの横で力尽き、崩れ落ちる。

 

 

 戦いが終わり、傷ついた馬と人がうめき、硝煙と泥、腐肉のにおいに息が詰まる。

 激しく息をついた子供たち。眠らされ、力なく足掻く馬。

 馬腹を蹴って、どこへともなく走ろうとする子もおり、大人が必死で止める。

 大小を漏らしていたことに気が付き、恥ずかしさに泥に顔をうずめる女の子もいる。

「負傷者や負傷馬を、みんなで手当てして後送しましょう」

 疲労を押し殺したラファエラの言葉に、大人たちもうなずく。

 魔力も尽きている者が多い。

「学校に、戻って、いろいろ持ってこい」ヘエルの命令で、かろうじて動ける大人がキメラの翼を使った。

「全員、警戒しつつ水を飲み、円陣」

 それだけ言ったヘエルが、力尽きた。

 ルーラで本部に戻った四人が、またリリルーラで戻る。四人で担げるだけのテントと衣類、ハチミツと水を持って。

「水場に歩いて移動し、シャワーを作って全員体を洗い、服を交換しましょう。汚している人も多いから……気にしないで、大人の兵士でも初の実戦では普通よ」

 恥ずかしさに苦しむ子には、それがどんなにうれしいか。

「そして一人ずつ、たっぷりハチミツを入れた熱いお湯を飲んで」

「まだ終わったとは限らない、最低限の警戒はしろよ」

 

 全員、とりあえず体を清潔にし、治癒呪文で傷を癒される。

 治癒呪文がなければ、瓜生の故郷であっても生命や身体障害の危険があった重傷者も十人以上いた。

 助からなかった竜馬も二頭。

 

「さてと」

 学校の、広いテントに集められた全員に、校長と〈ロトの子孫〉の長老の一人が声をかけた。

 後ろには十人も、近隣から僧侶が集められている。

「トシシュから、いろいろと聞いている。今回の、主に生徒による事後承諾の戦闘は、正当な戦闘行動と承認されている。安心しなさい」

 長老の言葉に、わあ、っと声が上がる。

「ただし、一人一人どのような経過でこの戦闘に参加し、何をしたのか話してほしい。戦闘は深い心の傷になり、戦後の社会復帰にもかかわる」

 校長が静かに言う。

「早期、迅速、接触、期待、近接、正攻法だ。早く、しっかり休むんだ。そして一人ずつ、一番恥ずかしいことやつらいことを、僧侶に言いなさい」

「待ち時間は、瞑想するもよし、もう一度風呂に入り直すもよし、本を読むもよし」

 長老が言い、みんなほっとする。

「今は何を言っても頭に入らないだろう?ゆっくり休みなさい」

「ただ、この戦闘については、人に言わないように。重大すぎる」

 トシシュが厳しく声をかけた。

「では、番号順に」

 ケエラにとって、その待ち時間は、戦いよりずっと恐ろしかった。

(戦死していればよかった)そう、どれほど思ったかしれない。

 

「そもそもの始まりは、ディウバラのバイオリンをなんとなく触りたくて、壊してしまった時からです」

(ハーゴンのせいにはしない)そればかり自分に言い聞かせながら、すべてを話す。

「……最後に、ジニの記憶を盗んでいたので、機械との融合呪文をラファエラと協力して発動し、竜に変身して戦車と融合しました。それ以降の記憶はぼーっとしています」

 言い終え、そしてじっと僧侶の目を見て、待つ。

「……ロトの掟を破り、同胞を生贄にしようとしました。以上です」

(どんな罰でも、死刑でもいいし、終身刑でもいい。早く)

(ハーゴンの命令、脅しは、理由にはならないもの)

(早く処刑して!)

 体が爆発しそうなほど苦しい。

 そんな中、静かに女僧侶が口を開いた。柔らかい微笑を浮かべて。

「ロトの掟には、罰則規定はありません。どう破ったかを、毎年何人かに告白するだけです。

 罰や金で償うことはできません、死刑でも償えないんですよ。

 ただ、今から生きる。行動を選ぶ。それだけです」

 

 呆然とテントを出て、イスサとダンカ、ラファエラのところに行く。

 やはり顔を合わせづらい。

「石を投げる資格がないのは、おれも同じだ」と、イスサがケエラにまっすぐ言った。

「行動を選んだじゃない。正義のために戦いぬく、って」ラファエラがケエラを抱きしめ、なぐさめる。

「わたしたちも、心が壊れる目にあった。でも、ロト一族はそれから立ち直るための、心の医療だってちゃんとあるんだから。全員、実戦でとても苦しんでるわよね、ちゃんと治療しなさい」

「ムツキ先生も、ガライの墓の試練で掟を破ったことがある、と教えてくれた。おまえが道を踏み外しそうになったときに教えるように、って」

 ダンカの言葉に、ケエラはびっくりした。

 なぜか涙になる。止まらない。とめどなく、泣き崩れる。

「ええっ、ぐ、うわあ、あああ、あああ、ひう、あああ」




ケエラたちが、自分たちも主人公扱いしろと叫ぶ要求にやっとこんな形で応えました。

「3」「1」もそうですが、このシリーズ全体のテーマの一つは
「どん底に落ちて這いあがって、初めて本当の強さだ」
です。

瓜生も、ミカエラとラファエルも、アロンドも…みんな、取り返しがつかないことをやらかしています。どん底の底まで自分の弱さ・闇の面を思い知り、自己嫌悪の地獄から這いあがっています。
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