ロンダルキアの、伸ばした手も見えずすべてが凍りつく吹雪。
暴風より激しい雷の轟音、封印された魔城。ルーラでたどり着いたハーゴンに、瓜生とジジが追いついた。
「マホトーン!」
ハーゴンの先制呪文に、二人が喉を抑える。
「お前らだけでも生贄にしてやる、わざわざ生贄になりについてきたとはな。出でよわが騎士ども、ギガンテスども、悪魔神官ども、アークデーモンども」
神々といえる巨人たち。
顔が見えないほどの巨体から、超音速で、大木をそのまま引っこ抜いた棍棒が打ち下ろされる。
「殺せ!殺せ殺せ殺せ!」
瓜生とジジは軽く目を見合わせ、素早く雪の中を動く。
棍棒がジジの白いシルエットを完全に叩き潰した、
「それはシーツだ、バカ何をしている」
ハーゴンが絶叫する。
瓜生は身長より長い両手剣で、ハーゴンの騎士やギガンテスを切り倒している。
彼の剣術はアロンドやサデルとは違い、華麗な技巧はない。上段から袈裟に切り下ろす、突くの二つだけ。
毎日。〈上の世界〉で諭されてから、両手剣と短刀で百ずつ練習を重ねてきた。万日の稽古を錬とするに至っている。
彼の剣は見た目は鋼の両手剣。だがそれにはゾーマ城で邪神の力を借り、諸刃の剣・はぐれメタルの力・メドローアの魔力が封じられている。どんな物体も豆腐よりたやすく斬り、形なき霊も滅ぼす。
両手剣自体は飾り気がない。だが、柄頭に唯一宝玉が輝いている。まったく別の世界で魔力を付与され、魔法の杖のようにルーラを何度でも使える。
その短距離ルーラで、超スピードと同じように攻撃をかわし、懐に飛びこむ。そして瞬時に両手剣が手から消えると優雅な短刀となり、突き上げがハーゴンの騎士の首を貫く。
と思うと、姿が消えると同時に別の場所に出現し、両手剣が巨人の脚を袈裟に切り落とす。
その技は、瓜生の故郷の見る人が見れば言うだろう……示現流の二の太刀不要と、八卦掌・太極拳の螺旋を兼ね備える。ロト一族の徒手武術と共通する、ゾーマ由来の技法だ。
瓜生自身が子供のころ習っていた剣道とは、もはや似てもいない。
防御もろくにないが、彼が身に着けている不可視の魔衣は鉄壁の防御力を持っている。剣と同じくゾーマ城で、竜の女王の鱗・水の羽衣・力の盾・カーボンナノチューブなどを合成したものだ。戦いながらでも回復ができ、魔法や炎も大きく軽減する。
単純な運動能力も超人的だ。ゾーマ殺しは伊達ではない。
雪の中、ジジが二枚のカードを投げる。それが風に乗ってすさまじいスピードで悪魔神官を襲う、だが二枚とも外れる。
仮面の下のほくそ笑みが見えるように、棍棒が振りかぶられる、だがそうして踏みこんだ瞬間、悪魔神官が目に見えない何かに縛られ、暴れた腕が、足が次々と切れ落ちる。
ぴん、とジジは手にした、目に見えないほど細い糸をはじいた。
「ゾーマから作り方を学んだ闇の衣と同じ繊維、天露の糸、そして……あとは企業秘密さ」
「前に見せてもらったが、軌道エレベーター余裕で作れる強度だよな」
瓜生が軽く微笑み、ジジを背後から押しつぶそうとしたアークデーモンとの間に出現すると、サイガブルパップショットガンを発砲する。
すさまじい衝撃波と魔力に、巨体に風穴がいくつも開き、頭部は消滅している。
剣と同じく別の世界で魔法をかけられたブルパップショットガンは、スラッグなら音速の何十倍にも加速して砲弾並みの運動エネルギーを与え、OOバックショットなら短射程のメドローアとなって目の前のすべてを消し去る。
「くそう、なにをしている!さっさと奴らを殺せ!」
ハーゴンが絶叫するが、瓜生とジジはのらりくらりと戦い続けている。
アークデーモンが瓜生にイオナズンを唱えようとするのを、すっと背後に回ったジジが軽く刺す、それだけで象より大きくコンクリートより頑丈な体躯が、内部で爆発するように弾け、溶けていく。
「この短剣には、アダンの魔毒がたっぷり塗ってあってね」
「ジジの魔法を封じたのは愚かだったな。こいつは奇術師としても、盗賊としてもアッサラーム仕込みの一流だからな」
「あんた、あたしたちと旅してた時はずっと戦士みたいに槍振り回してたわね」
「まだ賢者になりたてだったし、この能力はあいつらには言えなかったからな」
と、思い出話をしながら、瓜生が手元に出して放ったカール・グスタフ無反動砲がアークデーモンを直撃する。すぐにKord重機関銃に持ち替え、人間離れした力でM16ででもあるかのようにフルオートで撃ちまくる。12.7mm弾の威力は、ギガンテスですら脚に当たれば転び、頭部に20発もぶち込まれれば動きを止める。
ジジもどこかに隠していたゲパード14.5mmセミオート対物ライフルを巧みに使いこなし、奇術で誘導したギガンテスの一つ目をぶち抜く。
「うぬ、いでよアトラス。バズズ。ベリアル!」ハーゴンの絶叫と共に、ひときわ巨大な三体の魔神が出現する。
大型ビル並みの巨大さに似合わず俊敏なアトラス。
底なしの邪悪さと魔力を秘めたバズズ。
どれほど大きいのかわからない、城が歩き出したようなベリアル。
アトラスとバズズが、ギガンテスたちを率いて襲う。
瓜生がドイツのプーマ装甲歩兵戦闘車を出し、飛び乗る。車内から遠隔操作できる30mm機関砲があり、一人で操縦と銃撃ができるように改造済み。キャタピラの悪路走破性能もある。
巨大な棍棒を、自動車並みの大スピードで回避、旋回しながら機関砲を撃ちまくる。ギガンテスやアークデーモン程度なら一発でも命中すれば上体がなくなる。
だが俊敏なアトラスにはなかなか命中しない。たまたま腕に一発命中して腕が吹き飛ぶが、動きを止めるには至らず、傷もすぐに再生する。
バズズが大呪文を唱えようとした。そのすぐそばにジジが、かぶっていた雪の下から出てくる。遠くで戦っているように見えたのは、糸で布を操っていたに過ぎない。
至近距離から口に投げ込まれた焼夷手榴弾が白燐の消えない炎を上げ、バズズが痛みに絶叫し毒煙を吐く。
アトラスが機関砲の弾幕すら超高速でかわして装甲車の懐に飛びこみ、棍棒を叩きつけて頑丈な鉄塊をゴキブリのように叩き潰した。だが、瓜生は直前にハッチから逃れ、魔銃のメドローアとKord重機関銃を連射し、白燐手榴弾の煙幕を張る。
そしてかなりの距離にルーラで逃れ、対空用の20mmバルカンを用意すると遠距離から撃ちまくる。
「あたしもいるんだけど」というジジの叫びすら届かない距離から。
瓜生の死角からすさまじい早さで襲いかかるギガンテス、だがその足が糸にとられて転倒し機関砲が巨体をずたずたにする。
「最初からそっちにいたんじゃないか」
「わかっててやったんでしょ」
「やかましい、遊びはそれまでだ!」
ハーゴンが叫ぶ。その背後には、膨大な数の巨大なシルエットが吹雪の影に、かすかに見えている。
「霧、異界の魔そのものとウリエル、きさまの故郷の機械を参考にして作り出した、キラーマシーンとその眷属メタルハンター、キラーマジンガ……それがここには千あるのだ!
一つや二つは倒せても、とても千戦う体力などあるまい。
死ぬのだよ」
ハーゴンが嘲笑う。
「それが?」瓜生は言うと、通信機をいじくっている。
「あたしに時間稼ぎしろっての?」ジジがぶつくさ言っている。
「ロマネ・コンティ二十年ものやるから」
「あんたにとってはタダじゃない。うまいけど」
そう軽口をたたき合いながら、ジジは糸や布など単純な道具だけで、魔法も使わず鮮やかなマジックショーを繰り広げる。
魔機械たちがことごとく騙され、別のほうに誘導されたり同士討ちしたりしている。
「終わったよ、伏せろ」
瓜生が言って伏せる。直後、遠くから順に巨大な機械魔が、すさまじい爆発で粉砕されていく。正確に。
「な、何だ」
「上だよ、上」瓜生が空を指さす。
一瞬吹雪が晴れた高い空、そこには竜と融合した金属の巨鳥。B1ランサー爆撃機が可変翼を大きく広げ、低空をゆっくりと舞いながら多数の精密誘導爆弾を落としている。
「ラファエラとサデル、あとケエラとジニの二人に頼んでおいた」
「ケエラ一人じゃきついけど、ジニと組めばドラゴラムから機械と融合するのもなんとかなるからね。ドラゴラムは持続時間長くないけど、かわるがわるやればどうにかなるし」
「ばかな、この山々で隔てられたロンダルキアに」
「ランサーの航続距離と高空性能をなめるなよ」
「くそうっ、イオナズン!」
ハーゴンの呪文、だが爆発の中、巨鳥竜は悠々と飛んでいる。
「竜と融合してるんだ、呪文なんて効かないよ」
そう言っている間に、無数の精密誘導爆弾が次々とキラーマシーンを粉砕していく。
バズズが咆哮し、飛び上がってB1ランサーを襲おうとした、そこに突然空から、黄金の巨竜が舞い降りて蹴り落とした。
その両手と瞳は人のもの。アロンドと竜王の種をローラが産んだもう一人の王子、ヤエミタトロン。頭から尾までの全長は30mを越える、人の腕を持つティラノサウルスのような姿。
その手には、体のサイズに合う巨剣が握られている。
「あれは」
「ロトの剣。もう寿命に近いけど、あいつの力と融合してる」
「あんなでたらめな大きさになるなんて」
「まあ、もともと神々の剣だしね」
アトラスの巨大すぎる、何の石で作ったかわからない棍棒を切り飛ばす、その脇から噛みつこうとするバズズを、別の巨竜が体当たりする。
それが美しい竜女と化して、バズズやハーゴンと激しい魔法戦闘を始める。
そしていつしか遠くに離れていた瓜生は、バルカン砲で残った魔機械たちを次々に粉砕し、援護砲撃を正確にぶちこんでいく。
人の両手と瞳を持つ巨大な竜神王子が、アトラスとまともに力比べをする。相撲のように。
そして、とてつもない力で上手投げに倒し、その腹を鋭い牙で食いちぎると、口から黄金の光束を吐いて焼き尽くした。
バズズが背後から襲おうとするのを、竜女がはばみ魔法と魔法、炎と炎の激しい戦いになる。遠くから瓜生のバルカン砲が確実な援護射撃を送る。
有利な位置に飛び逃れようとしたバズズが、足をジジがかけていた糸にとられて地面に倒れ、その瞬間バルカン砲の集中攻撃で跡形もなく消え失せた。
そして残ったベリアル。
すさまじい威力で投げた槍が、バルカン砲を一発で破壊する。
瓜生が短距離ルーラで竜女のもとに逃れ、メルカバ戦車を出すと、ジジや人間の姿に化けた竜が飛び乗った。
「車長はいないが」
といいながら、戦車が高速で逃れる。
そして、巨大すぎるベリアルが竜神王子を襲い、すさまじい力と力の打ち合いとなる。
竜女の呪文、そしてメルカバの主砲が援護する。
竜神王子の剣技、そして口から吐くレーザーブレス、どちらもとてつもない威力と切れだ。
ベリアルの巨体と魔力も強大だ。
ハーゴンや悪魔神官が魔法で援護するが、それは竜女が装填手をしながら強力な魔法で相殺している。
逆にメルカバがすさまじい速度で動き、間断のない重機関銃を放ってベリアルをうるさがらせ、隙があれば120mm主砲で容赦なく胴体をぶち抜き動きを止める。
竜神王子も重傷を負いながら、ついに足を戦車砲で吹き飛ばされたベリアルの腹を食いちぎり、喉にロトの剣を突き刺して動きを止めた。
ついに、ハーゴン一人。メルカバから、いつしかジジが滑り降りる。
ハーゴンは、それでも笑っている。
「ふ、ふふ……勝ったと思っているのか。だがな、ここではこのわしの力に限りはない、それにジジ、おまえには弱点がある」
「弱点?」
「ほう」
「おまえはかつて、石にされている。一度は戻ったとしても、あの呪いはおまえの魂の底まで食い込んでいる」
「それが?」
無表情なジジ。それを恐怖と取ったか、ハーゴンがすさまじい笑みを浮かべた。
「石に戻れ!それが似合いだ」勝ち誇って手を差し伸べる。
ジジは悲鳴をあげ、……絶叫するように笑って迫るハーゴンの、足が絡んだ。
「な」
徐々に、ハーゴンの手が、足が石に変じていく。
ジジの前に、魔力の壁がひらめいていた。
「ま、マホカンタ?だが、マホトーンで」
「効いてる、と騙されるのが悪いのさ」ジジが会心の笑みを浮かべた。
「おれは効いてたけど、それも罠になったようだな」と瓜生が笑う。
「あんたがヘボなだけよ」ジジは軽く瓜生を蹴った。
「く、くそおおおっ」と、炎を吐き、呪文を唱えるハーゴン、だが瓜生たちは魔剣の短距離ルーラで離れ、反撃しなかった。
「殺す、と思っていただろう?甘い」と瓜生。
「そう、あんたを殺したら、シドーが復活するって罠があるんだろ。今は邪神像がないからね、形なしに復活されたら倒せない。それがアロンドにでもとりついたら最後だ」ジジが手を掲げ、邪悪な微笑を浮かべる。
「百年ぐらいしたら、また邪神像ができるだろ。アロンドの子孫が形を成したシドーを倒せば、半永久的にシドーとこの〈下の世界〉のつながりを断てる」
瓜生が呪文を唱え続ける。
ハーゴンの、もはや人間とは全く違う体が、みるみる石と化していく。醜い石像に。
「解けるもんなら解いてみな。どうせあんたなんかにゃ無理だろうけどね」
ジジが言い捨て、瓜生と共にルーラで消える。
竜神王子は大きく咆哮し、竜女と共に魔の島に帰る。
激しい吹雪が荒れる氷雪のロンダルキアは、何事もなかったかのように変わらぬ姿を取り戻し、機械魔たちの残骸や爆弾のクレーターもあっという間に雪に埋もれる。
怒り・憎悪・呪いを体現するような石像が転がり、その背後に、激しい稲妻に封じられた魔城の扉がそびえているが、それを見る者ももうない。
実は、ミカエラが邪神像を破壊したのが誤りだったのです。
復活させて倒せばよかったのに。
おかげで3~1、1~2の何百年もかけて、遠い子孫に先送りする羽目になりましたとさ。