奇・・ドラゴンクエスト1の続き   作:ケット

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砂塵の騎馬軍

 ムーンブルクの南西、テアハス女王の出身地である砂漠の島を、騎馬の軍勢が急襲した。

 その先頭に、幼児を抱えてドラゴンにまたがるゴッサの雄姿がある。

 

 ゾーマに変じ、アロンドに制御された瓜生が強力な魔力で起こした擬似的な霧に吞まれたと見せかけたサマルトリアの老若男女一万余。ことごとくアレフガルドやムーンブルクの無人地帯と、瓜生が出した大規模な客船と強襲揚陸艇を往復し、隠れ暮らしていた。

 瓜生が膨大な量の食料や燃料を与えていたし、サマルトリアの人々は草原や森があれば草や木の葉を家畜に食わせ、乳酒と肉、卵で暮らしていけた。

 家族も含む仲間たちからも隠れ、航跡をローレシアの船に見られぬよう隠れて暮らしながら、ひたすら訓練を積んで、無線通信一つを受けて一気に動き出した。

 全員が騎兵。全員が銃を持ち、多くは魔法を使える。さらに多数の大型輸送ヘリと攻撃ヘリ、歩兵戦闘車、ウニモグなど瓜生由来の近代兵器も十分に備え、使いこなしている。

 

 疾風迅雷。連絡より、対策よりはるかに速く侵攻し、次々とオアシスを制圧する。

 知らせすらない中、突然思ってもみない道から一隊の騎馬隊が襲うのだ。特に瓜生が参加してから、航空機写真を用いて世界中の細かな地図がある。またロト一族は、コンパスなどで自分の位置を正確に知ることもできる。

 そして防御の準備をしている間に、イオナズンやヒャダインなどの大呪文。竜に乗る騎兵もおり、後方からは巨大な鉄の塊が砂煙を上げて高速で走る。それだけで、貧民を駆り集めた寄せ集めの軍勢は戦意を失い瓦解する。

 当然放火・略奪・強姦・虐殺・拷問・奴隷化を覚悟し泣き叫ぶ民。ロト一族は恐ろしい盗賊であり、降伏すれば全員残虐な拷問のはてに殺される、と皆が言い聞かされていた。

 だがその騎馬隊は一切の狼藉をせず、貴族や神官だけを捕えて数人の兵に監視させた。

 食料を徴発し税金を高くすることすらしない。食料はすべて持参し、また遠くからヘリで運ばせている。むしろ、戦争によって上げられた税金を元に戻すよう布告した。

 そして残された少数の兵は、全員が優れた医者で、次々と病人を癒していった。

 民の恐怖と虚脱は、歓呼と変わる。

 

 あるオアシスに攻め寄せたとき、そこは隠れる道筋がほとんどなかったので、一日前から侵攻は見られていた。

 戦える年齢の男子は、すべて徴兵されている。村人たちは、事実上見捨てられている。

「ならば女子供、老人でも戦え!やつらは残酷な盗賊だ、攻められれば皆殺し、いや全員残酷にとろ火でじわじわと、子供から順に焼いて楽しみ焼肉を食らうというぞ」と脅されていた。なのに足弱の者たちも避難も許されず、しかも武器すら与えられず石を拾い集め、砂を積んで守りとし、むしろ庶民たちは奴隷とされる覚悟を迫られていた。

 支配階層には「知らせに行き援軍を連れてくる」などと言い訳をして逃げてしまった者もいる。妻子を連れて逃げるのはまだいいほうで、中には妻子すら置いて身一つ、金銀だけ持って逃げてしまう者もいた。

 特に武人面して威張っていた者に、そんなクズが多い。

 その騎馬隊は、まさしく疾風だった。

 それが近づくときに、ちょうど傾いた太陽を背負い、まぶしくて全く敵が把握できない。

「なにをしている、さっさと反撃しろ!逃げたりしたらお前たちの子の首を切る!」と剣を民の子に向けて怒鳴っている、置いていかれた老貴族の頭が、何をしたともなしに破裂する。

「あ、ああ」

「化けものだ」

「魔神だ」

 恐怖に虚脱した女や老人は、ただ心を止めてしまったままその蹂躙を待つ。まさしく蛇ににらまれた蛙のように。

「殺してやる、化け物め」と絶叫して剣を抜き、挑みかかる、まだ子供の貴族の私生児が、いきなり転ぶ。血を吹く足を押さえてうめく。

「もうだめじゃ」

「せめて女を差し出せ!」と絶叫し、まだ子供と言っていい女の子を縛り上げる貴族の老女もいる。

 それに反発し、戦い抜こうとする、こちらはオアシス土着の武人もいる。

 そんな右往左往のさなかも足を止めず、すさまじい速度で迫った騎馬隊。

 砂の防壁を迂回し、並べていた盾を槍で軽く吹っ飛ばして高速でつっこむ騎馬の前に、人々は怯えて走り回るか、それとも何もできず呆然と固まっているか、二つに一つだった。

 せめて、と娘を刺し殺そうとする母親の短剣が、長槍の石突で跳ね飛ばされる。

「ああ」

 輪姦と拷問の恐怖に凍りつく母娘を、とてつもなく巨大な馬から美しい男女が見下ろしていた。

 先頭には巨大な竜にまたがった、背の低い男。その背には幼児が大切にくるまれていた。その小さい体から大音声が轟き、全員が戦意を喪失し座り込む。

「サマルトリアのゴッサだ!牙をむかぬものは殺さぬ、何もいらぬ。武装解除のみ。生業に戻れ!」

 そしてそのすぐ後ろから、先ほど突進した私生児が、傷を癒されて戻ってきた。呆然として。

「早まって自害してしまった者、重病人がいたら言ってくれ!死んでいてもザオラルが使える、治療する」

 そう、数人の騎馬戦士が呼びかける。

「町から離れて野営準備。七時間後に出立する。水は飲ませてもらう」と、ゴッサが代表になれるものを目ざとく見つけ、金貨を渡した。

「な、なぜ」

 娘を手にかけようとした母親が、人間ではないものを見るように呼びかけた。

「なぜ。なぜなのです。近隣の蛮族がこちらを襲い、敗れたときはいつも女は犯され男は虐殺されるか売られ、収穫はすべて奪われるのに」

「あんたたちは、ものを食わんのですか?」

「持ってきていますよ。もし、備蓄を焼いてしまっていたら、言ってください。そんな村もありましたから」

 そう馬上から、美しい女が語りかける。

 少女たちが差し出され、「ふざけるな」「いらん」という声と共に断られ、縄目を解かれて呆然としている。

「ケエラと同じ年頃じゃない!」

 ムツキの叫びにサラカエルが、

「ロト一族以外にとって、人は家畜と同じ戦利品、奴隷、ものなんだ。こっちがあたりまえで、われわれが特殊なんだよ、どれだけ違うかは開拓村で経験したろう?」

 と慰めていた。

「なぜ」

 母親の繰り返される問い。

「ロトの掟」

 ゴッサは一言だけ言って、味方一人一人の間を回り、馬の調子や装備の様子を見ている。その視線一つで腹帯が緩んでいたり、銃の手入れを怠ったりしていた者が恥じ入り、直す。一言の言葉もかけずに、全軍をきっちりと見直す。

 

「集まれ、聞いてくれ!虐殺・略奪・放火・強姦・拷問・奴隷化をしない」

 口数が少ないゴッサにかわって、サラカエルが説明を始めた。ロト一族の全軍にも、貴族たちにも、庶民にも。

「まず、われら〈ロトの子孫〉と〈ロトの民〉、ロト一族は、正義のために戦うことを使命とする。虐殺・略奪・放火・強姦・拷問・奴隷化は、悪だ。明白に。

 

 もう一つ、実利的にも、やらないほうが得をする。

 中でも略奪、ムーンブルクやアレフガルドの貴族軍などは、兵站や兵の給与という考え方自体がなく、食料は出先で略奪するもので、略奪・強姦・奴隷を給料とする。

 ここでわかってほしい、事実。虐殺・略奪・放火・強姦・拷問・奴隷化は、人間にとって圧倒的に大きな快楽だ。ヘロインやアンフェタミンと同様、その魅力にあらがえる人間などいない。

 その二点により、略奪しなければ飢え死にするから、略奪を許さなければ反乱が起きるから、略奪が楽しいから、とそれをやっていると、軍が進める道が限定されてしまう。略奪できる町がない道は、たとえ最短距離でも通れない。通らないと決めたら兵が反乱しかねない。

 それは、敵に頭のいい者がいれば、略奪する軍を自由に操ることさえできるということだ。指揮権を敵に握られて勝てる軍などあるか?ない。

 さらに虐殺・略奪・放火・強姦・拷問・奴隷化は時間がかかる。奴隷商人など余計な非戦闘員を引き連れることにもなる。進軍が遅れるんだ。

 逆に最初から残虐行為を全面的に禁止し、自分たちで兵站を確保する我々は、好きな道を好きな速さで走ることができる。

 その機動性が、圧倒的な戦力になることは今見たとおりだ。

 何より、皆が残虐行為の甘さを知っていれば、残虐行為をしたいため、また略奪そのものに国家経済を依存しているために、残虐行為を目的に戦争を始めることになる。

 政治そのものが、多くの人間の欲望に左右されてしまう。

 一言で言おう。残虐行為を許せば、将は将でなくなり、王は王でなくなる。獣欲に狂った人間集団に引きずられるだけの奴隷になってしまうんだ。

 そんなことは許せない。

 

 さらに、残虐行為をするのは兵が恐怖に負け、指揮官が権威を失っているときが多い。逆に残虐行為を抑制できるほど規律がきちんとしている軍は、強い。

 われらサマルトリア軍は、最強だ」

 全軍の絶叫。

「といっても、それも重要だが、結局は虐殺・略奪・放火・強姦・拷問・奴隷化が悪だから、それが一番重要なんだ」

 サラカエルの言葉に、村人は崩れるように畏れ入ってしまい、ロト一族たちは大きく歓呼の声を上げて、ゴッサとサマリエル、アロンド、そしてミカエラの名を称えた。

 

 

 大きい砂漠島の中央にある、岩山を背にし城壁を巡らせた難攻不落の城。だがそれも、まさしく鎧袖一触だった。

 場内では女王の家族を始め、貴族たちが報告をバカにし、応援を求める使者を罰して、饗宴を繰り広げていた。

 まるで稲妻のように騎兵が押し寄せ、守ろうとしたわずかな兵を遠距離から投槍で瞬時に倒して城壁に到達。

「離れろ」幼児を抱く将の、小さな体から信じられない大音声が響く。つい、逃げてしまった兵も多い。

 そして間もなく、繰り返し爆発が城壁の一点を襲う。

 

 ムーンブルク側から見ればこうだ。

 奇妙な、軽装の騎兵隊が森の影など、あちこちから出現して集まり、城壁に迫る。

「敵襲!」と叫ぶ間もなく数人が変な筒を背負い、次の瞬間その筒が、後ろに火を吹く。

 すぐに大爆発が起きて、壁に穴が開く。それが何度も繰り返される。

 そして、近くにいた人間が激しい揺れを感じ、気がついたら壁に、妙な角度で立っている。

 床にではなく、壁に、横に立たなければ倒れてしまう。

 それが激しい揺れとなり、壁がゆっくりと崩れ始め、無我夢中で逃げる……壁を走って。

 その穴から躍りこむ巨大な馬が、守兵などないかのようにすさまじい勢いで城内を突っ走る。

「ああいう連中は略奪に時間をかける、その間に立て直せ」と叫んで逃げようとする兵を切り倒している貴族が、いきなり頭が破裂して倒れる。

 女子供が、と激しい恐怖に振り返るが、騎馬隊は一切女子供に手を出さず、まっすぐに城に駆けていく……

 

 ゴッサの側から見れば。RPG-7を多数発砲して壁を穴だらけにし、一年以上前にガライ一族が仕掛けた爆薬を遠隔操作で起爆した。それでゆるんだ城壁を、重力呪文の応用で重力の方向を変えて、引き崩した。

 そして投げ槍についた閃光手榴弾を多数放って城下を混乱させ、一気に城の中枢に進撃する。

 城壁からの使者さえも、罰が怖くて報告に来る以前。饗宴を繰り広げ、傲慢さをふくらませていたテアハス女王の親族を多く捕え、一気にムーンブルク王都を衝く。

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