ローレシア・サマルトリアそれぞれ、平和を取り戻してやっと開拓事業を再開し、技術を研究し工場を作ることをたゆみなく続けている。
ケエラは放課後は魔法の研究に協力し、製鋼などを手伝っている。芸能活動は半ば引退した。
ダンカは生きていたムツキに改めて厳しく鍛えられながら、獣医になるための選択授業も多く取るようになった。
そしてディウバラは、やっとバイオリンを弾くことができるようになり、だれよりも終戦を喜んでいた。ほかにも瓜生の世界の楽器を愛する仲間もでき、楽しく練習している。
夏が過ぎて秋、誰もが不安がり、いつでも霧から家畜と家族を逃がせるように準備していながら、ソバだけの比較的楽な収穫を終えた。
本当に、ごく一部地域の天然の海霧以外は霧がなく、無事に収穫を終え、初雪を迎えたときの喜び、感謝と誇りはいかばかりであったか。
その夏にみんながさまざまな試みをして、膨大なデータを集めていた。全員が読み書きでき、正確なカレンダーと時計を共有しているからこそできる芸当である。
まして、今は日付と時刻の確認には短波ラジオの恩恵もある。
そのデータは共有、研究され、特に機械を用いる農業のノウハウとして、農業技術水準を一層高めると期待されている。
冬至の建国祭りは、ローレシアとサマルトリアに分かれてはいても、実ににぎやかなものとなった。
サマルトリアで、ゴッサがみごとに集会を仕切り、高い政治力で国民に安心感を与えた。
ローレシアも、アロンドはやや引っ込んだ立場になってサデルを中心にした元老院を前面に出している。
技師たちは、戦争の経験も生かして熱心に技術開発を続けている。
上級学校もローレシア・サマルトリア・大灯台の島・元鬼ヶ島それぞれにあり、異なる雰囲気で研究を競い合っている。
銃の大量生産を始めることができたのは、終戦から二年のちだった。
瓜生の故郷では、博物館ものの銃だ。火縄銃同様の先込め、ライフリングもないフリントロック・マスケット銃。
だが、これこそ、瓜生の出したものを何も使わず、ロト一族だけで鉄鉱石を掘ってコークスで精錬し、純酸素吹き込みで精錬し、棒状鋼から筒にした、大量生産品だ。
弾頭の鉛も、火薬もすべてロト一族だけで、この〈下の世界〉の資源だけで作ったものだ。
事故も環境破壊もほとんど起きない、徹底的に試行錯誤で磨かれた鉱山と工場で。
部品もそれなりに制度を上げた旋盤で作られ、なんとか交換しても機能する。
「ついに、できました」
すべての細部を指導したジニ。全体を動かしたヘエル。人を組織し不正をチェックしたトシシュ。平凡な魔法使いの集団による空気液化・純酸素を指揮したラファエラ。若い人材、高度な教育の成果だ。
もちろん、以前から高い教育水準を保っていた〈ロトの子孫〉〈ロトの民〉の大人たちも、瓜生が出した本や先進的な研究機材を活用し、必死で学び実験を繰り返した。
もう一つ、強力な火器が完成している。こちらは、瓜生の故郷の、遠い過去に用いられた大型前装砲に似ている。
砲尾がふさがり、砲口から弾を入れる。恐ろしく分厚く、水準の低い青銅で超高圧に耐えるようにできている。
とんでもない重さで、多数の馬などがなければ運べはしない。
瓜生の世界の砲と違うのは、火薬に火を入れるための孔が開いていないことだ。
火薬の代わりに水を入れ、その上から砲弾を詰める。
そして、正確な位置がわかるように印がついているので、その水の中央部に五人の魔法使いが魔力を集中する。
ジニが得意とする魔法の一つ、メラの攻撃力を集中することによる、極小の核融合。その熱で水を膨張・気化させ、高圧で弾を押し出す。
瓜生の故郷では、電気の熱を用いた同様の砲が研究されている。
その呪文は、一人ではジニのような百万に一人の天才しか使えない。だが、五人で分担することで、平凡な魔法使いでも可能なのだ。
ちなみに、竜王戦役以前から、イオを用いた火薬を使わない砲は研究されてはいた。だが、常に失敗し被害を出していた。
爆薬を火薬代わりにはできないのと同じことだ。イオの爆発は超音速の爆轟であり、砲身が耐えられないのだ。
瓜生の故郷の歴史でも、重い大砲を運ぶ必要性が運搬技術を大きく進歩させた。
それは、ロト一族も同じことだ。
鉄道や水運、馬力と車の技術も用いられたが、魔法を用いる技術もジジ・ジニ・ラファエラ・ケエラらによる魔法学校で研究開発された。
四人でのルーラだが、四人とも中級魔法使いにして、三人で重力をゼロにする呪文を編み、もう一人がルーラを唱えることで、従来の怪力二人・魔法使い一人で最大二トンから五十トン近い質量を一度に輸送できるようになった。
魔法使い四人を使うのは大変だが、それでも輸送重量の爆発的な増大は大きい。
馬の変化もある。特にサマルトリアでは、ゴッサをはじめ竜に乗る者が増えているし、竜と馬の直接混血である小型馬が増えている。
どちらも、飼料と仕事の比を桁外れに高めているし、魔法使いが乗った時には何倍も魔法を使うことができるようになっている。
小型の半竜馬はローレシアでも、都市生活を容易にすると期待されている。
研究開発で議会を中心に議論になったのが、ミスリル・オリハルコンなど魔法金属の解明に瓜生が出せる先進分析器具を使うかどうかだ。
それら魔法金属は、明らかに瓜生の故郷にはないものだ。
だがそれは、瓜生の故郷の物理学……元素は原子核の陽子・中性子の数で決定される、と矛盾している。
その解明は魔法そのものを科学の目で解明することにもつながり、大きな発展につながると思われている。
そう考えた者は、これまで高い教育を受け、試行錯誤を奨励されてきた〈ロトの子孫〉〈ロトの民〉にも多くいた。
だが、彼らには本はあっても道具がなかった。高度な科学分析機器を維持できるほどの人口はなく、前に来た時の瓜生もそこまでは出さなかったのだ。
だが、今は読み書きできる人口はある。数学に優れた研究者も多くいる。食料の余剰も、瓜生がいなくてもある。
瓜生自身は、植民地主義的な弊害を常に恐れている。彼ら自身が技術を高めて、X線解析や加速器にたどりついてくれることを希望し、上級学校でもその方針で教えている。
だがジニたち若い科学者たちは、今知りたがっている。
ローレシア・サマルトリア・そのほかの議会でしばらく議論されて、研究を早めることが決まって瓜生が様々な機材を出した。
ジニはあこがれのX線解析機材に目を輝かせ、すさまじいスピードで必要なことを学んで次々と魔法のかかった品の分析を始めた。
同時に、瓜生の故郷の「物理法則」そのものをこちらで追試するプロジェクトも始まっている。
瓜生の故郷の科学史、その主要な実験をすべて追試する。それによって、瓜生の故郷とどの程度違いがあるのか、それとも同じなのかを確かめていく。
もちろん生物が生きている以上、ほとんどは同じはずだ、だが魔法が普通に存在していることは、微妙なずれがあることも意味している。
翌年も、その翌年も平和が続き、広い土地が開墾され治水が整備されていく。
製鉄技術が高まり、運河が作られて交通がより便利になっていく。
リリザの人々も少しずつロト一族のやり方を学び、自分たちで広い土地を開拓し、工場を作り、そして子供たちと机を並べてそろばんをはじくようになっている。
ザハンから耕してきた人たちも、特に順応性の高い子供たちはまるで生来〈ロトの民〉だったように暮らしている。ただ、幼児期の栄養状態の悪さで体格が少し劣るのは仕方ないが。
法律や税制も両国とも、突貫で整えられている。