奇・・ドラゴンクエスト1の続き   作:ケット

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それから

 その後。

 アロンド夫妻は上皇として、大灯台の島や元・鬼ヶ島を回る暮らしをしている。公務は最低限で、ムーンブルク・ムーンペタの再建と、心の傷を抱えた人たちのケアに力を尽くし続けている。

 それを支えるのはロムル厚生大臣と、レグラント王立病院事務長の夫婦だ。

 また、アダンもアロンドの傍らを離れず、誰であれ病に苦しむ者はその毒で癒した。人間の寿命よりはるかに長い生涯、いつまでも飽きもせず剣と拳の修行を続けたという。

 リレムはガライの息子と結婚し、外交官、ローレシアの女官、宣伝やマスコミ操作、演出など多様な仕事をこなしている。アレフガルドの家族とも、和解というより籠絡したようで、すっかり「魔女二代目」の評価が定着している。

 

 ローレシアを治めるローレル王は、自らに使える剣を求めて数年間の旅をし、帰ったのちはジニを王妃として、桁外れの力をもてあましつつも大過なく過ごした。

 

 対照的に、サマルトリアのサマリエル王は後半生が活動的だった。

 彼は父や兄と違って神々の力はなかった。〈ロトの子孫〉として十分に優秀ではあったが。

 宰相として長くサマルトリアを治め、サマリエルの成人で潔く地位を引いたゴッサの教えもよろしかったか、サマリエルは為政者として力を発揮した。

 サマルトリアの体制は、ローレシアよりは国王の実権があったこともある。

 本来ならばコンプレックスから破滅しかねなかったが、アロンドの控え目な後見もあり、サマリエルは政治に打ちこんだ。父のカリスマを継いだように。

 四十三年後に退位した時、サマルトリアの国力はローレシアを大きくしのいでいたという。

 

 そして生まれてすぐに消え失せたマリア王女。彼女は数奇な冒険の末に、十三歳の頃にムーンブルクに出た。その人柄、そして隠されていた美貌でイリン王の心をとらえ、ムーンブルクの王妃となる。

 もちろん両親兄弟とも再会し、長い心痛に苦しんでいたローラ皇太后にようやく心からの幸福が訪れた。その結婚式で、ロトの鎧はムーンブルクに寄贈された。

 ムーンブルク自体は科学に激しく反発し続けていたが、ムーンペタがロト一族の技術を学んで豊かになったこともあり、のちの世にはムーンブルクもロト三国の一つと呼ばれるようになる。

 

 そして平和な、急激に科学技術が進歩し、人口が増えていく百年が過ぎた。

 

 

 百年後、ハーゴンは石のまま動くことを思いついた。

 最後にジジがかけた言葉が罠だった……そう、ハーゴンは邪霊を体外に飛ばし活動していながら、百年の間「石化を解く」ことにばかりかまけたのだ。石のまま動くことを、考えなかった……考えないよう、ジジに誘導された。実際には、瓜生が食ったゾーマの力なしには……または、異世界と連絡し凍てつく波動を用いない限り……石化を解くことは絶対に不可能だったのだ。

 そして、ロンダルキアの邪神たちとの絆を用いて魔軍を編制したハーゴンが、各国への侵攻を始め各地に魔物を跳梁させた。

 衰退していたアレフガルドは王の逃亡もあり、ラダトーム周辺地域以外を失った。次に粉砕されたのが、科学を拒み続けたムーンブルクである。

 

 だが、知らせを受けたロトの王国……ローレシアとサマルトリア、そしてその科学を受け入れていたムーンペタは、魔軍を迎撃した。

 瓜生の遺した彼の故郷の歴史書から、あらゆる過ちの教訓は学ばれていた。科学の知識は充分にあり、ジニが科学技術と魔法を統合し、精密技術の基礎も築いていた。魔法の研究も進み、高度な集団魔法も多様にあった。

 魔法を科学的に分析し、科学と統合した効果はすさまじい。原子論以前の錬金術などに頼る医学や化学工業と、原子論以後の医学や化学工業の差がある。

 立憲君主制と三権分立、市場経済と確実な最低限福祉の混合経済による、政情の安定と経済的繁栄。義務教育と多様な高等教育の併存による人材輩出システム。

 魔法使い率も三割、ソロバンが普及し義務教育水準も高い。人体生理・水理学・原子論と魔法元素理論・炭素窒素循環は必須科目。総人口四千万人・識字率99%、高炉・転炉・鉄道とハーバー・ボッシュ法に至る工業力と農業力があった。

 

 生活水準は、ローレシアは水田稲作を中心とした日本の江戸時代に近いもの。サマルトリアは遊牧性が高く、ジャガイモ・トウモロコシ・アルファルファ・テンサイ輪作も広く行われ、大規模な鉱工業も発達している。

 ハーバー・ボッシュ法で膨大な窒素肥料を得ており、農業生産力は桁が違う。また工業も石油精製・ディーゼルエンジンに達しているし、鉄鋼生産もきわめて多く、アルミニウム合金やいくつかの合成樹脂も量産されている。さらに魔法を用いた素材のいくつかは、瓜生の故郷にもない優れたものだ。

 エネルギーも、小さな集合住宅や大型船に据えられる超小型で安全な原子炉もあるし、工業地帯にはブラックホール炉が、瓜生の故郷の日本全体以上の電力と温水を供給している。どちらも、最悪の場合もメドローアで消し飛ばせば完全に安全になる。

 技術的には第二次世界大戦水準に達し、大規模発電と超高強度素材は瓜生の故郷をはるかに上回っている。

 

 大軍とその兵站を汽船や鉄道、ケーブル輸送を発展させたモノレール鉄道、まとめてルーラが可能なコンテナで動かし、全員が保有する馬で駆ける。情報網を各国に張り巡らせ、世論を操る。

「情報力・機動力・生産力・輸送力・火力を集中し圧倒的な戦力による電撃戦により、残虐行為の必要なく圧勝する」をドクトリンとし、国民皆兵で訓練は行き届いている。

 ちなみに、「敵がゲリラ戦を始めたら、報復対象者を保護し全面撤退、交易を断って貧困に落とす。必ず代替資源供給先を準備する」となっている。

 

 竜の血が濃く混じる馬にまたがる屈強の大兵力が、一糸乱れぬ集団となり戦った。

 全員に支給されている、弾薬も含め自分たちで大量生産した銃。

 主に使われるのは薬室を魔法金属で強化したボルトアクション滑腔銃。11㎜の口径、ブルパップ式で馬上でも取り回しやすい。初速1300m/sものAPFSDS(装弾筒付き翼安定徹甲弾)、魔法元素を用いた爆薬で瓜生の故郷の80㎜迫撃砲弾に匹敵する翼つきグレネード弾、近距離用のフレシェット散弾を使い分けられる。

 サイドアームとしてブルパップ式・ケースレスの小型サブマシンガンもある。

 高性能炸薬が詰められ魔法で射程が延長される投槍もあり、特に闇夜では重宝する。

 ロケットランチャーや軽迫撃砲、軽機関銃を持つ兵もいる。

 そして集団で複雑精緻な編み目を分担した魔法。

 飛竜に乗った魔法使いが爆弾を落とし、綿密に偵察した。

 解明された魔法金属で補強された大型の大砲が、集団ルーラで直接輸送され、強力で精密な砲撃を放った。

 戦車とプロペラ爆撃機が、百人の騎兵が制御する極小ブラックホール呪文が、ムーンペタ川を越えて渡河しようとする魔軍を徹底的に粉砕した。

 

 大規模な戦争で、ロト三国……ローレシアとサマルトリアと、実質的に独立していたムーンペタに対抗できる戦力などない。だが、魔軍は無限であり、集団の戦争で戦い続けても消耗戦だとは分かっていた。

 その対策もあった。敵の本拠、大軍が入れぬ洞窟の奥に少人数で分け入り、神を剣で切り倒せる超戦士も、別に育てていた。勇者ロトと竜王の血を引く王族の、オルテガ家より続く高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)として。

 すでに個人の剣技は、軍では……普通の人の間では半ば廃れている。義務教育ではゾーマ流48式の剣と拳は行われているが。

 現実には集団で戦うための、大規模な武器を操作する技術と、素手および銃剣による白兵戦が主だ。馬上槍試合やデルコンダルの闘技場のように、実戦で役に立たない儀礼的な戦闘遊戯はやらない。オリンピックに近いものはあるが、陸上競技や騎馬集団での障害競走、射撃などが主だ。

 魔法も、銃砲と統合し集団で使うものとなっている。

 だが、王族だけは違った。徹底的に、個人で剣と魔法を使う修行を積む。ちなみにローレシアの王族は、代々魔法を使えない……竜王の血筋が濃いゆえに。

 魔法の武器に頼り修行を怠らないよう、旅立ちは粗末な武装だった。代々、若い王族は粗末な武装だけを手に世界を漫遊し、経験を積むのが伝統だった。かつての禁断大陸、ローレシアやサマルトリア、ムーンブルク移民の子孫が暮らすリリザには、ろくな剣は売っていなかった……銃ならあったが。

 呪文も、戦闘に必要充分な最低限しか習わなかった。高度な呪文は集団で、組織で使うものとなっていた。

 三人は母国の力に頼らず世界を旅し、剣と魔法の腕を磨いた。そしてロンダルキアの洞窟を制覇し、ついにハーゴンに挑んだ。

 ハーゴンの死により邪神の像を肉体として復活したシドーも、三人の血に受け継がれた力と、ロトの装備と稲妻の剣が切り倒した。それで、シドーと〈下の世界〉のつながりは半永久的に断たれることになる。

 

 

 勝利し即位し、ムーンブルク王国の再建にあたったサマンサ七世女王。彼女は、狂気ともいうべき大事業に、長い残りの治世を捧げた。

 疫病が伝統でもある、沼になりやすい地形のムーンブルク城を廃し、内海の東岸に遷都した。ムーンペタの独立さえ承認して。

 そこは沿岸は砂漠だが、巨大な油田があることが知られていた。東側は豊かな森、肥沃な草原が広がり、内海を通じて北に行けば、湖と大河に抱かれた大平原。ローレシアの技術があれば、膨大な水田になった。

 さらにローレシアの図書館から本の写しを借り、石油精製施設と自動車工場を中心とした工業都市を計画し、実行した。

 それだけでも大変だったが、さらに狂気と言えるのが、ロンダルキア超山塊の開拓である。

 急峻な岩山を、棚田に削った。一段おきにアブラヤシ・ゴムノキ・カカオを中心とした木を植え、貯水池も削った。ディーゼルエンジンの力で。無尽蔵の水資源で。

〈破壊神殺し〉の、恐ろしい魔力で。海底洞窟やロンダルキアで、魔物の軍団を爆砕したイオナズンを、岩盤に向けて放って。

 試算により、頂上にたどり着くには、瓜生の故郷をしのぐ指数関数的な人口増と技術向上があっても二百年かかる……そう算出されても、彼女は恐ろしい美貌で笑い押し進めた。二十年の間、雪玉の芯を固めて、それから大きく転がし雪だるまをふくらませた。

 ローレシアとサマルトリアも、その計画が、数百年規模で巨大すぎるのは確かだが、現実に不可能な点が何もないことを認め、人手・技師・工具、そして瓜生が遺し印刷複製されてきた本を送った。

 人手も難民たち、そしてローレシア・サマルトリア・ムーンペタの莫大な人口があった。

 山脈が、等高線にそって幅数十メートル、そして長さは数百キロにわたって、水平な棚田となる。

 それを巨大な馬のひく犂、ディーゼルエンジンのトラクターが耕し、機械により耕作される。アゾラと稲を交互に育てる。アゾラや田豆の窒素固定に、さらにローレシアのハーバー・ボッシュ法肥料も加える。時に病虫害の徴候があれば、周辺部の青田を刈って飼料にし、田芋や田ヒエに切り替える。水を抜いて広い畑にすることもあり、トウモロコシ・ピーナッツ・キャッサバ・サツマイモ・サトウキビ・ソルガムなどが育つ。多様な作物により飢餓を防ぐのも、瓜生の知恵だ。

 あちこちにある有用鉱物の鉱脈を深く開く。

 岩盤に掘られた家の前は屎尿処理も兼ねた畑で、実野菜が豊かに育つ。

 だが、八千メートル級の山脈が、オーストラリア大陸に匹敵する規模でそびえるロンダルキア超山塊……そのわずかな片隅に、ひっかき傷をつけるだけでしかなかった。五十六年の治世すべてを費やしても。近代技術を、第二次世界大戦後の水準で投入しても。五人産んで99.9%育つのが三代続いても。

 農地として、また鉱山としての生産は莫大だった。潤沢な水と亜熱帯の高温・日照は、アゾラと稲とポルトガ田芋の輪作には最適だった。ロンダルキアは黄金の山でもあったことが、笑っていた世界中の人に明らかになった。

 反対のための反対を容赦なく踏み潰し、〈ロトの掟〉を破って啓蒙専制君主として君臨したサマンサ女王が老いて退位したのちも、その方針は続けられた。黄金の山を手放すことは、新政府にも誰にもできなかった。

 彼女も勇者ロトの子孫、瓜生の心の子孫だった。試行錯誤を拒まず進歩し、惜しみなく与えて多数の人には平和で豊かな暮らしをもたらし、現実にある悪と戦い抜くために力を尽くした。

 その頃、ローレシアは宇宙に挑戦しようとしていたし、サマルトリアは魔法を精神的な幸福のために進化させようとしていたが、それからはもう語れる物語ではない。

 

 

 

 もはや、アレフガルドのある〈下の世界〉とは無関係な時。

 ハイラルという国の、サリアという水辺の町が疫病と魔物に襲われたとき、一人の老人が魔物を倒し、病人を癒して、自らは病み倒れた。

「勇者ロトの仲間」を名乗る老人は、感謝する村人に看取られ安らかに息絶えた。息を引き取った直後、身体は消えうせたとも言われる。

 その功績や本名も刻まれたが、はるか後にリンクが読んだ墓石では「勇者ロトここに眠る」という字だけが判読できたという。




メドローアがこの「現実」にあれば、パナマ運河も一発ですし原発も事故ったら消し飛ばせばいい…ほかにもドラクエ呪文があれば、どれほど違う文明になったことか。

ここで未来は語ってしまったので、「奇妙な味のドラクエ2」は書かないと思います。
ローレル少年王やマリア王女の冒険は書き始めてエタ気味。

最後…「リンクの冒険」のお遊び「ユウシャロトココニネムル」からの一言は、かなり前から考えていた幕切れでした。
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