笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか? 作:ジェイソン@何某
「――…全く、少し頭を冷やすべきだな」
「そうだそうだー! アンタのせいで空気最悪だよー!」
「アイズのことあんな不快にさせて、無事に帰れるなんて思ってないでしょうねぇ?」
酒場の中にいる人々によってに輪が出来ているこの状況。輪の一番前には【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者たち。中央には今回の騒動の主犯であるウェアウルフの青年――ベート・ローガがいた。
最初に謎の白髪の少年が飛び出していって、次いでその後を追うようにこの店の店員、さらにはアイズまでもが今店の外にいる。アイズはロキに任せるとして、他の者たちはアイズを不快にさせたであろうベートに制裁を加えようとしているところだった。
「あァ!? 俺はただ本当の話を…って、おい、聞いてんのか!? なんだそのロー「あっはっはっはっはー!」…あん?」
未だに酔いが回った中、何故か自分が責められているこの状況が気に入らないベートは近づいてくるエルフやアマゾネスの双子に食って掛かろうとするが、それを遮るかのように女性の笑い声が上がった。
知らない声だ。目の前のエルフたちも困惑した表情を浮かべ、今人ごみから出てきた女性に、全員の視線が集まった。
「いやーいやいや、本当に面白い話を聞かせてもらったっす。爆笑っす。満点大笑いっす」
「「「「……」」」」
出てきたのは、今日入ったばかりだとかいう新人のウエイトレス。酔っているのか口からは酒の匂いがして、右手には客に出す筈だったと思わしきワインを持っている。始めは全員が訝しげな表情を浮かべていたのだが、そこから若干一名、彼女の言葉に対して下降気味の機嫌を上昇させた者がいる。言うまでもない…ベートだ。
「へっ、どうやら話の分かる奴もいるじゃねぇかよ。 やっぱ面白いよなァ?」
「そうっすね、他の人たちがどう思うかなんて知らねっすけど、私は面白かったっす。その場に居なかったのが残念っす」
「だろー!? いやあれはマジで抱腹モンだぜ!? それこそ女みてぇに震えあがっててよぉ!!」
ベートが警戒心を解いたのには幾つも理由がある。まずは
普段のベートならば仮にこれだけの条件が揃っていても最低限の警戒はしていただろう。だがこれらの条件にさらに『酒に酔っていること』が加わってしまったことで、彼はあっさりとルプスレギナの言葉に上機嫌になってしまう。
「マジっすか!? いやぁ、それはいよいよ見たくなったっすねぇ」
ルプスレギナは、周囲から向けられる白い目を無視して会話を続ける。特に少し離れた位置で此方の行動を窺っていたウエイトレスたち――リューと、この場に居ないシルを除く――は、自分に対して軽蔑と軽い敵意を抱きつつあるようだが…これも、努めて無視をする。一度張り付けた笑顔の仮面は外さぬまま、すっかり最初の調子を戻したベートに歩み寄る。
【ロキ・ファミリア】の中ではエルフ、小人族、ドワーフ…この3人だけが此方の行動を訝しんでいるが、特に何かしてくる気配はない。
「はっ!! だったら今度ダンジョンまで来てみりゃいい!! 運がよけりゃ、またあのトマト野郎が見れるかもしれねぇな!!」
素のベートを知っていたらまずあり得ない言葉。それだけ酔ってしまったからこそ、彼は初対面のルプスレギナに接近を
「…っ、ベート!!」「…なんと」「むぅ…っ!?」「ぇっ…嘘!?」「ま、待っ…!!」「なんや、騒々し…なっ!?」「…っ!」
「あぁ? 一体なん―――」
バシャァン――
ロキ・ファミリアのメンバーがほとんど同時に声を荒げたのをベートが訝しんだ瞬間、酒場に響いたのは水のようなものを掛ける音だった
「――………は?」
ポタ、ポタ…と前髪から滴り落ちる“赤い液体”を見て、頭頂部が冷たいのを感じて、ベートは訳が分からず間の抜けた声を漏らしてしまう。
それから、ベートをゆっくりと周囲を見渡した。大半の物はレフィーヤやラウルのように顔を真っ青にしたまま硬直している。アマゾネスの姉妹も似た感じだが、顔色は悪くなく、純粋に驚いた表情だ。アイズはアイズで小さいながらもしっかりと驚愕の表情を浮かべているのが分かった。
フィン、リヴァリア、ガレス、そしてロキの3人と一柱は、ベートを“このザマ”にした人物を冷静に睨んでいる。
そうして時間をかけゆっくりと自分に何が起きたのかを理解したベートは、自身の傍らに立ち、
「……テ、メェ…!!!」
見上げたその顔は、此方を嘲るようににやにやとしていた。未だにベートの頭上で傾けたままのグラスを軽く振って持ち直し、怒りに震えるベートの言葉を聞いて初めて口を開く
「……ぷふっ…あっはははははははは!!!!! その顔、最っ高!!」
「…なっ…!!」
返ってきたのは謝罪でもなければ言い訳でもない。今の行動が悪意からきたものなのだと全面的に認めたも同然の爆笑。これにはフィン達も目を丸くする。
「テメェこのクソ
「あっはっは~、いやーいやいや、アンタの
「「「「「………」」」」」
一同絶句とはこのことか。とどのつまり、一人へらへらと笑い続けるこの女は、先ほどまでのベートの話を、ベート自身の体験談であると受け取ったわけだ。
高い身体能力を誇る
「ルプスたん、自分なにしてるか分かってるか? 下手すりゃうちのファミリア全員を敵に回す行為やで。…なんでこんなことしたんか、聞かせてもらえるか?」
「あらら、分かんねっすか? それとも、分かっててわざと聞いてるんっすかね? まぁ、別にどっちでもいいすけどね…」
細められている目は僅かに開かれている。先ほどのセクハラ神の姿はそこにはなく、力を制限されていても流石は神であると思ってしまうような威圧感が感じられる。
だが、ルプスレギナの態度はそれでも変わらない。わざとらしく後ろ髪を掻いて首を傾げ、ふっと小さく笑みを零して目を瞑る
すると
「――…あのね? アナタの
「…っ!?」
空気を一変させ、纏う雰囲気を変えたのはロキだけではなかった。目の前でけらけらと笑っていたルプスレギナもまた、ロキが目を見張るほどにその雰囲気を変貌させる。口調さえもが急に大人びたものとなり、神であるロキや周囲の者たちに言い聞かせるように自身がこのような行動に出た理由を語る。
それを聞いたことで、ロキ達は驚愕しながらも納得せざるを得なくなってしまった。
彼女の言葉に嘘はない。ならばきっと、先ほど飛び出した少年こそが件の冒険者なのだろう。そして彼女はその仲間…纏う雰囲気からただ者ではないだろうと思ってはいたが、まさか【ファミリア】に所属していたとは。
「…そういう、ことかい…それなら、うちらに文句を言う資格はないな…」
当然ながら、もしもロキ達が彼女の立場であれば、間違いなく仲間を侮辱した者を許しはしない。それこそ、自分たちとタメを張る【フレイヤ・ファミリア】の者であってもだ。ならば、仲間の為に自分たちにケンカを売ることになろうとも構わず噛みついてきたルプスレギナに文句を言うことはできない。
ベートにつられて笑ってしまった者たちは勿論のこと、ベートを止めきれなかったフィン達もだ。
ただ、唯一、たった1人だけ、この状況で引き下がるわけにはいかない者もいる
「待ちやがれ」
その声に、ロキは舌打ちした。体をルプスレギナから今の声の主――ベートへと向け、その肩に手を置きかぶりを振る
「やめぇやベート。ルプスたんの言葉は道理を得とる。確かにやりすぎかもしれへんが、それでも「うるせぇよ」……」
いつもの吼えるような怒声とは違う。低く静かな怒り。肩に置いた手を払いのけられ、ロキは口を噤む。万が一の事態に備えていつでもベートを取り押さえられるように周囲が警戒する中、ベートとルプスレギナは眼前に互いの顔がある位置まで近づき、火花を散らす。
「コイツは【ファミリア】なんざ関係ねぇ、
「そうっすか、なら私も
互いに互いの瞳を睨みながら、一触即発の空気はやはり変わることはない。ただ、ずっとカウンターで2人の事を眺めていたミアがわざとらしく咳払いし、
「表へ出ろ。どっちが上か分からせてやる」
「おっ喧嘩っすね? いいっすよ」
はぁ、と呆れたように額に手を置くロキやリヴェリア達を置いて、2人はさっさと表へと出て行ってしまう。残された者たちはハッと我に返ると、この戦いを見逃してなるものかと我先にと外へ向かう。【ファミリア】の中で一人残ったロキは、金の入った袋を置くとミアへと声を投げかけた
「…ミア母ちゃん、あの娘ってレベル何なんか知っとる?」
「あぁ、知ってるよ」
「教えてもらえるか?」
「いや、やめておくよ」
「…なんでや?」
「アタシが“娘”の個人情報をあっさり教えると思うかい? それに…」
スコップを片付け、ミアは笑った
「本人に聞かなきゃ到底信じられないだろうさ」
なんだかベート君めっちゃ調子に乗らせてみました。
次回、ルプーin鈴木初めての対人戦。
そんな装備で大丈夫か?
大丈夫だ、もんd「あ゛?」…はい。