笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか?   作:ジェイソン@何某

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 お待たせしました戦闘回。何度も見直しては書き直してたせいで文章的に不自然な場所があるかもしれません、そういうものが御座いましたらご指摘いただけたら幸いです。

 口上は諦めた←



第10話『人狼と狼人』

 

 

 『豊饒の酒場』前、西区のメインストリートは今、大勢の野次馬でごった返していた。皆が皆通りの隅に寄り、建物の屋根に乗り、木に登ったりしてまで見ようとしているのは、2人の人物がこれから戦うからである。

 

 

「ねぇベート、やっぱり考え直しなさいよ」

「そうだよ、あんな綺麗な女の人に怪我させちゃったらどうするの?」

 

「うるせぇバカゾネス共、いいから下がってろ」

 

 渦中の一人は、同じ【ロキ・ファミリア】所属の双子のアマゾネス姉妹に説得されている最中であった。他の団員たちはその2人の説得が成功することを祈っていたが、やはり聞き入れられず渋々仲間たちの輪に戻ってくる。

 

 そして、そんな彼と対峙するはずのもう1人は――

 

 

「…ふぅ。やっぱこの格好が一番落ち着くっすね」

 

 カッコつけて外に出たまではよかったが、ミアの『ウチの制服で戦う気かい?』という圧の込められた声にそそくさと更衣室に戻っていた。

いつものメイド服姿に戻ったルプスレギナは、更衣室の壁に立て掛けていた聖印を象った杖を背負い、姿見の前でうんと頷く。

 

 そうして更衣室を出たところで、ぴたりと歩みは止まった。ずっと自分が出てくるのを待っていたのであろう、ベルを追いかけたシルを除く4人のウエイトレス達と目が合ったのだ

 

「…ルプスレギナさん、貴女に謝罪をさせてほしい」

 

「「「「すみませんでした((ニャ))」」」」

 

 一番最初に口を開いたリューの言葉に、え? と反応を示す前に全員が此方に頭を下げてきて、ルプスレギナは困惑する

 

「ちょ、ちょっと皆、頭を上げてほしいっすよ。なにかあったんすか?」

 

「……」

 

 なぜ謝られているのかその理由がさっぱり分からず、ルプスレギナはひとまず全員に頭を上げさせる。普段は明るいアーニャまでもがその顔に激しい後悔を浮かべているようで、何事なのかと尋ね

 

「その…先ほどのウェアウルフの青年とのやり取りを見ていて、私たちは一度貴女の事を疑ってしまいました」

「おミャーがそんなこと言う奴じゃニャいと分かってたのに、ほんの少しの間だけだけど、おミャーのこと軽蔑しちまったニャ…」

 

 リューとアーニャの説明を聞き、漸くルプスレギナは4人が謝罪してきた意味を知る。自分がベートの油断を誘うための演技を本気にしてしまった彼女達から敵意を感じていたのを思い出して、成程と小さく頷いた。

 

「なんだ、そんなことっすか。 別に気にしてないっすよ」

「…しかし…」

 

「皆に何も言わずにあんなこと始めちまったんっすから、皆の反応は当然のものっす。 寧ろ、軽蔑や敵意を抱くほどに今日の短時間だけで私の事信用してくれてたんだって、嬉しいくらいっすよ」

「ルプスレギナさん…」

 

「それでも悪いと思ってるのなら、そうっすね…」

「……」

 

 やはりどうしても消えることのない罪悪感に4人の表情がなかなか明るくならないのを見て、ルプスレギナはわざとらしく考え込む素振りを見せる。全員が固唾を呑んで返事を待つ中、ルプスレギナはにっと笑みを浮かべ

 

「私の応援をしてほしいっすよ。皆の応援があれば、きっと勝てるっすから」

 

 名案とばかりの表情に、珍しくリューも含めて4人全員がぽかんとした表情を浮かべる。しかし、互いに互いの顔を見合わせれば頬を緩ませ頷きあって

 

「「「…はい((ニャ))!」」」「任せてください」

 

 心強い味方が出来て、ルプスレギナは満足げにはにかんだ

 

……

 

 

「いやぁ、お待たせしたっすよ~」

「はん、遅かったじゃねぇか。てっきり逃げ……」

 

 

 両開きの扉が開き、次いで投げかけられた言葉に挑発めいた言葉を投げかけようとしたベートの口は、ルプスレギナの姿を見たことで最後まで紡がれることなく止まる。

ベートだけでなく、その場に居た者たちが思わず動くのを、喋るのを止めて現れたメイド服姿の女に目を奪われた。

 

 ある者はその美貌におぉぉ…と感嘆の声を漏らし、ある者はウエイトレス姿とさほど変わらぬ服装に眉を顰め、ある者は『メイド姿のルプスたん萌えーーー!!!』と叫ぶ…様々な反応が一寸遅れてルプスレギナに向けられて、彼女はクスリと妖艶に微笑んだ。

 

 ベートと対峙する形で歩き出したルプスレギナの後ろから現れた4人のウエイトレスたちは、『豊饒の女の主人』の入り口横に一列に並んで観戦するようで、カウンターにいるミアは少し呆れたように肩を竦めるも店に戻すつもりはなさそうだ

 

 

「フィン、ガレス、あの娘の装備、どう思う?」

 

 ベートと10数Mほど離れた位置で立ち止まり、向かい合う形で立ったルプスレギナを眺めていた【ロキ・ファミリア】の団員たちの内、翡翠色の髪をしたエルフ――副団長のリヴェリア・リヨス・アールヴは、隣に立つ金髪で幼い顔立ちの小人族(パルゥム)――団長のフィン・ディムナ――と、筋骨隆々の見た目で判断するなら一番の年長者と思わしきドワーフ――ガレス・ランドロック――に声を掛ける。

武器、防具を見る目に関しては、自分よりも2人の方が造詣が深いと分かっているからこそである。

 

「うん、まず杖に関しては間違いなく第一級冒険者クラスが扱うような一級品だろうね。重量に関しても、ティオナの使う大双刀(ウルガ)と同じか…下手したらそれ以上あるかもね。 アレが仮にただの木で出来たハリボテだったとしたら、僕は今後自分の目が信じられなくなるかな」

 

 遠巻きに背中に背負った杖を見ただけで、フィンはそう断言する。やはりかと頷くリヴェリア。ガレスは『それに』と付け足して

 

「あの服も、一見ふざけている様に見えるかもしれんが相当な一品じゃぞ。詳しい性能に関しては、やはり実際に見なければなんとも言えんが…」

 

 相当な一品…単純に“衣服”としてではなく“防具”としての評価なのだろうと受け取り、リヴェリア達は一層難しい表情で対峙する2人を視界に収めるのだった

 

 

「…ほな、2人とも準備はええか?」

 

 対峙する2人の間に立つのは、【ロキ・ファミリア】の主神であるロキ。喧嘩する片側が眷属であるのにジャッジとして大丈夫なのかと周囲はひそひそ話すも、ルプスレギナはそれを気にする素振りはなく、当然ロキもベートを贔屓する気はなかった。最後の確認にと声を掛けたとき、ルプスレギナが手を上げたのにはやや驚いたが

 

「ほい、ロキ様ちっといいすかね?」

「…なんや? やめる言うなら勿論うちの【ファミリア】が責任もってベートを止めるけど…」

 

「いやいや、違うっすよ。 ただ、ここまで大事になったからにはただの喧嘩じゃつまんねーと思うんっすよ」

「……あァ? テメエは何が言いてぇンだ」

 

 ひらひらと右手を振りながらも話すその様子に焦れたベートが続きを煽り、ルプスレギナはニィ、と口角を吊り上げる

 

「――…だからね、提案。 この喧嘩に勝った方は、負けた方に対して3つ。なんでも命令できるというのは、どうかしら…?」

 

「……正気か? テメェ」

 

 まるで(そう)状態の人間のようにころころと表情の変わるルプスレギナに若干得体の知れなさを今更ながらに感じつつ、ベートは眉を顰める。いや、この提案を訝しんだのはベートだけではない。ロキもまたそのような提案をしたルプスレギナの真意を掴み兼ねているようだ。

 

「…ルプスたん、その“なんでも”言うんは、まさか【ファミリア】の脱退をベートに命じる、なんてのも出来るんか?」

「んー? まぁ、“なんでも”っていうのはつまりそういう事っすよね? 逆に私を都市から追放、なんてのも出来るっすよ?」

 

 2人のやり取りに周囲がざわめく。それじゃまるで規模の小さい戦争遊戯(ウォーゲーム)じゃないかと、野次馬たちの誰かが呟いた。細めていた目を開くロキと、丸い目を逆に細めたルプスレギナの視線がぶつかり剣呑な空気が流れる中で、口を開いたのはベートであった。

 

「いいぜ、やってやる」

「なっ…ベート、おま……本気か?」

 

 渋るロキとは裏腹にあっさりとそれを了承したベートを説得しようとするロキであったが、ベートの意志は固く説得に失敗したか、やがてはぁと溜息を吐き額に手を置きながらも2人のちょうど中間の位置に戻る。

 

「……正直、気乗りはせんけどな…もう、こうなったもんはしゃーない。いざって時は腹ぁ括るか… そんじゃ、話も決まったところで改めて、2人とも準備はええか?」

 

「いいっすよー」

「問題ねぇよ」

 

 険しい表情のままぼそぼそと独り言を呟いていたロキも、やがて顔を上げればルプスレギナ、それからベートと交互に指をさし、確認を取る。

迷宮都市でも有名人の一人である第一級冒険者と、小規模なファンクラブこそあれど未だ無名の新人冒険者の戦いは――

 

「それじゃあ……始めぇい!!」

 

「――……お?」

 

 ロキが掲げた右手を振り下ろしたと同時に地を蹴ったベートの高速の蹴りから始まった

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 野次馬たちの大半はレベル1かよくても2の冒険者。そして下界においての身体能力は普通の人間とさほど変わらない神々である。故にその者達は、何が起きたか理解が出来ないようだった。

 

 なんせ、気が付いたらベートが先ほどまでルプスレギナの居た場所に立っていて、ルプスレギナが居なくなったのだから。代わりに全員の視線が向いたのは、ルプスレギナが立っていた位置よりも後方で上がっている砂埃である。

 

 

「ベート!! この馬鹿!!」

「あの子、完全に棒立ちだったよね…!?」

「あ、あわわ…あの方、本当にマズいんじゃ…」

 

 

「…()()()()とはいえ、少し遠慮が無さすぎるようにも見えたが…」

「まぁ、いくら酒に酔ってて頭に血が昇ってたとはいえ、()()()()責められるところだ。でも、彼女の武器防具が本物ならまだ終わりじゃないだろうね」

「うむ、じゃが念のために回復魔法の準備は…む?」

 

 先日までのダンジョン遠征で、ベートは普段使っているミスリルブーツを念のために鍛冶師に見せている最中である。故に、今履いているのはそういった状況に備えて準備している予備のブーツだ。材料は同じミスリル製だが、魔法吸収の機能もなく武器としての価値は幾分下がる。

それでも、()()()()()()()()()()()()()()は、並の冒険者なら一撃でグロッキーにさせる威力があるだろう。

 

 終わった、一部を除く殆どがそう考えた。中には既にこの場から離れている者もいる。

 

 そんな中で、ベート・ローガは未だに砂埃の中を睨んでいる。蹴った際の()()()が、まだ油断をするなと伝えている

 

 

「べ、べべべべ、ベートぉぉ!!? おまっ、なにしてくれてんねん!?」

「…なにがだ」

 

 

 呆然と目の前で起こった出来事を見ていたロキがハッと我に返り、ベートに詰め寄る。無論ロキとしてはベートの勝利を応援していたし信じてもいたが、それでも譲れないものもある。警戒心を解いてないが故にいつも以上に素っ気ないベートの言葉に、ロキはぐわっと目を見開き、叫ぶ

 

 

   「アホかぁぁ!! 美女は世界の宝なんやぁぁぁ!!!」

 

 

 全くだ、と野次馬たちは頷いた。

 

 

「はん、阿保くせぇ…おらババア、とっとと回復を……ッッッ!!!??」

 

 一向に動きのない砂埃に鼻白むベートはさっさと背を向け自分にヤジを飛ばす【ロキ・ファミリア】のもとに戻ろうとする。しかし、生憎とそれは叶わない

 

 砂埃の中から飛び出した黒い人影が、ベートを横合いから思い切り殴り飛ばしたのだ

 

 

「「「「「!!!??」」」」」

 

 再びの驚愕が周囲を包み込む中、ベートは思い切り後方に吹き飛び砂埃に包まれる。まるで先ほどの再現の如く、しかしそこに立っているのはルプスレギナ・ベータであった。

 

 

「はぁ~…油断しちゃあ駄目っすよね」

 

 ぐるぐると肩を回し、それからメイド服についた埃を叩く様な動作をする彼女は頬などに地面を滑る際にできた擦り傷のようなものが出来ているが、大きな怪我は見当たらない。

先ほどベートに左胸――恐らくは脂肪のある部分なら大事には至らないと判断したのだろう――を蹴られた瞬間をしっかり見ていたウエイトレスたちは、安堵した様に溜息を零す。グッとルプスレギナが親指を立て、3人がそれを返し、1人は頷く。

 

 背中に背負っていた杖を右手に構え、砂埃の中に吹き飛んだベートを見つめる女の笑みに、人々は余裕の感情を汲み取る、が…

 

 

「(これがダメージを負う感覚…痛みか……って、かなりビックリしたわ!! 何アイツ超速い!!)」

 

 余裕そうに笑みを浮かべるその裏で、素の彼女(鈴木実)はかなり動揺していた。

 

 ただ、流石はルプスレギナ・ベータ…速いと理解しながらもしっかりと蹴られる瞬間までを目撃は出来たうえ、見ての通りほとんど無傷なのだ。圧倒的に高い物理防御力に救われた。

 

「(とはいえ、素の【ステイタス】(ステータス)…少なくとも速さに関してはこっちのが下か。なら…)」

 

 記憶が確かなら原作のルプスレギナは、物理防御力が高く素早さが低かったはず。間違いなくベートよりも足の速さでは劣っている…このままなら、だが。

 

 未だにベートは出てこない。先ほどの自分のように砂埃の中で何か狙っているのなら、今のうちに出来るだけの対策は立てさせてもらおう。

 

 

    《魔法無詠唱化・(サイレントマジック・)上位全能力強化(グレーターフルポテンシャル)

    《魔法無詠唱化・(サイレントマジック・)超常直感(パラノーマル・イントゥイション)

    《魔法無詠唱化・竜の力(サイレントマジック・ドラゴニック・パワー)

    《魔法無詠唱化・加速(サイレントマジック・ヘイスト)

 

 取り敢えず無詠唱化して発動したのは4つの強化魔法。あまりそちらに気を取られて警戒が疎かになり、反撃を許すわけにはいかないからだ。

 

 橙に、黄色に、赤に、青にと代わる代わる強化(バフ)による光が身を包むと、周囲のざわめきが大きくなった。

 

 

「リヴェリア、今のは魔法かい?」

 

 顎に指を添え難しい顔をするリヴェリアにフィンが声を掛けると、リヴェリアはやがてかぶりを振った

 

「いや…スキルの可能性も考えられる、詠唱をしていなかったし、なにより()()()()()()()()()()()()

「もしくは、何らかの装備の効果じゃろうか」

 

 周囲の野次馬や同じ【ファミリア】の団員たちが興奮した様子で観戦している中で、この3人はあくまでも冷静にルプスレギナの事を観察している。しかし、どれだけ聡明な頭脳と鋭い観察眼を持っていようと、“ルプスレギナ・ベータは異世界の存在”という発想が出ない限り答えに行き付くことはない。

 指輪の効果で魔力探知が阻害され、魔法の詠唱もない為にスキルか装備の効果だと思ってしまうのも、仕方のないことだ。

 

 

「ガアァァァァ!!! まだ終わってねぇぞォ!!!」

 

 周囲のざわめきを覆うほどの咆哮とともに砂埃の中からベートが飛び出してくる。

 

 迫るミスリルブーツの蹴りに、ルプスレギナは半歩下がって杖を振るう。甲高い金属のぶつかる音が響き渡り、杖とブーツが激しく火花を散らす。最初はギリギリと拮抗していたが、両足でしっかりと体を支えているルプスレギナに軍配が上がり、ベートの蹴りは押し返された。

チィ、と舌打ちしつつ、地面を滑るように下がったベートにルプスレギナは躊躇うことなく肉薄する。

 

 殴る、かわす、蹴る、防ぐ、相打ち、ぐらつき、耐え、共に頭突き……互いに距離を取ろうとしない。自分の意志で下がる気がないというのと、下がろうとすればきっと隙を突かれると分かっているからだ。

 

 周囲はもう何度目かになるかもわからない驚愕に包まれている。ぶっちゃけ周囲の野次馬の一部は初め、メイド服姿に戻ったルプスレギナのスカートのスリットから覗くガータータイツと素肌に釘付けになっていたが、そんな者達ももはや皆無だ…多分。

 バリバリの前衛であり迷宮都市でも数える程度しかいないレベル5のベートに対し、美人という以外ほとんど無名の、しかも後衛と思わしき女が対等か、あるいはそれ以上の実力を発揮しているのだから。驚くのも無理もない。

 

 

「あ、あの子…ベートと凄い張り合ってるけど…本当にウエイトレスなの…?」

「あ、あ、アイズさん…あの方、レベルはどれくらいなのでしょうか…」

「……少なく見積もってもレベル5はあると思う…ただ…」

「何か、違和感があるのよね…」

 

 アイズの隣で一生懸命2人の動きを目で追いかけるレフィーヤの質問に、ずっと黙り込んで観戦していたアイズが呟く。しかし、と浮かんだ疑問の続きは、共に観戦しているアマゾネス姉妹の片割れであるティオネ・ヒリュテが紡ぐ。ついでに姉妹のもう片割れも『確かにー』と同調していた。

 

 

 ちなみに

 

「(そんなん自分でも分かってますよー!!)」

 

 ばっちり聞こえてた。

 

 

 恐らく、彼女らの違和感の正体はベートと張り合えるだけの身体能力のわりに体捌きが素人染みていることだろう。当然だ、私は所詮ただの社会人である“鈴木 実”であり、“ルプスレギナ・ベータ”ではないのだから。

《超常直感》と各種強化魔法のおかげでベートの動きがはっきり追え、身体もついてこれているからこそ今のところは問題なく戦えているが、ボロが出るのは時間の問題か。

 

 ――ただ、彼女は気付いていない。自分では傍から見て素人丸出しだろうと思っている武器の構え方などに関しては、『ウォーロード』を始めとする戦士系の職業(クラス)の影響で()()()()()()()しっかりとした形が出来ていることを。

 

 

「(なら…!)ほいっと…!!」

「ぐ、ぅッ……!?」

 

 ベートの蹴りを左腕でガードし、右手の杖を振るう。盾にした左腕に痺れるような痛みが走るものの、まだまだ動かすのに大きな支障とは呼べない。

左腕の痛みと引き換えに振るった杖は、両腕をクロスさせてガードをしたベートを10Mほど後方に引き下がらせる。

 

 再び距離を詰めるべく僅かに腰を落としたベートが見たのは

 

 

 

    踵を返し、逃げ始めたルプスレギナの後姿だった

 

 

「――……はぁぁぁぁ!!!??」

「うひひひひっ、鬼さんこちら~っすよー」

 

 まさかのタイミングでの逃亡――いや、投げかけてきた言葉から誘っていると分かる。しかし誰もがそれを予期していなかったが為に呆然と見送ってしまい、ぽかんと口を開けていたベートは周囲よりも一足先に我に返ると、拳をぷるぷると振るわせる。

 

「逃がすかテメェェェェ!!!!」

 

 石畳の地面が抉れるほどの力で地を蹴ったベートに対し、前方からは「あっはっはっはっはー」などと緊張感のない笑い声が聞こえてくる。

レベル5のウェアウルフの雄と、それに負けていない同族と思わしき雌の追いかけっこに追いつける者などなく、観戦者は全員置いてけぼりを食らう

 

「…っ!」

 

 そんな中動いたのはアイズであった。【ロキ・ファミリア】一の俊足を誇るベートには及ばないまでも、レベル5で且つアビリティAの敏捷(びんしょう)を存分に発揮し既に小さくなっている2人の背中を追い始める。

そんなアイズの行動に目を丸くしたのは、並んで観戦していたヒリュテ姉妹とレフィーヤだった。

 

「ちょっ、アイズ! 待ってよー!!」

「こら、2人とも…もうっ!!」

 

「あわわ…ま、待って下さぁい!?」

 

「やれやれ…僕たちも行こうか」

「私とガレスはお前ほど速くない、先に行っていて良いぞ」

「そうじゃな、フィン。お主は先に行ってこい」

 

 アイズに引き続いてヒリュテ姉妹が、レフィーヤが、フィンが、リヴェリアが、ガレスが…と、続々と【ロキ・ファミリア】の団員たちがその場を後にする。

 

 

「……あっ、ちょ…ちょっと待ちぃや!! うちのこと置いて行かんといてぇ~!!!」

 

 

その一番最後を、てってこてってこと彼らの主神が追いかけていくのであった。

 

 

……

 

 

「テメェェェェ!!! 待ちやがれぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

「ほわーほっほっほっほっす!! まて! と言われて、まつ者がいるっすか!!」

 

 《上位全能力強化》と《加速》の恩恵ですっかりベートと張り合えるだけの素早さを手に入れたルプスレギナはへらへらとどこかで聞いたセリフを吐きながら逃げ続け、その後ろを鬼の形相で追いかけるベートはやや枯れた喉を酷使し吼える。

メインストリートを疾走する黒と白の風を捉えられた者はまるでおらず、そして追いかけっこが長引くにつれて僅かに速さが上回っているルプスレギナが距離を離していった。

 

 

……

 

 

「さて…こんなもんっすかね」

 

 辿り着いたのはオラリオの中心ともいえる中央広場(セントラルパーク)。この時間ではほとんどの冒険者は探索を終えている為に人影はあまり見当たらず、おまけに広いのでメインストリートよりも戦いやすい。

振り返れば、大分距離が離れたかベートの姿はないが、彼女にはしっかりと此方目掛けて走ってくる姿が“視”えている。

 

 

 程なくしてその姿が確認できれば、立ち止まっているルプスレギナに一瞬訝しんだ様子のベートであったが、此処で立ち止まったりしてまた逃げられては面倒だと判断したか突っ込んできた。其れを大人しく迎える…筈もなく

 

「《吹き上がる炎(ブロウアップフレイム)》」

「…なっ!!?」

 

 杖の切っ先を向けたルプスレギナが何事か呟くと、ベートが踏み出そうとしていた地面が赤く染まる。凄まじい熱量にも拘らず背筋が凍りつくほどの悪寒を覚え素早く横に飛び退くと、直後ベートが居た場所から天に向かって巨大な火柱が上がった。

近くに居たらその熱量だけで肌が焼けてしまいかねないと後方に飛び退き、不敵な笑みを浮かべるルプスレギナを睨み付ける。

 

「テメェ、魔法戦士かよ…っ!!」

「魔法戦士ぃ? 何言ってんすか、こんなか弱い後方支援担当捕まえといて」

「どこが後方支援担当だテメェ!!?」

 

 どこまでもマイペースで掴み所のないルプスレギナの態度にいちいちツッコミを入れたあと、ベートは鋭い眼光でルプスレギナを射貫きながらも考える

 

「(さっきの火の魔法は広範囲って程でもねぇが、近くで発動したら間違いなく術者本人も巻き込まれる。どのみち俺が勝つには接近戦しかねぇんだ、なら…!!)」

 

 突貫あるのみ…――!!

 

 身を屈め中空のルプスレギナとの距離を一気に詰めるべく跳躍したベートに、事前に再詠唱時間(リキャストタイム)を確認していたルプスレギナは再び杖を向ける。

 

 

「《吹き上がる炎》」

「ハンッ、同じ技を二度も喰ら……っ…なっっっ!!?」

 

 詠唱を抜いて魔法を発動させたことには驚いたが、魔法名を唱えてから発動までの時間は、冷静に対処さえすればベートには例え今跳躍している最中だろうが十分に避ける余裕がある。

 勝てる、魔法を唱えた直後の僅かな硬直時間を利用すれば、懐に潜りこむのは容易い。

 

 やがてゴウッ、と炎が吹き上がった。ただし…そこはベートが居る場所ではなく、その進行方向でもない――

 

 

    ――()()である。

 

 超高温の火柱の出現によって噴水に溜まっていた大量の水はすべて蒸気と化し、爆発的な熱と蒸気がすぐ目の前を通過しようとしていたベートを吹き飛ばす。例えレベル5といえど間近で起きた爆発の範囲外に逃げることは叶わず、遥か上空に吹き飛ぶベートは身動きも満足に取れない

 

 そして、それを見逃すほどルプスレギナも甘くなかった。

 

 

 《飛行(フライ)

 

 

「…残念だったっすね。実験のご協力、どうもっすよ…!!」

 

 周囲を包み込む蒸気の中から飛び出し、あっという間に吹き飛ぶベートに並んだルプスレギナは杖を軸足(空中だけど)の肩に乗せ、脇をしめて足を肩幅に開く――その構えは、あらゆる娯楽を試したであろう神々ならば一目でわかるだろう、“バッティングフォーム”。そして、斜め下へと叩き落とすように振るった杖が、衝撃と共にベートを襲った。

 

 

「ッ、グ…ガアァァッッッ!!!??」

 

 メキメキ、と体中から嫌な音を発し、地面に沈む。いかに体力と耐久があろうともその一撃を受けて無事で済むはずはない。

 

 ゆっくりと着地したルプスレギナは、地面にめり込むベートが白目を剥いてしまっているのを確認するとふぅと小さく息を吐く。

 

「…まぁ、こんなもんすかね…《大治癒(ヒール)》」

 

 杖を背負い直し、少なくない怪我と火傷を負っている自身に治癒の魔法を使った後は両手を開閉させたりして体に異常がないかを確かめる。最後に小さく頷くと、今度は気絶したままのベートへと向き直り。

 

「(豊饒の女主人でお客さんがしてたこの人たちに関する話が本当なら、この人はレベル5……それに勝てたってことは、(ルプスレギナ)もレベル5か…いや、まだまだ強化魔法も攻撃魔法も温存してたし、総合的にはレベル6はあるのかも…問題は、私自身(鈴木実)にこういう戦いの経験が無いことかなぁ…)」

 

 うんうんと唸りながらも暫しは思考に耽り、ふと思い出したかのようにベートへと意識を戻して

 

「(やばい…一応、回復してあげた方がいいよね…?)」

 

 ぶっちゃけそんな義理はない気もするが、鈴木実はカルマ値:極善を自称しているのだ。それに、怒らせたくない方々(ロキ・ファミリア)の事を考えると回復してやらないわけにはいかない。

 

 

 

「《大治癒》、《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》、《中傷治癒(ミドル・キュアウーンズ)》、《大治……」

「……」

 

 気絶してるベートの顔をまじまじと覗いてみる。回復の影響か普通に目を閉じて寝てるその顔は、やはり()()()()になった影響なのか格好いいと感じてしまう…ときめいたりはしないが。

 こりゃ完全に同族の雌は放っておかないんだろうなぁ…と考えつつ、先ほどまでと違い赤みが消えた顔色に、ふと気付く

 

 

 ――…《大治癒》のせいで“酔い”が治ってる…すっかり忘れてた…そして、それを皮切りにもう一つ大事なことを思い出す。

 

 

 ヘスティアとかわした魔法の使用制限の話…さっきの《飛行》は絶対にベートに見られてる。

 《飛行》は便利だが、わざわざ“3つしか使えない魔法の1つ”にする程じゃない。今更ながら、《魔法無詠唱化》をしなかった自分を殴り飛ばしたくなった。

 

 

 どうする…? 相手は都市最大派閥の【ロキ・ファミリア】…口封じなんてしたくないし、仮に“酔い”の状態異常が治っていたとしても、今日の出来事自体は忘れてるかもしれない。だが、そんな根拠のない……

 

 しばし困ったように頬を掻いていた女は、やがてゆっくりと目を瞑る。そして次に瞼を開けた時、これまでも何度か人に見せていた、鋭い眼差しの大人の美女へと変化していた。

 

 

 

 

「……どうやら、第10位階の魔法を使うしかなさそうっすね…」

 

 

 風がルプスレギナの三つ編みを靡かせる(偶然)。

 指輪によって隠遁されている筈の(間違いなくされてる)魔力の奔流(笑)が周囲の空気を支配し(たような気がし)、ルプスレギナは高らかに宣言した

 

 

 

 

    ――《記憶操作(コントロールアムネジア)》!!!!

 

 

 

 

 その際、ベートに対して勢いよく突き付ける()()()()()()()の拳が、()()()()彼の右頬にヒットしてしまった。 バキィ!! と鈍い音が周囲に響く。

 

「ぐっは!!?」

 

「おっと、いっけね」

 

 失敗失敗、とわざとらしくこつんと額を叩き、《中傷治癒》で治療を始めるルプスレギナなのであった。

 

 

 

    因みに3回で全回復した。

 

 




ホワーホッh(ry …の元ネタは某道化魔導師な35歳児(CV.セバス・チャン

なんでこんなんやったかって?次回のお楽しみ(例の如く大したネタじゃない。


そして決着の付け方に物凄い悩んだ。最初は《魔法無詠唱化》を利用した時間差攻撃を考えてましたが、少しインパクトに欠けるかなと思い馬鹿なりにバックドラフト現象か水蒸気爆発かのどちらかを利用しようと考えました。ヤリドヴィッヒさんまじカッケーっすわ。

そして結果としてベート君が突っ込むことしか考えない残念な子に…(汗


リキャストタイムに関しては気を抜くと存在を忘れてしまいそうで怖い…ヒールのリキャストタイム短すぎないかって? 気にしたら負けだよチミ。

…何? 殴っても記憶が消えるという確信はないって? そんな余裕、今の彼女にあると思うかね?(派


ルプスレギナの素のステータスで一番低いのは特殊か素早さのどちらかでした。なのでまぁ、まずベート君よりは遅いだろうと考えてます。そして今回の戦い、そもそもこの2人はそれぞれハンデを背負っています。

ベート君は装備が不十分で且つべろんべろん。そしてルプーは中身が素人。

ベート君に関しては1日2日も経てばこのハンデも消えますが、ルプーは一朝一夕に解決するものではありません。ただ複雑なことに、前衛系の職業を持ってる影響で、無意識のうちに戦い方を心得てしまってます。

逆に『ちゃんと構え方とか意識して戦おう』とか強く考えちゃった時には、素人丸出しの戦い方になる…つまり弱体化してしまうわけです。今回は初めての対人戦のうえベートの素早さに驚いてしまい、そんな風に考える余裕まではなかったようです。だから、ティオネちゃん達にはルプーの素人臭が違和感程度にしか感じられなかったわけですね。

まぁ完璧すぎても面白くないだろうと考えてこうしましたが…ぶっちゃけこの設定あまり意味ないかもね(笑

※zzzz様、誤字報告ありがとうございます。
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