笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか?   作:ジェイソン@何某

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いい加減にサブタイトルに『っす』を付けたいっす…。
ですが、これで一応第1章は終わり! 

第2章から本格的にダンジョンに潜る! タイトル詐欺だなんて言わせない!



第12話『それぞれの決意』

 

 

壁に掛けられた時計の針が進む音だけが静寂の中で一定のリズムを刻む。そして、そんな部屋で1人ヘスティアは落ち着きなく右往左往していた。

 

「(遅い…いくらなんでも…遅すぎる…!)」

 

 一旦落ち着こうとソファーに座ってみたが、時計の音に自身の貧乏ゆすりが加わるだけでちっとも気分は静まらない。その原因は一体何か、考えるまでもない。

 普段ならば居るはずの2人の眷属(こども)が、未だに帰ってきていないのだ。

 

 その2人の片割れ――自身の最初の眷属であるベルに関しては、昨晩のとある出来事から少し冷たく当たってしまったことが原因なのかと一瞬考えてしまったが、まだ短期間とはいえ十分に彼の性格を理解しているヘスティアは昨日の一件が原因でいなくなるなどあり得ないと考えを捨てる。

 そして、ベル以上に帰ってこない理由が分からないのが――ルプスレギナの方だ。彼女と最後に話をしたのは昨日の朝。それから一向に帰ってくる気配はなく、ついにベル共々この時間まで音信不通である。

 

 ベルとルプスレギナ、そのどちらもが今まで見たことのないレアスキル――ルプスレギナに至っては恐らくこの世で彼女だけが持つスキル――を保有していることを知っているヘスティアは、ついに認めたくなかった思考にたどり着く。

 

 

 ――即ち、2人が何らかの事件に巻き込まれた可能性、である。

 

 

 ベルはスキルの影響で急成長しているとはいえまだまだ駆け出しだし、ルプスレギナに関してもその力の底の深さをヘスティアは知らない。一度都市中を捜索して流し切ったと思っていた汗が体中から溢れ出て、ヘスティアは再度2人を探しに行こうと立ち上がる。因みに最初の捜索時は残念ながら夜中を過ぎていたので、その頃にはルプスレギナも『バベル』の中に入ってしまっていた。

 

 扉の元へと駆け寄り、そのドアノブに手を伸ばしたその時、ヘスティアの耳に馴染みのある声が届いた

 

『おーい、ヘスちゃん~。この扉開けてほしいっすよ~』

 

「っ…!!」

 

 扉の向こう側から聞こえてて多少こもっているが、この声と口調の持ち主をヘスティアは1人しか知らない。慌てて扉を開けたとき、ヘスティアは何故彼女が自分で扉を開けなかったのか理解した

 

「べっ…ベル君!!!」

「しぃ~…声が大きいっす。 安心してほしいっすよ、怪我はもう治したし、寝てるだけっすから」

 

 ルプスレギナが横抱きにしていたベルの服装がボロボロであるのを見てただ事ではないと悲痛な叫びをあげてしまったヘスティアを宥め、部屋の中へと入ったルプスレギナはベッドにベルを寝かせる。

一先ずは上着だけでも脱がせてみれば、ルプスレギナの言った通りベル自身の負った傷は治癒魔法によってほぼ完全に治されていた。

 

 とはいえ、『疲労』に関しては治癒魔法でどうこう出来るというものではない。心身ともに疲れて眠るベルを起こすことはせず、ルプスレギナは事情を知りたいであろうヘスティアと共に一度上の礼拝堂まで移動する。

 

 

……

 

 

「――…なるほどね…1人でダンジョンに…」

 

 共に礼拝席に座り、ルプスレギナは【ロキ・ファミリア】の名前を伏せたうえで事のあらましを説明しておく。顎に手を置いて思考に耽るその様子を暫くは黙って見据え、やがて視線がぶつかるとヘスティアが何を言いたいのか悟る。

 

「私はやるべき事をやって、そのあとはダンジョンの出口でずっと待ってたっすよ」

 

「…そっか。ルプスレギナ君はそうすることが最善だと思ったんだね?」

 

 ベルと一緒にダンジョンに潜らなかったことを非難したいわけではない。ただ純粋に、その間自分が何をしていたのか気になったのだろう。【ロキ・ファミリア】との一件は口外しないと約束した以上やはり詳細は言えないのが辛いところだが、ヘスティアはその意図を汲んだのか納得したうえで確認するように言葉を投げかける。

 

「…そうっすね。今回に関してはあれで正解だったと私は思ってるっすよ。 ダンジョンから出てきたベルっちを迎えたとき、なおさら確信したっすね」

「…? 何かあったのかい?」

 

「…『強くなりたい』って言われたっす。 あの決意は本物っすよ」

「…強くなりたい、か…」

 

 ルプスレギナから告げられた言葉を反芻し、暫く2人の間を沈黙が包む。今、ヘスティアの胸の内でどんな感情が渦巻いているのだろうか。なんせベルの『強くなりたい』という決意は、アイズに対して抱いた憧憬(おもい)からくるものだ。

無論、主神()として眷属(子供)が成長しようとするのは喜ばしいことなのだろうが、それを素直に享受できない複雑な乙女心がある。嫉妬――神にあるまじき子供染みた感情を、果たして彼女はどうするか。ルプスレギナは見定めるようにヘスティアの瞳を見つめていた。

 

 やがて、ヘスティアが顔を上げたことで視線がぶつかる。居直すその姿に、此方も同じく姿勢を正せば紡がれる言葉に耳を傾ける

 

「ルプスレギナ君……ボクは…ボクは、ベル君の背中を押してあげたい。変わろうと…成長を続ける彼の事を、支えてあげたいんだ」

「……」

 

 ルプスレギナは何も答えない。ヘスティアの言葉にはまだ続きがあると、本能的に悟っていたからである

 

「でも、ボクのようなちっぽけな神に出来ることには限界があるだろう…超越存在(デウスデア)だなどと呼ばれていても、所詮下界じゃ無力な存在だ。 だから…だから、どうか! ボク達の…ベル君の為に、君の力も貸してほしいっ!! この通りだっ!!」

 

 そう叫んで、ヘスティアは此方と向かい合う形で床に直接膝を突き、両手も床に付けると額を伏せる――元々が日本人の“鈴木実”は、そのポーズを知っている。故に目を丸くして、平伏する主神の頭頂部を見つめたまま固まった。

 

「……」

「……」

 

 ヘスティアはそれ以上何も語らない。ルプスレギナも少し動揺してしまって語れない。土下座…知識はあるが、当然生で見たのは初めてだ。それが自分に向けられているのだから硬直してしまうのも無理はあるまい。

だが、そこはなんとか気を取り直し、ルプスレギナは礼拝席から立ち上がるとヘスティアの正面まで歩み寄り片膝を突く。

 

「ヘスティア様、顔をお上げください」

「…」

 

 すぐさま対応を従者の其れに変え、未だ土下座を続けるヘスティアの頭を上げさせる。最初この言葉を投げかけても頭を上げようとしなかったときはまた内心で動揺するが、仕方ないので肩に手を添え緩やかに頭を上げるよう促した。漸く顔を上げたヘスティアに、ルプスレギナはどちらが女神なのかヘスティアに忘れさせてしまうような慈愛に満ちた笑みを向ける

 

「もとよりこの都市における私の忠誠心はヘスティア様に捧げております。 そして、ベル君は私にとっても恩人であります故、僅かながらにでも御2人の力になれるのであれば、これに勝る喜びはございません」

「る、ルプスレギナ君……ボク達の、力になってくれるんだね…?」

 

 目じりに涙を溜めたまま、ぱあぁと顔を明るくさせたヘスティアに、ルプスレギナは目を細めて微笑んだ

 

「はい、それが我が女神様のおのぞみ………」

「……る、ルプスレギナ君…?」

 

 

「…わ、わが、女神様の……」

「……」

 

 

 

 

 

「…わ、…我が女神様のお望みとあらば…」

 

「ルプスレギナ君…ありがとうっ!! ボクは、ボクはなんて幸せ者なんだいっ!!」

 

「は、ははははー…」

 

 感極まって抱き着いてきたヘスティアの背中をぽんぽんと右手で抱き返すルプスレギナの表情は、なんとも複雑なものだった

 

「それじゃあ、取り敢えず下に戻ろうか!!」

「……いや、ちょっと先に行っててほしいっすよ…私、此処で少しやる事が…」

「…? そうか、なら先に行ってるよ」

 

 疑問符を浮かべながらも大人しく地下の隠し部屋へと戻っていったヘスティアを見送って、ルプスレギナは緩慢な所作で立ち上がる。よろよろと数歩進むと再び膝から崩れ、ショーン・マイケルズ…もしくはプラトーンの如く天を仰いで

 

「(うぉぉぉぉ!!! 勝った!!! 私はドイツ語(パンドラ)の誘惑に打ち克った……!!!!)」

 

 口に出さずに喜びを爆発させ、ガッツポーズをしたのであった。

 

 

 因みにその後、昨日の雨のせいで床に突いたスカートの膝部分が濡れてしまい、死ぬほどテンションが落ちた。

 

 

 

……

………

…………

 

 

「…んじゃ、ちょっくら出かけてくるっすよ~」

「うん、本当に寝なくて大丈夫なんだね?」

 

「大丈夫っすよ。 それよりヘスちゃんこそ寝ないで私たちの事探してくれたんっすから、ゆっくり休むっすよ」

「う、うん…そうだね。そうするよ」

 

 共に隠し部屋へと戻り、未だにベルが寝ているのを確認したところでルプスレギナは『ギルド』に行くとヘスティアに告げる。

 その際、ルプスレギナも今日はまだ一睡もしていないのではと思い出したヘスティアに数時間でも休むべきだと告げられたが、これは丁度良いタイミングだと維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)を始めとする指輪などの効果についてを明かした。

 

 案の定、これらの指輪はこの世界じゃ非常に価値のある物であり、絶対に余所には漏らしてはいけないとキツく釘を刺された。そして案の定というかなんというか、隠しごとの苦手そうなベルにも、基本的にこれらのことは黙っていた方がいいと2人して同じ結論に至る。

 

 

 さて、話を『ギルド』へと戻そう。実のところ、ここ数日はとある理由から講座は出来ないとエイナから昨日の別れ際に告げられていた。エイナがわざわざ自分の為に豊饒の女主人という働き口を急いで探してくれたのは、それも理由にあったのだろう。

故に、今日『ギルド』に行くのは決して講座を受ける為ではない。其れよりももっと重要なことをするために行くのだ。

 

 

「…あ、ヘスちゃんヘスちゃん」

「うぇっ!? …な、なんだい…?」

 

 自分を見送るや否やベルが寝ているベッドに潜り込もうとしていたヘスティアに、何かを思い出したかのようにぬっと顔を出す。驚いて肩を跳ね上げたヘスティアを半眼で見据えた後、ルプスレギナはヘスティアに今日の予定を尋ねた。

 

「あ~…そうだねぇ…ベル君の体調次第だけど、問題無いようなら午後にちょっと出かけようかと思ってるよ」

「そうすか…ん~…じゃあ、夕方までに帰ってくれば問題ないっすかね?」

「うん、ボクもその頃には戻ってきてると思うよ」

 

「りょーかいっす。それじゃ改めて行ってくるっすよ」

「うん、行ってらっしゃい」

 

 ひらひらと片手を振ってから顔を引っ込め、ルプスレギナは改めて部屋を後にするのであった。

 

 

……

 

 

   ―――そんなこんなで『ギルド』本部

 

「おぉ…こりゃ忙しそうっすねぇ」

 

 外へと出た時間が時間だったためにぶらぶらと油を売りつつ到着した『ギルド』のロビーで、中にいる職員たちをぐるりと見渡しひとりごちた。まだ時間的に『ギルド』も開いたばかりで冒険者の姿は全くないが、だからこそ今のうちに出来ることを終わらせてしまえとカウンターの向こうで職員たちが大量の書類やボードを抱えて走り回っているのだ。

 他人事のように――いや事実他人事なのだが――両手を後頭部で組みながらもカウンターに向かうルプスレギナであったが、そこには彼女が探している人物の姿はない。困ったように眉尻を下げたところで、視界の端に見覚えのある桃色の髪が映った。

 

「あ、ルプスレギナさ~ん!!」

「おっ、ミィちゃん、丁度良いところに来たっすね」

 

 此方がその人物を見たと同時に向こうも此方に気付き、片手を上げて近付いてくる。小柄で童顔、初めて見た時はやや背の高い小人族(パルゥム)かと思ったが、実は普通のヒューマンである。綺麗所が選ばれる受付嬢の中では“美人”よりも“可愛い”という表現の方があっていそうな彼女――ミィシャ・フロットは、ルプスレギナが探している人物――エイナ・チュールの同僚であり、エイナの講座の合間などに挟んだ休憩時間に言葉を交わしてある程度の親交を深めていた。

 

「今日は何か御用ですか?」

「そうっす、エイちゃんを探してるんっすよ」

 

 コテン、と首だけでなく体も傾けたミィシャにつられて此方も身体を傾け、ここに来た用事を告げる。どうやら自分の講座が無いことを彼女も知っていたらしい。

 

「そうですか。それじゃあちょっと待っててくださいねっ!」

 

 元気よく返事をして踵を返したその後姿を見送り、代わる形でやってきた茶髪で眼鏡のハーフエルフの女性にひらひらと手を振った。

 

「ちわっすエイちゃん、忙しいとこ申し訳ねっすよ」

「おはようございます、ルプスレギナさん。ううん、気にしないで。こちらこそ講座に回す時間が取れなくてごめんね? どうしても怪物祭(モンスターフィリア)前は忙しくて…」

 

 怪物祭(モンスターフィリア)…確か、『ギルド』が発案し、【ガネーシャ・ファミリア】が主催する年に一度のお祭りだったか。生憎とその【ガネーシャ・ファミリア】とやらの知識はあまりないが、この都市でもトップレベルの構成員数を誇る上位派閥なんだそうだ。祭りの内容は…まぁ、別にいいか。エイナも忙しいようだし、無駄に時間を取らせるのは申し訳ない

 

「まぁまぁ、私は気にしてないっすから。 それよりも、今日はエイちゃんに大事な話があるんすよ。ちっと個室に行かないっすか?」

「え? …うん、わかりました…」

 

 

……

 

 

「……え?」

 

 エイナと共に個室に入ったルプスレギナは、椅子に座ろうとするエイナを呼び止めその場で頭を下げた。

 

「…エイちゃん。私にダンジョンに潜る許可をくれないっすか?」

 

 驚き硬直するエイナに対し、床を見つめるルプスレギナは目を瞑るとエイナへと願いを口にする。それが今日ルプスレギナが此処に来た理由だ。ルプスレギナの行動と告げられた言葉を時間をかけて理解し、ハッと我に返ったエイナは慌てて声を上げた

 

「だ、駄目だよそんなのっ! まだ…まだ、上層のモンスターの事だって全部は把握できてないのに…」

「講座はこれまで通り受けるっす。ただダンジョンに潜る許可は欲しいっす」

「でも、知識も不十分なままにダンジョンに潜るのがどれだけ危険なことか…!」

「私はちょっとやそっとじゃ死ぬことはないっす。自惚れでも何でもなく、間違いなく断言出来るっす」

「で、でも…「エイちゃん」……なんで?」

 

 頭を上げようとしないルプスレギナの真摯な態度に、エイナは思わず呟いた。やがて、ゆっくりと顔を上げたルプスレギナの瞳は見据え、いつものおちゃらけた雰囲気が微塵も感じられないと分かり、エイナは息を呑む

 

「…見守ってあげたい方々がいるんです。 ただ理想を語り、遠巻きから眺めるだけだった“憧れ”を昇華させるべく邁進する未熟な子を。 己の中に渦巻く複雑な気持ちを抑え、その子の背中を押そうと決めた御方を、私は見守り、そして力になりたいのです。 その為に、何卒…私に、ダンジョンに潜る許可をください」

 

「…ルプスレギナさん…」

 

 そこにはエイナの知るルプスレギナの姿はなかった。だが、これは演技でも何でもなく本心からくる言葉であり、目の前の彼女の姿も間違いなく本物なのだろうとエイナは察知する。一瞬たりとも目を逸らすことなくこちらを見つめるルプスレギナに、エイナは暫し目を瞑る。

 『神の恩恵(ファルナ)』を貰ったばかりの冒険者が、一般人だったころと比べて格段に上がった身体能力に自信を得てダンジョンに単独(ソロ)で潜り、返り討ちに合うという話は決して少なくない。そして、そういった冒険者も一度は必ず触れ合うのが、『ギルド』の職員…特に受付嬢なのだ。

 

 新人もベテランも関係なくエイナはこれまで様々な冒険者と接してきた。そして、そのうちの何割かとはもう話す機会はない。その何人かは彼女の講座についていけなくなったせいだが、大半はダンジョンから戻って来なかったからである。

 18階層のようなセーフティーポイントに永住したなどならばまだ良い。だが、生憎とそうではないのだ。

 

 彼女の『守りたい』、『力になりたい』という言葉で浮かぶのは1人の少年と一柱の神だ。神の方はさておき、少年の方の力になりたいと彼女が思うのは、非常に共感が出来る。ただアドバイザーとして言葉で助力するぐらいしか出来ることの少ない自分と違い、彼女であれば直接力になることも出来る。だが…

 

 ちら、とエイナはルプスレギナを見る。今更考えるまでもなく、あの目は本気だ。とはいえこうしてわざわざ許可を取りに来た以上、これがポーズでなければ此方の言葉に素直に従うだろう。普通ならば、断固として否というべきだが

 

「……本気、なんだよね…?」

 

「はい」

 

 言い淀みもせず、真っ直ぐ目を見据えて答える。エイナは静かに眼鏡の位置を直すと、やがて溜息と共に頷いたのだった

 

「……わかりました。 ルプスレギナさん、貴女がダンジョンに潜ることを許可します」

「エイちゃん!! ありが「た・だ・し!」…おぉぅ、なんか前にもこんな経験あるっす…」

 

「今から私が言うことを守ると約束してもらいます」

 

 たじろぐルプスレギナにそう告げて、エイナは以下の条件を提示した。

 

・ダンジョンに潜るときはなるべく複数人(パーティー)で行くこと。

・ソロで潜る場合、最初の数週間は1、2階層より下には極力行かないこと。

・パーティーを組んで潜る際にも、決して無理はせず下に進み過ぎないこと。

・パーティーを組む際は同じ【ファミリア】の仲間を最低1人は含めること。etc...

 

 “極力”とか“なるべく”と含まれているのを見るに、これは絶対に厳守せねばならない“決まり”というよりは“心得”のようなものだと考えればいいだろうか。幾つかに関しては初めからそのつもりではあるものの、上2つに関しては守れる自信はない…既に10階層まで行ってしまってるわけだし。

 

「…そして、何か分からないことがあればすぐに相談すること。これは最悪、私じゃなくてもいいから」

「なるほど、ホウレンソウは大事っすもんね」

「ん、そういうこと」

 

 ホウレンソウ…即ち報告・連絡・相談…やばい、私ってばWeb版ルプスレギナ並に完璧? そんな自惚れはさっさと隅に追いやり、ルプスレギナは了承の意を込めて頷いた。

 

「分かったっすよ、()()守ると誓うっす」

「…なんだかちょっぴり不安だけれど…でも、本当に…くれぐれも、無理はしないでね?」

 

「…任せてほしいっすよ」

 

 最後にもう一度だけ微笑みを浮かべ、エイナもそれで少しは安心したか頬を緩めた。互いに小さく笑い合い、個室を出て――

 

「――…そういえば、『豊饒の女主人』はどうするの? 講座も定期的にやるつもりだし…流石に厳しいんじゃないかな?」

「う、ぐっ…いや、そこはー…そのー…」

 

 すっかり忘れていた指摘を受け、目に見えて狼狽してしまう。そのあからさまな不審な態度を訝しんだエイナは徐々に半眼となり、ルプスレギナは内心で冷や汗を流しながらもどう言い訳をしようか悩んでいると、トコトコと桃色――ミィシャがやってきて

 

「エイナー! ルプスレギナさんも聞いて聞いて!! さっき冒険者の方から聞いたんだけど、昨晩西区画で大きな騒ぎがあったらしいよ!?」

「うぇっ!? み、ミィちゃんシーッ!! 仕事中なんっすから、お口チャック…」

「ミィシャ、詳しく。ハリーハリー」

 

 この娘っ子はちょくちょく仕事抜けだしてる気がするが大丈夫なのだろうか、なんて心の中で心配していると、その可愛らしい小さな口から紡がれた言葉にルプスレギナはさらに大きく取り乱すことになる。『西区画』、『大きな騒ぎ』、この2つのワードに特に反応を示してしまったのは大きな失敗と言えるだろう。

 エイナは速攻でルプスレギナが関わっている可能性が高いと見抜き、皮肉にもこういった雑談を好むルプスレギナが静かにするよう諭し、真面目なエイナが続きを促すという普段とは逆の反応を示した。

 

「う、うん…実は、『豊饒の女主人』で喧嘩があったらしいよー!」

「そんな、の…別に、ねぇ? ふ、…普通、なんじゃないっすかね…?」

「…そうだね、普通だね。ここまでは、ね」

 

 ついには実際にも冷や汗を浮かべたルプスレギナを見ようともせず、エイナはミィシャの事をじぃと見据える。その視線がさらに続きを促していると分かり、ミィシャもまた狼狽えながら続けて

 

「それがね、喧嘩した2人の片方は冒険者なんだけど、片方はなんと『豊饒の女主人』のウエイトレスさんだったらしいよー!!」

「あっ、私そろそろ帰らないと。ヘスちゃんに昼食(ダークマター)作ってあげないと「ルプスレギナさん。少し待とうか」…はい」

 

「…それで、ミィシャ。その喧嘩した2人…特にウエイトレスについて、もう少し詳しくわかるかな?」

「うーん…それがウエイトレスさんは()()だったらしくて、()()()()()っていうくらいしか…でもでも! 喧嘩した冒険者がまた凄かったの!!」

「…誰だったの?」

 

「大きな声じゃ言えないんだけどね……【ロキ・ファミリア】の【凶狼(ヴァナルガンド)】らしいよ」

「【凶狼(ヴァナルガンド)】……」

「うおっとエイちゃん! 気をしっかり持つっす!」

 

 流石に大声じゃ不味いと思ったか、周囲を警戒したうえで声を潜めるミィシャが告げた単語を反芻したエイナは、額に手を置きクラァ…と倒れそうになる。慌ててルプスレギナが支えるも、エイナにはその礼を告げるよりも前に確認せねばならないことがある

 

「ルプスレギナさん…? もしかして、ですけど…」

「あー……うん、喧嘩したウエイトレスって、それ私っす」

「……(クラッ」

「あーっ!? エイナ!?」

「ちょっ、エイちゃん!! エイちゃーーん!!」

「ルプスレギナさん!? 笑ってる場合じゃないですよー!?」

 

 今度こそ脱力したエイナを支え、姦しく騒ぐミィシャとルプスレギナ。思わず笑っちゃったのはサディストの設定のせいかな? 仕方ないね。

 

 

「る、る、ルプスレギナさん…? 貴女は、一体何を考えているんですか、もう…」

「あっはっは、面目ねっすよ」

 

 エイナはすぐに目を覚まして立ち上がり、ルプスレギナを説教する。まぁ酔っていたとはいえ第一級冒険者と喧嘩だなんて、こうしてぴんぴんしている時点で奇跡のようなものだ。多分、【ロキ・ファミリア】の方々が止めてくれたのだろうと考えたうえで、念のために確認することに

 

「…それで、勿論大丈夫だったんだよね?」

 

 これは、手は出なかったんだよね? 口喧嘩で済んだんだよね? という意味。 だが…

 

「大丈夫っす!! 油断してたから思い切り殴り飛ばしてやったっす!!」

 

 残念、この駄犬にはその意味が伝わってなかったようだ。

 

 

「……殴り飛ばした?」

「そうっす! もうめっちゃぶん殴ってやったっすよ!」

 

「……(チラ」

「……(コクコク」

 

 何故か自信満々に、尻尾があったらブンブンと振っていそうな勢いでそう語るルプスレギナの言葉が信じられなくて、ミィシャに視線を向けた。どうやら殴った瞬間は大勢が見ていたらしく、ミィシャもこの話を教えてくれた冒険者からちゃんと聞いていたらしい。 つまり…嘘じゃない。

 

「………(クラァ…」

 

「あぁっっ!!? エイちゃん!!? エイちゃぁーーーーん!!!!」

「ちょっ!? ルプスレギナさん!! 爆笑してる場合じゃないですってぇ!!?」

 

 またもや倒れたエイナを抱きかかえながらも叫ぶと、いい加減に冒険者の増えてきた『ギルド』のロビーに居る全員の視線が集まる。仰向けに寝かせたエイナがうんうんと唸るのを見て、ミィシャに膝枕をさせながらルプスレギナはエイナの口元に耳を寄せ

 

 

「ヤバいっす!! 誰か人工呼吸ーー!!!」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 瞬間、空気が変わった。

 

 

「な、ならばオラが…!!」

「貴様如きにそんなことさせるかっ!! お嬢さん! こ、ここは…わわ、私が…っ!!」

 

 いやいや俺が、私が、オイラが、わた…(わらわ)が――続々と候補者が手を上げるその中には、いつの間にか『ギルド』に来る機会のない神々(暇人ども)まで加わっていた。まぁ、神々の大半は面白半分に参加してるだけなんだろうが…1人だけ、本気でエイナのもとに向かおうとして、別の神に羽交い絞めにされてるやつ()もいる。

 

「くっ、離してくれ兄弟!! これきっかけでエイナちゃんに嫌われようと、俺は…俺は…っ!!」

「落ち着け兄弟!! お前たちもだ!! 落ち着いて、よく聞け!! お前たちの誰かがエイナちゃんに人工呼吸(接吻)をしても、幸せになれるのはソイツだけだ!! でも…

 

 

 

 

 

 

 

    …でも! ルプスちゃんとエイナちゃんの人工呼吸(接吻)なら、見た皆が幸せになれるぞ!!!」

 

 

「「「「「!!!!??」」」」」

 

 

 

 

「……ルプスレギナさん、アレ、ほっといていいの…?」

 

 勝手に盛り上がる男たちの輪の外で、相変わらずうーんうーんと唸るエイナに膝枕をしているミィシャが耳打ちし、ボードを団扇代わりに仰ぐルプスレギナは真剣な表情を向けた。

 

「ミィちゃん…面白さっていうのは、なによりも優先されるものなんすよ」

「……あ、はい」

 

 

……

 

 

「……一応、書かないといけない書類などもあるので、ダンジョンに潜るのは明日以降にしてね」

「はい、了解っすよ」

 

 あの後、エイナが目を覚ましたのをきっかけに騒動はすぐ治まった。エイナが何かしたわけじゃない、ルプスレギナが右手を上げて合図を送り、それきっかけでまず神々が散っていく。それにつられ、エイナが起きたことに気付いた冒険者たちもそそくさと元居た場所に戻ったのだ。最初に口を開いたドワーフやエルフなど、若干名エイナが目を覚まして安堵した半面がっかり…的な表情の者もいたが。

 

 で、エイナの説教を10分ほど受けてから、今に至る。予想以上に長引いたルプスレギナとの漫才…じゃなくて()()に、今日は残業確定かと額を押さえつつ確認と注意点をルプスレギナへと述べていく。『最後に』と、エイナはルプスレギナの瞳を真っ直ぐ見つめた

 

「こんなこと言うのも変かもしれないけど……ベル君の事、どうかよろしくね。あの子は、ダンジョンに夢を見て少し無理をし過ぎるきらいがあるから…」

 

 互いに真っ直ぐ見つめ合う状況、普段のルプスレギナなら『そんな熱っぽい目でみられちゃ恥ずかしいっすよ~』なんて茶化すところだろうが、今回は違う。エイナの言葉にしっかりと頷き、とんと豊かな胸を軽く叩く。

 

「任せてほしいっすよ。 エイちゃんの信用に答えるためにもガンガン頑張るっす! 昼も夜も、ビンビ「わーわーっ!! 分かった分かった!! そういう発言はいいからぁーっ!!」…ん~?」

 

 

 ――思わぬタイミングだったが、獲物が針に掛かったのをルプスレギナ(駄犬)が見逃すはずもなく

 

 

「……あれあれ? “そういう発言”って何のことっすかね? ほれほれ、お姉さんに言ってみるっすよ」

「…っ~~!! も、もうっ!! 知りませんっ!!」

 

「あっはははー。ごめんっすごめんっす。 …それじゃ、また明日…あー…それか、明後日に、()()()帰って来るっすから」

「……うん。 ルプスレギナさん、分かってるとは思うけど、くれぐれも…」

 

「『冒険者は冒険しちゃいけない』…っすよね? 肝に銘じとくっすよ」

 

 結局茶化し、顔を赤くするエイナにルプスレギナがケラケラ笑いながら謝る。そうして背を向け歩き出した直後投げかけられた言葉には、彼女から耳にたこができるほど聞かされていた言葉で返し、ひらりと手を振るのであった。

 

 

……

………

…………

 

 

「――…さぁーて、この後は何して過ごそうっすかねぇ…」

 

 喧騒に包まれた冒険者通りを、両手を後頭部で組みながらも歩き続ける。本番は明日から…では残りの時間は何して潰すか。『豊饒の女主人』…は、明日にしよう。多分ベルも、あそこに用があるだろうし。…決して、1人で行くのが怖いわけじゃないよ?

 

 

 どうしたものかとこの後の予定を決めかねていた為か、彼女は気付かなかった。此方を指差し、ばたばたと駆け寄ってくる複数の男たちの姿に―――

 

 

 

 

「「「――――見っけぇぇえええええええ!!!」」」

 

 

 

 

 ――どこかの誰か(駄犬)がこんなことを言っていた。

 

 

    “面白さは何よりも優先される”

 

 

 そして今、その言葉に忠実に従うモノ達の魔の手が、彼女に迫っていた―――

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 




 
おふざけは許さない、なぜなら私は良犬だから!

で、結果的にエイナとミィシャがおふざけに巻き込まれる。仲良くなると必然的に悪戯の対象になるからね! 仕方ないね!

果たしてエイナとの約束は、幾つ守られるのか…


次で第2章に行くと思ったか!? 残念、番外編だよ!!


ソード・オラトリア(漫画版)のミィシャちゃん可愛すぎません? めっちゃ虐めたい←

あ、それと活動報告に色々と書きました(適当




残念美少女さんを探せ(ただのネタです
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