笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか?   作:ジェイソン@何某

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お待たせしました。

いやはや、グダグダしていた間にもう10月ですよ…オバロの人気投票も終わって…ルプーちゃん人気投票第7位おめでとう!!

本当におめでとう!!コレ本当に言いたかった!!


皆様、ようやくあの子の登場です。…しかし、ここまで散々引っ張っといてなんですが戦闘描写はかなり短いです。

だってルプーが負けるわけないし…←


それと、今回はかなりのブランクを開けての投稿になりますので、いつも以上にクオリティは低くなっていると思われますので、どうぞハードルを下げてご覧下さいませーosz

また、一部に捏造設定などもございますので、ご注意くださいませ(今更



第20話『白銀のモンスターと一般認識』

 

 

「―――…えぇー…」

 

 思わず、ルプスレギナは気の抜けた声を漏らしてしまった。

 目の前に対峙する巨躯――というか、丸々とした大福のような体躯のモンスターは、それを窮しているとでも見たのかふふんと得意げに鼻を鳴らし。

 

「ふふふ。ひょうはふとおほへは、ふはわっへふるへほはふよ!」

 

 ――…多分だけど、『驚愕と恐れが伝わってくる』とか言ってるんだと思う。

 

 で、『ほへはひ』と『ほはふ』に関しては、あんまり考えたくないけど、多分考え通りの言葉なんだと思う。

 

 

「……ははっ」

 

 

 いやまぁ、確かに驚いたのは事実だ。

 

 銀というよりはスノーホワイトの毛並み。黒く(つぶ)らな瞳。そして先ほども言ったが、大福のようなまん丸い姿。

 

 目の前にいるのは、かなり見覚えのある『ジャンガリアンハムスター』だ。これはもう、間違いなく。

 

 

 …原作の『オーバーロード』を読んでいる者達ならば、もう分かるだろう――なんだろう、その前からいろんな人にバレてた気もするが――。あれは『ハムスケ』だ。それはもう、紛う事なき『ハムスケ』だ。

 

 

「…なんでお前がここに居るんっすか、ハムスケ…」

 

「…はへ? “はむふへ”ほは、はにほのへほはふは?」

 

 …嗚呼、うん、わかりました。つまり目の前のコイツは、『ハムスケ』であって『ハムスケ』ではないと、了解です。はい。

 

 

はへ(さて)いいはへんにおはふほをひへふへほはふよ(いい加減にお覚悟を決めるでござるよ)!」

 

「おぉっと…なんっすか、容赦ないっすね!」

 

 そうこうしている間に、ハムスケ…っぽいモンスターは此方に向かって再び尻尾を放った。そこは流石モンスター、何の捻りもなく繰り出された、先ほどまでと全く同じ軌道は、いくら不意打ちといえどもあっさりと弾けた。

 

 ただ、それを弾いたルプスレギナの顔は晴れない。容赦なく攻撃してきたという『らしくなさ』に動揺したのもあるが、何より少し悔しいのだ。

 

 ――何が悔しいかって、だんだんと向こうが何言ってるのか分かってきたという事が、だ。

 

 

ひゃふへほはふな(やるでござるな)へは、ほふへひ(では、突撃)ーー!! へ、ほはふ(で、ござる)!!」

 

「だぁーもう鬱陶しいっす!! エノク語ですら私よく分かってねーんすから!!」

 

 ――エノク語とは、原作の『オーバーロード』において第8階層守護者のヴィクティムが使用する言語である…まぁ実はそれはアインズの勘違いなのだが、その辺はどうでもいい。

 

 

 アインズ様がエノク語だと言ったらそれは等しくエノク語なのだ。

 

 

 まぁ兎に角、猿轡を嵌めたままフゴフゴと喋るハムスケもどきが地を蹴り、こちらとの距離を詰めてくる。生憎と『絶望のオーラ』だなどと便利な物を持っていないルプスレギナとしては、これを迎撃するしかない。

 

 肉薄する巨体は、恐らくそのまま体当たりをかますつもりなのだろう。面白い、と口角を吊り上げ、肩幅よりも広く足を広げたルプスレギナはそれを正面から受け止める体勢をとる。

 

 

 ガァン!! と、まるで金属同士のぶつかりあうような音が響く。まるで先ほどの魔石灯をぶつけられたようなものだ。

 流石に迫る巨体を受け止めるのに不動というのは難しく地面を擦りながら数メートルほど後方に下がるも吹き飛ばされたりすることは無く、やがて…

 

 

「…!! な、なんほ(なんと)!!?」

 

「っふぅ…にししし、ほーれ、よっと!!」

 

 完全にその勢いを殺した。驚愕に目を見開いた(と思わしき)ハムスケであったが、ここで尻尾による追撃を思いつかなかったのはやはりモンスターか。馬より重たい巨体は杖を背負い直したルプスレギナに難なく持ち上げられ、思い切り投げ飛ばされる。

 

 ごろごろと転がるも、途中で態勢を整え再び距離の離れたハムスケは、暫しは互いを牽制するようにジリジリとすり足で睨み合い。

 

 

「今度は…こっちからいくっすよ!!」

ふふへほはふ(くるでござる)!!」

 

 ニィ、と不敵に笑い、ルプスレギナは地を蹴った。それに応えるかの如くハムスケもどきも笑ったみたいだが、猿轡のせいでよく分からない。

 

 しかも、堂々と待ち構えていた割に此方の速さが予想以上だったか、此方の振るう聖杖を爪で受け止め、時に弾いたりして攻撃を防ぐために段々と余裕が無くなっていくのを感じる。

 

「(うーん…こりゃあ、強さも本当にハムスケと同じくらいかな?)」

 

 無論、初期状態のハムスケの強さだ。

 

「おっと…!」

 

 考え事をしていたせいで周囲の警戒が疎かになってしまった。気付けば己の腰に尻尾が巻き付いていたのである。どうやらそのまま此方を持ち上げて叩き付けるつもりだったようだが…

 

「ふぬぅっ…!? お、おもひゃい(重たい)へほは…ふぁっ!?」

「乙女に向かって失礼っすねー!!」

 

 ハムスケもどきとしてはササッと持ち上げて叩き付けるつもりだったんだろうが、余力を残そうと()()1()()()()()()()()()()の力しか籠めなかったのが災いしたか、わずかに足が浮いた時点で驚いたように声をあげていた。

 

 多分メスのくせに!! と叫びながらも力が加えられる前に尻尾に拳を叩きこむ。流石に硬いがシュルシュルと腰に巻き付いた尻尾が離れていくのを見るに、ちゃんと痛かったようだ。

 

 名誉の為に言わせてもらうが、私は決して重くない。聖杖だ、聖杖が重いせいだ。

 

 慌てて距離を取ったハムスケもどき。再び円を描きながら互いにゆっくりと様子を見合うも、ハムスケもどきは奥の手を使う時が来たと鼻をヒクつかせた。

 

ほへへひめふへほはふ(コレで決めるでござる)!!」

 

 体の模様が浮かび上がったのを見て、ルプスレギナはハムスケもどきが何をしようとしているのかを瞬時に悟った。

 

 《盲目化(ブラインドネス)》――【ガネーシャ・ファミリア】の団員相手にも使用し、数名の戦闘能力を奪った驚異的な魔法だが…

 

 しかし、ルプスレギナには通用しない。

 

 彼女は『魅了』と『盲目』に関しては非常に高い耐性を装備によって手に入れている。低位の魔法はほぼ100%防げるのである。

 

「ぷふふ、残念無念っすね!!」

「!!? ふひゃぁっ!?」

 

 ルプスレギナはわざと棒立ちになった状態から躊躇なく地面を蹴り上げ、魔法が効いたと油断したハムスケもどきに一気に肉薄する。ただでさえ此方の攻撃速度に対応するのがやっとだった目の前のモンスターがこのあまりの行動に反応しきれる筈もない。

 

 下から思い切り振り上げた聖杖は、ハムスケもどきの顎を的確に捉え、大きいのか小さいのか分からない彼女――多分――の脳を揺らす。

 

 杖の振り上げによる威力自体も高く、ハムスケもどきはピンと背筋を伸ばした状態から、ゆっくりと後方に倒れて仰向けになった。

 

 

 それはもう、見事なまでの――服従のポーズ。

 

「ふみゅぅ~……は、はいっはへほはるぅ…ほうはんへほはふひょぉ…」

 

 先ほどのルプスレギナの如く、ハムスケもどきの視界はグラグラと揺れている。正直、かなり力を抜いていたとはいえ気を失わなかったのは流石だと思う。

 

 とはいえ、こんな状態ではもはや戦闘続行は不可能。素直に降参を口にしているようだが、ルプスレギナは杖を構えたまま悠然と歩み寄っていた。

 その姿は、今のハムスケもどきからすれば大鎌を持った死神が近付いてくるに等しいのだろう。先ほどまでの威勢はどこへやら、ぶるぶると震えながら円らな瞳から光るものが浮かんでいる。

 

 …物凄いゾクゾクした。これはアレだわ、完全に影響受けてるわ。だって鈴木実()はSじゃないもの。Mでもないけど。

 

 で、何かしらないが糸みたいの操る老執事がドヤ顔で敵から強奪した台詞を言ってる姿が浮かんできたけど、それは口にはしないでおこう。だってもうガタガタ震えて命乞いしちゃってるし。

 

 

「……んじゃ、覚悟は良いっすね?」

「うひぃぃぃぃっ!!」

 

 仰向けのまま動けなくなっているのをいいことに馬乗りになり、聖杖で丸い頬をペチペチと叩くと、ハムスケもどきは心底震え上がった。

 

 そのまま見ているのも面白いが、さっさと()()()()()()()()()と思考を切り替える。

 

 逆手に持ち替えた聖杖を持つ腕をゆっくりと上げる。建物の隙間から差し込む光が刃にもなっている十字架の部分にあたることによって冷たい輝きを宿す。

 

「動いちゃ駄目っす、よ!!」

「っっ―――!!!!」

 

 此方を見下ろすその姿は、異形たるハムスケもどきからしても美しく、妖艶で、恐ろしいものだっただろう。やがて、美しき死神は杖型の鎌を振り下ろす。(おの)が首を刎ねるために。

 

 

 丸い瞳をギュッと力の限り瞑って、ハムスケもどきはその短いモンスター生に幕を閉じる、と…そう思っていた。

 

 

 《精神治癒(キュア・マインド)

 

 

「………?? んん…?」

 

 ザンッ!! と音が耳元で聞こえた。妙なのは、それがほぼ右耳側から聞こえたこと。ハムスケもどきはその体型のせいで仰向けの状態だと首を真横に向けることはできないが、視界の端に確かに捉えた。

 

 ――己に振り降ろされると思っていた聖杖を。

 

「…ほい、これで良しっすね」

「…い、一体何のつもりでござ…おぉっ?」

 

 何が起きたか未だに理解が出来ず呆けるハムスケもどきを尻目に、さっさとその体から降りたルプスレギナは聖杖を背負い直す。

 むくりと起き上がったハムスケもどきが口を開いた時、漸く異変に気が付いた。

 

 先ほどまで己の口を塞いでいた猿轡が取れているのだ。見れば、それは紐が断ち切られた状態で地面に落ちている。ルプスレギナと、猿轡、その2つを見比べてハムスケもどきは漸く合点がいったようだ。

 

「も、もしやお主…それがしの事をこの戒めから解放してくれたのでござるか?」

「戒めって…いやまぁ、確かにそうっすけど」

「おぉ…!」

 

 たかが猿轡、しかしお世辞にも器用とは言えないハムスケもどきではその紐を爪で切り裂くことは出来なかった――そもそも拘束されていたし、拘束を外されたら外されたで猿轡を取ってる場合じゃないと()()()()()()()()()に駆られることになったのだが。

 

 ちなみに、ハムスケもどきは自身に掛かっていた“戒め”は猿轡だけだと思っている。しかし、あまりにも容赦なく攻撃してきたハムスケもどきを訝しんだルプスレギナがひそかに特殊技能(スキル)を用い、『ユグドラシル』なら低位と思わしき『魅了』に掛かっていることを看破したのだ。

 

 高位魔法による精神異常はさておき、低位であれば問題ないとそれもまた癒していたのである。

 

 

 …まぁ、なんにせよハムスケもどきからすれば、今のルプスレギナは自分よりも強く、しかも慈悲深く、恩があるわけで…。

 

「そ、それがしは感動したでござる! ありがとうでござる! 命を助けてくれた上に戒めからも解放してくれたこの御恩は、絶対の忠義でお返しするでござる! 何卒、それがしをシモベにしてほしいでござるよ!」

 

「…出たぁ…」

 

 背後からキラキラと輝く視線を受けて、ルプスレギナは少し面倒くさそうに溜息を零す。まぁ、本物かどうかはさておいて、ハムスケそっくりのこのモンスターを討伐するのは気が引ける。

 

 だから『森へおかえり…ここはおまえの世界じゃないのよ』とか言おうと思ってたのだが、見事に先手を打たれた。

 

 

「(でも…)」

 

 ハムスケを尻目に思考に耽る。

 『オーバーロード』の世界ではアインズが扮する冒険者モモンがハムスケを従えて普通に街の中を闊歩していたりしてたが、果たしてこの世界ではそれが出来るかどうか。

 

 少なくとも、『モンスターは人類の敵』というのがこの世界の住人の共通認識なのは知っているので、100%ゴタゴタに巻き込まれるのは違いない。現に…

 

 チラ、と視線だけを動かすと、遠巻きから此方を見ている複数の人影が入る。皆近づこうとはせず、自分とハムスケもどきを交互に見ている。そこにあるのは恐れか、驚愕か…なんか、妙に頬を染めてる女性もいるような…?

 

 

「このとおり! 伏してお願いするでござる! それがしの忠誠を受け取ってほしいでござるよー!」

 

 無視された結果激しい焦燥感に駆られたハムスケは、丸い体をさらに丸める――多分土下座してるのだろうが、もうただの大福にしか見えない。

 

 んふっ、と思わず噴き出しそうになるのを我慢し、暫くは目を瞑っていたルプスレギナ。しかし、やがてがしがしと後ろ髪を掻くとハムスケもどきへと振り返った。

 

「あーもう、あれこれ考えるのは性に合わねっす。どうせ私1人じゃ幾ら考えても答えなんて出やしないしね」

「お、おぉ…それじゃあ…!」

「ん。まだ確約は出来ないっすけどね、ついてくるといいっすよ」

 

 ガバッと顔を上げ、ハムスケもどきは歓喜の声を上げた。

 確約は出来ねっすよ、ともう一度念を押すが、有頂天になってて聞こえてない様子。

 

 はぁ、と溜息を吐き、何気なく顔を上げて――

 

 

「…!!!」

 

 《千里眼》が漸く捉える。白い野猿の大型モンスター――シルバーバックを相手に戦う、白髪の少年の姿を。

 

 ハムスケもどきに気を取られていたが、やっと見つけることが出来た。あの少年は間違いなくベルだし、その戦いを少し離れた場所で見守っているのもまた間違いなくヘスティアだ。

 

「ハッ、ハムスケ!!」

「……? もしかして、それがしのことでござるか…?」

 

 嗚呼、そうだったと額に手を置くが、そんな些細なミスはどうでもよろしい。

 

「そうっす、お前は今日からハムスケっす! それより、ちょっと移動するっすよ!!」

「お…おぉっ! それがしのような者に名前まで付けていただけるとは、このハムスケ、“姫”に一層の忠義を誓うでござるよ!」

「あっそう。それよりも早く! 急ぐっすよ!」

 

 ハムスケもどきもとい正式にハムスケとなった彼女――後にやっぱりメスだったと判明――の言葉を軽く流す。なんだか抗議の言葉もあったがそれは無視だ。

 躊躇なくハムスケに跨ったルプスレギナは、やはり見た目に反し硬い毛を両手で掴み落ちないようにして。

 

「私の指示通りに進むっす! 当たり前っすけど、人を轢いたりしちゃ駄目っすからね!」

「おぉ了解でござる! いざ()かん、でござるよー!!」

 

 《千里眼》の欠点は、発動中は遠くが見える代わりに近辺への注意が疎かになってしまうことと機動力が落ちてしまう事だ。だが、今はこうして便利な“生きた足”も手に入れた。これを活かすのは当然だ。

 

 

 …女だから、ハムスケに乗るのもあまり抵抗はないし。

 

 

……

 

 

「はぁっ…はぁっ…! ル、ルプスレギナさぁん!! 聞こえたら返事してくださぁい!!」

 

 ダイダロス通りへと向かう道を、レフィーヤは1人走っていた。その理由は言わずもがな、自身と同じ【ファミリア】に所属しているティオナ・ヒリュテが勘違いにより撃墜してしまった、最近出来たばかりの友人であるルプスレギナを探すためだ。

 

 本来それは撃墜した張本人であるティオナとそれを後押ししたティオネがすべきところで、本人たちもそのつもりではあったのだが、合流し事情を知ったロキが2人に地下の探索を命じ、アイズはロキと共に残りのモンスターの討伐を再開することになったので、結果的に彼女がルプスレギナを探すこととなった。

 

 まぁ、それも最初ロキは自らがルプスレギナの捜索に回り、レフィーヤはギルドの職員のもとで治療させようとしていたのだが、怪我が既に回復していること、そして()()()()()()()()()精神力(マインド)の回復が普段よりもかなり早く感じるので調子が良いことを理由に説得し、今に至る。

 

 別れ際、風の流れに敏感なアイズが『ダイダロス通り方面に落ちていったと思う』と言っていたのでそれを頼りに此処まで来たものの、未だに影も形もない。

 

 

「…仕方ない…行きます…!」

 

 出来る事ならば、ダイダロス通りに入る前に見付けたかったのだが、これだけ探しても居ないとなるとやはりダイダロス通りの中に落ちたのだと考えるのが自然か。

 

 幸いにもレフィーヤはオラリオに来てからそれなりの年月を過ごしており、ダイダロス通りに関しても余程奥にまで行かない限りは迷子となる心配はないだろう。

 

 それでもやはり不安はあるが…心の中で自らを叱咤し、レフィーヤは再び駆け出した。

 

 

 

「…? なんなのでしょうか…?」

 

 ルプスレギナを探してダイダロス通りに足を踏み入れてから数分、レフィーヤの耳に、かなり大きな歓声のようなものが届いた。

 

 一旦足を止めたレフィーヤであったが、やがて動きを再開しその歓声の聞こえる方角へと向かう。すると…

 

「おーい! レフィーヤー!」

 

「あっ…アイズさん!」

「あっるぇ~…わいの事はナチュラルに無視なん?」

「……そういうのは今はいいので。 レフィーヤ、ルプスさん…見つかった?」

 

 レフィーヤにはなんの悪意もなかったが、アイズに物の見事にとどめを刺されて落ち込むロキを尻目に話は進む。

 

「いえ…ただ、この先が騒がしいので、もしかしたらこの先に…」

 

 アイズと違いちらちらとロキのことを気にしつつも未だに見つからぬルプスレギナについてを語る。そうこうしている間に復活したロキも交え、3人は視線を歓声の聞こえてくる方角へと向け、歩き出す。

 

 

 その歓声の理由が1人の少年にあることを知ったのは、そのすぐ後だった。

 

 

……

 

 

「……はぁ…」

 

 

「…ひ、姫ぇ…元気を出してほしいでござるよ…」

「いや…これは一生の不覚っす…まさか…まさか見失うなんて…」

 

 

 一方そのころ、アイズ達よりも早い段階でベルのもとへと駆けつけていたルプスレギナは、人目につかない路地裏で酷く落ち込んでいた。

というのも、今零した通りベルとヘスティアのことを完全に見失ってしまったからである。

 

 漸く見つけたというだけあって急いではいたが、よもやベルの勝利によってこれほどの人々で溢れ返るなどとは完全に想定外。《千里眼》はベルとヘスティアを捉えていたものの、ハムスケに道順を支持するためほんの僅かに視線を外してしまったその間に、彼らの姿は完全に人ごみに飲まれ消えていた。

 

 そして、ハムスケのこともあるので極力人に見られないようにとこうして暗がりから開けたその場所を眺め、完全にベルたちがその場を後にしていることを悟ったのだ。

 

 

 しばしはぐぬぬ…と呻くルプスレギナであったが、いつまでもこうしてたって時間の無駄だ。こんな人ごみを掻き分けてこの場から離れたからには2人に何かあったのかもしれない。その考えに至り、ルプスレギナは顔を上げると素早くハムスケの背中にまたがった。

 

「ハムスケ、ゴーっす!! 行き先はまた指示するっすよ!」

「了解でござる!」

 

 やはり人目を避けるために多少遠回りにはなるだろうが、気合十分に駆け出したハムスケとルプスレギナは、あっという間にこの場を去ることとなる。

 

 

 そんな一人と一匹――そして、先ほどまで起こっていた一部始終を見ていた女神には、気付かぬままに。

 

 

……

 

 

「――…ふふふ…思った以上だわ。まさかあんなことになるなんて」

 

 再びその姿をローブで覆ったいでたちで、眼下を見下ろしていた美神・フレイヤはくすくすと上品に笑む。

 “あの子”はもっと強くなる。あの戦いを見て強く確信した。

 

 そして、“彼女”…まさかアレを従えるとは、さすがに少し予想外ではあったが、彼女としては予想していた以上に面白くなったので全然オーケーだった。

 それにしても、とフレイヤは先ほどの白銀の魔獣のことを思い浮かべる。

 

 “神”として悠久の時を生きてきた彼女であるが、やはりいくら思い出しても見たことも聞いたこともない。

 

 

 

 

 ――…あんな、あんなに大きな…

 

 

……

………

…………

 

 

「はいはい、ちょっと通るっすよー!!」

「御免、でござるー!!」

 

 ダイダロス通りを抜け、まずは自分たちのホームがある教会を目指していたルプスレギナたちは、いい加減路地裏や回り道をするのが煩わしくなり、完全に開き直っていた。まぁ、自分が乗ってりゃなんとかなるだろうとか、完全に甘い見積もりではあったが、幸いにしてすれ違う人々はみな驚いたような顔をしてこちらを見つめるも、騒ぎ立てる者は今のところ出ていない。

 

 彼らが内心何を考えているのかなど露知らず、人狼(ワーウルフ)の少女と大福型の魔獣は西地区のメインストリートを他者に迷惑の掛からない程度に疾走していたが…

 

 

「おーい、ルプス……ニャッ!?」

「おっ…ハムスケ、ストップっす!!」

「了解でござる!」

 

 前方から此方に向かい手を振る見知った人影に気付き、ルプスレギナはハムスケを止めた。そこに居たのは、『豊穣の女主人』で働くウエイトレスの1人、アーニャであった。

 

 

「……どしたっすか?」

「……ハッ!!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()此方を見たまま固まっているアーニャに、ハムスケから飛び降りたルプスレギナは小首を傾げる。その仕草に漸く我に返った様子のアーニャは、ちらちらとハムスケを気に掛けつつも『豊穣の女主人』の入り口を指さして。

 

「さっき、おミャーんとこの白髪頭がシルと一緒にやって来たニャ。おミャーらんとこの女神さまを抱っこしてたニャよ」

「!! 本当っすか!?」

「あっ、ひ、姫~待ってほしいでござるよー!!」

 

 アーニャから話を聞き、ベルとヘスティアが居ると分かるや否やルプスレギナは走り出す。呆気にとられたアーニャ、そして、アーニャ以上に反応の遅れたハムスケも、慌てて後を追いかける。

 

 

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

「世話になってしまって、悪かったね」

「いえ、大事に至らなくって、本当によかったです」

 

 一方その頃此方は『豊穣の女主人』。下の酒場が多少落ち着いてきたタイミングを見計らい、ベルとヘスティアは階下に降りてシルと向かい合っていた。あの時、シルバーバックを倒し、倒れたヘスティアを運んでいた途中でシルに出くわすことが出来たからこそ、ヘスティアは満足にベッドの上で疲れを癒すことが出来た。

 ベルがまたもや美女の知り合いを作っていた、普段ならばかなり不満を抱くところだろうが、自らの身を案じてここまで案内してくれた恩人相手にそんな妬みを抱くわけにはいかない。やはり女神故か口調は聊か上から目線ではあるが、ベルに倣ってヘスティアもしっかりと頭を下げると、シルは若干驚いたような表情をしつつも苦笑とともに頭を下げ返してくる。

 

 そんな3人のやり取りを、ミアをはじめとする他のウエイトレスたちは客の相手しつつも横目で見て、僅かに口元を緩ませていた。

 

 

「ベルっち! ヘスちゃん!!」

 

 刹那、両開きの扉を勢いよく開けて中に飛び込んできたのは、この場にいるほぼ全員――客も含めて――がよく知るメイド服の美女、ルプスレギナだった。

 

「ルプーさん!」

「ルプー君!」

 

 名前を呼ばれた2人は声だけでルプスレギナのことを認知すると素早く振り返る。駆け寄り3人でそれぞれに怪我がないことを確認すると、まずは安堵の溜息を零しあって。

 

「ルプスレギナさん、ご無事で何よりです」

「リュー達から聞きました。私を探すために、危険な目に合わせてしまっていたなら、ごめんなさい…」

 

 その後、彼女に言葉を投げかけたのは、リューとシルの2人。『豊穣の女主人』を代表して此方の安否を確認しに来てくれたのだろう、ミアたちの視線も感じる。

 いつもの無表情ながらどこか安堵した様子のリューに対し、やや気落ちした様子のシル。それを見たルプスレギナは、いつものようにからからと笑って。

 

「いやいや、シルちゃんはなんも悪くないじゃないっすか。それに、思わぬ収穫もあったっすし…」

「収穫? それはいったい…」

 

 此方の言葉に全員が小首を傾げたその時、外からどすどすと地面を揺らし、大きな影が店内へと飛び込んでくる。

 

「姫ー! それがしを置いていかないでほしいでござるよ~!!」

「こ、こりゃ~! 入ってきちゃダメニャ~!!」

 

 どこか必死に、真ん丸な瞳を潤ませながらも入り込んできたハムスケに、その場にいた全員が固まる。どうも来るのが遅いと思いきや、店内に入らぬようにと尻尾を掴んだアーニャと綱引きをしていたようだ。

 

 

「……って」

 

 ――ヤバイ!! こうしてベルやヘスティア、そしてシルの無事が確認できたことで幾分冷静さを取り戻して考えてみると、この状況は極めて危険だ。

 言うまでもなく、ハムスケはモンスター…そして、この『豊穣の女主人』には、ハムスケよりも強い存在が何人も居る。

 

 ルプスレギナは、慌ててハムスケを見る全員とハムスケとの間に割って入り、

 

「お、お、落ち着くっすよみんな!! こ、こいつはこう見えても物凄く可愛くて、危険じゃなくって…」

 

「ル、ルプーくん…何を言ってるんだい…?」

「っ…」

 

 今更言い訳をしようにも上手く悩が回転してくれず、しどろもどろになっていたところを一歩進み出たヘスティアの呟きに思わず怯んでしまう。

 

 やはり、この世界ではモンスターは人類の敵…分かってもらうことなど出来ないのか。

 ちらり、と肩越しにハムスケに視線を送れば、周囲の目を一斉に浴びて酷く怯えている。

 

「ヘ、ヘスちゃん…ヘスティア様、こいつは…」

「何も言うな、ルプー君。 分かってるさ、この子は…この子は……っ」

 

 ぐっ、と拳に力を込める。やはり、折角出会えたハムスケを見殺しにはできない。何とか弁解しようと試みるが、やはりそれはヘスティアによって阻まれた。

 此方に歩み寄るヘスティアは、やがて自身の真横に立つと、怯えた目で見上げてくるハムスケを見つめて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――…なっ…なんてプリティなんだいっ!!!?」

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 一瞬、何を言っているのか理解が出来なくて、本日もう何度目かになる呆けた声を出してしまったのは決して悪くないと思う。

 

「……か、可愛い…」

「……(コクリ」

 

 周りを見てみれば、男はさておき女性のウエイトレス並びに客たちは皆少しだけ頬を染め、ハムスケを見つめていた。

 で、ヘスティアはというと…

 

「とうっ!」

「ふぁっ!?」

 

 我慢ならんと言わんばかりにハムスケに飛びかかり、全身を使ってハムスケを撫でたり堪能し始めた。

 

「むむっ、以外と毛が固い…いや、顎は柔らかいということは…仰向けだ! 仰向けになるんだ!! …おぉ~やっぱり…!!」

 

「うわっ、うひゃっ!? く、くすぐったいでござる~! それに、恥ずかしいでござるよ~!! 姫~! お助けを~!!」

 

 さっきまで過労で寝ていたくせに、どこでそんな元気を取り戻したのやら。未だに呆けていたルプスレギナであったが、苦笑しながらも隣に立ったベルに「止めなくていいんですか?」と聞かれれば、慌ててヘスティアをハムスケから引きはがして。

 

「むむぅ…もっと堪能したかったんだが…」

「まぁまぁ、ヘスちゃん、落ち着くっす。ちょ~っと聞きたいんすけど…ヘスちゃんたちから見て、ハムスケってどう思うっすか?」

 

「む? ハムスケっていうのがこの子の名前かい? どう思うって、そりゃあ…」

 

 妙なテンションに呑まれる前にと、ルプスレギナは尋ねた。

 ヘスティアは怪訝そうな目をルプスレギナに向けると、それから周囲の女性陣と顔を見合わせ頷き合って。

 

 

「「「「「大きなジャンガリアン・ハムスター」」」」」

 

「……ですかー、ですよねー」

 

 

 なんだかこのままだと自分のほうが変に思われそうなので、潔く納得することに決めたルプスレギナなのであった。

 

 

 




ウラノス&フェルズ「……(アイツじゃダメそうだなぁ…)」


はい、そんな感じでハムスケもどき…もとい、ハムスケVer.オラリオが仲間(仮)になりました!!

え?何?強引だって?


……なんとでもいうがいい!!ご都合主義万歳!!

えーと、原作の『オーバーロード』ですと、精神系異常に関する解除魔法などは一切言及されておりませんでした…たぶん、きっと、私が調べた限り←

そんなわけで、《毒治癒》みたいなピンポイントの治癒魔法あるなら、精神異常を治癒する魔法があってもいいじゃないと、捏造いたしました。

今回はフレイヤ様がかなり軽くしか魅了していないのであっさり解除できましたが、本気で魅了されてたらまず解除は不可能だったでしょうね。


予定としては次話か更にその次話あたりで第2章は終了になる予定です。
また少し時間はかかるかと思いますが、どうぞお待ちいただけると幸いですosz

そんなことより…ルプーちゃん人気投票第7位おめでとーー!!(大事なこ/ry





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