笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか?   作:ジェイソン@何某

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ようやくの『神の恩恵』による【ステイタス】の公開です。ちょっとびっくりかもですが、一応最後まで読んでいただけたら幸いです。

そして、主人公が『オバロ』を知っているが故のある行動に出ます。それは果たして何のなのか…お楽しみ過ぎない程度にお楽しみに…!!

※16/06/01 ベル君がファミリアになった日数を大体半月前に修正他。




第3話『ヘスティア様と神の恩恵っす』

 

 

「――…なるほどね、話はよく分かったよ。それじゃああれはあくまでも事故で、他意は無かったって言うんだね?」

「はい、その通りです…」

 

 既に陽も沈んで月が顔を覗かせた時間帯。天井に開いた大穴から月明かりが差し込むだけの薄暗い教会の祭壇で腕組みし仁王立ちする少女は、眼下で正座をしている二人の人物に最後の確認を取るのだった。

 

 

……

 

 

 ――事の始まりは今から数十分前――

 

 

「ふんふふ~ん♪ 今日も~売上に~大貢献~っと♪」

 

 人気のない寂れた通りを、上機嫌にスキップする一人の少女の姿があった。艶のある漆黒の髪はツインテールになっており、今の彼女の機嫌を表すようにぴょこぴょこと跳ね、髪留めの蒼いリボンについた小鐘がリンと音を鳴らす。それと同時にスキップする度、やや露出の多い服の下にある幼い外見には余りにも不釣り合いな豊かな胸が上下に揺れ動いている。

幼く、何の覇気も感じられない呑気そうなその少女は、何を隠そう下界に降り立った神々の一柱(ひとり)だった。

 

 自らの【ファミリア】に漸くメンバーが入って2週間ちょい。生活の全てを自らの眷属(こども)に頼るわけにはいかないとアルバイトにも精を出すようになったもので、この時間の本拠(ホーム)への帰還は普通になっていた。

自身唯一の眷属である赤目白髪の少年…ベル・クラネルはまだダンジョンだろうか…そう考えながらも、少女は躊躇い無く崩れかけた教会の中に入っていく。

 

「この調子で売り上げに貢献したら“ご褒美”が貰えるかもしれないし、頑張らないとな~」

 

 うっしっし、なんて口元に手を添えながらも子供のように笑った少女は、自身の生活空間である隠し部屋へと向かおうとして――

 

 ――ドタァン!!

 

 …と、階段の下にある扉の向こうから音が聞こえてきたのだった。

 

「っ!? な、何だい…? ま、まさか、ベル君に何か…ッ!?」

 

 何か大きなものが倒れるような音が聞こえて、少女はびくんと肩を跳ね上げる。棚から恐る恐る顔を出して階段の先を覗き込んで見るが、隠し部屋の扉は閉まったままで中は見えない。一体何事だろうか。泥棒…は、あり得ないだろう。隠し部屋の事は基本誰も知らないだろうし、そもそもこんなボロイ教会に何の用がある。自分が積み上げた本が崩れただけという可能性もあるが、たかだか数冊程度積み上げただけの本が地震もないのに勝手に崩れるとは思えないし、そもそも聞こえてきた音はもっと重々しいものだった。ならば考えられるのは…脳裏に自らの眷属の姿が浮かぶと、少女は躊躇うことなく階段を駆け下りて扉を開け放つ

 

「ベル君大丈夫かいっ!!?」

 

 そう叫びながらも飛び込んだ部屋の中、少女が向けた視線の先に居たのは――何故か新品同様の状態になっているソファーの上で押し倒されている見も知らぬ女性と、押し倒している自分の眷属(こども)であった。

 

 

……

 

 

「ふんっ、そういうことならまぁ、一応納得してあげるよ!」

「か、神様ぁ…」

 

 明らかに拗ねたような顔を隠しもせず、下唇を尖らせてそっぽを向く少女――女神ヘスティアの反応に、正座している二人の方割れ、ベル・クラネルはやや情けない声を出した。そんなベルの反応にも「ふんだっ!」などと機嫌を直そうとしないヘスティアであったが、そんな二人のやり取りを今までずっと黙って見ていた褐色肌の少女に視線を移し、ヘスティアは何とも難しい表情をする。

 

 健康的な褐色の肌に、活発な雰囲気を醸し出している赤髪の三つ編み。外見年齢的には20にいくかどうかといったところか。一瞬修道服と見間違えそうになったメイド服は非常に上質な作りであるという事は素人目にも分かり、そんな上質な服に劣ることなく彼女自身もかなりの美貌の持ち主だ。

 

 ぐぬぬ…と眉を顰めるも、いつまでもこうして睨めっこしているわけにもいくまい。何とか気持ちを落ち着かせるように、ヘスティアはこほんと小さく咳払いをして。

 

「それで、えぇと…君は、ボクの【ファミリア】への入団希望だったね…?」

 

 ヘスティアからのやや険のある視線に内心少しだけ動揺していたルプスレギナこと“鈴木 実”であったが、ここでふと考える。此処は、ひとまず“メイドモード”で接するべきだろうと。

 

 途端、自分でも驚くくらい纏う雰囲気が引き締まったものとなる。

 

「はっ、お初にお目にかかります、神ヘスティア。私は栄光あるナザリック地下大墳墓が絶対支配者、至高の御方(おんかた)であられるアインズ・ウール・ゴウン様に忠義を尽くす戦闘メイド(プレアデス)が一人、ルプスレギナ・ベータと申します。ヘスティア様に於かれましては…」

「ちょっ…ちょ、ちょ、ちょっと待って! 待ちたまえよ!」

「? はっ、如何なされましたか…?」

「…君、そんな性格だったかい? なんだか、さっき見た時と雰囲気も喋り方も全然違うのだが…」

「…私も、流石に時と場所においての言動くらいは弁えておりますので…」

「あぁ、なんだ…いいよ、別に。ボクはあまり堅苦しいのは好きじゃないんだ、君の話しやすいように話しておくれよ」

 

 正座の体勢から一旦立ち上がり、左膝を突いたと同時に右手を胸元に添え臣下の礼を取ったルプスレギナにまず驚いた様子のヘスティア。次いで、その口調が今までのものとまったく違う事に驚いたのが隣で未だに正座を続けているベルだった。

その口調や雰囲気の変貌にヘスティアは耐えきれずルプスレギナの話を遮って疑問を投げかけてくる。まぁ当然かと内心思いながらもその疑問に答えたならば、向こうは堅苦しい口調は抜きで良いと言ってきた。

 

「…そうっすか? それじゃあ、遠慮なく楽にさせてもらうっすよ」

「うん…それで?さっきまるで聞いた事のない単語がいくつも出てきたけど…」

「はいっす。少し説明すると長くなるんすけど…」

 

 素直にヘスティアの言葉に甘えて立ち上がったルプスレギナは、ころっと表情を笑みに変えていつもの口調に戻す。ナザリックとかプレアデスとか、神であるヘスティアさえも聞いた事のないであろう単語については、ベルと出会った経緯を交えて説明することに。

 

 

「――…と、そういうわけっす」

「なるほどね…(彼女の言葉に嘘はない、か…)」

 

 神には下界の人々の嘘を見抜く力がある。其れを利用してルプスレギナが言った『遥か遠くの地(・・・・・・)から突然この場所に来てしまった』という言葉が事実である事を確認したヘスティアは、暫しの間思案するような動作を見せた。

 

「…それで、君はその…あいんず某…様? とやらを探すつもりなのかい?」

「アインズ・ウール・ゴウン様です。…一先ずはこの地に留まり、情報を集めようかと思ってるっす。で、より多く情報を集めるにはまずこの都市でそれなりに有名になる必要があると思ったんすよ」

 

 無意識のうちにヘスティアの言葉に眉を顰めて訂正してしまったのは、ルプスレギナ・ベータ本人の忠誠心によるものか。これで中身が“鈴木 実”じゃなかったら、女神といえどもルプスレギナは構わず攻撃を加えていたのだろう。

やや語尾を強めての訂正に僅かにたじろいだヘスティアであったが、ルプスレギナは構わずに言葉を続ける。情報、とは言ってもほしいのはナザリック関連ではなく、主に元の現実世界に帰れるかどうか、だ。

 自分がルプスレギナ・ベータとして転生したというのなら、元の世界に帰れる可能性は限りなく低いやもしれないが、それでも出来るだけ情報は欲しい。

 

「ふぅん…それで、ボクの【ファミリア】に入って、冒険者として活動したいってワケで良いんだね?」

「そうっす。ベルっちの【ファミリア】なら大丈夫だろうと「べべ、ベルっちだって!!?」……はい?」

「…神様?」

 

 一応ここまでに目立った嘘はなく、ヘスティアは未だにルプスレギナの素性を疑いながらではあるが認めてくれそうだ。内心ホッとして少しばかり気を緩めたルプスレギナが返事をした矢先、またもヘスティアの声がそれを遮る。自身の名前が出てきたことで、ずっと隣で正座してしていたベルも不思議そうにヘスティアを見つめていた。

 

「あ…ん、コホンッ…ま、まぁベル君が連れてきたわけだし、ボクとしても【ファミリア】にメンバーが増えるのは嬉しいからね、君の入団を認めようじゃないか」

「お、まじっすか? いやぁ、そう言ってもらえると嬉し「た・だ・し!!」…(またっすか…)」

 

 正直、ヘスティアは此方にかなり疑いの目を向けていたので、ルプスレギナとしては断られてしまった後の事も考えていたのだが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。心底ほっとした表情が浮かんだ自分であったものの、三度ヘスティアの声が自分の言葉を遮れば、思わず頭の中でもルプスレギナ口調で辟易とした呟きが漏れてしまった。

 ずい、と顔を近づけてくるヘスティア、しかし哀しいかな、ルプスレギナとは30㎝近い身長差があるうえ、片や裸足で、片やアルパルガータのようなヒールを穿いている。故に精一杯背伸びしても、まだ顔と顔に距離がある。プルプルと指先で立ちながら、両手でルプスレギナの顔を挟んで向こうから顔を近付けさせたヘスティアは、精一杯威嚇するようにこう告げる

 

「くれぐれも、ボクの(・・・)ベル君に対して出過ぎた真似はしないように…!!」

「………は?」

 

 そんな無理な姿勢とってまで何を言っているんだと呆けた声を出すルプスレギナであったが、やがて理解する。

 

「(あぁ…ベル君が好きなのか。 なるほど、そういう……ハッ!?)」

 

 目の前の女神は、自分が入るまで唯一のファミリア(家族)であったベル・クラネルに好意を抱いている。其れを理解し素直に応じてあげようとしたその刹那、自らの体に電撃が走った。この状況…あの三つ揃えのスーツを着た(深読みを司る)悪魔はどう捉えるだろうか…!?

生憎と自分はあの悪魔ほど頭は良くないが…やってやろうじゃないか、深読み(故意)を…!!

 

「…なるほど……そういうことでしたか」

「ほう、どうやら理解してくれたようだねっ!」

「はい、ヘスティア様の深遠なるご意向の一端は理解できました。」

「ふふん、そうだろそう……んん?君は何を言って…」

「まさに【ファミリア】(家族)主神()たる御方として相応しいご配慮かと考えます」

 

 突然先ほどの畏まった口調になったルプスレギナに若干の疑問符を浮かべつつも、理解を得られたことの方がヘスティアには重要だった。これでライバルが消えた…!!そう考えていた矢先の言葉は、ヘスティアを困惑させるのに十分だった。

 

「(深遠なるご意向…?何だいそれは…ボクはただベル君との甘~いひと時を邪魔してほしくないだけなんだ。…なんだか、此処ではっきりとその辺を言っておかないと、碌でもない事になりそうな…)…あ、あのねルプスレギナ君、何か勘違いしてるようだけど…」

 

「神様?ルプスレギナさん?何を話してるんですか…?」

 

 ヘスティアは『オーバーロード』のモモンガと違い、圧倒的強者としての威厳を保つつもりはないらしい。あっさりと本心を告げようとするヘスティアに多少焦ったが、そこでうまい具合にずっと置いてけぼりを食らっていたベルが横入りし、ルプスレギナは内心でサムズアップする。

 

「いやいや、なんでもねっすよ。 ねぇ、ヘスちゃん?」

「へ、ヘス…あ、う、うん…そうだ、ね…?」

 

 仮にも神に対するあだ名じゃないが、ルプスレギナ(駄犬)は気にしない。

 

「ささっ、とっとと部屋に戻るっすよ~。そういえば、入団の儀式的なものってなんかあるんすか?」

「へ? あ、あぁうん、背中に『神の恩恵(ファルナ)』を刻む必要があるから、それはご飯を食べた後でもいいけど…それより、さっきのは…」

「あ~お腹減ったっすよ~。ベルっち、ご飯作りはお任せするっす」

「え?あ、はい。わかりました」

 

「…ま、まぁ…いっか…」

 

 

……

 

 

 三人は揃って隠し部屋の扉を開け、奇麗に掃除された部屋の内部を見る。一人は満足げに頷き、一人は呆然と部屋の中を歩いて、一人は苦笑いを浮かべている。

 

「忘れてたけど…これは、なんなんだい?」

「私が気合入れて一時間でやったっす」

「……ルプスレギナ君、冒険者はやめて専属のメイドにならないかい?」

「給料出るんすか?」

「オウフ……」

 

「あ、あはは…」

 

 そんなやり取りを聞きながら、ベルはいそいそと晩御飯の支度を始めるのであった。

 

 

……

 

 

 晩御飯は固焼きパンに余り物の野菜のスープに干し肉だった。記念すべき二人目の【ヘスティア・ファミリア】の眷属(メンバー)入団記念ということで、急遽ではあるが豪勢にしたらしい。

ルプスレギナもとい“鈴木 実”は思わず顔に浮かべた笑みが消えそうになるも、隣に座ったヘスティアが目をキラキラと輝かせているのを見て、どうやら本当に豪華な方なのだと理解する。

 

 最初は口に合うかと不安だったが、いざ食べてみればこういう薄味のスープというものも悪くない。それに、干し肉にも塩分があるから好みでスープに入れるという事も出来るようだ。成程よく考えているとルプスレギナは感心した。

 

「はぁー食った食ったっす」

「はは、お粗末さまでした…」

「何を言うんだいベル君っ!君の手料理は、いつ食べてもスンバラシイよ!」

「そうっすそうっす。もっと自分(の手料理)を評価すべきっすよ」

「か、神様…ルプスレギナさん…」

 

 食後、木製の皿を洗おうとしたらベルにそれも自分がやると止められる。彼にとっては年上で数日しか違わないとはいえルプスレギナは後輩、それに一時間だけとはいえここまで徹底的に部屋を掃除してくれた以上、ゆっくりしてほしいと考えているようだ。

 …メイドのルプスレギナ・ベータとしては料理以外の家事に関しては妙にうずうずしてやりたくなるのだが、ここは先輩の顔を立てねばなるまいと我慢する。

 

 

 

 

「……さて、と…まずはベル君、【ステイタス】の更新をしよっか」

「あ、はい。お願いします」

 

 既に料理を作る前に冒険者用の装備を外していたベルは、インナーを脱いで上半身裸になりながらもベッドへと向かう。ソファーで寛いでいたルプスレギナは一瞬驚いて目を丸くするも、すぐにその目は鋭く細められた。その背中に刻まれた黒い文字の羅列。そして、中央に描かれているのは篝火…否、聖火、だろうか。

 

 ベッドにうつ伏せになったことでその文字は見えなくなり、ヘスティアはそんなベルのお尻のあたりに馬乗りになる。普段ならばここで軽口の一つでも叩くところなのだろうが、目の前の初めて見る光景に魅せられて、そんな余裕はなかった。

 

 やがて小さな裁縫針の様なものを取りだしたヘスティアに小首を傾げると、ヘスティアはその針で自身の指を刺し、滲み出てきた一滴の血がベルの背中に落ちる。滴り落ちた血がベルに背中に触れた刹那広がった波紋に僅かに瞠目し、その後はベルの背中を指で撫ぞるヘスティアの事を見据え、やはりあんな幼い外見でも神様なんだなと見る目を改める。

 

 

……

 

 

「…よし、終わったよ。凄いねベル君、『敏捷』は冒険者になって半月の子のものとは思えないよ!」

「あ、あはは…でも、相変わらず『耐久』が…」

 

「ふぅん…これが【ステイタス】っすか…」

 

 安っぽい羊皮紙のような物をベルの背中の刻印に置き、指で円を描くと、どうやら今回のベルの【ステイタス】がその紙に書き写されたようだ。

ベッドの縁に座りなおした2人に近づき、後ろから紙に書かれている数字を覗き込む。生憎と自分にはそこに書かれている数字が多いのか少ないのか分からないが…

 

「(ベル君の身体能力を考えると、かなり少ないんだろうな、コレ…)」

 

 少なくとも、本気を出したルプスレギナならばベルが今の100倍強くなっても勝てる気がする。

 

 

「さて、ベル君はシャワーでも浴びておいでよ。その間に、今度はルプスレギナ君にボクの恩恵を授けようじゃないか」

「了解っす。ベルっちみたいに上脱げばいいんすね?」

 

 ベルの【ステイタス】を更新し終えたところで、今度はルプスレギナの番である。ベルにあったものと同じ刻印を刻む必要がある分少し時間は掛かるので、ベルはその時間を利用しシャワー室へと向かった。

 

 其れを確認し、ルプスレギナは自身のメイド服に手を掛ける。鈴木実としてはこういった服を着た経験など無かったので脱ぐのに手間取るのではないかと思ったが、存外そんなことは無かった――うっかり首のリボンチョーカーまで外してしまったが。他の戦闘メイド(プレアデス)が付けているホワイト・ブリムとはかなりデザインの違う独特の神官帽子を横に置き、ベッドへとうつ伏せになる。

 

 豊かな胸が体重で僅かに潰れる感覚は、現実の貧相な己の体じゃ味わえなかった体験だ。

 

 

 先ほどのベルの時と同じように自身の上に跨ったヘスティアが己の背中を撫ぞり、『神の恩恵(ファルナ)』を刻み始めた。所々で「傷一つない…」だの「すべすべの肌…」だのと零してははぐぬぬと悔しげな声を漏らすのが聞こえてくるが、そこは努めてスルー。

 

 

 …そして、ルプスレギナには欠片ほども読めない『神聖文字(ヒエログリフ)』が背に浮かび上がったとき、ヘスティアは瞠目した

 

 

 

 

 ルプスレギナ・ベータ

 

Lv.1

 

力:I0

 

耐久:I0

 

器用:I0

 

敏捷:I0

 

魔力:I0

 

 家事:A

 

《魔法》

 

【】

【】

【】

 

 ここまでは、ルプスレギナの実力を知らないヘスティアとしては何の疑問も無かった。本来の実力は『神の恩恵(ファルナ)』とは別物であるから、オール0であることには何の違和感もない。

瞠目するとすれば魔法スロットが三つあること…そして、家事アビリティの存在と数値の高さだが、これは後回しだ。

 なんせ、問題は次にあるのだから。

 

《スキル》

 

聖加護(ユグドラシル)

・異なる法則で成り立つ世界からの加護。

・元居た地で習得済みの特殊技能(スキル)、魔法、ステータス、アイテムを引き継ぐ。

・【ステイタス】は、ステータスに上乗せされる。

 

異形種(ヴァリアント)

・異なる世界の人狼(ワーウルフ)

・人間、人狼、狼の3つの形態を持つ。

・魔石は持たない。

 

六連星(プレアデス)

・絶対君主に仕える誇り高きメイドの証。

・家事アビリティの会得。

・???

 

 

 今まで見たことも聞いたこともないスキルが、それも3つである。

 

 一番下の『プレアデス』という単語はルプスレギナ本人の口から聞いているが、説明の一部分が現時点では読み取れず、完全な把握が出来ない。それに、なんだかこれを読むと、まるで()()()()()()()()()()みたいじゃないか。

 

 真ん中のスキルに関しては、勿論ルプスレギナが獣人であることは理解していた…だが、人狼(ワーウルフ)? 狼人(ウェアウルフ)ではなくて? しかし、少なくともヘスティアの知る狼人(ウェアウルフ)はあくまでも亜人(デミ・ヒューマン)の一種であり、“形態変化”など聞いたことが無い。異形種…ぞっとするような響きだが、その不安をぐっと呑み込み、一番上のスキルへ視線を向ける。

 

 【聖加護(ユグドラシル)】…ユグドラシルとは、あの世界樹の事だろうか。つまり彼女は、異形の存在でありながら世界樹の加護を受けていると…?

 …あり得ない話ではない。下界で世界樹と呼ばれるトネリコの大樹は9つの世界を繋いでいるとされるが、その世界の一つに“ヘルヘイム”と呼ばれる地下深くにある異形の者たちの国が存在している。つまり彼女はその世界からやってきたという事か…?

 

 それに、説明では彼女はその元居た世界で習得している魔法やステータスを引き継いでいるとある。もしかしたら自分が今跨っている存在が、この世界を壊せるほどの力を持つものだとしたら、どうなるのだろう。そうでない事を祈るしかないか…本来は自分が祈られる側なのだけど。元から優れた力が、『ファルナ』を与えたことにより更に飛躍したとすれば…ちょっと頭が痛くなってきた。

 

 分からない事は多い、こんなのは自分で考えるより、本人に直接聞くのが一番だろう。なんせ彼女が異世界の存在だとしても、嘘を見抜く事が出来るのは既に分かっているから。だが…

 

「……ヘスちゃん?どしたっすか?」

「…、…」

 

 少なくとも、彼女からは邪気の様なものを感じない。それがただの演技に過ぎず、自分の知らない未知の魔法で嘘を本当だと誤認させられている可能性もある。それでも、ヘスティア(母親)としては眷属(こども)となってくれた彼女を信じたかった。

 

「(まいったなぁ…ロキの奴の事を散々親バカ呼ばわりしてたけど…ボクも人の事言えないや…)」

 

 親としての感情だけを全面的に信じて下した決断がどう繋がるかは分からない。ほんの僅かに自嘲気味な笑みを零したヘスティアは、女神の自分が思わず妬いてしまうくらいすべすべの褐色の背中を優しく撫でてから、羊皮紙へと手を伸ばした。

 

 

「んーん、なんでもないよ。 …さっ、これが君の【ステイタス】だよ」

 

 かぶりを振って努めて笑顔でそう告げると、ヘスティアはルプスレギナの上から移動し、羊皮紙を渡す。包み隠さず、全てが書かれた羊皮紙をだ。

 だが、どうにもルプスレギナの反応が薄い。

 

「…ルプスレギナ君? 大丈夫かい…?」

「…いや、その…読めないんっすよね…」

 

 その告白にヘスティアは驚く。羊皮紙に移された文字は神聖文字ではない一般的な物だ。にも拘らず読めないとは…いや、彼女の身の上を考えれば無理もないか。

 

 ならばとヘスティアは口頭にて説明をする。無論これも、スキルまですべてだ。

 

 

「……ヘスティア様、私は、その…」

 

 それを聞いたルプスレギナは、ただでさえ丸い目を更に瞠目させ、その後顔を青ざめさせる。やはりあえて隠していたことがこうしてばれてしまったことに激しく動揺しているようだ。

 

「いいよ、気にしないでおくれ。君が悪意を持って隠していたわけじゃないってことくらいは分かってるさ。寧ろボクは君が隠していた事を打ち明けられるくらい頼りになる神じゃなかった事を悔んでいるくらいだ」

「そ、そんなっ!?これは隠していた私が全部悪いんですっ!!」

 

 ベッドの縁に座って床に投げ出した両足をぷらぷらと揺らしながら、僅かに俯いたヘスティアは自嘲する。それを聞いてすぐに否定したのはルプスレギナであり、やはりその感情、言葉に嘘は無い。

 嗚呼、やっぱりこの子は良い子だ。そう考え、ヘスティアはルプスレギナを見ながらクスリと笑んだ。

 

「…なら、これは両方とも悪いという事にしようじゃないか。」

「…そ、そんなことで、よろしいのですか? 私は、ヘスティア様とベル君に隠しごとを…」

「別に構わないとも。焦らず、ゆっくりでいいからさ…いずれは君の事、色々と教えておくれ」

「ヘスティア様…」

 

 此方を見るルプスレギナの瞳に敬愛の感情が込められたのを感じたか、ヘスティアはむず痒そうにはにかむと、未だシャワー室に居るもう一人の眷属の名を出して

 

「まっ、ベル君に関しては正解なんじゃないかな?あの子、隠し事なんて絶対出来るタイプじゃないからね」

「…は、ははは。それに関しては同意っすね」

 

 漸く元の口調へと戻ったルプスレギナは、改めて自身の【ステイタス】に視線を落とし、奇麗に折りたたむ。そうして脱いでいた服を着ようとした、その時

 

「神様~、さっき僕の名前呼びまし…た…か、……ぁ」

 

 雑談をしているのをシャワー室の扉越しに聞き、経過時間的にも既に『ファルナ』を刻み終えている頃だろうと判断したベルが濡れた髪を拭きながらやってきたのだ。 

 

 

「…、…イヤー、このどスケベーっす」

 

「~~~~~~ッッッッ!!!??」

 

「べ、べべべべ、ベル君っ!!みみ、見ちゃだめだ!!見惚れちゃだめだぞ!!ベルくぅーーん!!!!!」

 

 

 

「ご、ごごご、ごめんなさぁーーーーーいっっっっ!!!!!???」

 

 

 

 ――【ヘスティア・ファミリア】総数3名。この迷宮都市にごく有触れた零細ファミリアの伝説的な物語は、こうして最初の夜を姦しく迎えるのであった。

 

 




ボンビーなヘスティア・ファミリアの贅沢な食事ってどれくらいのものなのでしょうか…3巻かそこらに確かありましたかね…?

深読み(故意)の行方はまた次回。デミちゃんほど頭良くない私にゃあれが限界だよ…

そして【ステイタス】ですが、正直にLv.5くらいにしても面白みがないかなぁと思い、少し捻ってみました。これで自分の事侮って絡んできた輩を血祭りにできるよ!!やったね!!

そして、ルプスレギナが家事ができるのはこういうわけです。スキル名は結構悩んだんですが『戦闘従者』だの『絶対従者』だのとセンスの欠片もない名前しか出てこなかったので(最有力は『戦闘冥土』でした)、普通にこうなりました。

この回は色々と矛盾とかご指摘があるかもしれません。そういったものがございましたら教えていただけたら幸いでございますosz



※16/06/09 【ステイタス】に家事アビリティを追記。
※16/06/24 羊皮紙に書き写した文字について追記
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