笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか?   作:ジェイソン@何某

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やっと…やっと本編スタート…でも、基本がルプスレギナ視点なので、ベル君の出番は短いです。

短い文章でどんどん話を進められる方が非常に羨ましいです。自分は気付いたらどうでもいい脇道に逸れて無駄に話が長くなる…;;




第1章
第5話『鬼講座と一目惚れっす』


 

 

 ――チュン…チュンチュン――

 

 地下であるが故に窓の無いこの部屋で、昨日は敢えて修復しなかった天井の隙間から微かな日の光が差し込んでくる。彼方より聞こえる雀の其れに似た鳴き声が聞こえてくれば誰もが朝だと気付いて目を覚ます、それが普通――ただ、ここにその“普通”が適用されない例外が一人、むにゃむにゃと眠り続けていた。

 

 

「い・い・か・げ・ん・にぃ…起きないかぁ~~~っっ!!!」

 

「……んぁ?」

 

 

 ルプスレギナ・ベータ(中身は別人)…先日、目出度くこの【ヘスティア・ファミリア】に入団した新たなメンバーが目を覚ましたのは、既に10時を過ぎた頃であった。

 

 

……

 

 

「いやぁ~、寝心地が良くてつい寝坊しちまったっすよ」

「やれやれ、全く…君は下手したら、ボク以上に怠惰なのかもしれないね」

「…それ、言ってて虚しくないすか?」

「……虚しいよっ」

 

 昨日の残りの固焼きパンを齧りつつ、ルプスレギナはへらへらと笑う。その様子を向かい合わせに座っているヘスティアが半目で見つめ、やがていそいそと出かける支度を始めるとルプスレギナは小首を傾げる。

 

「あれ、お出かけっすか?」

「うん、ベル君はもうダンジョンに行っちゃったし、ボクはこれからジャガ丸くんの屋台でアルバイトなんだ。君は『ギルド』に行くんだろう? あまり遅くなると混むからね、早く行っといでよ」

 

 成程、とヘスティアの言葉に相槌を打ち、さっさと残りの固焼きパンを口に運んだルプスレギナも出かける準備をする。

無事に【ファミリア】への入団を果たした今、彼女がすべきことは『ギルド』での冒険者登録だ。

 

 歯を磨き、修復して新品同様になっている鏡で髪形などを整える――うん、今更だけど凄い美女だ。

 

「…君は、もしかしてナルキッソスと同族(ナルシスト)なのかい?」

「ぶふっ、勘弁してほしいっす…」

 

 鏡に顔を近づけては頷いてを何回か繰り返していたルプスレギナに、ヘスティアはまさかと疑いの目を向ける。思わず噴き出しながらもその言葉を否定したルプスレギナは、最後に犬耳の形をした神官帽子を被り、壁に立てかけていた聖杖を背負ってベルトを斜め掛けにし固定する。

 

 ヘスティア様、なんか悔しそうな目で私の胸見てますがね…貴女の胸も大概ですよ。

 

 

……

………

 

 

「んじゃ、ここで」

「うん、お互いに頑張ろうぜ」

 

 二人揃って教会を出た後、バベルの前にある中央広場(セントラルパーク)で別れることになった。ヘスティアが言っていた「ジャガ丸くん」とやらが何なのかはしらないが、仮にも一柱の神様が働くぐらいなのだから、きっと高級店とかなんじゃ…いや、あの教会見る限り考えられないか。“屋台”って言ってたし。

 

 北にある道に向かっていったヘスティアの背中を見送り、ルプスレギナも『ギルド』のある道を進む。相変わらず妙に人の目が集まってしまうのが気になるものの、努めて無視して歩き続ける。ここから『ギルド』まではまっすぐ進めばいいだけだから、迷う心配もない。

 

 

……

 

 

「ちわ~っす、冒険者に登録しに来たっすよ~」

「あら、ルプスレギナさん。ということは、もうどこかの【ファミリア】に?」

 

 先日と同様中途半端な時間ゆえに大半の冒険者は未だダンジョンに潜っており、『ギルド』はそれほど混み合っていなかった。そんな中で彼女が向かうのは、エルフよりは短い尖った耳と、肌触りのよさそうなブラウンの髪を持つハーフエルフの女性、昨日も話をさせてもらったエイナ・チュールのもとだった。

 

 冒険者用の窓口に座っていたエイナは、ルプスレギナの姿を確認すると僅かに頬を緩ませる。昨日の今日でもう冒険者として登録しに来たということは、所属した【ファミリア】がどこなのか予想が出来たからだろう。

 

「はいっす、ヘスちゃん…ヘスティア様のところに入れてもらったっすよ」

「あはは、そっかそっか。それじゃあ早速冒険者として登録させてもらいますね」

 

 案の定告げられた神の名前が予想通りだったためにクスクスと笑みを零しながら、エイナは小慣れた様子で冒険者登録用の書類などを用意し始めた。

 

 

「それじゃあ、取り敢えずここの太枠内に記入をお願いしますね」

「了解っす」

 

 差し出された書類に視線を落とし、鼻歌交じりに意気揚々とペンを走らせるルプスレギナであったが、そのペンは進むにつれてだんだんと遅く、ルプスレギナ自身の顔色も変化していく。頭上に疑問符を浮かべるエイナであったが、やがて「で、できたっす…」と言われて差し出された書類を見て、瞠目すると同時に理解した。

 

 

【ルプスレギナ・ベータ】

所属:【ヘスティア・ファミリア】っす

年齢:人狼(ワーウルフ)っす

種族:戦闘メイド(プレアデス)兼冒険者っす

職業:電話持ってないっす

魔法(※任意):《空欄》

スキル(※任意):《空欄》

 

一言:あの~…その~…頑張るっす

 

 

 ………以上のことが、全部“日本語(エイナにはわからない言葉)”で書いてあったのである。

 

 ちなみに元々書類に書いてある“所属:”などの部分はルプスレギナには読めなかったので、適当に書いている。どのみちエイナに通じていないから、意味が無いが。

 

「ルプスレギナさん…これ、は…」

「わ、私の国の一番ポピュラーな言語っすけど…」

「……」

「……」

 

「…(ニコリ」

「…(ダラダラ」

 

「はい、それじゃあこっちに来ましょうね~」

「嫌っす!なんか怖いっす!!周りがドナドナされる牛を見るような目でこっち見てるっすぅ~!!!」

 

 巨大な聖杖を背負った此方を片手で引きずるエイナの底知れぬパワーに戦慄を覚えながらも空しい抵抗を続けるルプスレギナは、やがて個室の中へと消えていくのであった。

 

 

……

………

…………

 

 

「はぁっ、はぁっ…う、あぁぁぁぁぁっっっ!!!??」

『ヴモォォォォォォォォォォォ!!!!』

 

 ルプスレギナがエイナのマンツーマンによる講座で(精神的に)死に掛けていた頃、ダンジョンに潜っていたベル・クラネルもまた(肉体的に)死に掛けていた。

 

 ベルにとっての(数日の差だけど)初の後輩、それも恐らく年上の間違いなく美人で治癒魔法の使える将来有望の後輩。そんな彼女に負けぬよう、そして昨日中途半端な時間で切り上げることになった結果減ってしまった収入を巻き返す意味も込めて5階層まで下りた結果、どういうわけか彼は今ミノタウロスに追いかけられている。普通はこんな上層にいるはずのない化け物。当然自分じゃ手も足も出ず、こうして逃げているわけで。

 

 一体何故こうなったのだろうか。神様(ヘスティア)の【ファミリア】に入ってから今日まで凄くいい事尽くめだったから、いい加減に不幸とのバランスを取れという未だ天界にいる神様の悪戯なのだろうか。だとしたらなんともタチが悪い。

 

 

『ヴォウゥゥッッ!!!』

 

「うわっ!? い、今のは間一髪…!!」

 

 すぐ背後まで迫る濃密な死の気配に足が竦んでしまうのを必死に抑えながら走っていると、小石につま先がぶつかって僅かに前のめりになる――そのお陰で、頭上を掠めた横薙ぎに振るわれた太腕から逃れられた。まさに不幸中の幸い。ついでにこの状況も打破してくれはしないだろうかと、ベルは切に願う。

 

「(あぁ、神様…っ!! ルプスレギナさん…っ!!)」

 

 必死に走りながらも目を瞑ると、瞼の裏には自身の【ファミリア(家族)】の笑顔が浮かぶ。この際ルプスレギナさんの方が顔に陰掛かってて怖い笑顔になってることなんて気にならない。死にたくない。その一心で走り続けていたベルとミノタウロスの追いかけっこも、ついに終わりを迎える。

 

「っ……ぁ…」

 

 圧倒され、情けなくも尻餅をついてしまった。最早立ち上がる余裕などなく、ミノタウロスに顔を向けながらも後退りするしかない。背中に壁が当たったことで自らが袋小路に入ってしまっていたことを理解すると、ミノタウロスも走り寄ることなく、のしのしと歩いて距離を詰めてくる。

顔を近づけてくるミノタウロスが不敵に笑んだような気がして、ベルも恐怖に引き攣った笑いを返す。そんなので助けてもらえるはずも無し。

 

 振り上げられた拳は、小さな人間の体など容易くペチャンコにできるだろう。嗚呼、死んだ。脳裏に過った言葉に、ベルは振り下ろされる拳を見つめたまま動けなくなるが…

 

 ――ピタリと、ミノタウロスは動きを止める。

 

 己の腰を見下ろすミノタウロス、ベルもつられて視線を落とせば、横一文字に走る線と、止め処無く溢れる血。

 

『ヴ、ッ…!!?』

「ぇっ…?」

 

 人間なら『なに!?』と叫んでいるのだろうミノタウロスの体を閃光の煌きが走り、サイコロステーキのようにバラバラに切り刻まれた肉塊と成り果てる。ほぼ真上から降りかかる血によって真ん前で見ていたベルは真っ赤に染まるが、何が起こったのかと理解が出来ずリアクションも取れていない。

 

 そして、崩れ落ち、やがて灰となって消滅したミノタウロスの向こう側に立つ少女を見たとき、ベルの目はさらに一段丸く見開かれることとなるのであった。

 

 

……

………

…………

 

 

   ~~場所は変わって、『ギルド』のとある個室にて~~

 

 

 ピシッ!ピシッ!!ピシッ!!! …と、この数時間で何度目かになるかも分からない音が個室の中に響く。 空いているほうの指先で僅かにずれたメガネの位置を上げ、教鞭を振るったハーフエルフ…エイナは、眼下で机に突っ伏す“生徒”を見下ろしている。

 

「はい、これは…?」

「…んぁ~……“ひ”っすか…?」

「違いますっ! もう…これで3回目じゃないですか…」

 

 精根尽き果てたといった様子で机に突っ伏していたルプスレギナは、エイナが教鞭で指示した文字を見つめて記憶を探り、答えを口にする…が、不正解だったようだ。

今、二人が勉強しているのはこの大陸の文字。それも単語などではなく、子供が習うような一番の基礎――日本語で例えるならば平仮名の練習――だった。

 

「んなこと言ったってもう無理っすよぉ~…半分は覚えられたんすから、今日はもう勘弁してほしいっす…」

 

 ルプスレギナの言うとおり、マンツーマンでの勉強会が始まってからものの2時間ほどで、彼女は紙に書かれている言葉の半分を覚えた。だが、それで満足するわけにはいかない。そもそも彼女は、言葉は通じる(・・・・・・)くせに文字が書けないという意味不明な状態なのだ。恐らく既にこの街ではそこそこ目立ってしまっているだろう彼女の知識が偏っているとバレた暁には、そこに漬け込む輩が出るかもわからない。

 

 ベルと同じ【ファミリア】に所属したという時点で彼女のアドバイザーも恐らく自分になるだろうという確信に近い予測もあって、エイナはいち早くルプスレギナにせめてもの常識は持ってもらわねばと考えていた。とはいえ…

 

 すっかり頭から湯気を昇らせているルプスレギナに、確かに急き過ぎたかとエイナは反省する。ふぅと小さく息を吐き教鞭を置いてから、エイナはルプスレギナに柔らかく話しかける

 

「…それじゃあ、少し休憩にしましょうか」

「きゅうけい~…? いや、もういっそ今日は終わりで…」

「なにか?」

「アッハイ。ナンデモナイッス」

 

 なんならこのままぶっ通しでやってもいいんですよ?と目で告げられては反抗できない。「では向こうでお茶でも出しますよ」というエイナの言葉につられて立ち上がり、共に並んで個室を出る。

周囲が自分に送る憐みの視線を理解し、ルプスレギナはそんな彼らにフッと悲哀の混じった笑みを浮かべたのだった。

 

 

「いやはや、エイ姉の講座は厳しいっすねぇ」

「あれくらい当然ですよ。言っておきますが、私が許可するまでダンジョンに潜っちゃダメですからね」

「………アーアー、聞こえないっす~」

「………」

「エイ姉その顔やめてっす!!恐ろしいオーラが出てるっすよ!!」

 

 ダンジョンに潜るどころかそれ以前の問題であるとの言葉が胸に突き刺さるも、それにめげるルプスレギナではなかった。だが、眼鏡を光らせるエイナの背後に浮かんだ般若を幻視し、すぐさま謝罪をすることに。

 

「はぁー……それよりも、その“エイ姉”というのは…?」

「…ん?自分そんな風に呼んでたっすか? いやぁ…多分エイちゃんが私の知ってる方に似てたからっすかね」

 

 ほぼ無意識のうちにエイナに対する愛称が変わっていたことを、ルプスレギナはこの時に知った。その原因を少しばかり考えてみて…すぐに理解する。彼女の頭には、プレアデスの副リーダーで自身の姉という設定になっている、怜悧で知的な風貌の伊達眼鏡の女性が浮かんでいる。

 

 眼鏡といい教鞭といいあの机の叩き方といい、狙ってるのかと言わんばかりに雰囲気が似てたせいで勝手に呼び名が変わっていたのだろうと、ルプスレギナは小さく笑みを零した。

 

 

「ふぅん…それで、その方は「エイナさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」…?」

 

 自身に似ている人物と聞いて少しばかり興味でも出たか、話を掘り下げようとするエイナの言葉を、聞き覚えのある声が遠方から遮る。声の主は外から向かってきているようで、まだ此方から姿は確認できない。

 

「ん~?ベルっち、二日連続で早上がりっす、か……」

 

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださぁぁぁあぁぁい!!!」

 

 

「「うわああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっっ!!!!??(っす!?)」」

 

 

……

 

 

「もう、ベル君、キミって子は…血を浴びたならせめてシャワーくらい浴びてきなさいよ…」

「す、すみません…」

 

 周囲を仰天させたベルは、いち早く我に返ったエイナによって『ギルド』のシャワー室へと押し込まれ、血を流し終えたところで説教を食らっていた。やれやれ、と溜息とともに眼鏡を上げ、エイナは視線をベルからその隣でずっと腹を抱えて転げまわっているルプスレギナ(駄犬)へと移す。

 

「ルプスレギナさんも、そろそろ落ち着いてください」

「いっひひひ…だ、だってベルっ…ぷふふ…ベルっちってば、あんな格好でここまで走ってきたなんて……っ」

「…まぁ、それに関しては私もどうかと思うけど…」

「う、うぅ…」

 

 目じりに溜まった涙を指先で拭いながらも席に座ったルプスレギナのメイド服は相変わらず皺一つない。なんとも不思議な作りだと思ったが、すぐにエイナはベルへと視線を戻すとルプスレギナの言葉に肯定を示す。それでますます縮こまるベルの姿に思わず苦笑を零し、鼻をちょんと押さえて慰めると効果は抜群だった模様。やはり苦笑を零し、エイナは先ほどのベルの叫び声について詳細を訪ね…また、顔色が変化する。

 

 

「――ベル君…キミは、ほんとに何を考えてるの!? 後輩ができて張り切るのはわかるけど、ソロで5階層まで潜るだなんてっ! 冒険者は冒険しちゃダメだって、いっつも言ってるでしょ!?」

「は、はいぃ…っ!?」

 

 その剣幕にすっかり押され気味のベルを横目に、ルプスレギナはエイナが口にしたとある言葉に引っ掛かりを覚える。そんな彼女の視線に気づいたのか、エイナは「丁度良いからルプスレギナさんにも…」と同じ言葉を紡ぐ

 

「…ふぅん…『冒険者は冒険しちゃいけない』…っすか」

「そうです。けっして下層に潜ること自体を禁止しているわけじゃないですよ? ただ、身の安全を第一に考えて、過信な行動はせず常に保険を掛けよう、という意味です。」

 

 エイナの言葉にルプスレギナは一応納得したように頷く。冒険者になってから何年も経つようなベテランならいざ知らず、自分やベルのような新米には『神の恩恵(ファルナ)』を得て強くなったことで調子に乗り、命を落とすというパターンが少なくないからこその忠告なのだろう。この様子ならばベルには相当口を酸っぱくして言っているようだが、その気持ちも理解はできる。

 

 こうして新米冒険者のアドバイザーをやっている彼女は、今まで一体何人の冒険者を見送り、そして何人が無事に戻ってきたのか、戻らぬ者がどうなったのか…中立の立場でいなければならぬ『ギルド』の職員というのも存外、やるせないものだ。

 

 

 

 

 ……ま、それはそれとして

 

 

「…それで?ベルっちはミノタウロスから助けてくれたバレンタインとかいう人が好きになったっすか?」

「ヴァ、ヴァレンシュタイン、さんです……は、い…」

 

 にやにやと面白そうな表情でベルの隣に移動したルプスレギナは、ベルの肩に肘を置いて前のめりに顔を覗き込む。視線がぶつかるとやはりベルは恥ずかしそうに俯くが、ルプスレギナの名前間違いをしっかりと指摘したうえで肯定を示す。

 

 ふむ、と顎に手を置き、何か考え込むような動作を見せたルプスレギナに対してベルが抱いたのは…嫌な予感。にんまりとルプスレギナが笑ったのを見て、それはより加速する。

 

「あ、あの、ルプス「ベルっちってば酷いっす!私というものがありながら…他の女に目移りするなんて!」……え…えぇぇぇっっ!!?」

 

 

 先手を打とうとしたベルであったが、あっさりとその言葉は遮られた。よよよ…なんてわざとらしく女座りをして目じりに溜まった涙(爆笑してた時のやつ)をハンケチで拭うルプスレギナに、ベルは慌てて立ち上がり、周囲に広がろうとしている誤解を解こうとする。

 

「な、何言ってるんですか!!僕たち、何もしてないじゃないですか…!!」

 

 

 …よし、獲物が針に掛かった。

 

 

「酷いっす!昨日あんなに強引に迫ったくせに!!」

「えっ!? いや、あれは…ルプスレギナさんが変なこと言うから!」

 

「「「「(迫ったんだ……)」」」」

 

 

「でも、そのあと無理やり押し倒してきたっす!!」

「あれも不可抗力ですって!?」

 

「「「「(押し倒したんだ……)」」」」

 

 

「でも…そのあと凄い激しかったっす…」

「頬染めないでくださいよっ!?」

 

「「「「(ゴクリ……)」」」」

 

 

 恐らくルプスレギナが満足するまで続くであろう漫才。その周辺では各々が仕事を、換金を、雑談をしているフリをしつつ、ほぼ全員が聞き耳を立てている。そんな二人と周囲の様子に、対面に座っていたエイナははぁ…と額を押さえかぶりを振るのであった。

 

 

……

 

 

「…とまぁ、冗談はさておいて…ベルっちのお眼鏡に叶ったヴァレンシュタイン…? とかって人のこと、私も気になるっすよ。後輩として、ベルっちのお役に立てるかもしれないすし」

「る、ルプスレギナさん…」

 

 散々ベルをからかったところで、エイナの咳払いによって2人ともぴしりと席に座り直す。しれっとした顔でそう告げるルプスレギナにエイナは何か言いたげに半目になるも、隣のベルは素直に感動しているようだ。ベル君ちょっと純粋すぎないか。

 

「お眼鏡とは言いますが…アイズ・ヴァレンシュタイン氏は、ベル君よりも遥かに格上ですよ?」

「ん?そうなんすか?」

「はい、中立の『ギルド』としてはお教えできるのは公然の情報ぐらいですが…」

 

 はぁ…と心労を溜息で表し、真剣に話を聞く態勢を整えるベルと両手を頭の後ろで組むルプスレギナの二人にアイズ・ヴァレンシュタインの情報をエイナは伝える。

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン――彼女は、都市最大派閥の片翼である【ロキ・ファミリア】に所属するLv.5の女剣士。この都市に多くいる剣士たちの中でも間違いなくトップレベルの剣の腕前を誇り、【剣姫】の二つ名を持っている――それと同時に、『戦姫』というあだ名も付けられている。

今最もLv.6に近いと言われ、色恋沙汰には興味がないのか彼女に下心を持って近付いた男たちはその悉くが玉砕している。千人斬り達成のあたりで、ルプスレギナはたまらず噴き出した。

 

「べ、ベルっち…ぷ、くく…これは…難易度マックス…すね…く、ふふふぅー」

「あ、あの…ほかに、趣味とか好きな食べ物とかの情報は…」

「いや、ダメダメ。そんな個人の情報までは明かせないし、そもそも知らないし、ここは恋愛相談所じゃないのっ! ほら、魔石を換金して帰った帰った!!」

「う、うぅ…」

 

 先ほどからころころと笑い方を変えながら見ようによっては苦しそうに腹を抱えて震えるルプスレギナを置いて、エイナはベルを立たせるとどんどんと魔石の換金所へと背中を押していく。再び目尻に溜まった涙を拭って顔を上げれば、エイナはまだベルと会話を続けていた。

 

「(なんだかんだで面倒見良いんだなぁ…)」

 

 相変わらずソファーに座ったまま、ルプスレギナはどこか微笑ましげに二人の姿を眺め、テーブルに置かれたままのお茶を一口……

 

 

「……ハッ!?」

 

 今気づいた。これって逃亡のチャンスじゃねぇ?

 この広い建物には出口が複数存在している。正面の出口付近じゃ換金を終わらせたベルとエイナが喋ってて通れないが、ほかの二つは出入り口の前に他のギルドの職員が立ってるだけでエイナにバレる心配はあるまい。

 

 …この後も講座が続くなんて身が持たない。悪いがここはスタコラサッサというやつだ。

 

 

 音もなく優雅に立ち上がったルプスレギナは、完璧なメイドとしての歩き方でごく当然のようにギルドの出口へと向かっていく。ちら、と閉じていた目を僅かに開けて自分が今目の前を通り過ぎようとしているギルドの職員を見ると……顔が、引き攣ってる。

 

 

「……ルプスレギナさん?」

 

 

 あ、私死んだわ。

 

 

 

 

 その後、さらに数時間の講座を行ったことで、ルプスレギナは何とか自分の登録用書類を完成させたのであった。

 

 

 

 

 

【ルプスレギナ・ベータ】

 

所属:【ヘスティア・ファミリア】っす

年齢:ぴっちぴちの19歳っす

種族:人狼(ワーウルフ)っす

職業:戦闘メイド(プレアデス)兼冒険者っす

魔法(※任意):治癒魔法っす

スキル(※任意):《空欄》

 

一言:冒険者としてガンガン頑張るっす!!昼も夜も、ビンビンっす!!

 

 




一番最後の書類は下手くそな字で完成したのをエイナさんが奇麗に清書してくれました。エイナさんまじ天使。

あと年齢は適当です。20歳にいくかどうか、っていう外見年齢設定だった気がしたので、19歳ということにしました。

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