救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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遅れてしまい申し訳ありません。
どーにもスランプ気味で駄文がとんでもない駄文になってしまってまして…
ていうか正直自分がどうやって小説書いてたのか全然思い出せなかったんです。
そんな中書き上げたため駄文も駄文ではございますが、よろしければ読んでいただけると有難いです。

さて、体育祭も残すところあとわずかとなってきました。
思えば体育祭って十四話から始まったんだっけ?
…なげぇなおい。

てなわけで三十三話です!どうぞ


第三十三話 女にか弱い奴はいねぇ

会場の観客全員が、固唾をのんでその光景を見つめ続ける。

 

 

誰もがもう終わりだと、そう思っていた。

顎を撃ち抜かれ、激しく揺さぶられた脳。

それによって起こった脳震盪によってゆっくりとその身体を崩し、地面へと倒れ込もうとしていた切島をみて、誰もが彼を心の中で称えた。

よくあそこまで食い下がったと、よくあれだけ攻撃を受けてもなお諦めずに前へと進んだと。

誰もが倒れ伏した彼に称賛の拍手を送ろうと両手を身体の前へと持って行っていた。

 

だが、そんな彼らの予想を裏切り

 

切島は、崩れゆくその身体を奮い立たせ、力強く脚を踏みしめ、

 

会場を震わすほどの叫び声と共に、その拳を目の前の衝也に向けて振り抜いたのだ。

 

誰もが予想していなかった切島の最後の一手。

おそらくは最後の気力を振り絞って放たれたその決死の一撃は

 

 

 

轟音と共に、深々と衝也の頬へと叩き込まれていた。

 

そして

 

そんな起死回生の最後の一撃を放った切島の頬にも

 

 

衝也の拳がめり込んでいた。

 

「——ッ…」

 

ゆっくりと

 

まるでスローモーションで再生されているかのように切島の身体が地面へと倒れ込んでいく。

そして、彼の身体が重力に従い、ステージの床へと倒れ伏す

 

その刹那、衝也が彼の身体をかばうように支え、倒れることを遮った。

 

「…」

 

衝也に腕に支えられた切島は、まるで眠っているかのような表情で力なく衝也の腕に体重を乗せていた。

 

その頬には、痛々しく衝也の拳の跡が残っている。

意識を右腕に集中させた分、ほかの部分は一切硬化できていない。

ダメージの跡が残るのは当然と言えば当然だろう。

 

だが、それは衝也も同じ。

 

彼の頬にも、切島と同じように拳の跡がくっきりと残っていた。

 

 

「…」

 

 

 

緑谷の時のような油断がなかったとは言わない。

顎を打った手ごたえは最高な物だったし、彼の脳を揺らした自信もあった。

倒れ込もうとした切島を見ていただけに、彼がすんでのところで持ちこたえ、こちらへと近づいてきたときは一瞬だけ驚きもした。

だが、切島の咆哮が聞こえたその瞬間、衝也は確かに距離を切島から距離をとろうとした。

 

したはずだったが

 

彼の表情を見た瞬間、衝也の脚が、止まってしまった。

 

こちらをまっすぐ射抜く切島の眼が、自分に食らいつかんと必死にもがくその姿が

最後まで、自分に追いつこうとするその彼の強い意志に

 

衝也は、思わず動きを止めてしまうほどに気圧された。

 

こと戦闘においては、切島のはるか上を行く衝也の脚を地面に縫い付けてしまうほどに。

 

 

「あの感覚を味わったのは…久しぶりだな…

 

本当に、いつぶりだろうな…戦ってる相手にビビらされたのは…。」

 

相手の強い覚悟を見た時のあの感覚。

自分との格の違いを見せられた時のあの感覚。

頭では動かなくてはいけないというのが分かっているのに、身体が言うことを聞かなくなるあの感覚。

久しく味わってないその感覚を、まさかこの体育祭で味わうとは正直思いもしなかった。

 

ゆっくりと、切島の脇へと身体を入れて彼を再び支え治す。

 

「俺の、負けだな切島。

勝負に勝てたのは俺だけど…気持ちで俺はお前に負けちまった。

 

切島、やっぱりお前は弱くなんてねぇよ。

強いぜ、切島。

お前のその熱苦しい想いは…きっとお前を強くする。」

 

そういって、衝也はいまだ意識を戻さない切島に向けて、笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

 

「また戦ろう切島。

今度はお互いに、もっと強くなってよ。

そん時には俺も、俺に追いつきたいといってくれたお前に呆れられねぇように…

 

お前が、俺のダチでよかったと思えるような強い漢になるからよ。」

 

そういって、衝也は意識のない切島と約束を交わす。

自分を追いかけようとしてくれている目の前の友に恥じないダチになれるように。

 

いつか互いに、背中合わせで戦えるような関係になれるように。

それは男同士の友情と拳と拳がぶつかり合って生まれた

熱くて厚い約束だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?俺そういえば緑谷とも似たような約束しなかったっけ?

 

あれ?ちょっと俺ってば今後戦う予定の奴多くなってない?」

 

 

今後の行方が少しだけ心配になる衝也とその衝也に支えられる切島。

 

なんとも締まらない彼の言葉は、溢れんばかりの拍手によってかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

切島と衝也

 

二人の漢の戦いが幕を閉じ、続いて幕が上がった試合は

耳郎と爆豪の二人の試合。

 

今の今までその間合いの取り方と耳から伸びるプラグで相手を翻弄し、時に予想外の行動で虚を突き勝利をつかんできた耳郎。

 

対する爆豪は圧倒的戦闘センスを武器に麗日の策や上鳴の策(?)を正面から完膚なきまでに粉砕して勝利を奪い取ってきた。

 

そんな二人の試合は、観客たちの想像以上に苛烈を極めていた。

 

「いい加減に——当たりやがれこの耳長女ぁ!!」

 

「ウチの名前は、耳郎響香だっての!!」

 

決して小さくない爆発音が会場中に響き渡る。

爆発で目の前の耳郎の元まで距離を詰めた爆豪が、その勢いのまま拳を振るう。

振るわれた拳が耳郎のもとで一気に爆ぜる。

だが、その爆ぜる瞬間に耳郎がその拳を屈んで避ける。

その結果爆発に直撃はしないものの、その爆風や衝撃が耳郎の身体を吹き飛ばす。

 

だが、それはむしろ耳郎にとっては都合がいい。

吹き飛ばされながら耳郎はプラグを爆豪のもとへと向かわせる。

爆発によって起きた煙が彼女の視界を遮るが、そんなものは彼女にとって意味をなさない。

なぜならば

 

たとえ煙で視界がふさがれようとも、彼女には爆豪の姿が視えているのだから。

 

奇しくも、爆豪が生んだ爆煙が隠れ蓑となって、彼女のプラグの軌道をとらえづらくさせていた。

 

だが

 

「うっぜぇなぁぁ——そのクソ耳!!」

 

揺らめく爆煙から出て来たプラグを即座に払いのける爆豪。

プラグを払いのけた際に起きた爆発が、耳郎のプラグを爆風と共に吹き飛ばす。

 

「———ッ!」

 

(わかっちゃいたけどなんていう反応速度…。煙でどこから来るかもわからないウチのプラグを、視てから防いでる。)

 

「ッとに…マジで化け物じゃん!」

 

額に汗を流しながら思わず愚痴を漏らす耳郎。

その瞬間、目の前の煙が不自然に晴れ

 

中から爆豪が飛び出してきた。

 

「——死ねおらぁ!」

 

そして、耳郎めがけて拳を振りかぶり

 

彼女の直前で爆破させた。

 

「ッ!」

 

その爆破で、爆豪の身体が耳郎の上を通り過ぎ、

彼女の背面へと着地する。

 

刹那、耳郎のプラグが背面の爆豪の方へと向かっていく。

 

「っのぉぉ!」

 

そのプラグを、またしても先ほどのように爆破と同時に払いのける。

その瞬間起こる土埃と煙に紛れて耳郎は再び距離をとる。

 

「ちょこまかちょこまかと…うぜぇなぁおい!!」

 

煙が上がる中そう叫び声を上げる爆豪。

そんな中、煙に乗じて距離をとった耳郎は考えを頭の中で巡らせる。

 

(ダメだ、煙に乗じて攻撃しても何してもすぐに防がれる。

あの反応速度じゃ、どんなに爆豪の個性発動させて煙幕作らせても意味がない…

 

プラグを囮にウチが別方向から組み付けば…いや、やっぱなし。

あの反応速度よりも早く爆豪にたどりつける自信がない。)

 

煙幕を張らせて攻撃しても、先に戦った麗日と似て、プラグが触れなければ意味がない耳郎の攻撃はどう頑張っても爆豪にたどり着く前に防がれてしまう。

今のところ何とか個性のおかげで爆豪の攻撃を避けたり、牽制したりすることができているものの、それがこの先続けられる可能性は薄い。

 

何せ相手はあの爆豪だ。

体力テストの結果でも上位に入る彼はおそらくスタミナも耳郎より圧倒的に上。

疲労困憊で動きを鈍らせるという長期戦はあまり得策ではない。

USJの時もみなが疲労している中一人動きがほとんど鈍っていなかったのも見ると、そのタフネスはかなりのものだと予想できる。

 

だから、できることなら短期決戦を図りたいが

 

正直に言ってそれができるほどの手段が今の耳郎には思いつかない。

二回戦の時のように足場を崩して攻撃を図ることも考えたが、爆破によって空中に逃げられてしまえば足場を崩しても意味がない。

 

(まっずいな…このままじゃジリ貧じゃん…)

 

思わずといったように唾を飲み込む耳郎。

そして、それに合わせるかのように土埃が晴れ、こちらを見据える爆豪の姿が視えてくる。

どうやらこちらが攻撃してくると踏んでその場を動かなかったらしい。

まぁ、自分が出した煙のせいで耳郎の場所を視認できなかったからというのもあるだろうが。

先ほど耳郎のもとへと飛んでこれたのはプラグによる攻撃が来た場所から特定したのだろう。

相変わらず戦いにおいてはセンスばかりが光っている。

 

「…攻撃は止めか耳長。」

 

こちらを見据えながら問うてくる爆豪。

その威圧感、プレッシャー、敵意を肌で感じながら、耳郎は少しだけ笑みを浮かべる。

 

「…いい加減人の名前覚えなよアンタ、何?それとも名前も覚えられないほどアンタの脳みそちっちゃいわけ?」

 

「あぁ?」

 

「心の器も爆発的にちっちゃいなら頭の脳みそも爆発的にちっちゃいわけだ…

あーあ、かわいそうに。」

 

そういってバカにしたように鼻で笑って見せる耳郎。

そんな彼女の姿を見て爆豪は一度だけ目を見開き、ゆっくりと顔を下へと俯かせた。

 

「…ハッ、あぁそうかそうかよぉくわかったぜ耳長女ぁ…要はあれだ、てめぇ…

 

 

 

さっさと爆殺されてぇってことだなコラァァァァァ!!!!」

 

およそヒーローを目指す人間が浮かべてはいけない表情をしながら爆破を起こし

まっすぐ耳郎のもとへと飛んでくる。

 

(来たッ!)

 

耳郎の挑発に乗って馬鹿正直に突っ込んでくる爆豪を見て、耳郎はすぐさま構えをとる。

 

(こんだけ挑発すれば、こいつの性格上間違いなくさっきみたいに途中に爆破入れて方向転換とかもしないで真正面から突っ込んでくる!

 

そこを狙って、一気に懐に入り込めば、アイツが反応して拳を爆破させる前に、八百万みたいに投げ飛ばせる!)

 

音で相手の攻撃を予測し、その攻撃のタイミングよりワンテンポ早く懐に入り込み相手を投げ飛ばす。

 

耳郎の個性だからこそできる一種の攻撃の先読みを利用した戦法。

一回戦の八百万に使ったときのこの戦法を使うには、八百万よりも数段速い爆豪の動きをある程度制限させなければならない。

懐に入ろうとして直前で軌道を変えられてしまってはせっかくの虚を突いた攻撃が意味をなさなくなってしまう。

 

だからこそ、相手の攻撃を、挑発し苛立たせることで直線的にさせたのだ。

そうすれば、少なくとも軌道を変えられることはない。

 

(まだだ、もう少し、もう少し引き付けて…)

 

ぐんぐんと勢いよくこちらとの距離を縮めていく爆豪。

そして爆豪が自分の間合いに耳郎を入り込ませたその瞬間

 

彼の右手からわずかに雑音が聞こえて来た。

 

(——ッ!ここ!!)

 

そして、耳郎がその身体を屈ませて爆豪の懐に入り込もうとした瞬間

 

音響弾(アコースティック・グレネード)!!」

 

「——ッつ!!?」

 

彼女のプラグから、甲高い金属音が伝わってきた。

その瞬間、鼓膜を突き破られたような激痛が彼女を襲う。

 

そのあまりの痛さに、思わず動きが止まってしまう。

そんな彼女の隙だらけの腹に

 

爆豪の拳が何の躊躇もなく叩き込まれる

そして

 

 

「オッラぁぁぁ!!」

 

「——!」

 

その拳が、爆音とともに爆ぜた。

 

吹きあがる煙と共に勢いよく吹っ飛んでいく耳郎の身体が煙の中へと消えていく。

そして、何度も何度も地面に身体がたたきつけられるような音がした後、何かが転がっていくような摩擦音が爆豪の耳に伝わってきた。

 

「てめぇのそのちょこまかうぜぇ動きの種が『音』だってのは前試合でとっくにわかってんだよカスが…

おあつらえ向きにそのくそ長ぇ耳をブラブラブラブラ揺らしてりゃあよぉ!」

 

爆豪がそう叫ぶと同時に爆撃による煙がステージ全体へと広がっていく。

その光景に、会場中にいた全員が言葉を失った。

 

「うっわ…」

 

「ちょ、直撃かよ…!」

 

そんな中、観客席で試合を見ていた麗日と上鳴が思わずといった様子で呟きを漏らす。

二人とも、このトーナメントで彼と一戦を交え、その実力と個性の威力をいやというほど思い知らされた。

特に麗日は爆豪の最大火力を間近で見せつけられている。

だが、そんな彼等でさえ一度も彼の爆撃が直撃したことはない。

上鳴も爆発の勢いで場外に投げ飛ばされただけで、直接的な攻撃は受けていなかった。

それだけに、彼の爆撃が耳郎へ直撃したということ事実に背筋が凍るような感覚を覚えてしまう。

 

「あの音は、恐らくは音響弾の類いでしょう。他人の数倍聴覚が良い耳郎さんにあの大音量は致命的です…。

確かに相手の弱点を容赦なく突くのは戦いにおいても鉄則と言えますが…あんな至近距離で食らったら鼓膜も破れかねませんわ…!」

 

「女とて容赦はしない修羅のような男とは理解していたが…まさかあそこまでとは。」

 

「ケロ…耳郎ちゃん…」

 

常闇とその隣にいる蛙吹、八百万といった普段あまり表情を崩さない彼等も、少しだけその表情を歪ませる。

他の者も皆同様にその表情を心配そうにさせていた。

 

「いやつーかあれは、やりすぎだろ…いくら容赦ねぇっつってもあんなよ…」

 

「おー、なんか珍しく難しい表情になってるじゃないの上鳴君や。風邪でもひいたか?」

 

「…っ、衝也?お前、なんでここに?つーかまて今の言葉どーいう意味だ!?」

 

上鳴の苦い呟きにおどけた調子で言葉を返したのはこちらにゆっくりとした足取りで向かってきている五十嵐衝也だ。

その頬にまっ白な湿布を張り付けながらひらひらと座っているクラスメートたちに向けて手を振る彼の姿に級友達の視線が一斉に向けられる。

 

「五十嵐さん?五十嵐さんがどうしてここに?控え室で待っていたんじゃないんですの?」

 

「いやー、この試合の勝者が文字通り最後の相手になるからな。どうせなら画面越しじゃなくて生で観戦しようかと思ってな。」

 

八百万の疑問に軽く笑いながら答えた衝也を見て、彼女は少しだけホッとしたように肩を撫で下ろした。

 

「そうなのですか、私はてっきりまた意味のない愚行を…例えるなら試合時間を延長させるためにわざと登場するのを遅らせたりするようなことを考えているのかと思ってしまいましたわ。」

 

「何を言うんだ八百万の神!そんなことして不戦勝扱いされたら元も子もないだろうに…。そんなことをするようなバカがこの世にいるわけがないだろう!」

 

「ここにいるじゃん」

 

「ごめん葉隠、指が見えないから誰を指しているのかわからない。」

 

「ちょ、私の手袋勝手にとらないでよー!返せー!

 

「なくしものを人のせいにするのは良くないぜ葉隠。」

 

「盗んだ本人が言わないでよ!」

 

素早く葉隠の手袋を奪い証拠隠滅を図った衝也はブーブーと文句を言いまくる葉隠を無視して素知らぬ顔で空いていた蛙吹の隣へと座り込む。

 

「五十嵐ちゃん、切島ちゃんは一緒じゃないの?それに、その頬の傷は?リカバリーガールに治してもらえなかったの?」

 

「あー、いや、正直ちょっと体力奪われすぎてるから流石に自重させてもらった。轟の時とかとちがって試合に影響が出るほどのものじゃないしな。元気そうに見えて実はちょっとしんどいのよ。痛みにはある程度耐久性あるけど蓄積される疲労にはなれてないの俺。

切島の方は傷はリカバリーガールがばっちり治したんだけど、けっこうダメージがあったのかまだ目ぇ覚ましてない。リカバリーガールが言うには体力的な問題らしいから直に目を覚ますだろうって言ってたから心配すんな。

…まあ、傷を付けた本人が言うなって話だけど。」

 

そう言って苦笑する衝也だったが、傷が治ったことを知っているということは恐らく切島の治癒が終わるまで救護室にずっといたのだろう。

治癒を受けている切島の横でじっとその様子を頬に湿布をしながら見つめている彼の姿を想像し、思わず笑みを浮かべる蛙吹。

そんな彼女に気づくことなく衝也は軽く両手を伸ばしながら上鳴の方へと顔を向けた。

 

「そんで?クラス一のノーテンキである上鳴が珍しく顰めっ面してる理由はなんなのですかな?」

 

「クラス一のノーテンキって、それお前のコトじゃねぇかよ…。」

 

「お前には負けるよ」

 

「それも俺が言うセリフだろふつう…。」

 

律儀にツッコミを入れながらも上鳴はゆっくりと視線をいまだ煙に包まれてるステージへと向けた。

 

「…別によ、爆豪を責める訳じゃねぇけどさ、正直今のはちょっとやりすぎじゃねーかと思ってよ…

いくら手加減しないっていっても、女子の鼓膜破って腹パンした後爆撃ってのはちょっとやっぱ…あれだろ。」

 

「…おもいっきり爆豪のこと責めてるじゃないかよ。」

 

「うっ…や、だってよぉ」

 

衝也の苦笑に上鳴はなんともいえない表情を浮かべながらステージの方へと視線を向ける。

 

「爆豪ほどの才能マンならもっと他にやりようがあったはずだろ?俺の時みてぇに投げ飛ばすとか、麗日みてぇに疲労させるとかよ…なにも鼓膜破った上に直撃までさせなくたって…」

 

「麗日の時ともお前の時とも状況は違うだろーが。

お前の時は絶対に反撃が来ない状況だったし、麗日の時は触れられたらその時点で勝つのが厳しくなるんだから向かってきた相手を爆破で触れさせずに迎撃する戦法が一番理にかなってる。疲労によって勝ったのは単純に麗日の体力の問題だ。あのまま戦いが続いてたら遅かれ早かれ今の耳郎みてぇに一発貰ってた可能性が高い。アイツは単純に自分が勝つための戦い方してるだけだ。」

 

「で、でもせめて加減くらいはさぁ…麗日ん時もそうだったけど…相手は」

 

「『女だから』殴るのはよせって?弱点を突くのはやめてやれって?かわいそうだから手加減してやれって?

 

上鳴、それは戦いにおいて最も先に排除すべき考えだ。今のうちに捨てておいた方がいい。」

 

ばっさりと

ごく自然に、当たり前のように上鳴の主張を真っ向から否定する衝也。

その言葉に熱も感情も入ってはいない。

本当に、まるで日常会話と変わらない様子で上鳴の意見を否定した彼に、思わず上鳴だけでなく他の者も視線を送ってしまう。

 

「確かに女に普段から優しく接するすることに間違いはなにもない。

 

だが、戦いにおいて性別や年齢といった要因で加減をするのは愚の骨頂だ。

 

もし俺が爆豪の立場でも俺は同じような対応を取る。」

 

「な」

 

衝也の一言に、思わず上鳴どころかクラスメート全員が目を見開く。

だが、その様子に気づいた素振りも見せずに衝撃

也は話を続けてく。

 

「あの場で耳郎の鼓膜を潰したとしても、プラグの攻撃機能が完全に潰せたかどうかの判断はできない。

とすれば、相手を掴んで投げ飛ばしたりマウントをとって降参を促したりすると返って密着状態が続いてプラグの餌食になる可能性がある。

なら、即座に直接爆破すれば相手にダメージを与えられる上に距離を放すこともできる。

爆豪の個性なら威力によってはその一撃で勝負が決まるかもしれねぇからなおのことそっちの方が良いだろうしな。」

 

淡々と、いつもと変わらない様子で話を続けてく衝也。

その様子はやはり普段の彼とまるで変わっていない。

そのことに、クラスメート達は驚愕の気持をおぼえてしまう。

普段の彼は、女子に飯をたかっているわりに 女子には優しく接するきらいがある。

見えないことをいいことに悪ふざけで全裸になろうとする葉隠に自分の服を羽織らせたり、峰田のイキすぎた行動を即座に食い止めたり

割りと紳士的というか、女子にはある程度やさしいというイメージが彼等の中にはあったからだ。

少なくとも、今の爆豪の行動を肯定的に捉えるとは想像していなかったほどには。

 

「まぁ、相手がクラスメートで、しかも女だから加減くらいはしとけって気持ちが湧いてくるのは当然だし、仕方ねぇよ?けど、俺はそれを理由に加減をしたりすることはない。

ぶん殴るときはおもいっきりぶん殴るし、勝つためだったらどんな汚い手だって使う。

 

自分が負けないためだったらな。」

 

衝也自身、この体育祭で少なからず卑怯と呼ばれることをしてきた自負はある。

だが、卑怯と言われても正義の味方とおもえなかろうと、衝也は自分がやってきたことに後ろめたさを覚えてなどいない。

勝つための手段を選べるような余裕は、人を救うヒーローにはないのだから。

絶対に勝って人を救う正義のヒーロー。

2000年代初頭の人々が理想として掲げ、テレビ番組や漫画などで描かれたそのヒーローは、『ヒーロー』という役職までができてしまった現代ですら絵空事でしかない。

平和の象徴と言われているヒーローですら、きっと無敗ではないのだから。

 

「俺らが戦う奴らの中には人の命を奪おうとしてる奴らだっている。そういう奴らの中には男も女もいるだろうし、自分より歳上のやつも、下手をしたら自分より年下の子どももいるかもしれない。

そんなやつらと戦うときに、女だから、子どもだからって加減して負けたら、救えるものが救えなくなっちまう。

 

人を救ける時に、次なんてありゃしねぇ。

 

 

もし自分が負けたとしたらその時は、目の前の救えなかった人が死ぬ。

 

 

だから、俺は相手がどんなヤツでも加減はしないし容赦もしない。

 

負けて次がある戦いなんて、ヒーローになったら一つもないんだから。

失われて次がある命なんて、絶対に有りはしないんだから。」

 

「……」

 

ステージから目を離さず、視線を誰ともあわさずに語る衝也のその表情は誰にも視認はできない。

だが、声色も口調も普段の彼と同じはずなのに、その言葉の重みは普段の彼とは似ても似つかないほどの重さで

その重さと雰囲気にクラスメートたちは皆一様に呑まれ、押し黙ってしまっていた。

不満を漏らしていた上鳴も、彼にしては珍しく神妙な顔で俯いてしまった。

そんな彼らを横目で見た衝也は、その場の雰囲気を変えるかのように一度だけ後頭部を掻いた。

 

「まぁ、だからって上鳴の言うことをすべて否定するわけじゃないけどな。

女子のことを慮ることはむしろ良いことだしよ。

 

けど、全力で向かってくる相手に対して手加減をして戦うことは『優しさ』ではなく『驕り』だと俺は思うぞ?

そいつが親しい奴ならなおのことな。

…それに

 

加減して戦えるほど、今の耳郎は弱くねぇ。」

 

「…?」

 

衝也の言葉にクラスメートたちが一瞬だけ首を傾げたその時、目の前のステージの爆煙がようやく晴れて来た。

その様子に、観客席にいた全員の視線が注がれていく。

そして、ステージの煙が完全に晴れた時

 

『———!?』

 

観客たちの瞳の色に、驚愕の意が映し出される。

 

そんな中、ステージの上にいる爆豪だけが眉一つ動かさずに、目の前の対戦相手の姿を見据えていた。

 

彼の視線の先にあるのは、煙の晴れたステージの端。

あと数歩でも後ろに下がれば場外となってしまう、そんな危うい場所で

 

傷だらけの耳郎が、そこに立っていた。

爆破のせいかところどころ焦げた服、そしてその体からわずかな煙を上げ、破けた服の袖からは火傷の跡が見られている。

先の音響弾で鼓膜が破れてしまったのか、耳からは血が流れ出て、彼女の立つ地面の下に赤色の斑紋ができてしまっている。

 

だが、そんな状態でも耳郎は、未だにステージの上に立っていた。

 

「じ、耳郎…!」

 

「耳郎さん…」

 

「ケロ…耳郎ちゃん…」

 

その姿に、観客席にいる上鳴やほかのクラスメートたちは、驚きからか思わず言葉を失ってしまう。

しかし、

 

「……」

 

ただ一人爆豪だけは、観客たちのように驚くことはせずに、冷静に状況を分析していた。

 

(服の損傷が一番激しいのは袖の方…ほかの部分は焦げてるだけで破けてまではいねぇ。

…つまり、直接的な爆撃を食らったのは全身ではなく…腕、より詳しく言うなら前腕部分ってわけだ。っつーことは…)

 

「あのクソ耳、爆破ン時に腕ぇ挟みやがったな。」

 

そう、爆豪が予想した通り、耳郎は爆豪が音響弾で彼女の動きを止めて攻撃したその刹那、咄嗟に両腕を挟み込み、爆豪の攻撃をかろうじて防いでいたのだ。

 

それは耳郎が

 

自分の個性を潰されていても、自分の鼓膜さえ潰されていてもなお

 

爆豪の攻撃に反応していたことの証明に他ならない。

自分よりも数段速い相手の攻撃に、耳郎が対応していたことに他ならない。

 

だが、会場にいる誰もが、彼女のその姿を見て確信する。

もう、決着はついていると。

確かに、腕を挟んだことによって爆破によるダメージは腕にある程度集中したかもしれない。

だが、それでも爆破の余波によって全身はボロボロになっているし、何よりも彼女の武器とも言える聴覚が既に使い物にならないような状態になってしまっている。

 

いくら彼女が立ち上がろうとも、いくら彼女が爆豪に立ち向かおうとも

最早勝ち目がないことは誰の目から見ても明らかだった。

 

自然と、みなステージから目を逸らす。

この先を見たくないと言うように、これ以上彼女が戦う姿を見たくないと言うように

 

これ以上、彼女が勝てない試合を続ける様を見たくないと言うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

「…頑張れ、耳郎。」

 

衝也だけはステージから目を逸らさずに、じっと耳郎の事を見つめ続けていた。

 

 

自然と、呟くように衝也の口から言葉が漏れる。

それは、この日まで彼女が強くなろうと努力してきた姿を間近で見てきたからこそ漏れた言葉。

彼女が、今どれだけ強くなっているのかを知っている彼だからこそ漏れた言葉。

 

それは、この場で唯一、彼女が勝てると信じている彼だからこそ漏れた言葉。

 

「頑張れ…!

 

頑張れ…っ!

 

…負けるなっ!

 

 

 

勝てっ!耳郎!!」

 

 

そして、衝也の言葉に呼応するかのように

 

傷だらけの耳郎の脚が動き、

一歩、前へと踏みこんだ。

その姿に観客たちも、そして目の前にいた爆豪も、信じられないというように目を見開いた。

 

「…ハッ!すげぇなおい、んなボロボロでもまだやるつもりかよ、くそ耳女…

 

いいぜ

 

テメェがその気ならこっちもマジだ。

完膚なきまでに潰してやんよ!!」

 

僅かに、ほんの僅かに唇をつり上げながらそう叫び、爆豪は即座に動けるよう姿勢を低くし手を構える。

まだやるのなら容赦はしない、そう耳郎に伝えるかのように、爆豪は構えた両手に力を込める。

 

そして、爆豪が距離を詰めようと後方へ爆破を起こそうとしたその時

 

踏み込んだ耳郎の脚が、ゆっくりと膝をついた。

 

「———あ?」

 

思わずといったように爆豪の口からすっとんきょうな呟きが漏れる。

そんな爆豪を尻目に、耳郎の身体はゆっくりと前へ傾いていき

 

そのまま地面へと倒れこんだ。

 

「……」

 

彼女の目の前にいる爆豪も、見ていた観客も、審判である職員たちも、会場にいる全員が押し黙り、静寂が場を支配する。

 

当然の結果だろう。

誰の目から見ても高校一年生の女子が立ち上がろうと思って立ち上がれるような状態ではない。

言ってしまえば爆弾とともに男に殴り飛ばされたようなものだ。

大人でも立てるかどうか怪しいだろう。

あそこで立ちあがり、あろうことか脚を動かせたこと自体、奇跡にも近いことなのだから。

 

 

 

数秒か、あるいは数分か、長いような短いような沈黙が続いたその会場で

 

「…耳郎さん、戦闘続行不可!よって…

 

勝者!爆豪勝己君!!」

 

ミッドナイトの言葉が響き渡った。

 

その言葉を受けて、爆豪はしばらくの間耳郎に視線を送り続けた後

 

「…ケッ!」

 

ゆっくりと彼女へと背を向ける。

 

「麗日といい、耳郎といい…どいつもこいつも

 

か弱いなんて言葉とは程遠すぎんだよクソ共が…」

 

そう悪態をつきながら、爆豪はステージから降りていく。

その言葉は、恐らく爆豪にとって、最上級の誉め言葉だろう。

 

そして、彼がステージから降りていく中、遅れるように会場から拍手の嵐が巻き起こる。

 

その数の多さはは最後まで諦めずに立ち上がったヒーローの卵を称える数の多さを物語る。

恐らくは今日の体育祭のなかでも一、二を争うほどの拍手喝采のなか

 

「…耳郎。」

 

衝也の不安気な呟きが、会場に響く拍手の音に呑まれていった。

 

 

 

 

 




うわぁ…爆豪君もヒドイけどそれ以上に駄文すぎてヒドイ。
ちょっとマジでヤバいんじゃなかろうか…。

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