【子蜘蛛シリーズ2】Deadly dinner   作:餡子郎
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【ハンター試験編】
No.001/青い脳ミソと人食い奇術師


 クロロたちがシロノを拾い、そして『子蜘蛛』としてから数年が経った。

 

 シロノは相変わらず団員たちに鍛えられつつ、子蜘蛛としての役割を果たしている。

 念は、若さを保つ効果を持つ。その上更に母であるアケミの影響があったとはいえ、ここ三年は普通に成長しているはずであるが、シロノはあまり背が伸びなかった。アケミも小柄な方だったので、ちびなのは単に遺伝だったらしい。

 念の熟練度が向上するに連れて体術も上達し、身のこなしに問題はなく、むしろ小柄な事で出来る事も沢山ある。そして何より、本人がその事を全く気にしていない。

 だが、正しい年齢は不明にしても少なくとも十歳以上の肉体年齢ではあるはずが、シロノの身長は百三十センチそこそこしかなく、平均よりもやや低い。その身長は一年ほど前に団員になったコルトピよりも僅かに低く、シロノは相変わらず旅団いちのちびだった。

 

 

 

 

 

 

「ヒマ」

 

 ベッドの上でゴロゴロと転がりながら、既に三十回目にもならんかという「ヒマ」発言をしたシロノに、クロロはため息を吐いた。

「なら本を読め。いくらでもある」

「やだ、パパの本難しいか気持ち悪いかのどっちかだもん」

「難しいはともかく気持ち悪いとは何だ。そもそもお前は本を読まなさすぎる。だからいつまで経ってもいまいちバカなんだ」

「いいでしょ、完全バカじゃないんだから」

「なんてハードルの低い発言だ情けない。世界名作全集を全巻読破させるぞ」

「すっかりお父さんだね、団長」

 ベンズナイフ手入れしながらだけど、とシャルナークはのほほんと言った。

 今、このアジトにいるのは彼ら三人のみ。というのも、昨日彼らの“仕事”が終わったばかりだからである。だからクロロは昨日使った、詳しく言えば数人の頸動脈を鮮やかに掻き切ったベンズナイフを丁寧に手入れし、シャルナークは襲った先の動きを確認している。

 

「だって、みんな居ないし、シャル兄は忙しいし」

 シロノも、いつもはこんなふうにヒマだヒマだと喚くような子供でもないのだ。

 というのも、シロノは仕事のない時期は大概クロロにくっついて、彼の身の回りの世話をしつつ暮らしている。そのおかげでシロノの家事能力はなかなかのもので、様子を見にやって来た団員が、掃除・洗濯・炊事全てをこなしているシロノに驚き、そして何もせずに本を読み耽っているクロロを見て溜め息をついたりもした。

 しかしこうして各地にあるアジトに居る時は、いつもの家事をする必要がない。

 そんな時はいつも誰かしらが構ってくれたりするのだが、今回は集合をかけた号令が「ヒマな奴は来い」であったので、やって来たのはフェイタンとフィンクスだけだった。どちらもいつもはシロノのことを構ってくれないわけではないのだが、今回に限って二人ともすぐさまどこかへ行ってしまった。

 クロロはといえば、仕事のあと最低でも一週間は獲物を愛でるのに忙しく、シロノを構ってくれる事はない。ついでに言えば、クロロが愛でる前に獲物を触ろうものなら彼の機嫌が急降下、下手をすれば不機嫌の果てにこちらが酷い目に遭う。

 そもそもシロノは、青い脳ミソのホルマリン漬けなど、全くもって興味がない。クロロが目を付ける獲物はとても美しいものや面白いものも多いが、時々どうやっても理解できないものであるときもあって、今回がそうだった。

 

「ひま」

「よしわかった。シャルナーク、今すぐネット通販で世界名作全集を注文しろ」

「団長、シロノなら速攻で全巻燃やしてバーベキューでもするのがオチだよ」

 シャル兄は自分の事をよく分かっているなあ、とシロノは感心した。そろそろがっつり肉が食べたいな、と思っている事をどうして見抜かれているのだろうか。

「あ、そうだ」

 その時、シャルナークがポンと手を打った。

 

「シロ、そんなに暇ならハンター試験受けてみれば?」

「──ハンター試験?」

 

 ベッドの上でゴロゴロと本当に転がっていた少女は、身を起こしてシャルナークを見た。シャルナークはパソコンの画面を指差し、にこにこと微笑む。

「もうすぐ第287期の試験があるんだ。あると色々便利だよ? シロならまあいけると思うし、資格の一つも持ってたほうがいいんじゃない? 能力なくなっちゃった事だし」

 アケミがいなくなってしまってから、シロノは“おままごと”の能力が全く使えなくなった。それで団員たちの態度が変わる事もなかったが、しかし任される仕事の内容が僅かに変わったし、基礎の念能力技術や体術をかなり厳しく訓練されるようになった。この先、新たに念能力が使えるようになるかどうかもわからない、その保険として、である。

 

「ていうか旅団で資格持ってるのが俺だけってのが色々不便だし、ねえ団長」

「明らかにその理由のほうが本音じゃんシャル兄……」

 自分の事を色々考えてくれたのかな、とやや感動していたシロノは、シャルナークが新しいパソコンを買うときと同じニコニコ顔でそう言ったのを見て、脱力した。

 

「……ふむ」

 

 シロノの声など聞いていないのか、クロロは完璧に磨き終わったナイフを仕舞うと、顎に手を当てた。

「ん……?」

 クロロはふと頭の中で波紋が広がるような感覚に声を上げた。彼の首にかかっているのは、彼女の母であるアケミが眠る指輪である。普段は眠っているアケミであるが、何か重大な予知を感じると、微弱なオーラで知らせてきたり、以前のように夢枕に立ったりもする。そして彼女は、ハンター試験という言葉を聞いた途端、ぜひ、というような賛成のオーラを送って来たのだ。

(……何か得るものがあるのかもしれないな)

 クロロは少し考え込むような仕草をした。

 

「どしたの団長」

「……いや、何でもない。そうだな、いいだろう。暇つぶしには持って来いだしな」

「オーケー、じゃ申込みしよう。すぐ応募カード取り寄せるね」

 シャルナークは、目にもとまらぬ早さでタイピングを始め、あっという間に応募カード取り寄せ手続きをすませてしまった。そして、シャルナークが何か特別な事をしたのか、それともハンター教会の事務処理が早いのか、翌日に早々と応募カードが届く。

 

「歳……十歳とかでいいかな。あ、保護者承諾サインがいる」

「ああ、未成年だからな。貸せ」

 クロロは淡々とカードの“保護者承諾サイン”の欄にサインをし、シャルナークに返した。そしてシロノ本人が一度たりとも応募カードに触らないままカードは郵送され、そして本人の意思を一度も確認しないまま、シロノのハンター試験受験が決定したのだった。

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++

 

 

 

「ハンカチとちり紙持った? 携帯は?」

「持った」

 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるパクノダに、シロノはこくりと頷いて返事をした。

 

 結局ハンター試験を受けることになったシロノだが、彼女自身、ハンター試験というものに既にかなりの興味を抱いていた。旅団と行動することになってからというもの、シロノは一人で行動した事があまりない。クロロの側に居るか旅団の誰かと常に一緒にいるのが自然だったから、その状況に馴染みこそすれ不満など抱いた事はなかったが、新鮮なイベントに少なからずワクワクしてしまうのは道理だろう。

 

「ハンター試験ねえ~、受かんのかよ、シロが」

「受かるほうに100」

「受からないほうに80」

 仕事のときは集まらなかったくせに、シロノが試験を受けるとシャルナークからメールで知らせが回った途端、フィンクスとウボォーギンとノブナガと、そしてパクノダとマチがやって来た。……完全に面白がられている。何かというとすぐ賭を始める彼らを、シロノは呆れたように見遣りつつ、荷物を詰めていった。

 しかしそんな彼女を見て、ノブナガがその横にしゃがんで呆れた声を出す。

 

「……にしても、マジで持ってくのか、それ」

「んー」

 そう、シロノが荷物を詰め込んでいるのは、なんと白い棺桶だった。そしてその大きさは、まさに持ち主のシロノが入って丁度いいサイズで、表には黒い逆十字のレリーフが打ち付けてある。

 現在、蜘蛛のブレスとともにすっかりシロノのトレードマークとなっているこの棺桶、シロノは毎晩これで寝るのはもちろん、遠出をする時も必ず背負っていくのである。

「あたし、お墓の中で産まれたからかなあ、これの中で寝るとママといるような気がするんだよね。それに蓋があるからうっかり光も入って来ないし」

「あー、日光アレルギーひでーもんな、お前」

「それにほらノブ兄、中は低反発クッションが張ってあるから寝心地抜群だよ」

「知らねえよ」

 シロノは棺桶の中に荷物を詰め終わると、帽子を被ってから棺桶を背負った。

 

「シロノ」

「あ、パパ。脳ミソ愛でるのはもういいの?」

「人を変質者のように言うな」

 部屋の奥の入り口に所に立っていたのは、クロロだった。

「相変わらずお前にはやる気とか緊張感とかいうものがないな。……まあ、適当に頑張って来い」

「パパも適当って言ってるじゃん……。うん、まあ、適当に頑張ってくるよ」

「……これを持っていけ」

 そう言ってクロロが投げて寄越したのは、赤と青の真逆の色が不思議な色合いで混ざる石がついた、金の指輪だった。細い鎖を通して首にかけられるようにしたそれが自分の母親の魂が眠っている存在だとは知らないシロノだったが、いつもクロロが身につけ、服の下に隠しているものだという事は知っていた。

「何?」

「まあ……お守りだ」

 クロロがそう言った瞬間、シロノだけでなく、その場に居た全員が胡散臭そうな、気持ちの悪いものを見る目をした。

「……何だそのリアクションは」

「いやだって……ねえ」

「まさか団長がそんなフツーの激励をさあ……」

 ぼそぼそと言いあう団員たちに、クロロは溜め息をついた。

 クロロとてガラではない事は自覚しているが、そもそもこうしたのは自主的な意思ではない。というのも、昨夜久々にアケミが夢枕に立ち、試験に絶対に自分を連れて行かせろと散々ごねたのだ。試験に親がついていくのがあるかとか、心配ではないのかそれでも保護者かという言い合いを散々やりあい、最終的に「命の危険が迫ったもしもの時にのみ手助けする」という約束で、アケミが憑代とするこの指輪をシロノに持たせて出す事にしたのだ。

 

「ていうか気持ち悪いよね」

「ちょっとシズク、そんなはっきり……」

 ──とはいえ。そこまでのリアクションをされると、クロロとしても自分はどう見られているのだろうか、という疑問が浮かばなくもない。

 

「えーと……」

 訓練の時はともかくとして、普段は家事を手伝ってくれる気もなければ門限を決める事もないという放任主義の星のようなクロロである。そんな彼が初めて見せた保護者らしい行動に、シロノは面食らっているらしい。

「えーと……、一日一回メールとか入れたほうがいい?」

「別にいらん」

「だよね。あーびっくりした、パパの脳ミソまで青くなったのかと思っちゃった」

 そんな会話のあと、シロノは「じゃ、いってきます」と今度こそ歩き出した。

 相変わらずどこかのんびりした……適当とも聞こえる口調の子供を、彼らは「おう」「じゃーな」「ちゃんと食べるのよ」と、これまたテキトーに見送る。

 

「シロノ」

 

 もう一度呼ぶ声に再度振り返ると、そこには、それはそれは美しい微笑を浮かべたクロロが居た。

「まさかないと思うが、落ちたら世界名作全集を読破のうえ感想文を書かせるからな」

 

 ──なんとしてでも合格せねばなるまい、と、シロノはいつにないやる気を見せて、試験会場へ向かって歩き出した。

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++

 

 

 

(うーん、情報収集って苦手なんだけどなあ)

 以前よりずっと日光過敏症が酷くなっている為、深く帽子を被った上からファーつきのフードをこれまた深く被ったシロノは、初めて一人で乗った船の甲板から海を眺めつつ思った。

 シャルナークなら試験会場の場所を突き止める事など朝飯前なのであるが、「最初から自分の力でやろうね」という、煌めくような爽やかな笑顔とともに発せられた厳しいお言葉により、シロノは自力でナビゲーターを探さなければならなかった。

 

 『子蜘蛛』としての仕事は、いわば旅団の雑務を行なう際の便利ツールなので、情報収集や仕事の下準備の為に潜入や尾行をした事は日常茶飯事でも、自分の欲しい情報をいちから探した事などあまりない。

 試験に落ちたら、感想文の上に反省文も書かなければならない。クロロは明言しなかったが、訓練の量も軽く五倍くらいにはなるだろう。そうなったら、……死にはしない。だが死んだほうがマシだという気分を味わうことになるのは確実だ。

 そんなわけでぐっと真剣味が増したハンター試験だったが、シロノはしょっぱなから「自分の力でやる」という手間を省ける幸運にありついた。……いや、幸運と一概に言い切るにはやや抵抗があるのだが。

 

「おや、ミニクロロ発見♦」

 

 船を降りてから、バッタリ、という言葉ぴったりのシチュエーションで出逢った奇術師は、相変わらずあの青い脳ミソぐらい理解できない奇妙な格好をしていた。彼がミニクロロと称したのは、シロノの今日の格好が通称“団長モデル”であるからだろう。

 クロロ達と出逢って初めて服を買ってもらって以来、シロノは常に団員の誰かとお揃い……のような恰好をする事が常となっていた。

 そんなわけでシロノの持っている服やバッグは既にすっかりマチブランド一辺倒と化しているわけだが、これにはマチの趣味と暇つぶしの意味も多いに含まれている。同じようなデザインでも、サイズが違うと少しずつ違っていたりして芸が細かい。盗賊を廃業しても立派にこの道でカリスマになれると確信できる腕だった。

 黒づくめのクロロと違って色は白、上着はロングコートではなくてウエストより短いジャケットだが、同じくレザーでファーの飾りと大きなフードがついている。靴はやはり白だがクロロの履いているものと同じくベルトが巻き付きネジのような鋲がついたデザインだし、被っている濃いグレーのニットの帽子にも、マチが銀で刺繍した逆十字がしっかりと輝いていた。

 十中八九激しい運動をするだろうから、“フィンクスモデル”、フィンクス以外に言わせるとただのジャージ、で来たほうがいいかと思ったのだが、気合を入れる意味で今回は“団長モデル”を選んだ。

 クロロの格好をしていると、クロロに見張られている、──間違っても“見守られている”ではない──気がして背筋が伸びる。主に震えによって。

 

「今度僕の格好もしてみてよ♣」

「ヒーちゃんの格好は何をどうやっても着れたもんじゃないってマチ姉が言ってたよ」

「酷いなァ、気に入ってるのに♥」

 ところで君はひとりでこんな所で何をしているんだい、と問うてきたヒソカに「ハンター試験を受けにいく」と正直に答えると、彼もそうだという答えが帰ってきた。

「キミも試験を受けるとは、知らなかったな♦」

「え? ヒーちゃんも受けるの?」

「うん♥」

 シロノがハンター試験を受ける事はシャルナークがメールを回したはずだったのだが、ヒソカには届いていなかったようだ。シロノも薄々思っていたが、彼は団員に結構嫌われている。

 

「ヒーちゃんはナビゲーター見つけた?」

「僕は前に参加したから、試験会場ならもう知ってるよ、特典でね。一緒に行こうか♦」

「えー」

 シロノは迷った。かなり有り難い申し出だが、「自分の力で」という言いつけには逆らっているような気がする。しかし迷うシロノに、ヒソカは言った。

「僕をナビゲーターだと思えばいい♥」

 その言葉に納得──することにしたシロノは、ヒソカの差し出した手を取った。

 

 

 

「ステーキ定食、弱火でじっくり♦」

 ヒソカと手を繋いでやってきた定食屋でそう注文すると、店主の親父の表情がピクリと動いた。

 ステーキを弱火でじっくりなんて焼き方で焼いてしまったら、肉が固くなって美味しくない、と、毎日クロロの食事を作っているシロノは知っていた。だから女性の店員に奥の部屋に案内されながら「折角肉が食べられるのになあ、レアが好きなんだけどな」と残念そうにぼそりと呟いたのであるが、そんな小さな呟きを店員は聞いていてくれたのか、律儀に出てきたステーキ定食は絶妙なレアの焼き加減で、シロノは大変満足した。

 

「おいしー」

 ぐんぐん下に降りて行くエレベーターの中でぱくぱく肉を食べているシロノを、向かいに座ったヒソカは、ピエロメイクの笑みのまま眺めた。

「ヒーちゃん食べないの?」

「食べていいよ♥」

「ありがとう!」

 結構なボリュームのあるステーキ二人前をぱくぱく平らげる子供に、ヒソカは「よく食べるねえ♦」と、常時浮かべているピエロ的な微笑を浮かべながら言った。

 数年前、ヒソカが旅団に入ったすぐの頃にヒソカが尋ねて来て偶然一緒に留守番をしたことがあるのだが、それ以来シロノとヒソカがこうして顔を合わせて長く一緒にいるのは、かなり久々の事だった。シロノは旅団メンバーではあるが『子蜘蛛』と呼ばれる所謂補欠扱いの団員だし、ヒソカはといえば集合にほとんど乗って来ない。

 ヒソカはあのクロロが親代わりになって育てている子供に今まで興味がなかったわけではないが、たまたま機会がなかったのだ。

 

「ねえねえ、ヒーちゃんってヒト食べるんだよね」

「……誰がそんなこと言ったんだい♣」

 突然わけのわからない事を尋ねて来たシロノに、ヒソカはやや呆れたような声を返した。

「え、だって、人の事見て美味しそうとか言うじゃない。そんで皆に「ヒーちゃんて人食べるの?」って聞いたら「あーそうそう」って言われたから」

「ああ……」

 多分、本当の意味を説明するのが嫌で適当な返事をしたのだろう団員たちを思い浮かべ、ヒソカはクックッと面白そうな笑みを浮かべた。ここにマチあたりが居たら、あからさまに嫌そうな顔をしたに違いない。

 

「そういう意味じゃないんだけどね♥」

「そうなの? ……なぁんだ」

 そう言うと、シロノはややガッカリしたような表情を一瞬浮かべた。それに興味を持ったヒソカは、ゆっくりと口の端を吊り上げた。

「……ボクが人間を食べるとしたら、何を聞きたかったんだい♠」

「んー」

 シロノは水を一口飲んでから、虚空を見つめた。それは、人間には見えない何かを見る猫にも似ていた。

 

「……ヒーちゃんが美味しそうっていう人がね」

「うん♥」

「あたしもわかるの。あの人美味しそうだなあって」

 

 ヒソカは、目を見開いた。しかしシロノは相変わらずどこを見ているのかわからない目をしていて、ヒソカのことは眼中にない。

 

「どんな味がするんだろう」

 

 シロノの目は何か熱に浮かされたような、うっとりしているような潤みがあった。そして、そんな目をしたシロノの小さな唇の中に血の滴る真っ赤な切り口のステーキが放り込まれて咀嚼される様を見て、ヒソカは思わず、……僅かではあるが、ぞくりとするものを覚えた。

 

「……ヒーちゃん、なんで殺気飛ばしてるの?」

「ああゴメンゴメン、キミの話が面白くてね♥」

 そして三十分も経った頃、地下百階の表示とともに、エレベーターが止まった。

 

 

 






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