【子蜘蛛シリーズ2】Deadly dinner   作:餡子郎

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No.020/Visitor from the another world.

 

 

 

 鎖で拘束されて上からぶら下げられたキルアは、拷問室の石床をぼんやりと延々見つめていた。ミルキによって電流を流され放題流された身体はびりびりするが、電流はキルアに最も良く馴染んだ刺激だ。まだ拷問を受けてさほど経っていないので辛くない刺激から与えられているから、というのもあるが、さほど辛さは感じない。

 しかしそんな気持ちを差し引いても、次に鞭打ちが来ようが焼鏝が来ようが、キルアはもう、いつも以上にどうでも良かった。

 あまりにキルアが無反応なので、むしろこっちが疲れた、と、ミルキは特注の高電圧スタンガンを壁に叩き付け、続きは明日だとばかりに自室に引き蘢ってしまった。今頃菓子でも食べながら、ネットの海に沈んでいるのだろう。

 

 まるで温度のない目で、キルアは微動だにしない。拷問を受け続けて何日経っているのかは既に数えていないが、一睡もしていないどころか、今は瞬きすらしていない。一瞬でも目を瞑ってしまえば、胸に穴の空いた小さな身体や、皆が驚愕の目で自分を見るあの光景がまざまざと蘇ってきてしまうからだった。

 いっそのこと夢も見ないほど完璧に気絶したい、とキルアは思ったが、ミルキが行なう程度の拷問、しかも電流によるものではそうそう気絶も出来はしない。

 あのブタ野郎、こんなときでも役に立ちゃしねえ、とキルアが頭の隅で悪態をついたそのとき、対面する壁に取り付けられた電話が鳴った。

 

「……あ…………?」

 一応外線としても使えるが、あれは主に使用人からの連絡で使われる内線電話だ。しかしミルキがここに居ないことは、使用人たちのネットワークによって誰もがもう知っているだろう。なのに、壁の電話は延々とコール音を鳴らし続けている。この家ではありえないそれにキルアがもう一度眉を顰めたそのとき、ブツッと呼び出し音が途切れるとともに、ピー、と電子音が響いた。

 そうなったことが一度もないので知らなかったが、ここの電話は留守番電話に切り替わる設定になっているらしい、とキルアが知ったそのとき、電話のスピーカーから声がした。

 

《もしもし、キルア? ……いないのー?》

 

 ぎょっ、とキルアは目を見開いた。その声には覚えがある。

 

《シルバおじさんからこっちかければ直通って聞いたんだけどなー。寝てる?》

 

 ──この声は、

 

《シロノだけど》

 

 その名を、しかも本人としか思えない声で言われ、キルアは拷問でもたてたことがない鳥肌を全身に立て、毛穴の全てから汗が吹き出る感触を味わった。

 

《今パドキアにいるんだー。今からそっち行くから。また電話するね》

 

 ──ガチャッ、『メッセージヲオ預カリシマシタ』、ピー、ツーツーツー。

 一連の機械音のあと、真っ青になったキルアは、呆然と電話機を見つめていた。

 

 

 

《もしもーし、キルアー?》

 

《シロノだよ。今門入った。なんか三番目の門まで開いたー》

 

《あたしだよ。今執事室にいるの》

 

《キルアー、寝てる? 今応接室ー》

 

《多分もうすぐそっち行けるよ》

 

《待っててねー》

 

 

 

 

 

 

 最初の電話から後、ほとんどきっちり一定間隔でその電話がかかって来る度に、キルアは真っ青になって冷や汗を流していた。心拍数は今や心臓が破裂しそうなほど上昇し、身体はブルブルと震えている。

 そしてそのままキルアは相変わらず一睡もできず、しかし一定間隔にかかってきていたコール音が鳴らなくなったことに非常に安堵していた、その時だった。

 

「おいキル! ヘンなガキがお前に会いに来てるぞ!」

 

 ミルキのいらいらした怒鳴り声とともに、鉄扉が勢いよく開け放たれた。

「──何だ? 半日放っとかれて報えてきたか」

 ひどい顔色のキルアを見てどう解釈したのか、ミルキはにやにやと笑ってそう言った。

 

「あ、キルア、久しぶり」

 

 ミルキの言葉など、キルアはちっとも耳に入ってはいなかった。その視線は、元気? と能天気に手を挙げて挨拶して来る人物にまっすぐに向けられている。キルアはますます青くなった。ハンター試験の時にイルミと対峙した時と、どちらが心拍数が高いだろうか。

「あー、そんな格好じゃ電話取れないよね。……どしたの、真っ青だよ。そんなにこいつの拷問辛いの?」

「はっ、当たり前だろ……オイお前今俺のこと“コイツ”つったろコラァ!」

「あたしも帰ったらパパからお仕置きだよー。やんなっちゃうよね」

 怒鳴ったミルキを、シロノは無視した。体型からして血圧の高そうなミルキは更に青筋を増やしたが、胸ポケットの中の携帯がピルル、と持ち主に似合わない可愛らしい音を立てたので、渋々と黙った。

「なに? あ、ママ? うん今拷問室だけど……うん」

 ミルキは何やら短くやり取りをすると、ピッとボタンを押して通話を切った。そして二人の銀髪少年少女をぎろりと睨む。

 

「キル! このガキが帰ったらまた仕置き開始だからな! ……お前もさっさと出てけよ!」

 ヒステリックにそう叫ぶと、ミルキは全身の肉を揺らしてドスドスと足音荒く歩き、バンと鉄扉を閉めて出て行った。シロノはその後ろ姿にベッと舌を出す。

「なにあいつ。ほんとにあんなんで暗殺とかできんの?」

「……おまえ、……ほんとに、シロノ?」

 真っ青になっていたキルアは、あまりにも普通過ぎる目の前の少女の姿に、先程までパンパンに張りつめさせていた恐怖の何割かを、“呆然とする”というものに変えて声を発した。シロノはきゅっとキルアに視線を向ける。

「そうだよ」

「でも、おまえ、……オレが、」

「うん」

 シロノは、じっとキルアを見ている。

「あたしは生きてるよ、キルア」

 キルアもまた、シロノをじっと見つめている。信じられないという戸惑いでいっぱいの視線に、シロノは苦笑した。

 

「まあ、死んだのはホントだからね。びっくりするよね」

「なん、なんで」

「んー……なんていうか」

 そういう家の子なんだって、とシロノは他人事のように、しかもぞんざいな説明を返す。するとキルアが案の定、わけがわからないという風に表情を歪めた。

「うーんと、あ、クラピカ。あの人ほら、クルタ族って言ってたでしょ。そんで目が赤くなるって」

「……ああ」

「そういうのとおんなじ。一回死んでも生き返るんだって」

「そんな」

 そう説明されても、信じられない、とキルアはただただ驚愕に瞬きひとつできないでいた。シロノもそれはそうだろうなと思い、もう一度苦笑した。

 

「うん、でも、ホントなんだよ」

「……ホントに、生きて」

「うん」

「ほんとに、」

「生きてるよ」

 シロノがはっきりそう言うと、キルアは傍目から見てもわかるほどぶるりと体を震わせてからゆっくりと俯いた。

「……ンだよ」

「へ?」

「なんっ……だよあの電話ァ! メリーさんかお前は!?」

 かの有名な怪談話を例にとり、キルアは怒鳴った。

 

「えー? 普通に報告の電話じゃん」

「てめっ、死んだと思ってた人間から電話かかって来たらビビるに決まってんだろーが!」

「ビビったの?」

「……ビビってねー!」

 いやビビったって言ったじゃん自分で、というシロノの突っ込みに、キルアはきまり悪げに、さっと目を逸らした。しかしそのあと小さく、「よかった」、と、これまた震えた、とても小さな声で呟いた。

 

「……ごめん」

「ん?」

「だから……、ごめん。……シロノ、オレ」

「あ、うん。でもあたしが避けられなかったのも悪いし」

 あっさりとそう言うシロノに、キルアは顔を上げた。また困惑している。

「ってお前……」

「ちょっと別の事に気ィとられてさ、避け損なっちゃった」

「……あの瞬間に他に気取られるってどんなだよ」

「あはは」

 へらりと笑って頭を掻いたシロノに、キルアは会ってから初めて表情を和らげた。といってもそれは、心底呆れたように大きなため息をついた、というものであったが。

「あたしも悪いことしたなと思ってさ、謝ろうと思って来たんだ。キルア気にしてたんでしょ? あたしのこと殺したの」

「……なんで」

 複雑な表情でキルアが尋ねると、シロノはくりんと首を傾げて、少し笑った。

「だって、キルアはヒーちゃんとかと違うもん」

 言ったでしょ、というシロノの言葉に、キルアは目を見開いた。

「ヒーちゃんだったら、まあ、最高でも一晩寝たら忘れるんじゃないかな多分」

「でも、オレは」

「キルアは気にしてたんでしょ? もう二週間ぐらい経つけど」

 聞かれて、キルアはぐっと息を詰まらせて、胸に込み上げる何かに押されるようにして頷いた。

「ほらね」

 

 ──キルアとヒーちゃんは、全然同類じゃないもん。

 

 二度目に向けられたその台詞は、実にあっけらかんとした笑顔で発された。キルアはその言葉を噛み締めて、もう一度俯く。しかしそれは絶望や空虚や後悔ではない。それはどこか照れくさいような、熱いような、──込み上げる嬉しさを堪えるためのものだった。

 

「……サンキュ」

「ん? うん」

 

 キルアの礼に、シロノはよく分からないまま頷く。そしてキルアもまた、そんなシロノのリアクションに、相変わらずだなという意味で苦笑いを返した。

 

 

 

「……にしても、なんでお前フツーにうちに入って来れてんの?」

 長い沈黙の後、いくらか調子を取り戻したらしいキルアは、もう一つの疑問を口にする。そしてシロノがシルバと直接繋がりを持っているということを聞くと、今度は「はああ!? マジで!?」と大声を上げて驚愕した。

 

「まあねー。あ、あとお嫁に来ないかって誘われてんの、あたし」

「ブッ」

 キルアが吹き出した。あんなに青かった顔は、気のせいかやや赤い。

 もう24になる長男のイルミの結婚相手をどうしようかと母親が躍起になっているのは知っているが、まさか12の自分にもそういう配慮がされていること、そして自分よりも歳下だというこの少女がその候補に挙がっているとは。

「……マジかよ」

「マジ、マジ。あーでもあのデブとだったら死んでもやだ」

 うげえ、と表情を作るシロノに、「そりゃそうだろうな」、とキルアは納得して深く頷いた。その後「キルアもあんなお兄ちゃんで大変だね」というシロノの発言におおいいにキルアが食いついたことから話が弾み、ミルキの悪口大会はかなりの盛り上がりを見せた。最大のヒットはシロノがぼそりと言った「なんか油の回った揚げ物みたいなにおいがする」という発言で、キルアは鎖をガチャガチャいわせながら、涙が出るほど大笑いしていた。

 

「あ、時間だ」

 

 ピコン、とシロノのポケットから電子音がする。

「……行くのか?」

「うん。お迎え来るんだ。お仕置きから逃げないようにってさ。あーあ」

「そっか」

「ま、お互い頑張ろうね」

「おう」

 にか、と同じような銀髪を持つ少年少女は笑いあう。しかしキルアはふと、言った。

 

「なあ、シロノ」

「なに?」

「……オレ、オレは、……ここから、出たいんだ」

 それは本当に絞り出すような声で、シロノは首を傾げたまま、黙って聞いていた。

「お前、……俺の気持ちもわかるけど、兄貴の気持ちもわかる、って」

 極限状態だっただろうに、キルアはシロノの声を聞いていたらしい。シロノは「うん」と頷くと、独特の、のんびりと、あっけらかんとした口調で話し出す。

 

「イルミちゃんてさあ、すごいブラコンだよね」

「……あ?」

「すっごいキルアのこと好きじゃん」

「キモいこと言うな」

 キルアが複雑極まる顔をしていたが、シロノは確信を持っていた。イルミはロリコンでもネクロフィリアでもないかもしれないが、間違いなく重度のブラコンだ、と。

「だってそうでしょ。正直ちょっと退くレベルっていうか、“愛が重い”ってああいうのなんだなって思ったよあたし」

 キルアは、どう返していいかわからない。

「イルミちゃんほどヘビーじゃないけど、あたしもあたしの家族が好きだよ。だから家出しようとは思わないし、家族に出て行って欲しくないっていうイルミちゃんの気持ちはわかんなくもないんだ。でもキルアはさあ、うーんと、イルミちゃんがキルアを好きなほどイルミちゃんや家族のこと好きじゃないんだよね」

「あー……まあ、そうだな」

 こうもまっすぐ簡単な言葉で答えを導かれると、何だかとてもあっけない。キルアはそう思いつつも、しかし心のどこかがポンと軽くなった爽快感も覚えていた。

「じゃあしょうがないでしょ。好きにしたら? 家族の方が強ければ出られないだろうし、キルアが上手くやれば出られるだろうし、そんだけじゃん。出たかったら出られるように頑張れば?」

 

 それはとてもあっけなく、簡単な答えだった。

 

 自分はシロノ曰く「重すぎる愛」に辟易して家出を決行し、しかし家族の方が一枚上手だったために家に戻された。キルアはしきりに「普通に」と思ってきたが、こう言ってみると、自分のやったことは普通の家の少年がやるようなこととさほど変わりないのではないか、という気がして来る。ただその家が暗殺一家という、極めて特殊な稼業であるというだけで。

 

「……でもオレ、多分ゴンに幻滅されたと思うし」

「なんで?」

「なんでってお前、……おまえのことだろ」

「あー」

 相変わらず他人事のようなシロノに、キルアは調子を崩される。

「だいじょぶじゃない?」

「おま、何を根拠に! ゴンは……」

「だからさあ、言ってるじゃん、キルアはヒーちゃんみたいじゃないって」

 ゴンだってそれはわかってると思うし、と言うシロノに、キルアは押し黙った。

 

「まあそれはイルミちゃんもだけどね」

「……え?」

 かなり必死に否定してたっぽいし、というシロノの言葉に、キルアは今度こそ言葉を失った。

 

 人形のような顔をして淡々と人を殺すあの兄が、ヒソカ側ではない。それはキルアにとって思いもかけない、考えたこともないことだった。

 

 しかしシロノはといえば、暗殺者ほど殺しに理性を使う職業もないだろう、と思っている。ヒソカは顕著であるが、盗賊であるクロロ達もまた、感情によって、衝動によって人を殺す。欲しいもののために殺す。殺したいから殺す。

 しかし、仕事で人を殺す暗殺者はそうではない。四年前にシルバの仕事に付き合った時、彼は驚くほど手早く標的を殺した。それは戦いではなく、また殺しというよりも作業という言葉がしっくり来るようなものだった、とシロノは記憶している。いかに手際よく終わらせるか、それのみを狙った手腕はプロフェッショナルという言葉が何よりも似合っていて、蜘蛛たちの行なう殺ししか知らないシロノには、新鮮という意味で酷くショッキングで、ついでに言えばその姿を格好良い、とも間違いなく感じた。

 

「んー、だからね……。ごめん、あたしも上手く説明できないや」

「……なんだよ……結局混乱しただけじゃねーか」

「ゴメンゴメン」

 その時、ピコンピコン、と先程の音よりもひとつ多く音が鳴った。設定した時間に近付いている、と知らせるそのアラームに、シロノは今度こそ行かなければとキルアに向き直る。

 

「じゃあね、キルア」

「シロノ」

「ん?」

「……また、会えるか?」

「会えるんじゃない?」

 シロノはきょとんとした後、なんでもないように言った。

「なんてったって嫁候補だし? そーゆー“タイギメイブン”があればいいんでしょ?」

「……あー」

 そういやそうだった、とキルアは微妙な顔で返事をする。おまけにそれがシルバのご推薦であるならば、シロノとは比較的容易に会えるだろう。実際、こうしてここに居るのが何よりの証拠だ。

「まあ、あたし婿養子派だからお嫁に来る気はないけど」

「……あっそ」

「でもさー、イルミちゃんかキルアと結婚するっていうのはちょっとイイよね」

「な」

 突然さらりと言ったシロノに、キルアは思わず赤くなる。しかし何やら考え込みながら独り言に近い様子で発言しているシロノは、彼の様子を見ることなく続けた。

「だって美味しいもん」

「……なんだよお前、見かけによらず玉の輿狙いかよ」

 けっとキルアは吐き捨てるように言ったが、その顔はまだ少し赤い。

 

「いやそういう意味じゃなくて、イルミちゃんはもちろんキルアもかなり美味しそうだしさあ、……おなか空いてたらあたしここ入るなり噛み付いてたかもってぐらいだし……結婚したらソレ毎日好きなだけ食べられるってことで……」

「はあ? どーゆー……ってオイ、なんでヨダレ垂らしてんだよ。拭けよ」

「……はっ!」

 思案に耽る最中に漏れたヨダレを、シロノは慌てて口の端をやはりジャージの袖で拭った。キルアは訝しげな表情をしながら、照れを忘れて首を傾げている。

 

「……意味わかんねーんだけど」

「だろうね」

 シロノは苦笑した。

 

 こうしてアンデッドとして蘇ってからというもの、シロノが他人を見る目は、本当に「美味しいか美味しくないか」、それのみに尽きる。だがそれは以前から喉に詰まったように感じていた感覚がストンと落ちて腹に収まったようで、とてもスッキリとした気分でもあった。

 だがこんな感覚、きっと誰にもわかりはしないだろう。──ただ一人を除いて。

 

「……わかんないんなら、やっぱりキルアはヒーちゃんとおんなじじゃないよ」

 

 シロノはそう言って笑うと、今度こそドアに向かう。

 その後ろ姿に、キルアはふと呟くようにして、二度目の問いを投げかけた。

「……お前は、わかんのかよ」

 正直な所、聞こえなくてもいい、と思って発した問いだった。

 しかしシロノは、するりと振り向く。その表情は、悪戯を企むように楽しげに笑っていた。

 

「わかるよ」

 

 今度は、断言だった。

 キルアは、その笑みに戸惑う。その笑顔がどこか憂いでも帯びていたりするのならば、キルアももっと彼女にどういうことだと突っ込んで聞いてみたりしたかもしれない。

 しかしシロノの笑みには、全くもって陰りなどない。その表情はむしろ楽しそうに輝いていて、秘密の悪戯を企むようなものだった。だからキルアはどこか仲間はずれにされたような気持ちで、自分と同じ色の銀髪が鉄扉の向こうに消えていくのをただ見送っていたのであるが、ドアが閉まりかける瞬間、シロノは言った。

 

「そうそう、もしお婿に来るなら考えるよキルアー」

「はぁ!?」

「でもウチに入れば家出れるよ?」

 その言葉にキルアはハッとし、しかしすぐに思い直して首を振る。そしてその間に、「じゃあねー、ばいばーい」という間の抜けた挨拶とともに、鉄の扉がバタンと閉まった。

 

「……バッカじゃねえの」

 

 慌ただしい別れにまともな言葉を返せなかったキルアは、まだ少しもやもやとしたものを胸に抱えながら、ぼそりとそう呟いた。

 

 

 


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