【子蜘蛛シリーズ2】Deadly dinner   作:餡子郎
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No.023/昼下がりの混沌コーヒーブレイク

 

 

「ぬっすっもー、ぬっすっもー」

「りょだっんはー げーんきィー」

「何だその歌……」

 

 寝不足、しかしあのまま寝ているのも何か気分ではなかったクロロは、ホームの大広間で奇妙な替え歌を合唱しているシロノとシズクを見て、げんなりとそう呟いた。

 テーブルに着いている彼女らの前にはクロロがシロノに課した読書感想文の原稿用紙があるが、あの様子だと、おそらく大して進んでいまい。

 

「何故子供は替え歌が好きなんだ……お前も一緒になって歌うな、シズク」

「え、これ替え歌だったの? 旅団のテーマソングかと思ってた」

「そんなわけあるか」

 すっとぼけた事を抜かすシズクとクロロが問答していると、ノートパソコンを操作していたシャルナークが、にやにやと言った。

「いいじゃんテーマソング。今度の仕事の時に登場とともにバックに流す?」

「パパのもあるよ!」

「……は?」

 元気に、そして何故か得意げに手を上げた子供を、クロロはぽかんとした目で見た。しかし寝不足でややぼんやりしている彼の返事を待つ事なく、シロノは「ふーんー、ふーふふーん」と前奏をハミングし始める。

「りょだんのクッロロッ、クッローロッ」

「……おい」

「ゴーミーのーなーかにー、むかしからすんでるー、痛ァ!」

 ゴッ! と短く鋭い拳骨を落とされたシロノは、激痛に頭を抱えて踞った。しかし、背後ではシャルナークが椅子から転げ落ちる勢いで腹を抱えて大笑いしている。

「団長のテーマはソロであるんだ。良かったね団長」

 シズクは常に真顔である。

「いいじゃん団長、いいスタジオ借りてレコーディングしようよ、バックに流してあげるから。ジョー=ヒサイシの名曲とともに登場する団長なら俺きっと一生ついていける!」

「うるさい。むしろ着いてくるな」

「せめて着メロ……!」

 涙を流してヒィヒィ言っているシャルナークを、クロロは睨んだ。そして未だ頭を抱えてもんどりうっている子供を見下ろすと、苦々しい表情を浮かべた。

 

「……もし俺の血が入ってるなら、こんなにアホじゃないはずだ」

「え? 何?」

「何でもない」

 クロロは重々しいため息をつくと、ソファに深く腰掛けた。

 

「どうでもいいが、変な替え歌作ってる暇があるなら課題をとっととやったらどうなんだ」

「うっ」

 ゾルディックからホームに帰ってきてここ一週間、シロノはひたすら、山積みになった『世界名作全集』と格闘していた。この一冊一冊分厚い本を読むだけでもうんざりなのに、感想文はクロロによって添削され、内容をきちんと理解出来ていないとみるとやり直しになる。既に何枚不合格になっているのか、シロノはもう数えたくもない。

 何か書き付けては消した跡がたくさん見られる原稿用紙を苦々しく見つめる子供に、シャルナークが苦笑する。

 

「シロは相変わらず本が嫌いだね~」

「だってつまんないんだもん……」

「そお? しょうがないな。俺も手伝ってあげる」

「ホント!? わあいシャル兄ありがとー!」

 シロノはぱっと顔を上げ、きらきら目を輝かせてシャルナークを見た。純粋に尊敬の眼差しで見られるのは、シャルナークとてまんざらではない。彼はにっこりと笑顔になると、うんと頷いた。

「シャル、甘やかすんじゃない」

 クロロが顔を顰めた。

「そうやってお前らが何かと甘やかすから、こいつはいつまで経ってもいまいちバカのままなんだ」

「だって団長。シロ、普段全然本とか読まないじゃん」

「そうだよパパ。あたしには難しいよ」

「自分のバカさ加減を肯定するな情けない」

 五十巻バージョンじゃなく二十巻バージョンにしてやっただけありがたいと思え、と見下ろして来るクロロに、子供は口元をひん曲げて、苦々しげな顔をした。

 

「……何さ、爪切りも探せないくせに」

「何だ反抗期か? 俺に反抗期なんて甘っちょろいものが通用すると思うなよ、ケンカを売ったと見なして高く買うからな」

「何を大人げないことを堂々と宣言してるの、団長」

 そう言ったのは、呆れきった口調がもはや定着しつつあるパクノダ、そして荷物持ちに着いていったコルトピである。食料品を買いに行ってくると言って一時間半ほど前に出て行ったのだが、帰ってきたらしい。

「まったくもう、どっちが子供だかわかりゃしない」

「俺はいつまでも子供のように純粋な心を忘れない大人なんだ」

「そしてそのまま暗黒面(ダークサイド)に堕ちてるんだよね」

 シャルナークが笑顔で言った。余計始末に負えない、という意味である。

 

 

 

「で、どうだったんだ、シズクのオーラは」

「んー……、飲みやすい方だけど、でもやっぱりあたしにはちょっときつかった」

 パクノダがお土産に買ってきたケーキを皆で食べつつ、シロノは口の周りに生クリームをつけながら答えた。

「ノブ兄とかフィンクスのオーラよりは大丈夫。シャル兄のが一番飲みやすかった、かなあ……いっぱい飲めないけど」

「操作系同士だからかな~。でもこればっかりはシロが感覚で掴むしかないからねえ」

「うう」

 念能力を考えるにしても、とりあえずオーラが充分でなければ話にならないとして、シロノは帰ってきてから、団員たちのオーラを順繰りに貰って回っていた。しかし誰も彼もシロノには強すぎるオーラばかりで、飲み過ぎて二日酔いになったりもしていた。

 そしてそんな調子で元々難航している読書感想文が上手く進むわけもなく、内容を理解出来ていない上にへべれけ状態で書かれた感想文は、既に人語にすらなっていない事すらあった。

 

「コルトピ、これ食べたい。コピーしてー」

「うん」

 ケーキをぺろりと平らげたシロノが指差した別のケーキにコルトピが左手を翳すと、ボッ! と音がして、右手が翳された空の皿の上に、同じケーキが出現した。シロノは目を輝かせると、コピーの方を「ありがとー!」と嬉々として受け取り、フォークを突き刺す。

 普通の人間が食べれば栄養にも何もならないコピーだが、オーラを食べて自分のものに出来るシロノにとって、コルトピが作ったコピーは本体通りに美味しい上に、コルトピが具現化したものなので、オーラとして栄養にもなる。最近ではコルトピがリクエストした料理やお菓子をシロノが作り、本体をコルトピが、コピーをシロノが食べる、という取引が成り立っている。

「結局、旅団の中ではコルトピの“コピー”しか食べられなかったわけだ」

「やはり子供ということか……。酒の味がわからんとは」

 コーヒー牛乳と苺のショートケーキを食べている子供を横目にそうぼやきつつ、チーズケーキを食べ終わったクロロは、ブラックコーヒーを口に運んだ。

 

 

 

「……何暢気にケーキ食べてるね、オマエ……」

「どうした、フェイタン」

 和やかなコーヒーブレイクの最中、不機嫌オーラ丸出しで現れるなりシロノを睨みつけたフェイタンに、クロロが尋ねた。

 

「オマエ、ハンター試験で念能力者でもない奴に負けたらしいね」

「ひっ」

 ぼそりとそう言われて、シロノは青ざめ、ばつが悪そうにさっと目を逸らした。しかしそのせいで、フェイタンの殺気は更に大きくなる。

「パク姉! フェイ兄には言わないでねって言ったのに!」

「そうだったかしら。コーヒーのお代わりを煎れてくるわね」

「うわーん!」

 さらりと躱して席を立つパクノダを、シロノは恨めしげに見遣った。

 ハンゾーのことがバレているのは、帰ってきてから速攻でパクノダにホールドされたからである。外から帰って来たら手を洗う、位の習慣性で行なわれるこれのおかげで、シロノはウソをつこうにもそうそうつけない。

 そして師匠としては厳しい部類に入るフェイタンにばれたらえらいことだ、と思ったシロノは口止めをしたつもりだったが、どうやら全く守ってくれなかったらしい。

 

「……信じられない体たらくね」

「ううっ……」

 どうやら、自分が作ってやった武器を持っていきながらもハンター試験に落ちた、ということが、何気にフェイタンの琴線に触れたようだ。

「ワタシ直々に鍛え直してやるね。表出る良い」

「ぎゃ────!」

「まあまあ」

 また口の周りにクリームをつけているシロノの首根っこを掴んで引きずって行こうとするフェイタンを、シャルナークが諌める。ひっくり返りそうになっていたケーキや飲み物は、シズクとコルトピが見事にカバーしていた。

「ダメだってフェイタン、シロ、まだオーラ充分じゃないんだからさ。こんな状態で扱いたって死んじゃうよ」

「なら今からワタシのオーラ好きなだけくれてやるね。口開けろ」

「いやだ! フェイ兄のオーラなんか飲んだら死ぬ!」

「どういう意味ね! 殺すよ!?」

 フェイタンは青筋を浮かべたが、シロノにとってフェイタンのオーラをがぶがぶ飲むなど、白酒(パイチュウ)を一気飲みするようなものだ。急性アルコール中毒で普通に死ねる。

「なら何か、もたもたコルトピのコピー食てるの待て言うか!」

「だってしょうがないじゃん食べられないんだからっ、ぎゃー! クリームが鼻に!」

 口答えされた事にイラついたのか、フェイタンに無理矢理口をこじ開けられてケーキをぶち込まれ、鼻にクリームが入ったシロノは半泣きで叫んだ。そのおかげで口の周りどころか、既に顔中クリームだらけでひどいことになっている。その無惨な有様にため息をついたパクノダが、煎れたばかりのコーヒーをコルトピに預けて、顔を拭くものを取りに引き返して行った。

 そしてシズクは黙々とケーキを食べており、シャルナークはまた腹を抱えてげらげら笑い転げている。

 

「……わかったから落ち着け、お前たち」

 

 殺気とクリームが飛び交う、甘いバニラの匂いの中の絶叫と罵りと半笑いの供宴。

 混沌と化したコーヒーブレイクにため息をついたクロロは、とりあえず場を諌め、パクノダがシロノの顔を綺麗に拭いたあと、全員を席に着かせた。

 

「まあ、フェイタンの言う通り、このままだと時間がかかりすぎてしょうがないのも確かなんだがな……」

 折角アンデッドとして覚醒したというのに、このままでは念の修行が始められない。慣れるまで飲み続けるという手も考えないでもないが、あのネテロのオーラを飲んだときは急性アルコール中毒よろしくぶっ倒れたというし、あまり良いやり方ではなさそうだ。

「そういえばシロノ、あの美食ハンターたちのオーラはどうだったんだ?」

「メンチさんたちはお酒って感じじゃなかったよ。メチャメチャおなか空いてたから味はよく覚えてないけど……あー……あれはすごくおいしかった……」

「シロ、よだれよだれ」

「はっ!」

 何かを思い返していたシロノは、緩んだ口の端から垂れたものを袖口で拭こうとして、しかしすかさずパクノダにハンカチを口に押し当てられた。

「そうか、自分のレベルに近いオーラなら相応に美味と思える上にきちんと自分のオーラとして取り込めるというわけか」

「……だと思う。あと、なんか……なんとなくだけど、今オーラ少ないから、そこにキツいオーラ飲むと余計になんだか……」

「へえ。あれかな、空きっ腹に飲むと悪酔いするあれかな」

「そうなの?」

「うん、ある程度食べてからの方が酔いにくいね」

 シャルナークの言葉を、酒を嗜まない子供は「へえ~」と興味深そうに聞いている。

 そしてクロロは何やら考え込んだ後、シロノに言った。

 

「──なら、腹拵えをして来い」

 

 

 

 






トトロネタ引っ張りすぎですみません。

(1)『白酒(パイチュウ)』:癖が強く、数十種類の香り成分を含むため独特の芳香を持つ中国蒸留酒。慣れない者にはキツイ匂いだが、愛好者は「薫り高い」と評する。高い度数のものは六十度くらい。色は透明。
 主原料から高粱酒(カオリャンチュウ)、中国東北部では白乾児(パイカール)ともいう。





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