【子蜘蛛シリーズ2】Deadly dinner   作:餡子郎

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No.028/Behave!

 

 

「君 次第だ」

 

 ここに0時までに戻って来れるか、というキルアの問いに、眼鏡の青年はそう答えた。そしてゴンとキルアは青年の後について、ヒソカに背を向け、エレベーターで下に降りてゆく。

 

「さて……♣」

 青い果実たちがいなくなってから、ヒソカは広げていた“円”を収め、目線を脇に動かした。

「で、キミはそこで何やってるんだい、シロノ♦」

「うううううううううう」

 部屋の端で踞っていた、いや倒れこんでいたシロノは、呻きながら顔を上げ、ヒソカを睨んだ。限りなく薄い灰色の目は、涙で潤んでいる。

「エレベーターで上がってくるなり“絶”して倒れ込むから、何事かと思ったよ♣」

「だってエレベーター降りたらヒーちゃんのオーラが凄かったんだもん……!」

 涙声である。

「どういう意味かな?」

「オーラは味もあるし、匂いもあるのっ! ただでさえ変化系は香りがキツいのに……!」

「へえ……?」

 鼻が利き過ぎる犬に香水を嗅がせるようなものだろうか、とヒソカは首をひねる。

「で、“絶”かい?」

「……あたしは目での“凝”より鼻にしといたほうがよくわかるから、こないだからやってみてるんだけど……」

 そこに不意打ちでこれはきついよ、とシロノは泣き言を言った。

 

 キルアとゴンがこちらに来ていると知ったシロノは彼らに会いに来たのだが、エレベーターが開くなり充満していたヒソカのオーラにたまらず“絶”を行なって倒れ込み、キルアとゴンはシロノに気付かないままいってしまった、というわけである。

 

「そう言われても困るんだけどねえ……。でも、変化系の実力者とすれ違っただけでそんな有様じゃ、逆に良くないんじゃない?」

「ヒーちゃんは特別なのっ! マチ姉なんかすっごいいい匂いするし、」

「へえ。ボクのオーラはそんなに匂いがきついのかい?」

「きついなんてもんじゃないよ! もーまるで、」

「……まるで?」

 そう促されて、シロノはハッと我に帰り、奇妙な半笑いを浮かべて後ずさった。首に変な汗をかいている。

「ううんなんでもない。なんでもないよーヒーちゃん」

「いやいや、どう見てもなんでもないって感じじゃないだろう♠」

「何でもないったら! あーそーだあたし何か飲み物買ってくるあとトイレ!」

「こらこら♦」

「うわあ!」

 やはり嘘が下手な子蜘蛛は、あきらかに取ってつけたような支離滅裂な用件を宣言し、素晴らしい瞬発力でどこかに駆け出そうとした。しかしヒソカがそれを逃すわけもなく、小さなその背中に素早く『伸縮自在の愛(バンジーガム)』を跳ばしてくっつける。そしてそのまま、ビヨンとゴムの性質で自分の方に引き寄せた。

 

「……で、まるで、の続きはなんだい? この間スプーンを買った時も何か言いかけてただろう?」

「細かいこと気にするの良くないよヒーちゃん」

 あくまですっとぼけようとするシロノに、ヒソカはピエロめいた笑みを浮かべたまま、細い目を更に細めた。

「っぎゃ──! やめてやめてやめてソレ近づけないでイヤ──ッ!」

「そこまで嫌がられると傷つくなア。ねえ、どんな匂いなんだい? 教えてよ♠」

 オーラを纏わせた指先を鼻先に持っていくなり、かなりの勢いで暴れ出したシロノに、ヒソカは首を傾げた。シロノは必死で彼のオーラがついた指先から顔を背けようとし、目に涙まで浮かべている。しかしガムの性質で背中とヒソカの片手がべったりくっついているので、逃れることはできない。観念したのか、シロノは叫んだ。

「だ、誰にだってどうしても食べられないものぐらいあるでしょっ! ヒーちゃんのがそうなのっ、無理なの! きらいなの! 食べられないのっ!」

「ふうん? それは残念だなあ。でも食わず嫌いは良くないよ? ほら試しに一口」

「い、ぎゃ──!」

 口に指を、いやオーラを突っ込まれそうになったシロノは、凄まじい叫び声を上げると、火事場の馬鹿力を発揮した。

 

「あ」

 

 シロノはガムがくっついた上着を脱ぎ捨てて、一目散に逃げ出した。他の時なら追いかけていたのだが、今はゴンとキルアを待たねばならない。ヒソカは仕方なく、あっという間に小さくなっていく背中を見送った。

「……気になるなア……?」

 ヒソカは首を傾げつつ、“周”で覆ったトランプを一枚、壁に投げて突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 ──そして、約二時間後。

 

 ぴくりとヒソカが反応し、そして一気に彼の“円”が広がる。しかしキルアとゴンは、彼のオーラを感じながらも、ずんずんと迷いなくヒソカのほうへ歩み寄り、そして座り込む彼の目の前で止まった。

「200階クラスへようこそ♥」

 洗礼は受けずに済みそうだね、とヒソカは満足げに呟く。

「キミが天空闘技場に来た理由は想像できる♣ ここで鍛えてからボクと戦うつもりだったんだろ?」

「まさかそっちから現れるとは思わなかったよ」

 手間がはぶけた、と挑戦的に言うゴンに、ヒソカはおかしそうに、何か微笑ましいものでも見たかのように、喉を震わせて笑った。

「“纏”を覚えたくらいでいい気になるなよ♠ ──念は奥が深い♦」

 そう言って、ヒソカは指と指の間に、オーラで図形を作ってみせる。“凝”をしなくてもわかるそれは、ある程度の念能力者であれば、例えば赤子に「いないいないばあ」をするようなお遊戯レベルのものであるのだが、本当に初心者な二人の少年は、険しい顔でじっとそれを睨みつけていた。

 

「……ね~、ヒーちゃあん、もーいい~?」

「シロノ!?」

 

 やや遠い曲がり角の向こうから鼻声で顔を出しているシロノの姿に、キルアが驚愕の声を上げる。ゴンなど、驚き過ぎて口を開けたまま固まっていた。

 シロノは嗅覚を強化するオーラを殆ど引っ込めた、つまり一部のみを“絶”状態にする、“凝”の反対の行為を行なっていたらしいが、体質からしてオーラの味と匂いに敏感な身体はそれでも完全に感覚がオフにはならないのか、こうして距離を取り、袖口でぎゅっと鼻を押さえていた。

「ああ、もういいよ♦」

 ヒソカが“円”を引っ込めながらそう言ってやると、シロノはホッと息をつき、とことこと彼らの方へ寄っていった。

「あー二人とも、久しぶりー」

「キルアから聞いてたけど、ホントに生きてたんだね、シロノ……」

「うん、ちょー元気」

「……そっか! 良かった!」

 深い事を問わないまま満面の笑みで言うゴンに、シロノもまたにっこりと笑い返し、「ありがとー」と返した。しかし、にこにこと笑いあう二人に対し、キルアの表情は複雑だった。

「おい……ここに居るってことはお前も念使いってことかよ?」

「そうだよ。あ、二人も使えるようになっ……」

 彼らが荒いオーラを纏っているのを見たシロノは、ほぼ無意識に嗅覚への“凝”を行う。

 

 ──そして、そのまま言葉を失った。

 

「うわ!? ちょっ、おまえ、……ヨダレ!」

「──はっ!」

 いきなり、ダー、とかなりの勢いでヨダレを垂らしたシロノに、キルアが軽く引き、ゴンが呆気にとられた。シロノは慌てて口を拭うが、しかし、目は二人に──いや、正しくは二人のオーラに釘付けだった。

 

(うああ、美味しそうだとは思ってたけど……!)

 

 まさかここまでとは、と、シロノは溢れ出る唾液を必死で飲み込んだ。

 聞く所によると、たった今“ムリヤリ起こしてきた”らしい二人のオーラは、念使いとして最低限の纏め方しかされていない、かなり荒削りなものだった。しかしそれだけに、彼らのオーラの質がとても分かり易く感じられる。

 

「青い果実ってこういうことかあ……」

「……何ブツブツ言ってんだ?」

「ううんなんでもない……」

 ふるふると力なく首を振るシロノだったが、その目は潤み、どこかうっとりとしている。そしてそんな目でじっと見られたキルアは、引くのと動揺するのとが半々の奇妙な表情で、ほんの僅かに後退した。

「……ねーキルア、試合どうするの?」

「あ?」

 とろんとした目のまま薄く笑みを浮かべて言ったシロノに、キルアはクエスチョンマークを浮かべて聞き返した。しかし彼が何か言う前に、シロノは急いたように言う。

「あのねー、あたしそろそろ試合しなきゃいけないんだけど、キルアあたしと一戦、ぐぇ!」

「ヒソカ!?」

 シロノが言い切らないうちにその襟首をぐいと掴んで引き寄せた奇術師に、ゴンが声を上げる。

 

「……はっきり言って今のキミと戦う気は、まったくない♠」

 

 ヒソカはシロノの襟首を掴んだまま立ち上がり、そして開いた方の手の人差し指の先で、オーラのドクロマークを作りながら、ゴンに言った。

「このクラスで一度でも勝つことができたら、相手になろう♥」

 そして、猫の子を持つようにシロノをぶら下げ、踵を返して歩き出す。彼のオーラに圧倒されていたゴンだが、その後ろ姿に向かって叫んだ。

「──ヒソカ! シロノをどうするつもりだ!?」

「この子のパパとママから、ここにいる間面倒を見てくれって頼まれてるのさ♦」

 いわばボクはシロノの保護者だよ、とヒソカは言い、そのまま照明の少ない暗い廊下に消えていった。

「……ヒソカにお守り頼むような親が世界に存在するとはな……世界は広いぜ」

「うーん……」

 どこか的外れな、しかしかなり同意を覚えるキルアの台詞に、ゴンはただ、彼らが消えていった暗い廊下を見つめた。

 

 

 

「さて……、どういうつもりかな♠」

「ぶはあ!」

 

 口に貼り付けられていた『薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)』が剥がされ、シロノは思いきり息を吸い込んだ。ヒソカの左手には、シロノの閉じた口元が再現されたハンカチが摘まれている。

 

「ヒーちゃんこそどういうつもりよう」

 未だ首根っこを掴まれ、しかもヒソカの目の前にぶら下げられたシロノは、唇を尖らせてぶーたれた。しかしヒソカが、いつもの笑みを浮かべつつもどこか剣呑な雰囲気を漂わせているのにも気付いて、様子を伺うように首を縮める。

「キミ、試合にかこつけてキルアを食べよう(・・・・)としたろ?」

「う」

 ずばり言われ、シロノは短く呻いた。

「うー、だってえ、あんまり美味しそうだから~」

「……その気持ちはとってもよく分かるけどね♣」

 ヒソカはため息をついた。

 しかし、そんなリアクションをとってはいるものの、彼がこの感覚について他人と全く同じ価値観を共有したのは本当に初めてのことで、どこか楽しいような気持ちも沸き上がってきていた。それはまるで、今まで自分一人しか愛好していなかった趣味の仲間を見つけた時のような。

「でもねえ、ボクだってガマンにガマンを重ねて見守ってるんだよ。抜け駆けは許せないな♠」

「えー、でもさあ、ひとくちぐらいね、ちょっとだけ」

「ダメ♠」

 ヒソカは、頑として譲らない。むっとしたシロノは、不満そうに身じろぎした。

「なんでえー!? あたしヒーちゃんみたいに殺すの目当てじゃないもん、ちょっと食べるだけだもん!」

「よく言うよ。キミ、今までも美味しそうな選手ほど、勢い余って食い殺しちゃってるだろう? そんなガマンが利かないキミがあんな美味しそうなコをいざ目の前にしたら、がっついた挙げ句に皿まで舐めたくなるに決まってる♥」

「うっ……」

 何も反論できず、シロノは渋々押し黙った。ヒソカの言う通り、あまりに美味しそうなオーラを目の前にすると、シロノは我を忘れてしまう所がある。半分だけ、ちょっとだけ、と思っていても、いざ口にすると空になるまでうっかり食べ尽くしてしまうのだ。

「……この間から思ってたけど、言っていいかな」

「な、何?」

 やけにゆっくりした口調で切り出したヒソカに、シロノは戦きながら返事をした。

 

「──キミは、ものすごく行儀が悪い♠」

 

 ずばり、とヒソカは断言した。

「がっつくし、食い散らかすし、口に入れたまま喋るし、音は立てまくるし、食べかすを袖で拭くし、……とにかく食べ方が汚い♠ 見苦しいったらないよ、親の顔が見たいね」

「や、見てるでしょ散々」

 シロノは思わず突っ込んだが、この間から思っていた──つまり前々から言ってやりたかった、というヒソカは、構わず続けた。

「仮にも女の子なんだから、もうちょっとどうにかならないのかい?」

「……ヒーちゃん、パク姉みたいなこと言うね」

「黙る♥」

「ひゃい」

 首根っこを掴んでいるのとは反対の手でほっぺたを両方からガッと掴まれたシロノは、妙な迫力を押し出しているヒソカを前に、アヒルのようになった口で不明瞭な返事をした。

 

「これはちょっとどうにかすべきだねえ……」

 ほっぺたが不細工に潰れた子供の顔をまじまじと見ながら、ヒソカは、うーん、と思案するように首を傾げた。シロノは暫くおとなしくしていたが、やがてじたばたと暴れ、無理矢理顔を逸らして、強制的なアヒル口から逃れた。

「むー、別にいいもん、ウボーとかフィンクスとかは別に何にも言わないもん!」

「強化系の言うことばっかり聞いてるとバカになるよ♦」

 さらりとひどいことを言いつつ、ヒソカは今度はシロノの顎を持ち上げた。

「うん、決定。今日からの修行は“じゃじゃ馬ならし”……いやキミの場合“奇跡の人”だね♦」

「誰が三重苦なのよう!」

 散々見た映画のうちの数タイトルを挙げる奇術師に、子供は頬を膨らませた。

 

「ヤダヤダヤダヤダ! お行儀の練習なんかしないもん、……うげぅっ」

 じたばたじたばたじたばた、と激しくイヤイヤをしながら暴れるシロノだったが、いきなり口の中に指を突っ込まれ、僅かに嘔吐きながら、いつの間にか間近に顔を近づけてきていた奇術師に、びくりと肩を跳ね上がらせた。

「……あんまりワガママばっかり言ってると、今からその食わず嫌いを矯正するよ?」

「ふぎっ、ぐえ、う──!」

 全身からゆったりとオーラを立ち上らせ始めたヒソカに、シロノは半泣きになる。口に指を突っ込まれたこの状態で“練”でもされようものなら、強制的にヒソカのオーラを食べることになってしまう。それだけはごめんだ、と、シロノは身を捩らせた。

 

「さあ、お行儀を改めるのと、食わず嫌いを治すのと、どっちがいい?」

「ほ、ほひょうひ……」

「よろしい♥」

 ヒソカはにっこりと微笑むと、冷や汗をかいて青くなっている子供の口から指を抜いた。

「うう……イヤなことはやっても意味ないとか言ってたくせに……」

「それはそれ、これはこれ♣ ……それに、ここ数日見ていてわかったけど、キミの実際の食事作法と戦い方の荒さは明らかに比例してる♦ 行儀作法を習うのは無駄じゃないはずだよ♥」

 これは、ヒソカの確信だった。食べたいだけ食べたいように、好き放題食い散らかすこの子供の食事風景は、その戦い方ともとてもよく似ている。子蜘蛛としてのスパルタ訓練は、この小さな身体に似合わない胃袋とスピードで沢山の料理を片っ端からやっつけることに長けはしたようだが、その作法はといえば、洗練されているとはとても言い難い。おそらくは旅団の強化系の面々、特にこの子供が一番懐いている巨人の影響が大きいのだろう。食べ方だろうが戦い方だろうが、子供はすぐ、好きなものの真似をするものだ。

 

「じゃ、そうと決まれば早速やろうか♦」

 

 

 

 そして、そのまま、夜中近くになった。

 シロノはひとり、天空闘技場のとあるホールに立っていた。中世風の優雅かつ豪華な内装で有名なそこは、デートスポットとしてもよく紹介される場所だ。真夜中ではあるが天井に青空が描かれたそこを、シロノは見上げた。日光の下ではまともに動けないシロノが青い空を見るのは、こんな絵でしかありえない。しかし、シロノはそんなものには何の感慨も持たず、ただつまらなそうに、リボンのついた白いエナメルの靴の踵を鳴らした。

 

「やあ、待ったかい?」

「待った」

「……そこは“今来た所”とか言う所だよ、シロノ♠」

 

 なってないなあ、とヒソカは両手を挙げて、やれやれ、といった風に首を振った。それに何やら無性にむかついたシロノは、眉を寄せて唇を尖らせる。

「ナニソレ」

「それが様式美ってものなんだよ♦ うん、その格好、似合うじゃないか♥」

 ヒソカは、にっこりと微笑んだ。

 

 シロノが着ているのは彼が手配したもので、白を基調に上品なブルーのリボンがアクセントにあしらわれた、お人形のようなドレスだった。真っ白に輝くボブカットの銀髪にも、青いリボンがカチューシャのように結んである。

 こんなフリルとレースが沢山ついた膨らんだスカートを身につけるのは、かつてシルバの仕事に着いていったとき以来で、シロノは居心地悪そうに、忙しなく足の位置をあっちこっちに変えたりしていた。

 

「ヒーちゃんはなんか、普通でヘン」

「どういう意味かな♣」

「うーん……ヒーちゃんが普通なのがヘン」

 ヒソカはいつもの奇術師スタイルとは打って変わって、メイクを落として髪を下ろし、カジュアルさも僅かに漂う品のいいスーツを着込んでいた。

 普段が奇抜すぎて見落としがちだが、彼は長い手足と適度に厚い胸、そしてすらりと高い身長という恵まれた容姿を持っている。何も知らない者が見れば、かなりの美青年、モデルか何かかと思うだろう。実際、いまでも周囲の女性たちの目をこれでもかと惹いている。

 しかし子供にとっては「いつもと違う」以上の感想は特にないらしい。しかもその少ないボキャブラリーの中から子供特有の評価「ヘン」を頂いてしまい、ヒソカは軽くため息をついた。

「……そういう時は“いつもと違ってステキ”とかね?」

「ふーん? それも“様式美”?」

「そうそう。じゃ、行こうか♥」

「え~~~~~~~~、めんどくさあ~~~~~~」

 往生際悪く、ぐずぐずとした歩き方で、シロノはぶつくさ言った。

「……そんなにボクのを口に突っ込まれたいのかい♥」

 僅かにオーラを立ち上らせながら、妖しい微笑みでヒソカがそう呟くと、シロノの背筋がびしりと伸びた。

 端から聞いていたら確実に誤解されるだろう台詞だったが──いや、周囲数メートルの人々がもれなくドン退きしてざわめいたところからするに、既にばっちり誤解を受けている。

 

「ククク♥」

 

 ヒソカはそうして喉で笑うと、片腕で軽々とシロノを抱き上げた。見た目だけならば、人形のような姿の少女を抱き上げる美青年、という絵になる姿だが、周囲には「警察……」と呟きながらチラチラと視線を遣る人々が遠巻きになっていた。既に携帯に手を伸ばしている者まで居るが、ヒソカは全く気にかけず、そのままゆったりと歩きだした。

 

 

 





タイトルの『Behave!』は、英語で、子供に「行儀よくしなさい!」と叱る時の口語です。きっちり記述すると、Behave yourself! になります。

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