【子蜘蛛シリーズ2】Deadly dinner   作:餡子郎
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No.035/Deadly Dinner.

 

 

《さあっ! 本日は注目の試合が二戦続けて行なわれます!》

 

 ゴンとヒソカの試合で最高潮に興奮が高まっている会場、そこに更に注目の一戦が投入されれば、その歓声は凄まじい。びりびりと会場が震えているのではないかと思うような大歓声が、嵐のように巻き起こっている。

《キルア選手は3戦3勝の負け無し! うち2勝が不戦勝というラッキーボーイですが、VSリールベルト戦で見せた戦いはまさに圧倒的でした! 同じ少年選手でもパワフルで豪快なゴン選手に比べ、無駄のないスマートな戦いに定評があります!》

 キルアは既に舞台に立ち、手はいつもの通りポケットに突っ込んでいるが、険しい表情で前方を睨むようにしている。

《対するシロノ選手は最年少、しかも少女選手であります! こちらも2戦2勝の負け無し、……現れましたァ────ッ! シロノ選手です!》

 選手説明を中断して、実況が声を張り上げる。

 

《前回も可愛らしい格好が好評でしたが、今回はなんとミニスカートですっ! マニアの皆さんのフラッシュが眩しいッ! 痛いッ! あらゆる意味で痛いッ!》

 実況の言う通り、シロノの格好は、ヒップハングで膝上10センチほどのミニスカートだった。

 前身頃は硬めの生地のプリーツスカート、後ろ側はフリルを何層にも重ねて、蜜蜂の尻のように盛り上げた形になっている。キャミソールの上に羽織っているのは断ち切り箇所に真っ白なファーのついたジャケットだが、丈が胸下くらいまでしかなく短いので、スカートの後ろのフリルと細い胴がよく目立つ。

 そして頭にあるのは今までよく被っていた帽子ではなく、同じく銀色の十字刺繍がしてあるが、幅広のヘアバンドだ。約半年で既にボブカットとは言えない長さになった髪が、さらりと揺れている。

 先日マチから届けられたこの衣装は、新作マチブランド・コレクション、シロノの勝負服である“クロロモデル”の3rdバージョンである。長らくのキュロットデザインからスカートタイプにモデルチェンジしているのは、あの日シロノが“パクノダモデル”を自主的に着ていたからだと思われる。そして袖を直した時にすかさずサイズを測ったからだろう、寸分の狂いなくジャストサイズだった。

 

《女性選手が皆無に等しいここ天空闘技場! 前回スカートで登場してからファンが増えた模様です!》

 バシャバシャと観客席で光るフラッシュに、シロノは眩しそうに目元を顰め、キルアは呆れ返って半目になっている。

《さて、200階アンダーではワイルドなバトルで長らく注目を集めたシロノ選手ですが、先日のVSギド戦では打って変わって何をしたのか全くわからないミステリアスな戦いで観戦者の度肝を抜きました! 今日はどんなバトルを見せてくれるのか!?》

 その時、シロノとキルアの目が合った。

 にこ、と微笑むシロノに、キルアが僅かに怯んだような、訝しげに窺うような表情を見せる。そして審判が、彼らの間近くまで進み出た。

 

『──ポイント&KO制! 時間無制限一本勝負!』

 

 シロノは、微笑んだままだ。

 

『──始め!』

 

(まずは、様子見……)

「わ」

《こっ……これは──!?》

 開始の宣言とともに、スゥ──……と霧が広がるような動きでもって、キルアの姿が広範囲でぶれ・・、幾人ものように見えた。歩行速度に緩急をつけることで残像を見せる、暗殺術の基本歩行術『暗歩』の応用技、『肢曲』。

 シロノはくるりと目を丸くし、自分の周囲を囲むようにして残像を見せるキルアを、足は動かさず、目線だけで追った。残像ということはわかるが、念など使っていない純粋な“技術”であるだけに見破るのは至難の技だ。

 

「──チッ!」

 静かで流動的な動きから突如繰り出した鋭い手刀、今まで殆どの対戦相手を一撃で地に沈めてきた技だが、しかしそれはあっさりと避けられた。肢曲の本領は敵の目を惑わせ、そして見極めることに気を取られた敵への不意打ちにこそある。しかし、

「残像は見切れないけど、攻撃されたら反応すればいいだけだよ、キルア」

 一ヶ月近く、24時間フェイタンからの闇討ちを受ける修行をこなしたシロノには、キルアの不意打ちに反応することも可能になっていた。

「その反応速度がフツーはありえねっつーの……」

 武者震いとともに、キルアは初めて笑みを見せた。そして様子見は終わりとばかりに、すぐに地面を蹴る。

 

 ──シャシャシャシャシャシャ!

 

 双方から凄まじいスピードで繰り出される連続攻撃。だが、打撃音は、しない。

「うわ~~~~~」

 素早く治療を終えて観客席に戻ってきたゴンは、友人たちのその攻防に感嘆の声を出した。……いや、あれを攻防、と呼ぶのは厳密には正しくない。それは、キルアもシロノも、お互いの攻撃を全て“避ける”ことでいなしていたからだ。ガードという行為は致命傷を避けることは出来ても、どうしてもガードをした腕にダメージを受ける。しかし彼らは出来る限りの攻撃を避けていなし、しかもその回避の動きもどこまでも最小限で無駄がない。そうすることで、ガードのダメージを排するばかりか体力の温存も行なっているのである。少年少女の戦いとは思えない、かなり戦闘に慣れた動きだった。

「貰っ──」

 目にも留まらぬやりあいの中、シロノが見せた左手の隙に、キルアが抜かりなく反応する。

「な!」

「ブッブー」

 ハズレ! と言いつつ、シロノが右手をキルアの目前に翳した。ふわふわのファーがついた袖はキルアの視界を奪い、そして左を確実に殺そうと集中力を一点に集めていた彼は、それに反応するのが一瞬、遅れた。

 

 ──ドン!

 

「ありゃ」

『クリーンヒット! 1ポイント・シロノ!』

 左にかまけてガラ空きになったキルアの右横っ腹に打ち込んだ回し蹴りに、審判の判定が飛ぶ。しかし当のシロノはきょとんと目を丸くし、吹っ飛んだキルアもまるで猫のように空中で宙返りをすると、綺麗に地面に着地した。

 

《はっ……速────い! あまりに速いッそして無駄のない攻防! 少年少女の戦いとは思えない熟練者的な試合です! いっそ美しいとすらいえる動きでした、見蕩れて実況を忘れてしまった私を許して下さ────い!》

 実況が叫び、大歓声が沸き起こる。

「あれ~、キレーに入ったと思ったのに~」

「そう簡単に食らうかよ」

 フン、と鼻を鳴らし、キルアが姿勢を正した。避けるのは不可能、そして左を攻撃しようと右手を伸ばしていたためガードすることもできなくなっていたキルアだったが、咄嗟にそのままシロノから受ける蹴りの方向に自ら動き、ダメージを半分以下に減らしたのである。

(ケンカ慣れしてやがる)

 そう、キルアは思った。

 

 シロノのフェイント・囮としての隙の作り方は非常に自然で、いかにも本当に気を抜いてしまったかのように見えたし、そのあと自分の服を生かして袖を目隠しに使うあたりも、教科書には載っていないタイプの、実践的な戦法だ。

 形振り構わなくなった人間というものは、何をしでかすかわからない。それは“試合”では絶対に経験することのない状況であり、だから大会優勝の有段者と百戦錬磨のチンピラが殺しあいをしたとき、実際にやられるのは大概前者だと言われている。そしてあの無様な泥試合に持ち込んで尚勝利していたという事実からしても、シロノは確実に、形振り構わなくなった死に物狂いの相手との戦いを数多経験しており、もしくはシロノよりも格段にケンカ慣れ・・・・・した実力者から教えを受けている、キルアはそう確信した。

(でもオレだって、実戦経験なら負けてねえ)

 素早く確実に殺すことが生業の仕事、そしてその仕事において凄まじい才能を持つキルアは、優秀であっただけに、汚物を垂れ流しながら形振り構わずのたうち回る相手と取っ組み合いをする、などという経験はない。しかし元プロの暗殺者として、キルアはかなりの数の人間を殺してきた。その経験はシロノに負けずとも劣らないはずだ、とキルアは自負している。

 

「……ンン、キレイだねえ、キルアは」

「あ?」

 突然言ったシロノの言葉が理解できず、キルアは訝しげに眉を顰める。シロノは、笑っていた。キルアよりも更に日に焼けていない、不自然なほどに真っ白な頬に、桃色が挿す。

「ちょ────高級品ってカンジ。……あー、たまんない、ヨダレ出そう」

 シロノはくるりと首を回し、天を仰ぐような仕草をした。そして腰に巻いた太めのベルトに手を遣ると、そこにかかった、美容師のシザーケースにも似たホルダーに手をかける。キルアは警戒し、ピリ、と己のオーラの流れを改めて意識した。

「ねー、もう食べていいかなあ、いいよね、もう、この匂い、ガマンできないもん」

 それはあの日、映画のラストシーンで観た、うっとりするような笑みだった。

 

「──“いただきます”」

 

 きらり、と光るものが、ホルダーから抜き取られた。

 

 ──ビュオッ!

 

「……くっ!」

 先程の格闘で繰り出されたものとは段違いのスピードを持つ一撃、キルアは何とかそれを避けた。しかしシロノは更に畳み掛けるようにして、連続して同じような突きを繰り出して来る。真半身に構え利き手だけを突出し攻撃に用いる構えはナイフ術やフェンシングと同様の構えで、攻撃と同時に腕の距離だけ確実な間合いを取る隙のない戦術でもあった。

《シロノ選手、ラッシュ────ッ! しかしキルア選手も確実にそれを避けています! 凄まじい数の突きが繰り出されておりますが、未だ一撃としてヒットしておりません!》

 ヒートアップする実況と観客、しかしそんな周囲にも流されず、静かに首を傾げる少年が居た。

「……なんだか、おかしくないっすか? 師範代」

「ええ……」

 ゴン VS ヒソカ戦に引き続きこの試合を観戦していたズシが隣のウイングに言うと、彼はズシの言いたいことを察し、神妙に頷く。

 

「彼女は最初から、キルア君に攻撃を当てようとしていません」

 

 ある程度の格闘技経験があるものにしかわからないことだったが、シロノの突きは、キルアの身体に当てようとする意思がまったく感じられないものだった。

 いや、厳密に言うならば、キルアの身体ギリギリの空間に向かって突きを繰り出している、いわば寸止めのような攻撃だということを、ウイングは見抜く。そしてそれは、キルアとて既に気付いているだろう。

「テメ……! 遊んでんのか!?」

「えー、遊んでなんかないよー」

 

 ──ビッ!

 

 キルアの頬にシロノの突きの鋭い風圧がかかるが、やはりキルアの肌が傷つくことはない。

《シロノ選手、何か手に持っていますね? もしかしてナイフか何かでしょうか!? そうだとしたらキルア選手、一撃食らっても致命傷です!》

(違う)

 凄まじい突きが繰り出される度、先程キルアの目隠しにもなった袖口のファーの影で金色の輝きがきらりとするのを、キルアは目視していた。しかしあれは、ナイフなどではない。

「──だらァッ!」

「わ!」

 真半身に構えた上半身には、隙がない。そう見切りを付けたキルアは一気に身を引いてややロングレンジの間合いを取るや否や、体勢を低くし、シロノの足部分に突進する。

《おっと優勢だったシロノ選手、体勢を崩されましたッ! ──マニアの皆さんがカメラを構えています、さあどうなる──ッ!?》

 ミニスカートのフリルが、派手に翻る。キルアは崩れた体勢のシロノに、ビキビキと尖らせた爪ですかさず突きを繰り出す。

「わっと!」

 間一髪で避けるシロノ、しかしキルアは攻撃を畳み掛けることなく、シロノの右手の先にある輝きを、キィン! と高い音を立てて爪先で蹴飛ばした。

 

 ──チャリン。

 

 可愛らしい金属音がしたのと、体勢を整えたシロノが地面に着地するのは同時だった。しゃがむような姿勢になったシロノとキルアの距離は、ちょうど最初の立ち位置ほど。

 じっと様子を見ていた審判が、胸の前でペケマークを作り、ふるふると首を振った。

《──キルア選手、ポイントならず! そしてスパッツ! スパッツでした! シロノ選手、2つの意味で鉄壁! 何やら控えめなブーイングが巻き起こっております!》

(グッジョブ、マチ姉!)

 シロノは、スパッツ愛用者の専属スタイリストに深い感謝を送った。

 

《あ……? あれは────!?》

 そして、キルアとシロノの間合いのちょうど中間あたり落ちた金色の輝き、その正体を見た実況が、素っ頓狂な声を上げる。

 

 そこにあったのは、あの金色のスプーンだった。

 

《スプーン!? スプーンです! ナイフではありませんでした、なんとシロノ選手が持っていたのはスプーン! シロノ選手、一体何を考えているのか────!?》

 人を傷つけることとは無縁な道具の登場に、実況の声は半ばひっくり返っていた。観客たちも、ざわざわと不思議そうなリアクションだ。

《しかし前回のギド戦においても、シロノ選手はフォークを持っていました! あのフォークに毒が塗られていたのではという見解もありますが、しかし今回は先割れですらない普通のスプーン! まったく意図が読めません!》

「……やっぱりな」

 キルアが呟いた。

 

「お前の能力。“オーラを食う”能力──だろ?」

 

 シロノが目を見開いた。見抜かれるとは思っていなかったのだろう。

「えー、わかっちゃったんだ? ウイングさん?」

「いや、自分で気付いたぜ」

 キルアはシロノの能力について、一度としてウイングに助言を求めたことはなかった。それどころか、話すらしていない。ただあのVSギド戦のビデオを何度も見返し、他の色々なヒントから、一人でシロノの能力の正体を導きだしたのである。

「正確には、お前は操作系寄りの特質系、だろ? 水見式の結果見てなきゃちょっとやばかったな」

「……う~ん、やっぱ系統は人に教えるもんじゃないね」

 シロノは、ポリポリと頭を掻いた。

 

「オーラを食うって言うのは特質系ド真ん中の能力。そして操作系の能力がソレだ」

 キルアが、二人のちょうど真ん中に落ちているスプーンを指差す。

「フォークやナイフに“オーラを物理的に扱う”という特性を与えて操作し、相手のオーラを奪う能力! それはそのための道具だ、違うか?」

「なん……」

 キルアが言ったそれに、ウイングが驚愕に席から腰を浮かせた。

「さっきオレに突出してたのは、オレにスプーンを当てるためでもなければ、寸止めで遊んでたわけでもねえ。お前が狙ってたのはオレの身体が纏ってるオーラだ」

「キルアって頭いいんだねえ」

 は~、とシロノは感心のため息をついた。

「……そして、道具ごとがそれぞれの特性を持ってる」

 普通の食事と同じように、フォークはオーラを突き刺したり巻いたりが出来、そして今持っているスプーンは、オレのオーラをこそぎ落として掬ってやがった、とキルアは指摘した。

「そしてギド戦で独楽からオーラを奪った時使ったのは、おそらくエスカルゴ・フォークあたりだろ?」

「大当たり! すごいねキルア!」

 にこっ、とシロノは笑みを浮かべた。

 

 キルアの言う通り、シロノがギド戦で左手に持っていたのは、切っ先が二本に別れたエスカルゴ用の先細りフォークだ。エスカルゴを食べる時、殻から中身を引きずり出すためのそのフォークで、シロノは独楽から溢れるオーラをフォークで突き刺し、そして殻から中身を出すのと全く同じ要領でオーラを独楽から引きずり出して食べていたのだ。

 

「……なんという」

 ウイングが、半ば青ざめて呻いた。

 オーラを食べる、その特異すぎる能力は、アンデッド・ヴァンパイアとしての特性、体質でもある、とネテロから聞いては居た。

 だがそれは、人間として逸脱した行為である、とウイングは思う。

 念能力者であれば、オーラというものが、肉体にとっての血液と同じものだという感覚は深く感じている。心源流拳法に置いて“纏”を伝授する際、「オーラが血液のように全身を巡っているよう想像しろ」と指導するのは、それが最も理解しやすいからだ。

 だからこそ、他人のそれを奪い食うということは、限りなく実際に近い感覚的食人行為カニバリズムである、という認識は、ウイングだけでなく念能力者全員が抱く見解であろう。

 だがそうしなければ生きていけないというならば、百歩譲って理解もしよう。家を持たず、ひっそりと人からオーラを貰いながら流離う(さすらう)流浪の民を迫害しようとは思わない。生き物としての本能、その対象がたまたま人間だったという存在、それならば、同情することもあるだろう。

 

 ──だが。

 魂とオーラは、肉体の血肉。あの子供はそれを丁寧に皿に乗せ、食べやすいようナイフで切り分け、フォークで突き刺し、スプーンで掬い、食べようとしている。

 ナイフやフォーク、皿、グラス、美しくかけられたテーブルクロスは、食事を楽しむために人間の知性が生み出した文化だ。あの子供は、人間として生きていく上で最大の禁忌タブーとされるその行為を、知性を持って、より快適に、より効率よく行なうための能力を自ら開発し、平然と行使している。

 ……それはまさに、人として許し得ない、許されざる食事。

 

 

 ── Deadly dinner(悪夢の晩餐).

 

 

 ──あの子供は、知性を持って人間を食い殺し、生きている。

「うっ……」

「師範代!?」

 ウイングは吐き気を覚え、そして今すぐズシをこの会場から遠ざけたい衝動に駆られた。自分を慕い、心配して覗き込んでくるこの目に、あんなものを映して欲しくない。

 そして彼は、キルアを正直恐ろしいと思った。10万人に一人や1000万人に一人とも数えることのできない、世界から切り離されたところで生きる、わかりあえない、理解できない存在。そんな子供の前に立ち、その行為を冷静かつ正確に分析できるということは、彼自身もまた 化け物(モンスター)としての資質を持っている、ということになりはしないだろうか?

(……行くな、キルア君)

 ウイングは吐き気を堪えながら拳を握った。

(今の君には、ハンターになれる資格がある。私が保証します)

 だからその、闇の中で不気味に輝く光の方へ行かないでくれと、ウイングは切実に願った。

 

「何種類の道具を操作できるのかは知らねえけど、その能力にも弱点はある」

 ウイングがそんな思いをもって見つめる中、キルアは更に続ける。

「ギド戦の時、お前は回転するギドが発するオーラの端をフォークで突き刺し、皿の上のスパゲッティーを巻くように奪った。ギドの野郎が倒れたのは、毒なんかじゃない。あれはオーラを奪われ過ぎたことによる全身疲労、つまり過労でぶっ倒れたようなもんだ」

「そうだけど」

 それの何が弱点? と首を傾げるシロノの表情は、まるで恋人が話すことを興味深そうにに聞く時のような楽しさが滲んでいた。

「問題は、それに使ったフォーク!」

 キルアは更に続ける。自分が話せるのはこんなものではない、というような自信は、シロノの目を更に細めさせたが、それを彼は気付いているだろうか。

「お前はその時、右手に持っていたエスカルゴフォークじゃなく、左手の普通のフォークを使っていた。つまり」

 マナー通り、決められた使い方でしか道具を使うことは出来ない、そうだろう? とキルアは言った。エスカルゴフォークでパスタを食べるのは、マナー違反だ。

「それにそのスプーン。多分もう使えねーんだろ? 食事中に落としたスプーンやフォークを自分で拾うのはマナー違反だからな」

 そう言い切ったキルアに、シロノは、ふふ、と声を出して笑った。

「は~、エスカルゴフォークとか知ってるなんて、さっすがゾルディックのご子息さまだねー。もしかしてテーブルマナーばっちり?」

「うっせ」

 きまり悪そうに、キルアは口を尖らせた。しかしシロノの言う通りだからこそ、この能力の正体に気づけた、という所は大きい。

 

「……ま、そういうワケだ。こういう使い方しか出来ない、ってのがわかってれば動きようもある。変わってるけど怖い能力じゃねーな」

 

 いつもの余裕のあるクールさで、キルアは言った。

 変わっているし、本当にどんな風なのか実際に感じることは出来ない。しかしこうして理屈を暴き、パターンを知れば対処は出来るのだ、と。

 

 

 






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