【子蜘蛛シリーズ2】Deadly dinner   作:餡子郎
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No.036/マスカット・キッス

「……キルアの言う通り、あのスプーンはもう使えないよ」

 着地の姿勢のまましゃがみ込んでいたシロノが、すっと立ち上がった。

「予想外だったなあ。……デザートスプーンでぺろっと食べちゃえると思ったんだけど」

 そう言って、シロノは地面に落ちた金色のスプーンを見、

「うふふ」

 ──嬉しそうに笑った。キルアが困惑げに眉を顰める。

 

「……何がおかしいんだよ」

「だって。思ったより食べごたえ(・・・・・)があって、嬉しいじゃない?」

 シロノは、嬉しそうに笑っている。テーブルの上に予想外に並べられた、極上の一皿に向かって。

「あのねキルア」

「……なんだよ」

「あんまりガチガチにマナーに縛られるのもよくないんだよ。ゴハンは楽しく食べなくちゃ」

「行儀ワリーぞ」

 得体の知れない汗を流しながら、キルアが軽口を叩く。

「そうでもないよ。結局テーブルフォーク使わなかったりするし」

 あんまり仰々しいのもね、とシロノは言い、再びベルトに手を伸ばした。キルアが警戒し、身を正す。

「マナー通りの使い方しか出来ないっていうのは、ホント。あの時エスカルゴフォークを使ったのは、単にそっちのほうがより食べやすかったから、それだけだよ。あれはあたしの頭より小さいモノにしか使えないから。……でも、テーブルマナーを守ってゴハンを食べるのに慣れて来るとね、デザートフォークとデザートナイフでほとんど全部食べちゃえるんだ。……こんな感じで」

 シャッ! と、金属が擦れる音。

 

《おおっとシロノ選手、いよいよ武器らしいものを取り出しました!》

 

 シロノが交差した手でそれぞれ抜き出したのは、ちょうどウェディングケーキ用のナイフと同じくらいのサイズのナイフと、それに見合う大きさのフォークだった。

 どちらも、色はスプーンと同じ金色。フォークのほうは、神話に出てくる三つ又の矛やピッチフォークのほうに形が近く、その切っ先の鋭さはとても口の中に入れるために作られたとは思えないものだった。カトラリーというよりは拷問具かなにかのようである。

 スプーンとはうってかわっていかにも凶器らしい姿をしたものの登場に、キルアだけでなく、観客たちも息を飲む。

 

「……てめ、それのどこがデザートフォークとデザートナイフだよ」

 デザートフォーク・デザートナイフとは、本来はオードブル用ではあるものの、肉料理・魚料理・そしてデザートに使用しても構わないというマルチカトラリーである。

 一般にナイフとフォークとは殆どこの二つを指すが、キルアの言う通り、カトラリーの中でミドルサイズであるはずのそれとシロノが持つ二本は、あまりにもサイズが違いすぎる。

「ほんとはなんかの儀式用で、実際どうこうするものじゃないんだけどね。お兄ちゃんが勝手に改造して研いじゃったんだよ」

 そう言って、シロノはくるりとナイフを回した。持ち手部分もまた、ナイフや剣のように持ちやすく改造されている。言わずもがなフェイタンの仕業だが、彼に武器全般の扱いを叩き込まれ、また彼自作の武器をずっと使ってきたシロノにとっては、その改造によってより扱いやすく感じられるものになっていた。

「んん」

 ヒュン、とシロノがオーラを纏わせたナイフを回す。あの扱いの難しいチェーンソーブレードを振り回していたシロノにとっては、刃渡り35センチ程度の武器は手足同然だ。

 肌が白いせいでやけに濃く見える桃色の舌が、笑みの浮かんだ唇をぺろりと舐めた。

 

「……美味しそう!」

 

 ──ビュン!

 

「くっ……!」

 かなりの瞬発力で突進してきた鋭いフォークに、キルアは咄嗟に“練”を行なった。生命維持の本能による殆ど脊髄反射に近い反応、しかしシロノはその途端、更に笑みを深くした。

「いただきっ!」

「な……!」

 キルアは目を見開いた。“練”によって増幅したことで身体から多く放出されたそのオーラに、金色のフォークが刺さっている。シロノはそのまま、ぐいっ! とフォークを引っ張った。

「っだ……!」

 空気と自分の血がくっついていて、まるごと引っ張られるような感覚。味わったことのないその感触、瞬間、キルアはエスカルゴのようにオーラを抜かれる独楽を思い出し、必死に足を踏ん張った。──しかしそれは無駄に終わる。

「よっ!」

「なぁっ!?」

 キルアが驚愕の声を上げる。フォークで突き刺し引っ張ったオーラ、シロノはそこをナイフで切り落としたのだった。そしてそのままバックステップで後ろに下がり間合いを取る。手にした大きなフォークには、不思議な事に、切りとられたキルアのオーラが突き刺さっていた。

 そしてシロノはそれを見てにんまりと微笑むと、大きく口を開け、そのオーラに口を付けた。不可思議なその行為に観客中の視線が集まる。ウイングは顔を青くして、口元を手で固く覆っていた。

 

「ふわあ……」

 

 つるりとゼリーを吸い込むようにしてキルアのオーラを吸い込んだシロノは、うっとりした顔で声を漏らした。

「……っあ~! ほっぺた落ちるー!」

 美味しいケーキを食べた女学生のように、シロノはキャー! と声を上げ、頬を赤くしてぴょんぴょん跳ねる。そして半ば唖然としているキルアに向き直ると、明るい笑顔で言った。

「もーひとくちっ!」

「やるかよっ!」

 またも突進してきたシロノのフォークを避け、キルアは上空に高く跳び上がる。しかしシロノもまた、羽ばたいた小鳥を追いかける猫のようににやりと笑みを浮かべると、膝を曲げ、一気に飛び上がった。

《た、高────い! シロノ選手、キルア選手より高いジャンプです!》

 四大行しかマスターしていないために全身“練”の状態で跳び上がっただけのキルアに対し、“硬”によって足のみにオーラを凝縮して飛んだシロノでは、その威力も段違いである。

 

「くっ……!」

「自分のオーラが今どれだけ出てるか、わかる?」

 ビュッ! と風を切る音、オーラがナイフで切り落とされ、普通ならそのまま霧散してしまうそれを、金色のフォークが突き刺して捉える。

「どのくらい、ってだいたいは皆わかってるよね。でも、“今、自分の肌から何センチオーラが出てるか”って意識したことある?」

 ないよねえ、意味ないもん、とシロノは言いながら、更にキルアのオーラをナイフで切り落としてはフォークで刺し留めていく。

 

 ウイングは、ごくりと喉を鳴らした。

 オーラの量を調節しコントロールすることは、念能力者にとって“極めた”と言える上限のない永遠の課題だ。目測で攻防力を見極め応用するのが“流”の修行。だがその量を、感覚的なものではなく、物理的な単位で捉えた者が今まで存在しただろうか。

(全く観点が違う……!)

 おそらくかなりの熟練者でも、シロノのナイフとフォークを完璧に躱すのは難しい。攻防力30、ということならできても、「オーラを3センチ纏え」ということができないからだ。

 

「ククッ、無理無理♥」

 楽しそうにクスクスと笑うのは、最上段で観戦していたヒソカだ。

「変化系、もしくは具現化系の熟練者なら、多少は対応できるけど……♦」

 ヒソカが組んだ腕、そしてその人差し指の先から、ズズズ、とオーラが放出され、ハートマーク、ダイヤ……と、トランプのマークに次々と形を変える。

 このように、オーラの形状を変えることに長けた変化系か具現化系なら、自分が纏うオーラが物理的な観点で見てどのようになっているか、ある程度把握することが出来るだろう。

 しかしフェイタンから武器、いや何よりも敵の僅かな隙を突くことが極意である暗器の扱いを叩き込まれてきたシロノは、身体から5ミリはみ出したオーラでさえあのフォークで突くことが出来る。

「四大行すら覚えたてのコが、そんな食いしん坊から逃れられるわけがない♥」

 

「~~~~~ちっ!」

「ありゃ」

 キルアは思い切り後ろに飛び、そしてオーラを消した。“絶”である。

「……オーラを身体の中に仕舞っちまえば、どうにもできねー、だろ……!」

 息が荒い。多くのオーラを奪われ、重い疲労感がキルアの身体を襲っていた。

「うん、できないね。……でもさあキルア」

 ヒュン! と音がした。シロノが鋭く回したフォークが、会場の照明できらきら光っている。

「“絶”状態の身体にこんなの刺したら、どーなっちゃうかな?」

 ただでさえフォークらしからぬ研がれ方をした切っ先、しかもオーラで覆われたそれは、鉄も貫通しそうである。

 

(……いや!)

 それはない、とキルアは判断した。

 噛み付く為に機会をうかがっているうちにポイントをとられて負けることも少なくなかった過去の試合の数々、シロノは相手に勝つのではなく、噛み付く──いや、相手のオーラを食べることを目的に戦っている。オーラは生きていてこそ発生するもの、それをわざわざ絶えさせる理由は、シロノにはない。

 

(“絶”は解かない! むしろ回復の効果もある“絶”こそ今取るべき手段!)

 

 確信したキルアは、シロノの動きから目を逸らさないまま、尚も“絶”を続ける。

(…………ちえっ)

 “絶”を解かないキルアに、やっぱり嘘に関してはキルアのほうが一枚上手だな、とシロノは口をへの字にした。

「……ま、いいけどね」

「くッ!」

 ナイフとフォークを突き出しては来ない、しかし一気に距離を詰められて、キルアは“絶”状態のまま身構えた。やったことはないが、いざという時は瞬時に“練”に移行できるよう意識しながら。

(致命傷は負わせてこねーだろうが)

 動けなくなるまで痛めつけられてから噛み付かれる、という可能性はある。あのナイフとフォークはあくまで“食事法”であって、──本質はそれではないのだ。

 

「──えぃ、やッ、よっ!」

「くっ……!」

 シロノの攻撃は主に蹴りだったが、オーラが乗っているものと乗っていないものがあり、“練”への移行に意識を使っているキルアにとっては心臓に悪いことこの上ない。

 しかしどちらにしても“絶”状態の身体で食らえば、オーラが乗っていれば重症、乗っていなくてもそれなりのダメージになる。そのためキルアは全ての攻撃をやはり避けることで躱していたが、やがてギリッと歯を鳴らして眉を顰めた。

「……テメェ、ふざけんな! 遊んでんじゃねエ!」

 シロノの攻撃は、あのスプーンの攻撃と同じく、始めからまるで当てようと思っていない。それに気付いたキルアは怒鳴ったが、シロノは言った。

「遊ぶ? そんなわけないじゃん」

「何を、」

「──“食べ物”で遊んじゃいけないんだよ、キルア」

 きゅう、と目を細めて笑う。キルアはぞっとした。

 

「隙ありっ!」

「しまっ……!」

 気を取られてしまった次の瞬間、シロノはキルアの背後に回り込んでいた。打撃が来るか、とキルアは一発勝負の“練”を気構える。

「ふ────~~~~~」

「……っどわあああああああ!?」

 だが全く予想外なその行動に、キルアは全ての行動を吹っ飛ばして大声を上げた。

 

「なっ、……にすんだテメエ!」

 思わず思い切りシロノを突き飛ばしたキルアは、耳を押さえながらかなり赤い顔で怒鳴り散らした。シロノが、キルアの首と耳に背後から息を吹きかけてきたからだ。

 てっきり会心の一撃を繰り出して来るだろうと予想していただけに、あまりに予想外すぎて全く回避できなかった。

《おーっとキルア選手真っ赤です! 耳が弱点だったんでしょうかっ!?》

「うるせーよ実況!」

《ああっ審判がポイントを取るかどうかの審議を始めたようです!》

「アホか────!」

「あははははは」

 シロノがけらけらと笑い、キルアはキッとそちらを睨んだ。

 

「どーいうつもりだシロノ!」

「んー?」

 にこにこしていたシロノは、にい、と唇を釣り上げた。唇の隙間から、小さいがやけに白い尖った歯の先が、ちらりと覗く。

「──食べにくいモノに、ドレッシングをね?」

「……何だと?」

 意味のわからない言葉に低い声を出すキルア、しかし次の瞬間、彼は驚愕に目を見開いた。

 

「なんっ……!?」

「キルア!?」

 いきなり“練”の状態になったキルアに、観客席のゴンが驚いて立ち上がる。

「ほーら、食べやすくなった」

 ダン! とまたもやシロノは地を蹴り、キルアに突進した。今度は、両手の金色の輝きをしっかりと彼に向けている。

「食っべ、ほう、だい! だよっ、キルア!」

「く、そ……!」

 自分の意思とは無関係に放出されるオーラ、そしてそれをどんどんと切り取られて奪われてゆくキルアは、シロノの攻撃を必死に避ける。しかしオーラに触れられまいと大振りに避ければその分隙も大きくなり、その分の体力の疲労、そしてオーラを削られる疲労とがどんどん溜まってゆく。

(クソッ……!)

 ぐらあ、と目の前の景色が回ったことでキルアは自分が目眩を起こしたことを知り、そして視界が眩しいラトの光る天井になったことで、仰向けに倒れてしまったことを知った。

 そして次いで、ズン! と腹の上に乗った重みに、キルアは低く呻いた。

 

『ダウン! プラス1ポインッ、シロノ! 0ー2!』

《キルア選手ダウン、そしてマウントをとられました! 手は空いているようですが、何故か全く動けない様子!》

「おくちの使い道は、なーんだ?」

 両手にナイフとフォークを持ったシロノはキルアの腹に跨がったまま、言った。

「そのいち、食べるコト。噛んで砕いておなかにゴックン!」

「く……」

 疲労でぐらぐらと揺れる視界、眩しい照明で逆光になったシロノの顔は、はっきり見えない。

「そのに、息をするコト。オーラを乗せて吹きかければ、ドレッシングの出来上がりィー。食べにくい料理をとっても食べやすく!」

「てめ、」

「遊んでるのはどっち? キルア。一回も本気で攻撃してきてないじゃん。どーゆーつもり?」

 くるん、と、フォークがバトンのように回った。

 

「はーん」

 無言のキルアに、シロノは半目になると、口を尖らせる。

「まぁだそんなこと気にしてんの? 細かいこと気にするとハゲちゃうよ」

 キルアは表情を歪めた。

 

「キレイだねえ、キルアは」

 シロノは、もう一度言った。にい、とチェシャ猫のように笑った口からは、真っ白な歯、犬歯にしては長過ぎる、……牙がはっきりと覗いていた。

「すごくキレイ。ものすごく設備の整った温室で、24時間チェックされて、虫が着かないように、最高のツヤが出るように育てられた超高級マスカット、そんなカンジ」

 サファイアかエメラルドかと見紛うような煌めく果肉と、高級感溢れ、甘みが強く、何よりも強い香りを持つ瑞々しい果実。しかもキルアのオーラは、「マスカットの女王」の異名を持つマスカット・オブ・アレキサンドリアもかくやというほどの芳香を持ち、その味もまた格別だった。思わず我を忘れてもおかしくない位に。

 

「うあー、あまーい匂いがするー、たーべちゃーいたーい」

「……ラリってんじゃねーのか、てめえ」

 至近距離には、闇の中でも勝手に光る、得体の知れない透明な目がある。今にも鼻に噛み付いてきそうな距離で言うシロノに、キルアはそう絞り出した。

「おかしくもなるよ。そのぐらい美味しそうだもんキルア」

「……知るか」

「だろうねー」

 シロノは首を傾げた。肩まで届きそうな位伸びた髪がさらりと音を立てたのを、キルアは朦朧とした意識の中でやけにはっきり聞いた。

「キルア、あたしね。食べ物で遊んだりはしないけど、ゴハンは常に楽しく食べたいの。せっかくおいしいゴハンがあるのに、無言でもそもそ食べるなんて、ヤだ」

 きらり、と金色が光った。

 

「食べごたえがあるって思ったのに、ねえ、これだけ?」

「くっ……!」

 振りかざされたフォーク、カトラリーとは思えないほど研ぎ澄まされた切っ先は、まるで拷問具か処刑用具。しかしこの場合、どちらであっても同じこと。ここは今、化け物の夕食の皿の上だ。

 キルアは顔を顰め、疲労で動かない身体に必死で力を入れた。完全にマウントを取られた身体を起き上がらせられる可能性は皆無に等しく、シロノの折り曲げた足首は、キルアの足をがっちり押さえ込んでいる。太腿に固いブーツが食い込んでいる感触が、意識のどこか遠い所で感じられた。

 

「食べちゃうよ、キルア」

 

 金色の輝きが強い照明の中に消えたその時、キルアは必死に伸ばした指先に触れた何かを、無我夢中で思い切り掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ちゅっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場中が、静まり返った。

 キルアが掴んでいるのは金色のスプーン、やや尖ったその柄の尻を首筋に突き立てられかけているシロノは、キルアの顔の目の前で、にっこりと笑った。

「おくちの使い道、そのさん?」

 キルアは、これ以上ないくらい目を真ん丸にしている。

 

「ごっちそーさまでしたっ!」

 

 シロノは元気にそう言うと、フォークとナイフを丁寧に仕舞い、キルアの腹の上から立ち上がった。そして固まったキルアの手からスプーンを取り上げる。

「あのねー、キルア」

 にっこり笑って、シロノは言った。

 

「問題でーす。“よく切れるナイフ”は操作系? それとも強化系?」

 

 ──そう。

 シロノは特質系であり、また操作系。操作系は実際の物品や生き物に、そのままの状態ではなし得ない特殊な指令を実行させることが出来る系統である。つまり、単にナイフを良く切れるようにするならば、それは本来ナイフが持つ力を“強化”させたことになるので、操作系能力とはならない。

 そしてキルアはまだ知らないことであるが、強力な能力には『制約』と『誓約』が必要になる。この能力の制約&誓約の基本は、「テーブルマナーを遵守すること」。

「テーブルマナーの超基本ね。ナイフやフォークは、ヒトに向けちゃいけません」

 ならばもちろん、“食べ物(オーラ)”以外に向けてもいけないのだ。

 

「そんじゃ、またごちそうしてね。ばいばーい」

 

 シロノはあっさり踵を返すと、指に金色のスプーンを挟んだ手をひらひら振りながら、すたすた歩いていってしまった。そして残されたのは、静まり返った闘技場。

 

《……………………えー》

 コホン、と実況が咳払いをした。

《わたくし長年実況をしておりますが、このような試合はみたことがありませんっ! この場合ポイントや勝敗はどうなるんでしょうか、キルア選手まったく動けないままでありますがあれはダメージからでしょうかそれともショックからでしょうか、無駄のないスマートな戦いに定評があるキルア選手ですがやはり少年、初めての経験であっても無理はありません、いやあの感じからして間違いなくそうでありましょう! いや甘酸っぱい! わたくしこのように甘酸っぱい試合は未だかつて見たことがありません! キルア選手、甘酸っぱァ────い!!》

「うるせぇええええええッ!!」

 青筋を立てたキルアの怒鳴り声が、会場中にびりびりと響き渡った。観客席ではウイングが呆気にとられており、ズシが少し赤くなっており、ゴンはブチ切れた友人の様子に苦笑を浮かべている。ヒソカだけが、最上階で頬杖をつきながらクスクス笑っていた。

 

「……え?」

 思い切り大声を出したキルアは、はっとした。あれだけ疲れていた身体が、軽い。

(ってか起き上がれてるし……)

 既に目眩もなく、視界はくっきりとクリア。

 キルアは、口元に手を遣る。息を吹きかけてオーラを食べやすくし、そして噛み付いてオーラを奪う。……では、あれは?

「……キャッチアンドリリースってか」

 そう呟き、そしてキルアはフッと短く息を吐くと、額にぷちっと血筋を浮かべる。

「……食ったもん吐き戻してんじゃねえええええ! インコかなんかかテメエエエ!!」

《おおっとキルア選手、夕陽に向かって叫びたいお年頃か────!? それではこの辺で、200階闘技場から失礼いたします!》

 

 凄まじい歓声が未だ渦巻く中。

 7月10日の天空闘技場試合スケジュール、これにて、終了。

 

 

 






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