【子蜘蛛シリーズ2】Deadly dinner   作:餡子郎
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No.007/森の中




《45番、301番、三次試験通過第二号! 所要時間八時間三分!》

 あれから約一時間、イルミの記憶力のおかげで迷路をクリアした二人は、トリックタワー一階に辿り着いた。
「わーい、終わったー」
 つないだ手をブンブン振られながら、イルミは少し明かりに目を細めつつ「お疲れ」とシロノに返した。

「やあ、お疲れさま。君たち、一緒のルートだったんだね♣」
 広い空間にポツンと座って二人を出迎えたのは、トランプタワーを作って暇を潰しているヒソカだった。
「あ、やっぱりヒーちゃんが一番?」
「うん、君たちが来るまで二時間くらいだったけど、かなり暇だったよ♦」
 ヒソカはトランプタワーを崩すと、器用に一瞬で一束に纏めた。
「……ヒソカとシロノ、知り合いなの?」
「シロノは蜘蛛の子だよ♥」
「え、ホント?」
 既に明かりに慣れたのか、イルミはぱっちり開いた目でシロノを見た。

「そうだよ、あたし蜘蛛。ナンバーないけど」
「あ、聞いたことある。子蜘蛛?」
「そう。あ、ヒーちゃんとイルミちゃんは友達なの?」
「友達じゃない」
 イルミはものすごい早さで即答した。
「友達じゃないから」
「二度も言わなくたっていいじゃないか♦」
 酷いなあ、とヒソカは台詞と合っていない笑みで言った。
「……仕事の得意先ってだけだよ。ていうか暗殺者に友達なんかいらないし」
「ふーん、そうなの? あたしも友達いないよ」
「ところで君たち、なんで手繋いでるんだい?」
 ヒソカが首を傾げ、言われて手を離した二人は、暗闇の道というルートを越えてきたのだ、と簡単に説明した。

「ふうん。ところでいいのかいイルミ、顔晒してて♥ 」
「いいよ別に。シロノ一人に知られても別に困らないし。……あー、でも他の受験生が来る前に“ギタラクル”に戻しとこうかな」
「ギタラクル?」
 シロノがちょんと首を傾げた。
「言ったでしょ、変装してるって。というわけで、これから先はイルミじゃなくてギタラクルって呼んでね」
「うん、わかっ………………わあ!」
 イルミが突然自分の顔に針をブスブスと深く刺し始め、シロノはさすがに驚いて声を上げる。だが針を刺すごとに、イルミの顔がものすごい音を立ててと変形していき、最後にはシロノが301番と記憶していたあの顔になった。
「うわー! すごーい、全然違う顔! 面白ーい!」
「……シロノって、ほんと変わってるよね」
「うーん、どちらにも賛成♥」
 その後たっぷり余った時間を、三人は雑談したりトランプをしたり、しまいにはしりとりや古今東西までして潰した。
 そして残り時間一分、という時にゴンとキルアとクラピカ、そして三十秒、という時にレオリオと、試験前に薬入りジュースを配り歩いていた男が無事ゴールした。

《タイムアップ! 第三次試験、通過人数二十五人! 内一人死亡!》

 アナウンスが流れ、外に続く扉が開かれる。疲労の濃い者薄い者それぞれだが、受験生たちはゾロゾロと外に出るべく歩き出した。



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 そして、第四次試験の内容が発表された。
 緊張感漂う雰囲気の中、受験生たちはそれぞれクジを引かされ、そして皆自分のナンバープレートをしまい込む。
 ゼビル島に向かう船の中、誰が自分の獲物でそして自分は誰の獲物なのか、とピリピリした空気が充満する最中、甲板の縁でに座り込み、シロノはぼんやりと海と空を眺めていた。
(うーん、難易度ちょっと高めかなー……)
 シロノは自分がひいたターゲットを思い浮かべつつ、どうやってプレートをゲットしようか、と色々と考え始めた。

「シロノ!」

 その時、三次試験で色々あったのだろう、かなり汚れた姿の二人が、シロノのほうに走り寄ってくる。
「シロノもプレート付けっ放しだね」
「だってあたしたち目立ってるでしょ、今さら隠してもね」
「ま、そうだよな」
 シロノはヒソカと知り合いで一番違いということや第二次試験で最も目立ってしまったこともあり、今さら隠しても無意味だろう、と、プレートは胸元にそのままにしておいている。見ると、ゴンとキルアも胸のプレートはそのままだった。
「にしてもギリギリだったねー、三次試験。なに、16番のおじさんに足引っぱられたの?」
「よくわかるなー。ま、それだけでもねえんだけど」
「シロノは何時間くらいでクリアしたの?」
 ゴンが尋ね、シロノは記憶を掘り起こした。
「えーと、八時間三分。ヒーちゃんの次」
「……早!」
 二人が驚愕の表情を浮かべる。
「あたしに有利なルートだったからね。パートナーの人も強かったし。それよりクリアしてから暇で暇でしょうがなかったよ」
「そりゃ、丸三日残ったら暇だよね」
「なー、シロノのターゲットって誰?」
 キルアが暢気な声で言った。船の上の空気がぴりりと震える。しかしシロノもまたあっさりと、「二人じゃないよ」と返した。
「そっちは?」
「ん? じゃあせーので見せっこしようぜ」
「いいよ。せーの、」
 ばっ、と、三人は一応周囲に見えないようにしながら、引いたカードを取り出した。

「うわー、ゴン運悪いねー」
「あはは」
「キルアは運いいね。楽勝でしょ」
「え、お前これ誰だかわかんの?」
 シロノは試験が始まる前、上から実力のありそうな受験生をチェックしていた。キルアのターゲットはその中には含まれていなかったが、そっくりな顔が三人並んでいてインパクトがあったので覚えていたのである。しかし三人のうち誰がキルアのターゲットかまでは、シロノにもわからなかった。
「充分充分、あれなら三人まとめて狩れるって! サンキューな。でもシロノもいまいちクジ運ねえな、ゴンほどじゃないけど」
「あの人かー。強そうだよね」
「んー、でも頑張れば大丈夫だよ!」
 明るく言ったシロノに、ゴンが呆気にとられたような顔をしている。キルアも訝しげな表情を浮かべている。
「なに、お前強いの? そりゃ気配の消し方とか身のこなしはかなりのレベルだと思うけど」
「んー……。強………………くはないと思うけど……」
「……なんでそんな悩みながらなの?」
「うーん、いつも周りが強すぎるから、自分の実力がどのぐらいなのかいまいちわかんないんだよね、あたし」
 でもまあとにかく頑張るよ! とシロノはやはり能天気に明るく言った。



 二時間が過ぎて船はゼビル島に到着し、受験生たちが立ち上がる。第三次試験の通過時間が早い者順で下船して島に入り、時間差で二十四人全員が船から降りる、という説明がアナウンスされた。
(あ、なんだ。それなら結構楽勝かも)
 シロノとイルミは同時ゴールであるが、シロノのほうが番号が若いので、ヒソカの次の二番目の下船者だ。既にターゲットが誰なのかわかっているシロノにとって、それはかなり有利なことだ。
《滞在期間はちょうど一週間! その間に6点分のプレートを集めて、またこの場所に戻ってきて下さい》
 それでは一番の方スタート! という威勢のいい声が響き、ヒソカが一番最初に船に降りる。そして二分後、《二番スタート!》という声で船を降りたシロノに、全員がざわついた。まさかヒソカの次に最年少のシロノが到着していたとは、誰も思わなかったのだろう。

(……このへんでいいかな)
 シロノは森に入って少し歩くと極限までの“絶”を行ない、入り口付近まで引き返した。
 クロロたちに言わせると、シロノの総合的能力は、下の上、といったところだ。しかしこの“絶”だけは、物心ついた時から寝ていても“絶”ができていただけあって、旅団の誰よりも上手いのである。クロロたちですら、本気でオーラを絶ったシロノを見つけることは至難の技だ。おそらく念も知らない彼がシロノの気配に気付くのは、ほぼあり得ない可能性だった。
 シロノとイルミに一時間ほど遅れてゴールした彼は、シロノが森に入ってからきっちり四分後に船を降りた。
 念能力者でもない割にはかなり高い身体能力ですぐさま木の上に駆け上がった彼を確認し、シロノもすぐ後ろの木の上に飛び上がる。彼とシロノの距離は余裕を持っての約五メートル、シロノの武器が届く最大範囲だ。シロノの“絶”ならば、ここまで近付いても気付かれることはない。実際彼は全くシロノの存在に気付いていないが、おそらく彼もこの後森に入ってくる自分のターゲットを待ち伏せしているのだろう、ぴりぴりと神経を尖らせている。もし直前で避けられた時のことを考えて、シロノはもう少し様子を見ることにした。
 そして、彼が動いた。彼がキルアと同じターゲット集団を追い始めた事にシロノは少し驚いたが、五メートルの距離を保ったまま、シロノはぴったりと彼の後ろに着いている。
 そして彼がターゲットの実力の低さを見極めて、一瞬気を抜いたその時だった。

「──な!?」
「294番の忍者のお兄さん、プレートちょうだい」

 突然上から降ってきて、肩車のような姿勢で自分の上に乗ったシロノに、ハンゾーは心底驚き、目を見開いた。
 そして実力者だけあり、ハンゾーはシロノの細い脚が子供とは思えない力でもってがっちりと自分の首を絞める体勢に入っていること、また嫌でも口を開くようにハンゾーの鼻をつまみ、そしてもう片方の手を伸ばし、小さいがかなりの切れ味があるだろうナイフを心臓に当てていることを直ぐさま理解した。手は空いているが、首と心臓、二カ所の急所を同時に取られてはまさに手を出すことは出来ない。
「ふくっそ……!」
「プレートどこ? 服の中? あ、まさか飲んでないよね」
 息をする為に口を開けつつもだんまりになったハンゾーに、シロノは「まあ、簡単には言わないよね」と溜め息をつき、ハンゾーの鼻を離した。
「誰がやるか!」
「んじゃ刺すか折るかだよ?」
「ぐ……」
「でもこのまま首折ると血吐いちゃってブーツ汚れるし、心臓刺してもすっごい血が出て服汚れるからあたしもイヤなんだよね」

 ──本当の理由は、“美味しそう”だから、なんだけど。

 シロノはその言葉を飲み込みながら、ハンゾーの上で交渉を続けた。
「ねー、プレートちょうだい。そしたら殺さないよ」
「~~~~ふざけんな!」
「しょーがないなあ」
 暢気な声とともに、じゃら、と音がした。
「じゃあ拷問ね」
 ハンゾーは、シロノが自分の顔の前にぶら下げたその音の正体を見て、顔を引きつらせた。
 ハンゾーの顔の前でじゃらじゃらと音を立てているのは、細かい刃物がサメの歯のようにビッシリとついた、チェーンソーの鎖。そしてそのチェーンの先についているのは、“返し”方向にぎざぎざの刃が並んだブレードである。
 それが、拷問具を改造し組み合わせて作ったかなりマニアックな代物であることを、ハンゾーは持てる知識を総動員して理解した。

「こっ……このクソガキ! 自分がやられて嫌なことは他人にやるなって親に教えられなかったのか!?」
「えー」
 えげつない獲物を前にし、自分のことは棚に上げて喚き散らすハンゾーに、シロノはクロロから教わったことを思い出した。
「んーとね、“自分が他人にやられて嫌だと思うことは”」
「そうそう」
「“とても効果的だということだから、折をみて的確に他人へ利用しろ”って、パパが」
「そんな人道と真逆のベクトルに向かった教育聞いたことねーよ!」
 どこの外道だお前の親父! と叫びながら、ハンゾーは目の前でじゃらじゃらと音を立てるものから必死で顔を逸らした。
「……っは! そう簡単に取られてたまるっ……かあッ!」
「うわ!?」
 ボン! と音がして、ハンゾーの身体から真っ白い煙が一気に吹き出した。その煙が粘膜に染みる催涙系だということに気付いて目を閉じるには、シロノはハンゾーに密着しすぎていた。会話はこれをする為の時間稼ぎだったのか、と、たまらずにとうとうハンゾーから飛び退いたシロノに、ハンゾーはにやりと笑う。
「けほっ」
「わはははは! ゲホゲホッ、クソガキめ、恐れ入っ……ゲホ!」
「けほっ……。やー、目ぇいたーい、けほ、何これ? オナラ?」
「アホかどんだけ染みる屁こくんだよオレは! ……ゲホッ、……特製催涙煙玉だゲホッ!」
 しかしハンゾーとしてもやむを得ずの手段だったのだろう、おそらく敵に投げつけて使うはずのそれを身につけたまま爆発させたので、ハンゾー自身も催涙煙玉の被害を受けて、しきりにゲホゲホ咳き込みながら涙をボロボロ零している。

「ゲホッ、じゃあな外道小娘! いい線行ってたぜ、あばよ!」
「あー!」
 バッ!と飛び上がって逃げようとしたハンゾーを、シロノも慌てて追う。
「けほっ……待てー!」
「うお!?」
 全速力で木の枝の上を走っているはずが、小さな人影がぐんぐん近付いて来るのを見て、ハンゾーは涙でグズグズの目を驚愕に見開いた。
「んも~~~~、待ってって……っ、言ってるでしょー!」

 ──ズギャギャギャギャギャギャギャ!

 そう言ってシロノが思い切り投げた獲物が、まるで巨大なチェーンソーで思いきり斬りつけたように、周囲の木へ乱暴な傷を作る。多分ハンゾーに投げようとしたのが、催涙煙玉のせいでコントロールが狂ったのだろう。
「じょ、冗談じゃねーぞ! なんちゅう凶悪なエモノ持ってんだこのガキ!」
 ぞっと青ざめたハンゾーは、かなり死にものぐるいで木の中を走った。しかし四、五歳から旅団メンバーと障害物だらけの廃墟で全力疾走の鬼ごっこをほぼ毎日繰り返してきたシロノは、かなり肉薄してそのスピードについてくる。ハンゾーは以前観た、チェーンソーを持った殺人鬼に追いかけられる映画に迷い込んだような気になってきた。
「待──て──!」
「ぎゃあああああ!」

 ──ズギャン!

 今度は脇腹スレスレを通った改造拷問具に、ハンゾーは本気の悲鳴を上げた。命中精度が上がっている。催涙煙玉の効果が薄れてきていることの証拠を確認し、ハンゾーは冷や汗を流した。

「──チィッ!」
 ダン! と正面にあった木を思い切り蹴り、ハンゾーは木のしなりを利用して、追いかけてくるシロノの頭上を飛んだ。シロノの催涙症状が治まらないうちに方向転換の動作で撹乱、だめでも距離を持とうとした動きだと理解したシロノは、同じように木を蹴ろうとした。──しかし、
「……わあ!?」
 ハンゾーが思い切り木を蹴ったことに驚いて飛び出してきたのだろうか、つぶらな瞳の小さなリスが、シロノが蹴ろうとしていたまさにその場所にぺったりと張り付いている。
 ──シロノは動物が好きである。

「ふぎゃ──!」

 リスを避けようとして体勢を崩したシロノは、バキバキバキバキ! と密集した木の枝の中に勢いよく突っ込んでしまった。そして折れた小枝で擦り傷を沢山作りながらも、なんとか地面に着地する。リスは!? と地面を見渡せば、シロノの足首くらいの太さの枝の下敷きになっているリスがきゅうきゅう鳴いている。
「あ──!」
 シロノは慌てて枝を退けるが、リスはどこか痛めたのか、弱々しくじたばたしながらきゅうきゅう鳴いている。シロノはおろおろしつつも、ハッと慌てて辺りを見渡した。
「……あ──!」
 ハンゾーは、影も形も居なくなっていた。



「──ん?」

 自分のターゲットが誰なのかわからず、とりあえず手当り次第にと森を歩いていたレオリオは、バキバキという木が折れる音を聞きつけ、くるりと周囲を見渡した。誰か戦闘でもしていたのだろうか、しかしとにかく何か情報が欲しい、と思ったレオリオは、ナイフを片手に警戒しつつ、音がしたほうにそろそろと近付いて行った。
「……あ? シロノじゃねーか」
 レオリオは、ナイフを下ろして警戒を解いた。折れた木の枝が散乱する場所で座り込んでいるのは、身体に葉っぱを沢山付けたシロノだった。

「あ! レオリオ!」
「何やってんだお前? ……はっ! まさかお前のターゲット……!」
「違うよ、あたしのターゲット忍者のお兄さんだもん」
 シロノはいやにあっさりと言った上に、そんなことよりも膝の上にある何かのほうが気がかりらしい。すぐにレオリオから目を逸らし、何やらおろおろとしている。その様子に言っていることは本当だろうと判断したレオリオは、息をついてシロノに近寄った。
「忍者ね、そりゃまた強そうなのに当たったもんだ。……で、何やってんだ?」
「……あ~~~~……」
 シロノは情けない声を出してレオリオを見上げた。表情もかなりショボンとして情けない子供にレオリオは内心吹き出しそうになったが、シロノの小さな膝の上に居る、これまた小さな動物に気付く。
「ん? リス? ……あー、こりゃ脚折ってんな」
「ええええええ、うそー、ごめん~~~」
「はー? お前がやったのかよ」
 レオリオは呆れたような声を発した。しかしリスに向かって「ごめんね~~~」と繰り返すシロノに、レオリオは息をついて「貸してみろ」と言った。
 その声にきょとんとして振り向いたシロノの顔が間抜けだったので、レオリオは今度こそ小さく吹き出した。










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