最低不審者ドゥルーク   作:RYUZEN

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第3話 魔法の呪文は最低なの?

 色んな事があった一日だった。朝の悪夢に始まり、ドゥルーク来訪、そして最後に学校帰りにアリサやすずかの二人と一緒に見つけた怪我したフェレットである。

 怪我の治療のため動物病院へ連れて行ったが、獣医だって慈善事業でやっているわけではない。幸い院長先生が良い人だったので明日まで預かってくれることになったが、それまでにフェレットの引き取り先を見つけなくてはならなかった。

 といってもアリサの家は犬を、すずかの家は猫を。其々かなりの数を飼っていてフェレットを飼うのは難しい。そしてなのはの家は喫茶店で、ペットを飼うのはNGである。

 しかし捨てる神あれば拾う神ありとは言ったもので、駄目だしで両親にお願いしてみたところ、籠に入れて世話をするならばという条件つきでOKを貰えた。

 

「そうだ! アリサちゃんとすずかちゃんに伝えておかないと!」

 

 ポケットから携帯電話を取り出す。きっと今頃二人もフェレットをどうしようかと頭を悩ませている頃だろう。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん。あの子はうちで預かれることになりました。明日、学校帰りに一緒に迎えに行こうね。なのは。送信っと」

 

 漸く肩の荷が降りたなのはは、ベッドに身を投げ出して一息つく。

 だがこの時のなのはは知らなかった。これまで起きた事など所詮はプロローグに過ぎない。高町なのはの人生を変えた事件は、これより始まるのだということを。

 本当の始まりを最初に告げたのは、脳内に直接響いてくるあの声だった。

 

〝聞こえますか? 僕の声が聞こえますか?〟

 

 朝に聞こえたのと同じ――――そして怪我したフェレットを見つけた時にも聞いた少年の声。

 

〝聞いてください。僕の声が聞こえるあなた、お願いです! 僕に少しだけ力を貸してください!〟

 

 鬼気迫った声色は少年が危機的状況にあることを如実に現していた。

 

「あの子が喋ってるの!?」

 

 昼にこの声が聞こえた時、自分は怪我したフェレットを見つけた。あの時は特に意識していなかったが、もしこれが偶然ではなかったのならば、この声を発しているのはあのフェレットということになる。

 馬鹿げた考えだ、とは思う。常識的に考えて動物が人間の言葉を喋るなんて有り得ないし、ましてやテレパシーみたいに危険を発信してくるなんてナンセンスだ。

 けれど高町なのはには常識を鼻で笑う非常識極まる友人が一人いた。

 

〝お願い! 僕のところへ! 時間が、危険がもう〟

 

 声が途絶える。高町なのはにもう迷いはなかった。

 

 

 

 フェレットを預けた動物病院に到着したなのはを待っていたのは灰色の世界だった。

 外観は何一つ変わっていない。学校帰りにアリサやすずかと一緒に来た時のままだ。だというのに虫の鳴く声や遠くから聞こえる喧騒などが忽然と失せていて、さながら異空間めいた雰囲気が漂っている。

 それが〝結界〟と呼ばれる魔法である事を無論この時点でのなのはは理解していなかったが、感覚的にここが外界と隔絶された空間なのだということは認識した。

 

「――――はっ!」

 

 化物染みたくぐもった唸り声が響いてくる。静寂に満ちた空間にあって、それは嫌になるくらい聞こえてきた。

 そして視界の端に黒い毛むくじゃら怪物から逃げるフェレットが映り込む。

 

「あ、あれは!」

 

 こちらへ逃げてきたフェレットをなのはは咄嗟に受け止める。

 

「な、何々? 一体、何?」

 

「来て……くれたの?」

 

「喋った!?」

 

 どうやら自分の予感は正しかったらしい。フェレットは頭に響いてきたものと同じ少年の声で、人間の言葉を使い語り掛けてきた。

 本当なら『どうして喋れるのか?』だとか聞きたい事は山ほどあったが、どうもそううかうかもしていられないらしい。毛むくじゃらの怪物の真っ赤な目が自分を睨んでいた。

 

「う、その、何が何だかよく分かんないんだけど、一体、何なの?何が起きてるの?」

 

 黒い怪物から脱兎のごとく逃げながら、なのはは自分の腕の中にいるフェレットに言う。

 正直長くは逃げられそうにない。こんなことなら体育の授業をもっと頑張っておけば良かった、となのはは運痴な自分を呪った。

 

「君には資質がある。お願い、僕に少しだけ力を貸して!」

 

「資質?」

 

「僕はある探し物のためにここではない世界から来ました。でも、僕一人の力では思いは遂げられないかもしれない。だから、迷惑だとわかってはいるんですが、資質を持った人に協力して欲しくて。お礼はします。必ずします。僕の持っている力を、あなたに使って欲しいんです!僕の力を。魔法の力を!」

 

「魔法?」

 

「お礼は必ずしますから」

 

 喋るフェレット、黒い怪物、異世界、遂には魔法ときた。まるでTVで見るアニメや漫画のような展開に思考回路が追い付かない。

 しかしそんな中でも正しい選択肢を、光差す未来への活路を見いだせるのが主人公が主人公たる所以である。

 

「お礼とかそんな場合じゃないでしょ! どうすればいいの?」

 

「これを!」

 

 ユーノが首にかけていた赤い宝石を手渡してくる。

 

「暖かい……」

 

「それを手に目を閉じて、心を澄ませて!僕の言う通りに繰り返して! いい? いくよ!」

 

「うん」

 

 ともかくここはこのフェレットに従うしかない。なのはは言う通りに目を閉じようとして、黒い怪物が触手を伸ばしてくる光景を見た。

 

「っ!」

 

 逃げようとするが間に合わない。コンクリートブロックすら粉砕する触手だ。小学三年生の頭などそれこそトマトのように潰し、赤い中身を飛び散らせるだろう。

 握りしめた赤い宝石が火のように熱くなる。心臓が裏返り、桃色のエネルギーが全身を駆け巡った。

 迫りくる触手は止まらない。近付いてくる〝死〟から逃れるためなのはは目を瞑り、

 

「やめろぉぉぉぉおおおっ!」

 

 なのはは友の叫びを聞いた。次いでなのはの脳を揺さぶるのは、雷鳴よりも激しいガトリングガンの発射音だった。

 毎秒数百発というこれまた常識外れのスピードで薬莢を吐き出すガトリングガンは、何故か魔力体であり対物理に強いはずの黒い怪物にも容赦なくダメージを与えていく。つまりそれはガトリングガンの弾は実体弾ではなく魔力で構成されているという証左でもあった。

 

「これは魔法……凄い……これほどなんて……」

 

 腕の中にいるフェレットはガトリングガンの破壊力に戦慄していた。

 こんな非常識極まる事をやってのける人間は、なのはの知る限りでは一人だけ。

 

「記念すべき原作主人公の初バトルでなにをやらかそうとしてるんだ。小学三年生の『背徳触手プレイ~禁断の放課後~』なんて僕がプレイしてるエロゲみたいな真似を!

 R-18タグつけずにR-18な内容やったら利用者規約に違反するでしょ。これだから小学三年生を小学千年生なんて誤字やらかす馬鹿作者は困るんだ。千年生って小学生なのにどんだけ留年してるんだよ。齢1000歳超えの婆じゃないの。白骨通り越して化石になってるよ。

 つまり僕が言いたいことは一つ! やるなら十八禁版を個別に作ってそっちでやってくれ! 息子共々頑張っちゃうから!」

 

「ドゥルーク! きてくれたの!」

 

「おっといけない。女性読者のために露骨な格好良さを演出しなければ。――――そうさ、なのは。君を助けにきた。言っただろう? 君の危機にはいつ何時であろうと駆け付けると」

 

「……そんなこと言われた覚えないの」

 

「今はそんな事はどうでもいいんだ。 重要なことじゃない。それよりあの化物は僕が抑えている。その間になのは、その小動物の指示に従うんだ」

 

「わ、分かったの!」

 

 ドゥルークは何処からともなく巨大な盾を出現させると、黒い怪物の突進攻撃を遮る。

 少し心配だがドゥルークなら大丈夫だろう。なのはは再びフェレットに視線を落とすと、

 

「続きをお願い。なんて言えばいいの?」

 

「…………え、あ、はい!」

 

 ドゥルークの滅茶苦茶な戦いに困惑していたフェレットだったが、なのはの言葉に我に返ると『不屈の心』を真に呼び覚ます契約の言葉を紡ぐ。

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「契約の下、その力を解き放て!」

 

「えっと、契約の下、その力を解き放て!」

 

「風は空に、星は天に」

 

「風は空に、星は天に」

 

「そして、不屈の心は」

 

「そして、不屈の心は」

 

 導き手によって、白い少女は魔導の道へ足を踏み入れる。扉は開いた。あとは最後の宣誓をするだけ。

 フェレットに言われるでもなく、手の中の宝石から流れ込んできた言葉をなのはは強く叫ぶ。

 

「この胸に! この手に魔法を! レイジングハート! セットアップ!」

 

『Stand by ready. Set up.』

 

 果たして赤い宝石は起動した。

 魔法文明のない地球にあって今日まで碌に使われることなく眠っていたリンカーコア(魔法を使う才能)

 それが一気に解放され、莫大な魔力が宝石から噴き出すように眩い輝きを放った。

 

「なんていう魔力だ……やっぱり、なんて才能なんだ」

 

「こ、これからどうすればいいの!?」

 

「落ち着いてイメージして! 君の魔法を制御する、魔法の杖の姿を! そして、君の身を守る、強い衣服の姿を!」

 

「そんな、急に言われても。えっと、えーっと……」

 

 魔法の杖は取り敢えず魔法少女アニメでよくあるステッキにするにしても、強い衣服というのはどうすればいいのだろうか。

 なのはが強い者と言われてまず真っ先に思いつくのは、剣術家である父と兄姉だが魔法というイメージとは対極にある。強い魔法使いといえばハリーポッターに出てくるヴォルデモートが浮かぶが、流石になのはもあの恰好は嫌だった。

 最終的に思いついたのは、学校の制服を魔法少女チックにアレンジしたもの。

 

「と、取り敢えずこれで!」

 

 緊急時で迷っている暇はない。なのははその服を選んだ。瞬間、赤い宝石――――レイジングハートの光がなのはの体を包み込む。

 黒い怪物相手に戦っていたドゥルークは、その様子を見て悲鳴をあげた。

 

「不味いな。アニメや映画媒体ならあざとい萌えとあざとい燃えを両立させる変身シーンも、小説媒体じゃ碌に表現できない。作者に画力があれば挿絵を挿入できるんだけど、ないものねだりは出来ないし。

 しょうがないな。ボカァ読者のことを二番目くらいに考えている出来る主人公だからね。代わりに変身の様子を実況するよ。というわけでアンパーンチ!」

 

 さっきまでの防戦一方が嘘のように軽く黒い怪物を殴り飛ばすと、ドゥルークは彼以外認識出来ない第四の壁に向かって一方的に捲し立て始めた。

 

「吹きすさぶ風を泳ぐ花のようなBGMをバックに、我等が原作主人公・高町なのは九歳……視聴者の生着替え初挑戦! 宙を舞う妖精となってくるくると回り、ああっと! ここで唇で軽く振れるお子様キッスをレイジングハートにプレゼントォォォォ!

 そして読者待望の瞬間がやって参りました。中の人は永遠の十七歳、高町なのは。stsでは中の人を追い抜きました。目を瞑りながら……脱げたぁぁぁあああっ! シャツとパンツを残して一斉キャストオフ! なのはが目を瞑る中、観客は逆に目を見開きます。

 だが終わらない! まだあるまだある! まだ! まだ! 期待を一身に背負ってのダブルアクセル! 竜巻に呑まれるようにシャツが、そしてスカートがッ! ぬげたぁあああああああああああああ! スッポンポォォォォォォォォォォォォン!! 九歳女子のスッポンポォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!! 夜風に晒された幼女の肢体ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 地面を揺らすほどの大音量で叫ぶドゥルーク。そこでまだ途中だというのにドゥルークはトイレへ駆けこんでいった。トイレからは『二期放映決定おめでとう! 叫べ! バースト・リンク!!』 』という雄叫びと光速を超える超光速で何かを扱くような音。

 ドゥルークがトイレから戻ってきたのは、なのはが完全に変身を終えた後のことだった。

 

「ふぅ。あれ、終わった?」

 

「……最低なの」

 

 取り敢えずなのはは、色々やらかした不審者に養豚場の豚を見るような視線を向けておくことにした。

 

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