最低不審者ドゥルーク   作:RYUZEN

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第6話 不法侵入は最低なの?

 なのはの親友の一人である月村すずかの月村家は、海鳴市でも指折りの名士である。

 比喩ぬきで森が丸々収まった広大な敷地面積に、古めかしくも気品ある屋敷、極め付きには屋敷で働くメイド達だ。もし事情を知らない者がここに迷い込めば、大正時代の華族の屋敷にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えることだろう。

 そしてそんな屋敷の塀の周囲をチョロチョロと動く怪しげな影が一つ。

 宇宙を圧縮したかのような純黒の髪に趣味の悪い青いスーツ。言うまでもなくドゥルークだった。

 

「ちょいウェイ。地の文だからって言っていーことと悪いことがあるぜ。僕が一時間かけてコーディネートして、作者が五秒で設定を決めたスーツを悪く言うなよ」

 

 ドゥルークは狂人のように誰もいない方向にぶーたれながら、ピタリと屋敷の丁度裏側辺りで止まる。

 わざとらしく上下左右、ついでにマンホールの中も確認。読者以外は誰も見ていないことを確認すると、その場で地面を蹴り跳躍した。

 助走なし魔力なしで20mという有り得なさ過ぎる高度まで跳んだドゥルークは、監視カメラの死角となるほんの僅かな空間を擦り抜ける様にして屋敷へ侵入を果たす。

 

「今頃なのはは御屋敷でお友達と優雅なお茶会。なのはのお兄たまこと恭也っちは嫁な忍ちゃまと逢引中。対する僕はお一人様。寂しくなんかないもーん。嫁なんかいなくたって僕にゃ右手の愛人と股間の息子がいっつもいるんだから。

 けどなのはったら幼馴染みっぽく『ドゥルークをお茶会に連れてって』って頼んだのに容赦なく駄目って拒否するし、すずかちゃんときたら視線すら合わせてくれないし。恭也っちとの扱いの違いを露骨に感じるね。流石は古くから存在する魔改造系主人公の一人KYOUYAだ」

 

 ドゥルークは不法侵入者だというのにまるで自分こそ屋敷の主だと主張するように堂々と、木々をかき分けて進んでいく。

 平然とやってはいるが、無数に設置されたセキュリティの死角を、一切の魔法を使わず尚且つ止まらず進むというのは、とんでもなく難しいことだ。というより予めどんなセキュリティが仕掛けられているか完全に記憶していない限り不可能だろう。

 そんな不可能をドゥルークはどうして出来るかと言われればこう答えるしかないだろう。知らん、と。

 

「ま、最近は碌に見ないんだけどね。魔改造系。一時期はあっちこっちでスパシンにU-1にSHIKIにSHIROUにYOKOSHIMAにとあったのに。

 昔は食傷気味だったけど、なくなって改めて思う寂しさ。今はHACHIMANばっかだもんね。画面の前の読者もそう思うだろう?

 ん? 思うって? よしきた言質とったからなおい。じゃあ今直ぐKYOYA主人公でss一本書け。

 自信がない? イッヒヒヒヒヒ。大丈夫だ、僕を信じろ。今時KYOYA物なんて古すぎて逆に新鮮だから寧ろ食いつく。あとはそこそこの文章力と珍しい設定(スパイス)をちょちょいと加えれば日刊入りは楽勝だって。だからほら。僕の騙しに騙されてみろって」

 

 ある程度屋敷近くまで来たドゥルークは、そこでゆっくり腰を下ろして木にもたれかかる。

 事が発生して歴史的瞬間到来まで後一時間弱。それまでやることがなく暇だった。ドぅルークは髑髏柄のネクタイを直しながら、懐からパンの耳が入ったビニール袋を取り出す。

 公園で鳩へ餌をやるのが趣味の森崎重三(81歳)から分けて貰った本日の朝食兼昼食兼夕食である。

 

「今頃なのはは優雅に茶会でクッキーでも摘まんでるんだろうな。こっそり幾つか持ちかえってくるよう頼んだが、はてさて戦果は如何程か。

 だいたい記念すべきリリカルなのはヒロイン人気投票第一位僕調べのフェイトそん出るっていうのに、主人公を置き去りとかどういうことなんだろうねえ。

 もしかしてボカァ踏み台主人公ってやつなのかい? なのはにとってボカァ当て馬で、本命がいるって? ならそうだと言ってくれたら良かったのに。背中に瞬間接着剤べったり塗っとくから。転ぶ時は諸共、あの世への旅路は道連れってね」

 

 読者にとって非常に残念なことだが、この二次創作内において原作キャラ以外のオリジナルキャラクターは主人公であるドゥルークだけだ。

 踏み台主人公もいなければ、オリジナルヒロインもいないし、原作キャラ憑依系主人公もいないのであしからず。

 

「そうそう。僕は踏み台じゃないぜ。だって本当の主人公なら『踏み台』なんか使わずに、自分の足でどこへでも飛んでいくものな。なぁ、なのは」

 

 ドゥルークの座り込んでいる場所から程近い所で強力な魔力反応が発生する。

 魔法文明のない地球において魔力反応がするということは、即ちジュエルシードの活性化現象に他ならない。

 ドゥルークはビニール袋にある残りのパンの耳を、胃の中へと流し込む。ビニール袋は最低男らしく不法投棄だ。

 

「さーて、なのはと合流するとしようか」

 

 ドゥルークは手術に臨む執刀医のように白手袋を嵌めると、親愛なる友達の来る方向へと歩いて行った。

 

 

 

 茶会で談笑しながら、頭の半分でドゥルークのことを考えていたなのはだったが、高い魔力資質に裏打ちされた感応能力は、ジュエルシードの発動を素早く認識した。

 反応はかなりの近くから。恐らくはこの庭の中だろう。

 ジュエルシードの危険性はなのはもこの短期間でよく分かっている。下手すれば友達の家が吹っ飛びかねない事態に、なのはとユーノは急いでジュエルシードの反応がした場所へ走った。

 

「なっ――――!?」

 

 だが向かった先でなのはが見たものは、色んな意味で常軌を逸した光景だった。

 

「ヒャッホウ!! ここがええんやろ~、ここがえんやろ~!」

 

 先ず目に移ったのは恐竜のようなビッグサイズの猫。こちらはまだいい。きっと猫の『大きくなりたい』という願いを、願望を実現する効果のあるジュエルシードがアッパー気味に叶えたのだろう。

 問題なのはその猫相手にしがみ付いて、無駄に色っぽい美声で悶えている最低の不審者だった。

 

「…………なにやってるの、ドゥルーク」

 

「決まってるだろう」

 

 陶酔顔から一転、無駄にシリアスな顔付きになるドゥルーク。

 

「猫と遊んでいたんだ」

 

「寧ろ猫に遊ばれてたんじゃないの?」

 

 深い溜息を吐きだしながらなのはは脱力する。さっきまで『皆を護らないと!』と悲壮な覚悟をしていたのが馬鹿みたいだ。

 巨大化した猫とドゥルークというどう考えても雰囲気ぶち壊しの組み合わせに、なのはの決意は明後日の方向へ飛んで行ってしまった。

 

「なのは、遊んでないで封印を! 今は猫が大きくなってるだけだけど、もしかしたら暴走する可能性もあるんだから」

 

「そ、そうだね!」

 

 遊んでいたのは自分じゃない、と言いたいなのはだがグッと堪える。

 幾ら大人しい猫が大きくなっただけとはいえ、その体積は地球上のどんな生物よりも上だ。もしも猫のように飛んだり跳ねたりされたら、それだけで大惨事になる可能性がある。

 

「気をつけろよ、なのは」

 

「大丈夫だよ。これまでもちゃんとやれてきたんだから。だよね、レイジング・ハート?」

 

『ALL right.My master』

 

 心配するように言うドゥルークになのははそう応えたのだが、ドゥルークは違う違うと手を振る。

 

「封印するのはいいけど、やり過ぎて射殺とかするなよ? 人間ならいくら殺そうと問題ないけど、動物殺すとフィクションでも動物愛護団体が五月蠅いんだよ」

 

「しゃ、射殺なんてしないの!」

 

「言ったな? なら今にも子供が猛獣に殺されそうになっていて手元にあるのが実銃だけだったとしても、絶対に撃ったりするんじゃないぞ。ちゃんと時間をかけて麻酔銃持ってこい」

 

「分かったからそこ退いて! 封印できない!」

 

 邪魔なドゥルークを怒って退かすと、なのははレイジングハートを猫へ向ける。

 幸いジュエルシードは発動したものの落ち着いていた。これなら特に問題なく封印できるだろう。

 

「あ、それフラグ」

 

 ドゥルークがそう言うのと、空から雷の矢が降り注ぐのは同時のことだった。

 突然の電撃に猫が呻く。

 

「こ、これは?」

 

 落雷なはずがない。天気予報でも今日の天気は晴れだったし、その予報が正解であることは現在進行形で証明中だ。

 となればこの電撃の正体として思い付くのは一つだけ。自分やユーノが使うものと同じ魔法。

 そしてなのはが頭上を見上げると、予想を裏付けるように一人の少女が空中に佇んでいた。

 純金を溶かしこんだような深みと、雷のような明るさのある綺麗な金色の髪。瞳はルビーの輝きより見惚れてしまいそうな赤だった。これまで見た誰よりも何よりも美しい少女は、さながら神話の彫刻家が魂をかけて作り上げた作品のように幻想的である。

 けれど何故だろうか。なのはにはその瞳が悲しみで揺れているような気がした。

 

「これぞ〝運命〟との邂逅だ。というわけで今日の投稿分はこのあたりで終了。次回の最低不審者ドゥルーク第7話はいよいよフェイトとの初バトル。物語を盛り上げるのはやっぱりヒロインとライバルだね」

 




投稿期限全然守らないですみません。
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