最低不審者ドゥルーク   作:RYUZEN

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第8話 最低なテンプレートなの?

 ドゥルークが首の骨を折る大怪我をして戦線離脱する事になった、フェイトとのファーストコンタクトから早十日。

 主人公が戦線離脱したからといって時間が止まる訳ではない。その間もなのはとフェイトとのジュエルシードを巡る争いは続いた。

 一度目は連休を利用しての温泉旅行先で、二度目は街中で。二人の若き魔導師は二回に渡って激突した。

 話し合いを求めるなのはに対して、悲壮な覚悟でジュエルシードを手に入れようとするフェイト。だが二度とも戦いにおいて優勢だったのはフェイトだった。

 それは決してなのはがフェイトに劣っていた訳ではない。得意とする分野こそ違えど、才能において同等か寧ろなのはが若干勝っていた程であろう。だがなのはにはフェイトと比べ魔法に触れた年月に差があった。

 如何な天才といえど『経験』だけはそう簡単に得られるものではない。こればっかりは熟した場数が物を言う。事実として歴史上の多くの天才も、若かりし頃は凡人と同じように失敗していたものだ。

 故に驚嘆すべきなのだろう。経験値に勝る相手に一歩も退かずに喰らいついていったなのはの奮闘に。

 ファーストコンタクトでの戦いはもはや『戦闘』という形にすらなっていなかったので除外するにしても、一度目は敗れはしたものの善戦し、二度目では拮抗すらしてみせた。

 これは異常な成長速度だ。才能がどうだとか、魔力量がどうだとかいう問題で片づけられる問題ではない。困難があろうと折れない不屈の精神力、背負った責任を果たそうとする強い覚悟。大人ですら中々持ちえないそれを、若干九歳にしてなのはは己の内に芽吹かせ始めているのだ。それはある意味において魔法の才能などよりよっぽど凄まじいことだろう。

 だが年齢に似つかわしくない精神力があろうと、やはりまだ小学三年生。肉体と精神両方の疲労で休みたくなる時もある。

 そういう時、なのはは自然とある場所へ行く。

 自分の家の近所にある公園にあるベンチ。そこは高町なのはが、人生最初で最低の友達と初めて会った場所だ。

 そしてベンチに腰掛けて少しすると、まるで見計らったようなタイミングで声がかかる。

 

「やぁ、お嬢ちゃん。大学時代から付き合ってた彼氏に別れ話を切り出されたOLみたいな顔して何やってるんだい?」

 

 この四年間で誰よりも何よりも聞きなれた声。顔を上げれば、そこには誰よりも何よりも見知った顔があった。

 

「ドゥルーク!」

 

「ああそうだとも。君の友達ドゥルークだ。久しぶり」

 

「怪我は大丈夫なの?」

 

 見たところ包帯も何もしていないで至って健常そうだが、あれだけの怪我が十日足らずで治るとは到底思えない。

 ドゥルークはとっておきの手品を披露するマジシャンのようにニヤリと笑うと、

 

「良い質問だ」

 

 ワイシャツの第一ボタンを外して首筋を晒すドゥルーク。すると驚くべきことに十日前は360度回転していた首が、なんと更に720度回転していた。

 

「って治るどころか悪化してるよ!」

 

「あらら、僕としたことが捩じる方向間違っちゃったよ。よくあるよね、ネジ締める時に反対方向に締めちゃって逆に緩めちゃうって。

 そういう事になったら慌てず冷静に、思いっきって一回とっちゃってから改めて締めると上手くいくんだよ。こんな風に」

 

 ブチっという血管と肉が千切れる音がする。ドゥルークは微笑みながら、自分の首を捻子切ってしまった。

 ホラー映画に出てくるグロテスクなシーンとは比べものにならないリアルなグロさに、なのはは悲鳴をあげそうになる。だが寸でのところでドゥルークの体が手で口を塞いだ。

 

「落ち着いて。こんなものはコンビニで買った接着剤をちょちょいと首に塗りたくってから……はい、くっついた! これにて元通り」

 

「…………もう、どう反応すればいいのか分からないよ」

 

 なのはは頭を抱えるが、それで正常だ。

 首を自ら捻子切り、コンビニの接着剤で自ら首を繋ぎ合わせ元通りになる『人間』など存在が有り得ない。

 

「はぁ。また始まっちゃったのか」

 

 ユーノはフェレット顔に諦めたような達観を張り付けて嘆息した。

 

「ところで話を戻すけど何があったんだい? 浮かない顔してさ。そんな幸薄い面してると本当に幸運が逃げるぜ」

 

「……答えなくても、ドゥルークは分かるんでしょ」

 

「うん。友達のアリサと喧嘩したんだろう? 隠し事してるんじゃないかって咎められて喧嘩に発展。よくあるパターンだよね。ただ喧嘩といってもファーストコンタクトの時と違って、実際隠し事している後ろめたさがあったから一方的に怒られっぱなしだったと」

 

「やっぱり、ドゥルークはなんでも知ってるんだね。私のこと」

 

 いい加減なのはもドゥルークと出会って長い。現実的に考えて知りえる筈のない情報を何故か知っていることにも一々驚きはしなかった。

 きっとドゥルークは『高町なのは』の事を高町なのは以上に知り尽くしているのだろう。

 

「〝良い〟友達じゃないか。滅多にいないぜ、そんな友達」

 

「ドゥルーク?」

 

 驚いた。ナルシストなドゥルークは自分を褒めることはあっても、他人を褒めることは滅多にない。褒めているようでも、実際には茶化しているだけだったり遠まわしに貶しているというパターンが殆どだ。

 しかし今ドゥルークはストレートに称賛したのである。アリサ・バニングスというなのはの友達を。

 

「良い友達っていうのは友達が過酷な道へ進もうとしたら心配するか背中を押すかするものだし、悪いことしたら嫌われることも厭わず叱ってくれるものだ。正しくなのはを心配して怒ったアリサちゃんだよ。

 親だってそうだろう? 良い親は子供が悪さしたら怒るものだけど、駄目な親は子供が悪さしたら、それを悪いことだと言う社会に対して怒る。

 なんでもかんでも友達のやることを全肯定して受け入れてくれるのは良い友達じゃあない。〝都合の良い友達〟って言うんだ。

 だから心配することはない。アリサちゃんとの仲直りならいずれ出来るさ。だってアリサちゃんは、なのはを嫌って怒ったんじゃなくて、なのはが好きだから怒ったんだもの」

 

「……――――うん、そうだよね」

 

 胸のつっかえがとれたわけではない。以前として友達に隠し事をしている、という後ろめたさはなのはの心に圧し掛かっている。けれど少しだけ重荷が軽くなったような気がした。

 

「ありがとう。ドゥルークっていつも最低さんだけど、たまにお父さんみたい」

 

「HAHAHAHAHAHA! 生憎とパパさんになるほどの金はないね。むしろ早く大人になって僕のママになってくれよ」

 

「………………それはちょっと」

 

 十年後。公務員になった自分が、無職のドゥルークを養っている姿を想像してしまう。

 こんな事になった未来は自分にとって良くないものだと分かっているのだが、心の片隅で『これはこれでいいかも』なんて思ってしまう自分がいた。

 きっと微温湯に浸かっている気分なのだろう。他人からは奇異に見られるかもしれないが、自分が明確に誰かに必要とされ続けているという実感は心地よいのだ。

 

(駄目なの、こんなこと考えてちゃ! 大人になったらちゃんと自分の力で生きていかないと。それにきっとこんな浮ついた気持ちじゃ)

 

 あの悲しげな目をした少女、フェイトと正面から向き合うことが出来ない。

 ジュエルシードを巡る争いの中で出会ったフェイト・テスタロッサという少女。彼女と話をして、できれば友達になりたい。

 最初の出会いこそ最悪だったけれど、いつのまにかフェイト・テスタロッサはなのはの中でジュエルシードよりも大きな戦う理由になりつつあった。

 

「それでいいさ。僕としてはジェラシーだけどね。さぁ読者のヘイトを集める原作キャラへの説教タイムは切り上げよう。そんなことよりお待ちかねのバトルの時間だぜ」

 

「――――!」

 

 ドゥルークがウィンクすると、レイジングハートがジュエルシードの発動反応をキャッチする。

 既にジュエルシードとは異なる二つの魔力反応が現場に向かっていた。きっとフェイトと、その使い魔であるアルフだろう。

 

「行こう、ユーノ君!」

 

 レイジングハートを素早くセットアップ。バリアジャケット姿になったなのはは、すっかり馴れ切った飛行魔法で現場へ急いだ。

 ドゥルークも青狸から借りたと嘯いたタケコプターを頭に装着して、それに続く。

 そして現場に到着したなのはが見たのは、ジュエルシードの影響を受けて変容した樹木のモンスターと、それを封印しようとするフェイトとアルフ。

 

「フェイトちゃん!」

 

「……またあの子。アルフ、少しだけジュエルシードを抑えてて」

 

「お安い御用だよ。あんな何にも知らない小娘なんて軽く捻ってやりな」

 

 アルフのエールを受けたが、言う通りに軽く捻れる相手ではないことはフェイトが一番良く知っていた。

 ある意味誰よりも近い場所でなのはの急成長を目の当たりにしたフェイトは、現在の高町なのはの実力を最も正確に把握している。

 ジュエルシード封印を後回しにして迎撃を優先したのは、封印しながら相手取れるほど半端な敵ではないからだ。

 なのはもジュエルシードを封印するため、そしてそれ以上にフェイト・テスタロッサと〝話〟をするためには、フェイトと戦って倒す必要がある。

 白と黒。奇しくも対照的なバリアジャケットに身を包む少女は、同時に宙を舞い。

 

「ストップだ。時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。ここでの戦闘は危険過ぎる」

 

「男の、子の……魔法使い?」

 

「管理局の、執務官……っ!」

 

 なのはもフェイトも、アルフもユーノも。この場にいる全ての人間が三人目の魔導師に動きを止めた。

 

「原作時空のなのはの婿きたぁあああああああああああああああああ!!!! イィィィィイイイイイイイイイイイイイヒャッホウ!!

 クロなの? クロフェイ? クロはや? 僕は全てのカップリングを差別しないぜ。全て平等に価値がある! けどホモ時空は勘弁な!」

 

 空気の読めない若干一名がフィーバーしているのを除けば、だが。

 

 

 

 執務官。鬼のような倍率、筆記試験、実技試験をパスして初めて資格取得できる管理局の役職だ。その難易度の高さから四十代、五十代のベテラン局員が受験する事も珍しくない。

 最低でも三尉相当の権限を持つ彼等は、例外なく文武両道のエキスパートであり、管理局における栄達が約束されたエリートというべき存在だ。若干十四歳にして執務官の任にあるクロノ・ハラオウンがどれだけの秀才なのかが分かろうというものである。

 そんなクロノ・ハラオウンの介入によって、現場は完全に支配されていた。

 なのはは状況が掴めずオロオロするだけだが、フェイトの方は虎視眈々と隙を伺いながらも動けずにいた。

 何故かなど分かりきっている。隙がまったくないのだ。

 もし不穏な動きをすれば、即座にデバイスを粉砕され無力化される。なのはと違い身近に自分を遥かに上回る魔導師(母親)がいたフェイトは、彼我の戦力差を痛いほど理解できてしまっていた。

 

「第8話はクロノ祭りだ! わっしょい! わっしょい! わっしょい!」

 

「まずは2人とも武器を引くんだ」

 

 頭の中でお祭りしてる不審者を完全スルーして、若き執務官が警告する。

 管理局のことを知らないなのはも、管理局法を犯している犯罪者であるという認識のあるフェイトすらも。クロノの静かなプレッシャーに圧されて指示に従ってしまう。

 

「クロなの、なのフェイどちらも捨て難い。けど僕的にはクロノ、なのは、フェイトの三人によるトライアングラーというの悪くないと愚考するよ。ほら今リアルで放送してるマクロスみたくさ。

 といっても僕は女二人男一人の初代とFタイプより、男二人女一人のプラスと7風のが好きなんだけどね。ちなみに7はガムリン派かな。バサラは花束の少女一択。読者はお勧めのカップリングとかあるかい?」

 

 本当に少し黙っててくれないかな、この男。

 不審者が不審な言動をしている間にも、未来の管理局の星であるクロノは真面目に自らの任務をこなしていく。なのはとフェイトを地上へ降ろした。局員として職務質問的なものをするためである。

 

「このまま戦闘行為を続けるなら――――」

 

 相手が魔力量だけなら自分をも凌駕する魔導師ということもあって、クロノは心中に警戒心を秘めながら威圧的な口調で言った。

 それがいけなかったのかもしれない。なのはとフェイトという二人の魔導師にクロノの意識が傾いた瞬間を、野生の本能で逸早く認識したアルフはオレンジ色の魔力弾を飛ばしたのだ。

 自分だけならば回避は容易い。けれど今クロノの背にはなのはがいた。反射的にクロノは障壁を展開して魔力弾を弾く。

 だがアルフとてこの程度の攻撃で執務官をやれるなんて思っていない。これはあくまで牽制だ。

 

「フェイト、撤退するよ! 離れて!」

 

 一瞬フェイトの視線がジュエルシードへ向けられる。しかし管理局の執務官と正面からやり合ってジュエルシードを回収するのは難しい。それどころか下手したら捕縛されてしまうだろう。

 そう判断したフェイトはジュエルシードへの未練を断ち切り撤退する。だがクロノも見逃してやるくらいなら態々ここまで出張って来てなどいない。

 自身のデバイスであるS2Uを照準。だが砲撃魔法を放つ寸前、

 

「やめて、撃たないでぇ!」

 

「――――!」

 

 背後からの悲痛な叫びが発射を躊躇わせる。その間にフェイトとアルフの姿が物陰に消えるのを見て、クロノは『逃げられた』ことを悟った。

 らしからぬ失敗にクロノは僅かに気を落としながらも仕事の方は緩めない。放置されていたジュエルシードの封印を手早く済ませると、なのは達に向き直る。

 

「さて、それじゃ」

 

『お疲れさま、クロノ執務官』

 

 クロノが何か言おうとしたところで、丁度よく空間にモニターが浮かび上がる。

 モニターの奥に映っているのはリンディ・ハラオウン。緑色の髪が特徴の女性で、ファミリーネームが示す通りクロノの母親だ。

 

「……なぁ、なのは。めっちゃ若く見えるけど、あの人。実は○○才なんだぜ?」

 

「そ、そうなの? てっきり二十代後半くらいかなぁ~と思ってたんだけど」

 

「天然で若作りなのもあるけど、半分は化粧だね。スッピンで別人になるタイプとみた」

 

「そこ。何をコソコソと喋っているんだ?」

 

「ご、ごめんなさい! それで、なんの話でしたっけ?」

 

「はぁ。聞いていなかったのか。母さ……艦長が事情を聴きたいから、アースラに来て欲しいという話だったんだが……構わないか?」

 

「は、はい! 全然大丈夫です!」

 

「ああ、未亡人の艶めかしい視線が僕を待っている!」

 

 次元世界のお巡りさん相手にもドゥルークの最低発言は健在だった。なのはは友達としての義務で、隣の変態に鳩尾にグーパンチを入れておく。

 これにはクロノもさっきまでの生真面目さも剥がれ落ちて若干引き気味だった。

 

「なぁ、君。これは第九十七管理外世界の独自文化なのか?」

 

「…………合わせて下さい。僕は慣れました」

 

 クロノの問いかけに、ユーノは親の介護に疲れ切った人のように言った。

 

「おい不味いぞ。どうやら君のエキセントリックな言動のせいで地球人全体が勘違いされつつあるよ」

 

「ドゥルークのせいだよね!?」

 

 なのはの悲痛な叫びが一帯に響き渡った。

 

 

 

 そんなこんなでクロノの転移魔法でアースラに招かれたなのは達。

 次元航空艦という如何にもな名前は伊達ではなく、SF映画から飛び出してきたような宇宙戦艦チックな艦内に理系のなのはは興味津々だった。

 途中ユーノが変身解除したことで、フェレット人間ではなくフェレットに変身した人間だったことが明らかになるというハプニングはあったが割愛する。

 クロノの案内で連れてこられたのは艦長室。こんなSFチックな戦艦の艦長室なのだから、さぞ凄い部屋なのだろう。空間にモニターが立体映像として浮かび上がるなど当たり前、もしかしたらロボットでもいるのかもしれない。

 

「艦長、来てもらいました」

 

 だがクロノの一声を合図に扉が開いた途端、なのはは自分の想像が正しく妄想でしかなかったと思い知らされた。

 

「ワオ。ジャパニーズカルチャーは海どころか次元を超えてたんだね」

 

 今回ばかりはドゥルークの軽口にも突っ込めない。

 和風情緒溢れる畳に、並べられた盆栽、置かれた羊羹に粗茶。室内に設置された獅子脅しが、間違った日本感をもった外国人のセンスを絶妙なまでに演出していた。

 SF映画から飛び出してきたような、というのは訂正するしかないだろう。

 宇宙戦艦の艦長室をなんちゃって和室にするなんて暴挙、Z級の糞映画しかやらないだろう。或は一周回って歴史に残る超大作か。

 ともあれSF風な戦艦に対する感動はなのはの中から消し飛び、ある程度の心の余裕が戻ってきた。

 もしこの和室の狙いが日本人のなのはに対する気遣いだったとするならば、一周回って目的は果たされたことになる。リンディ・ハラオウン、恐るべしだ。

 

「お疲れ様。どうぞどうぞ。楽にして」

 

 リンディは歴戦の艦長らしからぬふわっとした、保母さんのように柔らかい笑顔で座るよう促した。

 タイプこそ違えど自分の母親のような雰囲気に、なのはは少しだけ安心して促された場所に座る。ドゥルークの方は我慢せずとばかりに寝転がっていたが。

 話し合いで最初に口を開いたのはユーノ。ユーノはジュエルシードというロストロギアの危険性と、それから自分がその発掘者で、移送途中に事故にあったことなどを順を追って説明していった。

 

「そうですか。あのロストロギア、ジュエル・シードを発掘したのは貴方だったんですね」

 

「はい。それで、僕が回収しようと……」

 

「その考えは立派だわ」

 

「だけど、同時に無謀でもある」

 

 リンディはユーノの責任感を労わるように褒めたが、逆にクロノは棘のある口調で咎めた。

 ユーノは何も言い返せない。責任ある行動といえば聞こえは良いが、ユーノがこの地球に来てやれたことなど細やかなものだ。ジュエルシード一つ封印するのにさえ手間取り、素質ある現地人に助けられる始末。フェイトという敵対者がいながらジュエルシードを回収してこれたのは、『高町なのは』という少女がいたからこそなのだ。

 これはIFだが、もしも高町なのはという金の卵が海鳴市に住んでいなかった場合、今頃ユーノは毛むくじゃらの化物にやられて死んでいただろう。

 そこからリンディは魔法文明に詳しくないなのはへロストロギアの説明という前置きを挟んでから、本題を切り出す。

 

「これよりロストロギア、ジュエル・シードの回収については、時空管理局が全権を持ちます」

 

「え……?」

 

「ま、そうくるだろうね」

 

 母親のような柔らかい雰囲気とは打って変わって、リンディは高官らしい強い口調で宣言するように言う。

 なのはとユーノは唖然としていたが、ドゥルークは呑気にコミックなど読みながら、リンディの決定を受け入れていた。

 

「君達は今回の事は忘れて、其々の世界に戻って元通りに暮らすといい」

 

「でも、そんな」

 

「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」

 

 冷たく突き放すクロノだったが、その裏には民間人であるなのはを気遣う暖かさがあった。

 理屈ならリンディとクロノが正しいのだろう。一介の温泉若女将やら記者やらが独自に捜査して、殺人事件を解決なんてことが許されるのは火曜サスペンスだけだ。殺人事件は警察の、そしてロストロギアへの対処は時空管理局の仕事。民間人の、それも管理外世界の住人であるなのはのやるべき事ではない。

 そう、理屈ならそうなのだ。

 九歳とは思えぬほど大人びているなのはは、そういう大人の理屈が正しいのだと良く分かっている。

 だがけれど〝理屈〟は分かっていても〝感情〟のほうが分からない。

 

「まぁ、急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて二人で話し合って、それからゆっくり話をしましょう?」

 

 労わるようなリンディの提案。なのはは頼るような目でドゥルークへ視線を向ける。

 

「管理局様が自分でやると仰っているんだ。好きに任せればいいさ。僕は百万貰えればOKだしね」

 

「で、でも」

 

 もしこれがジュエルシードの問題だけなら、まだ納得して引けたかもしれない。自分より管理局の方が上手くやれるからと。

 だが自分はまだフェイト・テスタロッサとしっかり話ができていないのだ。これは上手くやれるだとかやれないだとかの問題ではない。〝自分〟がフェイトと話をするかしないかという問題だ。他人任せには出来ない。

 

「なんだ、表に出さないだけで決まってるじゃないか」

 

 ドゥルークはニヤリと笑う。

 

「だったら思ったことをやればいいさ。ウジウジ悩んでるだけな展開はUA数に響くからな。

 火曜サスペンス? 大いに上等。やってやればいい。事実は小説より奇なりってね。民間の写真週刊誌記者が警察より先に犯人に辿り着いたって話は現実にあるんだ」

 

 高町なのはの腹は決まった。

 

「あ、あの!」

 

 この日、高町なのはが時空管理局に協力することが正式に決まった。

 

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